3Dプリンティングは、なぜいま製造業で注目されているのか。種類の多い製品を少しずつ短い納期でつくる必要や、部品の軽量化と脱炭素への要求に、金型を使わず1個からつくれるこの技術が応えられるからです。
工業分野では付加製造(AM:材料を足して形をつくる加工)と呼ばれます。世界の産業規模は2025年に242億ドルとなり、前年から10.9%伸びました(Wohlers Report 2026年版)。
試作の道具から、航空機や自動車の部品を生産する手段へと役割を広げています。
この記事では、3Dプリンティングが注目される背景を、市場の動き、歴史と進化、切削や成形といった従来技術との違い、メリット、導入時の課題という順で整理します。
3Dプリンティングが注目される背景

3Dプリンティングへの関心が高まっている背景には、市場の拡大に加えて、製造業が抱える課題と技術の進歩がちょうど重なってきたことがあります。まずは市場の規模から確認します。
業界で広く参照される年次報告に「Wohlers Report」(現在は米国の標準化団体ASTM Internationalが発行)があります。
同報告によると、世界の付加製造産業の規模は2023年に200億3,500万ドル、2024年に219億ドルとなりました。
2026年版の報告では、2025年に242億ドル(前年比10.9%増)まで拡大したとされています。
装置・材料・造形サービスなどを合わせた市場規模の推移です。
※Wohlers Report 2024〜2026の公表値をもとに作成。2023年は200億3,500万ドル。
年ごとの伸び率には波がありますが、市場は毎年拡大を続けています。こうした数字の裏側には、次のような製造業側の事情があります。
多品種少量・短納期への対応
顧客の要望が細かくなるなかで、製品の種類は増え、1種類あたりの生産量は減る傾向にあります。金型をつくって大量に生産する従来のやり方では、少量品ほど1個あたりのコストが高くなってしまいます。
3Dプリンティングは金型を使わないため、1個からでも同じ段取りで生産できるのが強みです。試作の期間を縮めたい、少量の部品を素早く届けたいというニーズに応えられることが、関心を集める大きな理由になっています。
軽量化と脱炭素への要求
航空機や自動車では、燃費の改善やCO2の削減に向けて、部品を少しでも軽くすることが求められています。3Dプリンティングなら、強度が必要な部分にだけ材料を残し、内部を格子状にするといった形も実現できます。
また、削りくずとして捨てる材料が少なく、必要な量だけを使えるのも利点です。軽量化と材料の節約を同時に進められる点で、脱炭素の流れとも相性の良い技術と言えます。
金属3Dプリンターの実用化
以前の3Dプリンターは、樹脂の試作品をつくる装置というイメージが強くありました。現在は金属を造形できる装置の性能が上がり、最終製品として使える部品もつくれるようになっています。
Wohlers Report 2024では、2023年の金属AMの伸びは24.4%でした。金属AM装置の販売台数は、2022年の3,049台から3,793台に増えたと推計されています。
金属部品の生産手段として使えるようになったことが、製造業の関心が一段と高まった理由です。
サプライチェーンと保守部品の見直し
災害や国際情勢の変化で部品の供給が止まるリスクが意識されるようになり、必要なときに必要な場所で部品をつくれる手段が求められています。
海外の工場や遠隔地の拠点でも、データを送れば同じ部品を現地で造形できます。輸送にかかる時間や費用を減らせる可能性がある点も、供給網を見直すうえでの選択肢として関心を集めています。
生産を終えた製品の補修部品を、金型を保管し続けずにデータで管理する使い方も広がっています。在庫を「モノ」ではなく「データ」で持つという考え方は、3Dプリンティングならではのものです。
3Dプリンティングの歴史と進化

