工場の省人化はどこから始める?工程の選び方と投資判断の5ステップ

台車で部品を運ぶ作業者と加工機の横で動く協働ロボット

工場の省人化(作業に必要な人の数を減らすこと)は、どの作業から始めればよいのか。最初に手をつけるのは、人の時間が多くかかり、同じ動きの繰り返しが多く、扱う品物や作業条件が安定している作業です。

ロボットや無人搬送車(荷物を自動で運ぶ車両)といった設備は、対象の作業が決まってから選ぶものです。どの作業に1日何時間かかっているのかが分からないままでは、対象工程も、投資に見合うかどうかも決められません。

この記事では、対象工程が決まらない原因、用語と統計の確認、工程の棚卸しと作業の分類を整理します。続いて、優先順位のつけ方、費用対効果の見方、小さく始めて広げる進め方の順に見ていきます。

目次

省人化の対象工程が決まらない3つの原因

先に答えを書くと、最初に手をつけるのは「人の時間が多くかかっていて、同じ動きの繰り返しが多く、品物や条件が安定している作業」です。設備から探すのではなく、作業から選びます。

それでも対象が決まらないときは、次の3つのどれかに当てはまっていることが多くあります。

設備から探している

展示会やカタログで見た設備を起点にすると、「これを入れられる場所はどこか」という探し方になります。その結果、人手があまりかかっていない工程に設備が入ることがあります。

省人化は、人の時間がどこに使われているかを起点にするほうが外れにくくなります。設備は、対象の作業が決まってから選ぶものです。

作業ごとの工数を測っていない

「検査に人がかかっている」「運搬が大変だ」という感覚はあっても、1日に延べ何時間なのかを答えられる工場は多くありません。数字がないと、候補どうしを比べられません。

また、工程名の単位で見ていると粗すぎます。同じ「加工工程」の中にも、品物の着脱、寸法の確認、切りくずの掃除、次の材料を取りに行く移動が混ざっています。省人化の対象になるのは工程ではなく、その中の作業です。

効果を「人数」だけで見積もっている

「この設備で1人減らせる」という見積もりは、実際には0.5人分や0.7人分の作業時間であることがよくあります。半端な時間が浮いても、その人が持ち場を離れられなければ、体制は変わりません。

効果は人数ではなく、まず時間で数え、その時間を何に使うかまで決めておく必要があります。この点は費用対効果の章であらためて扱います。

こうした原因を避けるための進め方を、5つのステップにまとめました。次の章で用語と統計を確認したあと、順に見ていきます。

図1:省人化の対象工程を選ぶ5ステップ

設備を選ぶのはステップ3のあとです。前半で「どの作業に何時間かかっているか」をつかみます。

現状をつかむ
01工程を棚卸しする工程の中の作業を書き出し、作業ごとの時間を測る
02作業を分類する搬送・検査・着脱・組立・段取り・間接作業に分ける
対象を選ぶ
03優先順位をつける効果の大きさと、やりやすさの2軸で並べる
04費用対効果を見る回収期間・投資利益率・正味現在価値で確かめる
進める
05小さく始めて広げる1工程で試し、効果を測ってから横に展開する

※ステップ3で「自動化より先に、作業そのものをやめる・まとめる」という結論になることもあります。

省人化・省力化・少人化の違いと、省力化投資の現状

社内で話を進める前に、言葉の意味をそろえておきます。「省人化」「省力化」「少人化」は似ていますが、目指す状態が異なります。

3つの言葉の違い

この3語はトヨタ生産方式の中で使い分けられてきた言葉です。トヨタ自動車の社史は、大野耐一元副社長の言葉を紹介しています。

1960〜61年ごろから「省力化」がいわれていたが、自分は前から、人そのものを省ける「省人化」でなければと考えていた、という趣旨です。

同じ箇所には、石油危機のころの経緯も載っています。講演の要旨で「省人化」が「少人化」と書き違えられ、それをきっかけに「これからは本当に『少人化』でなければならない」と思い至った経緯です。

