水素還元製鉄とは?高炉との違いと日本の実証・電炉転換の現在地

海沿いの製鉄所に立つ高炉と周辺設備の遠景

製鉄所の高炉(鉄鉱石から鉄を取り出す大きな炉)では、鉄鉱石とコークス(石炭を蒸し焼きにしたもの)を入れて熱風を吹き込み、鉱石から酸素を取り除きます。

水素還元製鉄は、この酸素を取り除く「還元」の役目を、コークスではなく水素に担わせる技術の総称です。

コークスで酸素を外すと、酸素と炭素が結びついてCO2が出ます。水素なら、出てくるのはCO2ではなく水(水蒸気)です。次のように、複数のルートが並行して開発されています。

  • 既存の高炉に水素を吹き込む方法
  • 高炉を使わずに水素だけで鉱石を還元する方法
  • 還元した鉄を電炉で溶かす方法

この記事では、水素還元製鉄の仕組みと高炉法との違い、3つのルート、技術的な壁を整理します。続いて、2026年9月時点の日本の実証の到達点、電炉への転換投資、実用化の見通し、鋼材を使う側への影響を順に見ていきます。

目次

水素還元製鉄とは

高炉の炉体下部と送風用の環状管、点検通路

鉄づくりは鉄鉱石から酸素を外す工程

鉄鉱石は、鉄が酸素と結びついた酸化鉄(主にFe2O3)でできています。鉄を取り出すには、この酸素を引きはがす必要があり、この反応を還元と呼びます。

現在の主流である高炉法では、石炭を蒸し焼きにしたコークスを還元剤に使います。高炉の上から鉄鉱石とコークスを入れ、下から約1,200℃の熱風を吹き込むと、コークスから生じたガスが鉱石の酸素を奪い、溶けた鉄(銑鉄)が炉の底にたまります。

このとき奪った酸素は炭素と結びつくため、高炉法ではCO2の発生を原理的に避けられません。銑鉄はその後、転炉で炭素などを取り除いて鋼になり、圧延されて製品になります。

高炉・転炉・電炉がどうつながり、どんな企業が担っているかは、鉄鋼・非鉄金属業界の企業の種類と仕事の流れで詳しく扱っています。

炭素で外すか、水素で外すか

還元剤を水素に替えると、鉱石から外れた酸素は水素と結びついて水(水蒸気)になります。CO2の代わりにH2Oが出るというのが、水素還元製鉄の基本的な考え方です。

ただし、両者は熱の出入りが逆になります。炭素(一酸化炭素)による還元は熱を出す発熱反応ですが、水素による還元は熱を吸う吸熱反応で、炉の中の温度を下げてしまいます。この違いが、後で見る技術的な壁の出発点です。

図1:炭素による還元と水素による還元の違い

どちらも鉄鉱石から酸素を外す反応ですが、出てくるものと熱の出入りが逆になります。

炭素(コークス)で還元
水素で還元
反応式
Fe2O3 + 3CO → 2Fe + 3CO2
Fe2O3 + 3H2 → 2Fe + 3H2O
出てくるもの
CO2
水(水蒸気)
熱の出入り
発熱反応(鉄1トンあたり約222MJを放出)
吸熱反応(鉄1トンあたり約886MJを吸収)
炉への影響
反応が炉内の熱を補う
炉内の温度が下がるため、熱を補う工夫が必要
現在の位置づけ
高炉法として世界の粗鋼の約7割(2022年)
天然ガス由来の還元ガスで一部使われ、水素100%は実証段階

※反応式と熱量は、GREINS(水素製鉄コンソーシアム)のNEDO成果報告会資料(2025年7月)より。粗鋼シェアは経済産業省資料(worldsteelのデータから作成、世界生産量の53%をカバーする集計)。

鉄鋼業のCO2はなぜ大きいのか

経済産業省の資料によると、2022年度の鉄鋼業のCO2排出量は1億3,400万トンで、産業部門の38%、国全体の13%を占めます(電気・熱の配分後)。そのうち90%以上は高炉メーカーから出ています。

