自己インダクタンスは、コイル自身の電流変化に対して誘導起電力が生じる性質を表す量です。相互インダクタンスは、あるコイルの電流変化が別のコイルに起電力を生む関係を表します。
動画の「電流が流れると起電力が生じる」は、電流による磁束が変化するときの説明として捉えてください。電流が一定になれば磁界は残りますが、一定の自己インダクタンスによる誘導起電力はゼロになります。
多巻きコイルでは、一巻きの磁束Φと、巻数を含めた鎖交磁束λを区別します。動画の相互誘導の説明も、起電力が比例するのは電流の大きさではなく変化率です。
自己インダクタンスとは
導線をコイル状に巻いて電流を流すと、その周囲や内部に磁界ができます。電流を増減させるとコイルに鎖交する磁束も変わり、その変化に応じた誘導起電力が生じます。
自分を流れる電流の変化が、自分自身に起電力を生む現象が自己誘導です。その関係を数量で表す自己インダクタンスには、記号Lと単位ヘンリー[H]を使います。
図1と図4の巻線は、回路記号を使って簡略化した模式図です。図1の灰色は電流の正方向、赤色は増加時にそれを妨げる起電力の作用を示し、実物の巻き方は指定していません。
この起電力は、電流そのものを常にゼロへ戻そうとする力ではありません。増えようとするときは増加を妨げ、減ろうとするときは電流を保つ向きに働く点が重要です。
例えば直流電源をコイルへ接続した直後には、電流が立ち上がるため自己誘導が現れます。十分に時間が経って電流が一定になれば、この変化に由来する起電力はなくなります。
磁束Φと鎖交磁束λを分ける
磁束Φは、ある面を貫く磁界の総量を表し、単位はウェーバ[Wb]です。巻線の各ターンを通る磁束を合計したものが鎖交磁束で、ここではλと表します。
すべての巻きに同じ磁束Φが通るN巻きのコイルなら、鎖交磁束はNΦとなります。漏れ磁束などで各巻きの磁束が違う場合には、それぞれの鎖交分を足し合わせて考えます。
「磁束=L×電流」という書き方は、磁束という言葉が鎖交磁束を指しているかに注意が必要です。一巻きのΦとして読むと多巻きのNが抜けるため、記号の定義を先に確認します。
磁束と磁束密度B、磁界の強さHも、それぞれ意味や単位が異なります。記号を整理したい場合は、磁束・磁束密度・磁界の強さの関係から基礎を確認できます。
仮に100巻きの各巻きへ20μWbの磁束が通れば、鎖交磁束は2mWbです。そのときの電流が0.1Aで、電流と鎖交磁束が比例する範囲なら、Lは20mHとなります。
この比例関係は、磁心が強く飽和する領域まで同じ傾きで続くとは限りません。まず一定のLで基本を理解し、その後で部品の電流特性や測定条件を確認する順序が有効です。
起電力は電流の変化率で決まる
ファラデーの法則では、誘導起電力は鎖交磁束が時間とともに変わる割合に対応します。Lが一定なら、鎖交磁束の時間変化を電流の時間変化へ置き換えられます。
同じ2Aの変化でも、ゆっくり変える場合と急に変える場合で起電力は異なります。電流の差だけでなく、その変化に要した時間までセットで扱う必要があります。
20mHのコイルで、電流が10msの間に0Aから2Aまで一定の速さで増えるとします。変化率は200A/sなので、増加中の自己誘導起電力の大きさは4Vです。
続いて2Aを保つ区間では、di/dtがゼロになり、自己誘導起電力もゼロです。その後10msで2Aから0Aへ減らすと、変化率が逆になり、同じ基準でeはプラス4Vになります。
ここでのマイナスは、電圧計の表示がどの接続でも必ず負になるという意味ではありません。測定端子の極性と、電流や起電力の正方向をそろえて初めて符号を比較できます。
理想インダクタの端子電圧を、電流が流れ込む側をプラスとする受動符号規約で定義すると、v=Ldi/dtです。誘導起電力e=−Ldi/dtとは基準の取り方が違い、両者を同じ記号のまま混ぜません。
直流・交流と磁気エネルギーの関係
直流で電流が一定でも、コイルの磁界と磁気エネルギーはなくなりません。起電力がゼロになることと、磁界が存在しないことを分けて理解すると混乱を避けられます。
線形な理想インダクタに蓄えられるエネルギーは、電流の二乗に比例します。20mHへ2Aが流れていれば0.040Jとなり、電流を減らす際には回路へ戻されるエネルギーがあります。
電流を急に遮断しようとすると、大きな変化率に対応する電圧が生じることがあります。リレーや電磁弁の駆動回路では、素子の耐圧と指定のサージ抑制回路を合わせて確認します。
