2026年10月1日を境に、工場に関わる制度が7つ同時に動きました。取引先とのやり取り、採用、化学物質の測定、パートの雇い方、賃金、社宅の扱いまで、範囲は幅広くなっています。
担当する部署がばらばらなため、どれか1つが抜け落ちやすいのが今回の特徴です。カスハラ(顧客や取引先からの嫌がらせ)対策は総務や営業、化学物質の測定は安全衛生の担当、社会保険は人事というように、窓口が分かれています。
この記事では、まず10月に変わったことを一覧で整理し、制度ごとに工場で当てはまる場面と最初に手をつけることを、よくある疑問に答える形で順に確認します。最後に、10月中に進めたい順番と、2027年以降に控える改正もまとめます。
Q1 2026年10月1日から、工場に関係する制度は何が変わった?
10月1日前後に施行・発効した制度のうち、製造業の工場に関係するものは大きく7つです。法律の改正だけでなく、省令や告示、毎年の最低賃金の改定も含まれています。
ポイントは、担当する部署がそれぞれ違うことです。カスハラ対策は総務と営業・品質保証、個人ばく露測定は安全衛生、パートの通知書と社会保険は人事、社宅の評価額は給与担当というように、窓口が分かれています。
根拠となる法令も、社内で動く部署も、制度ごとに異なります。
※あわせて、新たに濃度基準値が定められた78物質の基準値が2026年10月1日から適用されています。出典:厚生労働省の各制度ページ・リーフレット
「義務化」という言葉が並びますが、違反したときの扱いは制度によってかなり違います。助言・指導が中心のものもあれば、罰金の対象になるものもあります。優先順位を決めるうえで、ここは最初に押さえておきたい点です。
同じ「義務」でも、行政の関わり方と罰則の重さは制度ごとに異なります。
※罰則の有無は、各制度の法令・通達にもとづく概要です。出典:厚生労働省の各リーフレット・通達、大阪労働局
罰則が軽いから後回しでよい、という判断は危険です。BtoBのメーカーにとっては、企業名の公表や是正指導が取引先の評価や採用の評判に響く方が、過料の金額よりも重いことが多いためです。
Q2 カスハラ対策の義務化で、メーカーは何を整える?
改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、カスタマーハラスメント(カスハラ)を防ぐための雇用管理上の措置が義務化されました。2026年10月1日からは、業種や企業規模を問わずすべての事業主の義務です。
具体的な中身は、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)で定められています。
取引先の担当者も「顧客等」に入る
店舗を持たないメーカーが見落としやすいのは、指針の「顧客等」に取引先の担当者や、契約交渉を行う相手が含まれている点です。
品質クレームの場での人格否定、取引停止をほのめかした大幅な値下げ要求、立会い検査での長時間の拘束などは、BtoBでも起こり得る場面です。
一方で、不良に対して原因究明や再発防止を求めるのは正当な申入れです。指針は、①顧客等の言動であること、②社会通念上許容される範囲を超えること、③就業環境が害されること、の3つをすべて満たしたものをカスハラとしています。
整える5つの措置
指針が求める措置は5つの区分に整理できます。パワハラやセクハラの防止措置と骨格は似ているため、既存の相談窓口や規程に「社外の相手」を想定した手順を足していくのが効率的です。
方針と窓口を先に決め、起きたあとの動き方と歯止めを固めます。
※厚生労働省のリーフレットは、指針が求める措置を10項目に整理しています。出典:厚生労働省「カスハラ防止指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
製造業で抜けやすいのは周知の範囲です。厚生労働省のQ&Aは、顧客対応がない部署も含めた全労働者への周知が必要としています。来訪者の案内や立会い検査で、製造現場の社員が社外の人と接する場面は少なくありません。
自社の購買・品質監査が加害側にならないか
メーカーは仕入先から見れば「顧客等」の側でもあります。改正法は、他社の社員への言動に必要な注意を払うよう努めることを事業主と労働者の責務としました。
購買の価格交渉や仕入先監査の進め方も、今回あわせて見直しておきたい対象です。品質と納期の要求水準を下げる必要はなく、変えるのは伝え方と場の設け方です。

Q3 就活セクハラの防止措置は、工場のインターンや見学にも及ぶ?