粗鋼1トンあたりのCO2は、高炉法で約2.0トン、鉄スクラップを溶かす電炉法で約0.5トンとされます。高炉・転炉法の排出の約8割は、高炉での鉄鉱石の還元に由来します。還元の工程に手を入れない限り、大幅な削減は困難です。

図2:数字で見る鉄鋼業のCO2排出

国内排出の1割強を占め、その大半は高炉での還元から生じています。

1.34億t鉄鋼業のCO2排出量2022年度
38%産業部門に占める割合国全体では13%
約2.0t高炉法のCO2粗鋼1トンあたり
約0.5t電炉法のCO2粗鋼1トンあたり

※出典:経済産業省「鉄鋼業を取り巻く状況について」(GX推進のためのグリーン鉄研究会、2024年10月)。割合は電気・熱の配分後。製法別の値はJFEグループの説明会資料(2021年5月)に基づく。

なお、鉄スクラップも元をたどれば高炉でつくられた鉄です。サプライチェーン全体の排出(Scope3)まで含めると、製法による差はなくなる点には注意が必要です。

排出をどの範囲で数えるかというScope1・2・3による排出の捉え方を押さえておくと、各社の削減目標や鋼材のCO2表示を読み解きやすくなります。

国内の粗鋼生産量や需要先の推移については、鉄鋼・非鉄金属業界の市場規模と動向でデータとともに整理しています。

水素還元製鉄の3つのルート

鉄鋼の脱炭素は、一つの技術で片づく話ではありません。

国のグリーンイノベーション基金(GI基金)の計画でも、高炉を使う方法と使わない方法を並行して開発する複線的なアプローチがとられています。GI基金は、2050年カーボンニュートラルに向けた技術開発を国が支援する基金です。

日本製鉄も、「スクラップ+電炉」「高炉水素還元+CCUS(CO2の回収・利用・貯留)」「水素直接還元+電炉」を組み合わせる方針を示しています。まず全体像を図で確認します。

図3:脱炭素に向けた製鉄の3つのルート

鉄鉱石を新たに還元するか、すでに還元された鉄(スクラップ)を溶かすかで道が分かれます。

鉄の原料鉄鉱石(酸化鉄)/鉄スクラップ(過去に還元された鉄)
還元・溶解
高炉水素還元既存の高炉に水素を吹き込み、コークスの一部を置き換える。残るCO2はCCUSなどで処理
水素直接還元シャフト炉で鉱石を固体のまま水素で還元。できた還元鉄を電炉や電気溶融炉で溶かす
スクラップ+電炉還元の工程が不要。電気で溶かすため、電力の脱炭素がCO2を左右する
成分調整・鋳造・圧延
鋼材自動車用鋼板、電磁鋼板、建材、厚板など

※青枠が水素を還元剤に使うルート。実際には1つの製鉄所で複数のルートを組み合わせることも想定されています。

高炉水素還元

既存の高炉を生かしながら、還元剤の一部を水素に置き換える方法です。

日本では、製鉄所内のコークス炉から出るガス(水素を約50%含む)を常温で吹き込む「COURSE50」が開発されています。あわせて、外部から調達した水素を加熱して大量に吹き込む「Super COURSE50」の開発も進んでいます。

大型の高炉や周辺設備をそのまま使えるため、転換のコストを抑えやすいのが利点です。一方で、コークスをゼロにはできないため、残るCO2は回収・貯留などと組み合わせることが前提になります。

高炉ガスのCO2を水素でメタンに変えて再び還元に使う「カーボンリサイクル高炉」も、同じ系統の技術です。

水素直接還元

直接還元とは、鉄鉱石を溶かさずに、固体のままガスで還元する方法です。シャフト炉と呼ばれる縦長の炉の上から鉱石を入れ、下から還元ガスを流します。できあがるのは還元鉄(DRI)と呼ばれる固体の鉄です。

既存の直接還元設備は、天然ガスからつくる還元ガス(水素濃度60〜80%程度)を使っています。これをほぼ100%水素に置き換えれば、還元の工程からCO2はほとんど出なくなります。

