さらし粉とは?化学式・半反応式と高度さらし粉の違い、工場での使い方

浄水場の薬品注入室に並ぶ塩素剤の貯槽と注入ポンプ

さらし粉は、消石灰(水酸化カルシウム)に塩素を吸収させてつくる白い粉で、水に溶かすと次亜塩素酸イオン(ClO−)が酸化剤として働き、菌を殺し、色素を分解して白くする薬品です。1799年に英国のチャールズ・テナントが発明し、布や紙の漂白に広く使われてきました。

教科書の化学式 CaCl(ClO)・H2O は、塩化カルシウムと次亜塩素酸カルシウムが合わさった形を表しています。いまの浄水場やプール、食品工場で使われているのは、塩化カルシウムを除いた高度さらし粉(有効塩素70%以上など)と、液体の次亜塩素酸ナトリウムが中心です。

この記事では、化学式の読み方、殺菌・漂白の理由、高度さらし粉との違い、半反応式の作り方、塩酸で塩素が出る反応とアニリンの検出を順に確かめます。後半では、工場での製法と国内の生産量、有効塩素の計算、混ぜるな危険と消防法などの法令まで、現場で塩素剤を扱う人向けに整理します。

目次

さらし粉とは?化学式を2倍すると正体が見える

さらし粉は、教科書では「塩化カルシウムと次亜塩素酸カルシウムの複塩」と説明され、化学式は CaCl(ClO)・H2O と書かれます。複塩は、2種類以上の塩が一定の割合で結晶をつくったもので、この式ではカルシウムイオン1個に塩化物イオンと次亜塩素酸イオンが1個ずつ付いています。

この式のままでは、何と何の塩なのかが見えにくくなっています。そこで全体を2倍して、同じ種類のイオンどうしを組み直すと、塩化カルシウム CaCl2 と次亜塩素酸カルシウム Ca(ClO)2 が1:1で入っていることがはっきりします。

① 教科書の化学式
CaCl(ClO)・H2O
② 全体を2倍する
Ca2Cl2(ClO)2・2H2O
③ 同じ種類のイオンで組み直す
CaCl2・Ca(ClO)2・2H2O
CaCl2:塩化カルシウム Ca(ClO)2:次亜塩素酸カルシウム H2O:結晶に含まれる水。2倍しても、原子の種類と数の比は変わりません。

図1:化学式を2倍して並べ替えると見える、さらし粉の中身

教科書の式は2種類の塩の組み合わせで、市販品はさらに未反応の消石灰を含む混合物です。

CaCl(ClO)・H₂O×2 して組み直すCaCl₂Ca(ClO)₂教科書の式同じイオンをまとめる塩化カルシウム次亜塩素酸カルシウム市販のさらし粉:上の2つの塩+未反応の消石灰 Ca(OH)₂+水分(組成は一定でない)

※化学辞典(第2版)、ブリタニカ国際大百科事典(コトバンク)の記述をもとに作成。

ただし、この化学式は教科書で扱う理想の形です。化学辞典によると、実際のさらし粉は複塩に未反応の消石灰が約30%混ざった白色の混合物で、組成は製品ごとに一定ではありません。そのため工業では化学式ではなく「有効塩素」という数字で中身の強さを表します。

有効塩素は、その薬品が塩素ガスに換算して何%分の酸化力を持つかを示す値です。市販のさらし粉は30%台で、日本大百科全書によると、日本薬局方の「サラシ粉」も有効塩素30.0%以上と規定されています。計算のしかたは後の「用途と有効塩素の考え方」で扱います。

さらし粉の性質:殺菌と漂白は次亜塩素酸イオンの酸化力

さらし粉の性質の中心は、殺菌作用と漂白作用の2つです。どちらも、相手から電子を奪う酸化剤としての働きで説明できます。菌の細胞をつくる物質が酸化されると菌は死に、色素の分子が酸化されると光を吸収する構造が壊れて色が消えます。

さらし粉は塩なので、水に溶かすとイオンに分かれます。このうち酸化力を持つのが次亜塩素酸イオン ClO− で、塩素の酸化数が +1 と高く、電子を2個受け取って塩化物イオン Cl−(酸化数 −1)に変わろうとします。

