MLCC(積層セラミックコンデンサ)の工場では、セラミックの粉を薄いシートにし、電極を印刷して何百層も重ねていきます。その出発点となる粉をつくる生産ラインを、岡山村田製作所が約90億円を投じて増設します。
MLCCは、電気を一時的にためる小さな電子部品です。村田製作所は、この原料の段階から自社グループで生産しています。今回の増設は、2026年9月29日に岡山県が発表しました。
この記事では、発表の中身と公表されていない点、セラミック原料がMLCC(積層セラミックコンデンサ)の性能をどう左右するのかを整理します。
続いて、村田が原料に投資する理由、MLCCの需給、取引先や就職先として見たときのポイントを順に見ていきます。
岡山村田製作所のセラミック原料ライン増設とは

岡山県の発表によると、岡山村田製作所はセラミック原料の増産を図るため、本社工場に生産ラインを増設します。投資額は約90億円で、2026年10月に着工し、2028年4月の操業開始を予定しています。
県の「大型投資・拠点化促進補助金」の活用も決まりました。この制度は投資額50億円以上が対象で、補助率は5%、限度額は5億円です。今回の補助金は約2.5億円の予定で、交付額が1億円以上の場合は5か年に分けて交付されます。
投資額と時期は明らかですが、増産量や品目は公表されていません。
- 増産する原料の具体的な品目・組成
- 増設後の生産能力と増産量
- 新たな雇用の人数
- 原料をどの工場・どの製品に供給するか
※岡山県「(株)岡山村田製作所の大型投資・拠点化促進補助金の活用が決定しました!」(2026年9月29日)より作成。
岡山村田製作所はどんな拠点か
岡山村田製作所は1992年4月に設立された村田製作所の生産子会社で、従業員は2,291人(2026年4月1日時点)です。県の資料では、事業内容をセラミック原料、RFモジュール、LCフィルタ、インダクタの製造としています。
RFモジュールはスマートフォンなどの無線通信に使う高周波部品で、LCフィルタやインダクタはノイズ除去や電源回路に欠かせない部品です。完成部品をつくる工場でありながら、グループ向けの原料も手がけている点が、この拠点の特徴といえます。
なお、県の資料にある年間売上高1兆8,309億円(2026年3月期)は、村田製作所グループの連結ベースの数字です。岡山村田製作所単体の売上ではない点に注意が必要です。
MLCCは足りているのか:先に答えの要点
村田製作所の決算資料を見ると、MLCCは受注が出荷を上回る状態が続いています。
2026年4〜6月期のMLCC単体のBBレシオ(受注額÷売上額)は1.47でした。その直前の2026年1〜3月期には、コンデンサ工場が95%近い稼働率で動いていたと説明されています。
ただし、今回の原料ライン増設は2028年4月の操業予定で、増産量も公表されていません。需要が強いことと、今回の投資が目先の供給不足を解消することは別の話です。この点は後の章で、数字の意味を確認しながら整理します。
セラミック原料とは何か|MLCCの性能を決める粉

セラミック原料とは、焼き固めて部品にする前の無機材料の粉末のことです。村田製作所の主力であるMLCCでは、電気をためる誘電体の層にセラミックが使われます。
大容量タイプのMLCCで誘電体の主原料として使われるのが、チタン酸バリウムです。石原産業の開示資料でも、チタン酸バリウムを「積層セラミックコンデンサの材料」と位置づけ、MLCCの需要拡大に伴って重要性が増していると説明しています。
一般に、原料の粉は添加物と混ぜてスラリー(泥しょう)にし、薄いシートに成形してから、電極を印刷して積み重ね、焼成します。粉の段階のばらつきは、このあとの全工程に持ち越されます。
焼成で寸法が縮むしくみなど、工程全体の考え方はセラミックスの製造工程の記事でも詳しく扱っています。
誘電体の粉と電極の金属が、何百層にも重なって1つの部品になります。
※一般的な構造を簡略化した図です。材料の組成は製品や用途によって異なります。
粉の粒の大きさが、薄層化の限界を決める
MLCCは、誘電体の層を薄くし、積み重ねる枚数を増やすほど、同じ大きさで容量を大きくできます。
村田製作所は製品サイトで、小型大容量化には誘電体層の薄層技術が重要だとしています。そのうえで、セラミック粉体の粒の大きさや形状を高い精度で制御し、高密度かつ均質に分布させる加工技術を確立していると説明しています。
層が薄くなるほど、1層の中に並ぶ粒の数は少なくなります。粒が大きすぎたり、大きさがそろっていなかったりすると、薄い層の中で欠陥ができやすくなります。