世界の粗鋼に占める直接還元法の割合は約7%(2022年)で、高炉法と比べるとまだ小さな存在です。

還元鉄は固体なので、鋼にするには電炉や電気溶融炉(メルター)で溶かす工程が別に必要です。還元と溶解で炉が分かれるため、エネルギー効率の面では不利になります。

スクラップ+電炉

電炉(電気アーク炉)は、鉄スクラップや還元鉄を電気の熱で溶かす設備です。スクラップはすでに還元済みの鉄なので、還元の工程がそもそも要りません。使う電力が再生可能エネルギーなどに置き換われば、CO2はさらに小さくなります。

ただし、国内で出回るスクラップの量には限りがあり、銅などの取り除けない不純物も混ざります。

日本製鉄は、量と質の両面の制約から、今の生産をすべてスクラップ+電炉に置き換えることはできないという見方を示しています。水素による還元の技術が必要とされるのはこのためです。

高炉に水素を入れるだけでは済まない理由

水素で鉄鉱石が還元できること自体は、化学的には古くから知られています。難しいのは、年間数百万トンの鉄をつくる大型の設備で、安全かつ安定的に、しかも今の鋼材と同じ品質で実現することです。主な壁は次の4つです。

図4:水素還元製鉄の4つの壁

化学反応としては成り立っても、大型設備で量産するには別の課題が立ちはだかります。

吸熱反応で炉が冷える水素の還元は熱を吸う。炉内の熱バランスを保つため、水素を加熱して吹き込む必要がある
大量の水素を安全に加熱する空気を温める従来の熱風炉は使えない。爆発リスクを避ける間接加熱などの新技術が要る
コークスはゼロにできない高炉では最低限のコークスが必要で、CO2が残る。回収・貯留との組み合わせが前提
鉱石の品位と不純物直接還元は高品位鉱石が前提で、供給は限られる。低品位鉱石ではリンなどの除去が課題

※経済産業省「製鉄プロセスにおける水素活用」研究開発・社会実装計画、GREINSのNEDO成果報告会資料をもとに整理。

水素の還元は熱を奪う

図1で見たとおり、水素による還元は鉄1トンあたり約886MJの熱を吸います。吹き込む水素を増やすほど炉内の温度が下がり、鉄が溶けにくくなって操業が不安定になります。

そこで、水素をあらかじめ加熱してから吹き込み、炉内の熱バランスを保つ必要があります。

従来の高炉は、熱風炉で耐火れんがを直接加熱し、そこに空気を通して約1,200℃の熱風をつくってきました。送風量は1分あたり数千Nm3という規模です。

水素を同じ方法で加熱すると爆発の危険があるため、安全を確保できる間接加熱などの新しい技術が必要になります。加熱効率の確保も課題とされています。

コークスは還元剤であり、熱源でもある

高炉の中のコークスは、鉱石を還元するだけでなく、燃えて熱を生む熱源の役割も担っています。さらに、炉内に隙間をつくり、還元ガスを行き渡らせる役目もあります。

経済産業省の計画でも、石炭(コークス)が減ると反応ガスの通気に必要な炉内の隙間をどうつくるかが課題に挙げられています。還元剤としての役割だけを見て、水素に置き換えるわけにはいきません。

経済産業省の計画でも、高炉法では最低限のコークスが必要となり、CO2の発生が残ることが前提とされています。高炉水素還元の開発目標が「CO2を50%以上削減」と設定され、ゼロではなく半減を目指す技術と位置づけられているのはこのためです。

直接還元は鉱石の品位と不純物に縛られる

既存の直接還元設備は、鉄分の多い高品位のペレット(粒状に固めた鉱石)を前提にしています。還元鉄は固体のまま溶かすため、高炉のように不純物をスラグとして分けにくいからです。

