JFEスチールが、2026年に入って3回目となる鋼材の値上げを打ち出したと報じられました。10月の商談分から全品種で1トンあたり1万円を上げ、上げ幅は累計2万5000円に達します。
背景には、原料炭(鉄をつくる原料になる石炭)の急騰と、中東情勢によるエネルギー高があります。高炉メーカー(鉄鉱石から鉄をつくる大手製鉄会社)は値上げの手を緩めておらず、鋼材を使う部品メーカーには、仕入れと販売価格の両面で備えが求められます。
この記事では、2026年の鋼材値上げを時系列と数字で整理し、値上げの理由を確認します。そのうえで、ひも付きと店売りでの効き方の違い、今後を左右する材料、部品メーカーの購買と販売それぞれでの備え方という順に見ていきます。
2026年の鋼材値上げを時系列で整理
まず、2026年に入ってから何がいくら上がったのかを確認します。高炉大手は春以降、品種ごとの値上げと全品種の追加値上げを重ねてきました。春の値上げ、初夏の追加、秋の再追加という3段階で進んでいるのが今年の特徴です。
春の品種別値上げ、初夏の追加、秋の再追加と3段階で進んでいます。
※日本経済新聞、日刊産業新聞、日刊鉄鋼新聞の2026年3〜9月の報道をもとに作成。値上げ幅はいずれも打ち出し額で、実際の取引価格への反映は交渉によって異なります。
JFEスチールは3回で累計2万5000円
JFEスチールは1月に、土木・建築向け商品を4月出荷分からトン1万円程度引き上げる方針を示しました。3月には、薄鋼板を5月出荷分からトン1万円(最大1割程度)、厚鋼板もトン1万円引き上げると打ち出しました。いずれも約2年ぶりの値上げです。
5月末には、6月商談分から全品種でトン5000円の追加値上げを発表しました。対象は薄板、厚板、H形鋼、特殊鋼などで、一般流通(店売り)、大口需要家向けのひも付き、輸出のすべてです。この時点で累計1万5000円となりました。
そして9月18日の報道では、10月商談分から鋼材全品種でさらにトン1万円を上乗せするとされました。今年3回目の値上げで、上げ幅は累計2万5000円です。
熱延鋼板の一般流通向けでみると、今回の1万円だけで1割弱の上昇にあたります。同社は収益が厳しい状況にあるとして、年内の浸透を目指す考えを示したと報じられています。
3回の値上げで、2026年の上げ幅は2万5000円に達しました。
※日本経済新聞(2026年5月29日、9月18日)、日刊産業新聞(2026年9月18日)の報道による。JFEスチールは値上げをプレスリリースとして公表しておらず、数字は報道ベースです。
日本製鉄・電炉・自動車向けの動き
最大手の日本製鉄も、薄鋼板を5月出荷分からトン1万円、7月出荷分から5000円と2段階で引き上げ、合計1万5000円としています。厚鋼板も4月引き受け分で1万円、7月引き受け分で5000円を上乗せしました。
スクラップを溶かして鋼材をつくる電炉大手の東京製鉄は、夏場に「市況は凪(なぎ)」として2か月続けて全品種を据え置きました。
ただし10月契約では薄板類を3000円、厚板を2000円引き上げ、ホットコイル(熱延コイル)はトン10万3000円としています。
自動車向けでは、トヨタ自動車が2026年度下期(10月〜2027年3月)に部品メーカーへ供給する鋼材の価格を引き上げる方針と報じられました。引き上げ幅は、上期よりトン1万2000円程度です。
引き上げは4年ぶりで、トヨタ系の部品メーカーにとっては10月から材料費が変わることになります。
値上げの理由はどこにあるのか

高炉メーカーが値上げの理由として挙げているのは、原料炭の調達価格、燃料高による物流費、石油化学由来の副資材、労務費などです。どれか一つの要因ではなく、原料・エネルギー・人件費が同時に上がっているのが今回の特徴です。
原料炭は8月末に約270ドルへ急騰
高炉では、鉄鉱石を還元するためにコークスを使います。その原料が原料炭で、なかでも品質の高い強粘結炭の価格は鋼材コストに直結します。
JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)によると、豪州産強粘結炭のスポット価格は8月上旬のトン214ドル付近から、月末には約270ドルまで上がりました。2024年3月以来の高値です。