及びます。同じ2026年10月1日から、男女雇用機会均等法に基づき、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置がすべての事業主の義務になりました。
カスハラ対策と同じ改正法による見直しですが、根拠となる法律は別なので、社内規程も別の義務として整理しておくと混乱しません。
守る相手には、新卒・中途を問わず求人に応募する人、会社説明会やインターンシップの参加者、実習生が含まれます。
場面も面接に限らず、OB・OG訪問、インターン、SNSでのやり取り、職場以外の飲食店での面談まで広く対象です。
工場や研究所でのインターン、大学の研究室を訪ねるリクルーター活動も含まれると考えておくのが安全です。
一方、授業の一環として行われる社会科見学のように、もっぱら教育目的のものの参加者は「求職者等」に当たらないと、厚生労働省は整理しています。
厚生労働省の委託調査(令和5年度)では、2020〜2022年度に卒業した人のうち、インターンシップ中に就活等セクハラを受けたと答えた人は30.1%でした。受けた際の志望先の業種は製造業が最も多く、17.5%でした。
人事部門の目が届きにくい、現場社員と学生の一対一の接点にリスクが集まりやすい構造です。インターンを受け入れるラインや研究部門にも、連絡手段や面談場所のルールを伝えておく必要があります。
採用現場での具体策は就活セクハラ防止の義務化とメーカーの採用現場での対策で整理しています。
Q4 個人ばく露測定は、どの工場で何が変わった?

個人ばく露測定とは、作業者の襟元などに小型のサンプラーを付けて、その人が実際に吸い込んでいる化学物質の濃度を測る方法です。
労働安全衛生法と作業環境測定法の改正(令和7年法律第33号)により、2026年10月1日から作業環境測定の一部として位置づけられました。
変わったのは「誰が、どの基準で測るか」です。
デザイン(測定の計画)とサンプリング(試料の採取)は、登録を受けた作業環境測定士が担い、国の作業環境測定基準に従って行います。登録とは、講習を修了して受ける「個人ばく露測定に係るデザイン及びサンプリング」の登録です。
登録証の書き換えは2026年8月1日から始まっています。
いずれも屋内の作業場が対象です。これに当てはまらなければ、10月を境に新しい測定が増えるわけではありません。
※一定の測定精度が求められない簡易的・予備的な測定は、この作業環境測定には含まれません。出典:厚生労働省 施行通達(令和8年7月30日 基発0730第2号)
溶接ヒュームの測定方法そのものは、施行通達で「実質的な変更はない」と説明されています。これまで外部の測定機関に依頼していた工場は、依頼先が新しい登録を済ませているかを確認するのが最初の一手です。
同じ10月1日には、新たに濃度基準値(物質ごとに定められたばく露の上限)が設定された78物質の適用も始まりました。
塗料や洗浄剤、接着剤のSDS(安全データシート)で成分を確かめ、一覧と照合しておくと、確認測定が必要な作業を早めに洗い出せます。
測定の前提となる工場のリスクアセスメントの進め方もあわせて見直しておくと、対象作業の判断がしやすくなります。

Q5 パート・期間工の労働条件通知書は、何を書き足す?
パートタイム・有期雇用労働法の施行規則と、同一労働同一賃金ガイドライン、雇用管理指針の改正が、2026年10月1日から施行・適用されました。法律本体の条文は変わっていませんが、雇い入れ時の通知書に書く項目が1つ増えています。
これまでの4項目に、10月1日から1項目が加わり5つになりました。
※違反した場合は10万円以下の過料の対象。出典:厚生労働省リーフレット「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」
工場で注意したいのは、フルタイムの期間工と定年後に再雇用した嘱託社員です。どちらも契約に期間があるため有期雇用労働者にあたり、10月以降の契約更新のたびに新しい項目の明示が必要になります。
更新は月末や期末に集中しやすいので、次の更新日までに通知書の様式を差し替えておきます。
ガイドラインには、退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇、褒賞の考え方が新たに加わりました。
点検のポイントは、フォークリフトの無事故手当や永年勤続表彰を正社員だけにしていないか、といった点です。その進め方はパート・有期の2026年10月改正Q&Aで手当ごとに整理しています。
Q6 106万円の壁の撤廃で、工場のパートは誰が社会保険に入る?

