GX-ETSの対象企業と対応手順|初年度の届出から排出枠の保有まで

湾の対岸から見たセメント工場の煙突とサイロ

GX-ETS(排出量取引制度)は、CO2を多く出す企業に「排出枠」を割り当てる制度で、2026年度に始まりました。排出枠は、CO2を1トン出してよい権利のようなものです。

対象かどうかは国から通知されるのではなく、各社が自分で排出量を計算して判定します。初年度は2026年9月30日が届出と移行計画の提出期限でした。

2027年度からは排出枠の割当てが始まり、毎年度、実際の排出量と同じ量の枠を持つ義務が本格的に動き出します。

この記事では、経済産業省のマニュアルをもとに、制度の仕組み、対象企業の判定方法、2028年1月までのスケジュールを整理します。続けて、初年度の対応手順、移行計画の中身、2027年度以降の割当てとコスト、よくある失敗の順に見ていきます。

期限直前・期限後に読んでいる方へ:2026年9月30日の期限に間に合わない場合の猶予や遅延時の手続きは、経済産業省のマニュアルには示されていません。

届出や報告の義務を果たさない場合は、50万円以下の罰金の対象になります。期限を過ぎてから自社が対象だと気づいた場合も放置せず、排出量取引制度ポータルサイト(GX推進機構)の問合せ窓口へ速やかに相談してください。

また、判定と届出は毎年度9月30日までに行います。

2027年度に初めて対象になる企業は、2024〜2026年度の平均で判定し、2027年9月30日までに手続きを行います。ただし、2027年度以降は初年度の特例がありません。

年度平均排出量に加えて、排出目標量等(登録確認機関の確認が必要)も同じ期限までに届け出る必要があります。

目次

GX-ETS(排出量取引制度)とは

GX-ETSは、GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)にもとづく排出量取引制度です。

CO2の直接排出量が多い事業者に排出枠を割り当て、毎年度、実際の排出量と同じ量の排出枠を持つことを義務づける制度で、2026年度から始まりました。

排出枠とは「CO2を1トン出してよい権利」のようなものです。政府は一定の基準にもとづいて排出枠を無償で割り当て、企業は実際の排出量に見合う枠を期限までに口座に保有します。

削減が進んで枠が余れば売ることができ、足りなければ市場などで買い足します。

図1:GX-ETSの基本的な仕組み

割り当てられた枠と実際の排出量の差を、取引で埋めるのが排出量取引です。

① 排出枠の割当て(経済産業大臣)企業が届け出た排出目標量等をもとに、1トン単位で無償割当て。毎年11月末
排出・削減
② 制度対象者が操業し、CO2を排出4月1日から排出実績量を算定。翌年度9月30日までに登録確認機関の確認を受けて報告
過不足の調整
枠が余る市場や相対取引で売却、または翌年以降に使う
枠が足りない排出枠取引市場などで買い足す
保有できない不足分に応じた負担金を納付
翌年度1月31日
③ 保有義務量分の排出枠を償却口座から排出実績量と同じ量の排出枠が消滅する

※経済産業省「手続の全体像(セットアップマニュアル)」をもとに作成。制度の業務はGX推進機構が担います。

この制度は、いきなり始まったものではありません。2023年に始まった「GXリーグ」は、企業が自主的に参加して目標を公表する枠組みで、700社超が参加していました。

GX-ETSは、この自主参加の仕組みを、一定規模以上の排出事業者に義務として課す第2段階にあたります。

さらに2033年度からは、発電事業者に対して排出枠の有償オークションを段階的に導入する方針です。政府案の段階では、対象は製鉄、石油、自動車、化学など約300〜400社になる見込みと説明されていました。

脱炭素が製造業で注目される背景には、この制度の導入と、取引先からの削減要請の両方があります。

なお、GXリーグと違い、本制度は要件を満たさない企業が自主的に参加することはできません。逆に、要件を満たしていれば「参加しない」という選択肢もないため、まずは自社が対象かを確かめることが出発点になります。

自社が対象企業になるかの判定

ガス焚きボイラーのバーナー部と燃料配管の接写

対象かどうかの判定は、事務局が企業を特定して通知する方式ではありません。セットアップマニュアルでは、各事業者が毎年度9月30日までに自ら判定する必要があると明記されています。「通知が来ていないから対象外」とは言えない点に注意が必要です。

