株式を上場していない造船専業の会社が、1年で6,005億円を売り上げており、これは愛媛県今治市に本社を置く今治造船の、2025年度の数字です。
今治造船は、ばら積み船やコンテナ船などの商船を国内13の造船所で建造する、国内首位の造船グループです。何を造って誰に売り、なぜ国内で最も多くの船を造れるのかを、公開情報から読み解きます。
強みは、標準船型の連続建造、13造船所での分担、省エネと新燃料の設計力、船主や地域とのつながりの4つに整理できます。
今治造船はどんな会社か
今治造船は、船を造って売ることを本業にする造船専業の会社です。1901年に今治で創業し、1942年に今治市と越智郡の造船所を統合して今治造船株式会社になりました。
株式は上場しておらず、社長は檜垣幸人氏で、経営理念に「船主と共に伸びる」を掲げています。本社の今治工場のほか、香川県丸亀市、愛媛県西条市、広島県三原市に大きな工場を持ちます。
非上場の造船専業ながら、売上高は6,000億円を超えます。
※売上高・竣工・受注・社員数は2026年7月の定例記者会見、そのほかは同社サイトの会社情報によります。
「国内首位」は何の首位か
「国内最大手」と呼ぶときの指標は1つではありません。公開情報で確認できるのは次の3つです。
- 新造船の建造シェア:国内1位・世界6位(IHS統計調査2023年、同社の採用情報)
- 2025年度の竣工:68隻・376万総トン(同社の2026年定例記者会見)
- JMUを子会社にした後:日本の建造シェアの過半を担う体制(同)
国内の建造量は2024年で約900万総トンでした(国土交通省「造船業再生ロードマップ」)。年度の区切りは違いますが、1社で国内建造量の大きな割合を占めていることが分かります。
三菱重工業や川崎重工業など同業との比べ方は、航空宇宙・造船業界の主要企業と勢力図で売上規模ごとに並べています。
売上高は2025年3月期が4,646億円、2025年度(2026年3月期)が6,005億円で、大型コンテナ船の竣工が始まったことと円安で、前年より29%増えました。利益の額は公表されていませんが、会見では、資材や人件費の上昇がありながら「前年並み」を確保したと説明しています。
何を造って誰に売っているか

今治造船が造るのは、貨物を運ぶ商船です。同社サイトでは、ばら積み運搬船、コンテナ運搬船、タンカー、チップ運搬船、特殊貨物船、カーフェリー、自動車運搬船の7種類を紹介しています。
隻数ではばら積み船が約3分の2を占めます。
※合計68隻・376万総トン(今治造船 2026年定例記者会見)。隻数の比較のため、1隻あたりの大きさや売上への寄与は反映していません。
主力はばら積み船、大型コンテナ船が売上を押し上げる
ばら積み船は、鉄鉱石や石炭、穀物を袋に詰めずにそのまま運ぶ船で、2025年度の竣工68隻のうち45隻を占め、隻数で見ると全体の約3分の2になります。
船型は2万7,000トン型から24万1,000トン型の鉱石船まで13種類あり、2026年の竣工ニュースにも、6万4,000トン型と4万トン型が数多く並びます。コンテナ船は11隻ですが、1隻ごとの規模が大きい船種です。
2023年に24,000個積みの「ONE INFINITY」を建造し、2024年には最多コンテナ積載本数でギネス世界記録に認定されました。同社は、2025年度の増収の理由に大型コンテナ船の竣工開始を挙げていて、隻数の内訳と売上の内訳は一致しない点に注意が必要です。
自動車運搬船では、LNG(液化天然ガス)を燃料にする船の建造が続いています。2026年7月に引き渡した「SAPPHIRE ACE」は7,000台積みで、丸亀事業本部で建造されました。
顧客は船主、受注から引き渡しまで3〜4年
船を買うのは、船を保有して海運会社に貸し出す船主や、海運会社そのものです。会見では欧州の船主を訪ね、船価は他国より高いものの品質と実際の海での性能を評価されたと説明しています。
造船は、注文を受けてから設計と建造に入る受注生産で、国交省のロードマップによると、受注から竣工まで3〜4年かかり、船価の約7割を材料費が占めます。
船は注文を受けてから造る受注生産で、引き渡しまで3〜4年かかります。
※受注から竣工までの期間と、船価の約7割が材料費という点は、国土交通省「造船業再生ロードマップ」によります。
2025年度の受注は81隻・406万総トンで、同社は約4年分の工事量を確保したとしています。受注残が厚いほど工場の稼働は安定しますが、受注後の資材高は利益を圧迫します。造船業界の企業の種類や仕事の流れは、航空宇宙・造船業界とはでまとめています。