しかし高品位鉱石の供給量は限られており、アジアでは主に豪州産の低品位鉱石が使われています。

電炉側にも制約があります。次のような不純物が混ざると、鋼材の性能が落ちるためです。

  • スクラップ由来の銅
  • 還元鉄由来のリン
  • 溶解中に空気から入る窒素 など

GI基金では、低品位鉱石からつくった還元鉄でも、リン濃度を0.015%以下など高炉法並みに抑えることが目標に掲げられています。

日本の実証の現在地

研究設備の水素配管と圧力調整弁、奥の高圧ガスタンク

ここからは、2026年9月時点で日本の実証がどこまで進んでいるかを、プロジェクトの枠組み、高炉、直接還元・電炉の順に見ていきます。

GI基金とGREINS

日本の水素製鉄の開発は、GI基金の「製鉄プロセスにおける水素活用」プロジェクトとして2021年に始まりました。国費負担額の上限は4,499億円で、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託・助成事業として進められています。

実施するのは、日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所、金属系材料研究開発センターの4者でつくる水素製鉄コンソーシアム(GREINS)です。競合する高炉メーカーが設備やノウハウを持ち寄り、分担して開発を進める体制になっています。

目標は大きく2つです。1つは高炉水素還元で、2030年までに所内水素などを使ってCO2を30%以上削減する技術を実装し、中規模試験高炉で50%以上の削減を実証すること。

もう1つは直接水素還元で、低品位鉱石を使っても高炉法と比べてCO2を50%以上減らせる技術を実証することです。

COURSE50とSuper COURSE50

高炉水素還元の開発は、GI基金よりずっと前の2008年度に始まったCOURSE50が土台です。

日本製鉄東日本製鉄所君津地区にある内容積12m3の試験高炉(実機の約400分の1)を使い、還元工程でCO2を10%減らせることを世界で初めて検証しました。

常温の水素を吹き込む32日間の連続運転では、16%の削減が確認されています。

2022年5月からは、同じ試験高炉で加熱した水素を大量に吹き込むSuper COURSE50の試験が始まりました。

削減率は2022年に22%、2023年に33%と伸び、2024年11〜12月の試験で43%に達しました。日本製鉄は2024年12月、試験炉での開発目標を前倒しで達成したと発表しています。

図5:君津の試験高炉で確認されたCO2削減率の推移

加熱した水素の吹き込みで、削減率は2022年の22%から2026年の45%へと約2倍に伸びました。

COURSE50常温の水素を吹き込み
16%
Super COURSE502022年
22%
Super COURSE502023年
33%
Super COURSE502024年11〜12月
43%
Super COURSE502026年2〜3月
45%

※バーの長さは50%(Super COURSE50の開発目標)を右端とした比率。試験高炉(12m3)での高炉CO2の削減率で、製鉄所全体の削減率ではありません。出典:日本製鉄発表(2024年12月)、日本製鉄「日本製鉄のGX取組み状況」(2026年3月)、NEDOグリーンイノベーション基金トピックス(2026年8月)、GREINS成果報告会資料。

日本製鉄は2026年3月、2026年2〜3月の試験で45%の削減を確認したと公表しました。2026年8月にNEDOが公開した記事でも、目標を上回る成果として紹介されています。

ただし、これはあくまで小さな試験炉での数字です。実機の約400分の1の炉で出た成果を、どこまで大型高炉で再現できるかが次の焦点になります。

君津第2高炉での実機実証

日本製鉄は2023年2月、君津地区の第2高炉(内容積4,500m3)で水素系ガスを吹き込む実証試験を行うと決めました。稼働中の大型高炉を使った水素還元の実証は、世界的にも初めての取り組みとされています。

吹き込むのは、製鉄所内で発生する水素をベースにしたガスで、COURSE50の技術を実機に載せる位置づけです。

当初は2026年1月の開始を予定していました。しかし日本製鉄が2026年3月に公表した資料では、第2高炉の水素吹込設備は工事中で、2026年度から常温の水素を用いた実機実証を始める予定とされています。

