セッコウ(石膏)は硫酸カルシウム二水和物(CaSO4・2H2O)、焼きセッコウはそれを120〜150℃ほどで焼いて結晶水の4分の3を追い出した硫酸カルシウム半水和物(CaSO4・1/2H2O)です。焼きセッコウの粉に水を加えると、二水和物に戻って固まります。
固まったセッコウが硬いのは、水が多いほど結晶が硬くなるからではなく、溶けた焼きセッコウから細長い二水石膏の結晶が析出し、互いに絡み合うからです。二水石膏の結晶そのものは硬度1.5〜2と軟らかく、水を含まない無水石膏のほうが硬いのです。
この記事では、セッコウと焼きセッコウの化学式と性質、ギプスや石膏ボードでの使われ方、セッコウのほうが硬い理由を順に整理します。後半では、石膏ボードの工場と JIS A 6901、発電所や化学工場から出る副産石膏、廃石膏ボードと硫化水素の問題を扱います。
セッコウ(石膏)=硫酸カルシウム二水和物
セッコウは、カルシウムイオン(Ca2+)と硫酸イオン(SO42−)からなる硫酸カルシウムが、結晶の中に決まった数の水分子を抱え込んだ物質です。天然には鉱物として産出するほか、発電所の排煙脱硫や化学工場からも大量に副産され、建材やセメントの原料として使われています。
セッコウの化学式:CaSO4・2H2O
セッコウの正式な名称は硫酸カルシウム二水和物で、化学式は CaSO4・2H2O です。「・2H2O」は CaSO4 1つにつき水分子2つが結晶に組み込まれていることを表し、この水を結晶水(水和水)と呼びます。
重さの約2割が水というのは、固体としてはかなりの量です。この水があとで見る石膏ボードの耐火性を生み、焼いて追い出せば水で固まる材料に変わるという、セッコウの性質すべての土台になっています。
セッコウの性質:水に溶けにくく、加熱で水を失う
セッコウは無色から白色の結晶で、水にはわずかしか溶けません。透明な結晶はセレナイト(透石膏)、細かい粒が集まった白いものはアラバスター(雪花石膏)と呼ばれ、セレナイトは窓に、アラバスターは彫刻の素材に古くから使われてきました。
環境省の調査報告では、二水石膏の硬度は1.5〜2とされ、鉱物の中でもかなり軟らかい部類に入ります。固まったセッコウの硬さは、結晶1個の硬さとは別の話だと押さえておくと、後の章の理由が分かりやすくなります。
セッコウを加熱すると、結晶水が抜けていきます。石膏ボード工業会の説明では、二水石膏を120〜150℃に加熱すると2つの水分子のうち1.5分子を失い、焼きセッコウ(半水石膏)になります。
温度に幅があるのは、焼き方で変わるからです。環境省の報告では、大気中で焼くβ型の工業的な生成温度は125〜160℃、加圧した水蒸気や水溶液の中で焼くα型は105〜150℃とされ、さらに温度を上げると結晶水をすべて失った無水石膏に変わります。
焼く温度が上がるほど結晶水が抜け、水との反応のしかたも変わります。
※温度は目安です。大気中か水蒸気中か、α型かβ型か、加熱の速さで変わります。さらに1,180℃を超えるとⅠ型無水石膏になります(環境省 調査報告書、長崎県窯業技術センター研究報告による)。
Ⅲ型無水石膏は空気中の湿気を吸ってすぐに半水石膏へ戻りますが、300〜400℃を超えて焼いたⅡ型無水石膏は水と反応しにくく、天然には硬石膏として産出します。同じ硫酸カルシウムでも、結晶水の数で水との付き合い方がまったく変わるわけです。
焼きセッコウ(焼石膏)=硫酸カルシウム半水和物
焼きセッコウは、セッコウを焼いて結晶水の大部分を追い出した白い粉で、焼石膏や半水石膏とも呼ばれます。水を加えると固まる性質(水和硬化性)を生かして、石膏ボードやギプス、陶磁器の型などの原料になります。
焼きセッコウの化学式:CaSO4・1/2H2O
