HART通信とは?4-20mAへの重畳・仕組みとメリット、通信できない原因

計装保全用の携帯通信端末とケースの外観を表す生成イメージ

従来の有線HART通信は、4-20mA信号にデジタル通信を重ねる技術です。圧力や温度などの測定値を電流で伝えながら、同じ配線を使って、機器の設定や状態を読み出せます。

例えば、制御装置は4-20mAを使って運転を続け、保全用の端末はHARTでタグや測定範囲、診断情報を照会します。既存のアナログ計装を生かしながら、現場機器の持つ情報へアクセスできる点が特徴です。

この記事では、従来の有線HARTを中心に、信号の仕組み、メリットと制約、通信できないときの確認点を整理します。通信抵抗や電源の余裕も、数値を入れて見ていきましょう。

動画を見る際は、周波数と通信速度を区別しましょう。有線FSKは1200Hzと2200Hzを使い、通信速度は1200bit/sです。1200~2200bit/sという速度の幅を表してはいません。

目次

HART通信はフィールドバスのひとつ

産業設備では、圧力・温度伝送器などの現場機器と、制御・監視システムが情報を交換します。こうした現場通信を広義のフィールドバスと呼ぶとき、HARTもその一つに含めます。

HARTの特徴は、アナログ信号とデジタル通信を併用することです。すべての情報をデジタルで伝えるFOUNDATION Fieldbusなどとは、信号の扱いとシステム構成を分けて考えます。

従来の4-20mA入力だけでも、制御装置は電流から測定値を読み取れます。一方、HARTを利用するには、機器だけでなく、通信機能を持つ入出力装置やモデム、保全用ホストなどが必要です。

DCSの制御・監視機能と、機器の設定や状態を管理する機能は、同じシステムで統合する場合も、別の保全用システムで扱う場合もあります。情報の使い道によって、必要な接続機器が変わります。

HARTと、DI・DOなどの入出力信号は分類の意味が異なります。HARTは機器と情報を交換する通信の約束です。デジタル信号に項目や値を載せ、接点のON・OFFより多くの情報を扱います。

HART通信とは

HARTはHighway Addressable Remote Transducerの略です。Rosemountが開発した技術に由来し、複数メーカーで使われるオープン規格で、現在はFieldComm Groupが仕様管理や機器登録を担います。

代表的な使い方は、4-20mAの電流ループへ交流の通信成分を重ねる構成です。測定値を表す直流成分と、デジタル情報を表す交流成分が同じ線を流れます。通信中もアナログ値は電流の直流成分で伝わります。

例えば、圧力伝送器が12mAを出力している間にも、端末から測定範囲や機器状態を問い合わせられます。4-20mAが持つ役割は、電流信号の仕組みと使う理由と合わせて読むと理解しやすくなります。

図1:電流ループに対し、HART端末は指定箇所へ並列につなぐ

2線式伝送器と250Ωの受信負荷を使う一例です。端末は電流計のようにループへ直列に入れるものではありません。

+−直流電源(例24V)2線式伝送器+−直流4-20mA + HART交流成分受信負荷 250Ω−+制御側AI負荷の電圧を受信HART端末負荷抵抗が入力機器などに内蔵される構成もある

極性は図の電流方向に合わせた表示です。保護機器・シールド・接地は省略。実際の接続点と必要な負荷は、機器の取扱説明書とループ図で決まります。

図の端末は機器へ要求を送り、ループ上の通信信号から応答を読みます。専用の携帯端末のほか、モデムを介したパソコンや、HART対応の入出力機器を使う構成があります。

通信の基本は、ホストが要求し、現場機器が応答するやり取りです。ホストの読出し命令に対し、機器は測定値や設定、状態を返します。このやり取りで双方向に情報を交換できます。

プロセス配管に取り付けた圧力伝送器の外観を表す生成イメージ
配管に設置された伝送器の外観イメージ。HART対応や内部構造を示す実機写真ではなく、生成画像です。

1200Hz・2200Hzと、1200bit/sの違い

従来の有線HARTは、Bell 202に基づくFSKという変調方式を使います。FSKは周波数偏移変調のことで、1200Hzを「1」、2200Hzを「0」として、デジタル情報を交流波形へ載せます。