NEDOの2026年8月の記事でも、2026年度中に大規模実証試験を始める計画と紹介されています。

カーボンリサイクル高炉

JFEスチールが中心となって開発しているのが、カーボンリサイクル高炉です。高炉から出るガスのCO2を回収し、水素と反応させてメタンに変え、再び還元剤として炉に戻します。空気の代わりに酸素を吹き込む点も、従来の高炉との大きな違いです。

東日本製鉄所千葉地区に内容積150m3の試験高炉が建設され、2025〜2026年度に昼夜連続の試験を行う計画です。2027年3月までに成果を取りまとめるとしています。

水素直接還元と電炉のパイロット設備

高炉を使わないルートでも、試験設備が相次いで動き出しています。日本製鉄の波崎研究開発センター(茨城県)では、炉高約60m、生産能力約1トン/時のシャフト炉が2026年3月に稼働しました。

このシャフト炉は、100%水素での72時間連続運転に成功しました。

JFEスチールは千葉地区に生産能力15kg/時の小型パイロットプラントを建設し、2024年12月から試験を続けています。

2026年6月29日〜7月1日には、山梨県の米倉山で再生可能エネルギーからつくったグリーン水素を高圧トレーラーで運び込み、約1トンの還元鉄を製造しました。

同社は7月31日、グリーン水素を使った還元鉄の試作として日本初と発表しています。

図6:国内の主な試験設備と到達点

高炉・直接還元・電炉の3分野で、規模の異なる試験設備が並行して動いています。

Super COURSE50試験高炉
高炉日本製鉄 君津。内容積12m3。加熱水素の吹き込みでCO2削減45%(2026年2〜3月の試験)
君津第2高炉
高炉日本製鉄。内容積4,500m3の実機。所内水素ベースのガス吹き込み実証を2026年度中に開始予定
カーボンリサイクル試験高炉
高炉JFEスチール 千葉。内容積150m3。CO2をメタン化して循環。2027年3月までに成果取りまとめ予定
水素直接還元シャフト炉
直接還元日本製鉄 波崎。炉高約60m・約1トン/時。2026年3月稼働、水素100%で72時間連続運転
直接還元パイロットプラント
直接還元JFEスチール 千葉。15kg/時。2026年7月、グリーン水素で還元鉄約1トンを製造
小型試験電炉
電炉日本製鉄 波崎、JFEスチール 千葉(各10トン規模)、神戸製鋼所 高砂(20トンの商用炉を改造)

※2026年9月時点の公表情報。出典:NEDOグリーンイノベーション基金トピックス(2026年8月)、GREINS成果報告会資料(2025年7月)、JFEスチール発表(2026年7月)。

還元鉄を溶かす側では、日本製鉄の波崎とJFEスチールの千葉に10トン規模の小型試験電炉が建設され、2024年度から試験が始まりました。神戸製鋼所も高砂製作所で20トンの小型商用炉を改造し、還元鉄を溶かす技術を開発中です。

神戸製鋼所のHBI大量装入

神戸製鋼所は、グループのMidrex社が持つ直接還元の技術を、高炉の側で生かすアプローチをとっています。

直接還元でつくった還元鉄を固めたHBI(ホット・ブリケット・アイアン)を高炉に大量に入れると、炉内で還元する鉱石が減り、その分コークスなどの使用量を減らせます。

加古川製鉄所の高炉(内容積4,844m3)で2023年4〜6月に行った実証では、高炉のCO2排出を25%削減しました(2021年の実証では約20%)。

同社はこの削減効果を使った低CO2高炉鋼材「Kobenable Steel(コベナブルスチール)」を商品化しています。

水素そのものを使う技術ではありませんが、既存高炉のCO2をいま減らす手段として注目されています。

高炉から電炉へ|各社の転換投資

電極を下ろして鉄を溶かす電気炉と作業者

水素還元の技術が確立するのを待たずに、大手高炉メーカーは電炉への転換投資に踏み切りました。後押ししたのは、GX経済移行債を財源とする国の「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業」です。

