ヒートバランス(熱収支)とは?計算方法・使い方とヒートバランス図の読み方

計器室の机に広げた系統図と熱収支の計算資料

ヒートバランス(熱収支)とは、1つの系に入ってくる熱量の合計と、出ていく熱量の合計が釣り合うという考え方です。質量の釣り合い(マスバランス)と組み合わせると、タンクや釜に複数の流れを入れたときの温度や、吹き込む蒸気の量が計算で出せます。

この記事では、ヒートバランスの考え方と例題、蒸気を使う計算、Excelでの解き方、ヒートバランス図(熱勘定図)の読み方の順に整理します。動画でも解説しています。

目次

ヒートバランスとは?

ヒートバランスとは、エネルギー保存則にもとづく熱の収支で、1つの系に入る熱量の合計は、出ていく熱量の合計と釣り合うと考えます。

実際の計算では、質量保存則にもとづく質量の収支と必ずセットで解き、入ってきた物はどこかから出ていき、熱はその物が運ぶからです。

日本語では熱収支や熱勘定とも呼び、ボイラーの熱勘定を定めたJIS B 8222の英語名も「Heat balance of land boilers」です。基本の式は次の形です。

入ってくる熱量 = 出ていく熱量 + 損失 + 系の中にたまる熱量
定常(流量や温度が時間で変わらない)で、放熱などの損失を無視できるときは「入ってくる熱量=出ていく熱量」になります。この記事の例題は、この形で解きます。

図1:ヒートバランスの考え方

系の境界を決め、そこを通る物と熱を入口と出口で数えます。

入ってくる流れそれぞれの質量[kg]と、その物が運ぶ熱量[kJ]
系の境界を通る
系(タンク・釜・熱交換器・ボイラーなど)境界線で囲んだ範囲。定常なら中にたまる量は0
系の境界を通る
出ていく流れ質量の合計は入ってくる質量と同じ
損失表面からの放熱など。物は出ず熱だけが逃げる
質量の収支:入る質量=出る質量 / 熱の収支:入る熱量=出る熱量+損失

例えば、タンクに80℃の水が100kg/h、60℃の水が40kg/h、40℃の水が30kg/h還ってくるとし、水位が上がると、ポンプから輸送先に送られる条件です。

定常で、タンクからの放熱はないものとし、水の比熱は温度によらず一定と考えます。

この時、入ってくる水の質量の合計は次のとおりです。

100 + 40 + 30 = 170kg/h

水の比熱を単純に4.2kJ/(kg·K)とすると、熱量の合計は次のようになります。

(80 × 4.2 × 100)+(60 × 4.2 × 40)+(40 × 4.2 × 30)
= 48720kJ/h
各項は 温度[℃]× 比熱[kJ/(kg·K)]× 流量[kg/h]。順に 33600、10080、5040kJ/h です。

この場合、ポンプから輸送される水は、質量が170kg/h、熱量が48720kJ/hと分かります。よって次の式により、輸送する際の水の温度が分かります。

温度 = 48720170 × 4.2 ≒ 68.2℃
分子:出ていく熱量[kJ/h] 分母:出ていく流量[kg/h]× 比熱[kJ/(kg·K)]

図2:タンクで温水を混ぜるときのヒートバランス

3本の流れの質量と熱量を足すと、出口の流れが決まります。

80℃・100kg/h33,600kJ/h
60℃・40kg/h10,080kJ/h
40℃・30kg/h5,040kJ/h
タンクで混ざる
タンク入る質量 170kg/h 入る熱量 48,720kJ/h
ポンプで送る
出口:170kg/h・48,720kJ/h48,720 ÷(170 × 4.2)≒ 68.2℃

※比熱4.2kJ/(kg·K)一定、放熱なし、定常の条件です。

もちろん、実際にはタンクの温度は変動しますが、それでも平均すると、68.2℃分の熱量を輸送しています。このように、流入する質量と熱量は、常に流出する質量・熱量と釣り合うという考え方がヒートバランスです。