中国で炭鉱事故が相次いで安全管理が厳しくなったこと、山西省の豪雨、モンゴルからの供給懸念が重なりました。
1月の急騰後にいったん下がったものの、8月末には再び高値をつけました。
※JOGMEC「石炭の価格推移と需給動向(2026年8月)」の記述から主な時点の水準を抜き出したもの(出所データはArgus Media)。横軸の間隔は時間に比例していません。
日本が実際に輸入した強粘結炭の平均単価も、7月時点で前年より約4割高くなっています。スポット価格の上昇に加え、海上運賃の値上がりと円安が効いているためです。
高炉メーカーの原料は数か月分の在庫と長期契約で手当てされるため、8月末の高値は秋以降のコストにじわじわ効いてくると考えるのが自然です。
中東情勢とエネルギー・物流費
2026年2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃以降、ホルムズ海峡の輸送が滞りました。JETROのまとめでは、5月の原油価格はバレル100.43ドルと前年同月より60%高い水準です。日本は原油の9割以上を中東に頼っています。
製鉄所は電力や燃料、酸素、副資材を大量に使い、製品の輸送にも燃料がかかります。6月商談分の追加値上げで、高炉各社が理由に中東情勢を挙げたのはこのためです。
エネルギー高が製造業全体のコストをどう押し上げているかは、原油高が樹脂・物流・電力のコストに与える影響でも数字で整理しています。
鋼材の物価は前年比2.4%増にとどまる
ここで一つ押さえておきたいのが、値上げの打ち出し額と実際の取引価格のずれです。日本銀行の企業物価指数(2026年8月速報)では、国内の鉄鋼の価格は前年比2.4%の上昇にとどまっています。
鋼材の物価上昇は、非鉄金属や燃料に比べるとまだ小さい水準です。
※日本銀行「企業物価指数(2026年8月速報)」より。鉄鋼の指数は146.6(2020年平均=100)で、2020年と比べると5割近く高い水準にあります。
背景には、値上げが交渉の妥結や契約の切り替わりごとに少しずつ反映される仕組みがあると考えられます。言い換えると、春からの値上げはまだ取引価格に浸透しきっていない段階です。
購買側から見れば、通知額どおりにいきなり上がるとは限らない一方、交渉が進むにつれて仕入れ値がこれから追いついてくる可能性があります。
一方で、2020年を100とした鉄鋼の指数は146.6です。数年単位で見れば、鋼材はすでに大きく値上がりした素材であり、今回の追加値上げはその高い水準からさらに上乗せされる形になります。
ひも付きと店売りで値上げの効き方が違う

鋼材の値上げを自社のコストに置き換えるには、どの経路で鋼材を買っているかを押さえる必要があります。鋼材の取引には大きく分けて「ひも付き」と「店売り」があり、自動車業界などではこれに「支給材」が加わります。
同じ値上げでも、買い方によって反映の時期と交渉相手が変わります。
※一般的な取引形態の整理です。実際の契約条件は企業や品種によって異なります。
ひも付き取引では、需要家と鉄鋼メーカーが半年ごとなどに価格を決めます。打ち出し額がそのまま通るとは限らず、交渉の妥結まで時間がかかるため、コストへの反映は遅れて効いてくるのが一般的です。
鉄鋼業界の商流や、高炉・商社・流通の役割分担は鉄鋼・非鉄金属業界の構造で詳しく解説しています。
店売りは、流通が在庫から販売するため、メーカーの値上げが流通の仕入れ値を通じて店頭価格に波及します。ただ、需要が弱い時期には流通の在庫が積み上がり、値上げが浸透しにくくなります。東京製鉄が夏に「市況は凪」と表現したのは、まさにこの状態です。
支給材を使う部品メーカーは、自社で価格交渉をする余地はほとんどありません。そのかわり、支給価格の改定に合わせて部品価格も見直されるのが通例です。
支給材と自社購入材が混在している場合は、どの部品がどちらかを分けて把握しておくと、値上げの影響額を正しく見積もれます。
鋼材の値上げはどこまで続くのか