基準は「直接排出の3年度平均で10万トン以上」

対象となるのは、前年度までの直近3年度のCO2直接排出量を平均した量(年度平均排出量)が10万トン以上の事業者です。2026年度の判定なら、2023年度から2025年度までの3年度の平均を使います。

ここでいう年度は、自社の決算期にかかわらず4月1日から翌年3月31日までです。12月決算の会社でも、排出量は4月始まりの年度で集計し直す必要があります。前年度や2年度前に事業を始めた場合は、それぞれ1年分、2年分の平均で判定します。

数えるもの、数えないもの

対象になるのは、燃料を燃やしたり、製品をつくる工程で原料から発生したりする直接排出、いわゆるScope1だけです。

購入した電気や蒸気の使用に伴う間接排出(Scope2)は、判定にも義務にも含まれません。Scope1とScope2の区別は脱炭素の基本となる排出の捉え方で詳しく整理しています。

図2:判定で数えるもの・数えないもの

電力を多く使う工場でも、燃料をあまり燃やさなければ対象外になりえます。

数えるもの
数えないもの
排出の範囲
燃料の燃焼、還元剤や原材料に由来する直接排出(Scope1)
購入した電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出(Scope2)
ガスの種類
二酸化炭素(CO2)
メタンなどCO2以外の温室効果ガス
集計の単位
法人(事業者)ごとに、国内の全工場等を合計
子会社・関連会社の排出(別の事業者として個別に判定)
輸送
告示で定める輸送能力以上の輸送区分の直接排出
輸送能力が閾値未満の輸送区分
集計期間
4月1日〜翌3月31日の年度
自社の事業年度(決算期)での集計値

※経済産業省「排出量取引制度リーフレット(2026年度版)」「手続の全体像」をもとに作成。

集計の単位は法人です。子会社や関連会社は別の事業者として扱われ、それぞれが個別に判定します。グループ全体では10万トンを超えていても、各社が10万トン未満なら、どの会社も対象になりません。

判定は毎年やり直し、補正はない

判定は毎年度行い、10万トン以上の年度は対象、下回る年度は対象外です。そのため、基準の近くにいる企業は、年によって対象になったり外れたりします。マニュアルに載っている計算例を図にすると次のとおりです。

図3:年度平均排出量の計算例

直近3年度の平均で判定するため、1年だけ排出が減っても翌年度に影響が残ります。

2023年度10.2万t
2024年度10.0万t
2025年度10.1万t
2026年度9.2万t
2026年度の判定:対象2023〜2025年度の平均=(10.2+10.0+10.1)÷3=10.1万t。10万t以上なので制度対象
2027年度の判定:対象外2024〜2026年度の平均=(10.0+10.1+9.2)÷3≒9.77万t。10万t未満なので制度対象外

※経済産業省「手続の全体像(セットアップマニュアル)」の算定例(燃料使用と原材料起源の排出の合計)をもとに作成。

注意したいのは、災害や法定点検、工場の休止で排出量が大きく落ち込んだ年があっても、補正は行われないことです。直近3年度の間に合併や事業譲渡があった場合も、消滅会社の過去の排出量を足したり、譲渡した事業の排出量を引いたりする調整はしません。

なお、年度平均排出量が10万トン未満で対象外の場合は、何も届け出る必要はありません。「対象外です」という届出も不要です。ただし、翌年度に対象になる可能性がある企業は、判定の根拠となる数字を毎年残しておくと安心です。

2026年度から2028年1月までのスケジュール

制度の通常の流れでは、対象となる年度の9月30日までに排出目標量等を届け出て、11月末に排出枠が割り当てられます。

ただし2026年度だけは初年度の特例があり、届出は年度平均排出量と基礎情報に絞られ、排出枠の割当ては2027年度に回されました。

図4:2026年度に対象となった企業のスケジュール

2026年度分の義務は、2028年1月31日の排出枠の保有で完了します。

2026年度(初年度の特例)
2026.4.1排出実績量の算定開始この日からの直接排出量が、最初の保有義務の対象になる
2026.9.30届出と移行計画の提出年度平均排出量などの届出と、2030年度までの移行計画。登録確認機関の確認は不要
2026年度中登録確認機関の選定・契約翌年度の確認に向けて準備。国は2026年度中の着手を推奨
2027年度(2028年1月まで)
2027.9.30排出目標量等の届出と実績報告2026年度分の排出目標量等と排出実績量を、登録確認機関の確認を受けて提出
2027.11月末排出枠の割当て・保有義務量の通知届け出た排出目標量等をもとに割当て。実績にもとづく保有義務量も通知される
2028.1.31排出枠の保有・償却保有義務量分の排出枠を口座に保有。不足すれば負担金の対象

