製造業の高齢者雇用|60代・70代が働き続けられない原因と対策

汎用旋盤で部品を加工する60代の作業者

製造業で働く65歳以上の人は、80万人台にのぼります。65歳までの雇用確保措置(定年の引上げや再雇用など)はほぼすべての企業で実施されていますが、その力を活かせているかは職場によって差があります。

設備の癖を知り、作業の準備や不良の兆しに気づけるベテランがいなければ回らない現場も少なくありません。安全に働ける設備、経験を活かす役割、処遇の仕組みがそろってはじめて、60代・70代が働き続けられます。

この記事では、製造業の高齢者雇用を、制度と数字で見る現状、うまくいかない職場で起きている症状と原因から整理します。そのうえで、安全・役割・処遇の3方向の対策と、進め方の手順と事例を順に見ていきます。

目次

製造業の高齢者雇用の現状

まず、会社としてどこまでの対応が求められているのかを確認しておきます。シニア雇用のルールを決めているのは高年齢者雇用安定法で、65歳までは義務、70歳までは努力義務という2段構えになっています。

65歳までは義務、70歳までは努力義務

定年を65歳未満にしている会社は、「定年制の廃止」「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」のいずれかで、65歳までの雇用を確保しなければなりません。

継続雇用の対象者を労使協定の基準で絞れる経過措置は2025年3月31日で終わり、2025年度からは希望者全員を65歳まで雇うことが全面的な義務になりました。

その先の65歳から70歳までは、就業機会を確保するよう努める義務です。雇用による3つの措置に加えて、業務委託契約を結ぶ制度や、会社が関わる社会貢献事業に従事できる制度も選択肢として認められています。

図1:高年齢者雇用安定法の2段階の措置

65歳までは「義務」、65歳から70歳までは「努力義務」です。

65歳までの雇用確保措置(義務)実施済みの企業は99.9%。2025年度から希望者全員が対象
継続雇用制度65.1%
定年の引上げ31.0%
定年制の廃止3.9%
さらに70歳まで
70歳までの就業確保措置(努力義務)実施済みの企業は34.8%
雇用による措置定年廃止・定年引上げ・継続雇用制度
業務委託契約70歳まで業務委託で働ける制度
社会貢献事業会社が実施・委託する事業に従事

※割合は令和7年6月1日時点、常時雇用21人以上の企業237,739社の集計(厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」)。65歳までの措置の内訳は実施済み企業に占める割合。

まだ6割の企業が60歳定年

65歳までの雇用はほぼ全企業で確保されていますが、その中身は「60歳定年+継続雇用」が主流です。厚生労働省の集計では、定年を60歳としている企業が62.2%を占め、65歳以上を定年とする企業(定年廃止を含む)は34.9%でした。

ただし流れは変わりつつあります。60歳定年の割合は前年から2.2ポイント下がり、65歳定年は2.0ポイント上がりました。人手不足のなかで、定年という区切り自体を後ろにずらす会社が少しずつ増えています。

図2:定年年齢別の企業の割合(令和7年)

60歳定年が6割を超える一方、65歳定年が3割近くまで増えています。

60歳62.2%
61〜64歳2.9%
65歳27.2%
66〜69歳1.2%
70歳以上2.5%
定年制なし3.9%

※前年差は60歳が2.2ポイント減、65歳が2.0ポイント増。出典:厚生労働省「令和7年 高年齢者雇用状況等報告」。

製造業の65歳以上就業者は約8%

2026年版ものづくり白書によると、製造業の就業者は2025年で1,033万人です。そのうち65歳以上は80万人台で推移しており、2002年の58万人から大きく増えました。

製造業の就業者に占める65歳以上の割合は約8%で、全産業(約14%)よりは低い水準です。

この差は、夜勤や重量物、立ち作業の多い職場では65歳を過ぎると働き続けにくい、という製造業の事情を映しているとも読めます。逆に言えば、作業と制度を整えれば、まだ伸ばせる余地があります。

若手の採用が難しい状況は製造業の人手不足と採用難で詳しく整理していますが、シニアの定着はその打ち手の一つとして位置づけられます。

シニアが活かせていない職場で起きていること

マイクロメータで加工品の寸法を測るベテランの手元

シニアを雇ってはいるものの、うまく活かせていない職場には、共通して次のような症状が見られます。1つでも心当たりがあれば、仕組みのどこかに無理がある可能性があります。

