遅れ電流と進み電流の違い|コイルとコンデンサで位相がずれる理由

工場の電気室に設置された乾式変圧器のコイル

受電盤の力率計を見ると、目盛りの片側に「LAG」、反対側に「LEAD」と書かれており、LAGは遅れ、LEADは進みという意味です。

遅れ電流とは、電流の波の山が電圧の山より後に来る状態で、進み電流はその逆です。コイルを持つ機器は電流を遅らせ、コンデンサは電流を進めます。ずれる理由と工場で起きること、力率計がLAGやLEADに振れたときに確かめる点を順に整理します。

目次

遅れ電流と進み電流とは|電流の山が電圧の山からずれる

工場の隣にある屋外変電設備の碍子と架線

交流の電圧と電流は、どちらも正弦波(なめらかな波)の形で向きと大きさを変え続けます。遅れ・進みは、電圧の波を基準にして、電流の波がどれだけずれているかを表す言葉です。

電流の山が電圧の山より後に来れば「遅れ電流」、先に来れば「進み電流」と呼びます。山が同時なら「同相」で、電熱器や白熱電球のような抵抗だけの負荷がこれにあたります。

図1:電圧と電流の山のずれ

電圧の波(実線)を基準に、電流の波(点線)の山がいつ来るかで呼び方が変わります。

同相(抵抗)電流の山=電圧の山遅れ(コイル)電流の山が後に来る進み(コンデンサ)電流の山が先に来る━ 電圧┅ 電流

※正弦波の交流で、理想的な抵抗・コイル・コンデンサだけをつないだ場合の形です。点線の縦線は、それぞれの山の位置を示します。

ずれの大きさは角度で表して位相差(いそうさ)と呼び、波の1周期を360°としたとき、山がどれだけ前後にずれたかを示す値です。50Hzの交流では1周期が20msなので、90°のずれは5msにあたり、60Hzなら1周期は約16.7msで、90°は約4.2msです。

電圧を基準にするのが慣例

同じ現象でも基準を電流に置けば「電圧が電流より進む」と言い換えられ、コイルについて「電圧が90°進む」と書く教科書もありますが、意味は同じです。

工場の電気設備では、電源から決まった電圧が来るので、電圧を基準に電流の遅れ・進みを言うのが一般的です。力率計のLAG・LEADも、電圧に対する電流の向きを示しています。

抵抗・コイル・コンデンサの違いを比較

電流のずれ方は、つないだ部品がエネルギーをためるかどうかで決まります。

図2:抵抗・コイル・コンデンサの比較

エネルギーをためない抵抗は同相、磁界にためるコイルは遅れ、電界にためるコンデンサは進みです。

抵抗(R)
コイル(L)
コンデンサ(C)
電流のずれ
ずれない(同相)
遅れる(理想は90°)
進む(理想は90°)
エネルギー
熱として消費する
磁界にためて返す
電界にためて返す
周波数が上がると
変わらない
電流が流れにくくなる
電流が流れやすくなる
工場での例
電気ヒーター、電気炉の発熱体
モーター、変圧器、リアクトル
進相コンデンサ、長い高圧ケーブル
多すぎると
ずれの問題はない
電流が増え、電圧が下がる
軽い負荷のとき電圧が上がる

※実際の機器は抵抗分を含むため、ずれは0°〜90°の間になります。

ポイントは、コイルとコンデンサはエネルギーを使い切らず、ためては電源に返すことで、この出し入れの順番が、電流の山を前後にずらします。コイルとコンデンサは、ずれる向きがちょうど反対で、工場で両方を組み合わせるのは、この反対の性質を使ってずれを打ち消すためです。

コイルで電流が遅れる理由|磁界が電流の変化を妨げる

巻き替え中のモーター固定子と銅線のコイル

コイルに電流を流すとまわりに磁界ができ、コイルはこの磁界にエネルギーをためる部品です(山形大学の教材)。電流が変化して磁界が変わると、電磁誘導で起電力(電圧)が生まれ、その向きは電流の変化を妨げる向きで、逆起電力と呼ばれます。

