社内に3Dプリンターがあれば、データから翌日には治具を形にできます。治具とは、加工・組立・検査のときに部品を決まった位置に置き、作業のばらつきを減らす道具です。
始めやすいのは、位置決めや検査、保持のように大きな力がかからない治具です。高荷重・高温・摩耗の激しい用途や安全に関わる部品は、金属や純正品に任せるという線引きが欠かせません。
樹脂の造形品は積層方向(層を重ねる向き)によって強さが変わり、熱やクリープ(荷重がかかり続けて少しずつ変形する現象)の影響も受けるためです。
この記事では、3Dプリンターで治具を内製する価値と前提、向く治具・向かない治具の見分け方、強度と耐久性の考え方を解説します。
続いて、検査治具の精度の確かめ方、内製を進める6つのステップ、治具台帳による管理、安全面の注意、よくある失敗という順で整理します。
3Dプリンターで治具を内製する価値と前提
治具は、加工・組立・検査のときに部品を決まった位置に置き、作業のばらつきを減らすための道具です。
HPのホワイトペーパーでは、部品を固定して工具を案内するものを治具、部品を支えるだけのものを固定具と呼び分けています。
日本の現場ではまとめて「治具」と呼ぶことが多く、この記事でもその呼び方に合わせます。
同じ資料は、治具の本当のコストは治具そのものではなく、治具がないために生まれる不良品の損失にあると指摘しています。位置ずれや付け間違いを防ぐ治具は、安く早く作れるほど改善の手数を増やせます。ここに内製の意味があります。
内製で変わること
金属の治具を外注すると、図面を描き、見積もりを取り、加工を待つまでに日数がかかります。3Dプリンターなら設計データから直接造形できるため、現場で試して気づいた点をすぐに次の版へ反映できます。
複数の部品を1つにまとめたり、中を肉抜きして軽くしたりしやすいのも利点です。
メーカーの公表事例にも効果の数字が出ています。
Stratasysの発表によると、John Crane社は3Dプリントしたワーク保持具によって機械の段取り時間を80%短縮しました。CNC工作機械の稼働にも余裕ができたとされています(比較の詳しい条件は示されていません)。
Formlabsの発表によると、Pankl Racing Systems社は外注していた治具を、同社の光造形装置で社内生産するようにしました。その結果、リードタイムを90%、コストを80〜90%減らしたとされています。
HPのホワイトペーパーでは、同社のプリントヘッド生産ラインで使う補助具の例が紹介されています。主にアルミニウムから切削加工した7部品の組立品を、同社の粉末方式の3Dプリンターで1部品にまとめたものです。
同社の発表によると、元の部品と比べてコストは95%、重量は90%減り、製作期間は切削加工の3〜5日から24時間に縮まりました。
いずれも各社が自社製品の事例として公表した数字で、特定の部品・条件での効果の一例です。自社で同じ効果が出るとは限らないと受け止めるのが妥当です。
「つなぎ」で使う場合もある
Stratasysの治具設計ガイドは、3Dプリント治具の位置づけについて書いています。生産ラインの道具として有力な選択肢になる場合もあれば、より頑丈な治具ができるまでの最短の手段にとどまる場合もある、という内容です。
最初から本番用と決めつけず、評価してから位置づけを決める姿勢が大切です。
速さと改良のしやすさは内製が有利、強さと寿命は金属が有利です。
※編集部による一般的な整理です。材料や造形方式、治具の大きさによって差は変わります。
材料を1層ずつ積み上げるという造形の原理は、後で触れる強度の考え方にも直結します。データ・装置・材料・後処理のつながりは、3Dプリンティングの仕組みと基本原理で先に押さえておくと理解しやすくなります。
3Dプリンターに向く治具・向かない治具
メーカー各社の技術資料を読み比べると、向く治具と向かない治具の傾向はおおむね共通しています。共通するのは「かかる力が小さく、形が複雑で、数が少ない治具ほど向く」という点です。
向く治具
Formlabsのサポート資料が代表例に挙げるのは、位置合わせや組み間違いを減らす組立治具と、通り止まりや測定に使う検査治具です。作業者の負担を減らす手持ちの工具や、少量多品種の治具も挙がっています。
Stratasysの紹介例も、組立治具、検査治具、ドリルガイド、ロボット先端のツール、ワーク保持具などです。
キーエンスの基礎知識ページには、電子部品や基板の吸着治具、ヘッドライトのような複雑な形の受け治具、組み付けミスを防ぐ簡易な検査治具の例があります。吸着治具では、空気の通り道の太さや形を自由に調整できる点が利点です。
