ポンプで液体の温度が上がるのは、羽根車の仕事の一部が摩擦や内部循環によって熱へ変わるためです。吐出し側を締め切ると熱を運び出す流れがなくなり、内部の少量の水が急速に温まります。
電流が抵抗に流れて生じる熱をジュール熱と呼び、水の昇温の主な仕組みとは区別します。モーターの発熱と、ポンプ内で機械的な仕事が熱へ変わる現象を分けると、熱の行き先が整理できます。
ここでは水を扱う遠心ポンプを対象に、通常運転と締め切り運転で温度の計算がどう変わるかを整理します。計算例から昇温の大きさをつかみ、最後にミニマムフロー配管などの保護方法を見ていきます。
ポンプと熱の関係
遠心ポンプは、回転する羽根車で液体にエネルギーを与え、配管へ送り出す機械です。有効なエネルギーには圧力や高さの増加も含まれるため、すべてを「運動エネルギー」とは呼びません。
図1:モーターの発熱とポンプの発熱は、境界が違う
ポンプ効率の入口は電線ではなく軸。水へ入る熱と、周囲へ逃げる熱を分けます。
横にスクロールして図全体を読めます。
概念図。熱の分配比率や内部構造の寸法は、個々の機種を表していません。
ポンプが液体へ渡す有効な動力を水動力といい、軸から受け取る動力に対する比がポンプ効率です。これに対し、電源から入る電力に対する水動力の比には、モーターなどの損失も含まれます。
例えば軸動力が5.5kW、効率が50%なら、水動力は2.75kWで残りはポンプ側の損失です。電力計で5.5kWを測った場合は、モーター効率を使って軸動力へ直してから計算します。
モーターの銘板出力は、通常は軸から出せる定格出力を示し、その瞬間に消費している電力とは異なります。選定時にはポンプの軸動力の計算方法と、実際の運転点で必要な出力を組み合わせて読みます。
効率は機械に固有の一つの定数ではなく、流量や揚程によって変わる運転点の値です。ポンプの性能曲線で必要流量の位置を探し、その点の軸動力と効率を読むと、損失の大きさを見積もれます。
損失の行き先には液体の昇温のほか、ケーシングからの放熱や、軸受・軸封の摩擦による発熱があります。騒音や振動として伝わるエネルギーもあるため、液温の実測値を求めるには熱の分配まで考える必要があります。
- 液体内部:粘性摩擦や内部循環による散逸で温度が上がる
- ケーシング:液体から熱を受け取り、外気や周辺構造へ熱を渡す
- 軸受・軸封:摩擦熱が部品や潤滑油、冷却水へ移る
- 周辺設備:騒音や振動を通してエネルギーの一部が伝わる
ジュール熱と呼ぶときの注意
ジュール熱は電気抵抗による発熱であり、モーターでは巻線の銅損などがこれに当たります。水が羽根車から仕事を受けて温まる主な過程は、機械的なエネルギーの散逸です。流体の粘性や乱れによって、仕事が熱へ変わります。
エネルギーの単位のジュールと、電気抵抗で生じるジュール熱は意味の範囲が違います。ポンプは水を電気抵抗で直接加熱する装置ではありません。電力から軸仕事を経て、液体の内部エネルギーへ変わる順序で捉えます。
ポンプと熱の計算

温度を求めるには、熱へ変わる動力だけでなく、その熱を受け取る水の量も必要になります。流れ続ける水では単位時間当たりの通過量を使い、水が滞留するときには内部に残る水の質量を使います。
図2:同じ入熱でも、600kg/minと10kgでは受け手が違う
通常運転は入口と出口の温度差、滞留状態は時間当たりの昇温を求めます。
横にスクロールして左右を比較できます。
水の密度1000kg/m³、比熱4.19kJ/(kg·K)、放熱と容器の熱容量を無視した説明用モデルです。
水の密度は1000kg/m³、比熱は4.19kJ/(kg・K)とし、温度による変化を省略します。温度差はKでも℃でも数値が同じなので、計算した昇温は℃で示します。
動力のkWは毎秒のエネルギーに当たるkJ/sなので、1分の熱量にするには60を掛けます。比熱の意味と単位も押さえ、熱量と動力を混ぜずに計算すると単位間違いを防げます。
通常の運転時
軸動力5.5kW、吐出し量0.6m³/min、効率50%として、通常運転の温度差を試算します。ポンプ損失の全量が水に入るものとし、周囲への放熱を無視した単純な熱収支を採用します。
1分間に通過する水は0.6m³なので、密度を掛けると質量は600kgになります。質量と比熱の積が、この水全体の熱容量です。1℃上げるのに必要な熱量を求め、同じ水量に入る165kJと比較します。