焼きセッコウの正式な名称は硫酸カルシウム半水和物で、化学式は CaSO4・1/2H2O(CaSO4・0.5H2O)です。CaSO4 1つあたり水分子が半分という意味で、整数で表すために 2CaSO4・H2O と書かれることもありますが、どちらも同じ組成を表しています。
焼きセッコウの性質:水を加えると発熱して固まる
焼きセッコウは白い粉末で、水と練ると流し込める泥状になり、しばらくすると熱を出しながら固まって二水石膏に戻ります。加熱で追い出した水を取り戻す反応で、セッコウを焼くときとちょうど逆向きの変化です。
固まり始めるまでの時間は原料や配合で変わり、環境省の報告にある測定例では、β型で始発(固まり始め)約8分・終結約18分、α型で約18分・約50分でした。現場では硬化を早める促進剤や遅らせる遅延剤を加え、作業に必要な時間に合わせます。
ここまでのセッコウと焼きセッコウの違いを、化学式・性質・用途の観点で並べると次のようになります。
| 比べる観点 | セッコウ(二水石膏) | 焼きセッコウ(半水石膏) |
|---|---|---|
| 正式な名称 | 硫酸カルシウム二水和物 | 硫酸カルシウム半水和物 |
| 化学式 | CaSO4・2H2O | CaSO4・1/2H2O(2CaSO4・H2O) |
| 式量・結晶水 | 172.17、約20.9% | 145.15、約6.2% |
| 見た目 | 無色〜白色の結晶、固まると白い塊 | 白色の粉末 |
| 水との関係 | 水にわずかに溶ける。ぬれると強度が下がる | 二水石膏より溶けやすく、水と反応して固まる |
| つくり方・でき方 | 天然に産出、排煙脱硫や化学工場で副産、焼きセッコウを水で固める | セッコウを120〜150℃前後で焼く(β型は大気中、α型は加圧蒸気・水溶液中) |
| 主な用途 | セメントの凝結調整材、石膏ボードの芯(固まった姿) | 石膏ボード・ギプス・歯型・陶磁器の型・精密鋳造の型の原料 |
セッコウの使用例
焼きセッコウを水で練って型に流し、二水石膏として固める使い方は、医療から工業まで広がっています。環境省の報告は、セッコウの用途として次のような分野を挙げています。
- 建材:石膏ボード、石膏プラスター
- 医療・歯科:骨折の固定に使うギプス、歯型の模型
- 型材:陶磁器の成形型、金属の精密鋳造の型、美術工芸
- セメント・農業:セメントの凝結を遅らせる材料、農業用
ギプス・歯型・陶磁器の型
骨折した部位を固めるギプスは、焼きセッコウを含ませた包帯を水でぬらして巻き、その場で二水石膏に固める使い方です。粉と水だけで、狙った形のまま室温で固まることが、石膏が型材として重宝されてきた理由です。
MSD マニュアルによると、ギプス材料には石膏製とグラスファイバー製があり、固定の効果は同等で、巻く層数は石膏が典型的に8〜10層、グラスファイバーが2〜4層です。
グラスファイバー製には、水で硬化する樹脂を布状の基材にしみ込ませたキャスト材があり、どちらも硬化の発熱で熱損傷が起こりうると同マニュアルは注意しています。
歯科では歯型から模型をつくる硬質石膏が使われ、環境省の報告は強度の高いα型半水石膏を硬質石膏とも呼ぶとしています。
陶磁器の工場では、石膏型が器の形をつくる成形に欠かせません。長崎県窯業技術センターの報告によると、石膏型は数十回から百回ほど使うと表面が荒れて使えなくなり、長崎県内だけで年間数百トンが廃棄されています。成形から焼成までの流れはセラミックスの製造工程で整理しています。
石膏ボード:火に強いのは結晶水のおかげ
石膏ボードは、水で練った焼きセッコウを2枚の厚紙(ボード用原紙)の間に流し込み、板状に固めた建材です。住宅やビルの壁・天井の下地に広く使われ、表面に壁紙を張ったり塗装したりして仕上げます。