さらし粉を水に溶かしたときの電離
CaCl(ClO) → Ca2+ + Cl− + ClO−
結晶水は省略しています。左右で電荷の合計はどちらも0です。殺菌・漂白に働くのは ClO− で、Cl− と Ca2+ は酸化力を持ちません。

次亜塩素酸イオンは、弱い酸である次亜塩素酸 HClO から水素イオンが外れた形です。そのため水の中では一部が水から水素イオンを受け取って HClO に戻り、残った OH− の分だけ水溶液は塩基性になります。この反応を加水分解と呼びます。

次亜塩素酸イオンの加水分解(平衡)
ClO− + H2O ⇄ HClO + OH−
⇄ は両方向に進む平衡を表します。市販のさらし粉は未反応の消石灰も含むので、水溶液はさらに塩基性に傾きます。

殺菌の現場で大事なのは、HClO と ClO− の割合が水の pH で変わることです。

厚生労働科学研究の報告では、pH 4〜6 では HClO が、pH 8.5〜10 では ClO− が多く、ClO− の消毒効果は HClO の約80分の1とされています。米国 CDC の指針も、pH が上がるほど塩素の殺菌効果が下がると説明しています。

図2:pH で変わる次亜塩素酸(HClO)と次亜塩素酸イオン(ClO⁻)

酸性側では殺菌力の強い HClO が多く、塩基性側では ClO⁻ が多くなります。

HClO が多い両方が混ざるClO⁻ が多いpH 4567〜88.5910殺菌力が強い殺菌力は約1/80プールの水などは中性付近で管理するため、pH の管理が消毒の効き方を左右する

※厚生労働科学研究の分担研究報告書、CDC「Chemical Disinfectants」をもとに作成。境目の pH は温度でも少し変わります。

消毒の効き方は pH だけでなく、水の濁りや有機物の量、接触させる時間、温度でも変わります。現場では薬品の種類よりも、残留塩素の濃度と pH を一緒に測って管理することが基本になり、この考え方はさらし粉でも液体の塩素剤でも共通です。

酸化剤の強さは水質の指標にもつながっています。排水に含まれる有機物の量を酸化剤の消費量で表すCOD(化学的酸素要求量)は、塩素剤の消費が多い水かどうかを見る手がかりにもなります。

高度さらし粉とは?

高度さらし粉は、さらし粉から塩化カルシウムを除き、次亜塩素酸カルシウム Ca(ClO)2 を主成分にした薬品です。日本ソーダ工業会によると、有効塩素70%以上と60%以上の2種類があり、主に上下水道やプール、食品工業、排水処理での殺菌・消毒に使われています。

同じ重さで比べると、高度さらし粉は有効塩素がさらし粉の約2倍で、運ぶ量も保管する場所も少なく済みます。さらに保存中に有効塩素が減りにくく、百科事典マイペディアも温度や湿度に対する安定性が高いと説明しています。

高度さらし粉の電離
Ca(ClO)2 → Ca2+ + 2ClO−
1 mol から ClO− が 2 mol でき、酸化剤として働く部分の割合がさらし粉より大きくなります。

働く成分はさらし粉と同じ ClO− なので、反応式や半反応式は変わりません。手元の製品が何%品かは、袋やドラム缶の表示と安全データシート(SDS)の組成の欄で確かめ、有効塩素の値を使って投入量を計算するのが実務の流れです。

比べる観点さらし粉高度さらし粉次亜塩素酸ナトリウム
主成分CaCl2・Ca(ClO)2+未反応の消石灰次亜塩素酸カルシウム Ca(ClO)2次亜塩素酸ナトリウム NaClO
形白色の粉末白色の粉末・顆粒・錠剤水溶液
有効塩素の目安30%台70%以上/60%以上12%(工業品)
主な用途漂白、排泄物・器具の消毒上下水道・プール・食品工業の殺菌上下水道・プール・食品工業・パルプ漂白
扱いで効く点湿気で分解しやすい。日米では工業用の生産なし酸化性の固体。消防法の第1類に当たる液体なのでポンプで注入しやすい。時間とともに有効塩素が減る
出典:日本ソーダ工業会「ソーダ製品の説明」、日本大百科全書・化学辞典(コトバンク)、厚生労働省「モデルSDS 次亜塩素酸カルシウム」をもとに作成

なぜ CaCl₂ はさらし粉にとって邪魔なのか?

