2026年10月8日、東京応化工業(TOK)は福島県の郡山工場で、半導体用フォトレジストの新しい製造棟が完成したと発表しました。投資額は約230億円で、同社は「フォトレジストとしては世界最大級」の製造棟と説明しており、2026年11月に稼働を始める予定です。
フォトレジストは、半導体の回路を光で焼き付けるときにウエハに塗る感光材料です。この記事の焦点は、新製造棟で何を作るのか、なぜ今この規模で増産するのか、半導体材料のサプライチェーンに何が起きるのか、の3点です。
発表の中身と公表されていない点、フォトレジストの基礎、増産の背景にある需要と会社の計画を整理します。続いて、郡山・熊本・韓国の拠点の役割分担、EUV向けレジストの開発状況、立場別に見た影響と確認ポイントの順に見ていきます。この記事の内容は、動画でも解説しています。
郡山工場の新製造棟|発表の中身

新製造棟が建ったのは、郡山市待池台にある既存の郡山工場の敷地内です。郡山工場は1994年から同社の主力生産拠点の一つで、EUV用やArF用といった最先端品を含む、各種の半導体用フォトレジストを製造しています。
建築面積は4,800㎡で、2024年7月に着工し、2026年10月8日に竣工しました。稼働開始は2026年11月の予定です。目的について同社は「製品のさらなる高品質化と供給能力の拡大」と説明しています。
先端フォトレジストを作る既存工場の敷地に、約230億円で新しい製造棟を建てました。
※出典:東京応化工業 ニュースリリース(2026年10月8日)、tok中期計画2027。「世界最大級」の比較基準は公表されていません。
もう一つの特徴が、製造ラインの自動化・デジタル化です。同社は新製造棟で「人に優しい」スマートファクトリーを実現し、高い安全性と生産効率を追求するとしています。
化学品の製造で自動化が効くのは、人の手作業が減るほど、仕込みや充填のばらつきと作業者の負担が同時に減るからです。溶剤を扱う現場では、重い容器の運搬や薬液に近づく作業を減らすことが安全面でも意味を持ちます。
データで工程を記録しておけば、品質に異常が出たときに原因をさかのぼりやすくなります。工場全体の考え方はスマートファクトリーの仕組みで詳しく扱っています。ただし、新製造棟にどんな設備が入るのかは、具体的には公表されていません。
郡山での投資はこれだけではありません。TOKは2026年3月、郡山市内の郡山西部第一工業団地に約9万㎡(90,794㎡)の土地を約15億円で取得しました。郡山市内で2か所目の工場用地で、半導体市場の将来の成長を見据えた長期的な基盤の確保が目的とされています。
発表で分かることと、まだ分からないこと
取引先や競合の立場で読むと、気になるのは「どれだけ供給が増えるのか」です。ところが、生産能力や製品ごとの生産配分、量産出荷が本格化する時期は、今回の発表には含まれていません。
「世界最大級」という表現も、床面積なのか生産能力なのか、比較の基準は示されていません。数字として確かなのは、投資額・建築面積・竣工日・稼働予定の4点です。読み違いを防ぐため、分かっていることとそうでないことを分けておきます。
数字で確かめられるのは投資額・面積・時期まで。供給量に関わる情報は未公表です。
発表で分かること
- 投資額 約230億円、建築面積4,800㎡
- 2026年10月8日竣工、11月稼働予定
- EUV用・ArF用を含む各種フォトレジストを製造
- 目的は高品質化と供給能力の拡大
- 自動化・デジタル化によるスマートファクトリー
まだ分からないこと
- 生産能力(年間の生産量)と増加率
- 製品・方式ごとの生産配分
- 量産出荷が本格化する時期
- 「世界最大級」の比較基準
- 導入する具体的な設備の内容
※2026年10月10日時点の公表情報で整理。決算説明会(2026年2月)では「27年から動き出せるように進めている」との説明がありました。
2026年2月の決算説明会では、郡山のフォトレジスト新工場は「27年から動き出せるように進めている」と説明されていました。
フォトレジストは顧客の半導体工場で評価を受けてから量産に使われるのが一般的なため、11月の稼働開始と、出荷が本格的に増える時期は分けて見ておくのが妥当です。
フォトレジストとは|回路を焼き付ける感光材料

フォトレジストは、半導体の前工程で使われる液状の感光材料です。ウエハの表面に薄く均一に塗り、回路の原版(フォトマスク)を通して光を当てると、当たった部分だけ性質が変わります。