石膏ボードが火に強いのは、芯の二水石膏が重さの約20%の結晶水を含むからです。石膏ボード工業会によると、910×1,820×12.5 mm のボード1枚には約3 kg の水が含まれ、火災で高温にさらされると、この結晶水が水蒸気となって少しずつ出ていき、温度の上昇を遅らせます。
火にあぶられた面から結晶水が水蒸気になって抜け、その間は反対側に熱が伝わりにくくなります。
※構造を簡単にした模式図です。石膏ボード工業会は、結晶水の放出に加え、石膏そのものが伝熱を防ぐバリアになると説明しています。
石膏そのものも熱を伝えにくい壁として働くため、石膏ボードは防火材料として認められ、壁の防火・耐火構造や柱・梁の耐火被覆に使われています。材料の中を熱がどう伝わるかは熱伝導率と熱伝達率の違いで詳しく扱っています。
一方で、石膏ボードは水や湿気には強くありません。工業会は、常に水にぬれるおそれのある場所や湿度の高い部位には使えないとし、キッチンや浴室の脱衣室の下地には防水性を高めたシージング石膏ボードを使うよう案内しています。
なぜ焼きセッコウよりセッコウの方が硬いの?
焼きセッコウはさらさらの粉で、水を加えて固めたセッコウは硬い塊になるため、「水を多く含む二水和物のほうが結晶として硬い」と説明されることがあります。しかし差を生んでいるのは結晶水の多さではなく、固まるときにできる結晶の組織で、「硬い」という言葉には次の3つの意味が混ざっています。
- 結晶1個の硬さ(鉱物の硬度):二水石膏は1.5〜2と軟らかく、水を含まないⅡ型無水石膏のほうが硬い
- 粉か塊か:焼きセッコウが粉なのは、セッコウを焼いて砕いた粉体だから
- 固まった塊の強度:溶けて析出した二水石膏の結晶が密に絡み合うほど強くなる
水和物ってどういうもの?
水和物とは、水分子が決まった割合で結晶の中に組み込まれた化合物です。化学式の「・2H2O」や「・1/2H2O」がその印で、ぬれた粉の表面についた水(付着水・自由水)とは違い、結晶の骨組みの一部として決まった位置に並んでいます。
身近な例では、炭酸ナトリウム十水和物(Na2CO3・10H2O)が1つの式に10個もの水分子を抱えます。炭酸ナトリウムを工業的につくる方法はソルベー法で、水を取り込みやすい塩を工場で生かす例は乾燥剤の選び方で整理しています。
二水石膏の結晶では、カルシウムイオンと硫酸イオンがつくる層が重なり、水分子はカルシウムイオンに結びついた状態で層と層のすき間に並んでいます。
隣の層の硫酸イオンの酸素とは水素結合でつながるだけです。この結びつきは層の中より弱いため、二水石膏は層に沿って薄くはがれやすく(劈開)、軟らかい結晶になります。
つまり結晶水は、層と層をがっちり留める「かすがい」というより、むしろ割れやすい面を生んでいます。水を含まないⅡ型無水石膏のほうが強度・硬度ともに高いことも、結晶水の多さが結晶の硬さを決めているわけではないことを示しています。
セッコウの方が焼きセッコウより硬い理由:溶けて析出した結晶の絡み合い
焼きセッコウに水を加えると、まず粉の粒が水に溶け出します。半水石膏は二水石膏より水に溶けやすいため、溶けた量は二水石膏にとっては溶けきれない量になり、液は二水石膏について過飽和の状態になります。
過飽和の液からは、溶けにくい二水石膏が細長い針状・棒状の結晶として析出し、成長しながら互いに絡み合っていきます。米国標準局(NBS、現在の NIST)の報告は、石膏の凝結と硬化を「焼き石膏の水和と、絡み合う石膏結晶の成長」によるものと説明しています。
溶けやすい半水石膏が溶け、溶けにくい二水石膏として析出し直すことで、粉が塊に変わります。