塩化カルシウムには、空気中の水分を吸って自分から溶ける潮解性があります。乾燥剤や道路の凍結防止剤に使われるほど水を引き寄せる力が強く、乾燥剤の選び方でも、吸湿力の大きい中性の乾燥剤として扱われています。

さらし粉の中の塩化カルシウムが湿気を吸うと、粉の表面に薄い水の膜ができ、次亜塩素酸カルシウムがその水に溶けて ClO− になります。固体のままなら止まっていた反応が、水があることで進み始めるのが問題の出発点です。

水に溶けた ClO− の一部は、先ほどの加水分解で HClO に変わります。そこへ空気中の二酸化炭素が溶け込むと、炭酸は次亜塩素酸より強い酸なので、弱い酸の HClO を追い出す「弱酸遊離」が起き、HClO がさらに増えていきます。

空気中の CO2 による弱酸遊離
Ca(ClO)2 + CO2 + H2O → CaCO3 + 2HClO
できた次亜塩素酸の分解(光や熱で進む)
2HClO → 2HCl + O2
左右で Ca 1個、Cl 2個、C 1個、O 5個、H 2個がそろっています。分解して塩化水素と酸素になると、その分の酸化力は失われます。

次亜塩素酸は水溶液の中にしか存在しない不安定な酸で、光や熱で分解していきます。HClO が分解して減ると、ルシャトリエの原理(平衡は変化を打ち消す向きに移る)により、加水分解の平衡が右へ移って ClO− が次々に HClO に変わり、有効塩素が少しずつ失われます。

平衡の移り方を濃度・圧力・温度で考える方法は、ハーバーボッシュ法とルシャトリエの原理と同じです。さらし粉の場合は、生成物の HClO が分解や反応で取り除かれ続けるため、平衡が一方向に引っぱられていきます。

図3:さらし粉が湿気で弱っていく4つの段階

塩化カルシウムが水を呼び込むことが、有効塩素が減る連鎖の入口になります。

① 湿気を吸う潮解性のある CaCl2 が空気中の水分を引き寄せる
② ClO⁻ が溶け出す表面の水に次亜塩素酸カルシウムが溶けてイオンになる
③ HClO ができる加水分解と、空気中の CO2 による弱酸遊離
④ 有効塩素が減るHClO が光や熱で分解し、酸化力が失われていく

※日本大百科全書・世界大百科事典(コトバンク)の「貯蔵中に分解しやすい」「日光・温度上昇・水で分解」をもとに、反応の流れを整理。

塩化カルシウムを除いた高度さらし粉は、湿気を呼び込む成分が少ないぶんこの連鎖が起きにくく、日本ソーダ工業会の製品のように有効塩素70%以上を保ったまま流通できます。それでも水分は分解のきっかけになるので、開けた容器はすぐ閉じ、湿気と日光を避けて保管する点は変わりません。

さらし粉の半反応式の作り方

酸化剤としての働きを式で表すのが半反応式で、さらし粉では ClO− が Cl− に変わる反応を書きます。酸性の水溶液を前提に、次の5つの手順で組み立てると、暗記に頼らずに毎回同じ式を導けます。

図4:半反応式をつくる5つの手順(酸性の水溶液)

原子の数を先にそろえ、最後に電子 e⁻ で電荷をそろえます。

STEP 1反応前と反応後を書くClO⁻ → Cl⁻
STEP 2O・H 以外の原子をそろえるCl は左右とも1個なので、そのまま
STEP 3足りない O を H₂O で補うClO⁻ → Cl⁻ + H₂O
STEP 4足りない H を H⁺ で補うClO⁻ + 2H⁺ → Cl⁻ + H₂O
STEP 5電荷を e⁻ でそろえる左は +1、右は −1。左に e⁻ を2個足す
完成ClO⁻ + 2H⁺ + 2e⁻ → Cl⁻ + H₂OCl の酸化数は +1 から −1 へ。受け取る電子2個と一致
さらし粉(ClO−)の半反応式:酸性の水溶液
ClO− + 2H+ + 2e− → Cl− + H2O
参考:塩基性の水溶液で書く場合
ClO− + H2O + 2e− → Cl− + 2OH−
電荷の合計は、酸性の式が左右とも −1、塩基性の式が左右とも −3 です。塩基性の式は、酸性の式の両辺に OH− を2個足し、H+ と OH− を H2O にまとめると得られます。

