設備が故障したとき、生成AIに症状を伝えて、原因の候補と対策を挙げてもらう。製造業では、文章をつくり要点をまとめる生成AIが、こうした保全(設備の点検や修理)の仕事にも使われ始めています。
品質管理の規程を調べる、設計の知見を引き継ぐ、報告書や議事録の下書きをつくるなど、使い道は幅広くあります。大手メーカーを中心に、効果の数字を公表する企業も出てきました。
この記事では、生成AIの主な用途、業界別の活用方法、実際の導入事例、導入の進め方、生成AIに関わる仕事と求められるスキルという順で整理します。
生成AIの主な用途

製造業での生成AIの使い道は、扱う情報によって大きく6つに分けられます。いずれも「文書や知識を扱う仕事」を助けるという点で共通しています。
文書や知識を扱う仕事で、使い道が広がっています。
文書作成・要約・翻訳
最も取り組みやすいのが、文書まわりの作業です。次のような文書の下書きを生成AIに任せ、人は内容を確かめて仕上げます。
- 日報
- 不具合報告
- 会議の議事録
- 顧客への回答書
海外拠点や海外の取引先とのやり取りが多い会社では、翻訳や英文メールの作成にも使われています。最初の一歩として導入しやすく、効果を実感しやすい用途と言えます。
たとえば、品質会議のメモを渡して報告書の形式に整えさせる、長い技術資料の要点を3行にまとめさせるといった使い方は、特別な準備なしにすぐ試せます。まずはこうした身近な作業で慣れてから、社内データと組み合わせた使い方へ進むのが一般的です。
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社内ナレッジの検索と回答
社内には、次のような膨大な文書があります。
- 品質規程
- 作業標準
- 過去の不具合報告
- 設計の検討記録
生成AIと社内文書の検索を組み合わせると、質問するだけで関連する文書を探し、要点をまとめて答えてくれます。
この仕組みはRAG(検索拡張生成)と呼ばれ、多くの企業が社内向けの生成AIに取り入れています。回答の根拠となった文書を示せるため、人が元の資料を確かめながら使えるのが利点です。
設計・開発の支援
設計や開発では、過去の設計報告書や試験結果、法規制の情報を調べる時間が大きな負担になっています。生成AIを使えば、関連する過去の検討や注意点を短時間で洗い出せます。
製品デザインの初期案を大量に出して比較したり、仕様書の抜け漏れを確認したりする使い方もあります。ただし寸法や強度の最終判断は、CAD・CAEによる検討と設計者の確認が前提です。
設備保全とトラブル対応
設備が故障したとき、原因の見当をつけるまでに時間がかかるのは、経験の浅い保全担当者に共通する悩みです。保全記録や設備の図面を生成AIに参照させると、考えられる原因と対策の候補をすぐに示せるようになります。
センサーのデータから故障の予兆を見つける予知保全と組み合わせ、「予兆を検知したら、対応手順を生成AIが示す」という連携も考えられます。
プログラム作成と教育
生産データを集計するスクリプトや、設備の制御プログラムの下書きをつくる用途もあります。専門の担当者でなくても、簡単なデータ処理なら自分で進められる場面が増えます。
教育の分野では、若手の質問にいつでも答える相談相手としての使い方や、作業手順書をもとに理解度確認の問題をつくる使い方が広がっています。
業界別の活用方法