検索で最も知りたいのはこの点だと思いますが、先の価格を言い当てられる一次情報はありません。ここでは、判断材料になる数字と、上振れ・下振れの要因を整理します。
需要面では、日本鉄鋼連盟が2026年度の鋼材内需を前年並みと見込んでいます。土木や造船、機械は微増、建築は微減、自動車は前年割れという見立てです。
2026年8月の粗鋼生産は666万トン余りで、前年同月比0.4%増と5か月連続で前年を上回りました。需要が強くて値上がりしているのではなく、コストを転嫁するための値上げである点が今回の特徴です。
中長期の需要の推移は鉄鋼・非鉄金属業界の市場規模と動向にまとめています。
コスト要因は上向き、需要と電炉の動きは値上げの浸透を抑える方向に働きます。
※日本鉄鋼連盟「2026年度の鉄鋼需要見通し」、JOGMEC、東京製鉄に関する報道をもとに整理。
電炉の東京製鉄は10月契約で薄板と厚板を引き上げましたが、上げ幅は2000〜3000円にとどめ、条鋼類は3か月続けて据え置きました。
報道によると、同社はエネルギー高やスクラップ価格の先高感を理由に挙げつつ、コスト高の転嫁は「浸透可能な水準で」進める姿勢を示しています。
こうした材料を合わせると、少なくとも10月以降の商談では、JFEの追加分や支給材の改定を前提に動くのが現実的です。
年明け以降は原料炭と中東情勢の動きが分かれ目になります。原料炭が下がれば値上げは一服、高止まりすればさらに追加の打ち出しもありうる、という幅を持って構えておくのが無難です。
部品メーカーの調達対策

ここからは、鋼材を買う側の備え方です。購買部門の役割や交渉の基本は購買・調達の仕事内容とQCD交渉で整理していますが、値上げ局面ではとくに次の順番で進めると漏れが少なくなります。
影響額をつかんでから、交渉・在庫・設計の順に手を打ちます。
※支給材を使う部品は、STEP 03の代わりに支給価格の改定時期と部品価格の見直し条件を確認します。
値上げ通知は「品種×契約形態×適用月」で整理する
今年は、同じメーカーでも品種ごとの値上げと全品種の追加値上げが重なっています。さらに「出荷分」「商談分」「引き受け分」「契約分」と適用の基準が通知ごとに違うため、いつの購入分から上がるのかを取り違えやすい状況です。
商社や流通から届いた通知を、品種、ひも付きか店売りか、適用月の3つの軸で一覧にしておくと、仕入先との交渉でも社内への説明でも話がぶれません。
在庫は前倒し買いより発注点の見直し
値上げ前に買いだめをしたくなりますが、鋼材は重く場所を取り、資金も寝かせることになります。値上げ前の価格で買える量には仕入先側にも上限があるのが普通です。
それよりも、納期の長い品種や特殊なサイズを中心に発注点と安全在庫を一時的に引き上げ、欠品と急な高値買いを避けるほうが実務的です。需要の見通しが不透明な品番では、前倒し分が過剰在庫になるリスクもあります。
見積の有効期限と材料スライドの条件
販売先に出している見積の有効期限が長いと、その間の値上げを自社でかぶることになります。
値上げが続く局面では、見積の有効期限を短めにし、鋼材価格が一定以上動いたら単価を見直す「材料スライド」の条件を取り決めておきます。そうすれば、交渉のたびに一から説明する手間が減ります。
材料と歩留まりを見直す
値上げをすべて販売先に転嫁できるとは限りません。プレス部品であれば板取りの見直しで歩留まりを上げる、強度に余裕がある部品は板厚や材種を見直す、といった設計・生産側の工夫も効きます。
こうした改善は値上げが一服した後もコスト競争力として残ります。
販売先への価格転嫁をどう進めるか
鋼材を買って部品をつくる側にとって、値上げのもう一方の課題が販売先への転嫁です。
中小企業庁が2026年6月に公表した調査では、2026年3月時点の価格転嫁率は54.2%で、原材料費に限ると55.7%でした。
コストが上がった分の半分程度しか価格に反映できていないのが中小企業の平均的な姿です。
一方、取引のルールは受注側に有利な方向へ変わっています。2026年1月に改正下請法が施行され、名称も取適法(中小受託取引適正化法)に変わりました。
対象となる取引では、受注側から価格の協議を求められたのに応じず、一方的に代金を決めることが禁止されています。

