放射伝熱とは?3つの法則・計算式と産業機器での使い方

工業炉の開口部から見える高温の鋼材

放射伝熱とは、物体から出た電磁波が別の物体に吸収されて熱を伝える現象です。輻射伝熱とも呼ばれ、空気の流れや物体同士の接触がなくても起こります。

ストーブの前で顔が温まることや、太陽光で屋根が熱くなることが身近な例です。工場では、炉内の材料加熱から非接触の温度測定まで、この性質を利用しています。

動画でも基礎を説明しています。マイクロ波加熱と熱放射の区別、式で扱う量の単位は、以下の本文と合わせて読むと整理できます。

目次

放射伝熱とは

放射伝熱は、英語でradiative heat transfer、放射そのものはthermal radiationといいます。物体の温度に由来する電磁波を介した熱移動であり、間に物質を必要としません。

電磁波は、電場と磁場の変化が空間を進む波で、赤外線も可視光もその仲間です。温度の低い物体からは主に赤外線が出るため、肉眼で光って見えなくても放射は続いています。

熱い物体だけでなく、冷たい物体も相手へ放射を送っています。両者が受け渡す量の差が、高温側から低温側への正味の熱移動となり、同じ温度では差がなくなります。

図1:炉内では放射と対流が同時に働く

ヒータと材料は互いに放射し、その差が材料を温めます。空気の循環による対流も加わります。

高温ヒータ大きい放射材料からも放射材料表面で吸収空気の対流断熱炉壁

模式図。矢印の線幅は熱の向きの説明用で、放射量の縮尺ではありません。

熱伝導は物質内部を、対流は流れる気体や液体と表面の間を通して熱を運びます。放射は真空中でも進むので、太陽と地球の間や真空炉内でも熱を受け渡せます。

実機では3つの伝熱がつながり、一つの方式だけで加熱全体が完結することは少ないものです。表面で吸収した熱が材料の中心へ進む過程は、熱伝導率と熱伝達率の違いと合わせて考えます。

また、光が届けば必ず同じ強さで温まるわけではなく、表面の吸収しやすさが影響します。反射性の高い金属板と吸収性の高い面では、同じ光を受けても熱になる割合が変わります。

放射伝熱の式

放射の式を読む前に、入ってきたエネルギーの行き先を分けます。物体に当たる放射は、吸収される分、表面で反射する分、内部を透過する分の3つに分かれます。

入射する放射のエネルギー収支
α + ρ + τ = 1
α:吸収率 ρ:反射率 τ:透過率(いずれも無次元)。同じ入射条件で評価した割合。

図2:半透明の板に当たった放射の行き先

入射を100とした説明例。吸収60、反射25、透過15の合計が100になります。

入射 100反射 25透過 15吸収 60吸収した分が発熱

数値は説明のための仮定で、ガラスなど特定材料の物性値ではありません。

不透明な表面では透過がなく、吸収率と反射率を足すと1になります。鏡のようによく反射する面は、その条件で吸収する割合が小さく、入射の大半を周囲へ返します。

入射する放射をすべて吸収する理想物体を、黒体または完全黒体と呼びます。黒体は放射の基準でもあり、実際の表面が同じ温度の黒体に対してどれだけ放射するかを放射率で表します。

熱平衡におけるキルヒホッフの法則では、同じ温度・波長・方向で吸収率と放射率が等しくなります。ただし、全波長の吸収率は入射光の分布にも左右されるため、全放射率と常に等しいわけではありません。

プランクの法則

プランクの法則は、黒体が波長ごとにどれだけ放射するかを与える式です。温度と波長が決まれば分布を計算でき、赤外線を利用する測温や加熱の基礎になります。

黒体の分光放射輝度(真空中、波長表示)
Lbλ(T) = 2hc2λ5 × 1exp(hc/(λkT)) − 1
Ebλ = πLbλ
λ:波長[m] T:絶対温度[K] h:プランク定数[J·s] k:ボルツマン定数[J/K] c:光速[m/s]。Lbλの単位はW/(m²·sr·m)、Ebλは半球全体へ出る分光放射発散度[W/(m²·m)]。

放射輝度は方向あたり、放射発散度は表面から半球全体へ出る量を表しています。分子が2hc²の式と2πhc²の式は、扱う量が異なるため、記号だけでなく単位も一緒に読みます。