この約0.066℃は、ポンプを1回通過した水に生じる、損失分に対応した温度差の概算です。ポンプを1分運転するたびに、設備内の水がすべて同じ温度幅だけ上がるという意味ではありません。
図3:通常運転5.5kWの配分と、温度計算の分母
損失の1分間分の熱量を、同じ1分間の通過水の熱容量で割ります。
残る損失2.75kW × 60秒 → 入熱165kJ
通過水600kg × 比熱4.19 → 熱容量2514kJ/K
165 ÷ 2514 → 温度差 約0.066℃
通常運転の仮定例。締め切り点に、この50%の配分を流用しません。
同じタンクから吸って同じタンクへ戻す循環系では、通過水が入れ替わりながらタンクに熱が蓄積します。タンク全体の温度変化は、系全体の入熱と放熱から求めます。水動力が配管抵抗で散逸する分も、入熱に含めます。
冷却器や使用先で熱を取り出さなければ、効率のよいポンプでも循環系には熱が蓄積していきます。ポンプ単体の損失と設備全体の熱負荷を区別すると、熱交換器の熱収支で扱うべき範囲も明確になります。
締め切り運転時
吐出し側の弁が閉じ、外へ流れる水量がゼロになった状態を、ここでは締め切り運転と呼びます。羽根車が回っていても外部流量Qがゼロなら水動力もゼロです。軸動力が正であれば、ポンプ効率は0%になります。
通常運転の効率50%を、そのまま締め切り時の熱計算へ使うのは誤りです。締め切り点の軸動力を性能曲線から読み、そのうち水へ伝わる入熱を機器や配管の条件に合わせて設定します。
図4:外への流量がゼロでも、羽根車は水をかき回す
締め切り状態では内部循環や摩擦が続き、内部の水とケーシングに熱が蓄積します。
横にスクロールして閉止弁と断面を確認できます。
内部流れの模式図。閉止弁の前後の位置関係と、熱が蓄積する範囲を示します。
水へ入る熱の動力を2.75kW、ポンプ内の水量を10Lと仮定します。この入熱は通常点の効率から導いた値ではなく、比較用の独立した仮定です。実機の締め切り点では、別途求めた軸動力や熱の分配に合わせて設定します。
通常運転では毎分600kgが通過するのに対し、このモデルでは10kgだけが熱を受け続けます。同じ入熱でも、水が入れ替わらなければ熱が蓄積します。通常点で求める入口・出口温度差と、滞留水の昇温速度を区別します。
仮に水への入熱を5.5kWと置けば、同じ10Lでは昇温速度が2倍の約7.88℃/minになります。計算には締め切り時の実際の軸動力と、水へ入る熱の大きさが必要です。通常時の電動機容量だけでは、入熱を決められません。
実機ではケーシングも熱を受け、外気へ放熱するため、昇温速度は時間とともに変わります。接続配管の水まで混ざるなら有効な水量も変わり、沸騰が始まると単純な比熱計算では扱えなくなります。
この試算から許容される締め切り時間を決めてはいけません。機種別の取扱説明書に従い、異常な昇温や流量低下は所定の停止手順で対処します。高温・加圧状態のプラグやフランジを緩めないでください。
温度上昇とキャビテーションのつながり
液温が上がると水の蒸気圧が高くなり、羽根車の入口など圧力が低い場所で気泡が生じやすくなります。気泡が高圧の領域で急激につぶれる現象が、キャビテーションです。騒音や振動、部材の損傷につながります。
気泡の発生は、局所の絶対圧力と、その温度に対応する蒸気圧との関係で決まります。一律に100℃を境界にはできません。締め切り時は低流量による不安定な流れも生じ、液体全体が沸騰する前から損傷につながります。
熱による軸封の傷みや、部品の熱膨張による接触も、締め切り運転で考慮すべき損傷の経路です。サージングとキャビテーションの違いも押さえ、異常時は流量・圧力・温度をまとめて記録します。異音が聞こえるまで待つ運用は避けます。
締め切り運転による昇温を防ぐ方法
主配管の使用量が小さくなる設備では、使用先への流量とポンプを通過する総流量を分けて考えます。使用先の弁が閉じても必要な流量を確保する戻り配管が、ミニマムフロー配管の基本的な役割です。
図5:戻り配管は、水の流れと熱の逃げ先をつくる
使用先が閉じてもタンクへの戻りを確保する例。温度監視も併用します。
横にスクロールして戻り配管をたどれます。