検算のポイントは、電子の数と酸化数の変化が一致しているかです。塩素の酸化数は +1 から −1 へ2つ下がるので、受け取る電子も2個になり、手順5で足した数と合っています。電子のやりとりで反応を考える見方は、電気分解の陰極・陽極の反応式とも共通しています。

実際のさらし粉の水溶液は塩基性ですが、高校化学や酸性条件の反応では酸性の式を使うのが一般的です。高度さらし粉も働く成分は同じ ClO− なので、半反応式はさらし粉とまったく同じになります。

さらし粉で有名な反応

さらし粉の反応としてよく取り上げられるのは、塩酸を加えて塩素を発生させる反応と、アニリンを見分ける呈色反応の2つです。どちらも ClO− の性質から説明でき、前者は現場の「混ぜるな危険」とも同じ仕組みです。

さらし粉に塩酸を加えて塩素を発生させる反応

さらし粉に塩酸を加えると、黄緑色の塩素ガスが発生します。この反応は丸ごと暗記するより、弱酸遊離と酸化還元の2段階に分けると、係数まで自分で導けます。

1段階目は弱酸遊離です。塩酸(塩化水素)は強い酸、次亜塩素酸は弱い酸なので、ClO− が塩酸から H+ を受け取って HClO になり、塩酸は塩化物イオンとしてカルシウムと塩化カルシウムをつくります。

1段階目:弱酸遊離(強い酸が弱い酸を追い出す)
CaCl(ClO)・H2O + HCl → CaCl2 + HClO + H2O
2段階目:酸化還元(Cl の酸化数 −1 と +1 が0になる)
2Cl− → Cl2 + 2e−
2HClO + 2H+ + 2e− → Cl2 + 2H2O
足し合わせて HCl + HClO → Cl2 + H2O
全体の反応式(1段階目+2段階目)
CaCl(ClO)・H2O + 2HCl → CaCl2 + 2H2O + Cl2↑
2段階目の2式を足すと 2HCl + 2HClO → 2Cl2 + 2H2O になり、両辺を2で割ったのが「足し合わせて」の式です。全体の式は左右で Ca 1個、Cl 4個、O 2個、H 4個がそろっています。

2段階目では、HCl の塩素(酸化数 −1)が電子を出して酸化され、HClO の塩素(酸化数 +1)が電子を受け取って還元され、どちらも酸化数0の Cl2 になります。

同じ元素どうしが電子をやりとりして真ん中の状態に集まる反応で、塩素の酸化数が −1 と +1 の物質を混ぜると塩素が出ると覚えておくと、次の式もすぐ書けます。

高度さらし粉に塩酸を加えた場合
Ca(ClO)2 + 4HCl → CaCl2 + 2Cl2↑ + 2H2O
ClO− が2個あるので、出る塩素も2倍になります。左右で Ca 1個、Cl 6個、O 2個、H 4個がそろっています。

実験室では、この反応が塩素を手軽に得る方法として使われます。一方で工場や家庭では、次亜塩素酸塩を含む薬剤に酸が混ざると同じ反応で塩素ガスが出てしまうため、後の「安全な扱い」の章で量の目安と対策を説明します。

アニリンの検出反応に使えるさらし粉

アニリン(ベンゼン環にアミノ基 −NH2 が付いた化合物)を含む水にさらし粉の水溶液を加えると、赤紫色に呈色します。これもさらし粉の酸化力による反応で、アニリンが酸化されて色のある化合物に変わるためです。

百科事典のアニリンの項は、この呈色はきわめて鋭敏で、アニリンの検出に用いると説明しています。有機化合物の構造を推定する問題では、「さらし粉水溶液で赤紫色」はアニリンがある手がかりとして扱われ、水酸化ナトリウムを加えた条件では青紫色が現れると書く資料もあります。