2025年12月の説明会でも、同社は材料がいかに均一で、いかに欠陥がないかが信頼性を大きく左右すると述べました。
どれも原料の粉の品質が出発点になります。
誘電体・内部電極・外部電極の組み合わせ(マッチング)が性能を左右するため、原料だけを良くしても製品にはならない
※村田製作所 IR Day 2025(2025年12月)の説明と製品サイトをもとに編集部で整理。
セラミックは電子部品のほか、半導体製造装置の部材や自動車部品にも使われます。用途ごとに求められる材料の違いはファインセラミックスの用途と種類で整理していますが、MLCCの誘電体はその中でも特に薄さと均一さが求められる部類です。

村田製作所が原料工程に投資する理由
ここでは、村田製作所が原料を自社グループで持つ一般的な狙いと、今回の発表から確認できる目的を分けて見ていきます。両者を混ぜると、ニュースの意味を読み違えやすくなるためです。
垂直統合で「組み合わせのノウハウ」を外に出さない
村田製作所は、MLCCの強みを「垂直統合型ビジネス」と説明しています。
2025年12月の説明会では、1980年代は誘電体・内部電極・外部電極を個別に設計して組み合わせても一定の特性が出せたとの説明がありました。しかし層が薄く積層数が多くなった今は、それぞれの相互関係が非常に重要になったとしています。
どれか1つがうまくいっても、ほかとの組み合わせが悪ければ製品にならない。だからこそ、材料からプロセス、設備まで一貫して自社で持つことで、コア技術をブラックボックス化できるという考え方です。
同社は、材料を自社で開発し、混ぜ、シートにし、積み重ね、焼成する一貫プロセスを持っていると説明しています。
原料を外から買うか、自社で設計してつくるかで、強みの出方が変わります。
※分業型は一般的な傾向。垂直統合型は村田製作所 IR Day 2025 の説明をもとに整理。
海外拠点でも同じ特性を出すための原料
村田製作所は、MLCCを福井、島根(出雲)のほか、中国、シンガポール、フィリピン、タイの拠点から供給する体制です。
同社は「Made by Murata」というコンセプトで、どこでつくっても同じ特性のものを同じように供給できることを強みに挙げています。
拠点が増えるほど、各工場が使う原料の品質をそろえる重要性は高まります。拠点ごとに別々の原料を使えば、同じ品番でも特性に差が出るおそれがあるためです。部品の生産能力を広げるなら、その手前の原料もあわせて増やす必要がある、という関係にあります。
今回の発表から確認できる目的
一方で、岡山県の発表に書かれている目的は「セラミック原料の増産」です。報道でも、電子部品向け材料の供給能力を高める狙いと伝えられています。今回の投資は、品質改善よりも、まず供給量を増やすための投資と読むのが資料に沿った理解です。
どの製品向けの原料を、どれだけ増やすのかは明らかにされていません。村田製作所の主力がMLCCであることを踏まえると、MLCC向けの比重は大きいと考えられます。ただし、インダクタなど他のセラミック部品向けを含む可能性もあり、断定はできません。
外部調達も強化:MFマテリアルとの合弁
村田製作所は原料をすべて自社でつくっているわけではありません。
2023年9月には、石原産業、その子会社の富士チタン工業と共同出資で、チタン酸バリウムを製造・販売するMFマテリアル(宮崎県延岡市)を設立しました。
出資比率は富士チタン工業70%、村田製作所20%、石原産業10%です。
石原産業の開示によると、合弁では延岡市にチタン酸バリウムの第2工場を建設する予定で、富士チタン工業の製造技術に村田製作所が技術支援と製造ノウハウを提供します。
報道では2027年にも新工場が稼働する予定とされています。自社での増産と、取引先との合弁による増産を組み合わせて原料を確保していることが分かります。
MLCC需要はどこまで伸びているか

原料への投資の背景には、MLCCの需要拡大があります。最も大きな要因は、AIサーバーを中心とするデータセンター向けです。ここでは村田製作所の公表数字を、それぞれ何を示す指標なのかとあわせて確認します。
指標ごとに示しているものが違うため、時点と対象をあわせて読みます。
※村田製作所 IR Day 2025、2025年度決算説明会(2026年4月30日)、2026年度第1四半期決算(2026年7月31日)の公表内容より作成。データセンター関連の売上はMLCC以外の製品も含みます。
AIサーバーで増える個数と容量
