工場の脱炭素(温室効果ガスの排出を減らす取り組み)は、何から手をつければよいのか。取り組みは大きく4つに分けられます。設備の省エネ、熱を使う工程の電化(燃料の代わりに電気で熱をつくること)、再生可能エネルギーの導入、排出量の把握です。
具体策は、コンプレッサー(圧縮空気をつくる機械)の空気漏れを直す身近な改善から、加熱炉の電化、屋根への太陽光発電の設置まで幅広くあります。製鉄の工程そのものを変える技術開発も進んでおり、業種や工場の規模によって効果の大きい対策も変わります。
この記事では、脱炭素・カーボンニュートラルの主な用途、業界別の活用方法、実際の導入事例、導入の進め方、関わる仕事と求められるスキルという順で整理します。
脱炭素・カーボンニュートラルの主な用途

工場での脱炭素の取り組みは、どのエネルギーの使い方を対象にするかで、大きく4つの用途に分けられます。
前の3つはCO2を直接減らす取り組みで、4つ目はそれらを正しく選び、成果を確かめるための土台にあたります。どの工場でも、見える化から始めると打ち手を選びやすくなります。
対象とするエネルギーの使い方ごとに、打ち手が分かれます。
※実際には、これらを組み合わせて段階的に進めるのが一般的です。
動力・ユーティリティの省エネ
コンプレッサー、ポンプ、ファン、空調、照明などは、業種を問わずほとんどの工場にある設備です。主な対策は次のとおりで、比較的少ない投資で効果を出しやすい領域です。
- インバーター化による回転数の制御
- エア漏れの修理
- 不要な時間帯の停止
特に圧縮空気は、つくるために多くの電力を使う一方で、配管の継ぎ目などから漏れやすいことで知られています。漏れの点検と修理は、多くの工場で最初に取り組まれる対策の1つです。
空調や照明も、運転時間の見直しや高効率機器への更新で削減できます。こうした対策は電気代の削減に直結するため、社内で投資の了解を得やすいのも利点です。
熱プロセスの電化・燃料転換
加熱、乾燥、洗浄、熱処理など、熱を使う工程は製造業の大きな排出源です。次のような取り組みがこれにあたります。
- ボイラーをヒートポンプに置き換える
- ガス炉を電気炉に替える
- 重油から都市ガスへ転換する
将来に向けては、水素やアンモニアを燃料として使う技術の開発も進んでいます。燃料を燃やす工程のCO2(Scope1)を大きく減らせる点が特徴です。
一方で、熱源を替えると温度の上がり方や炉内の状態が変わるため、製品の品質を確かめる試験が欠かせません。生産技術や品質保証の担当者が中心となり、時間をかけて検証を進めるのが一般的です。
再生可能エネルギーの導入
工場の屋根や敷地に太陽光発電を設置し、発電した電気を自家消費する方法が広がっています。設備を自社で所有せず、発電事業者が設置・運用して電気を供給するPPAを使えば、初期投資を抑えることもできます。
自家発電でまかないきれない分は、再エネ由来の電力メニューへの切り替えなどで補います。これにより、購入電力によるScope2を減らせます。
太陽光発電は天候や時間帯で発電量が変わるため、工場の電力需要のパターンとあわせて設備の規模を決めることが大切です。昼間に電力を多く使う工場ほど、自家消費の効果を得やすいと言えます。
排出量の見える化と管理
電力計やセンサーで設備ごとのエネルギー使用量を計測し、CO2排出量として集計・管理する取り組みです。どこでどれだけ排出しているかがわかって初めて、効果の大きい対策を選べるようになります。
集計したデータは、取引先への報告や省エネ法の定期報告にも活用されます。スマートファクトリー・IoTの仕組みと組み合わせて、生産データとあわせて管理する例も増えています。
業界別の活用方法