- 位置決め治具・組立治具(部品を置く向きや位置をそろえる)
- 検査治具・ゲージ(はまるか、はまらないかで合否を見る)
- 保持治具・受け治具(製品の曲面に沿って支える、傷を防ぐ)
- 塗装やめっきのマスキング治具
- ワイヤーハーネスの配線治具
- 小ロットの工具ホルダー、部品トレー、吸着パッドの台座
向かない・慎重に扱う治具
Formlabsは、非常に高い温度、非常に重い荷重、同じ工程が数百〜数千回と繰り返される用途では、金属の治具を使うべきだとの見解です。
切削加工の固定については、旋盤のクーラント(切削油剤)がFDM材料を溶かした例を挙げ、同じものを数千個以上つくるなら金属の治具のほうが長持ちすると書いています。
切削の固定では、大きな切削力と振動に耐える剛性が必要です。
ワークが外れれば工具の破損やけがにつながるため、3Dプリント品を使う場合も切削条件から必要な保持力を計算し、試験で確かめることが前提になります。
Formlabsの資料も、力の大きな工程では送りや回転数からクランプ力を計算するよう勧めています。
また、安全装置やガードのように人を守るための部品は、治具とは別の扱いが必要です。この点は後半の安全の章で詳しく触れます。
金属部品そのものを造形したい場合は、金属3Dプリンターの方式と選び方という別の選択肢もありますが、装置も運用も樹脂とは大きく異なります。
かかる力・温度・回数・安全への影響で3段階に分けると判断しやすくなります。
※Formlabs・Stratasys・キーエンスの資料をもとに編集部が整理。材料や繊維強化の有無で境界は動きます。
迷ったときは、次の4つの問いを順に当てはめると整理しやすくなります。1つでも「はい」があれば、3Dプリント品だけで済ませず、金属部品との組み合わせや別の工法も比べます。
上から順に確認し、「はい」が出たら対策か別の工法を検討します。
※編集部の整理です。問2〜4で「はい」でも、設計と評価しだいで使える場合があります。

強度・耐久性の考え方
3Dプリント治具の強さは、材料の名前だけでは決まりません。同じ材料でも、造形する向き、中の詰め方、使う温度によって、壊れ方も寿命も大きく変わります。ここでは治具を設計するときに押さえたい5つの視点を順に見ていきます。
積層方向による強度の異方性
3Dプリンターは材料を1層ずつ積み上げるため、層と層の境目が弱点になります。
Stratasysの設計ガイドは、同社のFDM方式について、積層方向(Z方向)の強さは層どうしの接着で決まり、常に最も弱いと書いています。
同ガイドの図では、同社の炭素繊維入りナイロン12材料(FDM Nylon 12CF)の引張強さを示しています。XY方向で10,960psi(約76MPa)、Z方向で4,990psi(約34MPa)と、Z方向は半分以下でした。
公設試験研究機関の試験でも同じ傾向が確かめられています。
長野県工業技術総合センターの研究ノート(2022年)は、ABS系材料(ABS-M30)の試験片を調べています。
FDM装置(Stratasys製F170)を使い、充填100%で造形した試験片の引張強さは、積層方向に引っ張ると最も強い向きの約3分の1まで下がりました。
一方、ヤング率(変形のしにくさ)には向きによる差がほとんど見られませんでした。
岩手県工業技術センターの研究報告(2023年)では、1台のFDM装置(Stratasys製Fortus 450mc)を使いました。4種類の材料を水平・垂直の2方向に造形して、引張試験を行っています。
ポリカーボネートの降伏応力は、水平に置いた試験片の平均62.72MPaに対し、立てて造形した試験片では平均42.76MPaでした。垂直のほうは、ばらつきも大きくなっていました。
ナイロン12では破断するまでの伸び(破壊ひずみ)が水平35.13%に対し垂直4.05%と、粘り強さに大きな差が出ています。
ただし、例外もあります。同じ岩手県の報告では、ABS樹脂に限っては垂直方向の降伏応力・破壊応力が水平方向をわずかに上回りました(その一方で、破壊ひずみは水平方向が垂直方向の3倍以上)。
積層方向(Z)の強さや粘りは一般に低くなりやすいものの、材料や造形条件によって例外があります。そのため、使う装置と材料のデータシートや、実際の試験片で確かめることが大切です。
つまり、治具に力がかかる向きを先に考え、その力が層の境目をはがす向きにならないよう造形方向を決めることが基本です。どうしても層をはがす向きに力がかかる形なら、分割して向きを変えて造形し、組み立てる方法もあります。