工場でのつくり方:塩素と消石灰から高度さらし粉へ

さらし粉も高度さらし粉も、原料は塩素とカルシウムの化合物です。ここからは、塩素がどこで生まれ、どの工程で固体の塩素剤になり、国内でどれだけつくられているかを順に見ていきます。

原料の塩素は食塩電解から来る

日本の塩素は、主に食塩水を電気分解するソーダ工場でつくられています。陽極で塩化物イオンが酸化されて塩素が、陰極側で水酸化ナトリウムと水素ができ、その仕組みはイオン交換膜法による食塩電解で詳しく説明しています。

日本ソーダ工業会によると、発生した塩素ガスの約75%はそのままパイプで送られ、塩化ビニルや溶剤などの製造に使われます。残りの約25%が、液体塩素・塩酸・次亜塩素酸ソーダ・高度さらし粉の4つの塩素製品になり、高度さらし粉はその一角を占めています。

さらし粉と高度さらし粉の製法

さらし粉は、湿った消石灰に乾いた塩素ガスを低温で十分に吸収させてつくります。次亜塩素酸塩は温度が上がると分解しやすいので、冷やしながら反応させるのが要点で、理想的な反応は次の式で表せます。

さらし粉の生成(教科書の理想式)
Ca(OH)2 + Cl2 → CaCl(ClO)・H2O
2倍して2つの塩に分けて書くと
2Ca(OH)2 + 2Cl2 → CaCl2 + Ca(ClO)2 + 2H2O
塩素1分子のうち、1原子が酸化数 −1 の Cl− に、もう1原子が +1 の ClO− になります(不均化)。左右で Ca 2個、O 4個、H 4個、Cl 4個がそろっています。

この式から分かるとおり、消石灰に塩素を吸わせるだけでは、塩素の半分が酸化力を持たない塩化カルシウムになってしまいます。さらし粉は貯蔵中に分解しやすく不溶分も多いため、日本大百科全書によれば日本と米国では現在、工業用には生産されていません。

高度さらし粉は、石灰乳(消石灰を水に混ぜた濃い乳状の液)に塩素を反応させ、できた次亜塩素酸カルシウムの結晶をろ過して乾燥させます。日本大百科全書は、消石灰と苛性ソーダを1対2のモル比で混ぜたスラリーを塩素化する方法も紹介しており、塩化物を食塩として除けるのが特徴です。

苛性ソーダを加えて塩素化する場合(塩化物は NaCl になる)
Ca(OH)2 + 2NaOH + 2Cl2 → Ca(ClO)2 + 2NaCl + 2H2O
左右で Ca 1個、Na 2個、O 4個、H 4個、Cl 4個がそろっています。水に溶けやすい NaCl は母液に残り、次亜塩素酸カルシウムの結晶と分けられます。

液体の塩素剤である次亜塩素酸ナトリウムは、苛性ソーダの水溶液に塩素ガスを吸収させてつくります。苛性ソーダそのものの性質や工場での扱いは水酸化ナトリウムの性質と工場での扱いにまとめています。

次亜塩素酸ナトリウムの生成
2NaOH + Cl2 → NaCl + NaClO + H2O
塩素が Cl−(NaCl)と ClO−(NaClO)に分かれる点は、さらし粉の生成と同じです。製品の有効塩素は12%で、食塩を10〜12%含む一般品と4%以下の低食塩品があります。

図5:食塩電解の塩素から3つの塩素剤ができる流れ

組み合わせるアルカリによって、粉の塩素剤と液体の塩素剤に分かれます。

塩素 Cl₂さらし粉高度さらし粉次亜塩素酸Na食塩電解+湿った消石灰+石灰乳+苛性ソーダ液同じ電解でできる苛性ソーダを使う

※日本ソーダ工業会「ソーダ製品の説明」、日本大百科全書・化学辞典(コトバンク)をもとに作成。さらし粉は日本では工業用に生産されていません。

塩素・苛性ソーダ・石灰からつくる製品は、無機化学の基本的な製法の多くとつながっています。アンモニアソーダ法や接触法なども含めた全体像は、無機化学の工業的製法まとめで見渡せます。