図3:コイルで電流が遅れるまで

電圧はすぐにかかりますが、電流は磁界をためながら後から追いかけます。

電圧をかける磁界をためる電流は後から電圧はすぐ立つ逆向きの起電力山が90°遅れる

※90°遅れるのは、抵抗分のない理想的なコイルに正弦波の電圧をかけ続けた状態(定常状態)の場合です。

急に電流を流そうとしても、磁界にエネルギーをためるには時間がかかるため、逆起電力が流れ込みを抑えます。交流では、電流が増えようとする間は押し戻し、減ろうとする間は支え続けます。その結果、電流の山は電圧の山より4分の1周期(90°)後に来ます。

XL=2πfL:周波数が高いほど流れにくい

コイルの電流の流れにくさを誘導性リアクタンスと呼び、XL=2πfL(f:周波数、L:インダクタンス)で表し、単位は抵抗と同じΩです。

たとえば10mHのコイルは、50Hzで約3.14Ω、60Hzで約3.77Ωです。周波数に比例して大きくなるので、同じコイルでも60Hz地域では電流が少し流れにくくなります。

実際の機器は0°〜90°の間で遅れる

実際の機器は巻線の抵抗や仕事をする分を含むので、遅れは0°と90°の間に収まります。抵抗とコイルを直列につないだ回路なら、遅れの角度θはtanθ=XL÷Rで決まります。抵抗とリアクタンスが同じ大きさなら、遅れは45°です。

モーターや変圧器が遅れ電流を流す理由

モーターや変圧器は、鉄心に巻いたコイルで磁界をつくって動く機器で、磁界をつくるための電流(励磁電流)が、遅れ電流として流れます。

農林水産省の技術指針では、誘導電動機など誘導性の負荷の力率を50〜80%程度としています。モーターの種類のうち、工場で広く使われる誘導電動機が、遅れ電流の主な発生源です。

同じ指針によると、誘導電動機は負荷が軽いほど力率が悪くなります。仕事をする分は負荷とともに減りますが、磁界をつくる分はほぼ一定だからです。

コンデンサで電流が進む理由|充電の勢いが先に来る

コンデンサは、2枚の電極の間に電荷をためる部品で、ためた電荷の量は電圧に比例し、電荷が出入りする速さが電流になります(鹿児島大学の教材)。

つまり電流は、電圧の大きさではなく電圧が変わる速さで決まります。電圧がゼロを横切る瞬間がいちばん変化が速く、そこで電流が最大になります。

図4:コンデンサの充電と放電(交流1周期)

電流が最大になるのは電圧がゼロのときで、電圧の山より4分の1周期早く来ます。

① 充電が始まる電荷も電圧もゼロ。電荷が勢いよく流れ込み、電流が最大
② 満タンになる電荷がたまり、電圧が最大。流れ込む電荷が止まり、電流はゼロ
③ 放電する電荷が逆向きに出ていき、電圧ゼロの瞬間に逆向きの電流が最大
④ 逆向きに満タン逆向きの電圧が最大になり、電流はゼロ。①に戻る

※正弦波の電圧をかけ続けた定常状態で、理想的なコンデンサの場合です。スイッチを入れた直後の過渡的な動きとは異なります。

電流の山(①)のあと、電圧の山(②)は4分の1周期遅れて来ます。電圧を基準に言い直すと、コンデンサの電流は電圧より90°進むことになります。

XC=1/(2πfC):周波数が高いほど流れやすい

コンデンサの流れにくさは容量性リアクタンスと呼び、XC=1/(2πfC)(C:静電容量)で表し、周波数とは反比例の関係です。

100μFのコンデンサなら、50Hzで約31.8Ω、60Hzで約26.5Ωです。直流(周波数0)では電流を通さず、周波数が高いほど電流を通しやすくなります。

この性質は電子機器のノイズ対策にも使われ、基板に並ぶ積層セラミックコンデンサは、高い周波数のノイズを逃がす役目を担っています。

工場で進み電流を流すもの

工場で進み電流のもとになる設備は、主に次の3つです。

  • 進相コンデンサ(力率改善用のコンデンサ。受電設備やモーターの近くに付ける)
  • 長い高圧ケーブル(導体とまわりの層の間がコンデンサのように働く)
  • 電源のフィルタ回路(ノイズ対策用のコンデンサを含む)