同じ社史は少人化を、生産量が減っても、それに見合う少ない人数で生産できるラインをつくる考え方として説明しています。

なお、JIS Z 8141:2022(生産管理用語)を確認した範囲では、この3語は独立した用語として収録されていません。

規格で決まった定義があるわけではなく、現場で育ってきた言葉と考えるのがよさそうです。一般的な使い分けを整理すると、次のようになります。

図2:省力化・省人化・少人化の違い

作業が楽になることと、その作業に人が要らなくなることは別の状態です。

目指す状態
現場での表れ方
省力化
作業にかかる労力や時間を減らす
重い物を持たなくて済む、歩く距離が短くなる。人数はそのままのことも多い
省人化
その作業に人がつかなくても回る状態にする
浮いた時間がまとまり、担当者を別の作業に回せる
少人化
生産量の増減に合わせて、少ない人数でも回せるようにする
1人が複数の工程を受け持てるライン配置と、多能工の育成がセットになる

※3語の使い分けは一般的な整理です。省力化・省人化・少人化の経緯は、トヨタ自動車75年史の記述をもとにしています。

行政の資料では「省力化投資」という言葉が広く使われます。

2026年版の中小企業白書の概要は、調査結果の注記で省力化投資の意味を説明しています。「機械化やAI(人工知能)の活用、ITツールの活用等によって、従前と同等又はそれ以上の付加価値を創出するために投入する労働量を減少させること」です。

この記事では、作業時間を減らす取り組み全体を省力化、その結果として担当者を別の仕事に回せる状態までを省人化と呼びます。省人化の仕組みや方式そのものは、省人化の基本原理をまとめた記事で扱っています。

統計で見る省力化投資

2026年版ものづくり白書には、事業に影響を及ぼす社会情勢の変化を製造事業者に聞いた結果が載っています。「人材・労働力不足」を挙げた割合は2025年度に70.9%(n=3,032)でした。

2024年度の66.7%(n=3,007)から上がっています(複数回答。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査)。

同じ白書は、収益力の高い企業ほど省力化・省人化投資や増産投資、システム投資に積極的だという調査結果も示しています。

一方、中小製造業の設備投資に占める割合はまだ大きくありません。

日本政策金融公庫の「中小製造業設備投資動向調査」は、2026年4月に従業員20人以上300人未満を対象に行われました(有効回答7,744社)。この調査で、2025年度実績の目的別構成比を見てみます。

「更新、維持・補修」35.2%、「能力拡充」30.3%に対し、「省力化・合理化」は14.7%でした。2026年度の当初計画では15.3%に上がっています。

ここでいう省人化は、今いる人を減らす話ではありません。採用しても集まらない持ち場、夜勤や重い物の運搬のように続けられる人が減っている作業を、設備と人の配置の見直しで埋めていく取り組みです。

ステップ1・2:工程を棚卸しして作業を分類する

最初の2つのステップでは、現状を数字でつかみます。地味な作業ですが、ここを飛ばすと後の優先順位づけも投資の計算も根拠がなくなります。

工程と作業を書き出す

まず、材料の受け入れから出荷までの工程を順に書き出します。JIS Z 8141は工程分析を、生産対象物が製品になる過程や作業者の活動、運搬過程を図記号で表して系統的に調べる手法と定義しています。

工程は加工・運搬・検査・停滞の4つに大別されます。

次に、各工程の中で人が行っている作業を書き出します。「旋盤工程」であれば、材料を取りに行く、機械に取り付ける、起動する、加工中に寸法を測る、取り外す、箱に並べる、といった単位です。

作業ごとの時間を測る

書き出した作業に、1日あたりの延べ時間を入れていきます。ストップウォッチで測る方法のほか、決めた時刻に現場を見て「そのとき何をしていたか」を記録し、比率を出す方法もあります。