ここでの「温度×比熱×質量」は、0℃を基準にした熱量で、物質がもつ熱の量を表すエンタルピーを、比熱一定として近似した値にあたります。

よく使う Q=m×c×Δt(温度差の式)とも同じことを言っています。入口と出口の両方を0℃基準でそろえれば、基準の分は打ち消し合うからです。

比熱を一定とした計算は、どこまで正しいのでしょうか。NIST(米国国立標準技術研究所)の水の物性値で比エンタルピーを引いて、同じ計算をしてみます。

80℃は335.06、60℃は251.25、40℃は167.62kJ/kgです。合計48,585kJ/hを170kg/hで割ると285.8kJ/kgで、温度に直すと約68.2℃と同じ答えになります。

マスバランス(物質収支)との違い

マスバランス(物質収支)は、熱ではなく質量の出入りを数える考え方で、入る質量=出る質量+系の中にたまる質量、が基本の式になります。

反応や分離がある系では、水分・塩分・特定の成分ごとに収支を立てることもあります。ヒートバランスは、このマスバランスで決めた流量に熱量を乗せて解きます。

図3:マスバランスとヒートバランスの違い

数えるものが「物」か「熱」かの違いで、実務では2つをセットで使います。

マスバランス(物質収支)
ヒートバランス(熱収支)
数えるもの
質量(全体、または成分ごと)
熱量(質量×比エンタルピー)
もとになる法則
質量保存則
エネルギー保存則
基本の式
入る質量=出る質量+たまる質量
入る熱量=出る熱量+損失+たまる熱量
単位の例
kg、kg/h
kJ、kJ/h(3600kJ/h=1kW)
使う場面
配合、濃縮、ボイラーのブロー量、物の流れの確認
混合温度、加熱に要る蒸気量、排熱回収、ボイラー効率

※マテリアルバランスは略して「マテバラ」とも呼ばれます。プラント設計では、2つをまとめた資料を「ヒート&マスバランス(Heat and Mass Balance)」と呼びます。

身近な例がボイラーの缶水で、缶水の不純物の濃度は、給水で持ち込む量と、ブローで出す量が釣り合うところで決まります。

ブロー量の決め方とブローで逃げる熱は、ボイラーのブローとはで整理しています。物の収支と熱の収支が同じ流れの上で重なる例です。

ヒートバランスの使い方

ヒートバランスは、混合・加熱・冷却の計算で幅広く使える考え方で、先程のように物質が全て水の場合は、比熱が一定なので簡単に計算できます。一方、物性の違う物質を混ぜ合わせる際には、単純な計算式では難しい場合があります。

例えば、20℃・500kgの水に0.2MPa(絶対圧)の蒸気を吹き込んで、80℃のお湯を作りたい場合を考えます。

0.2MPa(絶対圧)は、ゲージ圧に直すと約0.1MPaで、蒸気表は絶対圧で引くので、圧力計の読みに大気圧を足してから使います。単位の関係は圧力の単位換算表で確かめられます。

この場合、蒸気の保有する熱量は水よりはるかに大きく、吹き込まれた蒸気はお湯に戻るので、先程の単純な割り算ではなく方程式を立てます。

前提は、蒸気が全て凝縮して80℃のお湯になること、放熱がないこと、水の比熱が4.2kJ/(kg·K)で一定なことです。今回の場合、流入する質量は、蒸気の質量をx kgとすると次の式で表せます。

500 + x [kg]

流入する熱量は、0.2MPa(絶対圧)の蒸気の全熱を蒸気表から2706kJ/kgとすると、次の式で表せます。

(500 × 4.2 × 20)+(x × 2706) [kJ]

出ていく熱量の式は、水の温度が80℃なので次のとおりです。

(500 + x)× 4.2 × 80 [kJ]

流入する熱量と流出する熱量は等しくなるので、次の式が成り立ちます。

(500 × 4.2 × 20)+(x × 2706)
=(500 + x)× 4.2 × 80
42000 + 2706x = 168000 + 336x
2370x = 126000
x ≒ 53kg
2行目以降は、旧版で省いていた途中の式です。x=53.16kgを丸めて約53kgになります。

よって、吹き込む蒸気は約53kgと分かります。

図4:蒸気の吹き込み量を出す4ステップ

分からない量をxと置き、質量の式と熱の式を順に立てます。

STEP 01質量の式を立てる入る質量=水+蒸気500 + x
STEP 02入る熱量を書く水の熱量+蒸気の熱量42000 + 2706x
STEP 03出る熱量を書くSTEP 01の質量×80℃のお湯の熱量(500 + x)× 336
STEP 04等しいと置いて解く入る熱量=出る熱量x ≒ 53kg

