生分解性ポリマーとは?分解のしくみと生分解性プラスチックの種類・用途

押出機から出た樹脂のストランドを水槽で冷やしてペレットにする樹脂工場のライン

生分解性ポリマーとは、自然界の微生物の働きで分子レベルまで分解され、最終的に二酸化炭素と水になる高分子です。形が崩れて細かくなるだけの「崩壊」とは違い、微生物が分解物を取り込んで無機物に戻すところまで進むことが条件になります。

分解されやすいかどうかは、主鎖に水と酵素で切れる結合(エステル結合やアミド結合)があるか、酵素がその結合に近づけるかで決まります。代表例はポリ乳酸(PLA)やPBAT、PHBHなどの生分解性プラスチックで、分解の速さは温度と水分、微生物の量で大きく変わります。

工業コンポストでは分解しても海ではほとんど進まない素材もあるため、この記事では特徴と分解しやすい構造、ポリペプチドの例をまず整理します。そのうえで代表的な生分解性プラスチック、分解する環境と規格、バイオマスプラスチックとの違い、用途と市場・国の戦略の順に見ていきます。

目次

生分解性ポリマーの特徴:微生物が「切って取り込める」高分子

日本バイオプラスチック協会(JBPA)は、生分解を「単にバラバラになることではなく、微生物の働きで分子レベルまで分解し、最終的に二酸化炭素と水になって自然界へ循環する性質」と説明しています。生分解性ポリマーの特徴は、この2段階の分解を微生物が進められる構造を持つことです。

高分子は大きすぎて、そのままでは微生物の細胞に入れません。そこでまず微生物が体の外に出す酵素や水が主鎖を切って小さな分子にし、次に微生物がそれを取り込んで呼吸に使い、二酸化炭素と水に変えます。

図1:生分解の2段階

酵素と水が主鎖を切って小さな分子にし、微生物がそれを取り込んで二酸化炭素と水に変えます。

第1段階:分解第2段階:取り込み高分子酵素が切る低分子微生物CO₂と水主鎖が長い加水分解モノマーなど呼吸に使う無機物に戻る

※細かく割れただけで第2段階に進まないものは「崩壊」で、生分解とは呼びません。分解の速さは温度・水分・微生物の量で変わります(JBPA)。

第1段階の多くは加水分解で、エステル結合は水と反応してカルボン酸とアルコールに、アミド結合はカルボン酸とアミンに分かれます。微生物の酵素はこの反応を速める触媒で、切れる結合が主鎖にあることが生分解性の前提になります。

エステル結合の加水分解(ポリエステルの主鎖が切れる)
R−CO−O−R′ + H2O → R−COOH + HO−R′
アミド結合の加水分解(ポリアミド・ポリペプチドの主鎖が切れる)
R−CO−NH−R′ + H2O → R−COOH + H2N−R′
R・R′は主鎖の残りの部分です。エステル結合はエステラーゼやリパーゼ、アミド結合はプロテアーゼなどの酵素が切ります。1か所切れるごとに鎖が短くなり、微生物が取り込める大きさに近づきます。

PETやポリエチレンが分解されにくい理由

ペットボトルのポリエチレンテレフタレート(PET)は、屋外に置いても形がほとんど変わりません。PETの主鎖にもエステル結合はありますが、硬いベンゼン環が並び、分子がきれいに並んだ結晶の部分が多いため、水と酵素が結合まで届きにくいのが分解されにくい理由です。

2016年には日本の研究グループが、PETを分解して栄養にする細菌Ideonella sakaiensisをScience誌に報告しました。この細菌は2つの酵素でPETをテレフタル酸とエチレングリコールに分けるため、酵素を使うPETリサイクルの研究につながっています。

ポリエチレンやポリプロピレンは、主鎖が炭素と炭素の結合だけで、水で切れる結合を持ちません。JBPAはポリエチレンにデンプンを混ぜた製品を生分解性プラスチックと認めておらず、原油の分留で得たナフサからつくる汎用樹脂の多くは、そのままでは生分解性ポリマーに入りません。