後者はワークサンプリングと呼ばれます。JISでは、稼働分析(作業者や設備の稼働内容の時間構成比率を求める手法)のうち、瞬間的に観測する方法の代表例とされています。1〜2週間分を集めるだけでも、感覚とのずれが見えてきます。

測るときは、作業者に目的を先に伝えておくことが欠かせません。個人の働きぶりを評価するためではなく、きつい作業や手待ちを減らすための調査だと説明しておくと、実態に近い数字が集まります。

作業を6つに分類する

時間が入ったら、作業を性質で分類します。分類すると、工程が違っても同じ手段で対応できる作業がまとまって見えてきます。ここでは6つに分けます。

図3:作業の6分類と主な手段

分類ごとに、使える手段と始めやすさの傾向が異なります。

搬送
比較的始めやすい工程間の運搬や部品の供給。ルートと荷姿が決まっていれば、コンベヤや無人搬送車の対象にしやすい
ワーク着脱
比較的始めやすい加工機や成形機への出し入れ。品物の形と置き位置がそろっていれば、ロボットで対応しやすい
検査
条件次第外観や寸法の確認。合否の基準を数値や見本で決められるかどうかが分かれ目になる
組立・2次加工
条件次第ねじ締めや圧入など単純な動きは対象にしやすい。柔らかい部品や合わせ込みは難しい
段取り替え
まず改善から品種の切り替えに伴う準備。止めずにできる準備を外に出す、治具を共通にするといった改善が先
間接作業
比較的始めやすい日報の記入、実績の転記、集計、物を探す時間。設備ではなくITツールで減らせることが多い

※始めやすさは一般的な傾向です。品種の数や品物の状態によって変わります。

どの分類に人手が集まりやすいかは、業種によって違います。経済産業省の「省力化投資促進プラン(中小製造業)」は、投資が効果的と考えられる業務を業種別に挙げています。

プラスチック製品製造業では2次加工・組付と検査、繊維工業では生地のキズを目視で確認する検反や縫製、鋳造・鍛造では工程間の搬送作業です。

自社の棚卸し結果と見比べると、同業他社がどこから着手しているかの見当がつきます。

ステップ3:効果とやりやすさで優先順位をつける

分類ができたら、候補を「効果の大きさ」と「やりやすさ」の2軸で並べます。どちらか片方だけで決めると、効果は大きいが何年も立ち上がらない案件や、すぐ入るが誰も楽にならない案件を選びがちです。

効果の大きさを見る

効果の基本は、年間の作業時間です。下の図は、従業員80人ほどの金属部品加工工場を想定した架空の例で、棚卸しで出てきた作業を年間の延べ時間で並べたものです。

図4:作業別の年間延べ時間(想定例)

1日の延べ時間に年間稼働日数240日を掛けた、架空の工場の数字です。

外観検査1日8.0時間
1,920時間
ワーク着脱1日6.0時間
1,440時間
工程間の搬送1日5.0時間
1,200時間
梱包・箱詰め1日4.0時間
960時間
段取り替え1日3.0時間
720時間
実績の転記1日2.0時間
480時間

※説明用の想定例です。6つの作業の合計は年間6,720時間になります。

時間のほかに、次の点も効果として見ておきます。金額にしにくいものも、候補を比べるときの判断材料になります。

  • その工程がネック工程かどうか(全体の生産量を決めている工程なら、増産の効果も出る)
  • 重い物の持ち上げ、無理な姿勢、暑さ、夜勤など、体への負担が大きい作業か
  • 求人を出しても人が集まりにくい、または定着しにくい持ち場か
  • 人によるばらつきが不良や手直しにつながっている作業か

