電気加熱の正味電力・正味電力量とは?kWとkWhの計算と入力電力との違い

工場に設置された電気抵抗加熱式の箱型炉のイメージ

本記事で扱う電気加熱の正味電力は、対象に必要な熱量を加熱時間で割った平均の加熱能力です。電源から取り込む入力電力とは、損失や計算対象の範囲を分けて考えます。

例えば、必要熱量が37,440kJで加熱時間が20分なら、正味電力は31.2kW、正味電力量は10.4kWhです。同じ熱量でも、何分で加熱するかによって必要なkWは変わります。

ここでは電気炉の例を使い、熱量・kW・kWhを順に計算します。最後に治具と損失を加えた入力側の例まで進み、計算上の正味とヒーターの定格容量を区別します。

目次

正味電力とは

本記事の正味電力は、指定した対象を加熱するために必要な熱量を、所定の時間内に与える平均能力です。周囲へ逃げる熱などを含めない理想計算から出発し、実機の入力は後から別に見積もります。

正味という語だけで、何を差し引いた値なのかが分野を越えて決まるわけではありません。問題文や仕様書で対象と境界を確認し、加熱対象に渡る熱なのか、装置全体の入力なのかを明確にします。

また、有効電力・皮相電力という電気回路の分類とも同じではありません。有効電力は実際にエネルギーを消費する速さですが、その入力のすべてが、目的とする対象の温度上昇に使われるとは限らないためです。

抵抗式ヒーターでは電気が熱に変わっても、炉壁からの放熱、排気、目的外の部材の加熱などがあります。発熱体で熱になることと、その熱が計算対象へ届く割合を分ければ、効率の意味を取り違えずに済みます。

図1:電気炉の入力と、指定対象へ必要な熱を分ける

120kgは例題が与えた計算対象です。実機の炉全体やワーク重量を、同じものと決めつけません。図は横にスクロールできます。

電源入力電気メーター側で測る量放熱・排気など別途計上する蓄熱計算対象の範囲を指定必要熱量を求める治具を含むかも区別本図は境界を考える模式図で、実炉の寸法や温度分布を示しません。

kWは時間当たりのエネルギー、kWhは一定時間に使うエネルギーの量を表します。ヒーターの能力を比べるときと、一回の加熱で消費した電力量を比べるときでは、使う単位が異なります。

電気加熱で分けて使う量
量単位本例での意味
必要熱量kJ指定対象の温度上昇に必要な熱
正味電力kWその熱を所定時間で与える平均能力
正味電力量kWh同じ必要熱量を電力量の単位で表したもの
入力電力・入力電力量kW・kWh同じ期間に電源側から供給する量

例題は「120kg、比熱0.52kJ/(kg·K)の電気炉を、20℃から620℃へ20分で加熱する」です。電気炉に対して問題が指定した120kgの部分を、一つの計算対象として扱います。

この質量を炉内の製品重量へ勝手に読み替えず、実際の炉全体が一様に620℃になるという意味にも広げません。計算では対象内の温度を一様、比熱を一定、相変化はないと仮定します。

実機では炉体、断熱材、ワーク、治具の温度と比熱はそれぞれ異なります。最初に対象を決めてから熱を足し合わせる考え方は、ヒートバランスの境界と熱収支にも共通します。

必要な熱量を計算する

相変化がなく比熱を一定とみなせるなら、必要熱量は質量、比熱、温度差の積で求められます。今回の温度差は620−20=600℃であり、温度の差としては600Kと同じ大きさです。

指定された120kgの対象に必要な熱量
Q = mc(T2 − T1)
120 × 0.52 × (620 − 20)
= 37,440 kJ
Q:必要熱量[kJ]、m:指定対象の質量[kg]、c:問題で与えた一定比熱[kJ/(kg·K)]、T1・T2:初期・終了温度[℃]。温度差には℃とKで同じ数値を使えます。

この37,440kJが、今回指定した対象の温度上昇に必要な正味の熱量です。計算に入れていない治具や、周囲へ逃げる熱を含めた値ではないため、そのまま電気メーターの増加量とは一致しません。