3Dプリンティングは最近生まれた技術のように思われがちですが、その原理は40年以上前に考え出されています。主な出来事を年表風に整理すると、次のようになります。
誕生期、普及期、量産活用期の3つの段階に分けて整理しました。
※出来事は代表的なものを抜き出しています。時期は資料によって前後することがあります。
1980年代に生まれた3Dプリンティングは、当初は「ラピッドプロトタイピング(迅速な試作)」のための技術として使われていました。設計した形をすぐに手に取って確認できることが、何よりの価値だったのです。
その後、方式や材料が増え、2000年代末から2010年代にかけては、主要な特許の期限切れをきっかけに低価格の装置が広がりました。「3Dプリンター」という言葉が一般に知られるようになったのも、この時期です。
現在は、金属部品や最終製品をつくる生産技術としての性格が強まっています。国内では2020年にJIS B 9441が制定され、用語や基本的な概念が整理されました。試作の道具から、生産の手段へという流れが、ここ10年ほどの大きな変化と言えます。
従来技術との違い

3Dプリンティングは、切削や成形、鋳造といった従来の加工法をすべて置き換えるものではありません。それぞれの得意分野を理解したうえで、使い分けることが大切です。
得意な形や生産量によって、向いている工法は変わります。
※部品の大きさや材料、数量によって向き不向きは変わります。目安として捉えてください。
切削加工との違い
切削加工は、材料のかたまりから刃物で不要な部分を削り取る方法です。寸法精度や表面の仕上がりに優れる一方で、刃物が届かない内部の形はつくれず、削りくずも多く出ます。
3Dプリンティングは逆に、材料を足していくため内部の空洞も自由につくれます。ただし精度や表面の粗さでは切削に及ばないことも多く、造形後に大事な面だけを切削で仕上げる組み合わせがよく使われます。
射出成形・鋳造との違い
射出成形や鋳造は、型に材料を流し込んで同じ形を大量につくる方法です。型ができてしまえば1個あたりの時間とコストは非常に小さくなりますが、型づくりには数週間から数か月かかることもあります。
3Dプリンティングは型が不要なぶん立ち上がりが早く、少量では有利です。一方、数が増えるとコストは下がりにくく、ある数量を超えると従来工法のほうが安くなるのが一般的です。どこが分かれ目になるかは、部品ごとに試算する必要があります。
組立品との違い
従来は、複雑な部品を複数に分けてつくり、溶接やねじで組み立てるのが当たり前でした。3Dプリンティングでは、それらを最初から1つの部品として造形できる場合があります。
代表的な例が、航空機エンジンの燃料ノズルです。従来は多数の部品を溶接して組み立てていたものを、金属3Dプリンターで一体の部品として造形し、量産に移した事例が知られています。
部品点数が減れば、組立の手間や接合部の不具合、管理する図面の数も減らせます。設計の段階から「つくり方」を変えられることが、単なる加工法の置き換えとは異なる点です。
3Dプリンティングのメリット

ここまでの内容を踏まえて、製造業から見た3Dプリンティングの主なメリットを3つに整理します。
金型なしで、すぐにつくれる
3Dデータさえあれば、金型や専用の治具を用意せずに造形を始められます。試作品を数日で手元に用意できれば、設計の確認と修正のサイクルを何度も回せます。
開発期間の短縮に加えて、早い段階で問題に気づけることで手戻りを減らせるのも大きな効果です。
また、治具や検査具のように社内で使う道具を、現場の要望に合わせてすぐにつくり直せる点も見逃せません。外注の手配や加工の順番待ちが減り、改善のスピードそのものが上がります。
複雑な形と一体化で、性能を高められる
冷却用の流路を内部に通した部品や、軽くて丈夫な格子構造など、従来の加工では難しかった形をつくれます。複数の部品を1つにまとめることもできます。
形の制約が減ることで、軽量化や冷却性能の向上など、部品そのものの性能を引き上げられる可能性があります。
たとえば金型の内部に冷却水の通り道を形に沿って配置すれば、成形品の冷える時間を短くできる場合があります。3Dプリンティングで作った部品が、別の工程の生産性を高めるという使い方です。
必要なときに、必要な分だけつくれる
1個からでも生産でき、在庫を抱えずに済むのも利点です。生産を終えた製品の補修部品や、顧客ごとに形を変える製品にも向いています。
型の保管や管理にかかるコストを減らせるため、長期にわたる部品供給の負担を軽くする手段としても期待がかかります。
医療の分野では、患者一人ひとりの体に合わせた器具や模型をつくる用途でも使われています。1つずつ形が違うものを、同じ手間でつくれるのは、型を使う工法にはない強みです。
3Dプリンティングの課題と導入時の注意点