FDM方式では一般に、層に沿って引っ張ると強く、層をはがす向きに引っ張ると弱くなりやすい傾向があります。
※いずれも出典記載の装置・材料・造形条件での試験結果の例です。装置や条件が変われば数値は変わります。材料によっては例外もあり、岩手県の報告ではABS樹脂の降伏応力・破壊応力が垂直方向でわずかに高く出ています。
充填率・壁厚・リブ
FDM方式では、内部をすき間のある格子状にして材料と時間を節約できます。ただし、中を減らすほど強さと剛性は下がります。
Stratasysの設計ガイドには、部位ごとに詰め方を変えた例が載っています。ベアリングを圧入する部分はソリッド(充填100%)、補強リブは30%、本体は60%とし、外周の輪郭を増やして剛性を上げています。
形そのものの工夫も効きます。Formlabsはリブやフィレット(角の丸み)で補強すれば費用をあまり増やさずに剛性を上げられるとしています。
Stratasysも、鋭い角は割れの起点になりやすいため、できるだけ大きなRや面取りを付けるよう勧めています。
クリープと熱による変形
熱可塑性樹脂には、荷重がかかり続けると少しずつ変形するクリープという性質があります。
Stratasysのガイドは、治具の多くはクリープが問題になるほど長く荷重を受けないとしつつ、保管中に重みがかかり続けて精度の必要な寸法が狂う例を挙げています。
Formlabsも、光造形品は荷重をかけ続けるとクリープすることがあるとし、使い終わったらボルトを緩めて締め付けを抜くよう勧めています。
熱についても目安があります。
Stratasysのガイドでは、同社のFDM材料の使用温度について上限を示しています。目安は、材料の荷重たわみ温度より28℃低い温度と、ガラス転移温度より14℃低い温度を超えないことです。
これを超える温度では短時間しかもたず、造形時の残留応力で反りが出ることもあるとされています。夏場の窓際や乾燥炉の近くなど、治具が置かれる場所の温度まで含めて材料を選ぶことが、変形を防ぐ近道です。
材料ごとの耐熱性や耐薬品性の詳しい違いは、材料メーカーのデータシートで確かめてください。
摩耗する部分には金属インサート・当て板
繰り返しこすれる当たり面や、何度も締め外しするねじ穴は、樹脂のままだと早く傷みます。
Stratasysのガイドは、取付点や摩耗点に金属やセラミックのインサートを使い、着脱でこすれる面には硬い当て板をねじで固定するよう勧めています。
ねじ穴に推奨されるのは、熱で埋め込むタイプのねじインサートです。
位置の精度が必要な穴は、少し小さめに造形してから機械加工で仕上げ、ブッシュを圧入する方法もあります。Markforgedの設計ガイドも、摩耗や負担の大きい部分を交換できる別部品に分けておく考え方を示しています。
繊維強化材料という選択肢
樹脂だけでは足りない場合、炭素繊維などで補強した材料を使う方法があります。
Markforgedの設計ガイドでは、連続した繊維で補強した部品はアルミニウムに匹敵する強さと剛性にできると説明されています。これは同社による説明で、補強の入れ方や荷重のかかり方で変わります。
ただし同じガイドでも、造形面に平行な方向で強く、最大の力がXY面を通るように設計するよう求めており、異方性の考え方は変わりません。
造形方式の使い分けは一段落で押さえる
治具づくりでは、方式の使い分けが各社の資料で見られます。大きめで丈夫な治具にはFDM方式、細かい形や滑らかな面が要る検査治具には光造形、サポートなしで複雑な形をまとめて造形したい場合は粉末焼結です。
なお、HPはホワイトペーパーで、自社の粉末方式(Multi Jet Fusion)による造形品について説明しています。同社の表現では、XY方向とZ方向の機械的性質はほぼ同じです。
方式ごとに強さの出方や精度が違うため、ここで紹介した数値をそのまま別の方式に当てはめないことが大切です。
造形前にこの6点を確認すると、割れや変形のトラブルを減らせます。
※Stratasys・Formlabs・Markforgedの設計資料をもとに編集部が整理。
検査治具(ゲージ)の寸法精度をどう確かめるか

検査治具は、治具そのものの寸法が狂っていると、良品を不良と判定したり、不良品を見逃したりします。3Dプリントのゲージは「造形したらそのまま使える」ものではなく、寸法を測って確かめてから使うのが原則です。
造形品には寸法のばらつきと収縮がある