国内の生産量:液体の次亜塩素酸ナトリウムが主役

日本ソーダ工業会の統計では、2025年度の高度さらし粉の生産は7,842トンでした。同年度の出荷は国内需要が3,678トン、輸出が4,292トンで、出荷の半分以上(約54%)が海外向けです。

同じ年度の次亜塩素酸ナトリウムの生産は、有効塩素12%換算で87万3,159トンにのぼります。有効塩素の量に直しても、液体の次亜塩素酸ナトリウムは高度さらし粉のおよそ19倍(高度さらし粉を有効塩素70%として概算)で、国内の塩素剤は液体が主流です。

図6:高度さらし粉の国内生産量の推移(年度、トン)

2021年度までは2万トン台以上でしたが、2022年度以降は7,000〜1万トン前後に減っています。

30,17023,4077,14010,0289,3317,8422019202120222023202420252025年度の内訳:国内需要 3,678 t、輸出 4,292 t

※日本ソーダ工業会「統計:高度さらし粉 生産・出荷・在庫」(製品のトン数)。2020年度は省略。同会の高度さらし粉の統計は2026年4月分以降の公開を停止しています。次亜塩素酸ナトリウムは有効塩素12%換算で集計され、単位がそろわないので同じ図には入れていません。

2022年度に生産が大きく減った理由は、統計からは分かりません。製品を選ぶ側から見ると、国内の供給元が限られる固体の塩素剤は、調達先の数と在庫の持ち方を早めに確かめておく価値がある薬品だといえます。

用途と有効塩素の考え方

高度さらし粉と次亜塩素酸ナトリウムの使い道は、水の殺菌・消毒が中心です。ここでは主な用途と、それぞれの現場で守られている塩素濃度の基準、製品の有効塩素から投入量を計算する方法を整理します。

上下水道・プール・食品工場の殺菌と漂白

図7:塩素剤(次亜塩素酸塩)の主な用途

水を安全に保つ消毒と、紙や繊維を白くする漂白の2つの系統があります。

上水道・井戸水給水栓で遊離残留塩素 0.1 mg/L 以上を保つ(水道法施行規則)
プール遊離残留塩素 0.4 mg/L 以上、1.0 mg/L 以下が望ましい(厚労省の衛生基準)
食品工場・下水・排水設備・器具の殺菌、処理水の消毒。高度サラシ粉は食品添加物(指定添加物)
漂白パルプ・繊維・デンプン・油脂の漂白。さらし粉が最初に使われた分野

※日本ソーダ工業会「ソーダ製品の説明」、百科事典マイペディア(コトバンク)、水道法施行規則第17条(川崎市上下水道局の案内)、「遊泳用プールの衛生基準」(宮城県の案内)、日本食品化学研究振興財団の指定添加物リストをもとに作成。

水道では、蛇口(給水栓)の水に遊離残留塩素を 0.1 mg/L 以上保つことが水道法施行規則で決められています。これは蛇口に届いた時点で残っているべき濃度で、浄水場で入れる量そのものではなく、配水管の中で消費される分を見込んで注入量を決めます。

プールは厚生労働省の「遊泳用プールの衛生基準」で、遊離残留塩素を 0.4 mg/L 以上、1.0 mg/L 以下が望ましいとされ、毎日の測定が求められます。

プール用の高度さらし粉には第2類医薬品として販売される製品もあり、添付文書では塩素化イソシアヌル酸系の消毒剤と混ぜないよう注意を促しています。

食品工場では、設備や器具、原料の洗浄・殺菌に次亜塩素酸ナトリウムが広く使われ、高度サラシ粉も食品添加物の指定添加物リストに載っています。どの工程で何 mg/L の液を何分使うかは衛生管理の計画で決めるもので、食品工場の HACCP 運用の重要管理点として記録を残すのが一般的です。

有効塩素とは:理論値と投入量の計算例

有効塩素は、薬品が持つ酸化力を、同じ働きをする塩素ガスの重さに置き換えて%で表した値です。ClO− 1個は電子を2個受け取り、塩素分子1個(Cl2 + 2e− → 2Cl−)と同じ働きをするので、ClO− 1個を Cl2 1分子として数えます。