※経済産業省「排出量取引制度リーフレット(2026年度版)」「手続の全体像」をもとに作成。2027年度も続けて対象となる場合は、2027年9月30日に2027年度分の届出・移行計画も重なります。

初年度に提出するものは、登録確認機関(国に登録された第三者の確認機関)の確認が不要です。一方で、排出実績量の算定期間は2026年4月1日にすでに始まっています。

2026年度の排出データは、翌年度に第三者の確認を受ける前提で集めておく必要があるという点が、初年度の最大の注意点です。

2年続けて対象になる企業は、前年度分の実績報告と当年度分の届出が同じ9月30日に重なります。マニュアルでも、2年度分の手続きが並行して進むことを前提に計画的に準備するよう求めています。

初年度の対応手順6ステップ

燃料の納品書と配管図、電卓が置かれた事務机

経済産業省のリーフレットとマニュアルに沿って、対象企業が初年度にやることを6つのステップに分けました。順番どおりに進める必要があるものと、並行して進められるものがあります。

図5:初年度の対応6ステップ

移行計画は届出が受理された後でないと提出できないため、ステップ4と5の順番が重要です。

準備
STEP 01対象かを判定する2023〜2025年度の直接排出量を法人単位で集計し、平均が10万t以上か確認
STEP 02算定体制を整える4月1日からの燃料・原料データを、第三者が追える形で集める
STEP 03GビズIDとERMSを準備ERMSのアカウントを開設すると、排出枠の口座も自動で開設される
提出(2026年9月30日まで)
STEP 04年度平均排出量を届け出る制度対象である旨と基礎情報を届出。確認機関の確認は不要
STEP 05移行計画を提出する届出が「届出済み」になってから提出可能。2030年度までの目標と投資計画
翌年度への備え
STEP 06登録確認機関と契約する2027年度の排出目標量・実績量の確認に向けて、年度内に選定・契約

※経済産業省「排出量取引制度リーフレット(2026年度版)」「手続の全体像」「移行計画作成マニュアル」をもとに作成。

STEP1 対象かを判定する

まず、2023年度から2025年度の3年度分について、法人全体のCO2直接排出量を集計します。多くの企業は、温対法の算定・報告・公表制度(SHK制度)や省エネ法の定期報告で燃料使用量をすでに把握しているため、その数字が出発点になります。

ただし、SHK制度の報告値をそのまま使えるとは限りません。本制度はCO2の直接排出だけを数え、年度も4月始まりで区切るため、報告の範囲や期間が違えば集計し直す必要があります。

判定に使う年度平均排出量の算定では、Jクレジットの無効化量なども差し引きません。

STEP2 算定体制を整える

対象となる場合、2026年4月1日から排出実績量の算定が始まっています。この実績は、翌年度に登録確認機関の確認を受けてから報告するものです。確認で見られるのは、主に次の3点です。

  • 活動量のデータが信頼できるか
  • 転記や単位の誤りがないか
  • 集計期間に漏れがないか

マニュアルが確認業務で求める資料の例は次のとおりです。

  • 敷地図
  • 算定体制図
  • 製造プロセス図
  • 設備一覧表
  • 排出源の特定手順書
  • 燃料の納品書などの購買伝票
  • 実測データ
  • 排出係数の出典

工場ごとに「どの伝票のどの数字が、どの計算式に入るか」を追えるフロー図をつくっておくと、確認の場面で慌てずに済みます。

ボイラーや炉だけでなく、非常用発電機、構内のフォークリフト、給湯器なども直接排出の発生源です。環境部門だけで把握しきれない排出源は、設備保全や総務などの部門にも聞き取りを行い、漏れのない一覧をつくります。