※溶解と析出は同時に進み、粉はやがて全部が二水石膏の結晶に置き換わります。長崎県窯業技術センターは、硬化体の破断面の電子顕微鏡写真で針状の結晶を確認しています。
溶けては析出する流れが続くので、焼きセッコウの粉はやがて全部が二水石膏の結晶に置き換わり、無数の針が絡み合った塊になります。粉の焼きセッコウと固まったセッコウの差は、結晶1個の硬さではなく、結晶が絡み合った組織があるかどうかです。
絡み合いの密度は、練るときの水の量で大きく変わります。水和に必要な水は焼きセッコウ100 gに対して約19 gですが、流し込めるやわらかさにするにはそれより多くの水が要り、余った水は乾くと抜けて空隙(すき間)になります。
余る水が多いほど乾いたあとの空隙が増え、絡み合う結晶の密度が下がります。環境省の報告の測定例では、7日後の圧縮強さがα型で約39 MPa(398 kgf/cm²)、β型で約7.2 MPa(73 kgf/cm²)でした。
長崎県窯業技術センターも、練る水が多いと細孔が増えて強度が下がることを確かめており、少ない水で練れるα型が歯科用などの硬い石膏に使われる理由になっています。
固まったセッコウは、ぬれると弱くなるという性質もあります。環境省の報告によると、わずか1〜2%の自由水を含むだけで強度は乾いたときの40%ほどに下がり、絡み合った結晶の間の摩擦や引き合う力が水で弱まるためと考えられています。
実際の工場では:石膏ボードができるまでと JIS A 6901
焼くと水を失い、水を加えると絡み合って固まるというセッコウの性質を、最も大きな規模で使っているのが石膏ボードの工場です。石膏ボード工業会の統計では、2025年に国内で約4.2億㎡(419,096千㎡)の石膏ボードが生産されました。
原料の石膏はどこから来るか

日本では1960年代前半まで約40の石膏鉱山がありましたが、環境省の報告によると1976年初めまでに全鉱山が閉山し、国内で天然石膏は採れなくなりました。代わりに原料を支えているのが、発電所や化学工場で副産される石膏と、輸入する天然石膏です。
合計3,556千トンのうち、副産石膏と廃石膏ボードの再生分で約3分の2を占めます。
※石膏ボード工業会「原料統計」(2025年)。割合は合計3,556千トンに対する値で、輸入天然石膏と廃石膏ボードの割合は工業会の数値から計算しました。
副産石膏が55.5%、廃石膏ボードからの再生が11.3%を占め、工業会が「原料石膏の7割が再生品」と説明するとおり、石膏ボードは他の工場の副産物を受け入れて成り立つ製品です。残る3分の1は輸入の天然石膏で、海外の大規模で品位の高い鉱床から安く供給されています。
焼成から板になるまで
工場では、受け入れた石膏を乾かして焼成炉で焼き、焼きセッコウにします。化学石膏は粒が細かく焼く前の粉砕が要らない一方、遊離した酸や水溶性の塩、有機物など凝結を妨げる物質が付いていることがあるため、洗浄などで取り除いてから使います。
焼いて水を抜き、水で練って固めるという、二水石膏と半水石膏の行き来がそのまま工程になっています。
※石膏ボード工業会の説明と環境省の報告をもとにした一般的な流れです。設備や配合は工場ごとに異なります。
焼成で水を抜きすぎると水で戻りにくい無水石膏が混じり、足りないと二水石膏が残ります。長崎県窯業技術センターがパドルドライヤーで廃石膏を焼いた試験では、出口温度約100℃で二水石膏の転化が始まって約150℃で消え、約240℃以上ではすべて無水石膏になりました。
一方、歯科用や型材用の強い石膏には、加圧した水蒸気(オートクレーブ)や水溶液の中で焼くα型が使われます。α型は水の中で結晶の形が整って緻密になり、前の章で見たとおり少ない水で練れるため、硬化体の強度が高くなります。