Hzは波が1秒間に繰り返す回数で、bit/sは1秒間に伝えるビット数です。有線FSKの通信速度は1200bit/sです。周波数と通信速度は、数値が似ていても異なる量を表します。

図2:平均の電流値と、データを表す交流の周波数を分ける

上は直流成分に小さな交流を重ねたイメージ、下は同じ2.5msに含まれる波の回数を比較しています。

測定値を伝える平均の電流例12mA交流成分は直流平均を変えない。上の振幅・時間軸は模式表示。FSKの搬送周波数を、同じ時間幅で比較1:1200Hz3周期0:2200Hz5.5周期比較する時間幅 2.5ms(ビット区間の図ではない)

1200Hz×0.0025s=3周期、2200Hz×0.0025s=5.5周期。通信速度1200bit/sとは別の量です。

通信の交流成分は直流の平均を変えないように重ねられるため、従来の電流信号と併用できます。受信側は、測定用の直流成分と通信の交流成分を、それぞれの回路で受け取ります。

HARTの読出しと、電流から測定値への換算は別々に確認します。アナログ入力の設定と伝送器の測定範囲が異なれば、電流が正常でも、画面の値はずれて表示されます。

HART通信のメリット

メリットは、既存の4-20mAループを利用しながら、電流値だけでは届かない機器情報を扱えることです。測定範囲、単位、タグ、機器の状態などを、保全用端末からまとめて確認できます。

ダブルエレメントの温度センサーのように、複数の素子を持つ構成でも、素子数と電流出力数は別です。HARTで読める変数や診断情報は、伝送器の入力構成と対応する機能で決まります。

図3:電流で使う測定値と、通信で読む機器情報は役割が違う

HART対応機器が持つ情報を、ホスト側でも扱える構成にすることが大切です。

比較する点従来の4-20mA受信HARTで追加して扱う情報の例
基本の測定値電流を設定範囲へ換算デジタル値・単位・状態を照会
機器の識別図面・端子番号・現場表示と照合タグ・型式識別・シリアル番号など
測定範囲受信側設定と現場設定を個別確認対応機器の下限値・上限値を読出し
保守の手掛かり電流の異常と現場点検機器状態・追加測定値・診断情報
必要な受信機能アナログ入力対応ホスト・通信経路・機器定義情報

表の情報をすべての機器が同じ内容で提供するわけではありません。機種・レビジョン・ホストの対応範囲に合わせて利用します。

立上げ時には、現場の機器タグと設計上の測定点を照合し、単位と測定範囲を確認します。対応ツールで設定を読み出して一覧化すると、手作業で集める手間を減らせます。

具体例として、伝送器の設定を0~1MPa、出力を4~20mAとします。圧力0.5MPaに対して12mAを出していても、受信側だけ0~2MPaに設定されていれば、表示は1MPaになります。

この場合、電流そのものは伝送器の設定どおりです。HARTで機器の範囲とデジタル値を読み、受信側の換算範囲と比べます。設定の違いを調べれば、表示がずれる原因を切り分けられます。

測定範囲の確認では、連成計の目盛りや圧力の基準も手掛かりになります。現場の圧力計と伝送器・画面を比べるときは、数値だけでなく、単位とゲージ圧・絶対圧などの測定基準をそろえます。

運転中の保守でも、機器状態の変化を手掛かりに、現場点検の優先順位を付けます。通信で得た診断情報を、プロセスの状態や他の測定値と合わせて評価すると、故障箇所の調査に役立ちます。

共通の通信規格は、複数メーカーの機器を扱う基盤になります。海外の設備へ展開する場合も、対応機器やホスト、必要な機器定義ファイルを照合する手順を共通化しやすくなります。

一方、測定範囲の設定変更と、基準器を使う校正は別の作業です。HARTによる設定の読出しや変更に加え、センサーの精度確認や測定系の点検が必要です。

HART通信のデメリット

従来の有線FSKは1200bit/sで、画像や大量の波形データを送るような用途には向きません。複数機器から多くの項目を順番に読むと、通信の待ち時間も積み重なります。

読出しにかかる時間は、通信速度以外の条件にも左右されます。要求と応答には、測定値以外の情報も含まれます。命令の種類、ホストのスキャン、機器の応答が全体の更新周期に関係します。