このうち量として大きいのは進相コンデンサで、遅れ電流を打ち消すために、わざと付けている設備です。

ベクトル図で見る遅れと進み|打ち消し合う仕組み

波形のずれは、矢印の向きでも表せます。電圧を右向きの矢印に置き、電流の矢印がどれだけ傾くかで遅れ・進みを示す図を、ベクトル図と呼びます。遅れ電流は右下向き、進み電流は右上向きに描くのが一般的で、傾きの角度θが、図1の位相差にあたります。

図5:ベクトル図で見る遅れ電流と打ち消し

遅れ電流を「仕事をする分」と「行き来するだけの分」に分けると、コンデンサで後者だけを打ち消せます。

電圧(基準)遅れ電流無効分コンデンサの進み電流θ有効分(仕事をする)
遅れの角度θ
0°
30°
約36.9°
45°
力率 cosθ
1.00
約0.87
0.80
約0.71

※図は力率0.8(θ≒36.9°)の例。力率=cosθの関係は、電圧・電流とも正弦波でひずみがない場合に成り立ちます。

傾いた電流は、電圧と同じ向きの成分(有効分)と、直角の成分(無効分)に分けられます。仕事をするのは有効分だけで、無効分は電源と機器の間を行き来するだけです。

このとき、有効分が全体に占める割合がcosθ、つまり力率で、遅れが大きいほど、同じ仕事に対して流れる電流の合計が増えます。

進相コンデンサの進み電流は、遅れ電流の無効分とちょうど反対向きです。並べてつなぐと無効分が打ち消され、電流の矢印が電圧の向きに近づきます。

有効電力・無効電力・皮相電力の関係や、電気料金とのつながりは力率の基本で詳しく扱っています。

遅れすぎ・進みすぎで工場に起きること

操業を終えた夜間の工場と屋外キュービクル

遅れても進んでも、行き来するだけの電流が増える点は同じですが、困りごとの出方は向きによって違います。

図6:遅れすぎと進みすぎで起きること

遅れすぎは「電流が増えて電圧が下がる」、進みすぎは「電圧が上がる」方向に効きます。

遅れすぎ:電流と損失が増える同じ仕事でも電流が増え、配線の発熱(損失)と電圧降下が大きくなる
遅れすぎ:設備と料金に響く変圧器やケーブルに余裕が要る。高圧受電では力率が低いと基本料金が割増しになる
進みすぎ:電圧が上がる軽い負荷のときにコンデンサが入ったままだと、受電側の電圧が上がるおそれ
進みすぎ:割引は増えない約款で進み力率を100%として扱う例があり、進めても料金の得にはならない

遅れすぎ:電流が増え、電圧が下がる

遅れ電流が多いと同じ仕事をさせるのに必要な電流が増え、J-Net21は、力率が悪いと電力損失と電圧降下が大きくなると説明しています。変圧器は皮相電力(kVA)で容量を選ぶため遅れが大きいほど大きな変圧器が必要で、変圧器の納期が長くなっているいま、容量の余裕は貴重です。

高圧で受電する工場では、力率が基準を下回ると基本料金が割増しになります。基本料金に効く点は同じでも、契約電力を左右するデマンド電力の下げ方とは別の対策になります。

進みすぎ:夜間や休日に電圧が上がる

進みすぎは、モーターが止まる夜間や休日に起きやすい現象で、遅れ電流が減ったのに、進相コンデンサだけが入ったままになるためです。

J-Net21は、夜間などにコンデンサが入ったままだと力率が1を大きく超えて進み、異常電圧のおそれがあるとしています。対策として、負荷に合わせてコンデンサを入り切りする力率自動調整装置を挙げています。