広島県立総合技術研究所 東部工業技術センターの報告(2017年)では、低価格の組み立てキット型FDM装置とPLA材料を使いました。直径15mmの穴を25個並べた130mm角の評価用プレートを造形し、三次元測定機で穴の位置を測りました。
補正前は穴の中心位置に最大約1.2mmの誤差があり、造形物は全体に設計より小さく出ていました。原因として、装置の送り量の設定と造形後の熱収縮が、軸の傾きについては装置の組み立て精度が挙げられています。
同報告では、誤差の傾向に合わせて設計データをあらかじめ拡大・補正して造形し直し、最大誤差を0.12mm以下に改善しました。
一方で、直径15.0mmで設計した穴が平均14.8mmに仕上がるなど、造形条件で寸法が変わることや、造形物が時間とともに寸法変化することへの言及もあります。
精度に限りがあるのは、装置メーカーも認める前提です。Stratasysのガイドは、装置の精度仕様を示したうえで、実際の精度は形状と熱の影響で変わるとしています。高い精度が要る面や穴は、造形後に機械加工で仕上げる方法が有効だという指摘です。
使い始める前と使っている間の確認
新しく造形したゲージは、製品の合否を分ける寸法を測定し、限度見本(合格・不合格の境目にあたる実物)で判定が正しいかを確かめてから使い始めます。
Formlabsは、治具に平面や直角の面を設けておくと、検査がしやすくなり、治具全体の精度も確かめやすくなるとしています。
使い始めた後も、摩耗や変形、吸湿による寸法の変化がないかを定期的に確認します。ゲージを計測器と同じように台帳で管理し、点検の周期と記録の残し方を決めておくと安心です。
周期の決め方や記録の考え方は、計測器の校正とトレーサビリティの考え方が参考になります。
治具を内製する進め方6ステップ
3Dプリンターで治具を内製するときの流れを、公開されているメーカー資料をもとに編集部が6つのステップに整理しました。
Stratasysのガイドにも、CAD設計から最終検査・識別表示までの工程が示されており、造形は流れの一部にすぎず、前後の困りごと整理と管理が成否を分けます。
企画・つくる・定着させるの3段階で進めます。
※メーカーの設計資料をもとにした編集部の整理です。規模の小さい改善なら03〜05を短い周期で回します。
ステップ1:困りごとの洗い出し
最初にやるのは、治具の設計ではなく困りごとの把握です。組み付けの向きを間違えやすい、置き場所が決まらず探す時間がかかる、検査のたびにノギスで測っている、といった現場の声を集めます。
キーエンスの治具設計の解説でも、過去の経験を設計に生かすことや、段取り替えが最短になるようにすることがポイントに挙げられています。
段取りに時間がかかっている工程や、同じ種類のミスが繰り返し起きている工程は、治具の効果が見えやすい候補です。困りごとは「どの工程で、何が、どのくらいの頻度で起きているか」まで書き出しておくと、後で効果を比べやすくなります。
ステップ2:治具の候補選び
集めた困りごとのうち、図3の4つの問いに当てはめて3Dプリントに向くものを選びます。最初の1本は、荷重が小さく、失敗しても影響が小さい位置決め治具や受け治具がおすすめです。
HPのホワイトペーパーも、治具は経済性を分析して確かめてから作るべきだとしています。どの程度の手間や不良が減るのかを、あらかじめ数字で見積もっておくと評価がしやすくなります。
ステップ3:設計(CAD)
3D CADで治具の形を作ります。製品のCADデータがあれば、その形を反転させて受け面を作るなど、製品に沿った治具を設計しやすくなります。
図5のチェックポイントに沿って、力の向きと造形方向、基準面、インサートを入れる位置まで設計の段階で決めておきます。
社内で使うCADの選び方や、取引先とのデータのやり取りについては、3D CADの比較と選び方で詳しく整理しています。
Stratasysのガイドは、必要に応じてCAE(強度解析)で形を最適化することにも触れています。ただし、造形品は内部のすき間や積層構造のために、CADの中実モデルとは違うふるまいをするとの指摘です。
そのため現時点では、解析は主に設計の検討と方向づけに使うよう述べています。
強さが重要な治具は、試作品で実際に確かめておくと安心です。
ステップ4:試作と現場での評価
試作した治具は、まず寸法を測り、次に実際の作業者に使ってもらいます。置きにくい、手が当たる、部品が取り出しにくいといった使い勝手は、使ってみないと分かりません。