今治造船の強み
公開情報から読み取れる強みは、次の4つです。根拠となる事実と、そこから言えることを分けて見ます。
それぞれに、確認できる根拠を添えています。
※シリーズ実績・技術は同社サイト(沿革・技術開発の取り組み)、新燃料船は2026年定例記者会見によります。
標準船型を連続で造る
今治造船は、同じ設計の船をシリーズで繰り返し建造してきており、28BCシリーズは2012年に200隻、61BC・63BCの「I-STAR」シリーズは2019年に200隻に達しています。
同じ船型を続けて造れば、図面や治具、材料の手配を使い回せます。作業者も手順に慣れるため、工期とコストの見通しを立てやすくなるのが一般的な利点です。一方で、標準船型は船主ごとの細かな仕様の違いを吸収しにくい面もあり、個別の仕様にどこまで応じるかは公表されていません。
13の造船所で仕事を分担する
工場の規模は大きく異なり、丸亀事業本部は敷地約75万㎡、西条工場は約68.5万㎡で800トンクレーン3基を備え、本社の今治工場は約14.5万㎡です。
規模の違う工場を持つことで、小型から超大型まで幅広い船型を国内で引き受けられますが、どの工場にどの船を割り振るかの方針は公開されていません。
省エネと新燃料の設計力
同社の「エアロ・シタデル」は、居住区と煙突まわりを一体の流線形にした上部構造です。風洞実験で風圧抵抗を25〜30%減らし、18万トン級のばら積み船が向かい風を受ける条件で、燃料を約2%減らせると試算しています。
燃料の転換にも取り組んでおり、LNG燃料の自動車運搬船と大型ばら積み船を連続で建造し、2026年はメタノール燃料の大型コンテナ船などに挑むと会見で述べました。
ただし、新燃料船の商談は国際ルールの行方に左右されます。2026年5月の国際会議(MEPC84)で温室効果ガス削減規則の採択が延期され、新燃料を求める商談は進んでいないと同社は説明しています。
船主と地域とのつながり
経営理念「船主と共に伸びる」のとおり、同社は船主を軸に事業を組み立ててきて、2009年からは、今治で国際海事展「バリシップ」を開いています。
今治の周辺は、造船所や舶用メーカーが集まる地域で、今治地域造船技術センターには50社以上が会員として加わり、会長は今治造船の今治工場長が務めます。
13造船所のグループ建造体制

13の造船所は、本社と自社の3工場、系列の造船会社、2026年1月に子会社にしたJMUの3層からなります。
会社の区分で見ると、造船所は3つの層に分かれます。
※同社は「国内13の造船所」で建造すると説明しています。報道では、今治造船グループの10か所とJMUの3か所を合わせた数とされています。
自社4工場の役割
同社サイトでは、自社工場ごとに主な建造船を示しています。
- 今治工場(愛媛県今治市):ばら積み船、コンテナ船、カーフェリーなど
- 丸亀事業本部(香川県丸亀市):コンテナ船、油槽船、ばら積み船、自動車運搬船など
- 西条工場(愛媛県西条市):800トンクレーン3基を備える大型工場
- 広島工場(広島県三原市):LNG運搬船など
丸亀事業本部には2017年に新ドックが完成しました。同じ年、同社は世界最大級の20,000個積みコンテナ船の第1船「MOL TRUTH」を建造しています。
系列化で広げた造船所
今治造船は、1979年の今井造船・西造船を皮切りに、周辺の造船所を系列に加えてきました。2014年には幸陽船渠を統合して広島工場とし、2015年に多度津造船、2018年に南日本造船を系列化しています。
船は、鋼板を切って曲げ、ブロックと呼ぶ大きな部品に組んでから、ドックで1隻にまとめます。ブロック工場への投資の考え方は、三菱重工の下関ブロック工場の記事が参考になります。ブロックを組む工程の中心は溶接で、現場で使う方式の違いは、溶接の種類と違いで比べています。
再編と投資で変わる建造体制

2025年から2026年にかけて、今治造船は船を造る会社とエンジンを造る会社をグループに取り込みました。国が進める造船業の再生策とも重なる動きです。
JMUとエンジン会社の両方で、出資比率が60%になりました。
※出資比率は3社の発表(2025年6月)、今治造船ニュース(2026年2月・4月)、JMUの発表(2026年1月)によります。
JMU子会社化と日本シップヤード
