3Dプリンティングの主な用途と導入事例|業界別の活用方法を解説

金属3Dプリンターで造形した複雑な部品を検査する技術者

製造業での3Dプリンティングの使い道は、大きく6つに分けられます。試作品、治具(作業で部品を固定する道具)などの現場の道具、量産部品、修理用の補修部品、鋳物をつくるための型、医療器具のように使う人に合わせて形を変える製品です。

なかでも試作は最も歴史が長く、今も利用の中心です。一方で、航空機エンジンの部品のように、製品としてそのまま使われる部品も増えています。

工業分野では付加製造(AM:材料を足して形をつくる加工)と呼ばれ、試作の道具から生産の手段へと役割を変えつつあります。

この記事では、3Dプリンティングの主な用途、業界別の活用方法、企業や公的機関が公表している導入事例を紹介します。あわせて、導入の進め方、関わる仕事と求められるスキルという順で整理します。

目次

3Dプリンティングの主な用途

3Dプリンターでつくった試作品や治具などの樹脂部品

製造業での3Dプリンティングの使い道は、大きく次の6つに分けられます。どの用途から始めるかによって、選ぶ装置や材料、期待できる効果が変わります。

図1:3Dプリンティングの6つの主な用途

試作から最終製品まで、ものづくりのさまざまな段階で使われています。

試作形や組み付けを確認する試作品を短期間でつくる
治具・工具組立や検査で使う治具を現場に合わせてつくる
最終製品・量産部品金属や樹脂の部品を製品としてそのまま使う
補修部品金型のない古い部品をデータから再生産する
鋳造用の型砂型や中子を木型なしで直接つくる
個別対応品医療器具など一人ひとり形の違うものをつくる

試作(ラピッドプロトタイピング)

最も歴史が長く、今でも利用の中心にある用途です。設計した形をすぐに手に取れるため、次のような目的に使われます。

  • 見た目の確認
  • 他部品との組み付け確認
  • 簡単な機能試験

外注で数週間かかっていた試作を社内で数日に短縮できれば、設計の見直しを何度も回せます。開発の初期に問題を見つけて、後工程の手戻りを減らすことが、試作に使う一番の目的です。

治具・工具

現場で使う道具づくりにも広く使われています。代表的なのは次のような道具です。

  • 組立ラインで部品を固定する治具
  • 検査で使うゲージ
  • ロボットの先端に付けるハンド

数が少なく形が現場ごとに違う道具は、3Dプリンティングと特に相性が良い対象です。現場の声を聞きながら、その日のうちに改良版をつくれることから、導入の最初の一歩として選ばれることも多い用途です。

最終製品・量産部品

金属3Dプリンターの性能が上がり、航空機エンジンの部品やモータースポーツ用の部品、医療用インプラントなど、製品としてそのまま使われる部品も増えています。

複数の部品を一体化したり、内部に複雑な流路を通したりと、3Dプリンティングでなければつくれない形で性能を高める使い方が中心です。そのぶん、品質を保証するための検査や管理には多くの手間がかかります。

補修部品と鋳造用の型

生産を終えた製品の補修部品は、金型が残っていなかったり、少量のため型を起こすと割に合わなかったりします。データから必要な数だけ造形できる3Dプリンティングは、こうした部品の供給に向いています。

また、鋳物をつくるための砂型を、木型を使わずに直接造形する使い方もあります。完成品そのものではなく、ほかの工法を支える「型」をつくるという点で、既存のものづくりと組み合わせやすい用途です。

業界別の活用方法

金属3Dプリント部品を手にする自動車開発の技術者

3Dプリンティングの使い方は、業界によって重視される点が異なります。主な業界での活用のされ方を比べてみます。

図2:業界別に見た3Dプリンティングの使われ方

同じ技術でも、業界によって狙いと使う材料が変わります。

主な用途
重視される点
航空宇宙
エンジン部品、ブラケット、試作部品
軽量化、部品の一体化、厳格な品質保証
自動車
試作、治具、補修部品、モータースポーツ部品
開発期間の短縮、少量部品の供給
産業機械・金型
金型の冷却部品、治具、鋳造用の砂型
生産性の向上、型づくりの期間短縮
医療・歯科
インプラント、手術用模型、歯科の模型
一人ひとりに合わせた形状

※代表的な使い方をまとめたものです。企業や製品によって使い方は異なります。

航空宇宙

航空宇宙は、3Dプリンティングの量産活用が最も進んでいる分野の一つです。機体やエンジンは1グラムでも軽くしたいため、形の自由度を生かした軽量化や部品の一体化の効果が大きく表れます。