設計者の机の上ではなく、実際のラインで、実際の作業者が、いつもの速さで使って評価することが、定着する治具の条件です。
ここで、架空の電子機器組立工場を例に考えてみます。基板にコネクタを差し込む工程で向きの間違いが続いたため、生産技術の担当者が基板を決まった向きにしか置けない受け治具を3Dプリントしました。
初版では作業者の指が治具の縁に当たったため、縁を下げた第2版を翌日に造形し、1週間使ってもらって問題がないことを確かめた、という流れです(編集部による想定例)。
ステップ5:改良
評価で出た意見をもとにデータを直し、再造形します。3Dプリンターの強みは、この改良を短い周期で回せることです。改良のたびにファイル名や版番号を上げ、何を変えたかを記録しておかないと、どれが最新の治具か分からなくなります。
ステップ6:標準化と管理
評価が終わった治具は、作業標準書に使い方を書き込み、治具台帳に登録して正式な道具として扱います。治具があっても使い方が決まっていなければ、作業のばらつきは減りません。
手順書を現場で守られる形にするコツは、作業標準書が守られない原因と対策もあわせて参考にしてください。
標準化と管理:治具台帳・データ・点検・再造形のルール

3Dプリント治具は作りやすいぶん、気づくと現場に似た治具が増え、誰がいつ作ったものか分からなくなりがちです。
Stratasysのガイドは、造形の前に承認の手順に沿って、CADデータ、図面、造形ファイル、材料と工程の文書をまとめて発行する流れを示しています。造形後には、最終検査と識別表示を行う流れです。
これを社内のルールに置き換える一例として、編集部では次のような治具台帳を持つことをおすすめします。台帳とデータの保管場所が決まっていれば、治具が壊れても同じものをすぐに造形し直せます。
「同じものをもう一度作れるか」「いつ点検するか」が分かる内容にします。
※編集部による項目例です。検査治具は計測器の管理ルールに合わせて点検周期を決めます。
点検では、割れや欠け、当たり面の摩耗、反りや変形を目で見て、検査治具は寸法も確認します。造形条件を記録しておく理由は、装置や材料、造形方向が変わると強さも寸法も変わるからです。
再造形のときに「前と同じ条件か」を確かめられるようにしておくことが、品質を安定させる鍵になります。
安全と作業環境で守ること
治具の内製が進むと、「機械のカバーや安全装置の部品も造形できるのでは」という発想が出てくることがあります。しかし、安全装置やガードなど労働者を守るための部品を、3Dプリンターで自作して代用してはいけません。
厚生労働省の「機械の包括的な安全基準に関する指針」は、ガードに十分な強度があり、容易に腐食・劣化しない材料を使うことを求めています。工具を使わなければ外せない固定や、扉が閉じていないと機械が動かない仕組みなども挙げています。
造形品がこうした要件を満たすことを自社で確かめるのは簡単ではありません。
安全装置や安全カバーを交換するときは、機械メーカーの純正品を使うか、機械メーカーや機械安全の専門家に相談して進めるべきだと編集部は考えます。
新しい治具を工程に入れること自体も、作業のやり方を変える変更です。手が挟まれる場所ができていないか、部品が飛ばないかといった危険は、治具を導入する前に工場のリスクアセスメントの手順で洗い出しておくと確実です。
造形するときの作業環境にも目を向けます。
米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は2017年、米国の1つの製造事業所で調査を行いました。卓上型のFDMプリンター10台を置いた小規模な事業所です。
PLAやABSのフィラメントを使う3Dプリンターから、粒子や有機化学物質が出ていることが確認されました。
この事業所では、NIOSHが製作した換気付きの囲いで印刷室の粒子濃度が99%以上下がりました。なお、従業員の個別の化学物質へのばく露は規制値を大きく下回っていたと報告されています。
1事業所での測定結果ですが、発生源を囲って換気するという考え方は参考になります。
プリンターは換気のよい場所に置き、光造形のレジンや洗浄液は、SDS(安全データシート)で取り扱い方法と必要な保護具を確かめてから使います。
よくある失敗
最後に、3Dプリンターで治具を内製し始めた現場で起こりがちな失敗を4つ挙げます。どれも、ここまでの章で触れた考え方を押さえておけば防げるものです。
造形方向を考えずに作り、層の境目から割れる
造形時間やサポートの量だけで向きを決めると、力がかかる部分が層をはがす向きになり、使い始めてすぐ割れることがあります。設計の段階で力の向きを確認し、造形方向も台帳に記録しておきます。