ヒドロキシ基が多いと分解しやすいのか:PVAと酢酸セルロース

ポリビニルアルコール(PVA)はヒドロキシ基が多く水に溶けますが、主鎖は炭素と炭素の結合です。分解できるのは一部の細菌や真菌で、ヒドロキシ基を酸化してカルボニル基に変え、そこから炭素どうしの結合を加水分解で切る特別な経路を使います(RSC Advances 2019)。

このため、PVAは「ヒドロキシ基が多いから分解しやすい」のではなく、それを分解する酵素を持つ微生物がいる例外と見るほうが正確です。国内では年21.3万トン(2018年)が製造され、液体洗剤を包む水溶性フィルムなどが生分解性素材の用途として広がっています(環境省ほか、2021年)。

たばこのフィルターに使う酢酸セルロースは、セルロースのヒドロキシ基を酢酸でエステルにした素材です。環境省などのロードマップは、置換が2つのジアセテートは生分解性を持つとしていますが、分解には条件と時間がかかるため、捨てても自然に戻るという理由にはなりません。

生分解性高分子は「分解できる結合」を持つ高分子の総称

生分解性高分子は、ひとつの物質の名前ではなく、微生物が分解できる高分子をまとめた呼び名です。ただし決め手は極性の官能基の多さではなく、主鎖に加水分解できる結合を持ち、それを切る酵素が自然界にあることです。

JBPAによると、コンポストの中で生ごみと同じ速さで分解される構造は、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリアミノ酸、多糖などに限られます。いずれも主鎖にエステル・アミド・グリコシド結合(糖どうしのつながり)を持つ熱可塑性の樹脂で、熱硬化性の生分解性プラスチックはないとされています。

図2:微生物が分解しやすい4つの構造

いずれも主鎖に水と酵素で切れる結合を持ちます。親水性や結晶の量は、分解の速さを左右する要因です。

脂肪族ポリエステル主鎖にエステル結合。PLA、PBS、PBAT、PHBH、PCLなど、生分解性プラスチックの中心エステル結合
脂肪族ポリアミド主鎖にアミド結合。ベンゼン環を含まない脂肪族の一部が分解されるアミド結合
ポリアミノ酸アミノ酸がペプチド結合でつながったもの。納豆のネバに含まれるポリグルタミン酸などペプチド結合
多糖糖がグリコシド結合でつながったもの。デンプン、セルロースとその誘導体などグリコシド結合

※日本バイオプラスチック協会「生分解性プラスチック入門」の分類をもとに作成。例外として、主鎖が炭素どうしのPVAは特定の微生物が分解します。

極性や親水性は、分解の速さを決める要因のひとつです。水を吸いやすい高分子は内部まで水がしみ込んで加水分解が進みやすく、反対に結晶が多いものや、ガラス転移温度より低い温度で硬く固まっているものは、同じ結合を持っていても分解が遅くなります。

つまり生分解性は、結合の種類という「切れる場所」と、水・温度・微生物という「切る条件」の両方で決まる性質です。この見方は、後で見るPLAが工業コンポストでは分解されるのに常温ではほとんど進まない理由の説明にもなります。

酒石酸ポリアミドの例:側鎖のヒドロキシ基で水になじませる

ナイロン66は、アジピン酸(炭素6個のジカルボン酸)とヘキサメチレンジアミンがアミド結合でつながったポリアミドで、丈夫さを生かしてエンジニアリングプラスチックの代表として使われます。主鎖にアミド結合はありますが、水になじみにくく結晶も多いため、自然環境ではほとんど分解されません。

アジピン酸の代わりに酒石酸を使うと、酒石酸はジカルボン酸であると同時に2つのヒドロキシ基を持つジオールでもあるため、主鎖の横にヒドロキシ基が並んだポリアミドになります。水が入り込みやすくなり、アミド結合の加水分解が起こりやすくなるという、分解性を高める設計の考え方を示す例です。