JFEスチールは2024年12月に同事業への採択を受け、2025年4月に倉敷地区への革新電気炉の導入を決めました。

日本製鉄も2025年5月、九州・瀬戸内・山口の3製鉄所での電炉の新設・増設・改造を決定しています。両社合わせた電炉の能力は年約490万トンになります。

図7:高炉メーカー2社の電炉転換投資

どちらも国の支援を受け、高級鋼を電炉でつくることを狙っています。

JFEスチール
日本製鉄
投資決定
2025年4月9日
2025年5月30日
場所
西日本製鉄所 倉敷地区(革新電気炉を新設)
九州製鉄所 八幡地区(新設)、瀬戸内製鉄所 広畑地区(増設)、山口製鉄所 周南地区(既存電炉を改造・再稼働)
生産能力
年約200万トン
3拠点で年約290万トン
総投資額
3,294億円
8,687億円
政府支援
最大1,045億円
上限2,514億円
稼働時期
2028年度第1四半期の予定
生産開始は周南が2028年度下期、八幡・広畑が2029年度下期の予定
狙う鋼材
電磁鋼板や高張力鋼板など高級鋼の大量供給
高炉でしかつくれなかった高級鋼を電炉で製造

※出典:JFEスチール発表(2024年12月、2025年4月)、日本製鉄発表(2025年5月30日)。

電炉でつくりにくい「高級鋼」

これまで電炉は、主に鉄筋や形鋼など建設向けの鋼材をつくってきました。自動車の外板や電磁鋼板のように、不純物を厳しく管理する高級鋼は高炉・転炉法の領域です。スクラップに混ざる銅などは、溶かした後で取り除くのが難しいためです。

2社の電炉投資は、電炉で高級鋼を量産するという、これまでにない挑戦でもあります。

GI基金では、低品位鉱石からつくった還元鉄とスクラップを使い、約300トン規模の大型電炉で不純物を高炉法並みに抑える技術の実証が目標に掲げられています。

電炉転換は、水素直接還元と組み合わさることで本来の力を発揮する設計です。

電気溶融炉は計画を見直し

すべてが順調というわけではありません。還元鉄を溶かしてスラグと分ける電気溶融炉の開発では、炉内の原料の動きが想定以上に複雑だと分かりました。

経済産業省は2026年1月の審議会で、計画の見直し案を示しました。実炉の5分の1規模の中規模試験炉での実証をやめ、65分の1規模の小規模試験炉と数理モデルを組み合わせる形にする内容です。

この見直し案では、このテーマの国費負担の上限を230億円から122.6億円に減らし、途中審査(ステージゲート)を2027年度から2028年度に移すとしています。研究開発の目標自体は変えていません。

製鉄用の大型電気溶融炉はまだ世界に存在しない設備であり、開発の難しさを示す例といえます。

実用化はいつか|ロードマップと残る課題

経済産業省の資料(2026年1月)によると、所内水素などを使う高炉水素還元は2030年度までに商用炉へ実装する計画です。

外部の水素を使う高炉水素還元は2030年度までに技術を確立し、2040年代に実装可能とする計画です。直接還元炉は、2040年代半ばの実装が見込まれています。

図8:水素還元製鉄と電炉転換のロードマップ

電炉は2020年代後半、水素を本格的に使う技術の実装は2040年代が目安です。

2026年度君津第2高炉で実機実証を開始予定所内水素ベースのガスを4,500m3の大型高炉に吹き込む
2027年3月までカーボンリサイクル高炉の成果取りまとめJFEスチール千葉の150m3試験高炉
2028年度JFEスチール倉敷の革新電気炉が稼働予定年約200万トン。電磁鋼板・高張力鋼板を狙う
2028〜2029年度下期日本製鉄の周南・八幡・広畑で電炉が稼働予定3拠点で年約290万トン
2030年度まで所内水素による高炉水素還元を商用炉に実装製鉄プロセスのCO2を30%以上削減する目標
2040年代外部水素による高炉水素還元の実装、直接還元炉は2040年代半ば高炉のCO2を50%以上削減する技術の本格展開
2050年鉄鋼業のカーボンニュートラル複数ルートとCCUSの組み合わせで目指す