STEP3 GビズIDとERMSを準備する

届出や移行計画の提出は、ERMS(アームス)と呼ばれる排出量取引管理システムで行います。ERMSのアカウント開設には、GビズIDのプライムまたはメンバーのアカウントが必要です。

アカウントを開設すると、排出枠を管理する法人等保有口座も自動的に開設されます。

アカウントは2026年6月1日から開設でき、1つのアカウントに複数のユーザーを登録できます。

登録する事業者情報には、主たる事業と事業所管大臣、主担当者と副担当者などがあり、定款と登記事項証明書の添付も求められます。

担当者を1人に集中させず、副担当を決めておくと異動や休暇に対応しやすくなります。

STEP4 年度平均排出量を届け出る

2026年9月30日までに、制度対象である旨と年度平均排出量などの基礎的な情報を届け出ます。年度平均排出量はERMSの演算機能を使い、必要な情報を入力しながら算定する仕組みです。

ERMSによる提出ができない場合は、書面の送付や持参による提出も可能とされています。この届出には、登録確認機関の確認は必要ありません。

子会社などと一体的にGX投資を行っている場合は、密接関係者(子会社、関連会社、兄弟会社)と共同で届け出ることもできます。ただし共同届出ができるのは、密接関係者自身も制度対象である場合に限られます。

一度組んだ共同届出の組み合わせは、その年度の償却まで変更できません。

STEP5 移行計画を提出する

届出と同じ9月30日までに、移行計画を経済産業大臣と事業所管大臣に提出します。移行計画は、ERMS上で届出が「届出済み」になった後でないと提出できません。

期限が同じなので、届出を先に済ませ、移行計画には差戻しに対応できる日数を残しておくのが安全です。

移行計画の提出には、第三者の確認も社内の機関決定も必要ありません。ただし記載に漏れがあると、提出操作をしても提出完了とみなされない可能性があるとマニュアルは注意しています。中身は次の章で詳しく見ていきます。

STEP6 登録確認機関と契約する

2027年度の届出では、排出目標量と2026年度の排出実績量について、登録確認機関の確認が必要になります。

登録確認機関は、2026年1月5日から登録申請が始まりました。経済産業省のサイトには、日本品質保証機構、日本能率協会、SGSジャパン、あずさ監査法人など14機関が掲載されています。

確認業務は、次の流れで進みます。

  1. 契約
  2. 事業内容の把握
  3. リスク評価
  4. 計画の策定
  5. 事業所での確認を含む手続きの実施
  6. 報告書の作成

対象企業が一斉に同じ時期に確認を依頼すると、機関側の手が回らなくなるおそれがあります。国も2026年度中から計画的に選定・契約するよう推奨しています。

移行計画に書く内容と公表される範囲

移行計画は、自社がどのように排出を減らしていくかを示す計画書です。制度対象である限り毎年度提出し、その一部は経済産業省と事業所管省庁のホームページで個社ごとに公表されます。

取引先や投資家、就職希望者も見られる情報になるため、数字の整合性には注意が必要です。

図6:移行計画の記載事項と公表範囲

投資計画の中身は公表されず、排出量の実績と2030年度の目標などが個社ごとに公表されます。

前年度のCO2排出量
公表直接排出量と間接排出量、その合計。2026年度はSHK制度などで報告した数値を活用できる
2030年度までの排出量目標
2030年度分のみ公表各年度の直接・間接排出量の見通し。水準は法令で決まっておらず、自社の見通しを記入
投資計画の内容と効果
非公表削減対策の内容と金額規模、対象工場、着手・完了時期、削減効果(t-CO2/年)
研究開発の内容
公表GX関連の研究開発で追加割当てを受ける場合に記載。2026年度は記入不要
その他の取組
公表中期経営計画やサステナビリティレポートなど、カーボンニュートラルへの計画を載せた公表文書のURLと該当ページ
前年度計画との比較
非公表前年度の投資計画を変更・削除した場合のみ、その内容と理由を記載

※経済産業省「移行計画作成マニュアル」(2026年6月1日)をもとに作成。

移行計画には、制度の対象外である間接排出(Scope2)も記載する点が特徴です。削減率は、制度対象になった初年度の前年度排出量を基準に自動計算されます。2026年度から対象の企業なら、2025年度比の削減率が表示され続けます。