  • 再雇用に切り替わった途端、本人の意欲が目に見えて落ちる
  • 60代の作業者の転倒や腰痛、ヒヤリハットが増えている
  • 「仕事は同じなのに給料だけ下がった」という不満が出ている
  • 元上司の再雇用者と現役の班長・若手との関係がぎくしゃくしている
  • ベテランが辞めると、その人しか分からない段取りや設備の癖が途切れる

これらは別々の問題に見えますが、根っこは共通しています。60歳の前と後で、仕事の中身や期待を設計し直さないまま雇用だけを延ばしていることです。

たとえば、フルタイムの量産ラインにそのまま残した結果、体力的に無理が出てケガにつながる。一方で、給与だけは再雇用で下がるため「同じ仕事なのに」という不満が生まれる。

役割を決めないまま職場に戻すので、元上司と現役リーダーのどちらが指示を出すのかもあいまいになる、という具合です。

うまくいかない原因は4つに分けられる

症状を整理すると、原因は大きく4つに分けられます。対策を考えるときは、どの原因に手を打っているのかを意識すると、ちぐはぐな施策になりにくくなります。

図3:シニア活用がうまくいかない4つの原因

症状の多くは、この4つのどれか(または複数)から生まれています。

原因1 身体作業が体力の変化に合っていない重量物・立ち作業・暗い場所・段差など、若い頃と同じ条件のまま。転倒や腰痛、見落としにつながる
原因2 役割役割があいまいなまま再雇用している「元の職場で今までどおり」で済ませ、何を期待するかを決めていない。指示系統も混乱しやすい
原因3 処遇処遇と仕事内容の説明がつかない責任や職務は同じなのに賃金だけ下がる。評価もなく、頑張る理由が見えにくい
原因4 個人差個人差を前提にしていない60代の体力や健康、働き方の希望は人によって大きく違う。一律の扱いでは合わない人が出る

※対策1(安全)は原因1と4、対策2(役割)は原因2と4、対策3(制度)は原因3に主に対応します。

作業が体力の変化に合っていない

加齢に伴って、次のような機能は少しずつ落ちていきます。

  • 筋力やバランス能力
  • 視力
  • 暗い場所への順応
  • 聴力 など

本人の技能は変わらなくても、職場の条件が昔のままだと、同じ作業のリスクが上がります。段差につまずく、警報音に気づくのが遅れる、薄暗い場所で部品を見落とす、といった形で表れます。

役割があいまいなまま再雇用している

再雇用のときに「これまでと同じ職場で、同じように」とだけ伝えるケースは多いものです。しかし管理職を外れた元課長と、新たに任された現役のリーダーが同じ職場にいれば、誰が決めるのかが見えにくくなります。

期待する役割を言葉にしていないことが、意欲の低下と人間関係のこじれの両方を招きます。

処遇と仕事内容の説明がつかない

定年後の再雇用で賃金が下がること自体は珍しくありません。問題は、仕事の範囲や責任が変わらないまま賃金だけが下がり、その理由を説明できない状態です。評価の仕組みもなければ、「何をしても同じ」と受け止められ、意欲は落ちていきます。

個人差を前提にしていない

60代は、若い世代以上に体力や健康状態の個人差が大きい年代です。家族の介護や自身の通院など、働き方の希望もさまざまです。全員をフルタイム・同じ職務で扱う一律の制度では、合わない人が必ず出てきます。

対策1:設備と作業をシニアに合わせる

手すり付きの階段と防滑床を備えた明るい工場の通路

最初に手を打つべきなのは安全です。ケガで休業すれば本人にとっても会社にとっても損失が大きく、ベテランが1人抜けるだけで現場が回らなくなることもあります。

製造業の労災の4人に1人は60歳以上

厚生労働省の統計では、2025年の休業4日以上の死傷者は製造業で26,371人と、業種別で最も多くなりました。

年齢別に見ると、60歳以上が6,445人で、製造業の死傷者のおよそ4人に1人(24.4%)を占めています。全産業では60歳以上が3割を超えます。

事故の型では、全産業で最も多いのが転倒(37,195人)、次いで腰痛などの「動作の反動・無理な動作」です。どちらも加齢による身体機能の変化と関係が深く、機械へのはさまれとは別に、工場の床や通路、持ち運びの作業にも目を向ける必要があります。

図4:製造業の年齢別 休業4日以上の死傷者数(2025年)