ただし、酒石酸系のポリアミドは加水分解や真菌による分解が研究されてきた段階の材料で、量産されている生分解性プラスチックではありません。分解されやすさは、構造だけでなく実際の試験で確かめる必要があります。

ポリペプチドも生分解性ポリマーになる

アミノ酸がペプチド結合でつながったポリペプチド(ポリアミノ酸)も生分解性ポリマーです。ペプチド結合はアミド結合そのものなので、自然界に広くいる微生物のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)で加水分解され、元のアミノ酸に戻ります。

ペプチド結合の加水分解(ジペプチドの例)
H2N−CHR1−CO−NH−CHR2−COOH + H2O
→ H2N−CHR1−COOH + H2N−CHR2−COOH
R1・R2はアミノ酸ごとに違う側鎖です。グルタミン酸の側鎖は−CH2CH2COOH、リシンの側鎖は−(CH2)4NH2で、どちらも水になじみやすい官能基を持ちます。

グルタミン酸やリシンのように側鎖にカルボキシ基やアミノ基を持つアミノ酸からできたポリペプチドは、水に溶けたりよく膨らんだりするため、酵素が鎖に近づきやすくなります。側鎖の官能基は分解を助ける要因で、分解そのものを担うのは主鎖のペプチド結合です。

身近な例が納豆のネバに含まれるポリグルタミン酸で、グルタミン酸が30〜5,000個つながった高分子です(味の素の発表)。国内では既存添加物として食品に使われ、ミネラルの吸収を助ける成分や可食性カプセルの皮膜などの用途が示されています。

代表的な生分解性プラスチック:PLA・PBS・PBAT・PHBH・PCL

工業材料として量産されている生分解性ポリマーの多くは、脂肪族ポリエステルです。原料は植物の糖や油脂を発酵させるものと石油からつくるものがあり、原料が植物でも石油でも、構造が同じなら生分解性は変わりません。

樹脂原料とつくり方特徴想定する分解環境の例主な用途の例
PLA(ポリ乳酸)トウモロコシやサトウキビの糖を発酵して乳酸にし、重合する透明で硬い。50℃を大きく超えないと分解が進みにくい工業コンポスト食品容器、フィルム、繊維、3Dプリンターの材料
PBS(ポリブチレンサクシネート)コハク酸と1,4-ブタンジオール。コハク酸を植物由来にしたものもある柔らかく、他の生分解性樹脂と混ぜて使われる製品ごとの認証で確認紙コップのコーティング、袋
PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)アジピン酸・テレフタル酸・1,4-ブタンジオール(石油由来が中心)柔らかく伸びる。PLAと混ぜてフィルムにする工業コンポスト(EN 13432)、土壌用のグレード(EN 17033)生ごみ袋、青果の袋、マルチフィルム
PHBH植物油などを原料に、微生物が体内にためるポリエステルを取り出す海水や土壌でも分解されるコンポスト・土壌・海水(OK Biodegradable MARINE)生ごみ袋、包装用のフィルム
PCL(ポリカプロラクトン)石油由来のε-カプロラクトンを開環重合する融点が約60℃と低い製品ごとの認証で確認他の生分解性樹脂との共重合・ブレンド
出典:日本バイオプラスチック協会、環境省ほか「バイオプラスチック導入ロードマップ」(2021年)、カネカ、BASF、Sigma-Aldrichの製品情報をもとに作成。分解環境は製品・グレードごとの認証で決まるため、同じ樹脂でも異なります。

ポリ乳酸(PLA):分解は加水分解から始まる

PLAは、乳酸がエステル結合でつながった脂肪族ポリエステルです。原料の乳酸はトウモロコシやサトウキビの糖を発酵してつくり、透明で硬い性質から食品容器やフィルムのほか、樹脂3Dプリンターの材料としても広く使われています。