一方で、安全性への要求は極めて厳しく、材料や造形条件、検査方法まで細かく管理されます。業界の構造については航空宇宙・造船業界の記事で詳しく解説しています。

自動車

自動車では、新型車の開発で使う試作部品や、生産ラインの治具に早くから使われてきました。近年は、生産を終えた車種の補修部品や、少量生産のモータースポーツ部品にも用途が広がっています。

開発の現場では、エンジンルームや内装の部品を試作して組み付けを確かめる用途があります。組立ラインの作業者に合わせた治具をすぐにつくるなど、日常的な道具として定着しつつあります。

量産車の部品は生産台数が多いため、コスト面では従来工法が有利な場面がほとんどです。「少量」「短期間」「複雑形状」のいずれかに当てはまる部品が、主な対象になります。業界の全体像は自動車業界の記事もご覧ください。

産業機械・金型

金型の分野では、内部に形に沿った冷却水の通り道を持つ部品を造形し、成形の冷却時間を短くする取り組みが知られています。鋳造では、砂型を直接造形して木型づくりの手間を省く使い方があります。

金型やプレス、機械加工の現場では、3Dプリンティングは既存の加工と競合するというより、組み合わせて生産性を高める道具として使われています。関連する業界は金型・プレス・機械加工業界の記事で解説しています。

医療・歯科

医療の分野では、患者のCT画像などから体の形に合わせたインプラントや手術前の確認用模型をつくる用途があります。歯科でも、歯型の模型やマウスピースなどに使われています。

一つずつ形が異なる製品を同じ手間でつくれる点が、医療分野と相性の良い理由です。ただし医療機器として使う場合は、法規制に沿った承認や品質管理が必要になります。

導入事例

砂型3Dプリンターで造形した鋳型を取り出す作業者

ここでは、企業や公的機関が公式に公表している3Dプリンティングの活用事例を紹介します。数値はいずれも各社・各機関の発表時点のものです。

航空機エンジンの燃料ノズル(GE Aviation)

GE Aviation(現GE Aerospace)は、旅客機用エンジン「LEAP」の燃料ノズル先端部を金属3Dプリンターで量産しています。

同社の2018年の記事によると、従来は20個の部品を溶接していたものを1つの部品に一体化し、重量は25%軽く、耐久性は5倍になったといいます。

クルミほどの大きさの燃料ノズルの内部には、14本の細かな流路が通っています。従来はこれを多くの部品の組み合わせで実現する必要がありました。一体で造形することで、溶接や組立の工程そのものを減らせた点も大きな効果です。

生産数は2017年に8,000個に達し、2018年10月時点で累計3万個を超えました。3Dプリンティングが試作ではなく、航空機エンジンの量産部品として使えることを示した代表的な事例です。

生産終了車の補修部品(日産自動車)

日産自動車は2021年3月、R32型スカイラインGT-R用の補修部品「NISMOヘリテージパーツ」に新たな部品を加えたと発表しました。3Dプリンターで製作した樹脂部品のハーネス用プロテクターです。

造形はSOLIZE株式会社と協力して行っています。

ハーネス本体のサプライヤーとも協力し、3Dプリンターの性質に合わせた再設計と性能試験を行ったうえで、短期間での商品化を実現しています。金型を新たにつくらずに、生産終了車の部品を供給するという使い方の好例です。

F1パワーユニット部品(本田技研工業)

Hondaは、F1用パワーユニットのピストンやタービンハウジングを金属3Dプリンターで造形しました。2020年シーズンの途中から実戦に投入したと、2025年2月の公式記事で紹介しています。

アルミ鍛造だったピストンは鉄に材料を置き換えながら、従来より軽く仕上げられたとしています。

同社はこのほか、車いすレーサーのハンドルにも金属3Dプリンターを活用し、選手に合わせた形状と軽量化の両立に取り組んでいます。少量で高い性能が求められる部品ほど、3Dプリンティングの効果が大きく表れることがわかります。

鋳造用の大型砂型3Dプリンター(NEDO・TRAFAM・シーメット)

NEDOの事業で、技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)が技術を開発しました。この技術をもとに、シーメット株式会社が大型の鋳造用砂型3Dプリンター「SCM-1800」を製品化し、2018年5月に発表しました。

造形速度は毎時10万cm3で、従来製品と比べて速さと大きさがそれぞれ10倍になったとしています。

発表では、ターボチャージャーの中子を一晩で約460個つくれるとされています。国内の技術開発プロジェクトから生まれた装置が、自動車や産業機械の鋳造現場を支えている例と言えます。