交渉の場で効くのは、値上げの根拠を販売先が社内で説明できる形にした資料です。鋼材の場合は、品番ごとの鋼材使用量と値上げ額を掛け合わせれば影響額が出せるため、労務費やエネルギーに比べて根拠を示しやすいコストといえます。
品番ごとの素材重量に値上げ額を掛けると、単価への影響が数字で示せます。
※数字は説明のための架空の例です。
素材重量で計算するのは、端材や切りくずになる分も含めて鋼材を買っているためです。製品重量で計算すると、影響額を小さく見積もってしまいます。計算式と元データを示せば、販売先の購買担当も上司に説明しやすくなります。
毎年9月と3月は国の「価格交渉促進月間」です。年に2回のこの時期を、価格改定の申し入れのタイミングとして社内の予定に組み込んでおくと、値上げのたびに慌てずに済みます。
まとめ
- JFEスチールは10月商談分で全品種トン1万円を追加し、2026年の値上げは累計2万5000円(報道ベース)
- 理由は原料炭の高騰(8月末に約270ドル)、中東情勢によるエネルギー・物流費、労務費などの同時上昇
- 企業物価指数では鉄鋼は前年比2.4%増にとどまり、値上げはまだ取引価格に浸透しきっていない
- ひも付き・店売り・支給材で反映の時期と交渉相手が違うため、買い方ごとに影響額を把握する
- 購買は通知の整理と発注点の見直し、販売は素材重量×値上げ額の試算を根拠に転嫁を進める
鋼材の値上げは、仕入れの交渉と販売先への転嫁を同時に進める必要がある点で、購買と営業の両方に関わるテーマです。仕事の進め方そのものは購買・調達の仕事の流れもあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(12件)を開く出典・参考資料を閉じる
- JFEスチール10月商談分の値上げ:日本経済新聞「JFEスチール、鋼材値上げ 原燃料高で今年3回目」(2026年9月18日)、日刊産業新聞「JFEスチール、1万円追加値上げ 店売り・ひも付き 鋼材全品種で 10月商談分から」(2026年9月18日)
- JFEスチール6月商談分の値上げ:日本経済新聞「JFEスチール、鋼材全品種再値上げ 原油高などを反映」(2026年5月29日)、日刊鉄鋼新聞(2026年5月29日)
- JFEスチール土木・建築商品、薄板・厚板の値上げ:日刊産業新聞(2026年1月30日)、日本経済新聞(2026年3月6日)、日本経済新聞(2026年3月24日)
- 日本製鉄の値上げ:日本経済新聞「日本製鉄、薄鋼板を再値上げ 7月出荷分から5%」(2026年5月27日)、日刊産業新聞(2026年3月27日)、日本経済新聞(2026年6月29日)
- 東京製鉄の販価:日刊鉄鋼新聞(2026年8月19日)、日刊産業新聞(2026年9月15日)、日本経済新聞「東京製鉄、10月契約で鋼板値上げ 3カ月ぶり」(2026年9月14日)
- トヨタの支給鋼材価格:日本経済新聞「トヨタ、車鋼板4年ぶり値上げ 10月から部品会社向け」(2026年8月27日)
- 原料炭価格:JOGMEC「石炭の価格推移と需給動向(2026年8月)」(2026年9月15日)
- 中東情勢と原油価格:JETRO「ホルムズ海峡封鎖後の中東におけるエネルギー動向」(2026年6月19日)、日本経済新聞「米・イスラエルがイラン攻撃、首都空爆 トランプ氏「核兵器取得阻止」」(2026年2月28日)
- 企業物価指数:日本銀行「企業物価指数(2026年8月速報)」
- 鉄鋼需要見通し:日本鉄鋼連盟「2026年度の鉄鋼需要見通し」(2025年12月25日)、日本経済新聞「8月粗鋼生産は微増 5カ月連続プラス」、日刊産業新聞「粗鋼生産5カ月連続増 8月666万トン」(2026年9月25日)
- 価格転嫁率:経済産業省「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」(2026年6月26日)
- 取適法:公正取引委員会「2026年1月施行!下請法は取適法へ 改正ポイント説明会」資料
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