抑制素子を追加すると、遮断時の電圧だけでなくコイル電流の減衰や復帰時間も変わります。単にダイオードを付ければすべて同じ動作になると考えず、負荷と駆動装置の仕様を照合します。
交流では電流が周期的に変化するため、自己誘導による電圧も周期的に現れます。正弦波の定常状態では、理想インダクタの電流は端子電圧より90度遅れます。
実際の巻線には抵抗や損失もあるため、機器全体の位相差が常に90度になるわけではありません。電圧と電流の波形を比べる際は、理想素子の計算と測定対象の回路を分けて考えます。
Lは部品の性質を表す量で、交流の流れにくさを表すリアクタンスとは区別します。周波数との関係は、インダクタンスとインピーダンス・誘導リアクタンスの違いで確認できます。
位相を考える際には、理想コイルだけの関係を設備全体へそのまま広げないことが大切です。進み電流・遅れ電流と位相の見方を読むと、抵抗やコンデンサを含む回路も整理できます。
コイルの磁界と電源とのエネルギーのやり取りは、無効電力の理解にもつながります。設備の電力を扱う場合は、力率と有効電力・無効電力の基本を合わせて確認してください。
Lの値を変える要素と部品の読み方

自己インダクタンスは、巻数、コイルの断面や長さ、磁心の材質や形状によって変わります。電流を増やせばLも必ず同じ割合で増える、という関係ではありません。
磁心入りのコイルでは、透磁率が磁束の通りやすさに関係します。誘電率と混同しやすいため、透磁率と誘電率、それぞれが関係する場を分けて押さえると材料選定に役立ちます。
実部品のカタログでは、公称Lだけでなく、測定周波数、許容差、直流抵抗、定格電流を読みます。同じ20mHの表示でも、許される温度上昇や直流重畳時のLの変化まで同じとは限りません。
直流電流の増加で磁心が飽和に近づくと、インダクタンスが低下する部品があります。温度上昇から決まる電流と、Lの低下から決まる電流は意味が異なるため、定義まで確認します。
高い周波数では巻線間の寄生容量も影響し、単純な理想インダクタとして扱えない領域が現れます。自己共振周波数やインピーダンス特性を確認し、低周波の測定値だけで高周波動作を判断しません。
LCRメータの測定結果を比較する際は、周波数や測定信号、直流バイアスの条件をそろえます。部品を回路につないだまま測ると周辺経路も影響するため、測定対象と接続状態を記録します。
相互インダクタンスとは
近くに二つのコイルがあると、一方の電流が作る磁束の一部が、もう一方の巻線にも鎖交します。その磁束が変化して別のコイルに起電力を生む現象が、相互誘導です。
一次コイルの電流i₁と、その電流によって二次コイルに鎖交する磁束との関係をMで表します。Mは相互インダクタンスで、自己インダクタンスと同じヘンリー[H]が単位です。
このとき二つの巻線を導線で接続しておく必要はなく、磁気的なつながりが働きます。ただし起電力が生じることと、二次側に電流が流れることは別の条件です。
二次側が開回路なら、起電力が生じても負荷へ流れる閉じた電流経路はありません。負荷を接続すると二次電流が生じ、その電流が一次側へ及ぼす影響も含めて回路を考えます。
Mの定義と起電力の大きさ
一次電流が二次巻線に作る鎖交磁束をλ₂₁とすると、線形な関係ではλ₂₁=Mi₁です。ここでは一次の正電流によるλ₂₁が正になるよう二次の基準を選び、Mを正の大きさで表します。
λ₂₁には、二次自身の電流が作る磁束を含めません。一次自身の鎖交磁束λ₁₁=L₁i₁とも区別することで、自己と相互それぞれの係数を取り違えずに使えます。
自己誘導の例と同じ200A/sの電流変化を与え、Mを5mHと仮定すると、二次起電力の大きさは1Vです。Lが20mHの一次自身に生じる4Vとは、係数と対象の巻線が異なります。
この例の1Vは、任意の二つのコイルを近づければ必ず得られる電圧ではありません。コイルの位置、巻数、磁心などでMが変わるため、実物の結合条件が必要です。
相互起電力の極性は、巻線の巻き方向と、端子や電流の基準方向によって変わります。符号付きの式やドット記号を使うときは、図の基準まで合わせて読む必要があります。
二次にも電流が流れる回路では、二次の自己誘導と一次からの相互誘導が共に存在します。Mによる項だけを取り出した説明を、負荷接続後の端子電圧の全体と同一視しません。
磁気結合を利用する場面、抑える場面