ネック工程でない作業を速くしても、工場全体の生産量は変わりません。ネック工程の探し方は、ラインバランスとネック工程の記事で詳しく説明しています。

やりやすさを見る

やりやすさは、設備の性能よりも作業の条件がどれだけ安定しているかで決まります。確認するのは次のような点です。

  • 品物の形・大きさ・置かれる位置と向きがそろっているか
  • 品種の数と、切り替えの頻度はどのくらいか
  • 合否や良し悪しの基準を、数値や見本で決められるか
  • 設備を置くスペースと、人や台車の通路を確保できるか
  • 前後の工程が、設備の速さに合わせて品物を出し入れできるか

想定例では、時間が最も多いのは外観検査でした。しかし品種が多く、合否の基準が検査員の経験に頼っている状態だとすると、すぐに自動化するのは難しくなります。基準を決めるところから始める案件です。

検査の自動化で先に決めておくことは、AI外観検査とルールベース検査の違いの記事が参考になります。

4つの区分に振り分ける

2軸で見た結果を、4つの区分に振り分けます。点数をつけて厳密に順位を出すよりも、区分ごとに扱いを変えるほうが実務では使いやすくなります。

図5:効果とやりやすさで分ける4つの区分

最初に着手するのは「効果が大きく、やりやすい」作業です。

効果が大きい × やりやすい最初に着手する。1工程で試し、効果を測ってから広げる。想定例ではワーク着脱と工程間の搬送
効果が大きい × 難しい作業を細かく分け、できる部分から段階的に進める。想定例では外観検査。基準づくりが先
効果が小さい × やりやすい大きな投資はせず、治具・手順・ITツールで対応する。想定例では実績の転記
効果が小さい × 難しい当面は見送る。品種の整理や設計変更など、条件が変わったときに見直す

※想定例の振り分けは、品種の数や品物の状態を仮に置いたものです。

自動化の前に、やめる・まとめる

候補が決まっても、すぐ設備の検討に入るとは限りません。JIS Z 8141は改善の着眼点として、排除・結合・交換・簡素化の4つ(ECRS)を挙げ、この順に検討するのが望ましいとしています。

たとえば搬送であれば、工程の配置を近づければ運ぶ距離そのものが減ります。二重に行っている検査は、片方をやめられるかもしれません。不要な作業を自動化しても、不要な設備が増えるだけです。

想定例の段取り替えも、先に取り組むのは機械を止めずにできる準備を外に出すことや、治具の共通化です。設備による自動交換は、その後の選択肢になります。

公的資料に見る搬送の事例

省力化投資促進プランには、搬送を対象にした事例が載っています。

輸送用機械器具製造業の城山工業(神奈川県相模原市)は、中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)を使いました。自動車向け金属プレス部品の無人搬送車を導入し、部品の搬送を2名体制から1名体制にしています。

床に通行帯のシールを貼るだけで導入でき、大規模なレイアウト変更は不要だったとされています。フォークリフトを使うエリアが限られ、工場内の安全性も上がったとのことです。

鋳造のヨシワ工業(広島県海田町)は、製品出荷の過程で出荷予定の製品を集める作業に自動倉庫システムとロボットを入れ、この作業の作業員を14人から4人にしています。従来は、重い鋳物の運搬に複数の作業員が関わっていた作業です。

どちらも、物を運ぶ・集めるという繰り返しの多い作業を対象にしている点が共通しています。なお、この資料には、搬送から外れた人がその後どの仕事を担当したかまでは書かれていません。搬送の手段の選び方は、AGVとAMRの違いの記事で整理しています。

ステップ4:費用対効果を3つの物差しで見る

対象が絞れたら、投資額に見合うかを確かめます。ここでは想定例のワーク着脱を取り上げ、よく使われる3つの物差しで計算してみます。数字はすべて架空のもので、実際の判断は自社の条件で置き直す必要があります。