生成AIの使い方の基本は業界を問わず共通ですが、扱う文書や重視される点は業界によって異なります。代表的な業界での使いどころを整理します。
扱う情報や重視される点によって、使いどころが変わります。
※代表的な例です。同じ業界でも、会社の規模や製品によって使い方は変わります。
自動車
自動車業界は、1台あたりの部品点数が多く、開発に関わる技術者も多い業界です。過去の設計報告書や試験結果、各国の法規制など、参照すべき情報が膨大にあります。
そのため、ベテランの知見や過去の検討内容を引き出す設計・開発の知識基盤として生成AIを使う取り組みが目立ちます。一方で、安全に関わる判断は必ず人が確認する体制が欠かせません。
電機・電子
電機・電子の分野では、製品の世代交代が早く、仕様書や取扱説明書、顧客からの技術問い合わせへの回答など、文書の量が多いのが特徴です。
生成AIで文書の下書きや問い合わせ対応を効率化するとともに、ソフトウェアの比重が大きい製品では、プログラム作成の支援にも使われています。
化学・素材
化学・素材の分野では、実験記録や論文、特許など、研究開発に関わる文献の調査に多くの時間を使います。生成AIで文献の要点を整理し、過去の実験条件を探し出す使い方が考えられます。
ただし、物性値や安全データの誤りは事故につながりかねません。数値は必ず元の資料で確認するという運用を徹底することが前提です。
食品・医薬
食品・医薬品業界では、衛生管理や品質に関する規制に沿って、手順書や製造記録を正確に残すことが求められます。生成AIは、手順書の作成や記録類の整理を支援する道具として期待されています。
一方で、規制に基づく記録そのものは正確さが最優先です。生成AIの出力は下書きにとどめ、承認の手順は従来どおり人が担う形が基本になります。
機械・設備
産業機械や設備のメーカーでは、納めた機械の取扱説明書や保守マニュアルの作成、顧客からの問い合わせやサービス対応に多くの手間がかかります。機種や仕様の違いが多く、担当者が過去の資料を探す時間も少なくありません。
生成AIで過去の対応履歴やマニュアルを検索できるようにすれば、サービス担当者が現地で状況を伝えるだけで、似た事例と対処法を確認できます。ただし、機種ごとの情報を取り違えない仕組みづくりが前提になります。
導入事例

ここでは、企業や協力会社が公式に発表している製造業の事例を3つ紹介します。いずれも、社内の文書や記録を生成AIと組み合わせている点が共通しています。
社内の文書や記録を、生成AIと組み合わせて使っています。
パナソニック コネクト:全社員向けAIアシスタントと品質管理文書
パナソニック コネクトは、2023年2月から、ChatGPTをベースにしたAIアシスタントを国内の全社員約12,400人に展開しました。
2024年6月の発表によると、導入から1年で全社員の労働時間を18.6万時間削減し、1回あたり平均約20分の削減が確認されています。
2024年4月からは、自社固有の品質管理に関する文書630件、11,743ページをもとに回答するAIの活用を始めました。品質管理の規定や過去の事例を参照できるようにしたもので、社員による回答の評価は5点満点で3.5点とされています。
トヨタ自動車:熟練エンジニアの知見を引き継ぐAIエージェント
トヨタ自動車は、パワートレーン(エンジンや変速機など)の開発に携わるエンジニアの知見を引き継ぐため、「O-Beya」と呼ばれる仕組みを2024年1月から運用しています。
日本マイクロソフトの2024年11月の記事によると、振動、燃費、エンジン、法規などを担当する9つのAIエージェントが協力して質問に答えます。
参照するのは、次のような情報です。
- 過去の設計報告書
- 最新の法規制情報
- ベテランエンジニアの手書き文書
パワートレーン関連の開発に携わる約800人のエンジニアが利用しているとされています。
ダイキン工業と日立製作所:設備故障診断のAIエージェント
ダイキン工業と日立製作所は、2025年4月から、ダイキンの堺製作所臨海工場で、設備故障の原因と対策を答えるAIエージェントの試験運用を始めました。設備の図面、保全記録などのデータ、日立の故障原因分析の手順を組み合わせた仕組みです。
日立の発表によると、検証では90%以上の精度で故障の原因と対策を回答でき、10秒以内に診断結果を示せることを確認しています。保全技術者の育成が追いつかない課題を背景にした取り組みで、故障対応の時間短縮を狙っています。
3つの事例に共通するのは、生成AIを単独で使うのではなく、社内に蓄積された品質文書や設計報告書、保全記録と組み合わせている点です。自社のデータをどれだけ整えられるかが、効果を左右すると言えます。
導入の進め方