そのため、制御に使う4-20mAの経路と、保全用に読むHART情報の更新を分けて設計します。デジタル値を制御へ使う計画では、必要な周期と実際の更新性能を照合し、ホストへの取込み方も選びます。

通信経路への対応も必要で、アナログ値が正常に届く回路でもHARTが通らない場合があります。途中にある信号変換器やアイソレータ、バリア、フィルタなどが、通信成分をどう扱うかが関係します。

アイソレータによる信号絶縁を使う場合は、4-20mAの精度だけでなくHARTの双方向中継への対応を見ます。直流値を正しく再出力する機器でも、交流の通信成分を同じように通すとは限りません。

機器の詳しい機能を扱うには、ホスト側の対応が必要です。基本測定値の読出しと、詳細な診断・設定では必要な機能が異なります。使いたい項目に合わせ、ソフトや機器定義情報をそろえます。

通信抵抗と電源余裕を計算する

HARTのループでは、機器の取扱説明書に通信のための負荷条件が示されます。代表的な構成では250Ωなどの抵抗が使われ、受信入力や電源装置へ内蔵されている場合もあります。

既存負荷を調べずに抵抗を足すと、余分な電圧降下が生じます。まず既存負荷の位置を調べ、機器の通信条件と電源の供給能力を照合します。

図4:250Ωの電圧換算と、伝送器に残る電圧を解く

以下の電圧収支は説明用の仮定です。24V電源、受信抵抗250Ω、往復配線抵抗50Ω、中継部の電圧降下2Vを置きます。

抵抗の両端電圧
VR = I × R
0.004 × 250 = 1 V
0.020 × 250 = 5 V
20mA時の配線による電圧降下
V線 = I × R線
0.020 × 50 = 1 V
伝送器へ残る電圧
VTX = VS − VR − V線 − V中継
24 − 5 − 1 − 2 = 16 V
仮に最小動作電圧12Vを要する伝送器なら
16 − 12 = 4 Vの余裕
I:ループ電流[A]、R:受信抵抗[Ω]、R線:往復配線抵抗[Ω]、VS:供給電圧、VTX:伝送器端子電圧[V]。中継2V・最小動作12Vは仮定であり、共通の機器仕様ではありません。

実機では電源下限、最大使用電流・警報電流、各中継器の仕様を用います。負荷条件と電圧条件は別々に満たす必要があります。

250Ωに4~20mAを流すと1~5Vになり、アナログ受信にも利用できます。受信方式は電流入力と電圧入力の違いで、具体的な接続例は4-20mAを1-5Vとして入力する方法で整理しています。

上の例では20mA時に16Vが伝送器へ残り、必要電圧を仮に12Vとすれば4Vの余裕があります。同じ機器構成でも、電源が低くなったりケーブルが長くなったりすると、この余裕は小さくなります。

警報時の電流も使う機器では、その電流で電圧降下を計算します。例えば同じ仮定で22mAを流せば、抵抗の降下5.5V、配線1.1Vとなり、伝送器へ残る電圧は15.4Vです。

この22mAは計算例として置いた値で、すべての機器に共通する警報電流ではありません。機器仕様の最大電流で計算すれば、通常の測定範囲では見えない電圧不足を調べられます。

通信抵抗は、電流信号を電圧として取り出す働きと、通信経路のインピーダンスに関係します。抵抗値だけで通信品質が決まるわけではなく、ケーブルや接続機器を含めたループの条件を合わせます。

1台接続とマルチドロップの違い

一般的なpoint-to-pointでは、一つの電流ループへ一台の伝送器を接続し、4-20mAで主な測定値を伝えます。HARTを使えば、その機器のデジタル値や設定情報を同じ線から読み出せます。

マルチドロップは、複数の機器を共通の配線へ接続し、アドレスで識別して通信する構成です。電流固定モードを使う構成では、各機器の測定値はデジタルで読み、合計の電流値から個々の測定値を求めません。

図5:複数機器の電流を合計しても、それぞれの測定値にはならない

下側は各機器を4mA固定に設定した仮想例です。接続台数やアドレスの範囲は、HARTの版と機器仕様によって異なります。

Point-to-point:1台の測定値を電流でも伝える伝送器1台測定値に応じた出力ホスト・電源側4-20mA + HART電流で主変数、通信で追加情報Multidrop:機器を識別し、デジタルで測定値を読む機器A4mA固定機器B4mA固定機器C4mA固定ホスト・電源側A/B/Cを順に識別例:合計12mAでも、A・B・Cの測定値を表してはいない