費用と効果に入れる項目

計算の前に、何を費用に入れ、何を効果に入れるかを決めます。設備本体の価格だけで計算すると、効果が実際より大きく見えます。

図6:費用と効果に入れる項目

本体以外の費用と、毎年かかる費用を落とさないことがポイントです。

入れる項目
見落としやすい点
初期費用
設備本体、ハンドや治具、架台、据付・配線、プログラム作成、安全対策、教育
本体以外の費用が大きくなりやすい。立ち上げ期間中の生産の落ち込みも見ておく
毎年の費用
保守・点検、消耗品、電気代、プログラムの修正
品種が増えるたびに発生する設定変更の手間と費用
金額にできる効果
減った作業時間、減った残業、不良や手直しの減少、増産分の利益
浮いた時間を何に使うかが決まっていないと、効果として表れない
金額にしにくい効果
体への負担の軽減、夜勤の削減、欠員が出たときの備え、品質の安定
計算には入れず、判断材料として別に書き出しておく

想定例の前提

加工機へのワーク着脱にロボットを入れる想定で、前提を次のように置きます。

  • 初期費用:1,200万円(本体、ハンド、架台、据付、立ち上げ、安全対策、教育を含む)
  • 減る作業時間:1日6時間×年240日=年1,440時間
  • 人件費の単価:1時間あたり2,500円(賃金・賞与に会社負担の社会保険料などを加えた年480万円を、年間の所定労働時間1,920時間で割った想定)
  • 毎年の費用:保守・消耗品・電気代などで年60万円

減る作業時間の価値は、1,440時間×2,500円=年360万円です。ここから毎年の費用60万円を引いた年300万円を、正味の効果とします。

毎年の費用を引かずに360万円のまま計算すると、回収期間は約3.3年と短く見えてしまうため、以下ではこの300万円を使います。

この360万円は、人件費の支払いがその分減るという意味ではありません。浮いた時間を別の作業に振り向けたときの価値を、金額に置き換えたものです。残業が減る、採用できなかった持ち場を埋められる、増産に対応できる、といった形で表れます。

3つの物差しで計算する

中小機構のJ-Net21は、設備投資の採算性を見る方法として、回収期間法、投資利益率法、正味現在価値法などを紹介しています。想定例に当てはめると次のようになります。

図7:3つの物差しと想定例の結果

初期費用1,200万円、正味の効果が年300万円という想定での計算です。

物差し1回収期間法投資額÷年間の正味効果。何年で元が取れるかを見る
1,200万円÷300万円=4.0年
物差し2投資利益率法増加利益÷投資額。8年で均等に費用にすると置き、償却費は年150万円
(300万円−150万円)÷1,200万円=12.5%
物差し3正味現在価値法将来の効果を割引率で今の価値に直し、投資額を引く。割引率5%・8年間
約1,939万円−1,200万円=約+739万円
作業時間の削減が見込みの半分(年720時間)にとどまると、正味の効果は180万円−60万円=年120万円。回収期間は10.0年、正味現在価値は約−424万円になる。

※すべて架空の想定例です。使用年数8年と割引率5%は説明のために置いた数字で、実際は設備の種類や資金の調達条件によって変わります。

回収期間法は分かりやすい反面、回収したあとの効果を見ていません。投資利益率法は、決算書の利益にどう効くかを見るのに向きます。正味現在価値法は、効果が出るまでの時間のずれを織り込める代わりに、割引率の置き方で結果が動きます。

どれか1つで決めるのではなく、並べて見て、結論が食い違うときに理由を確かめる使い方が現実的です。

見込みが半分だったらどうなるか

計算で最も不確かなのは、減る作業時間です。品種の切り替えで人が付き添う時間が残る、品物の向きをそろえる作業が新たに発生する、といった理由で見込みを下回ることがあります。