影響は工場の外にも及び、九州電力送配電は2023年、高圧需要家のコンデンサが需要に比べて過剰になり、九州エリアの配電線の約半数が常時進み力率だと公表しました。

需要家の進相コンデンサが配電線の電圧を押し上げる現象は、フェランチ効果と呼ばれます。宮崎大学の研究は、コンデンサを切り離してこの電圧上昇を抑える方法を検討しています。

モーターの近くにコンデンサを直結する場合も注意が要ります。農林水産省の指針は、容量を取りすぎると自己励磁現象で端子電圧が定格以上に上がる場合があるとしています。

進めても電気料金は下がらない

力率割引の計算では、進み側を得として数えない約款があります。関西電力の高圧の料金表では、瞬間力率が進み力率となる場合は100%として扱うと定めています。

つまり、コンデンサを増やして進めても割引は増えず、料金のためにも電圧のためにも、目指すのは「1にできるだけ近い遅れ側」です。

力率計がLAG・LEADを示したら確かめること

電気室で高圧配電盤を確認する保全担当者の後ろ姿

力率計の針の位置からは、いまの受電設備全体が遅れ側か進み側か、どのくらいずれているかが読み取れます。ただ、計器の表示だけで原因は決まりません。次の流れで、いつ・何が動いているときの値かを合わせて見ると、原因を絞り込めます。

図7:力率計の表示から確かめる流れ

表示が出た時間帯と、そのとき動いていた設備を突き合わせるのが出発点です。

LAG(遅れ)側に大きく振れる
01時間帯を見る稼働中に常に遅れているか、特定の設備が動くときだけか
02負荷を見る軽い負荷で回り続けるモーターや、空運転の設備がないか
03コンデンサを見る開閉器が切れていないか、劣化で容量が減っていないか
LEAD(進み)側に振れる
04時間帯を見る夜間・休日・昼休みなど、モーターが止まる時間に出ていないか
05入り切りを見るコンデンサが負荷と一緒に止まる設定か、入れっぱなしか
06専門家に相談容量の見直しや自動調整装置は、電気主任技術者と決める

※受電設備の操作や改修は、保安を担う電気主任技術者や電気工事の専門業者と進めてください。

遅れ側に大きく振れているなら、モーターの使い方とコンデンサの状態が主な確認先です。ポンプの電流値のように、機器ごとの電流を記録しておくと、どの設備が効いているかを探しやすくなります。

進み側に振れるなら、まず時間帯を確かめます。モーターが止まる時間に限ってLEADになるなら、コンデンサの入れっぱなしが疑われます。

インバータの力率は「ずれ」ではなく「ひずみ」で下がる

インバータ(モーターの回転数を変える装置)の入力側では、力率の下がり方が異なります。電流の位相はあまりずれず、電流の波形がとがった形にひずむことで力率が下がります。

ひずんだ波には、元の周波数の整数倍の成分(高調波)が含まれます。この場合は進相コンデンサではなく、リアクトル(コイル)を入れて波形をなだらかにします。

三菱電機の比較表では、同社インバータの定格負荷時の入力力率を示しており、ACリアクトルで約88%、DCリアクトルで約93%に改善するとしています(一部機種の値)。cosθだけで力率を語れるのは、波形がきれいな正弦波のときに限られます。

インバータは工場の省エネの定番ですが、台数が増えるほど電源側への影響も確かめる必要があります。

まとめ

この記事のまとめ
  • 遅れ・進みは、電圧の波を基準に電流の山が後か先かを表す
  • コイルは磁界にエネルギーをためるので電流が遅れ、理想状態で90°ずれる
  • コンデンサは電圧が変わる速さで電流が決まるので、電流が90°進む
  • 工場ではモーターが遅れ電流を流し、進相コンデンサの進み電流で打ち消す
  • 夜間・休日の進みすぎは電圧上昇のもと。進めても料金の割引は増えない

遅れ電流と進み電流は、受電設備を見守る設備保全や、回路や制御盤を組む電気・電子設計の仕事で必ず出てくる考え方です。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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