メリットが大きい一方で、導入したものの使いこなせないという声も少なくありません。導入前に知っておきたい課題を整理します。
装置を選ぶ前に、次の点を社内で話し合っておくと失敗を防ぎやすくなります。
コストと造形速度
装置や材料は従来の加工と比べて高価なことが多く、1個ずつ積み上げるため造形にも時間がかかります。量産品をそのまま置き換えても、コスト面で見合わないケースがほとんどです。
加えて、装置の導入費だけでなく、次の費用まで含めて考える必要があります。
- 材料費
- 保守契約
- 造形室の環境整備
- 後処理の設備や人件費
装置の価格だけで判断すると、導入後に想定外の費用が見えてくることがあります。
そのため、「何をつくるか」を先に決めてから装置を選ぶことが重要です。試作、治具、少量の高付加価値部品など、効果が出やすい対象から始めるのが一般的な進め方です。
品質保証と強度のばらつき
3Dプリンティングの部品は、積層方向によって強度が変わったり、内部に小さな空洞が残ったりすることがあります。同じデータでも、装置や材料のロット、造形条件が変わると性質が変わりえます。
最終製品に使う場合は、造形条件の管理、検査の方法、材料のトレーサビリティまで含めた品質保証の仕組みを整える必要があります。航空機など安全性が厳しく問われる分野ほど、この部分に多くの時間をかけています。
設計と人材の育成
従来の加工を前提にした図面をそのまま造形しても、3Dプリンティングのメリットは生かしきれません。一体化や軽量化を狙った設計(DfAM)には、新しい考え方と経験が必要です。
装置の操作、造形条件の調整、後処理までを理解した人材はまだ多くありません。社内で育成するか、造形サービス会社の力を借りるかを含めて、体制づくりを考えておきたいところです。
最初から自社で装置を持たず、造形サービスに試作を依頼して効果を確かめる企業も多くあります。小さく試して効果を数字で確認してから広げることが、失敗を避ける近道と言えます。
まとめ
- 世界のAM産業は2025年に242億ドル規模となり、金属分野を中心に拡大が続いている
- 多品種少量化、軽量化・脱炭素、供給網の見直しといった製造業の課題が注目の背景にある
- 1980年代に試作の技術として生まれ、現在は最終部品をつくる生産技術へと進化している
- 切削・成形とは得意分野が異なり、少量・複雑形状・一体化で強みを発揮する
- コスト、品質保証、設計人材の課題を踏まえ、効果の出やすい用途から導入するのが基本
3Dプリンティングの仕組みや方式の違いは3Dプリンティングとは?仕組みと基本原理で解説しています。業界別の使い方や企業の事例は3Dプリンティングの主な用途と導入事例をご覧ください。
脱炭素との関わりは脱炭素・カーボンニュートラルの技術ページ、導入を担うことの多い仕事は生産技術とはで確認できます。
3Dプリンティングの最新動向や関連記事については、3Dプリンティングの技術ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(6件)を開く出典・参考資料を閉じる
- AM産業の規模(2025年):ASTM International「New Wohlers Report 2026 Values Additive Manufacturing Market at $24.2B」(前年比の伸び率はDesign Newsの報道による)
- AM産業の規模(2024年):Wohlers Associates「Wohlers Report 2025 shows 9.1% AM industry growth」
- AM産業の規模(2023年)・金属AMの伸び:ASTM International「Wohlers Associates Shows Metal Additive Manufacturing Growth of 24.4% in New Report」
- 光造形機の特許出願・商品化:3D Systems「Our Story」
- 光造形法の考案:小玉秀男「3D プリンタの発明経緯と普及の背景」(日本弁理士会『パテント』Vol.67 No.13、2014年)
- JIS B 9441の制定:日本規格協会「JIS B 9441:2020 付加製造(AM)―用語及び基本的概念」
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