分光という言葉は、波長の幅あたりに量を分けたという意味です。分布曲線の高さだけを見て全放射量とはせず、各波長の寄与を足し合わせて総量を求めます。

同じ黒体でも温度が上がると放射が強まり、分布の山は短い波長側へ動きます。材料が加熱されて赤く光ることはこの分布の変化で、LEDなどのルミネセンスによる発光とは発生の仕組みが違います。

ステファン・ボルツマンの法則

プランクの分布を全波長で積分すると、黒体から出る放射の総量が得られます。これがステファン・ボルツマンの法則で、放射発散度は絶対温度の4乗に比例します。

単位面積・単位時間あたりに放射する量
Eb = σT4
E = εσT4
Eb:黒体の全放射発散度[W/m²] E:実表面の全放射発散度[W/m²] ε:その温度での全半球放射率 σ:約5.6704×10−8 W/(m²·K⁴)。TはKで代入します。

放射率εは0〜1の範囲を取り、黒体は1です。実表面の放射率は、材質だけでなく酸化や粗さ、温度などで変わるため、表面の状態を含む条件として扱います。

式に使う温度は、摂氏温度に273.15を足した絶対温度です。100℃から200℃への上昇を温度2倍として計算せず、373.15Kと473.15Kの4乗を比較します。

また、Eの単位はW/m²であり、物体全体の放射電力を求めるには面積を掛けます。放射したエネルギーをJで求める場合は、一定の放射電力に継続時間を掛ける順序です。

ウィーンの変位則

ウィーンの変位則は、波長ごとの黒体放射が最大になる波長と温度の関係です。温度が高いほどピークの波長が短くなることを、簡単な反比例で表します。

波長表示の分布におけるピーク
λmaxT = b
λmax = 2,897.77T[μm]
λmax:ピーク波長 b:約2.89777×10−3 m·K。上の式ではm、下の換算式ではμmで波長を求めます。

図3:温度を上げると総量とピークはどう変わるか

絶対温度2倍で黒体の全放射は16倍、ピーク波長は半分になります。

絶対温度ピーク波長全放射発散度300Kに対する比
300K9.66μm459W/m²1
600K4.83μm7,349W/m²16
1,200K2.41μm117,581W/m²256

黒体の理論値を最後に四捨五入。ピーク以外の波長も放射しており、ピーク波長が放射範囲の端という意味ではありません。

300K程度の物体ではピークが約9.66μmとなり、可視光より長い赤外線の領域です。高温の金属が目で赤く見えるときも、放射エネルギーのすべてが可視光へ変わったわけではありません。

ピークは波長あたりで分布を表した場合の値で、周波数あたりの分布とは位置が異なります。測温ではピークだけを狙うとは限らず、検出器や材料、観測窓に合う帯域を選びます。

試験では、総量を問うなら4乗則、ピークを問うなら変位則という使い分けが有効です。実務の光学的な測温とのつながりは、光高温計の原理と測定誤差で具体的に追えます。

正味の放射伝熱量の計算

表面から出るEをそのまま放熱量にすると、周囲から受け取る放射を数え落とします。大きな等温の周囲に囲まれた小物体を考え、放出と吸収の差で正味の放熱を求めます。

ここでは表面を不透明な灰色拡散面とし、周囲が視野全体を占めるモデルを使います。間の媒体は放射を吸収・放出・散乱せず、対流や支持部への伝導は別に計算する条件です。

対象表面の温度と放射率は一様とし、周囲だけを見る形態係数1の面を考えます。灰色面では波長によらず放射率が一定なので、この条件では周囲光の吸収率にも同じεを使えます。

大きな等温周囲への正味の放射放熱
Q̇rad = εσA(Ts4 − Tsur4)
Q̇rad:正味の放射放熱[W] A:対象表面の面積[m²] Ts:対象表面温度[K] Tsur:周囲表面の温度[K]。正を対象から外へ出る向きとします。

表面500K、周囲300K、面積0.5m²、放射率0.8と仮定します。両温度の4乗を先に計算し、その差に定数、放射率、面積を掛ければ、単位はWになります。

数値を代入して計算
Q̇rad = 0.8 × 5.670374419×10−8 × 0.5 × (5004 − 3004)
≒ 1,234W = 1.23kW
同じ温度・放射率を10分間保ったとき
Qrad = 1,233.87 × 600 ≒ 740kJ
Qrad:10分間の正味の放射エネルギー。10分=600s、1,000J=1kJ。