電源・通信インターフェース・負荷はホスト側へまとめて模式化しています。上段は1ループ、下段は同じ二線へ機器を並列接続した構成です。

既存のアナログ入力を使う場合と、複数機器をデジタルで読む場合では、接続方式と設定が異なります。アドレスだけでなく電流出力モードも照合し、測定値をどの経路で読むかを決めます。

電流固定のマルチドロップでも、電源設計は必要です。接続機器の電流が共通の負荷へ合計して流れるため、必要な供給電圧や電流容量を、接続する機器の構成で評価します。

HARTの技術にはWirelessHARTやHART-IPなど、異なる伝送路を使うものもあります。有線Bell 202の周波数と速度は、無線やEthernetの物理的な通信には当てはまりません。

通信できないときの切り分け方

最初に、機器へ必要な電源が届き、アナログの電流が想定どおり出ているかを確認します。ループ図から電源・受信負荷・中継器・配線の経路をたどり、図4のように電圧収支を整理します。

次に、端末の接続点と通信負荷を、取扱説明書の条件へ照らします。端末は指定箇所へ並列につなぎます。電流計のように直列に挿入すると、ループ回路を変えてしまいます。

途中の機器では、HART対応の表示と、通信の方向を見ます。片側では機器を読めても、アイソレータの反対側から読めない場合は、中継機能や接続する側が手掛かりになります。

配線では、接触不良や誤結線に加え、周囲の電気的な影響も調べます。シールド線の役割を整理し、接地やケーブルの扱いは、その設備と機器の配線仕様に合わせます。

通信が成立しても特定の設定項目が出ない場合は、機器とホストの対応情報を調べます。DD・DTM・FDIパッケージには、機器の種類やレビジョンとの対応があります。対応する定義情報をホストへそろえ、必要な機能を扱います。

最後に、読み出した主変数と、実際に制御へ使っている信号を照合します。制御用と監視・保全用の値を区別すると、通信と表示・制御の問題を切り分けやすくなります。

稼働中の機器では、設定変更が運転へ影響するため、読み出しと書込みを分けて管理します。変更前の値を記録し、設備の変更手順に沿って実施します。

HART通信のよくある質問

HART通信には専用の電線が必要ですか?

既存の計装用二線ループを利用できることが特徴です。ただし、配線や負荷・中継機器が通信条件に合う必要があるため、ケーブルの種類だけで判断せず、電流ループ全体の仕様を照合します。

4-20mAが正常なら、HARTも使えますか?

直流の測定値が届いても、交流の通信成分が中継器などで通らない場合があります。HART対応機器・ホストに加え、負荷や電圧条件、間にある機器の双方向通信への対応を確認します。

250Ωの抵抗は必ず別に取り付けますか?

受信機器や電源装置へ必要な負荷が内蔵されている構成もあります。既存の負荷をループ図で調べ、機器の要求する通信条件と電源余裕を満たすよう、追加の要否を判断します。

HARTで読んだ値とDCSの表示が違うのはなぜですか?

読んでいる変数、単位、範囲、受信側の換算設定を比べます。通信で得るデジタル値と、4-20mAを換算した表示は経路が異なるため、どの段階で値の扱いが変わるかを順に調べます。

1200Hzと1200bit/sは同じ意味ですか?

Hzは波の周波数、bit/sは情報を伝える速度です。従来の有線FSKでは1200Hzと2200Hzの二つで0・1を表し、その通信速度が1200bit/sという関係になります。

まとめ

HARTは現場機器とホストをつなぐ通信技術で、従来の有線方式では4-20mAにFSKの交流成分を重ねます。アナログ計装を生かしながら、設定や診断などの情報を扱える点がメリットです。

従来のFSKの1200・2200Hzと、通信速度1200bit/sは別の量です。高速で大量のデータを送る用途と分け、制御に使う信号と保全情報の更新を、それぞれ必要な条件で設計します。

実際の導入では、通信負荷と電源余裕、中継器の対応、ホストと機器定義情報をそろえます。電流が出ることと通信が通ることを分けて調べると、現場での接続や設定の問題を切り分けやすくなります。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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