PLAの加水分解(主鎖のエステル結合が切れて乳酸に戻る)
H−[O−CH(CH3)−CO]n−OH + (n−1)H2O → n CH3CH(OH)COOH
乳酸を微生物が取り込み、呼吸で分解する(全体の式)
C3H6O3 + 3O2 → 3CO2 + 3H2O
繰り返し単位C3H4O2に水H2Oが1つ加わると乳酸C3H6O3になります。検算:Cは左右とも3、Hは6、Oは左3+6=9、右6+3=9です。実際には一部の炭素が微生物の体(バイオマス)になります。

PLAは温度の影響を強く受け、Polymers誌の2022年の論文は、生分解が始まるには50℃を大きく超える温度が要るとしています。同論文が紹介する研究では、119日間で二酸化炭素になった割合が58℃では92.3%、37℃では19.5%、25℃では14.9%でした。

PBS・PBAT:柔らかさを補う石油由来のポリエステル

PBSはコハク酸と1,4-ブタンジオールからなるポリエステル、PBATは1,4-ブタンジオールにアジピン酸とテレフタル酸を重合させた共重合体で、どちらも石油由来の原料が中心です。PBATは柔らかく伸びるため、硬いPLAと混ぜてフィルムにする使い方が中心です。

たとえばBASFは、PBATとPLAを混ぜた材料で、土壌での生分解を定めた欧州規格EN 17033の認証を受けたマルチフィルム用のグレードを出しています。同じ樹脂の組み合わせでも、グレードごとに分解させる環境と認証が違う点に注意が要ります。

PBSでは事業の撤退もありました。報道によると、三菱ケミカルは2026年5月12日、タイの合弁会社で手がけてきたPBS「BioPBS」の事業から撤退すると発表し、生産は2025年12月に終了済みです。理由は、市場環境が想定と離れて収益性の低迷が続いたことでした。

PHBH:微生物がつくる国産のポリエステル

PHBHは、微生物が栄養として体内にためるポリエステル(PHA)の一種で、カネカが「Green Planet」の名で生産しています。植物油などを原料に発酵でつくり、同社によると土壌や海水でも分解され、認証「OK Biodegradable MARINE」を取得しています。

カネカは2019年12月に年産5千トンの設備を完成させ、2022年2月には高砂工業所で年1.5万トン分を増やす約150億円の投資を決めました。同社サイトは国内に年2万トンの実証設備があるとしており、国内で量産されている生分解性樹脂の代表です。

このほかPCLは、融点が約60℃と低い石油由来の脂肪族ポリエステルで、他の生分解性樹脂と共重合やブレンドをして柔らかさを加える用途があります。PGA(ポリグリコール酸)や澱粉ポリエステル、PVAなども、JBPAが国内で展開されている生分解性プラスチックとして挙げています。

どこで分解するか:コンポスト・土壌・海洋の違いと試験規格

「生分解性」と書かれていても、どの環境でも同じように分解されるわけではありません。微生物の量と温度は、高温で管理された工業コンポストがもっとも有利で、家庭の堆肥、土壌、海の順に厳しくなり、規格や認証も分解させる環境ごとに分かれています。

図3:分解する場所で条件と規格が違う

左ほど微生物が多く温度も高いため分解が速く、右へ行くほど条件が厳しくなります。

工業コンポスト高温で水分と空気を管理。試験は58℃(ISO 14855)、EN 13432
家庭の堆肥常温に近く、温度が上がりにくい。OK compost HOMEなど
土壌常温で季節に左右される。ISO 17556(JIS K 6955)、EN 17033
海洋低温で微生物が少ない。ISO 18830・19679(対応JISなし)

※試験は実験室の条件での分解度で、実際の環境で何日で消えるかをそのまま示すものではありません。規格はJBPA「生分解性プラスチック入門」、欧州規格は各認証機関の資料による。

欧州バイオプラスチック協会の説明では、工業コンポスト向けの欧州規格EN 13432は、12週間で崩壊し、6か月で90%以上が二酸化炭素になることを求めています。この規格は包装向けで、製品として満たしているかを認証機関が審査します。