「10月からパートのルールが変わる」という話には、Q5の明示ルールと、この社会保険の加入要件という2つの別々の制度が混ざっています。こちらは健康保険・厚生年金の話で、担当も給与・社会保険の窓口になります。
2026年10月1日に、短時間労働者の加入要件のうち「月額8.8万円以上」という賃金の条件が撤廃されました。
今後は、週の所定労働時間が20時間以上、2か月を超える雇用見込み、学生でないこと、そして勤め先の企業規模で判断します。
線引きが「金額」から「時間」に移ったため、時給が上がっても加入の有無は変わらず、週20時間を超えるかどうかだけで決まります。
最低賃金がすべての都道府県で月8.8万円の水準を超えているため、撤廃そのもので新たに加入する人は多くないとみられます。工場にとって本当の変化は、この先の企業規模要件の縮小です。
賃金要件の撤廃のあと、対象となる企業の規模が段階的に広がります。
※従業員数はパートを含む全員ではなく、厚生年金保険の被保険者数で数えます。出典:厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」、日本年金機構
厚生労働省の試算では、年収106万円の人が加入すると本人負担は月約12,500円で、会社も同額を負担します。手取りの減少を理由にした働き控えが起きると、シフトの組み直しが必要になります。
対象者の判定や保険料調整制度の使い方は106万円の壁撤廃と工場のパート雇用で詳しく扱っています。
Q7 最低賃金と社宅・寮の評価額は、人件費にどう効く?

10月は賃金まわりの数字も2つ動きます。毎年の最低賃金の改定と、社宅や寮を貸している工場に関わる住宅の現物給与価額の見直しです。
最低賃金は県ごとに発効日が違う
2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円、前年度から56円の引上げです。最低賃金は事業場の所在地ごとに適用されるため、本社ではなく工場がある県の金額と発効日で確認します。
発効日は10月1日から12月2日まで分かれており、10月1日に発効したのは15都道府県です。
同じ工業県でも、金額には100円以上、発効日には2か月の差があります。
※濃い色は10月1日発効、薄い色は10月2日以降の発効。棒の長さは1,300円を100%とした比率。発効日は答申時点の予定。出典:厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」
複数の県に工場を持つ会社は、給与システムの単価を一律の日付で切り替えないよう注意が必要です。発効前の県では過払い、発効後の県では未払いが起きかねません。
鉄鋼業や輸送用機械器具製造業などの特定(産業別)最低賃金がある場合は、地域別と比べて高い方が適用されます。
差額は直接の引上げ分だけでは終わらず、すぐ上の時給の人の調整や会社負担の保険料にも波及します。人件費の試算方法や、労務費の価格転嫁の現状は最低賃金2026年度の製造業への影響で数字をもとに整理しています。
社宅・寮の現物給与は「畳」から「㎡」へ
社宅や寮を貸与している場合、その利益は「現物給与」として社会保険の報酬に算入され、価額は厚生労働大臣が都道府県ごとに定めています。2026年10月1日から、この単価が居住用の室1畳当たりから、住宅の総面積1㎡当たりに変わりました。
これまでは居間や寝室などの居住用の室だけを数え、玄関、台所、トイレ、浴室、廊下は含めませんでした。10月からは床面積の合計が対象になり、除くのは別棟の物置・車庫と共同で使う部分です。
たとえば愛知県の単価は1畳1,560円から1㎡710円に変わっています。
期間工向けの寮や単身赴任者の社宅を持つ工場では、間取り図から床面積を拾い直す作業が発生するため、給与担当と寮の管理部署で面積の台帳をそろえておくと円滑です。
Q8 10月中に、何から手をつければよい?