どの用途が重要になるかは、業界によって大きく異なります。資源エネルギー庁のエネルギー動向(2025年6月版)で、2023年度の製造業のエネルギー消費を見てみます。
鉄鋼・化学・窯業土石・紙パルプの素材系産業が製造業のエネルギー消費の約8割を占めています。
主な排出源が違うため、効果の大きい打ち手も変わります。
※同じ業界でも、工場の工程構成によって重点は変わります。目安として捉えてください。
鉄鋼・非鉄金属
鉄鋼業では、高炉で石炭由来のコークスを使って鉄鉱石から酸素を取り除く工程で、大量のCO2が発生します。
プロセスそのものを変える技術開発が中心課題となっており、水素による還元や、鉄スクラップを溶かす電炉への転換が進められています。業界の全体像は鉄鋼・非鉄金属業界の記事で解説しています。
これらは国の支援を受けた大規模な開発で、実用化には時間がかかります。そのため当面は、加熱炉の燃焼効率の改善や排熱の回収など、既存設備での省エネも並行して進められています。
化学・樹脂
化学工業では、原料を分解・合成する工程で大量の熱や蒸気を使います。排熱の回収や燃料の転換に加え、植物由来の原料やリサイクル原料への転換も重要なテーマです。詳しくは化学・樹脂業界の記事もご覧ください。
工場の中で生まれた蒸気や排熱を、別の工程で再利用する取り組みも行われています。複数の工場が集まるコンビナートでは、工場の枠を越えてエネルギーを融通し合う考え方も重要です。
自動車・機械
自動車や機械の工場では、塗装乾燥や熱処理の熱と、組立ラインの動力・空調が主な排出源です。自社工場の省エネ・電化に加え、多数の部品メーカーを抱えるため、サプライチェーン全体での削減にも力を入れています。自動車業界の記事もあわせて参考になります。
部品メーカーの側では、取引先から排出量の報告や削減を求められることが増えています。自社の工場の省エネと、製品1個あたりの排出量を示せる管理体制の両方が必要になっています。
食品・医薬、電子部品・半導体
食品・医薬品工場では、殺菌や洗浄に使う蒸気、原料や製品を保管する冷凍・冷蔵設備のエネルギーが大きくなります。温水や温風の用途ではヒートポンプへの置き換えが検討されやすい分野です。
電子部品や半導体の工場では、温度・湿度・清浄度を一定に保つクリーンルームの空調が24時間稼働するため、電力の使用量が大きくなりがちです。空調の運転最適化と再エネ電力の調達が主な打ち手になります。
食品・医薬の業界全体については食品・医薬品業界、電子部品・半導体については電子部品・半導体業界の記事で詳しく解説しています。
導入事例

ここでは、公開されている資料で内容を確認できる事例を紹介します。大企業の革新技術から、中小企業の身近な改善まで、規模や手法はさまざまです。
事例の数値は、各社や公的機関が公表している内容に基づいています。自社に当てはめる際は、工場の規模や工程の違いを踏まえて参考にしてください。
日本製鉄:高炉水素還元技術の試験
日本製鉄は、高炉で水素を使って鉄鉱石を還元し、CO2を減らす技術「Super COURSE50」の開発を進めています。
同社によると、東日本製鉄所君津地区に設置した12m³の試験高炉で、2024年11〜12月の試験においてCO2排出量43%削減を確認しました。
同社はこのほか、広畑地区で2022年10月に電炉一貫プロセスによるハイグレード電磁鋼板の製造を始めたことも公表しました。素材産業では、こうした長期の技術開発と設備転換が並行して進行中です。
こうした技術は一企業だけで完結するものではなく、水素の供給体制など社会全体の基盤づくりとも関わるテーマです。素材の脱炭素は、それを使う自動車や機械のScope3削減にもつながるため、下流の業界からの注目度も高い分野です。
トヨタ自動車:本社工場での水素を使ったコージェネレーション
コージェネ財団の先進事例によると、トヨタ自動車の本社工場では2種類のコージェネレーション(発電と同時に排熱も利用する設備)を導入しています。
水素を混ぜて燃焼させるガスエンジン(400kW)と燃料電池(100kW)で、2021〜2022年に運用を始めました。
商用電力と熱源機から供給を受ける場合と比べた一次エネルギー削減率は32.1%とされています。同社が掲げる「2035年にすべての生産拠点でカーボンニュートラル」に向けた取り組みの1つです。
このように、排熱も含めてエネルギーを無駄なく使う仕組みと、水素のような新しい燃料を組み合わせる取り組みは、大規模な工場で特に効果を発揮します。
スミハツ:電力の見える化で生産外の無駄を削減
関東経済産業局の事例集(2025年4月)によると、自動車用板ばねなどを製造するスミハツ(茨城県桜川市)は、電力監視システムで269台の設備を計測しました。
その結果、生産していない時間帯にも稼働時の40%の電力が使われていたことがわかり、運用を見直して不要な電力を削減しています。
同社は油圧ユニットの高効率化や搬送装置の電動化も実施しました。2023年には水素バーナーによる熱処理を試し、硬さや組織などの品質が天然ガスと同等であることを確認したとされ、加熱炉の電化も計画しています。
この事例のように、計測してみて初めて見つかる無駄は少なくありません。大きな投資の前に、まず現状を正確に知ることの大切さがわかります。
グンダイ:コンプレッサーの更新とPPAによる太陽光発電
同じ事例集では、アルミ製品の鋳造・加工を行うグンダイ(群馬県伊勢崎市)の取り組みも紹介されています。ほぼすべての工程で使っていたコンプレッサーをインバーター機に交換し、電力使用量を減らしました。
さらにPPAを活用し、グループ会社の敷地6,600m²に太陽光発電設備を導入しています。年間58万kWhを発電し、262t-CO2/年の削減につながったとされます。
同社では、月に1回あえて「不稼働時間」を設けて不良率や設備トラブルを点検しており、稼働率が10%程度向上したとされています。生産性の改善と省エネを一体で進めた例と言えます。
導入の進め方