※経済産業省資料(2026年1月)、NEDOグリーンイノベーション基金トピックス(2026年8月)、各社発表をもとに作成。時期は計画・予定であり、変わる可能性があります。

つまり、2030年までに現れるのは主に「高炉のCO2を1〜3割減らす技術」と「電炉への一部転換」です。水素を大量に使ってCO2を半減以上させる技術が商用規模で動くのは、2040年代というのが現時点の計画上の目安です。

水素と電力をどこから調達するか

NEDOは社会実装の課題として、次の3つを挙げています。

  • グリーン水素の大量かつ安価な供給
  • クリーンな電力の大規模な確保
  • CO2を地下に貯めるCCSのインフラ整備

JFEスチールの試作では山梨から水素をトレーラーで運びましたが、製鉄所の規模になれば必要な量は桁違いです。

電炉も同じで、電力のCO2が大きければ削減効果は薄まります。水素還元製鉄の実用化は、鉄鋼メーカーの努力だけでなく、国の水素・電力政策とセットで進むものといえます。

コストを誰が負担するか

水素や大型電炉を使えば、当面は鋼材の製造コストが上がります。そこで議論されているのが、CO2削減の価値を上乗せして販売する「GXスチール」の市場づくりです。

2025年1月には、経済産業省の「GX推進のためのグリーン鉄研究会」がその考え方を取りまとめました。

日本製鉄は、CO2削減の価値をバリューチェーン全体で負担する市場の形成を課題に掲げています。国の排出削減目標やGX投資の流れについては、脱炭素が製造業で注目される背景で整理しました。

鋼材の取引先と現場への影響

倉庫の床に並ぶ冷延鋼板コイルを真上から見た様子

低CO2鋼材の選択肢が増える

鋼材を買う側にとって、変化はすでに始まりました。神戸製鋼所のKobenable Steelのように、削減したCO2を製品に割り当てて販売する低CO2鋼材はすでに販売されています。高炉メーカー各社もGXスチールの供給を打ち出しています。

取引先から製品のCO2排出量を求められる場面では、鋼材の排出係数が結果を大きく左右します。製品のカーボンフットプリント算定の手順を踏むと、どの鋼材をどのメーカーから買うかが、自社製品のCO2に直結することが見えてきます。

購買・品質・設備の現場で起きること

電炉でつくる高級鋼が出てくると、購買や品質保証の部門では、従来の高炉材との性能差や材料認定の要否を確認する場面が増えると考えられます。価格にCO2削減の価値が上乗せされる場合は、その費用を誰が負担するかという交渉も必要になります。

鉄鋼メーカーや設備を建設するエンジニアリング会社の側では、水素の供給設備、大型電炉、CO2の回収設備など、新しい設備の設計・建設・保安の仕事が生まれます。

高炉の操業で培ってきた知見に、電炉や水素の扱いを加えた人材が求められる流れは、今後さらに強まりそうです。

まとめ

この記事のまとめ
  • 水素還元製鉄は、鉄鉱石の還元剤をコークスから水素に置き換え、CO2の代わりに水を出す技術
  • 高炉水素還元、水素直接還元+電炉、スクラップ+電炉の複数ルートを並行して開発している
  • 水素の還元は吸熱反応で、加熱水素の安全な供給や鉱石の品位・不純物が壁になる
  • 試験高炉でCO2削減45%を達成し、君津第2高炉の実機実証は2026年度中に始まる予定
  • JFEスチールと日本製鉄は電炉転換を決定。水素を本格的に使う技術の実装は2040年代が目安

水素還元製鉄は、鉄鋼メーカー各社の経営戦略そのものに関わるテーマです。各社の規模や強みの違いは鉄鋼・非鉄金属業界の主要企業と勢力図、製鉄所を含む工場のエネルギー対策は工場の省エネの仕組みと基本もあわせてご覧ください。

電炉や水素設備の建設を担う側の顔ぶれは、プラント業界の主要企業と勢力図で鉄鋼メーカー系のエンジニアリング会社を含めて紹介しています。

出典

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MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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