AI向けの高性能な半導体チップを載せる土台が、FC-BGA基板です。供給が追いつかずAI半導体の生産を左右する部品の一つとされ、国内の大手3社が増産を進めています。
FC-BGA基板は、チップを裏返して基板に直接つなぐ方式のパッケージ基板(チップと機器側の基板をつなぐ部品)です。
2026年9月29日には、TOPPANが米Broadcomと組んでシンガポールに建てた工場を開所しました。同社グループ初の海外生産拠点で、イビデンや新光電気工業はそれぞれ違うやり方で増産しています。
この記事では、まずTOPPAN・イビデン・新光電気工業の3社がどこで増産しているかを一枚の表で比べます。
そのうえでFC-BGA基板の役割、AI向けで生産能力が足りなくなる理由、各社の計画の中身、戦略の違いの読み方、取引先や働く人が確認したい点の順に整理します。
この記事の内容は、動画でも解説しています。
FC-BGA基板の増産、3社の違いを先に整理
国内の主要なFC-BGA基板メーカー3社は、いずれもAIサーバー向けの需要をにらんで能力を増やしています。違いが出ているのはどこに、誰と組んで増やすかという点です。
TOPPANは最大顧客であるBroadcomとの合弁でシンガポールに新拠点を設け、新潟との2拠点体制に移ります。
イビデンは岐阜県の2事業場を軸に、海外の既存工場も含めて約5,000億円を投じる計画です。新光電気工業は長野県内の4工場体制で増産を進め、千曲市の新棟には国の補助が入ります。
3社とも増産中ですが、拠点の置き方と組む相手が異なります。
※能力目標は基準年・対象製品・単位が各社で異なるため、倍率を横並びで比べることはできません。各社の公表資料・報道をもとに作成。
表の倍率は、基準年も対象製品もそろっていない点に注意が必要です。TOPPANはFC-BGA事業全体、イビデンはAIサーバー向けに絞った数字で、新光電気工業は2021年時点の計画です。
数字の大小より、増産の場所と組み方の違いに注目すると、各社の考え方が見えてきます。
TOPPANのシンガポール工場で何が決まったか

TOPPANホールディングスは2026年9月30日、シンガポールに建設したFC-BGA基板の新工場の開所を発表しました。開所式は現地時間の9月29日です。
運営するのはADVANCED SUBSTRATE TECHNOLOGIES(AST)で、TOPPANとBroadcomの合弁会社です。
工場はシンガポール西部、ジュロン・レイク・ディストリクトの近くにあり、総延床面積は約9万5,000平方メートルです。
このうち第1期として稼働するのは約7万平方メートルで、2026年12月に生産を始める予定です。生産するのは、生成AIやデータセンター向けに需要が伸びている大型・高多層のFC-BGA基板です。
従業員は2026年9月末時点で315人で、このうち200人以上が高度なエンジニアや技術者です。TOPPANは製造に加えて研究開発の機能や、現地の教育機関と連携した人材育成の体制も整えていくとしています。
工事は2024年3月に始まり、当初の予定より3か月早く立ち上がりました。一方で、投資額と合弁の出資比率は公表されていません。報道で金額が取り沙汰されることはありますが、会社としての開示はない点は押さえておきたいところです。
新潟1拠点で増強を重ね、2026年に2拠点体制へ移ります。
※TOPPANホールディングスのニュースリリース(2024年3月14日、2025年12月17日、2026年9月30日)をもとに作成。
新潟工場でも2026年1月に新しい製造ラインが動き出しています。高速伝送向けの低誘電材料に対応したプロセスなどを取り入れ、新潟工場の能力は2022年度前半期比で2倍になるという説明です。
シンガポールはこの新潟を補完する位置づけで、2拠点を合わせて2027年度に2022年度比2.5倍以上という目標を掲げています。
FC-BGA基板とは

FC-BGA(フリップチップ・ボール・グリッド・アレイ)基板は、半導体チップとマザーボードの間に入る中継役の基板です。パッケージ基板とも呼ばれ、CPU、GPU、AIアクセラレータ、ネットワーク向けの半導体など、高性能なチップに使われます。
チップとマザーボードをつなぐ「変換器」
高性能な半導体チップでは、端子が髪の毛の太さほどの細かい間隔で数千から数万個並んでいます。一方、マザーボード側の配線はそこまで細かくできません。
そこで、チップ側の細かい端子をFC-BGA基板の中で少しずつ広げ、裏面のはんだボールでマザーボードに接続します。
