石炭の燃料比は、工業分析で得られる固定炭素を揮発分で割った値です。石炭化の進み具合や着火・燃え切りを考える目安になりますが、発熱量や燃焼効率そのものを示す数値ではありません。
計算では、固定炭素と揮発分を同じ分析基準でそろえることが出発点です。定義と計算例を確認したうえで、石炭化度、粉砕性、粘結性、燃焼性を分けて読み、分析表を設備の判断へつなげます。
石炭の燃料比とは?
石炭の燃料比はfuel ratioと呼び、FRやF.R.と表します。固定炭素と揮発分の質量百分率の比なので単位はなく、どちらの分析値も同じ試料・同じ基準へ換算してから計算します。
工業分析は、水分、灰分、揮発分、固定炭素という四つの項目で石炭を評価します。固定炭素は独立に炭素原子だけを測った値ではなく、水分・灰分・揮発分の合計を100%から差し引いて求める分析上の値です。
例えば水分5%、灰分10%、揮発分35%という同一基準の分析値を仮定します。固定炭素は50%となるため、燃料比は50÷35≒1.43であり、小数一桁なら約1.4です。
図1:工業分析の固定炭素は、三項目を差し引いて求める
石炭の中に四つの層が分離して存在するという意味ではなく、試験方法で区分する項目です。
数値は本文の仮定例。器具は項目の説明用で、同じ試料をこの順番だけで試験する操作手順ではありません。
水分は乾燥時の減量などから求め、揮発分は空気との接触を避けた所定の加熱試験で評価します。揮発分の測定では水分による減量を区別するため、単なる「加熱して軽くなった量」ではありません。
固定炭素の主体は炭素ですが、炭素以外の成分も含みます。また、石炭中の炭素の一部は乾留時にガスなどへ移るため、元素分析の炭素百分率と固定炭素百分率が同じになるわけではありません。
発熱量は、完全燃焼でどれだけの熱が出るかという別の測定量です。燃料比から一意には換算できず、熱量の評価には固体燃料の発熱量の測定方法を確認して、必要な分析値を用意します。
分析基準をそろえる:受入・乾燥・無水無灰
分析表には、受け入れた水分を含む受入基準、調製した分析試料の基準、水分を除いた乾燥基準などがあります。無水無灰基準は水分と灰分を除いて正規化したもので、表の%の分母が変わります。
先ほどの例を受入基準100kgと仮定すると、水分を除いた質量は95kgです。乾燥基準では固定炭素が50÷95×100≒52.63%、揮発分が35÷95×100≒36.84%となります。
図2:基準を変えると、同じ試料を割る分母が変わる
物質を新しく生成する計算ではなく、同じ成分量をどの全質量で割るかの整理です。
数値は仮定例。灰分の除外は分析表示上の換算であり、灰だけを物理的に抜く操作の図ではありません。
無水無灰基準でも、固定炭素と揮発分を85kgで割るため、58.82%と41.18%になります。両方を同じ方法で換算した燃料比は約1.43のままで、乾燥したから石炭化が進んだとは解釈しません。
一方、固定炭素だけ乾燥基準の52.63%へ直し、揮発分は受入基準の35%を使うと約1.50になります。このずれは燃料の変化ではなく基準混在による計算ミスなので、列見出しと脚注を先に確認します。
比が同じでも、水分や灰分が多い燃料は受入質量あたりの性状が異なります。発熱量を比較するときも、分析基準に加えて高位発熱量と低位発熱量の違いをそろえ、同じMJ/kgという表記だけで判断しません。
石炭化度と燃え方の傾向
植物起源の物質が地中で熱や圧力を受け、炭素に富む石炭へ変わる過程を石炭化と呼びます。一般に石炭化が進むと揮発分が減り、固定炭素との比である燃料比が高くなる傾向があります。
石炭化度の高い側から並べると、無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭という関係です。日本では一般に無煙炭から褐炭までを石炭と呼びますが、分類方法と用途区分は同じではありません。