脱炭素の取り組みは、いきなり大きな設備投資から始めるものではありません。一般的には、次のような流れで進めます。
取り組みは「把握する」「計画する」「実行する」の3つの段階に分かれます。
※実際には、実行の結果を次の見える化や計画に反映し、繰り返し改善していきます。
ポイントは、「把握」から始めて、すぐできる運用改善を先に行うことです。無駄を減らしてから設備を選べば、導入する設備の規模も小さくて済みます。
設備更新や燃料転換は、既存設備の更新時期に合わせて計画すると、投資の負担を抑えやすくなります。国や自治体の補助金、省エネ診断などの支援策もあわせて検討するとよいでしょう。
また、効果検証の結果を社内で共有することも大切です。削減量や電気代の変化を現場に示すことで、次の改善提案が出やすくなり、取り組みが定着していきます。
脱炭素に関わる仕事と求められるスキル

工場の脱炭素は、特定の部署だけで完結する取り組みではありません。さまざまな職種が、それぞれの専門を生かして関わっています。
中心的な役割を担うのが生産技術です。設備の更新や電化、工程の見直しを計画し、品質や生産性を保ったまま排出を減らす方法を考えます。日々の設備の運転状況を把握し、エネルギーの無駄を見つけて改善するのは設備保全の得意分野です。
Scope3の削減では、取引先から排出量のデータを集め、低炭素な材料や部品を選ぶ購買・調達の役割が大きくなっています。新しい材料や製造プロセスの開発には研究開発が関わり、全体の目標と投資判断は工場長・マネジメントが担います。
職種を問わず求められる力は、大きく次の3つに整理できます。
専門分野にかかわらず、共通して役立つスキルです。
エネルギーや熱、電気の基礎知識に加え、計測データを読み解き、削減効果とコストを数字で示す力が重要です。関係部署や取引先と協力して進めるための調整力も欠かせません。
資格では、工場のエネルギー管理に関わるエネルギー管理士が代表的です。脱炭素の知識は、今後ますます多くの職種で評価されるスキルになっていくと考えられます。
まとめ
- 工場の脱炭素は、動力の省エネ、熱の電化・燃料転換、再エネ導入、見える化の4つが主な用途
- 素材系産業が製造業のエネルギー消費の約8割を占め、業界ごとに重点となる打ち手が異なる
- 高炉水素還元の試験から、中小企業の電力の見える化やPPAまで、公開事例は幅広い
- 導入は「把握する」「計画する」「実行する」の順に進め、運用改善を先に行うのが基本
- 生産技術・設備保全・購買・研究開発など、多くの職種が脱炭素に関わっている
脱炭素の基本的な仕組みは脱炭素・カーボンニュートラルとは?仕組みと基本原理で解説しています。社会的な背景や従来の省エネとの違いは脱炭素・カーボンニュートラルが注目される背景と従来技術との違いをご覧ください。
脱炭素の最新の動きや関連記事は、脱炭素・カーボンニュートラルの技術ページからあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(4件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 製造業のエネルギー消費:資源エネルギー庁「エネルギー動向(2025年6月版)部門別エネルギー消費の動向」
- 日本製鉄の事例:日本製鉄「革新的技術開発によるCO2削減」
- トヨタ自動車の事例:コージェネ財団「【水素】トヨタ自動車本社工場 – 先進事例」
- スミハツ・グンダイの事例:関東経済産業局「企業の脱炭素取組事例」(令和7年4月)
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