認証機関のTÜV AUSTRIAは、EN 13432に合う製品に「OK compost INDUSTRIAL」、家庭の堆肥向けに「OK compost HOME」の認証を出しています。土壌・淡水・海水向けの「OK biodegradable」もあり、表示で分解させる環境が分かります。

分解する環境条件の特徴主な試験規格(対応JIS)認証・表示の例
工業コンポスト高温で水分・空気を管理(試験は58℃)ISO 14855-1・-2(JIS K 6953-1・-2)、EN 13432(包装)OK compost INDUSTRIAL、Seedling
家庭の堆肥常温に近い認証機関の基準によるOK compost HOME
土壌常温、季節・土質で変わるISO 17556(JIS K 6955)、EN 17033(マルチフィルム)OK biodegradable SOIL
淡水・水系常温、水中の微生物ISO 14851(JIS K 6950)、ISO 14852(JIS K 6951)OK biodegradable WATER
海洋低温、微生物の密度が低いISO 18830、ISO 19679(対応JISなし)OK biodegradable MARINE、海洋生分解性プラ(JBPA)
出典:日本バイオプラスチック協会「生分解性プラスチック入門」「識別表示制度」、TÜV AUSTRIA「OK compost」資料、European Bioplastics、試験機関Arophaの ISO 14855 の説明をもとに作成

生分解度の測り方と計算例

生分解度は、試料が分解されて出た二酸化炭素の量を、試料に含まれる炭素がすべて二酸化炭素になったときの理論量(ThCO2)と比べて求めます。工業コンポスト条件のISO 14855-1では、堆肥と試料を58℃に保ち、空気を通しながら出てくる二酸化炭素を測り続けます。

PLA 100 gの理論二酸化炭素量(繰り返し単位C3H4O2=72、炭素の割合=36÷72=0.5)
ThCO2 = 100 g × 0.5 × 4412 = 約183 g
生分解度(試料を入れた容器と入れない容器の差が、試料から出たCO2)
生分解度 = 試料ありのCO2 − 試料なしのCO2ThCO2 × 100
(例)165 g183 g × 100 = 約90%
44はCO2の分子量、12は炭素の原子量で、炭素1 gが燃え尽きるとCO2が44÷12=3.67 gできます。165 gは計算のための仮の測定値です。堆肥そのものからもCO2が出るため、試料なしの容器の値を引きます。

試料の炭素の一部は微生物の体になるので、理論量の100%にはなりません。そのためEN 13432は、6か月で90%以上を完全に分解したとみなす基準にしており、JBPAの生分解性プラの認定も、協会が指定する試験で生分解度60%以上を求めています。

「生分解=海で消える」ではない

国連環境計画(UNEP)は2015年の報告書で、プラスチックの完全な生分解は海ではまず満たされない条件で起こると指摘しました。一部のポリマーは産業用コンポストで50℃を超える温度が続かないと崩壊しないとし、「生分解性」の表示がポイ捨てを増やすおそれにも触れています。

海は陸より微生物の密度が桁違いに低く、種類も違うため、JBPAは海洋生分解性プラの認定に、陸の生分解性プラ(60%以上)より厳しい生分解度90%以上を求めています。

海洋での生分解の試験法はISO 18830やISO 19679などが整えられてきましたが、実際の海での評価はまだ発展途上です。2025年発行のISO 16636(実水域での崩壊試験)は崩壊を調べる試験で、これだけでは「海で生分解する」とは言えません。

分解を早めるとうたう「オキソ分解性プラスチック」は、ポリエチレンなどに酸化を促す添加剤を入れて崩れやすくしたもので、生分解性プラスチックとは別物です。EUは2019年の使い捨てプラスチック指令で、オキソ分解性プラスチック製品の流通を禁じています。