村田製作所は2025年12月の説明会で、AIのアクセラレーターボード1枚に搭載されるMLCCは1万5,000〜2万5,000個が通例になっていると説明しました。
以前は1万〜2万個と説明していた数字を引き上げたものです。サーバーラックには同じボードが8枚入る構成もあり、ラック単位では掛け算で効いてきます。
ただし、ボードの面積やラックの幅には制約があるため、今後は個数よりも1個あたりの容量が大きく伸びると同社は見ています。個数ベースでは年平均30%程度の成長を見込んで準備しているとしています。
容量を上げるには層をさらに薄くする必要があり、原料の粉に求められる水準も上がっていくことになります。
受注は過去最高、稼働率は95%近く
2026年7月31日に発表された2026年度第1四半期(4〜6月)の決算では、売上高が前年同期比20.7%増の5,023億円でした。受注高は6,739億円で、いずれも四半期として過去最高です。
コンデンサの売上高は30.0%増の2,825億円で、MLCCはデータセンターやモビリティ向けを中心に増えています。
同社は通期の業績予想も上方修正し、売上高を2兆1,100億円、営業利益を4,300億円としました。データセンター関連の売上は前年度比109.7%増の3,706億円を見込んでいます。
一方で、営業利益の上方修正が売上ほど大きくない理由として、貴金属を含む材料費の高騰や固定費の増加を挙げています。
生産側では、2025年度第4四半期にコンデンサ工場が限りなく95%に近い稼働率で操業したとの説明でした。
これまで毎年、負荷ベースで10%程度の能力増強を約4年続けてきました。さらにデータセンター向けに800億円の追加投資を決め、2026年度は通常の増強に加えて10%、2027年度はさらに10〜15%の追加増強を計画しています。
なお、受注の数字には実需だけでなく、品薄を見越した早めの発注が含まれる可能性もあります。BBレシオが高いことは受注残が積み上がっていることを示しますが、それだけで「不足が長期化する」と断定することはできません。

原料の増産は部品工場の増産とどう違うか
MLCCの増産というと、焼成炉や積層機を並べる部品工場への投資が目立ちます。村田製作所も2026年4月に出雲村田製作所で約470億円(建物・生産設備を含む)の新生産棟を竣工させました。
これに対して、岡山の投資はその手前の工程を太くする投資です。
部品工場の能力を広げても、原料の供給が追いつかなければ増産はできません。逆に、原料だけ増やしても部品工場が満杯なら製品は増えません。原料と部品の能力は、セットで少しずつ引き上げていく必要があります。
部品工場の増強に続き、原料の増産が時間差で立ち上がります。
- MFマテリアル設立(宮崎県延岡市)チタン酸バリウムの合弁。村田は20%を出資
- フィリピンのMLCC生産棟が竣工アジアでの生産能力を拡大
- 出雲村田製作所の新生産棟が竣工約470億円(建物・設備)。MLCCを生産
- データセンター向けMLCCに800億円の追加投資を表明2026年度に通常+10%、2027年度にさらに+10〜15%を計画
- 岡山村田製作所が原料ラインに着工約90億円。セラミック原料を増産
- MFマテリアルの新工場が稼働チタン酸バリウムの生産能力を増強
- 岡山の原料ラインが操業開始増産量は非公表
※各社の発表・開示資料と報道より作成。2025年10月のフィリピン生産棟は村田製作所 IR Day 2025 の説明(EE Times Japan 2025年12月4日の報道)による。
年表で並べると、原料側の投資は部品工場より後ろにずれて立ち上がることが分かります。
原料の設備は、出来上がった粉を部品工場で評価し、製品の特性が変わらないことを確かめてから本格的に使われるのが一般的です。そのため、増産の効果が表に出るまでには時間がかかります。
2028年4月は操業開始の予定で、その時点からすぐに供給量が大きく増えるとは限りません。段階的な立ち上げになるのか、どの拠点に原料を送るのかは今後の発表を待つ必要があります。
素材の増産投資は、村田製作所に限った動きではありません。電子部品や半導体の需要拡大を受けて、トクヤマの窒化アルミニウム増産のように、素材メーカーが粉末の能力を引き上げる例も出ています。
製造業全体で設備投資が増えている状況は、製造業の設備投資2026年度計画でも確認できます。
取引先・就職先として見たときのポイント

今回の発表は規模こそ90億円と、部品工場の新棟より小さい投資です。それでも、原料という上流工程への投資は、関わる取引先の幅が広いのが特徴です。立場ごとに、現時点で分かることと確認したいことを整理します。