元素炭素90%や83%といった数値だけで、すべての分類の境界を決めることはできません。元素分析の基準も分類規格も複数あり、燃料比、補正した発熱量、粘結性などを組み合わせる分類もあります。
無煙炭は一般に揮発分が少なく、褐炭や亜瀝青炭は比較的揮発分が多い側に位置づけられます。ただし、銘柄ごとの値と実機での性能は分析表で確認し、名称だけで燃料の良否を決めないことが大切です。
| 観点 | 燃料比が高い側の傾向 | 燃料比が低い側の傾向 |
|---|---|---|
| 成分の関係 | 固定炭素に対して揮発分が少ない | 固定炭素に対して揮発分が多い |
| 着火・燃え切り | 着火やチャーの燃え切りに配慮 | 揮発分の着火を得やすい傾向 |
| 火炎長の読み方 | 燃料比だけで短いとは決めない | 揮発分が多くても空気との混合条件で変わる |
| 代表的な位置づけ | 無煙炭など | 褐炭・亜瀝青炭など |
| 評価の限界 | 粒度、水分、温度、空気混合、炉の滞留時間でも変わる。火炎長や黒煙を比だけで断定しない。 | |
揮発分が多くても、それが空気と十分に混ざらなければ、すすや黒煙の原因になります。反対に、燃料比が高いから必ず短い炎で完全燃焼するわけではなく、粒子の燃え切りとガスの混合を別に確認します。
石炭火力の設備と炭種の見た目は、次の紹介動画も参考になります。映像では設備と燃料の組合せに注目すると、石炭の性状を実際の利用方法と結びつけて理解しやすくなります。
混炭は燃料比を平均せず、成分量を合算する
複数の石炭を混ぜるときは、各炭の燃料比をそのまま平均しません。同じ基準へそろえた固定炭素と揮発分を、混合する質量に応じてそれぞれ合算し、その後で比を計算します。
説明用に、A炭をFC50%・VM35%、B炭をFC70%・VM15%と仮定します。両方を同じ基準で等質量混合すれば、混炭のFCは60%、VMは25%なので、燃料比は2.4です。
実際の混炭では、水分が違う二銘柄の受入質量比と、乾燥した質量比も異なります。納入量を何の基準で計量したかを記録し、混合後の代表試料の分析結果と計算を照合します。
石炭の性質は?
燃料比だけでは、粉にしやすいか、加熱するとまとまるか、炉内で燃え切るかは決まりません。石炭の性質は、粉砕性・粘結性・燃焼性などを別々の試験と指標で評価します。
微粉炭を使う設備では、燃料を適切な粒度へ粉砕してから炉へ送り、燃焼した熱を水へ渡します。全体の位置づけはボイラーの仕組みと燃料の役割を押さえると、分析値がどの工程へ効くかを追いやすくなります。
一つの指標が改善しても、別の工程の制約が残る場合があります。例えば着火しやすい燃料でも、粉砕や乾燥に必要な能力が設備を超えるなら、そのまま使用量を増やせるとは限りません。
粉砕性

粉砕性は、石炭を細かく砕きやすいかを示す性質です。代表的な指標がハードグローブ粉砕性指数で、HGIが大きいほど、規定条件の試験では粉砕しやすいことを意味します。
試験では、乾燥・縮分・整粒した試料へ決められた条件で粉砕作用を加えます。その後にふるい分けて細かくなった試料の量を求め、基準となる石炭と比較する指数として表します。
図3:HGIは規定の粉砕作用と、ふるい下の量で比較する
材料を握った感触や、ミルの見かけの大きさでは決めません。
日鉄テクノロジーのJIS M 8801準拠試験の説明を参考にした模式図。規格の全操作手順を代替するものではありません。
日鉄テクノロジーの説明では、調製した試料50gを鋼球の入った粉砕室で60回転させ、75μmのふるいで評価します。再現性を得るには試料粒度や水分、荷重、回転数などをそろえる必要があります。
したがって、単に「一定時間だけ砕く試験」と覚えると条件を取り違えます。試験装置の規定回転と、実際の微粉炭ミルを運転する時間や能力は別であり、HGIだけから必要モーター容量を直接決めることもできません。
また、HGIは硬さの絶対値ではなく、規定の方法で求める相対的な粉砕しやすさです。銘柄や保管条件の違いを比べる際は、試料調製と分析方法をそろえた報告書を使います。