現像液で不要な部分を溶かすと、回路の形をしたレジストの膜が残ります。この膜をマスク代わりにして下の膜を削り(エッチング)、最後にレジストをはがします。この塗布から剥離までの流れを、1枚のウエハで何度も繰り返して回路を積み上げるのが半導体の作り方です。
塗布から剥離までを何度も繰り返し、ウエハの上に回路を積み上げます。
※内閣府「日本経済2024-2025」の製造工程の概略をもとに作成。現像液やシンナーは、TOKが高純度化学薬品として供給しています。
レジストは、露光に使う光の種類ごとに専用品が必要です。光の波長が短いほど細かい回路を描けます。そのため露光装置はi線(365nm)、KrF(248nm)、ArF(193nm)、EUV(13.5nm)と世代を重ねてきました。郡山工場が手がけるEUV用とArF用は、このうち先端側の2つです。
波長が短いほど細かい回路を描けます。郡山工場は先端側のEUV用・ArF用も製造します。
※波長はASML、TOKの説明は同社決算説明会Q&A要旨(2026年2月)による。光源ごとに専用のレジストが必要です。
フォトレジストで競争力を左右するのは、品質の安定です。TOKは決算説明会で「フォトレジストは歩留まりが命」と述べています。ごく微量の異物や成分のばらつきが、顧客のウエハ上で不良として表れるため、製造時の清浄度や品質の管理がそのまま製品の価値になります。
品質を保つ仕事の全体像は品質保証・品質管理の役割で整理しています。フォトレジストは、TOKやJSRなど日本の化学メーカーが強みを持つ分野です。
国の「半導体・デジタル産業戦略」でも、半導体材料のチョークポイント技術(他国が代わりにくい技術)として強化の対象とされています。日本企業が首位を握る部材・装置は世界シェアトップの日本の製造業にまとめています。

なぜ今増産するのか|生成AIとHBMで需要が想定を上回る
増産の背景は、TOKの開示を「会社全体の業績」「中期経営計画の目標」「EUV用レジストの伸び」の3つに分けて見ると整理しやすくなります。それぞれ対象が違うため、混ぜずに読むことが大切です。
会社全体の業績|2年続けて大きく伸びる
2025年12月期の連結売上高は2,370億円(前期比17.9%増)、営業利益は473億円(同43.2%増)で、売上・利益とも過去最高でした。フォトレジストを含むエレクトロニクス機能材料が1,247億円、高純度化学薬品が1,094億円です。
2026年も勢いは続いています。上期(1〜6月)の売上高は1,396億円で前年同期比25.1%増、データセンター向けAIサーバーの需要拡大で半導体需要が前年を上回ったと説明されています。
通期の会社予想は売上高2,910億円、営業利益606億円(2026年7月30日修正)です。
2026年の会社予想は、2027年の中期計画目標にほぼ届く水準です。
※会社全体の連結売上高で、フォトレジスト単体の売上ではありません。出典:同社決算短信、tok中期計画2027。
中期経営計画|目標を1年で上方修正
TOKは「tok中期計画2027」(2025〜2027年度)の目標を、2026年2月に引き上げました。2027年12月期の売上高目標は当初の2,700億円から2,950億円へ、営業利益は480億円から580億円へ修正されています。
理由として挙げたのは、生成AI関連需要の増加で製品の販売が当初の予想を上回っていることと、想定より円安が続いていることの2点です。
同じ計画の中で、3年間で760億円の設備投資を予定しており、同社は過去最大規模と位置づけています。郡山の新製造棟は、その投資先として最初に挙げられている案件です。
EUV用レジスト|HBM向けで売上が本格化
2026年2月の決算説明会の要旨によると、EUV用レジストの売上は2025年後半から本格的に伸び、2025年は前年比50%増でした。生成AI向けの高速メモリであるHBM(広帯域メモリ)の量産が進み、DRAMメーカー向けの寄与が大きいとされています。
DRAMメーカーでは、一時あったEUVからArFへ戻す動きが減り、EUV露光装置を積極的に導入する流れがあるといいます。2026年のEUV用レジスト売上も前年比2桁%増の予想です。
ArFやKrF用のレジストもHBMを中心に安定して伸びています。先端品と既存品の両方で需要が積み上がっていることが、大型の製造棟を建てる判断につながったと読めます。
郡山・熊本・平澤|生産拠点の役割分担
2026年のTOKは、郡山のほかにも国内外で新しい拠点を立ち上げています。ただし郡山と他の2拠点では、作る製品も拠点の考え方も異なります。