図4:放出から周囲の寄与を引き、面積を掛ける

放射率0.8の500K表面と300Kの大周囲という仮定例です。

表面から出る分2,835W/m²0.8σ×500⁴
周囲から吸収する分367W/m²0.8σ×300⁴
差×面積0.5m²1,234W正味の放射放熱

表示値は四捨五入。計算では途中を丸めず、対流・支持部への伝導は含めません。

周囲からの分を引かずに計算すると約1.42kWとなり、この例では放熱を大きく見積もります。同じ温度の周囲に置く場合は差が0となり、表面から放射していても正味の放熱はありません。

有限の2枚の板や複雑な炉では、相手が見える割合を表す形態係数も必要です。距離だけで一律に逆二乗へ換算せず、面の大きさや向き、遮蔽物を含む幾何条件から求めます。

設備の放熱を求める際は、ここへ対流や断熱材を通る熱抵抗も組み込みます。伝導と対流の熱抵抗をつなぐ方法は、配管の放熱量の概算と保温厚さ・表面温度の計算で扱い、放射の寄与は別に加えます。

放射伝熱を利用した機器

放射を利用する機器は、エネルギーを送り込む加熱装置と、出てきた放射を読む測定器に分かれます。使う波長と熱の移動経路を追うと、似た機器の違いが見えてきます。

金属試料の上に配置したセラミック赤外線ヒータ
赤外線ヒータと金属試料の加熱設備のイメージ(生成画像)

放射温度計

放射温度計は、対象から届く赤外線などを検出し、温度へ換算する計器です。対象に触れずに測れるので、高温の材料や動いている製品の表面温度を読む用途に向いています。

照準用のレーザーは位置を示すもので、その光で対象を加熱して測る仕組みではありません。実際に測る範囲は光学系の視野で決まり、レーザーの点より広い面積を含む機種もあります。

図5:温度計には対象の放射と反射光が一緒に届く

測定視野を対象面の内側に収め、周囲の高温体の映り込みを避けて測ります。

放射温度計高温の炉壁対象自身の放射炉壁の反射も受信金属の対象面破線:測定視野

反射線は散乱反射の一経路を示し、鏡面反射の角度を表す図ではありません。表面の向きや反射特性で受信量が変わります。

特に光沢金属では自己放射が弱く、周囲から反射した放射の影響が大きくなります。放射率の設定を変えるだけで済ませず、表面状態と測定方向、周囲の高温体を一緒に見ます。

現場では対象の材質・酸化状態を記録し、測定径が対象の内側に収まる距離を選びます。観測窓を通す場合は窓の透過帯域も必要で、透明に見える窓でも測定用の赤外線を通すとは限りません。

測定値を比較するときは、距離や角度を固定すると変化の原因を追いやすくなります。測定方式や長所・短所の整理は、放射温度計の原理と注意点を参照してください。

太陽熱温水器

太陽熱温水器は、太陽から届く放射を集熱器で吸収し、水を温める装置です。平板式では吸収板に取り付けた管へ熱を渡し、管内の水や熱媒体へ熱を運びます。

太陽から吸収板までは放射、板と管の中は伝導、管壁から流体へは熱伝達と経路が続きます。集熱した流体で貯湯槽の水を温める間接式では、さらに熱交換器の伝熱能力が関係します。

吸収面で取り込む熱が大きくても、外気へ逃げる熱が多いと利用できる熱は減ります。太陽光の吸収率と低温での全放射率は波長の重みが違うため、両者を分けて集熱性能を考えます。

家庭の給湯のほか、業務用や産業工程の予熱にも太陽熱を利用できます。必要温度と時間帯に対して供給が変わるため、貯湯や補助熱源と組み合わせて熱需要を満たします。

マイクロ波加熱

電子レンジのマイクロ波も電磁波ですが、熱い表面が温度によって放射する熱放射とは区別します。発振器から供給した電磁場を物質が吸収し、内部で発熱する誘電加熱を利用しています。

水などの極性分子の応答やイオンの動きに伴う損失が熱へ変わり、吸収する部分を加熱します。材料の誘電特性や浸透深さ、電磁場の分布が、加熱速度や温度の均一さを左右します。