比熱は「1kgの温度を1K上げるのに必要なエネルギー」を表し、質量を掛けたmcが対象の熱容量になります。対象を大きくしたり、熱容量の大きな部材を加えたりすれば、同じ温度差でも必要熱量は増えます。

熱容量mcの意味と、大きい場合・小さい場合の違いも、対象を整理する参考になります。比熱は材質の性質を表し、質量を掛けた熱容量は加熱する量にも左右されます。

図2:質量・比熱・温度差が、指定対象の必要熱量を決める

同じ対象の温度が一様に変わる仮定です。比熱0.52は例題の与条件で、特定材の実測値ではありません。

120 kg初期20℃ 120 kg終了620℃温度上昇 600 K比熱 0.52 kJ/(kg·K)必要熱量 37,440 kJ

実際の比熱は材質と温度によって変わるため、広い温度範囲では適切な平均値や物性データを使います。例題の0.52を、あらゆる炉材の20〜620℃における平均比熱として採用することはできません。

比熱の単位にも注意し、0.52kJ/(kg·K)は520J/(kg·K)と同じ値です。比熱だけをJへ直したのに熱量をkJのまま読んだり、秒を分として扱ったりすると、答えが大きく変わってしまいます。

容器や炉内の気体も別に計算するなら、その材質と加熱条件に合った比熱を使います。気体では圧力や体積をどう保つかも関わり、定圧比熱と定容比熱の違いを区別する必要があります。

溶融や蒸発では、温度を上げる熱に加えて状態を変える潜熱も必要です。化学反応を伴う工程では反応による吸熱と発熱も収支へ入れ、対象の始めと終わりの状態をそろえて計算します。

流れる物質や相変化を含む場合は、エンタルピーと、その差による熱計算を使う方法もあります。今回の単純な顕熱計算が、どの条件を省略しているかを意識して使います。

kWに変換する

kWは1秒当たりのkJに相当するため、必要熱量を加熱時間の秒数で割ります。20分は20×60=1200秒であり、37,440を20で割っただけではkWにはなりません。

20分で加熱するための正味電力
Pnet = Qt
= 37,4401,200 = 31.2 kW
Pnet:指定対象に必要な平均の加熱能力[kW]、Q:必要熱量[kJ]、t:加熱時間[秒]。1kW=1kJ/sで換算します。

31.2kWは、1200秒間の平均として指定対象へ届くべき能力です。ヒーター入力が31.2kWなら必ず20分で到達する、という装置選定の結論ではありません。

同じ対象を10分で加熱するなら、時間が半分になるため必要な平均能力は62.4kWになります。40分を許せば15.6kWです。いずれも与える熱量を同じとし、損失を無視した比較です。

時間を短くしても、熱が表面から中心へ届く速さまで自由に速くできるわけではありません。入力を増やすと表面温度だけが上がり、中心の温度が追い付かない場合があるため、温度分布も確認します。

材料内部と表面の熱の伝わり方は、熱伝導率と熱伝達率の違いを押さえると整理できます。必要熱量を求める計算と、制限時間内に均一な温度へ到達できるかの確認は、別の検討です。

図3:温度センサの値と、加熱対象の中心温度は区別する

炉内雰囲気や表面が先に高温となる場合があります。色は温度差の概念表現で、実測温度を示しません。

炉内センサ中心温度遅れて上昇することがある表面温度過熱や許容温度にも注意到達温度・均一性・保持時間を、どこで判定するか先に決めます。

炉内センサが620℃を示した時刻と、対象全体が所定の温度へ達した時刻は一致しないことがあります。仕様書にはセンサ位置、対象の判定位置、許容温度差、昇温後の保持時間を分けて記載します。

さらに、定格出力は使用する電圧や発熱体の状態にも左右されます。単純な抵抗加熱でも電源条件の一致は必要で、工場の電圧・相数と電力の関係を確認し、kWだけで電源設備を決めないようにします。

kWhに変換する

kWhは、kWに時間のhを掛けたエネルギーの単位です。1kWを1時間使うと1kWhであり、1時間が3600秒なので、1kWhは3600kJに相当します。

必要熱量を正味電力量へ換算する
Enet = Q3,600
= 37,4403,600 = 10.4 kWh
Enet:指定対象の熱量に相当する電力量[kWh]、Q:必要熱量[kJ]。3600は1kWh=3600kJという単位換算に用いる数値です。