JMU(ジャパン マリンユナイテッド)は、JFEとIHIの造船事業をルーツに持つ造船会社です。2021年1月、今治造船とJMUは資本業務提携を結び、商船の営業と設計を担う合弁会社「日本シップヤード」を立ち上げました。
2025年6月、今治造船はJFEホールディングスとIHIからJMU株を買い増すことで合意し、出資比率は30%から60%になって、2026年1月に子会社化しています。公正取引委員会は2025年11月にこの統合を承認しました。
今治造船が、JMUを通じて他社の秘密情報に触れないための措置を申し出たことが承認の理由です。JMUの2024年度の売上高は3,004億円です。2025年度の受注は21隻・183万総トンで、コンテナ船や大型タンカーなど幅広い船型を含みます。
エンジンまでグループに
2026年3月末には、日立造船マリンエンジンへの出資を35%から60%に引き上げ、子会社にしました。同社は船の主機関(メインエンジン)を造る会社で、2023年にカナデビア(旧日立造船)の舶用エンジン事業を引き継いでいます。
狙いは、エンジンの安定供給、資材の調達力、脱炭素に向けた開発の強化で、船体だけでなく心臓部のエンジンまでグループで手当てできる体制になりました。
増産投資と造船業再生基金
国は2025年12月に造船業再生ロードマップをまとめ、2035年に国内建造量を年1,800万総トンへ増やす目標を掲げたもので、前述の2024年の実績から倍増させる計画です。
2026年9月の造船業再生基金の初回認定では、今治造船・多度津造船・スチールハブの計画に最大約1,138億円の助成が決まりました。
社内の投資も進んでおり、西多度津事業部では艤装用のプラットホームと燃料タンクの生産設備を2028年度中に整える予定で、2026年度は丸亀工場の自動溶接設備を更新します。国の投資の枠組みや再編の全体像は、日本の造船業再生の計画で詳しく扱っています。

次世代燃料船と研究開発
液化CO2を運ぶ船の開発も始まり、株式会社MILESに邦船3社、JMU、日本シップヤードが出資し、船型の開発に取り組んでいます。
大学との連携も広げており、2025年にJMUとともに大阪大学の「阪大OCEANS」に参画し、2026年4月には愛媛大学工学部に海事産業特別コースが開設されました。
工場の電力でも新しい試みがあり、西条工場の敷地では、四国電力・パワーエックスと組んだ蓄電池(容量4.9MWh)が2026年4月に運用を始めました。
ここ数年で、再編と投資の動きが集中しています。
- 1901年今治で創業
- 1942年今治市と越智郡の造船所を統合し、今治造船を設立
- 1970年丸亀工場の建設に着手
- 1993年西条工場の建設に着手
- 2014年幸陽船渠を統合し広島工場に。資本金300億円に
- 2017年丸亀に新ドック。20,000個積みコンテナ船の第1船
- 2021年JMUと合弁で日本シップヤードを設立
- 2023年24,000個積みコンテナ船「ONE INFINITY」を建造
- 2025年累計建造3,000隻を達成
- 2026年1月JMUを子会社化
- 2026年3〜4月日立造船マリンエンジンを子会社化(3月末)。西条で蓄電池の運用開始(4月)
- 2026年9月造船業再生基金で最大約1,138億円の助成が決定(多度津造船・スチールハブと共同)
- 2028年度西多度津の艤装用プラットホーム・燃料タンク生産設備の完了目標
※同社サイトの沿革・ニュース、2026年定例記者会見、国土交通省の発表(2026年9月4日)によります。塗りつぶしの点は2026年以降です。
働く場として見た今治造船

就職・転職を考える人向けに、公開されている働き方のデータを見ます。2026年7月時点の社員は2,026名、2026年度の新入社員は91名で、2027年度も約100名を採用する予定です。
グループ全体では、構内で働く協力会社の作業者を含めて約15,000名が働いています(採用媒体の会社概要)。
男性の育児休業は、対象者の10人に4人ほどが取得しています。
男性の育児休業取得率44.8%(2024年度、対象58名中26名)
※育休・勤続・所定外労働は同社の採用媒体の会社概要(マイナビ2027)、平均年齢と新入社員数は2026年定例記者会見によります。
職場の多くは、今治・丸亀・西条・広島の瀬戸内の工場で、ほかに東京支社と、日本シップヤードの横浜オフィスがあります。現場の環境づくりでは、クラボウなど3社と、火気作業と酷暑の両方に対応する難燃・冷感のインナーウェアを共同開発しました。