産業化の例として、開発企業の2018年の論文は、2014年に大阪で化学品の商業生産を始めたと報告しています。対象は脂肪酸ブチルエステルで、生産能力3,200t/年という当時の事例です。

外から炉壁ごしに加熱する方式と比べる際は、昇温時間だけでなく装置全体への入力もそろえます。材料に入る正味の熱と電源からの入力の違いは、正味電力と入力電力の計算で整理できます。

加熱炉(工業炉)

工業炉では、炎や炉壁、電気ヒータから材料への放射が重要な加熱経路です。高温になるほど放射の寄与が大きくなり、熱処理や焼成、溶解などの工程に利用されます。

同時に、高温ガスによる対流や支持台からの伝導も働きます。オーブンもヒータの放射と空気の対流を併用し、送風の有無やヒータ配置によって熱の届き方が変わります。

加熱ムラを調べるときは、温度設定だけでなく、材料同士が放射を遮る配置にも注目します。重ねた材料や密集した治具の奥では、高温の炉壁が見える割合が小さくなり、表面への入熱が変わります。

炉内温度が目標に達しても、厚い材料の中心はまだ低いことがあります。中心まで熱を伝える時間と保持時間を分けて考え、表面測温だけで内部まで均一と判断しないことが大切です。

また、燃焼ガスの二酸化炭素や水蒸気、すすは放射の吸収や放出に関わります。単純な表面同士の式から一歩進んだ炉の設計では、ガスの性質も含めて熱収支を組み立てます。

炉と同じく、ボイラーの水管壁も高温部からの放射を受ける伝熱面です。設備の改善では炉壁温度と運転時間を記録し、工場の省エネ管理へ結び付けます。

放射伝熱のよくある質問

放射伝熱と輻射伝熱は違いますか?

熱移動の説明では、同じ現象を指す呼び方として使われます。放射という言葉には放射線など広い使い方もあるため、伝熱では温度に由来する電磁波の授受を扱うと押さえます。

真空にすると放射による熱は止まりますか?

止まりません。気体を介する熱移動を抑えても電磁波は進むので、真空容器では表面間の放射や支持部の伝導を別に扱います。

黒い物ほど放射率は高いですか?

見た目の黒さだけで赤外線の放射率は決まりません。色は主に可視光の反射を見ているため、測定帯域の放射率や表面処理の情報を使って判断します。

放射伝熱量は温度差の4乗に比例しますか?

単純な灰色面のモデルでは、温度をそれぞれ4乗した値の差を使います。500Kと300Kなら500⁴−300⁴であり、温度差200Kの4乗とは異なる計算です。

温度計で測った値が低いと、実温度も低いですか?

放射率の設定や視野欠け、窓の透過率が測定値に影響します。測定対象の表面状態と光路をそろえ、適切な基準との照合で温度変化と測定条件の変化を切り分けます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 放射伝熱は電磁波を介する熱移動で、真空中でも起こる
  • プランクの法則は波長分布、ステファン・ボルツマンの法則は総量、ウィーンの変位則はピークを表す
  • 計算にはKを使い、放射発散度W/m²と放射電力W、エネルギーJを区別する
  • 正味の放熱は放出と吸収の差で、形状や周囲の温度も影響する
  • 温度計・太陽熱・工業炉の熱の経路を追い、マイクロ波誘電加熱とは原理を分けて考える

放射の計算を機器へ当てはめるときは、熱を出す面と受ける面を先に決めると整理できます。温度・放射率・面積に加え、反射や遮蔽まで見渡すことで、加熱不足や測温誤差の原因を追えます。

出典

出典・参考資料(8件)を開く出典・参考資料を閉じる

NEWSLETTER

機械設計・プラントエンジニアリングの記事を、週1回まとめてメールで受け取る

週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。

実際に届くメールの例を見る

件名:今週のあなた向け記事|週刊MONOSCOPE 10/9号
登録内容:生産技術 × 自動車・輸送機器

週刊MONOSCOPEの見本(生産技術 × 自動車・輸送機器)

職種3本・業種3本・製造業で働くすべての方へ2本・今週よく読まれた記事3本が届きます。記事は毎週入れ替わります。ほかの見本を見る

機械設計を選んだ状態で登録へ ›

無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。

WEEKLY NEWS

今週の製造業ニュース10選

メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。

LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

▶ お仕事のご依頼はこちら

目次