純粋な次亜塩素酸カルシウム Ca(ClO)2 の有効塩素(理論値)
Cl2 2分子分 70.90 × 2 = 141.80Ca(ClO)2 の式量 142.98 × 100 = 約99.2%
教科書のさらし粉 CaCl(ClO)・H2O の有効塩素(理論値)
Cl2 1分子分 70.90式量 145.0 × 100 = 約48.9%
原子量 Ca 40.08、Cl 35.45、O 16.00、H 1.008 で計算。市販品が理論値より低い(さらし粉30%台、高度さらし粉70%前後)のは、未反応の消石灰や水分、塩化物などを含むためです。

投入量の計算では、まず必要な有効塩素の重さを出し、次に製品の有効塩素の%で割ります。例として、水量 500 m³ のプールで遊離残留塩素を 0.5 mg/L 上げたい場合を考えると、必要な有効塩素は 250 g で、製品の量は次のようになります。

① 必要な有効塩素の重さ
500 m³ = 500,000 L → 500,000 L × 0.5 mg/L = 250,000 mg = 250 g
② 製品の量に直す
有効塩素70%の高度さらし粉:250 g0.70 ≒ 約357 g(約0.36 kg)
有効塩素12%の次亜塩素酸ナトリウム:250 g0.12 ≒ 約2.1 kg
水の中の汚れや日光で塩素が消費される分、保存中に製品の有効塩素が下がっている分は含めていない理想値です。

実際の運転では、汚れや日光、入泳者の数によって塩素の減り方が大きく変わり、計算どおりには残りません。計算は目安として使い、投入後に残留塩素計で測って追加量を決めるのが基本で、液体の次亜塩素酸ナトリウムは保存中に有効塩素が下がる点も見込んでおきます。

安全な扱い:混ぜるな危険と法令

高度さらし粉は、強い酸化剤で、皮膚や眼を侵し、酸と混ざると塩素ガスを出す薬品です。厚生労働省のモデル SDS では、酸化性固体、皮膚腐食性、眼の重篤な損傷、水生生物への強い毒性などに分類され、注意喚起語は「危険」です。

酸性洗剤・アンモニアと混ぜると塩素ガスが出る

塩酸との反応で見たとおり、次亜塩素酸塩に酸が加わると塩素ガスが出ます。家庭用の塩素系の漂白剤・洗浄剤や酸性タイプの洗浄剤に「まぜるな危険」と目立つように表示されているのは、この反応を防ぐためです。

国民生活センターは2026年3月、浴室などで塩素系洗浄剤と酸性洗浄剤を一緒に使って体調を崩す事故が起きていると注意を呼びかけ、排水口に残った洗浄剤が後から混ざる例も挙げました。モデル SDS も、酸のほかアンモニアやアミン、可燃物・還元性の物質を混ぜてはいけない相手としています。

計算例:有効塩素70%の高度さらし粉 1 kg が酸で全部分解した場合の塩素(最大値)
塩素の量 = 1,000 g × 0.7070.90 g/mol ≒ 9.87 mol
体積(0℃・1気圧)= 9.87 mol × 22.4 L/mol ≒ 約221 L
有効塩素がすべて塩素ガスになると仮定した理論上の最大値で、実際の発生量は酸の量や混ざり方で変わります。発生量の予測ではなく、少量でも大きな体積の毒性ガスになることを示す目安です。

工場では、塩素剤と酸性の薬品(塩酸・硫酸・酸性洗浄剤など)を同じ場所に置かない、受け入れ口や計量器具を分ける、使い終えた容器や配管を水でよく洗ってから別の薬品を扱う、といった対策で混触を防ぎます。こうした危険の洗い出しは工場のリスクアセスメントの手順で整理できます。

保管と SDS・法令の確認

消防法では、次亜塩素酸塩類は第1類危険物(酸化性固体)の品名の一つに定められ、モデル SDS も次亜塩素酸カルシウムを第1類・次亜塩素酸塩類としています。

指定数量は確認試験で決まる種別によって 50 kg・300 kg・1,000 kgのどれかになり、指定数量以上を貯蔵するには消防の許可が要ります。

指定数量に届かない量でも、市町村の火災予防条例で届け出や貯蔵の基準が決められている場合があります。教科書のさらし粉のように有効塩素の低い混合物が危険物に当たるかは成分と試験の結果によるので、製品ごとの SDS の適用法令の欄で確かめます。