粉砕しにくい燃料への変更では、目標粒度を保ったまま供給できる量が制約になる場合があります。ミルの処理量、製品粒度、差圧や動力を同じ負荷条件で確認し、燃料比だけに原因を求めないようにします。
粘結性
粘結性は、石炭を加熱したときに軟化・溶融し、流動や膨張を経て再び固まる性質です。この性質を持つ粘結炭はコークスの原料になりますが、すべての石炭が同じように固まるわけではありません。
簡便な評価の一つが、るつぼに試料を入れて規定条件で加熱し、残ったコークスの形を標準輪郭と比べる試験です。結果をるつぼ膨張指数、ボタン指数などで表し、膨らんだ高さだけを任意に採点する方法ではありません。
図4:加熱でまとまる性質と、できたコークスの強度は別
るつぼ残渣の形を標準輪郭と比較する試験の概念。輪郭は説明用で、規格の採点図ではありません。
粘結性、膨張性、流動性、コークス強度には別の評価方法があります。一つの試験値だけで実機適合を確定しません。
粘結性が高ければ、必ず強度の高いコークスになるとは限りません。生成物の強度まで含めたコークス化性や配合条件も必要であり、るつぼ試験の膨張と実際の炉の膨張を同じ量として扱わないことが重要です。
原料と加工品の違いは、石炭からコークスをつくる乾留と用途で確認できます。燃料として熱を得たいのか、高炉で使う強度や還元材としての働きが必要なのかで、重視する分析項目も変わります。
風化や酸化、粒度、加熱条件も評価に関係するため、過去の銘柄名だけで現在の試料の粘結性を保証できません。調達仕様では試験法と採取時期を示し、供給ロットの結果と使用実績を対応させます。
粘結性が必要な原料用途と、粉砕・燃焼させる一般炭用途では、同じ値でも意味が異なります。燃料比の高低で粘結性を代用せず、目的に合った試験結果を別に確認することが選定の基本です。
燃焼性
燃焼性は、着火から燃え切るまでの反応の進みやすさに関係する性質です。揮発分が比較的多い石炭は着火を得やすい傾向がありますが、水分、発熱量、粒度、加熱速度なども結果を左右します。
加熱された粒子から揮発分が放出され、そのガスが燃える過程と、残った炭素質のチャーが酸素と反応する過程は異なります。最初に火が付いたことと、炉の出口までに粒子が燃え切ったことを分けて評価します。
図5:着火を見た後も、粒子の燃え切りを確認する
炉内の温度・酸素・滞留時間によって結果は変わります。反応域は説明上分けてあり、実際には重なります。
実際の炉内分布や試験装置の寸法を示す図ではありません。燃料比に加え、燃焼条件と灰の分析をそろえます。
IHI検査計測の2005年の技術紹介では、示差熱重量分析と反応管によって石炭の燃焼性を評価しています。対象の試験では燃料比と燃え切り・未燃分に相関が見られますが、灰分も評価へ関係すると報告しています。
このような試験結果は、供試炭、温度、空気比、採取位置などの条件を伴います。回帰式や実験条件を、別の炉に共通する保証値や推奨設定へそのまま転用するのではなく、評価方法の参考として使います。
灰の中に何%の未燃分があるかと、もとの可燃分の何%が燃え残ったかでは分母が異なります。灰の量自体が変われば、同じ燃え残りでも灰中の濃度が変わるため、両者の分母を区別します。
灰を採る場所も明確にします。炉底灰と排ガス側で回収する飛灰の違いのように、回収経路が違う試料を無条件に比較せず、燃料の分析と対応する記録を残します。
燃料比を変えることと、燃焼用空気を調整することは別の操作です。空気の過不足は理論空気量に対する空気比で評価し、燃料のFC/VMと同じ数値として扱わないようにします。
流量の関係を保つ燃料と空気の比率制御も、燃料比の分析とは役割が異なります。銘柄変更では分析値と供給量、ミルとバーナーの適用範囲を照合して条件を決めます。
設備全体の効率は、燃焼後にどれだけ熱を蒸気へ回収できたかにも左右されます。燃料比の高低をボイラー効率の入出熱と損失へ直接読み替えず、排ガスや放熱なども含めた収支で評価します。