中期経営計画では、生産体制を2つの型に分けています。フォトレジストなどのエレクトロニクス機能材料は「拠点集約型」、現像液やシンナーなどの高純度化学薬品は「地産地消型」です。
高度な品質管理が要るフォトレジストは大型拠点に集めて作り、使用量の多い薬液は顧客の工場の近くで作るという使い分けです。
郡山はフォトレジストの集約拠点。熊本と平澤は顧客の近くで薬液を作る拠点です。
拠点集約型
フォトレジストなどエレクトロニクス機能材料- 郡山工場 新製造棟(福島県)
- 約230億円。2026年10月竣工、11月稼働予定。EUV用・ArF用を含む各種フォトレジスト
- 郡山 2か所目の用地(福島県)
- 約9万㎡を約15億円で取得(2026年3月)。将来の成長に備えた用地
地産地消型
現像液・シンナーなど高純度化学薬品- 阿蘇くまもとサイト(熊本県菊池市)
- 約130億円。2026年6月稼働。九州の半導体生産拡大に対応
- 平澤工場(韓国京畿道)
- 約120億円。2026年9月竣工、2027年上期稼働予定。韓国でグループ初の高純度化学薬品拠点
※出典:同社ニュースリリース(2026年3月25日、6月8日、9月15日、10月8日)、tok中期計画2027。
熊本県菊池市の阿蘇くまもとサイト(約130億円)は2026年6月に稼働を始め、九州で増える半導体生産への薬液供給を担います。九州の半導体投資の動きはTSMC熊本第2工場の動向で扱っています。
韓国では子会社のTOK尖端材料が、京畿道平澤市に平澤工場(約120億円)を2026年9月15日に竣工しました。韓国で同社グループ初の高純度化学薬品の生産拠点で、稼働は2027年上期の予定です。
郡山の新製造棟は、この2拠点とは役割が異なり、世界に供給するフォトレジストの中核拠点を厚くする投資と位置づけられます。
EUVレジストの方式とTOKの開発状況

新製造棟は「EUV用を含む各種フォトレジスト」の製造棟であり、特定の方式の増産に特化したものとは発表されていません。そのうえで、EUV用レジストの技術がどう動いているかを押さえておくと、今後のニュースを読みやすくなります。
現在の主流は、化学増幅型レジスト(CAR)です。光で生じた酸が連鎖的に反応して感度を高める方式で、KrFやArFの世代から使われてきました。
これに対し、EUVの光をよく吸収する金属を含んだ金属酸化物レジスト(MOR)が、次の世代の候補として開発が進んでいます。JSRが2021年に買収した米Inpriaは、この分野の企業です。
主流の化学増幅型に加え、次の世代に向けて複数の方式の開発が進んでいます。
※TOKはネガ型のSMRも開発しています。出典:同社決算説明会Q&A要旨(2026年2月)、IM社との提携リリース(2026年2月24日)、国際協力銀行資料。
TOKは決算説明会で、ネガ型のSMRとポジ型のMORの両方に期待していると説明しました。MORで先行する他社はネガ型で、TOKはポジ型で異なる用途を狙っており、DRAMメーカーでの評価結果が良好だとしています。
2026年2月には、英国のIrresistible Materials(IM)への出資と共同開発も発表しました。
IMの「Multi-Trigger Resist(MTR)」は、従来のポリマー系と比べて分子サイズを最大10分の1にした低分子型のレジストです。CARやMORを補う技術と位置づけられています。
採用は「世代ごとの評価」で決まる
フォトレジストの採用は、顧客が新しい製造プロセスの世代ごとに複数社の材料を評価して決めます。TOKも、ある世代でシェアを取れなかった影響が2026年いっぱい続く一方、次の世代ではシェアを取れていると説明し、2026年を「我慢の年」と表現しました。
最先端の世代の材料選定は最終段階にあり、2026年の1年をかけてプロセスへの適用評価を進めるとしています。製造棟の能力が増えても、採用が決まるまでは売上に直結しない点が、材料ビジネスの特徴です。
国内で進む最先端ロジックの量産計画はラピダス2nm量産と国内サプライヤーでまとめています。
立場別に見る影響と確認ポイント

最後に、新製造棟の稼働で何が変わり、何をこれから確認すべきかを立場別に整理します。発表で確認できる事実と、今後の注目点は分けて扱います。
半導体メーカーの購買・調達担当
先端レジストの国内供給拠点が大きくなることは、供給の安定にはプラスです。一方で、供給能力が増えることと、自社の調達が安定することは別の話です。