導入の進め方

造形サンプルを囲んで導入を検討するチーム

3Dプリンティングの導入は、装置を買うことから始めると失敗しやすいと言われます。目的の整理から社内への展開まで、次のような流れで進めるのが一般的です。

図3:3Dプリンティング導入の進め方

検討、検証、本格導入の3つの段階に分かれます。

検討
01目的の明確化期間短縮、軽量化、在庫削減など狙いを決める
02対象部品の選定少量・複雑形状など効果の出やすい部品を選ぶ
03方式・材料の選定必要な強度や精度から方式と材料を絞り込む
検証
04試し造形造形サービスなどを使い、実物で評価する
05設計の見直し一体化や軽量化などAM向けに形を変える
06費用対効果の試算装置・材料・後処理を含めて従来と比べる
本格導入
07保有か外部委託か装置を持つか、外部に任せるかを判断する
08品質基準の整備造形条件や検査の方法を標準として定める
09人材育成と展開担当者を育て、他の部品や部署に広げる

※小さく始めて効果を確かめ、段階的に広げるのが一般的です。

検討:目的と対象を絞り込む

最初に決めるべきは、何のために3Dプリンティングを使うのかです。試作の期間を短くしたいのか、部品を軽くしたいのか、補修部品の在庫を減らしたいのかによって、選ぶべき方式も装置も変わります。

対象部品は、少量で形が複雑なもの、納期が厳しいものなど、従来工法との差が出やすいものから選ぶのが基本です。

検証:実物で確かめる

いきなり装置を買わずに、造形サービス会社に依頼して実際の部品を評価するのが一般的です。強度や精度、後処理にかかる手間を実物で確認できます。

評価では、寸法や強度だけでなく、造形の向きを変えたときの違いや、後処理にかかる時間も記録しておきます。社内で装置を持つかどうかを決めるときの判断材料になります。

このとき、従来の図面をそのまま造形するだけでなく、3Dプリンティング向けに設計を見直した場合の効果も比べておくと、導入の判断がしやすくなります。

本格導入:仕組みとして定着させる

効果が確認できたら、装置を保有するか外部委託を続けるかを判断し、造形条件や検査の方法を社内の標準として整えます。造形の頻度が低いうちは外部委託、社内での利用が増えてきたら装置の保有を検討する、という段階の踏み方もよく見られます。

担当者が1人しかいない状態では、異動や退職で使われなくなるおそれがあります。複数の人が使える体制をつくり、成功した事例を他の部品や部署に広げていくことが大切です。

導入後も、造形した部品の品質データや、従来工法と比べて削減できた時間・費用を記録しておくと、次の投資を判断する材料になります。効果を数字で示せるかどうかが、社内での定着を左右します。

3Dプリンティングに関わる仕事と求められるスキル

造形データを準備する若手技術者

3Dプリンティングは特定の部署だけで完結する技術ではなく、設計から生産、品質保証まで多くの職種が関わります。

図4:3Dプリンティングに関わる主な職種

それぞれの立場で、求められる知識が少しずつ異なります。

機械設計一体化や軽量化など、AMを生かす形を設計する
生産技術装置の選定、造形条件の設定、工程への組み込み
研究開発新しい材料や造形プロセスを開発・評価する
品質保証造形品の検査方法や品質基準をつくる

設計者に求められるのは、3D CADの操作に加えて、積層方向やサポートを意識した設計、トポロジー最適化などの考え方です。AMを前提にした設計(DfAM)ができる人材は、まだ多くないのが現状です。仕事の全体像は機械設計とはで解説しています。

生産技術の担当者は、装置の選定や造形条件の調整、後処理を含めた工程づくりを担います。材料や熱処理の知識に加え、従来工法とのコスト比較ができることも重要です。詳しくは生産技術とはをご覧ください。

このほか、装置メーカーや造形サービス会社では、顧客の部品に合った方式や材料を提案する技術営業や、造形と後処理を担うオペレーターの仕事もあります。ものづくりの現場と3Dプリンティングの両方を理解している人材は、どの立場でも重宝されます。

研究開発や品質保証の部門では、材料の特性評価や、内部の欠陥を見つける検査技術、統計的な品質管理の知識が求められます。3Dプリンティングは新しい分野のため、職種の垣根を越えて学び続ける姿勢が何より大切と言えます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 3Dプリンティングの主な用途は、試作、治具、量産部品、補修部品、鋳造用の型、個別対応品
  • 航空宇宙、自動車、金型・産業機械、医療など、業界ごとに重視する点が異なる
  • GEの燃料ノズルやHondaのF1部品など、量産・実戦で使われる事例が公表されている
  • 導入は目的と対象部品を絞り、造形サービスで検証してから段階的に進めるのが基本
  • 設計、生産技術、研究開発、品質保証など、多くの職種がAMの知識を求められている

3Dプリンティングの仕組みや方式の違いは3Dプリンティングとは?仕組みと基本原理で解説しています。注目される理由や従来技術との違いは3Dプリンティングが注目される背景と従来技術との違いをご覧ください。

3Dプリンティングの最新動向や関連記事については、3Dプリンティングの技術ページから関連記事もあわせてご覧ください。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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