受入検査では、分析値だけでなく、試料がどのロットを代表するかを記録します。大きな塊と細粉、水分の多い場所が偏った状態から少量を取ると、計算が正しくても実際に使用する燃料全体の評価とは合わなくなります。
分析を依頼する際は、採取場所と時期、試料調製、適用した試験法、分析基準を報告書へ残します。保管中に水分や酸化状態が変わる場合もあるため、供給者の仕様書と現場採取試料の差を、直ちに分析ミスとは決めつけません。
固定炭素は三項目から求める差引値なので、各測定の誤差や表示の丸めも結果へ入ります。揮発分が小さい試料では分母の小さな変化が比へ大きく効くため、少数桁の燃料比の差だけを燃焼性能の優劣とみなさないようにします。
例えば固定炭素60%、揮発分20%なら燃料比は3ですが、揮発分10%なら同じ固定炭素でも6です。これは分母が違う計算例であり、前者より後者の発熱量が2倍、必要空気量が2倍という意味にはなりません。
燃料変更の評価表では、分析項目と設備の観測項目を対応させておくと判断しやすくなります。粉砕の問題は粒度とミル負荷、燃え切りは灰と排ガス、熱回収は蒸気と損失に分け、同じ原因を異なる指標で重ねて結論づけないようにします。
燃料比を読むときのよくある質問
燃料比が高い石炭ほど良質ですか?
用途と設備の条件によって評価は変わります。燃料比は石炭化や燃焼性の目安であり、発熱量、粉砕性、灰の性質、必要なコークス強度などを一つの順位にまとめる指標ではありません。
固定炭素には元素分析の炭素量を使えますか?
使えません。固定炭素は工業分析の差引値であり、元素分析の炭素量とは測定の定義が異なるため、固定炭素と揮発分の組合せを同じ基準で使います。
乾燥基準へ換算すると燃料比は上がりますか?
同じ試料のFCとVMを同じ係数で正規化するだけなら、丸め差を除いて変わりません。比の変化が見えた場合は、基準混在や別ロットの値、試料の変質がないかを調べます。
HGIが大きければ燃えやすいといえますか?
HGIが示すのは規定試験での粉砕しやすさです。粒度を整える工程には関係しますが、着火やチャーの反応性まで保証する値ではないため、燃焼性は別に確認します。
燃料比をそのまま空気比の設定へ入れられますか?
入れられません。空気比は供給空気と理論空気の関係であり、燃料比はFCとVMの関係なので、分析表の数値を燃焼制御の設定値として流用しないでください。
まとめ
石炭の燃料比は、同一分析基準の固定炭素を揮発分で割って求めます。石炭化度と燃え方を考える手掛かりにしながら、粉砕性・粘結性・燃焼性はそれぞれの試験と使用条件で確認します。
- 固定炭素は工業分析の差引値で、元素炭素とは異なる
- FCとVMの基準をそろえ、混炭は成分量を合算してから割る
- HGI、るつぼ膨張指数、燃焼性の評価を相互に代用しない
- 実機への適用は分析表、燃焼試験、設備仕様と運転実績を合わせる
出典・参考資料
- 『国内外のエネルギー動向に関する調査・分析』報告書(2018年3月、国立国会図書館保存):PDF124頁、脚注7の炭種順序と日本で一般に石炭と呼ぶ範囲。
- カーボンフロンティア機構:石炭の分析:工業分析、固定炭素、燃料比、粉砕性と粘結性。
- カーボンフロンティア機構:JIS規格と日本炭の分類:分類の指標と基準。掲載年版を現行規格の保証として使いません。
- ASTM D7582-24公開概要:工業分析の項目と同一基準の差引計算。
- 日鉄テクノロジー:ハードグローブ粉砕性指数測定:HGIの試験と大小の意味。
- JOGMEC:平成24年度海外炭開発支援事業報告:冊子33頁、るつぼ膨張指数と標準輪郭の比較。
- ASTM D720/D720M-25公開概要:小規模の膨張試験と実炉膨張の区別。
- IHI検査計測:石炭の燃焼性評価手法の紹介:2005年、燃料比と灰分、燃焼性を試験条件の下で評価した技術報告。
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