バイオマスプラスチックとの違いと識別マーク

生分解性プラスチックと混同されやすいのが、バイオマスプラスチックです。バイオマスプラスチックは植物など再生可能な原料からつくるプラスチックで、「何からつくるか」の分類です。一方、生分解性は「使った後に微生物で分解されるか」の分類なので、両者は別の軸になります。

2つをまとめて「バイオプラスチック」と呼び、組み合わせると4種類に分かれます。植物由来のポリエチレンやPETは、普通のポリエチレン・PETと構造が同じなので分解されず、反対にPBATやPCLは石油由来でも生分解性を持ちます。

図4:原料と分解性の4つの組み合わせ

原料が植物か石油かと、生分解されるかどうかは別の性質です。

植物由来・生分解するPLA、PHBH、デンプン系。生分解性バイオマスプラの表示の対象バイオマス生分解性
植物由来・生分解しないバイオPE、バイオPET、バイオPAなど。構造が従来品と同じなので分解しないバイオマス非生分解性
石油由来・生分解するPBAT、PCL、石油由来のPBS。分解性は構造で決まる化石資源生分解性
石油由来・生分解しないポリエチレン、ポリプロピレン、PETなど汎用樹脂の大半化石資源非生分解性

※日本バイオプラスチック協会、環境省ほか「バイオプラスチック導入ロードマップ」(2021年)をもとに作成。バイオマス比率は炭素14を加速器質量分析(AMS法)で測ると求められます。

バイオマスプラスチックの価値は、原料の植物が育つときに二酸化炭素を吸収するので、燃やしても大気中のCO2を増やしにくい点です。ただし環境省などのロードマップは、原料が持続可能で、カーボンフットプリントのようにライフサイクル全体で排出減を確かめた場合に効果があるとしています。

JBPAの3つの識別表示と海外の認証

日本では、JBPAが3つの識別表示制度を運営し、使ってよい樹脂や添加剤を登録したポジティブリストをもとに、製品にマークと名称の表示を認めています。

  • バイオマスプラ:バイオマス由来の成分を25.0重量%以上含む(2006年度開始)
  • 生分解性プラ:生分解性の樹脂と天然有機材料で50.0%以上、1%以上含む有機材料は生分解度60%以上(2000年度開始、2021年度に「グリーンプラ」から改称)
  • 海洋生分解性プラ:同じ枠組みで、海洋生分解性の試験で生分解度90%以上(2023年度開始)

生分解性プラかつバイオマスプラの基準も満たす製品は「生分解性バイオマスプラ」と表示できます。欧州向けの製品では、工業コンポスト適合を示すSeedlingマークやTÜV AUSTRIAのOK compostが広く使われ、どのマークも分解させる環境とセットで読む必要があります。

用途と導入時の課題:回収しにくい場面で生きる

黒いマルチフィルムを張った畝にキャベツの苗が並ぶ畑

生分解性プラスチックが役立つのは、使った後に回収や分別がしにくい製品や、食べ物の残りと一緒に処理したい製品です。JBPAは主な用途として、農業・土木資材、生ごみの収集袋、食品の容器包装を挙げています。

  • 農業用マルチフィルム:収穫後にはがさず、農作業の一環として畑にすき込める
  • 生ごみの収集袋:袋ごと堆肥化やメタン発酵の施設に入れられる
  • 食品の容器包装・カトラリー:食べ残しと一緒に堆肥化できる
  • 肥料の被覆材・漁具:意図せず流れ出るおそれがあるため、土壌や海での分解が求められる

ロードマップは製品ごとに求める分解環境を分けて考えており、マルチフィルムには土壌、肥料の被覆材には土壌と海の両方、回収できない漁具には海での生分解の機能を求めています。用途から逆算して、どこで分解させる設計にするかを決めるのが基本の考え方です。

課題は、処理の受け皿とコストです。生ごみを堆肥化・バイオガス化する自治体などの施設は101か所(環境省、平成30年度版)と限られ、生分解しないプラスチックが堆肥に混ざると異物として扱われ、肥料づくりの妨げになります。