分かっていることと、今後確かめたいことを分けて考えます。
※価格の方針は、村田製作所の2025年度決算説明会(2026年4月30日)での会社全体についての説明です。今回の増設による価格への影響を示すものではありません。
設備・素材の取引先にとって
原料の生産ラインは、粉を混ぜる・乾かす・焼く・砕く・ふるうといった粉体プロセスの設備で構成されるのが一般的です。
部品の組立ラインとは必要な装置が異なるため、粉体機器や熱処理炉、集じん・空調設備の会社にとっては、部品工場の新棟とは別の商機になります。
素材の取引先から見ると、村田製作所は自社生産と合弁の両方で原料を確保しようとしている顧客です。取引先となる電子部品メーカー各社の規模や得意分野を比べたい場合は、電子部品・半導体業界の主要企業と勢力図も参考になります。
MLCCを使う側にとって
部品を調達する立場では、2028年の原料増産よりも、目の前の納期のほうが関心事かもしれません。村田製作所は2026年4月の時点で、短期的な利益を求めて単純に価格を上げる政策は取らないと説明しています。
一方で、原材料費やエネルギー費が社内で吸収できないほど上がった場合は、顧客と相談するとも述べています。
データセンター向けの需要が生産能力を強く引っ張るなかで、自動車やスマートフォン向けの品番がどう扱われるかは、需要の回復次第で変わります。使っている品番ごとに、商社やメーカーと早めに見通しを共有しておくことが現実的な備えです。
就職・転職を考える人にとって
岡山村田製作所は、セラミック原料という材料の仕事と、RFモジュールなど完成部品の仕事の両方がある拠点です。材料・化学系の知識を生かしたい人にとっては、部品メーカーの中で原料づくりに関われる珍しい職場といえます。
ただし、今回の発表には雇用数が含まれていません。採用の有無や職種は、同社の採用情報で確かめる必要があります。
まとめ
- 岡山村田製作所は約90億円でセラミック原料の生産ラインを増設し、2026年10月着工、2028年4月操業を予定する
- 増産する原料の品目や増産量、雇用数は公表されていない
- MLCCは誘電体の粉の粒の大きさや均一さが、薄層化と信頼性を左右する
- 村田は材料から設備まで一貫して持つ垂直統合を強みとし、合弁による外部調達も強化している
- MLCCは受注が出荷を上回り稼働率も95%近いが、原料増産の効果が出るのは2028年以降になる
電子部品の増産というと完成部品の工場に目が向きがちですが、その手前の原料工程にも投資が広がっています。業界の全体像は電子部品・半導体業界とは、原料から最終製品までの流れは窯業・セラミックス業界の構造で整理しています。
電子部品メーカー各社の最新の技術展示については、CEATEC 2026の見どころもあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(8件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 岡山村田製作所の設備投資:岡山県「(株)岡山村田製作所の大型投資・拠点化促進補助金の活用が決定しました!」(2026年9月29日)、同 お知らせ(PDF)
- 増設の報道:LOGISTICS TODAY(2026年9月30日)
- 垂直統合・MLCC搭載数・材料の説明:村田製作所 IR Day 2025 書き起こし(2025年12月)、EE Times Japan「村田製作所『次の営業利益率ピークは2030年』」(2025年12月4日)
- 稼働率・能力増強・価格方針:村田製作所 2025年度決算説明会 質疑応答(2026年4月30日)
- 2026年度第1四半期決算:EE Times Japan「村田製作所、26年度1Qは売上高が過去最高」(2026年8月3日)
- 出雲村田製作所の新生産棟:村田製作所「出雲村田製作所での新生産棟竣工について」(2026年4月3日)
- MLCCの強みと供給拠点:村田製作所「ムラタコンデンサの強み」
- MFマテリアル:石原産業「株式会社村田製作所とのチタン酸バリウム製造のための合弁契約締結に関するお知らせ」(2023年3月17日)、同「合弁会社設立に係る契約の再締結について」(2023年6月27日)、EE Times Japan「村田製作所ら、チタン酸バリウム製造の新会社を設立」(2023年9月4日)
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