生成AIの導入は、ツールを契約して終わりではありません。準備、試行、展開の3つの段階で進めるのが一般的です。
準備、試行、展開の3つの段階に分かれます。
※会社の規模や目的によって、順番や範囲は変わります。
準備:目的とルールを決める
最初に決めたいのは、「どの業務の、どんな手間を減らしたいのか」です。目的があいまいなまま導入すると、使われないまま終わりがちです。時間がかかっている業務や、人によって質がばらつく業務から対象を選ぶと、効果が見えやすくなります。
あわせて、入力してよい情報の範囲や、出力を誰がどう確認するかといった社内ルールを決めます。機密性の高い図面や顧客情報を扱うなら、入力内容が学習に使われない環境を選ぶことが前提です。
試行:小さく始めて効果を測る
いきなり全社に広げるのではなく、一部の部署や業務で試すのが一般的です。社内の規程や報告書を参照させる場合は、文書を検索しやすい形に整える作業も必要になります。
試行では、削減できた時間や回答の正確さを数字で確かめます。ここで効果が見えれば、社内の理解も得やすくなります。
展開:教育と改善を続ける
全社に広げる段階では、使い方の教育が欠かせません。プロンプトの書き方だけでなく、出力をうのみにせず確かめる習慣を身につけてもらうことが大切です。
導入後も、利用状況や社員の声をもとに、参照するデータやルールを見直していきます。生成AIの技術は変化が速いため、定期的に見直す前提で運用するのが現実的です。
社内に推進役となるチームを置き、部署ごとの活用事例を共有する場をつくる企業もあります。うまくいった使い方が横に広がることで、一部の人だけが使う状態から、組織全体の道具へと育っていきます。

生成AIに関わる仕事と求められるスキル

生成AIは、AIの専門家だけが扱う技術ではありません。製造業では、それぞれの職種の担当者が自分の業務に合わせて使いこなすことが求められています。
それぞれの業務知識を生かして使うことが大切です。
※使い方の例です。会社や担当業務によって変わります。
機械設計では、過去の設計検討や不具合の記録を調べ、設計の抜け漏れを防ぐ使い方が考えられます。生産技術では、工程の改善事例の検索や、設備の仕様書づくりに役立ちます。
設備保全では、故障の原因候補を素早く絞り込む道具として期待が大きい分野です。品質保証の分野でも、規程の検索や不具合報告書の作成支援に使われ始めています。
どの職種にも共通して求められるのは、次のようなスキルです。まず、自分の業務の知識があってこそ、AIの答えの正しさを判断できるという点です。AIの出力が正しいかどうかを見抜けるのは、その業務をよく知る人だけです。
次に、何を知りたいのかを整理して伝える「問いの立て方」と、根拠を確かめる検証の習慣が求められます。さらに、社内の文書を探しやすく整えるデータ整備の意識も、生成AIを活かすうえで重要になっています。
生成AIの導入や社内システムとの連携を担う情報システム部門やDX推進の担当者も、今後の需要が見込まれる役割です。ただし、現場の業務を知らないままでは使える仕組みはつくれないため、製造現場の経験を持つ人がこうした役割に加わる例も増えています。
まとめ
- 生成AIの主な用途は、文書作成、社内ナレッジ検索、設計支援、保全支援、プログラム作成、教育の6つ
- 業界によって扱う文書や重視される点が異なり、安全や規制に関わる判断は人が確認する
- パナソニック コネクト、トヨタ自動車、ダイキン工業と日立製作所などが事例を公表している
- 導入は準備、試行、展開の3段階で、小さく試して効果を測るのが基本
- どの職種でも、業務知識をもとにAIの答えを確かめる力が求められる
生成AIの仕組みや基本原理については生成AIとは?仕組みと基本原理で、注目される背景や従来技術との違い、導入時の注意点は生成AIが注目される背景と従来技術との違いで解説しています。
生成AIの最新動向や関連する技術については、生成AIの技術ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(3件)を開く出典・参考資料を閉じる
- パナソニック コネクトの事例:パナソニック ニュースルーム「パナソニック コネクト 生成AI導入1年の実績と今後の活用構想」(2024年6月25日)
- トヨタ自動車の事例:日本マイクロソフト News Center「トヨタ自動車、エンジニアの知見を AI エージェントで継承へ」(2024年11月20日)
- ダイキン工業・日立製作所の事例:日立製作所「工場の設備故障診断を支援するAIエージェントの実用化に向けた試験運用を開始」
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