7つを同時に進めるのは現実的ではありません。おすすめは、期限が日付で決まっているものから先に片づける順番です。最低賃金は発効日、パート・有期の明示は次の契約更新日が実質的な締め切りになります。
その次に、カスハラと就活セクハラの方針の周知、測定の依頼先の確認、社会保険の対象者の洗い出しを進めます。
方針や規程は一度に完成させる必要はなく、トップ名の方針と相談窓口を先に出し、手順書は事例をためながら直していく進め方で十分です。部署ごとの確認事項をまとめると次のようになります。
窓口が分かれる制度ほど、担当部署を決めて抜けを防ぎます。
- 工場ごとの最低賃金と発効日を確認し、時給テーブルを切り替えた
- 手当の多い若手正社員も時間額に換算して確認した
- 週20時間前後のパートを一覧にした
- 社宅・寮の床面積を総面積で拾い直した
- パート用・有期用・嘱託用の通知書に新しい明示事項を追記した
- 10月以降に更新する期間工・嘱託を洗い出した
- インターン受入れ部署に面談・連絡のルールを伝えた
- カスハラ方針をトップ名で出し、全員に周知した
- 相談窓口と、取引先に協力を求めるときの窓口部署を決めた
- 購買・仕入先監査向けに言動の注意点を共有した
- 第三管理区分・屋内溶接・濃度基準値物質を使う作業を一覧にした
- 測定機関が個人ばく露測定の登録を済ませているか確認した
- 使用中の化学品のSDSと濃度基準値の一覧を照合した
※各項目の詳しい手順は、制度ごとの記事と厚生労働省のリーフレットで確認してください。
あわせて、この先に控える改正も把握しておくと、予算と人員の計画が立てやすくなります。
改正労働安全衛生法は段階的に施行されています。2027年1月には個人事業者等の業務上災害の報告制度、2027年4月には個人事業者等自身への義務付けや作業場所を管理する事業者の連絡調整が始まります。
2027年10月には、社会保険の企業規模要件が36人以上に広がり、濃度基準値も48物質が追加で適用されます。2028年10月からは、雇用保険の対象が週10時間以上で働く人に広がる予定です。
10月の対応で作った対象者の一覧や作業の台帳は、そのまま次の改正の準備にも使えます。
まとめ
- 2026年10月1日前後に、工場に関わる7つの制度が同時に動き、担当部署はそれぞれ異なる
- カスハラ対策と求職者等へのセクハラ防止は、規模を問わず全事業主の義務。取引先も「顧客等」に入る
- 個人ばく露測定は作業環境測定の一部になり、登録を受けた作業環境測定士が測る
- パート・有期は明示事項が1つ増え、社会保険は週20時間を基準に判断する
- 最低賃金は工場のある県の発効日で、社宅・寮は総面積1㎡当たりの単価で確認する
今回の改正は、総務・人事だけで完結するものではありません。取引先と接する部署、化学物質を扱う現場、パートのシフトを組む管理者まで、それぞれの持ち場で確認が必要です。
全体を束ねる立場の役割は工場長の仕事と責任範囲で、安全衛生の基本は製造業の職場環境と安全衛生で整理しています。
職種ごとの関連記事は工場長・マネジメントの職種ページからもあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(15件)を開く出典・参考資料を閉じる
- カスハラ・求職者等セクハラの施行日と対象:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- カスハラの定義・措置:厚生労働省「カスハラ防止指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)、厚生労働省リーフレット(詳細版)、厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」
- 助言・指導・勧告、公表、過料:厚生労働省 通達「労働施策総合推進法第10章の規定等の運用について」
- 求職者等セクハラの対象者・場面:厚生労働省「求職者等セクハラ防止指針」(令和8年厚生労働省告示第52号)
- 就活等セクハラの実態:厚生労働省委託「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」
- 改正安衛法の施行日と主なポイント:厚生労働省リーフレット「労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイントについて」、厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)について」
- 個人ばく露測定の対象場面・実施者:厚生労働省 施行通達(令和8年7月30日 基発0730第2号)
- 濃度基準値の適用・追加:厚生労働省 基発1008第1号(令和7年10月8日、令和8年10月1日適用の78物質)、厚生労働省 基発0831第3号(令和8年8月31日、令和9年10月1日適用の48物質)
- パート・有期の明示事項とガイドライン:厚生労働省リーフレット「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」、厚生労働省ウェブマガジン
- 社会保険の賃金要件撤廃と企業規模要件:厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」、日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」、日本年金機構「2026(令和8)年10月に社会保険の短時間労働者に係る賃金要件が撤廃されました」
- 保険料の試算:厚生労働省「年金制度改正の主な改正内容」
- 雇用保険の適用拡大:厚生労働省「令和6年雇用保険制度改正(令和10年10月1日施行分)について」
- 最低賃金の改定額・発効日:厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」、「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」
- 最低賃金の罰則:大阪労働局「最低賃金法の違反の罰則について」
- 住宅の現物給与価額:厚生労働省「現物給与の価額改定について(令和8年度)」、日本年金機構「全国現物給与価額一覧表」
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