名前の「フリップチップ」は、チップを裏返して、表面の小さな突起(バンプ)で基板に直接つなぐ方式を指します。「BGA」は、基板の裏面にはんだボールを格子状に並べる方式です。端子の間隔を変換しながら、電気信号と電源を通すのがこの基板の仕事です。
チップの細かい端子を、基板の中で広げてマザーボードにつなぎます。
※層の数や厚さは製品によって異なります。模式図のため寸法比は実際と異なります。
ビルドアップ構造と絶縁材料ABF
FC-BGA基板は、芯になるコア層の上下に、銅の配線層と絶縁層を交互に積み重ねてつくります。これをビルドアップ構造と呼びます。層を増やすほど配線の逃げ道が増え、端子数の多い大型チップを載せられるようになります。
この絶縁層の材料として広く使われているのが、味の素の「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」です。薄いものでは1層あたり10マイクロメートルほどの厚さで、1999年に発売されました。
味の素によると、FC-BGA向け絶縁材料での世界シェアは約95%で、世界で使われている高性能なパソコンやサーバーのほとんどに採用されているとしています。
チップを基板に載せて封止する工程は、半導体のサプライチェーンと商流の中では「後工程」に分類されます。基板メーカーは後工程の会社に基板を納める、材料と組立の間に立つ存在です。

AI半導体でFC-BGA基板の生産能力が足りなくなる理由
Broadcomの幹部は今回の開所に寄せて、業界が基板不足に制約されているなかで供給網の強靱化につながる、という趣旨のコメントを出しています。
AI向けで基板が足りなくなりやすいのは、需要の「枚数」だけでなく、1枚あたりの大きさと難しさが増しているためです。
AI向けは1枚が大きく層も多いため、同じ設備でも作れる量が減ります。
※一般的な傾向を整理したもので、具体的な寸法・層数は製品によって異なります。
イビデンが能力目標を「面積ベース」で示しているのも、この事情と関係があります。枚数ではなく面積で数えないと、実際の生産負荷を表せないからです。
TOPPANが2024年の発表で、パッケージ基板の大型化によって製造負荷が大きくなっていることを新拠点の理由に挙げたのも同じ流れです。
AIサーバーの増設は、半導体だけでなく電力設備にも波及しています。データセンター向けの変圧器不足と納期の長期化も、同じ需要の波から生まれた現象です。
市場全体は年1割弱のペースで伸びると見込まれています。
※QYResearch調べ(2025年10月発行、GII掲載)。PCを含む全用途の推計で、AI向けだけの数字ではありません。斜線は予測値。
市場全体の伸びは年1割弱と、爆発的とまではいえません。調査会社の推計では、用途別ではPC向けがまだ約4割を占めています。
それでも各社が大型投資を急ぐのは、不足が起きているのが大型・高多層のハイエンド品に集中しているためと読めます。金額の伸び以上に、作るのが難しい製品の比率が上がっているのです。

TOPPANの海外進出で何を狙うか
TOPPANは2024年の発表で、シンガポール進出の理由を説明しています。公表資料から読み取れる狙いは、大きく3つに整理できます。
最大顧客Broadcomとの関係を深める
Broadcomは、TOPPANのFC-BGA基板の最大顧客です。Broadcomは通信用半導体の大手で、AIの計算やネットワーク向けの製品を手がけています。今回の工場を運営するASTは、TOPPANとBroadcomの合弁会社です。
顧客が出資する形をとると、基板メーカーは需要の見通しを立てやすくなり、顧客側は不足しがちな部材の枠を確保できます。大口顧客と投資リスクを分け合う形といえます。
同じように顧客の近くに拠点を置く動きは材料メーカーにもあり、ラサ工業の台湾新工場も顧客との距離を理由に挙げています。
新潟1拠点のリスクを分散する
TOPPANのFC-BGA基板は、これまで新潟工場だけで生産していました。1拠点に集中していると、地震などの災害や設備トラブルが起きたときに供給が止まります。
TOPPANは新拠点の目的として、2拠点体制によるBCP(事業継続計画)の構築を挙げ、地政学リスクと自然災害リスクの分散を明記しています。
顧客であるBroadcomにとっても、調達先が1か所に偏らないことは重要です。米国関税とサプライチェーン再編が進むなかで、調達先の分散を求める声は強まっています。
シンガポール政府の支援と人材
工場はシンガポール経済開発庁(EDB)の支援を受けて建てられました。海外メディアの報道では、シンガポールで初めてのFC-BGA基板工場とされています。