価格も高く、利用事業者への聞き取りでは、汎用プラスチックに比べてPLAが約2〜3倍、石油由来のPBATが約2〜2.5倍、バイオマス由来のPBATが約4〜5倍です(環境省ほか、2021年)。

添加剤や他の素材との複合が分解を妨げることもあるため、回収できる製品はケミカルリサイクルなど資源に戻す方法を選び、回収しにくい製品に生分解性を使うのが現実的な使い分けです。

輸出品では規制も効いてきます。EUの包装規則PPWRの第9条は、2028年2月12日から次の包装に工業コンポストへの適合を求めており、規則全体はEU包装規則PPWRの解説で整理しています。

  • 青果に貼る粘着ラベル
  • 茶やコーヒーなどの透過性のバッグ
  • 中身と一緒に捨てる柔らかい1杯分のパック

図5:生分解性の素材を選ぶときの確認手順

「生分解性かどうか」より先に、使った後どこへ行くかを決めると、必要な規格と表示が絞れます。

01用途と必要な性能耐熱・強度・透明性・使う期間。性能が足りなければブレンドや別素材を検討
02使った後の行き先回収してリサイクルか、堆肥化施設か、畑にすき込むか、流出のおそれがあるか
03必要な分解環境工業コンポスト・家庭の堆肥・土壌・海のどこで分解させるか
04規格と認証その環境の規格(EN 13432、EN 17033など)と表示を、樹脂ではなく製品で確認
05受け入れ先とコスト処理施設が実際に受け入れるか、価格差(2〜5倍)を製品価格で吸収できるか
06表示の伝え方「どこで分解するか」を書き、ポイ捨てを招く表現を避ける

※環境省ほか「バイオプラスチック導入ロードマップ」(2021年)の製品領域別の考え方と、各認証機関の資料をもとに作成。

市場・メーカーと国の戦略

欧州バイオプラスチック協会(EUBP)の2025年12月の集計では、バイオプラスチックの世界の生産能力は2025年に231万トンで、2030年には約469万トンへ倍増する見込みです。それでも年4.31億トンのプラスチック全体の約0.5%で、用途は包装が41.3%と最多です。

日本の規模は、JBPAの推計(2026年9月更新)で、2024年の国内市場が総計20.45万トン(前年比+12%)です。うちバイオマスプラスチックが11.86万トン、生分解性プラスチックが8.59万トンでした。

生分解性のうちバイオマス成分を含むものは約1.59万トンと推定されています。対象はJBPAのポジティブリスト登録品で、マスバランス方式の割り当て分は含みません。

参考までに、ロードマップが示した2018年の推計では、国内投入量約992万トンのプラスチックのうち、バイオマスプラスチック(生分解しないもの)が約4.1万トン、生分解性が約4千トンで、合わせて0.5%程度でした。集計の対象と方法が異なるため、2024年の推計と直接つないで増加率は求められません。

国内で量産しているのは前述のカネカのPHBHが代表で、酢酸セルロースやPVAの一部の用途も生分解性素材として使われています。化学メーカーにとっては、汎用樹脂の需要が伸びずエチレン設備の集約も進むなかで付加価値を狙える素材ですが、三菱ケミカルのように撤退する例もあります。

国の戦略:バイオプラスチック導入ロードマップ

政府は2019年5月の「プラスチック資源循環戦略」で、2030年までにバイオマスプラスチックを最大限(約200万トン)導入する目標を掲げました。これを受けて環境省・経済産業省・農林水産省・文部科学省が2021年1月にまとめたのが「バイオプラスチック導入ロードマップ」です。

ロードマップは、生分解性プラスチックを廃棄物処理の合理化と海洋プラスチックごみの削減に役立つ素材と位置づけ、分解環境に合った素材を選ぶことが前提だとしています。生ごみ収集袋の導入指針づくりや、海洋での生分解を評価する方法の国際標準化も、2021年時点の施策に挙げています。

日本の素材産業にとっては、化学業界の市場の中ではまだ小さな分野ですが、包装規制や脱炭素の流れを受けて、用途に合わせた素材の設計と認証の取得がそのまま商機につながる領域です。

生分解性ポリマーのよくある質問

生分解性と生体吸収性は何が違いますか?