※336は4.2×80、42000は500×4.2×20です。蒸気の2706kJ/kgは0.2MPa(絶対圧)の飽和蒸気の比エンタルピーです。

2706kJ/kgは、NISTの値でも0.2MPaの飽和蒸気(約120℃)で約2,706kJ/kgです。水も比エンタルピー(20℃で84.01、80℃で335.06kJ/kg)で解き直すと約52.9kgで、答えは変わりません。

蒸気1kgの熱が水よりはるかに大きいのは、蒸発の潜熱を持っているからです。潜熱と顕熱の違いは、下のエンタルピーの記事で確かめられます。ボイラーの給水を蒸気で直接温める脱気器(デアレーター)の加熱蒸気量も、同じ考え方で見積もれます。

このように、どれだけ複数の物質が混合しても、それぞれの熱量と質量が分かれば状態を計算できることが、ヒートバランスの素晴らしいところです。

実務でヒートバランスを使用する場合

実際に実務でヒートバランスを使う場合、これまでのような手計算は複雑で面倒なので、エクセルに絵を描きながら計算します。エクセルで使う場合は、次の流れになります。

  1. それぞれの物質の質量、熱量を記載する。
  2. 不明な数値は仮置きで入力する。
  3. 質量と熱量の釣り合いの式を立てる。
  4. 仮置きした数値を変化させながら、質量と熱量が釣り合うポイントを探す。

先ほどの蒸気の例題を、この手順で表にすると次のようになります。

図5:Excelでのヒートバランス表の組み方

流れごとに1行、質量と比エンタルピーを掛けて熱量を出し、最後の行で差を見ます。

流れ
質量[kg]
温度・圧力
比エンタルピー[kJ/kg]
熱量[kJ]
水(入)
500
20℃
84(4.2×20)
42,000
蒸気(入)
x(仮置き)
0.2MPa(絶対圧)
2,706
2,706x
お湯(出)
500+x
80℃
336(4.2×80)
336×(500+x)
差(入−出)
0
—
—
ここを0にする

※差のセルを0にするxを探すと、x=53.16kg(約53kg)になります。表は横にスクロールできます。

手順4の「仮置きした数値を変化させる」作業は、Excelのゴールシークに任せられ、[データ]タブの[What-If 分析]から[ゴール シーク]を選びます。

「差」のセルを0に、変化させるセルを仮置きのxに指定すれば、釣り合うxが自動で入り、現場データをExcelで扱う基本は製造業のデータ分析入門も参考になります。

実測値で収支を取ると、入りと出がぴったり合うことはまずありません。差が大きいときは、次の点を確かめます。

  • 流量・温度の測り方(計器の位置、校正、読み取りの時刻のずれ)
  • 単位(kg/h と t/h、kJ と kcal、ゲージ圧と絶対圧)
  • 比エンタルピーの基準温度が、全部の流れでそろっているか
  • 放熱など、表に入れていない損失がないか
  • 運転が定常か(タンクの水位や温度が変わっている間は、系の中に熱がたまる)

どれだけ複雑に見える系でも、絵に描いて単純化してしまえば簡単な場合が多いです。系の境界と流れの線を描くことから、ぜひ一度やってみてください。

ヒートバランス図(熱勘定図)の読み方

ヒートバランス図は、系統図の上に熱がどこから入り、どこへ配られるかを書き込んだ図です。熱バランス図、熱勘定図とも呼ばれ、同じ名前でも、分野によって図に書く中身が違います。

  • ボイラーの熱勘定:燃料などの入熱と、出熱(蒸気に渡った有効出熱と熱損失の和)の内訳をまとめたもの(JIS B 8222)
  • 発電所・タービンのヒートバランス図:系統図の各点に、流量・圧力・温度などを書き込んだもの

後者は、蒸気タービンのサイクル全体を1枚にした図が代表例で、サイクルそのものの仕組みはランキンサイクルとはで整理しています。

配管の系統を表す図の読み方は、P&ID(配管計装図)の読み方も参考になり、プロセスの流れを表すPFDに流量・温度を書き込むと、ヒートバランス図に近い姿になります。