保護の概念例。戻り先タンクの蓄熱、液位、温度制限を含めて設計し、実際の最低流量はメーカーの指定で決めます。
戻す水量は「少し流れている」だけでは足りず、その機種の最低流量以上を確保します。熱と流れの安定性による制限を照らし合わせ、ミニマムフロー配管の考え方に沿って設計値を決めます。
吐出しを吸込口のすぐ近くへ短絡するだけでは、同じ少量の水が循環し、温度が上がり続けることがあります。戻り先のタンク容量や冷却能力まで含めて、発生した熱をどこへ逃がすかを決めることが欠かせません。
低流量時にポンプを停止する制御や、複数台の運転台数を減らす方法も有効な選択肢です。ポンプの台数制御を使う設備では、停止条件だけでなく、再起動時に水が通る経路も整理します。
温度の検出位置によっては内部の昇温を捉えるのに遅れが生じるため、流量の情報も併用します。電流が定格以下でも締め切りによる昇温は起こり、過負荷保護が働かないことを安全の根拠にはできません。
- 仕様書:締め切り点の軸動力、最低流量、許容液温を読む
- 配管図:使用先閉止時の流路と、戻り先の熱容量を確かめる
- 制御:低流量・高温の検出条件と、停止後の扱いを整理する
- 記録:運転流量、吸込・吐出し圧力、液温を同じ時刻で残す
ポンプの温度上昇でよくある質問
締め切り運転は何秒まで大丈夫ですか?
共通の時間はなく、ポンプの形式や内部水量、初期液温、軸動力によって条件が変わります。荏原のMMFA・AAFA型資料には30秒以内との記載があります。その値を別のポンプの許容時間へ広げてはいけません。
始動時に吐出し弁を閉じる操作も危険ですか?
指定された短い始動操作と、弁を閉じたまま運転を続けることは、区別して扱う必要があります。締め切り点の軸動力の傾向も形式で異なるため、始動時の弁位置や開ける順序は機種の取扱説明書に従います。
ポンプ効率が高ければ液体は温まりませんか?
同じ水動力を供給する条件なら、高効率ほどポンプ単体の損失は小さくなります。循環系では、水動力が配管抵抗で熱へ変わる分も蓄積します。ポンプ効率の改善と、タンクや冷却器で熱を取り出す計画を組み合わせます。
温度上昇が計算より小さいのはなぜですか?
水への入熱が仮定より少ない場合や、ケーシングや配管内の水も熱を受ける場合は、昇温が緩やかになります。測定値には入口・出口の位置と計器の精度も影響します。微小な温度差だけから、効率を逆算するのは避けます。
外側の温度を測れば内部の液温が分かりますか?
ケーシングの表面温度には、内部からの伝熱と外気への放熱の両方が影響し、内部液温との間には差が生じます。放射温度計を使うときも、表面温度計と放射温度計の使い分けを踏まえ、同じ測定条件で傾向を追います。
まとめ
- 液体は羽根車から受けた仕事の一部が熱へ変わるために温まる
- ポンプ効率は水動力と軸動力の比であり、電力基準の効率と区別する
- 通常運転の例では、損失2.75kW・流量0.6m³/minから温度差は約0.066℃
- 締め切り点は水動力ゼロ。液への仮定入熱2.75kW・滞留水10Lなら約3.94℃/min
- 試算を許容運転時間へ転用せず、最低流量と熱の逃げ先を確保する
熱の計算は、入力の動力と受け手の水量を同じ範囲でそろえると、現場の現象を理解する助けになります。通常点と締め切り点の条件を分けて記録すれば、性能曲線を読む作業と温度監視の目的が結び付きます。
出典
出典・参考資料(9件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 効率の区分:KSB「Efficiency」
- 水動力:KSB「Pump power output」
- ポンプ効率:KSB「Pump efficiency」
- 低流量運転と昇温:KSB「Operating behaviour」
- キャビテーション:KSB「Cavitation」
- 形式ごとの軸動力の傾向:KSB「Characteristic curve」
- 戻り流路:KSB「Bypass」
- 機種別の締切運転の制限例:荏原製作所「エバラポンプ50Hz MMFA型・AAFA型」
- ジュール熱と熱収支:慶應義塾大学「電流と熱」
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