31.2kWを20分間与えた量からも、同じ10.4kWhが得られます。計算の経路が違っても答えが一致することを確認すると、秒と時間を混ぜる間違いを見つけやすくなります。

正味電力からの検算
Enet = Pnetth
= 31.2 × 2060 = 10.4 kWh
th:時間[h]。20分=20/60時間。ここでは指定対象への平均能力を用いています。

これは10.4kWを1時間与えたエネルギーとも同じ大きさですが、20分で加熱する能力が10.4kWという意味ではありません。電力の大きさと運転時間の組み合わせが、同じエネルギーを表せる点に注意します。

ワットとジュールの違い・1kWh=3600kJの換算では、エネルギーの量と時間当たりの量を整理しています。calやkcalを使う資料と比べるなら、ワットとカロリーの換算で単位をそろえます。

図4:加熱時間を変えると必要kWは変わるが、理想熱量は同じ

指定対象と温度差が同じで、損失を無視した比較。棒の幅では時間や電力量を表していません。

必要な平均能力[kW]0204060 62.431.215.610分20分40分62.4×1/6h31.2×1/3h15.6×2/3hどれも指定対象の必要熱量は10.4kWh相当

理想計算では時間を延ばしても必要熱量は変わりませんが、実機では長い間外へ熱が逃げます。加熱速度を落とすと入力のピークを減らせても、購入電力量も必ず同じ割合で減るとは限らないことが分かります。

昇温後の保持では、温度上昇に必要な熱と、温度を保つために補う熱も分けます。指定対象の温度が変わらなくても放熱が続くため、保持時間を追加すれば、その期間の入力電力量が必要になります。

放熱の概算では、温度差、表面積、伝熱の条件を確認します。U値と面積から放熱量を求める方法は考え方の入口になりますが、高温炉の開口や排気まで単純な平面の式へ一括して置き換えません。

実際の入力電力は、治具と損失を含めて考える

例題の正味電力31.2kWは、指定した120kgだけを対象とした答えです。実機では、加熱時間内に別に温まる部材も含めて入力側の収支をつくります。

追加例として、120kgに含まれていない20kgの治具を、同じ20℃から620℃へ加熱すると仮定します。治具の比熱も一定の0.50kJ/(kg·K)とし、この仮定で必要熱量を別に計算します。

電気炉で使う鋼製トレーと治具のイメージ
炉に投入するトレーや治具も蓄熱の計算対象になる生成イメージ。写真の質量・材質・温度は、本文の仮定値を示すものではありません。
120kgと重複しない治具を追加する例
Qjig = 20 × 0.50 × 600 = 6,000 kJ
Qstored = 37,440 + 6,000 = 43,440 kJ
Qjig:治具に蓄える熱[kJ]、Qstored:120kgの指定対象と治具に蓄える熱の合計[kJ]。材質/比熱/温度は説明用の仮定です。

ここで、この二つへ蓄えられる熱の合計を入力電気エネルギーで割った効率を、80%と仮定します。効率の分子に治具も含むと定義したため、治具6000kJをさらに損失として加算しません。

同じ20分間に必要となる入力の例
Ein,J = Qstoredη = 43,4400.80 = 54,300 kJ
Pin = 54,3001,200 = 45.25 kW
Ein = 54,3003,600 = 約15.08 kWh
η=Qstored/Ein,J:この期間・境界で定義した効率[無次元]。Ein,J:入力エネルギー[kJ]、Pin:平均入力電力[kW]、Ein:入力電力量[kWh]。80%は実炉の保証値ではありません。

この場合の損失分は54,300−43,440=10,860kJで、20分平均では9.05kWです。120kgの対象へ31.2kW、治具へ5.0kW、その他の損失へ9.05kWを割り当てると、合計が45.25kWになります。

図5:治具を加えた入力収支の例

20分平均の仮定。効率の分子は指定120kgと治具の蓄熱合計です。治具は損失へ重ねて計上しません。

入力45.25 kW 31.2 kW指定対象120kgの蓄熱5.0 kW追加20kgの治具へ9.05 kWそのほかの損失31.2+5.0+9.05=45.25

効率の代わりに、蓄熱と放熱・排気などを個別に求めて入力を足し合わせる方法もあります。ただし、損失をすでに含む効率で割った後に同じ損失を足すと、入力を過大に見積もるため、どちらの方法かをそろえます。