現地では2026年9月末時点で200人以上の高度なエンジニアや技術者を雇用しています。新潟で培った量産技術を、現地の人材に移して立ち上げることが、計画を前倒しで進められるかの鍵になります。
なお、シンガポールを選んだ理由について、人件費や税制などの比較を会社が具体的に示しているわけではありません。
イビデンの増産計画

イビデン(岐阜県大垣市)は、ICパッケージ基板の大手です。2026年2月には、2026〜2028年度の3年間で総額約5,000億円を投じる計画を発表しました。
増やすのは、AIサーバーや高性能サーバー向けの高機能ICパッケージ基板の生産能力です。
投資の対象は、河間事業場(岐阜県大垣市)、大野事業場(岐阜県揖斐郡大野町)、そして海外を含む既存工場です。第1弾として約2,200億円を河間事業場を中心に投じ、2027年度から順次稼働させる計画です。
河間事業場の工場棟は2023年度に竣工済みで、顧客との方向性の合意を受けて量産向けの投資に踏み切ったとしています。
大野事業場は敷地が約15万平方メートルと、国内8事業場の中で最大です。岐阜新聞の報道では、2025年10月にAI向けICパッケージ基板の量産を始める予定とされていました。イビデンは大野事業場のさらなる能力拡大も検討中としています。
能力目標については、日本経済新聞が、生成AIサーバー向けの生産能力(面積ベース)を2028年度に足元の2.5倍程度に増やす見通しと報じています。
海外ではフィリピン(バタンガス)とマレーシア(ペナン)にICパッケージ基板の製造拠点を持っており、国内の大型新設と海外の既存工場の活用を組み合わせる形です。
新光電気工業の増産計画
新光電気工業(長野市)は、フリップチップタイプパッケージを主力とするメーカーです。2021年10月に、2022〜2025年度で計1,400億円を投じる計画を発表しました。
それまでの更北工場・若穂工場(長野市)、高丘工場(長野県中野市)に、千曲市の新拠点を加えて4工場体制にする内容です。
この計画で、フリップチップタイプパッケージの生産能力は当時の約1.5倍になる見込みでした。千曲の新拠点は2024年度以降に順次稼働する予定です。
さらに2023年には、千曲の敷地内に次世代の半導体パッケージ向けの新棟を建てることが明らかになりました。投資額は533億円で、2029年7月の稼働を予定しています。
この新棟の計画は、2023年6月に経済安全保障推進法に基づく供給確保計画として経済産業省の認定を受け、最大178億円の補助が決まっています。
国が先端半導体の供給網づくりを支える構図は、ラピダスの2nm量産と国内サプライヤーの話とも重なります。
資本面でも変化がありました。富士通の子会社だった新光電気工業は、官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)系によるTOBが2025年3月に成立し、同年6月6日に上場を廃止しています。
期間も対象も異なるため、金額は単純に比べられません。
※新光電気工業の1,400億円と533億円は別の計画として公表されたもので、合算はしていません。各社の公表資料と報道をもとに作成。
国内集中か海外分散か|3社の戦略の違いをどう読むか
3社の動きを並べると、TOPPANは顧客と組んで海外に分散、イビデンと新光電気工業は国内の大型投資が軸という違いが見えてきます。ただしイビデンも海外に既存工場を持っており、単純に「国内派」「海外派」と分けられるわけではありません。
どちらにも利点とリスクがあり、各社は自社の状況で選んでいます。
※一般的な整理です。各社が公表している理由は本文の各章を参照してください。
TOPPANの場合、FC-BGA基板の生産は新潟の1拠点だけでした。そのため、能力を増やすことと拠点を分散することを、1つの投資で同時に実現する必要がありました。最大顧客が出資するなら、海外の新拠点でも稼働率の見通しを立てやすくなります。
イビデンはすでに国内に複数の事業場と海外工場を持ち、AIサーバー向けで実績を積んできた会社です。既存の土地と建屋を生かして量産を早く立ち上げることを優先し、国内の大型拠点に投資を集めていると読めます。
新光電気工業は国の補助とJICの資本を背景に、長野県内で先端パッケージの供給網を固める方向です。
国内の主要メーカーの勢力図や再編の流れは、電子部品・半導体業界の主要企業と勢力図で整理しています。FC-BGA基板では台湾や韓国、欧州のメーカーも能力を増やしており、日本勢の拠点戦略はその競争の中で決まっていきます。
取引先・働く人が確認したいポイント