JIS A 6901 と石膏ボードの種類
石膏ボードの品質は JIS A 6901(せっこうボード製品)で決められ、規格本体は2014年の改正(JIS A 6901:2014)で、2024年に追補1が出ています。
JIS は石膏ボードを、せっこうを芯にして両面と長さ方向の側面を専用の原紙で覆った板と定義し、含水率や曲げ破壊荷重、耐火炎性、難燃性などの試験を定めています。
種類は、使う場所に求められる性能で選びます。石膏ボード工業会の統計で2025年の生産に占める割合とあわせて見ると、次のとおりです。
- 石膏ボード(GB-R):普通ボードとも呼ばれ、壁・天井の下地の標準品。生産の78.2%
- 強化石膏ボード(GB-F):芯に無機繊維を混ぜて耐火性能を高め、耐火・準耐火・防火構造に使う。13.8%
- 化粧石膏ボード(GB-D):表面を化粧加工した仕上げ用。3.3%
- シージング石膏ボード(GB-S):防水性を高め、水回りの下地に使う。2.1%
工業会の統計では、2025年の石膏ボードは8社20工場で生産されました。生産量が最も多かったのは1997年の約6.9億㎡で、工業会は生産量を新設住宅着工戸数と並べて公表しており、2025年は約4.2億㎡とピークの6割ほどになっています。

化学工場・発電所・セメント工場をつなぐ副産石膏
石膏ボードの原料の半分以上を占める副産石膏は、硫黄や硫酸を扱う工場で、カルシウムと硫酸イオンが出会ってできる二水石膏です。
水に溶けにくいという二水石膏の性質のおかげで、排ガスや廃液の中の硫黄分を固体として取り出せるのです。
副産石膏には、このほか銅の製錬で出る亜硫酸ガスから回収する製錬石膏、フッ酸をつくるときに出るフッ酸石膏などもあります。
発電所や化学工場で生まれた二水石膏が、石膏ボードとセメントの工場へ運ばれます。
※国立環境研究所「再生石膏粉の有効利用ガイドライン」(2019年)による平成28年度の化学石膏(副産石膏)の生産量は約463万t。ほとんどが石膏ボード原料とセメント原料として使われます。石膏ボードの工場は、このほか輸入の天然石膏と廃石膏ボードも使います。
排煙脱硫石膏:発電所の排ガスから生まれる石膏
石炭や重油をボイラーで燃やすと、燃料中の硫黄が二酸化硫黄(SO2)になって排ガスに含まれます。日本の排煙脱硫はほとんどが湿式で、主流は石灰石の粉を水に混ぜたスラリーに排ガスを通して SO2 を吸収させ、空気で酸化して石膏にする石灰・石膏法です。
SO2 の1 t が2.7 t 近い石膏に変わるため量は大きくなります。
石膏ボード工業会の統計では、2025年に石膏ボードの原料として使われた排煙脱硫石膏だけで約138万t(1,381千t)に上ります。燃料の硫黄分は石炭の性状で変わり、排ガスが冷えると硫酸になって機器を傷めるため、酸露点の管理も欠かせません。
石炭火力からは石膏のほかに石炭灰も大量に出ます。燃えがらがどこで集められ、どう処理されるかは主灰と飛灰の違いで整理しています。
リン酸石膏・チタン石膏:硫酸を使う化学工業の副産物
リン酸の製造では、リン鉱石を硫酸で分解してリン酸を取り出し、鉱石のカルシウムは硫酸イオンと結びついて石膏として沈殿します。使う硫酸は接触法でつくられる基礎化学品で、その硫酸イオンがそのまま石膏に姿を変えるわけです。
環境省の報告によると、日本のリン酸工場のほとんどは、80〜100℃で鉱石を分解していったん半水石膏をつくり、70℃に下げて溶かし、溶解度の低い二水石膏に再結晶させます。焼きセッコウが固まるのと同じ溶解と析出を使って、大きな二水石膏の結晶に育てる工夫です。