新人教育には地域の仕組みも使っており、2026年4月から、今治市内15社の新入社員97名が約2か月半、造船の基本技術を学び、溶接などの資格取得をめざします。
取引先として見た今治造船
船1隻には、鋼材や塗料、エンジン、プロペラ、配管、電気機器など多くの部品が使われます。国交省のロードマップでは、日本の造船所はほぼすべての部品を国内で調達しているとされています。
今治造船は2025年度に68隻を竣工させ、同じ船型を繰り返し造るため、同じ仕様の部品を継続して納める取引が生まれやすい構造です。
投資の中身も取引の手がかりになり、造船業再生基金の補助対象の例には、自動溶接ロボット、無人の切断機、大型ブロックに対応したクレーンなどが挙がっています。一方、エンジンは日立造船マリンエンジンを子会社にしたため、グループ内での調達が増える可能性があります。
業界全体の課題は、取引先にも響き、会見では、人手不足や資材の値上げに加え、ホルムズ海峡の封鎖問題によるシンナーの供給不足が挙げられました。海外との競争も激しさを増しており、2024年には世界の新造船受注の7割超を中国が占め、日本は8%でした(国交省資料)。
素材から部品、完成した船までのつながりは、航空宇宙・造船業界の構造で図にしています。
まとめ
- 今治造船は1901年創業の造船専業で、2025年度の売上高は6,005億円、竣工は68隻・376万総トン
- 船種はばら積み船が隻数の約3分の2。売上の伸びは大型コンテナ船の竣工が支えた
- 強みは標準船型の連続建造、13造船所の分担、省エネと新燃料の設計力、船主と地域とのつながり
- 2026年にJMUと日立造船マリンエンジンを子会社化し、船体からエンジンまでの体制を整えた
- 国の造船業再生基金で最大約1,138億円の助成が決まり、自動化と増産の投資が続く
今治造船の動きは、日本の造船業全体の行方と重なります。業界の数字は航空宇宙・造船業界の市場規模と動向、船の材料である鋼材の流れは鉄鋼・非鉄金属業界の構造もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(15件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 会社概要・工場・グループ会社:今治造船「会社概要」、「会社情報」
- 沿革・シリーズ実績:今治造船「会社沿革」、「社長あいさつ」
- 売上高・竣工・受注・人員・投資:今治造船「2026年 定例記者会見の概要」(2026年7月24日)
- 建造シェア・従業員・働き方データ:マイナビ2027「今治造船(株)会社概要」
- 船種・技術:今治造船「ばら積み運搬船」、「技術開発の取り組み」、「SAPPHIRE ACE」竣工(2026年8月1日)
- 日立造船マリンエンジン:今治造船ニュース(2026年2月5日)、(2026年4月1日)
- JMU株式の取得合意:日本M&Aセンター M&Aニュース(2025年6月26日)
- JMUの株主・売上高:LNEWS(2026年1月7日、JMUの発表)
- 公正取引委員会の承認:共同通信配信「造船トップ、2位連合子会社化へ」(2025年11月18日)
- 13造船所の内訳:乗りものニュース(2026年1月8日)
- 日本シップヤード:日本シップヤード「会社概要」
- 造船業再生ロードマップ:国土交通省 報道発表(2025年12月26日)、ロードマップ本体(PDF)
- 造船業再生基金の初回認定・補助対象例:国土交通省 報道発表(2026年9月4日)、「造船業再生基金事業」概要(PDF)
- 世界の受注シェア:国土交通省 海事局資料(2026年1月)
- 造船技術センター・蓄電池・作業服:今治造船ニュース(2026年4月16日)、(2026年4月1日)、(2026年6月11日)
NEWSLETTER
選んだ職種・業種に合わせた記事を、週1回メールで
週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。
職種・業種を選んで登録へ ›無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。
WEEKLY NEWS
今週の製造業ニュース10選
メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。
LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›

コメント