想定例で削減が半分の年720時間にとどまると、作業時間の価値は年180万円です。毎年の費用60万円は変わらないため、正味の効果は年120万円になります。

回収期間は10.0年に延びて想定した使用年数の8年を超え、正味現在価値は約−424万円とマイナスに変わります。

7割(年1,008時間)の場合は、正味の効果が年192万円、回収期間が約6.3年、正味現在価値が約+41万円です。見込みどおり・7割・半分の3通りで計算しておくと、どこまで下振れしても許容できるかが分かります。

1人分に満たない時間の扱い

想定例で減る1,440時間は、年間の所定労働時間1,920時間に対して0.75人分です。1人分には届きません。

この時間を効果にするには、浮いた0.75人分と、ほかの作業で浮いた時間を合わせて、担当の割り振りを組み直す必要があります。冒頭で触れた省力化と省人化の違いは、ここに表れます。設備の導入と、作業の組み替えを同時に計画することが前提になります。

なお、投資するかどうかは、資金繰りや受注の見通し、設備の更新時期なども含めて決まるものです。ここでの計算は、判断材料を同じ形に並べるための道具と考えてください。

ステップ5:小さく始めて広げる

計算で見通しが立っても、いきなりライン全体を変えるのは避けたほうが無難です。1工程で試し、数字を確かめてから広げます。

図8:小さく始めて広げる順番

最初の1工程で確かめた内容が、次の展開の計画の根拠になります。

1工程・1台で試す効果が大きく、やりやすい作業を1つ選ぶ
数週間〜数か月、実績を取る
効果と使い勝手を確かめる減った作業時間、停止の回数、品質、作業者の負担を、計算の前提と比べる
手順と担当を決めてから広げる
同じ作業の別ラインへ条件が近く、展開しやすい
前後の工程へつなげると手待ちが減る
別の分類の作業へ棚卸しに戻って次を選ぶ

1工程で試して、数字を確かめる

最初の1工程では、計算の前提にした数字が実際にどうだったかを確かめます。減った作業時間、設備が止まった回数と理由、品質への影響、作業者の負担の変化を記録します。

先に紹介した城山工業の事例でも、導入後に、本社工場やほかの工場で台数を増やすことを検討中とされています。最初の1台は、効果を出すことと同じくらい、自社で使いこなせるかを確かめる意味があります。

安全の確認を計画に入れる

設備を入れると、人と機械の関わり方が変わります。労働安全衛生規則第150条の4は、産業用ロボットに接触することで労働者に危険が生じるおそれがあるときは、さくや囲いを設けるなどの措置を求めています。対象は定格出力が80Wを超えるロボットです。

厚生労働省は2013年12月の通達で、人と協働できる条件を明確にしました。リスクアセスメントに基づく措置を行い、危険のおそれがなくなったと評価できる場合は、さくや囲いがなくても協働できます。評価の結果は記録し、保管することが求められます。

スペースが狭くさくを置けない工程では、この確認が導入できるかどうかを左右します。具体的な手順は協働ロボットの導入手順の記事にまとめています。

浮いた時間の使い道を先に決める

省人化は、今いる人の仕事をなくすことが目的ではありません。浮いた時間の使い道は、先に決めておきます。欠員が出ている持ち場を埋める、夜勤や重い物を扱う作業の人数を減らす、検査や保全のように人の判断が要る仕事に回す、といった使い方です。

そのためには、1人が複数の作業を担当できる状態が必要です。誰がどの作業をできるかを一覧にしたスキルマップがあると、配置の組み直しを計画しやすくなります。対象の持ち場の作業者には、早い段階で目的と今後の担当を説明しておくことも欠かせません。

補助金と税制を確認する

中小企業であれば、中小企業省力化投資補助金が選択肢になります。2026年10月1日時点で、カタログから製品を選ぶ「カタログ注文型」は随時受付で、受付期間は2027年3月末頃までとされています。