耐薬品手袋で粒状の塩素剤をドラムからすくう作業者の手元

労働安全衛生法では、次亜塩素酸カルシウムは容器への名称などの表示と SDS の交付(通知)の対象で、リスクアセスメントの実施も求められる物質です。毒物及び劇物取締法には該当しませんが、皮膚・眼への腐食性は強いので、保護めがねと耐薬品性の手袋は省けません。

新しい塩素剤を受け入れるときは、SDS の次の項目を最初に確かめると、保管場所と作業手順を決めやすくなります。

  • 2項(危険有害性の要約)と3項(組成):有効塩素の%と、酸化性・腐食性の区分
  • 7項(取扱い及び保管上の注意):湿気・熱・日光を避ける条件と、離して置くべき物質
  • 10項(安定性及び反応性):混ぜてはいけない相手(酸・アンモニア・可燃物など)と分解温度
  • 15項(適用法令):消防法の類・品名・種別と指定数量、労働安全衛生法の表示・通知の対象か

保管は、換気のよい冷暗所で容器を密閉し、可燃物や酸から離して施錠するのが基本です。

モデル SDS は175℃以上で急速に分解するとしており、油や有機物が混ざると発熱・発火のおそれがあるので、こぼれた粉はおがくずなどの可燃物で拭き取らず、手順に沿って回収します。安全衛生の基本は製造業の職場環境と安全衛生も参考になります。

さらし粉のよくある質問

カルキとさらし粉は同じものですか?

カルキはさらし粉の別名で、化学辞典にはクロルカルキ、クロル石灰という呼び名も載っています。日常では水道水の塩素のにおいを「カルキ臭」と呼ぶことがありますが、水道水にさらし粉が入っているという意味ではありません。

さらし粉の水溶液は酸性ですか、塩基性ですか?

塩基性です。次亜塩素酸イオンが水から水素イオンを受け取る加水分解で水酸化物イオンが増えるうえ、市販のさらし粉は未反応の消石灰も含むためです。

家庭用の塩素系漂白剤とさらし粉の違いは何ですか?

家庭用の塩素系漂白剤は主に次亜塩素酸ナトリウムの水溶液で、さらし粉はカルシウムの塩の粉末です。働く成分はどちらも次亜塩素酸イオンなので、酸性タイプの洗浄剤と混ぜると塩素ガスが出る点は同じです。

高度さらし粉は消防法の危険物ですか?

次亜塩素酸カルシウムは、消防法の第1類危険物(酸化性固体)のうち次亜塩素酸塩類に当たります。指定数量は製品の種別で 50〜1,000 kg と変わるので、SDS の適用法令の欄で確かめ、指定数量以上は消防の許可を受けて貯蔵します。

まとめ

この記事のまとめ
  • さらし粉の化学式 CaCl(ClO)・H2O は2倍すると CaCl2・Ca(ClO)2・2H2O で、市販品は消石灰を含む有効塩素30%台の混合物
  • 殺菌・漂白は ClO− の酸化力によるもので、pH が低いほど殺菌力の強い HClO の割合が増える
  • 高度さらし粉は CaCl2 を除いた Ca(ClO)2(有効塩素70%以上など)で、湿気による分解が起きにくい
  • 半反応式は ClO− + 2H+ + 2e− → Cl− + H2O。塩酸を加えると弱酸遊離と酸化還元で塩素が出る
  • 塩素は食塩電解から来て、国内の塩素剤は液体の次亜塩素酸ナトリウムが主流。高度さらし粉は消防法の第1類で、酸との混触を防いで保管する

さらし粉の化学は、ClO− がどれだけ残っているかという一点に集まり、それが有効塩素の表示、湿気を避ける保管、酸と混ぜない運用につながっています。塩素剤をつくる側と使う側の産業のつながりは、化学業界のサプライチェーンから見渡せます。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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