同じ報告の工程図では、リン酸(P2O5 換算)1 t をつくるのに硫酸 2.8 t を使い、石膏が 4.7 t 出ます。酸化チタンを硫酸法でつくる工場でも廃硫酸を石灰石や消石灰で中和して石膏を沈殿させており、こちらは鉄分などで黄かっ色に色づくことが多い石膏です。
セメントの凝結調整材
副産石膏のもう一つの大口がセメントです。セメントの原料を焼いたクリンカーを粉砕するときに少量の石膏を加えると、水を混ぜたときの反応が遅くなり、コンクリートを練って運び、打ち込むまでの時間をつくれます。
これは、セメント中のアルミネート相と石膏が反応して針状のエトリンガイトができ、水を加えた直後の急な反応が抑えられるためです。
国立環境研究所の2019年のガイドラインによると、平成28年度の化学石膏(副産石膏)の生産量は約463万t で、ほとんどが石膏ボード原料とセメント原料として使われています。
セメントと石膏ボードはどちらも窯業に分類され、取引の流れや業界の全体像は窯業・セラミックス業界の構造で見られます。
廃石膏ボードのリサイクルと硫化水素の問題
使い終わった石膏ボードも、焼けば再び焼きセッコウに戻せるため、原理的には原料に戻せる材料です。工業会の統計では2025年に402千t の廃石膏ボードが原料として使われ、環境省の報告によると、ボードメーカーは2002年度から製造時に出る端材の全量を再利用しています。
端材や新築現場の余り材は、粉砕して原料石膏に混ぜ、紙ごと焼成して使えます。ただ再生した粉はかさばって運びにくく、練るときに水を多く要して生産性が下がるため、解体現場から出る汚れや異物の多いボードまで含めると、再資源化の課題はまだ残っています。
埋め立てるときに問題になるのが硫化水素(H2S)です。石膏の硫酸イオンは、水がたまって酸素のない環境で硫酸塩還元菌に使われると硫化水素に変わります。環境省の報告がまとめた発生の条件は次の5つです。
- 硫酸塩(石膏)がある
- 硫酸塩還元菌がいる
- 菌のえさになる有機物がある
- 水がたまっている
- 酸素のない嫌気の状態になっている
国立環境研究所のガイドラインは、多量の硫化水素が出るのは、pH が中性域で、無酸素で、温度が30℃前後、水分が多く、有機物と硫黄分もあるという条件がすべてそろったときだとしています。
そのため、アルカリ性になるセメント系の地盤改良や、酸素が届く浅い層での利用では、発生しないことのほうが多いと説明されています。
2006年の環境省通知は、紙を除いても残る糖類が硫化水素の発生に寄与するとして、紙を除いたものも安定型最終処分場に埋められない廃石膏ボードとして扱うよう定めました。
現場で管理するのは、ほかの廃材と分けて回収し、リサイクルか管理型処分場に回して、水と有機物に触れさせないことです。国土交通省も「廃石膏ボード現場分別解体マニュアル」をまとめ、解体現場での分別を徹底して再資源化を進めるよう求めています。
同じ問題は海外でも起きています。環境省の報告によると、EU は2005年の指令で廃石膏ボードを有機物と分けた埋立地へ運ぶよう定め、米国やカナダでも埋立地の硫化水素がリサイクルを進めるきっかけになりました。
セッコウと焼きセッコウのよくある質問
無水石膏とは何ですか?
無水石膏は結晶水をすべて失った硫酸カルシウム(CaSO4)で、焼く温度で性質が変わります。200℃前後で焼いたⅢ型は湿気ですぐ半水石膏に戻りますが、300〜400℃を超えて焼いたⅡ型は水と反応しにくく、天然では硬石膏として産出します。
石膏と石灰は何が違いますか?
石膏は硫酸カルシウム、石灰は炭酸カルシウム(石灰石)や酸化カルシウム(生石灰)、水酸化カルシウム(消石灰)を指し、どれもカルシウムの化合物ですが別の物質です。排煙脱硫では、石灰石が SO2 を吸収して石膏に変わります。
固まったセッコウは焼けばまた使えますか?