先ほどの蒸気の例題を、ヒートバランス図の形に描くと次のとおりです。

図6:蒸気の例題をヒートバランス図にすると

線ごとに「質量・状態・比エンタルピー・熱量」を書き、機器の入りと出が一致するかを見ます。

水(入)500kg・20℃・84kJ/kg熱量 42,000kJ
蒸気(入)約53.2kg・0.2MPa(絶対圧)・2,706kJ/kg熱量 約143,860kJ
吹き込んで混ぜる
タンク入る質量 約553.2kg 入る熱量 約185,860kJ
取り出す
お湯(出)約553.2kg・80℃・336kJ/kg 熱量 約185,860kJ
読み方:①熱量=質量×比エンタルピー ②機器ごとに入る合計=出る合計 ③損失があれば別の矢印で書く

※比熱4.2kJ/(kg·K)一定、放熱なしの条件です。流れの単位がkg/hなら、熱量はkJ/hになります。

読むときは、まず1本の線の熱量を、流量×比エンタルピーで出せるか確かめます。次に1つの機器を囲み、入る線と出る線の合計が合っているかを見ます。

合わない分は、図の上では放熱や排ガスなどの損失として、別の矢印で示されているはずです。ボイラーの熱勘定は、入熱の基準を燃料の発熱量に置き、どちらの発熱量を使うかは高位発熱量と低位発熱量の違いで確かめてください。

ボイラーの能力の表し方は相当蒸発量(換算蒸発量)とはで整理しています。排ガスの熱を給水に戻すエコノマイザ(節炭器)も、熱勘定の損失を減らす機器です。

ヒートバランスのよくある質問

マテリアルバランス(マテバラ)とヒートバランスは同じですか?

厳密には別のもので、マテリアルバランスは質量の収支、ヒートバランスは熱の収支を指します。

ただ、熱は物が運ぶので、実務では2つを同時に解きます。「マテバラを計算して」と頼まれたら、質量だけでよいのか、温度や熱量まで要るのかを確かめると話が早く進みます。

熱バランス図とヒートバランス図は同じものですか?

同じものを指す言い方で、熱勘定図と呼ぶ資料もあります。

ただし、ボイラーの熱勘定の図と、発電所の系統図に数値を書いた図では、書いてある項目が違うので、図の目的(効率を見るのか、流れの状態を見るのか)を先に確かめます。

水の比熱は4.2kJ/(kg·K)で計算してよいですか?

大気圧の液体の水で、0〜100℃程度の範囲なら、実務の見積もりには十分で、NISTの値では、20〜80℃の水の定圧比熱は4.18〜4.20kJ/(kg·K)です。

蒸気や高温水、水以外の液体が入るときは、比熱一定の式を使わず、蒸気表や物性表の比エンタルピーを使います。相変化(蒸発・凝縮)がある流れは、必ず比エンタルピーで扱います。

計算した温度と実際のタンクの温度が合わないのはなぜですか?

よくある理由は、放熱を入れていないことと、運転が定常でないことで、還ってくる流量や温度が時間で変わると、タンクの温度は計算の平均値のまわりで上下します。

流量計がない流れを推定で入れている場合も、ずれの原因になるので、どの数字が実測で、どれが推定かを表に書き分けておくと、見直す場所が絞れます。

まとめ

この記事のまとめ
  • ヒートバランス(熱収支)は、系に入る熱量と出る熱量の釣り合いの式
  • 質量の収支(マスバランス)とセットで解き、損失や蓄積があれば式に足す
  • 物質の質量と熱量が分かれば、物質の不明な温度や質量が割り出せる
  • 実務ではエクセルで収支表を作り、ゴールシークで釣り合う値を探す
  • ヒートバランス図は、線ごとに質量×比エンタルピーを読み、機器ごとの入りと出を確かめる

どれだけ複数の物質が混合していても、基本は足し算・掛け算・割り算だけで理解できるのが、ヒートバランスのいいところです。職場で「そのタンクのマテバラ計算して」と言われた際の参考にしていただければと思います。

熱の収支は、工場の省エネとエネルギー管理の出発点でもあります。工場で熱と電気を管理する仕事は、製造業のエネルギー管理士の仕事で紹介しています。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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