生分解性は自然環境の微生物によって二酸化炭素と水まで分解される性質で、生体吸収性は体内で加水分解されて吸収・排出される性質です。PLAのように両方に使われる高分子もありますが、医療用の生体吸収性材料は体内での安全性で、生分解性プラスチックは環境中の試験規格で評価されます。

生分解性プラスチックは土に埋めればすぐ消えますか?

すぐには消えません。JBPAは分解の速さが温度・湿度・微生物で変わるとしており、PLAでは119日間で二酸化炭素になった割合が58℃の92.3%に対して25℃では14.9%という研究があります。土壌で使うなら、土壌での認証を受けた製品を選ぶ必要があります。

「生分解性」の表示だけで、どこで分解するか分かりますか?

分かりません。工業コンポスト、家庭の堆肥、土壌、海では条件が違い、規格と認証も別です。OK compost INDUSTRIALやOK biodegradable MARINE、JBPAの海洋生分解性プラなど、環境まで示した表示を確かめます。

生分解性プラスチックとリサイクル、どちらを選ぶべきですか?

回収して資源に戻せる製品はリサイクルが基本で、生分解性は回収しにくい製品や生ごみと一緒に処理する製品で効果を発揮します。生分解性プラスチックが通常のリサイクルの流れに混ざると品質を下げるおそれもあるため、使った後の行き先を先に決めて素材を選びます。

ポリ乳酸は家庭の生ごみ処理機や堆肥で分解しますか?

家庭の常温の堆肥ではほとんど進みません。PLAの分解には50℃を大きく超える温度が要るとされ、工業コンポストを前提に設計された製品が中心のため、家庭で処理したい場合はOK compost HOMEなど家庭用の認証を受けた製品を選びます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 生分解性ポリマーは、微生物の働きで分子レベルまで分解され、最終的に二酸化炭素と水になる高分子
  • 決め手は極性の多さではなく、主鎖にエステル・アミド・グリコシド結合など水と酵素で切れる結合があること
  • 代表的な生分解性プラスチックはPLA・PBS・PBAT・PHBH・PCLなどの脂肪族ポリエステルで、国内ではカネカのPHBHが量産されている
  • 分解の速さは工業コンポスト・家庭の堆肥・土壌・海で大きく違い、規格と認証も環境ごとに分かれる
  • バイオマスプラスチックは原料の分類で、生分解性とは別の軸。選ぶときは使った後の行き先から考える

生分解性ポリマーは、構造を見ればどこが切れるかを判断でき、温度と微生物の条件から分解の速さも説明できる素材です。食品容器や包装の使い手である食品・医薬・日用品業界や、樹脂の売り手である化学業界の解説とあわせて読むと、生分解性樹脂がどこで求められているかがつかみやすくなります。

出典

出典・参考資料(21件)を開く出典・参考資料を閉じる

NEWSLETTER

生産技術・化学・樹脂・ゴムの記事を、週1回まとめてメールで受け取る

週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。

実際に届くメールの例を見る

件名:今週のあなた向け記事|週刊MONOSCOPE 10/9号
登録内容:品質保証・品質管理 × 食品・医薬・日用品

週刊MONOSCOPEの見本(品質保証・品質管理 × 食品・医薬・日用品)

職種3本・業種3本・製造業で働くすべての方へ2本・今週よく読まれた記事3本が届きます。記事は毎週入れ替わります。ほかの見本を見る

生産技術を選んだ状態で登録へ ›

無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。

WEEKLY NEWS

今週の製造業ニュース10選

メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。

LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

▶ お仕事のご依頼はこちら

目次