使えます。固まったセッコウは二水石膏なので、焼けば再び焼きセッコウになり、石膏ボードの端材や陶磁器の石膏型が粉砕・焼成されて原料に戻されています。紙や有機物、異物が混じると固まり方や強度に響くため、分別と前処理が品質の鍵になります。
石膏とセメントは何が違いますか?
石膏は焼きセッコウが水和して二水石膏の結晶が絡み合うことで固まり、ぬれると強度が下がるため、主に屋内の建材や型材に使われます。セメントは焼いたクリンカーが水と反応して固まる材料で、石膏はその凝結を遅らせる材料として少量加えられています。
まとめ
- セッコウは硫酸カルシウム二水和物 CaSO4・2H2O(結晶水 約20.9%)、焼きセッコウは半水和物 CaSO4・1/2H2O で、120〜150℃前後で焼くと結晶水の4分の3が抜ける
- 焼きセッコウに水を加えると CaSO4・1/2H2O + 3/2H2O → CaSO4・2H2O で発熱しながら固まる
- セッコウが硬いのは結晶水が多いからではなく、溶けた半水石膏から針状の二水石膏が析出して絡み合うから。結晶1個は硬度1.5〜2と軟らかく、余った水が多いと空隙が増えて弱くなる
- 石膏ボードは2025年に約4.2億㎡生産され、原料石膏3,556千tの約3分の2が副産石膏と廃石膏ボード。品質は JIS A 6901、火に強いのは結晶水のおかげ
- 排煙脱硫では SO2 1 t から石膏約2.7 t ができ、副産石膏(化学石膏)はほとんどが石膏ボードとセメントの原料になる。廃石膏ボードは硫化水素を防ぐため分別して管理型処分かリサイクルへ
セッコウと焼きセッコウの違いは、結晶水の数という小さな差が、発電所の脱硫から建材、セメント、廃棄物の管理までをつなぐ例です。素材をつくる化学業界のつながりは化学業界の構造で、窯業の需要と今後の見通しは窯業・セラミックス業界の市場規模と動向で整理しています。
出典
出典・参考資料(12件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 石膏ボードの特徴・防火性・製造・原料:石膏ボード工業会「石膏ボードの特徴」、同「火に強い」、同「石膏ボードができるまで」、同「環境にやさしい」、同「石膏ボードの歴史・生産量」
- 原料統計・生産推移・種類:石膏ボード工業会「原料統計」、同「石膏ボード製品の生産推移」(2025年)、同「石膏ボード(GB-R)」、同「強化石膏ボード(GB-F)」
- 石膏ボードの規格:日本規格協会 JIS A 6901:2014 せっこうボード製品(プレビュー)、同 追補1(2024年)
- 副産石膏の生産量・硫化水素の発生条件:国立環境研究所「再生石膏粉の有効利用ガイドライン(第一版)」(2019年5月)、国土交通省「廃石膏ボード現場分別解体マニュアル」
- ギプス材料:MSDマニュアル プロフェッショナル版「ギプス固定」
- 石膏の物性・α型とβ型・強度・化学石膏・排煙脱硫・リン酸石膏・硫化水素の発生条件:環境省「平成21年度 廃石膏ボードの再資源化促進方策検討業務 調査報告書」(2010年3月)
- 紙を除去した廃石膏ボードの扱い:環境省「廃石膏ボードから付着している紙を除去したものの取扱いについて(通知)」環廃産発第060601001号(2006年6月1日)
- 石膏型の焼成・α型半水石膏・硬化体の組織:長崎県窯業技術センター「廃石膏のリサイクルに関する基礎的検討」(平成28年度研究報告)、同「廃石膏の効率的焼成と高付加価値化の検討」(平成29年度研究報告)
- 石膏の凝結・硬化の機構:J. R. Clifton「Some Aspects of the Setting and Hardening of Gypsum Plaster」NBS Technical Note 755(1973年)
- 二水石膏の結晶構造:Steven Dutch(ウィスコンシン大学グリーンベイ校)「Gypsum Structure」
- セメントでの石膏の働き:Oklahoma Geological Survey「Cement」
- 水で硬化する樹脂のキャスト材:米国特許 4,502,479「Water-activated casting material」(1985年)
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