投資計画は、正式な投資決定の前でも、目標達成の手段として予定しているものであれば記載できます。

燃料転換や電化、高効率設備への更新などを検討している場合は、製造業で使える省エネ・設備投資の補助金の活用もあわせて考えます。補助金と組み合わせて計画を組み立てると、社内の投資判断も進めやすくなります。

「その他」の欄に載せるカーボンニュートラルに向けた計画の公表文書は、親会社がグループ全体の計画を策定していて自社単独の計画がない場合、親会社の計画を記載します。

公表される2030年度目標と、統合報告書などで開示している目標がずれていないかは、提出前に必ず照合しておきたい点です。

2027年度から始まる割当と排出枠のコスト

圧延ラインを流れる赤熱した鋼材と奥の作業者

2027年度の届出では、排出枠の量のもとになる排出目標量を自社で算定し、登録確認機関の確認を受けて届け出ます。算定方法は、事業活動の種類によってベンチマーク方式とグランドファザリング方式のどちらかに分かれます。

ベンチマーク方式とグランドファザリング方式

ベンチマーク方式は、製品1単位あたりの目指すべき排出量(原単位)に、自社の生産量などを掛けて排出目標量を決める方法です。同業の中で効率のよい工場ほど枠が余りやすく、効率の悪い工場ほど不足しやすいという特徴があります。

図7:排出目標量の2つの算定方式

業種特性を考慮する必要が高い事業活動にはベンチマーク、それ以外にはグランドファザリングが適用されます。

ベンチマーク方式
グランドファザリング方式
考え方
目指すべき排出原単位×過去の活動量(生産量等)
過去の排出量×毎年度一定の削減率
適用される事業活動
主務省令で定める20の事業活動(紙・板紙、ソーダ、石油化学、石油精製、ゴム製品、ガラス、セメント、石灰、高炉・電炉、アルミ、自動車の塗装工程、発電、一部の輸送など)
ベンチマーク対象以外のすべて(非鉄金属業や食品製造業など)。給湯器・非常用発電機・構内移動体の排出も含む
工場の規模
原油換算で年1,500kL以上の工場等(特定工場等)の事業活動
1,500kL未満の小規模工場等は、業種にかかわらず全てこちら
有利・不利
同業より効率が高い工場は枠が余りやすい
早く削減するほど、削減率との差の分だけ枠が余る

※経済産業省「届出・排出目標量等算定マニュアル」(2026年6月1日)をもとに作成。1つの工場の中に両方の方式が併存することもあります。

工場の規模の線引きに使われる原油換算1,500kLは、省エネ法で特定事業者やエネルギー管理指定工場を判断するときにも使われる数字です。エネルギー管理の体制づくりについては工場の省エネとエネルギー管理の仕組みで解説しています。

削減率と排出目標量の計算

グランドファザリング方式では、基準年度(2026年度の場合は2023〜2025年度)の平均排出量に、経過年数に応じた削減率を掛けます。

燃料由来のエネルギー起源排出は年1.7%、原材料起源と副生燃料起源は年0.3%ずつ、枠が小さくなっていく計算です。

原材料起源の削減率が小さいのは、セメントの原料や製鉄の還元剤のように、工程を根本から変えないと減らしにくい排出だからだと考えられます。高炉の水素還元のような技術転換は、水素還元製鉄と電炉転換の現在地で取り上げています。

図8:排出枠が足りない場合の負担の試算

グランドファザリング方式のみ、エネルギー起源排出だけの工場を仮定した試算です。

① 排出目標量(2026年度分)基準エネルギー起源排出量20万t×(1−0.017×1)=196,600t。原則としてこの量の排出枠が割り当てられる
② 排出実績量2026年度の直接排出量が前年並みの20万tだった場合、保有義務量は20万t。不足は3,400t
③ 市場で買い足す場合2026年度の参考上限取引価格4,300円/tで買った場合は約1,462万円。実際の価格は市場で決まる
④ 保有できなかった場合未償却相当負担金=不足量×上限価格×1.1。4,300円を当てはめると約1,608万円
毎年1.7%ずつ枠が減るため、排出量を横ばいのまま据え置くと、不足量は年を追うごとに大きくなる。