個別の現場に合わせた設備を対象とする「一般型」は第8回公募の申請を受け付けており、締切は2026年10月16日17時です。次の第9回の日程は未定です。

この記事を読む時点で締切を過ぎている場合は、公式サイトで次回以降の公募状況を確認してください。

税制では、経営力向上計画の認定を受けた中小企業が対象設備を取得した場合に、即時償却または税額控除を選べる中小企業経営強化税制があります。適用期限は2027年(令和9年)3月31日までです。

補助金は原則として後払いで、採択されるとは限りません。先ほどの計算は補助金なしで成り立つかを先に確かめ、補助金は上乗せとして見るのが安全です。制度の内容は変わることがあるため、申請の前に公式サイトで最新の情報を確認してください。

省人化でよくある失敗と見直し方

最後に、導入後に起きやすい失敗を挙げます。多くは、ここまでのステップのどこかを飛ばしたことが原因です。

ネックではない工程を速くした

ある工程だけが速くなると、その後ろに仕掛品がたまり、前の工程では手待ちが生まれます。工場全体の生産量は変わらず、置き場と運搬が増えるだけになります。ステップ3で、ネック工程かどうかを確認しておくことが予防になります。

品種の切り替えについていけない

導入時の品種では動いていたのに、新しい品種が増えるたびに設定変更が必要になり、やがて使われなくなる例があります。設定を変更できる人が社内にいるか、外部に頼む場合の費用と日数はどのくらいかを、導入前に確かめておきます。

止まったときに直せる人がいない

設備が止まるたびにメーカーを呼ぶ体制では、止まっている間は人が代わりに作業することになります。日常の点検と簡単な復旧を担当する人を決め、教育の時間を初期費用に入れておく必要があります。

効果を測っていない

導入して終わりにすると、次の投資の根拠が残りません。計算の前提にした作業時間と、導入後の実績を比べる時期を、あらかじめ決めておきます。

省力化投資促進プランは、取り組みの段階を、設備やITツールを導入した段階と、それに加えて業務の進め方まで変えた段階に分けて整理しています。

設備を生かしやすい配置への変更や、ライン全体の見直しまで進めた事例が、目標となる段階として示されています。

まとめ

この記事のまとめ
  • 最初に手をつけるのは、人の時間が多く、繰り返しが多く、条件が安定している作業
  • 工程ではなく作業の単位で時間を測り、搬送・検査・着脱・組立・段取り・間接作業に分類する
  • 効果の大きさとやりやすさの2軸で4つに振り分け、自動化の前にやめる・まとめるを検討する
  • 回収期間・投資利益率・正味現在価値を並べ、見込みが半分の場合も計算しておく
  • 1工程で試して数字を確かめ、浮いた時間の使い道と安全の確認を計画に入れて広げる

省人化は、設備を入れることよりも、どの作業に人の時間を使うかを決め直す取り組みです。対象工程の選定と設備の検討は生産技術が、投資の判断と人の配置は工場長・マネジメントが中心になって進めます。

関連する技術や事例は、人手不足・省人化のテーマページにまとめています。

まずは1つのラインで、1週間だけ作業ごとの時間を測ってみてください。感覚で「大変だ」と思っていた作業と、実際に時間がかかっている作業のずれが見えれば、どこから手をつけるかは決めやすくなります。

出典

出典・参考資料(10件)を開く出典・参考資料を閉じる

NEWSLETTER

選んだ職種・業種に合わせた記事を、週1回メールで

週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。

実際に届くメールの例を見る

件名:今週のあなた向け記事|週刊MONOSCOPE 10/9号
登録内容:生産技術 × 自動車・輸送機器

週刊MONOSCOPEの見本(生産技術 × 自動車・輸送機器)

職種3本・業種3本・製造業で働くすべての方へ2本・今週よく読まれた記事3本が届きます。記事は毎週入れ替わります。ほかの見本を見る

職種・業種を選んで登録へ ›

無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。

WEEKLY NEWS

今週の製造業ニュース10選

メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。

LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

▶ お仕事のご依頼はこちら

コメント

コメントする

目次