基板メーカーの増産は、材料・装置メーカー、購買担当、求職者それぞれに影響します。ニュースを自分の仕事に引きつけて読むために、立場ごとに確認したい点をまとめました。
同じニュースでも、立場によって見るべき点が変わります。
材料や装置を納める会社にとって、新しい工場の立ち上げは商機です。一方、海外拠点では現地での認定やサポート体制が取引の条件になることがあります。生産開始の時期から逆算して、どの段階で何が必要になるかを把握しておくと動きやすくなります。
購買の立場では、調達している基板がどの拠点から出荷されるかが変わる可能性があります。拠点が増えることは供給の安定につながる一方で、品質の差や物流の条件も確認が必要です。
製造業全体の2026年度の設備投資計画を見ても、電子部品は投資が伸びている分野で、装置の納期や人手の取り合いも起きやすい状況です。
働く人にとっては、基板メーカーが増産に動いている今は、生産技術や品質保証などの人材を求める場面が増える時期です。勤務地が国内か海外か、立ち上げ期か安定期かで仕事の中身は変わるため、求人票で職種と勤務地を具体的に確認することをおすすめします。
まとめ
- TOPPANは2026年9月29日、Broadcomとの合弁でシンガポールにFC-BGA基板工場を開所し、12月に生産を始める
- FC-BGA基板は、チップとマザーボードの間で端子の間隔を変換する中継基板で、AI半導体に欠かせない
- AI向けは面積が大きく層も多いため、枚数以上に生産能力を消費し、ハイエンド品が不足しやすい
- イビデンは岐阜の2事業場と海外既存工場に約5,000億円、新光電気工業は長野の4工場体制と国の補助で増産する
- 能力目標は基準や対象が各社で異なるため、倍率ではなく拠点の置き方と組む相手の違いで比べるのがよい
FC-BGA基板は、AI半導体の供給を左右する部材として、今後も各社の投資が続く分野です。関連する職種では購買・調達や技術営業・FAE、技術テーマとしては半導体製造がこの話題と深く関わります。
業界の構造や主要企業の動きは、電子部品・半導体の業種ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(12件)を開く出典・参考資料を閉じる
- シンガポール工場の開所:TOPPANホールディングス「TOPPAN、シンガポールにFC-BGA基板の生産工場を開設」(2026年9月30日)
- シンガポール進出の発表と狙い:TOPPANホールディングス「TOPPAN、シンガポールにFC-BGA基板の生産拠点を新設」(2024年3月14日)
- 新潟工場の新ライン:TOPPANホールディングス「TOPPAN、新潟工場でFC-BGA基板の新製造ラインを稼働開始」(2025年12月17日)、マイナビニュース TECH+「TOPPANがシンガポールにFC-BGA基板工場を開設、AI向け需要に対応し生産能力2.5倍へ」、AMP「TOPPAN、新潟工場でFC-BGA基板の新製造ラインを稼働へ」
- 着工時期・最大顧客・幹部コメント:evertiq「Broadcom and TOPPAN JV opens FC-BGA substrate plant in Singapore」(2026年9月30日)
- イビデンの投資計画:イビデン「高機能ICパッケージ基板向け設備投資計画に関するお知らせ」(2026年2月)、日本経済新聞「イビデン、半導体部品増産へ5000億円投資 生成AIサーバー向け」
- イビデン大野事業場:岐阜新聞「イビデンが新拠点でAI向けIC基板量産 岐阜・大野町に国内最大級事業場」
- イビデンの海外拠点:イビデン「ICパッケージ基板の海外製造拠点で100%再生可能エネルギーの電力に転換」(2022年9月)
- 新光電気工業の投資計画:新光電気工業「成長市場向け設備投資の実施について」(2021年10月4日)
- 千曲新棟と国の補助:信濃毎日新聞「新光電気、千曲市の新工場に新棟 533億円を投資 経済安保法、国が最大178億円補助」
- 新光電気工業の上場廃止:信濃毎日新聞「新光電気工業TOB成立 6月頃に上場廃止へ」、新光電気工業「上場廃止・株式併合等について」
- ABFの概要とシェア:味の素「アミノサイエンスから生まれた絶縁フィルム『ABF』ってなに?」
- FC-BGA市場規模:QYResearch「FC BGA-世界市場シェアとランキング、総売上高および需要予測2025-2031年」(GII掲載)
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