※数値は説明のための仮定です。割当量には勘案事項による調整が加わる場合があり、上限価格は年度ごとに定められるため、実際の負担額はこの試算と異なります。

上限価格4,300円と未償却相当負担金

排出枠の価格が高騰しすぎないよう、国は毎年度、1トンあたりの参考上限取引価格を定めます。

2026年3月30日の告示では、2026年度の参考上限取引価格は4,300円、調整基準取引価格は1,700円とされました。

価格に上下の目安を設けることで、企業が投資判断の見通しを立てやすくする狙いがあります。

排出枠が足りないまま期限を迎えると、不足量に上限価格と1.1を掛けた未償却相当負担金を納付しなければなりません。また、届出や報告の義務を果たさなかった場合や虚偽の届出をした場合には、50万円以下の罰金が科されます。

一方で、排出実績量の報告では、実排出量の10%を上限に、調達したJクレジットやJCMクレジットを無効化して差し引くこともできます。

排出枠取引市場の運営や上下限価格の運用の詳細は、2026年度中に決めてマニュアルを整備する予定とされており、今後の公表にも注意が必要です。

よくある失敗と、対象外の製造業への影響

制度の初年度は、提出物こそ少ないものの、判定や算定の考え方で誤解が起きやすい時期です。マニュアルの記載から、特に間違えやすい点を整理します。

よくある失敗

  • 国からの通知を待っていた(判定は自社で行い、通知は来ない)
  • 購入電力の排出(Scope2)まで足して判定した、または逆に原材料起源の排出を数え忘れた
  • グループ全体の排出量で判定した(子会社・関連会社は別々に判定する)
  • 決算期に合わせた年度で集計した(本制度は4月〜翌3月の年度)
  • 休止や災害で減った年の排出量を補正して平均した(補正は行わない)
  • 移行計画を届出より先に出そうとして、期限直前に手続きが詰まった
  • 初年度は第三者確認が不要だからと、2026年4月以降のデータ管理を後回しにした

なかでも影響が大きいのは最後の点です。2026年度の排出実績量は、2027年度に確認を受けて報告し、2028年1月末の保有義務につながります。証拠となる伝票や計量記録が残っていなければ、あとから取り戻すのは困難です。

対象外でも取引先から求められること

年間の直接排出量が10万トンに届かない中堅・中小の製造業には、制度上の義務はありません。ただし、制度対象となる大手メーカーは、移行計画で2030年度までの目標と投資計画を毎年示すことになります。

自社の直接排出を減らすのと並行して、調達品の排出量を把握しようとする動きも強まっていく傾向があります。

部品や素材を納める側では、取引先から製品ごとのCO2排出量やエネルギー使用量のデータを求められる場面が増えると見込まれます。

依頼を受けたときの算定の進め方は、製品のカーボンフットプリント算定の手順が参考になります。

また、10万トンを少し下回る企業は、増産や工場の新設で数年後に対象になる可能性があります。今のうちに燃料使用量と排出量を年度ごとに整理しておけば、対象になったときの準備期間を大きく短縮できます。

まとめ

この記事のまとめ
  • GX-ETSは、CO2の直接排出量が3年度平均で10万トン以上の事業者に、排出枠の保有を義務づける制度
  • 判定は通知ではなく自己判定。法人単位・4月始まりの年度・Scope1のCO2だけで毎年判定する
  • 2026年度は特例で、9月30日までの届出(年度平均排出量)と移行計画の提出が中心
  • 2027年度に排出目標量の届出と実績報告、11月末に割当て、2028年1月31日に排出枠を保有する
  • グランドファザリング方式の枠は年1.7%ずつ減り、不足すれば上限価格×1.1の負担金がかかる

GX-ETSへの対応は、環境部門だけでなく、燃料データを持つ工場、設備投資を決める経営企画、伝票を管理する購買や経理が関わる全社的な仕事です。工場全体の管理を担う立場の役割は工場長の仕事と責任範囲で整理しています。

対象企業の多い業種の動向は、鉄鋼・非鉄金属業界の市場規模と動向や化学業界の市場規模と動向もあわせてご覧ください。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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