品目ごとの供給元がどの工場か、災害時に代わりの工場や在庫があるかは、取引先への確認事項として残ります。新しい製造棟の品を使うときに、追加の評価や手続きが要るかどうかも確認しておきたい点です。
原料・設備・物流の取引先
フォトレジストは、樹脂や感光剤、溶剤などの原料を配合して作られます。製造棟が稼働すれば、原料や容器、物流、設備保守の需要が郡山周辺で増える可能性があります。具体的な取引の増え方は公表されていないため、TOKの調達方針や地元での募集情報を見ていくことになります。
中国の国産化という変数
TOKは決算説明会で、i線レジストでは中国勢が技術力をつけ、KrFレジストの開発にも挑戦しているとの見方を示しました。
中国メーカーのKrF・ArFレジストの技術はまだ追いついていないともしており、品質管理と技術の深さで差をつける方針です。新製造棟が掲げる「世界最高品質」は、この競争への答えでもあります。
就職・転職を考える人
郡山工場の従業員は248名(2025年12月末)です。新製造棟の稼働や2か所目の用地取得で、生産技術、設備保全、品質保証、製造オペレーションなどの人材が必要になる場面は増えると考えられます。
採用の規模は公表されていないため、同社の採用情報で確認するのが確実です。化学メーカーの中での位置づけは化学メーカーの売上高ランキングも参考になります。
確認できる事実と、これから確かめたい点を分けて整理します。
確認:品目ごとの製造工場、災害時の代替生産と在庫、新製造棟品への切り替え時の評価の要否
確認:原料・容器・物流・保守の調達方針と、地元での募集情報
確認:最先端世代での採用評価の結果(同社は年末までの判明を示唆)
確認:生産技術・設備保全・品質保証などの募集を同社採用情報で確認
※生産能力や採用規模は公表されていないため、影響の大きさは断定できません。

まとめ
- 東京応化は郡山工場に約230億円でフォトレジストの新製造棟を建て、2026年11月に稼働を始める
- EUV用・ArF用を含む先端レジストを作る拠点で、自動化・デジタル化を進めたスマートファクトリーとする
- 生産能力や品目別の配分、出荷が本格化する時期は公表されていない
- 背景には生成AI・HBM向けの需要増があり、中期計画の目標も2,950億円へ引き上げられた
- EUV用レジストは方式の競争と世代ごとの採用評価が続き、能力増がそのまま売上になるわけではない
フォトレジストの新製造棟は、半導体の需要が材料メーカーの設備投資にまで広がっていることを示す動きです。取引先として関わるなら購買・調達や生産技術の仕事、技術テーマとしては半導体製造の記事がつながります。
半導体材料や装置の企業をさらに知りたい方は、電子部品・半導体の業種ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(12件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 郡山工場の新製造棟:東京応化工業「郡山工場における新製造棟の竣工に関するお知らせ」(2026年10月8日)
- 郡山市の工場用地取得:東京応化工業「福島県郡山市における工場用地取得のお知らせ」(2026年3月25日)
- 平澤工場:東京応化工業「韓国子会社における平澤工場の竣工に関するお知らせ」(2026年9月15日)
- 阿蘇くまもとサイト:東京応化工業「阿蘇工場 阿蘇くまもとサイトの稼働開始に関するお知らせ」(2026年6月8日)
- 中期経営計画:東京応化工業「tok中期計画2027」(2026年2月9日見直し)、同「tok中期計画2027の見直しに関するお知らせ」
- 業績:東京応化工業「2025年12月期 決算短信」、同「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信」
- EUV用レジストの動向・中国の国産化:東京応化工業「2025年12月期決算説明会 Q&A要旨」(2026年2月9日)
- IM社との提携:東京応化工業「Irresistible Materials社と東京応化工業 戦略的投資および共同開発パートナーシップを発表」(2026年2月24日)
- 前工程の流れ:内閣府「日本経済2024-2025」第1章
- JSRのInpria買収:国際協力銀行 資料(2023年2月)
- 露光光源の波長:ASML “Light and lasers”
- 平澤工場の報道:MONOist(2026年10月7日)
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