相互インダクタンスは、両巻線に共通して鎖交する磁束の通り方に関係します。離して置くか、向きを変えるか、共通の磁心を使うかによって、磁気的なつながりは変わります。
変圧器は、一次と二次の巻線を共通の磁心へ配置し、相互誘導を利用する代表例です。実際の電圧や電流は巻数比、負荷、抵抗、漏れ磁束なども関わるため、Mだけでは決まりません。
センサにもコイルと磁界の変化を利用する方式があり、検出対象や回路構成によって原理が異なります。センシングの種類と電磁気を使う検出では、近接検出などの例を確認できます。
一方、大電流のスイッチング回路の近くへ微小信号の配線を置くと、磁束変化がノイズに関係する場合があります。回路のループ面積、距離、向き、配線経路を見直し、実機の信号で効果を確認します。
磁気結合だけがノイズの経路ではなく、電界による容量性結合や共通インピーダンスもあります。電界側の理解には、コンデンサの電界と電荷・電圧の関係が役立ちます。
原因を切り分ける際は、電流の大きさとスイッチングの速さを別々に見ます。負荷電流が同じでも変化が急になれば誘導の影響が変わり、単純な平均電流だけでは説明できません。
自己インダクタンス・相互インダクタンスのよくある質問
電流が大きければ、誘導起電力も必ず大きくなりますか?
一定Lや一定Mのモデルでは、誘導起電力は電流の変化率に比例します。大きな電流でも一定なら変化による起電力はゼロで、小さな電流でも急変すれば大きな電圧が生じ得ます。
コイルに直流を流すと磁界はなくなりますか?
一定の直流でも磁界は存在し、線形インダクタなら磁気エネルギーを蓄えています。一定になってなくなるのは電流変化に由来する誘導起電力で、実巻線の抵抗による電圧降下は別です。
二次コイルを開放しても相互誘導は起きますか?
一次電流の変化による磁束が鎖交すれば、二次が開放でも起電力は生じます。負荷電流には閉回路が必要であり、起電力があることと電力を取り出していることは区別します。
LとMは、どちらも同じコイルの値ですか?
Lはその巻線自身の電流と鎖交磁束の関係、Mは別の巻線の電流が作る鎖交磁束との関係です。結合した二巻線には、それぞれの自己インダクタンスと、両者の相互インダクタンスがあります。
自己保持回路と自己誘導は同じ意味ですか?
自己保持は接点や制御ロジックによって出力状態を保持する働きで、磁束変化の現象とは異なります。ラダー図の接点・コイルと出力命令の読み方では、物理巻線と論理上のコイル記号も分けて確認できます。
まとめ
自己インダクタンスLは自分自身の電流変化、相互インダクタンスMは別の巻線の電流変化との関係を表します。どちらも起電力を考えるときは、電流の大きさだけでなく変化率が必要です。
式を使う前に、Φとλ、起電力と端子電圧、正方向と単位をそろえることが大切です。基本モデルの計算後に、磁心の飽和、周波数、温度、負荷と結合の条件を確認すると、実際の部品や回路へつなげられます。
出典・参考資料
- TDK:コイルの原理と自己・相互誘導
- TDK:インダクタの働きと磁気エネルギー
- 村田製作所:インダクタ用語集
- OpenStax University Physics Volume 2:Mutual Inductance
- OpenStax University Physics Volume 2:Self-Inductance and Inductors
- MIT 6.013講義資料:鎖交磁束、端子電圧、自己・相互誘導(71・72・78・80〜82頁)
- HIOKI:インダクタンスの測定方法と条件
- オムロン:リレー共通の注意事項(サージ対策と復帰時間)
- 産業安全研究所:EMC関連技術の実態調査(容量・誘導・共通インピーダンス結合)
NEWSLETTER
機械設計・プラントエンジニアリングの記事を、週1回まとめてメールで受け取る
週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。
機械設計を選んだ状態で登録へ ›無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。
WEEKLY NEWS
今週の製造業ニュース10選
メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。
LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›