入力を「正味の1.1〜1.2倍」とする倍率は、すべての電気炉に共通する値ではありません。炉の断熱、扉の開閉、温度や排気などで損失は変わります。実機の条件に合う効率や損失から求めます。

放熱を減らす検討では、保温厚みと熱損失の関係が参考になります。一方、断熱を増やすと機器の温度条件も変わるため、発熱体や端子、制御機器の許容温度を含めてメーカーと確認します。

入力の見積もりに迷う場合は、同じ初期温度・負荷量・終了条件で試験し、電力量の差を測る方法があります。メーターにヒーター以外のファンや制御盤が含まれるかも記録し、計算と測定で対象範囲をそろえます。

定格50kWのヒーターでも、制御で入切を繰り返していれば、毎時50kWhを使うとは限りません。通電率や出力制御を含む実際の積算電力量を使い、平均入力と瞬間的な最大入力を分けて評価します。

例えば30kWを10分、その後60kWを10分使った測定例では、電力量は各区間の量を足して15kWhになります。20分平均は45kWですが、最大入力は60kWなので、平均だけで電源の必要容量を評価できません。

入力が二段階に変わる別の測定例
E = 30 × 1060 + 60 × 1060 = 15 kWh
各区間の電力[kW]×時間[h]を合算する例。直前の効率80%の例と同じ運転データではありません。20分平均は45kW、最大は60kWです。

初期温度が高い状態で次のバッチを始めれば、同じ終了温度でも必要な蓄熱量は変わります。冷えた炉からの起動と、温かい炉での連続運転を混ぜず、比較する条件を記録して省エネ効果を確かめます。

電力量の測定区間には、昇温だけか、投入・保持・取り出しや待機まで含むかも記載します。一回当たりの製品量が違う場合は、その差をそろえて比べなければ、電力量の増減を効率改善だけでは説明できません。

よくある質問

正味電力31.2kWなら、31.2kWのヒーターで足りますか?

今回の31.2kWは指定対象へ届く平均能力なので、入力側には別の蓄熱や損失を含める必要があります。必要な時間、温度分布、電源条件も確認し、実機の容量は入力側の収支とメーカー仕様から決めます。

加熱時間を二倍にすれば、電力量は半分になりますか?

理想計算で半分になるのは平均の正味電力kWであり、同じ対象を同じ温度差だけ上げる熱量は変わりません。実機では長時間の放熱が増える場合もあるため、入力kWhは別に確認します。

温度を保持するだけなら電力は不要ですか?

指定対象の温度上昇分はなくなりますが、周囲へ逃げる熱や排気の熱を補う入力が必要です。保持時間と放熱条件を加え、昇温工程だけの10.4kWhへ混ぜずに積算します。

比熱0.52は、どの電気炉にも使えますか?

0.52は例題が与えた一定比熱で、どの炉材や治具にも共通する値ではありません。実機では材質と温度範囲に対応するデータを使います。相変化や反応があれば、その熱も計算へ含めます。

正味電力量と電気料金計算の使用量は同じですか?

計算対象が同じとは限らず、電気料金にはメーターが測る入力電力量を使います。対象への熱量相当10.4kWhをそのまま購入量とせず、補機や損失、保持工程を含む測定範囲を確認します。

まとめ

  • 電気加熱の正味電力は、指定対象の必要熱量を加熱時間で割った平均能力として計算します。
  • 例題の熱量は37,440kJ、20分での正味電力は31.2kW、正味電力量は10.4kWhです。
  • 実際の入力は対象範囲・治具・損失を含め、効率の境界をそろえて別に求めます。

熱量を先に求め、kWでは時間で割り、kWhではエネルギーの単位を換算する、と順序を分ければ混乱を減らせます。正味と入力を区別したうえで、運転時間と測定条件が一致するかを最後に確認します。

同じ例題を解く手順は、次の動画でも確認できます。入力側の余裕を一定倍率で見る動画の説明は概算として捉え、実機の選定には本文で示した熱収支と対象範囲を使います。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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