夏場や加熱工程の近くで変形する
試作のときは問題がなくても、季節が変わって置き場所の温度が上がると、耐熱性の低い材料は反ったりへたったりします。使う場所と保管場所の温度を確かめ、材料の荷重たわみ温度に余裕があるかを見ておきます。
データと台帳がなく、同じものを作り直せない
担当者の個人フォルダにしかデータがないと、異動や退職のあとで治具が壊れたときに再現できません。データの保存場所、版番号、造形条件を台帳にまとめ、誰でも作り直せる状態にしておきます。
ゲージを点検せずに使い続ける
樹脂のゲージは、摩耗や変形で少しずつ寸法が変わります。点検の周期を決めずに使い続けると、判定を誤っていても気づけません。検査治具は計測器と同じように点検と記録の対象にします。
まとめ
- 3Dプリンターでの治具内製は、短納期と改良のしやすさが最大の利点。効果の数字はメーカー発表の一例として見る
- 位置決め・組立、検査、保持・受け、マスキング、配線などの荷重が小さい治具が向き、高荷重・高温・摩耗・切削固定は慎重に扱う
- 強さは積層方向で大きく変わる。力の向きに合わせて造形方向を決め、充填・R・リブ・インサートで補う
- 検査治具は造形品の寸法ばらつきと収縮を前提に、使用前の測定と定期点検を行う
- 困りごとの洗い出しから標準化・台帳管理までを1つの流れとして回し、安全装置やガードは自作で代用しない
3Dプリンターでの治具づくりは、現場の小さな困りごとを早く形にできる一方で、「十分な強さがあるか」は用途ごとに確かめる必要があります。技術テーマとしては3Dプリンティングや、治具の設計に欠かせないCAD・CAEがこのテーマと深く関わります。
治具の設計から量産ラインの立ち上げまでを担う仕事については、生産技術の職種ページから関連記事もあわせてご覧ください。

出典
出典・参考資料(13件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 治具の設計指針(異方性、使用温度、クリープ、インサート、精度):Stratasys「Design Considerations: FDM Additive Manufacturing Tooling」
- 治具の種類とJohn Crane社の事例:Stratasys「Jigs and Fixtures」
- 金属治具を使うべき用途、Pankl Racing Systems社の事例:Formlabs「How to Make Your Own Custom Jigs and Fixtures」
- 向く用途と注意点(クリープ、摩耗部、クランプ力):Formlabs サポート「Jigs, fixtures, and manufacturing aids」
- 切削治具とクーラント:Formlabs「Guide to Machining Fixtures」
- 治具の定義と要件、同社の事例:HP「Producing manufacturing aids with HP Multi Jet Fusion 3D Printing」(2018年)
- 繊維強化と設計の考え方:Markforged「Design Guide for 3D Printing with Composites」
- 治具の例と設計のポイント:キーエンス「治具改善による生産性向上」、キーエンス「治具の設計」
- 積層方向による強度差:長野県工業技術総合センター 研究ノート No.17(2022)「熱溶解積層方式樹脂3Dプリンタにおける造形物の破断荷重の予測」
- 材料・造形方向別の引張特性:岩手県工業技術センター 研究報告 第26号(2023)「材料押出法3Dプリンターの造形物におけるプラスチック材料の引張特性」
- 造形精度と補正:広島県立総合技術研究所 東部工業技術センター 研究報告 No.30(2017)「3Dプリンタの高度活用に関する調査(第1報)」
- ガードの要件:厚生労働省「機械の包括的な安全基準に関する指針」の改正について(平成19年7月31日 基発第0731001号)
- 3Dプリンターの排出物:NIOSH「Evaluation of 3-D Printer Emissions and Personal Exposures at a Manufacturing Workplace」(2017年)
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