60歳以上の死傷者は合計6,445人。製造業全体の24.4%にあたります。

59歳以下60歳以上
29歳以下4,229人
30〜39歳3,925人
40〜49歳4,975人
50〜59歳6,797人
60〜69歳4,797人
70歳以上1,648人

※製造業の合計は26,371人。年齢層ごとの就業者数が異なるため、人数の多さはそのまま「起こりやすさ」を表すものではありません。出典:厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」別表7。

2026年4月から高年齢者の労災防止が努力義務に

こうした状況を受けて、改正労働安全衛生法(第62条の2)が2026年4月1日に施行されました。これにより、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善や作業の管理が、事業者の努力義務になりました。

具体的な中身は、2026年2月に公示された「高年齢者の労働災害防止のための指針」に示されています。これまで任意の目安だったエイジフレンドリーガイドラインを、法律に基づく指針へ格上げした形です。指針は次の5項目で構成されています。

  • 体制づくりとリスクアセスメント
  • 職場環境の改善
  • 健康や体力の把握
  • それに応じた対応
  • 安全衛生教育

労災の全体像や安全管理の基本は製造業の職場環境と安全衛生でもまとめました。

対策は「なくす→設備→ルール→保護具」の順で

指針では、リスクを下げる対策に優先順位をつけるよう求めています。いきなり「注意して作業する」で済ませるのではなく、危ない作業そのものをなくせないかから考えるのが基本です。

図5:高年齢者の労災を減らす対策の優先順位

上から順に検討し、効果の大きい対策から実施します。

優先1危険な作業をなくす・変える工程や設計の段階で見直す。高所での作業を地上に移す、手で持ち上げる工程をなくすなど
優先2設備で補う手すりの設置、段差の解消、防滑床、照度の確保、補助機器やアシストスーツで人力の取扱重量を減らす
優先3ルール・作業方法で補うゆとりある作業スピードのマニュアル、重量物の小口化、定期的な休憩、短時間・隔日勤務
優先4保護具・個人装備防滑靴、墜落制止用器具などの着用を徹底。上の対策でも残るリスクに使う

警報音は聞き取りやすい中低音域に、回転灯は視野に入る位置に。音と光の「気づきやすさ」も設備対策に含まれる

※厚生労働省「高年齢者の労働災害防止のための指針」(2026年4月1日適用)をもとに作成。

製造現場で効果が出やすいのは、通路と床、照明、持ち運びの3点です。油や切削液で滑りやすい床は防滑材とこまめな清掃で、明るさの差が大きい場所は照明の追加で改善できます。重量物は補助機器や小分けで「持たない」ようにするのが、腰痛予防の近道です。

暑さへの配慮も欠かせません。高年齢者は暑さや喉の渇きを感じにくくなるため、涼しい休憩場所の整備や水分補給の声かけが指針でも挙げられています。義務化された熱中症の報告体制や手順については、工場の熱中症対策の記事で具体的に紹介しました。

体力チェックは同意と使い道を決めてから

指針では、主に高年齢者を対象に体力チェックを継続して行うことが望ましいとされています。転倒などのリスクを確かめる身体機能のセルフチェックなどで、体力の変化を本人に自覚してもらい、作業の割り当てに活かす考え方です。

ただし、結果が配置転換や処遇の判断材料になると受け取られると、反発を招きます。目的、同意の取り方、結果の扱い方を安全衛生委員会などで決めてから始めることが指針でも求められています。

基準を満たさない人がいる場合は、本人の努力だけでなく、その体力でも安全に作業できるよう職場環境を改善する、というのが指針の考え方です。

対策2:役割と仕事の割り当てを設計し直す

マシニングセンタの前で若手に段取りを教えるベテランの後ろ姿

安全の次に効くのが、役割の設計です。60歳を境に「量をこなす人」から「経験で価値を出す人」へと期待を切り替えると、本人の納得感も現場の成果も上がりやすくなります。

シニアに任せやすい5つの役割

製造現場で経験が活きやすい役割は、おおむね次のように整理できます。どれを任せるかは、本人の得意分野と体力、職場の困りごとを突き合わせて決めます。

図6:製造現場でシニアに任せやすい役割

体力より経験と判断が効く仕事を中心に組み立てます。

技能伝承の指導役
育成段取り、条件出し、設備の癖などを若手に教える。教える時間を工数として確保する
検査・品質の確認
品質最終検査や初品確認、不良の原因調査。長年の目と勘が不良の予兆に気づく。照明と姿勢には配慮する
保全・治具づくり
設備日常点検、治具や改善品の製作、古い設備の修理。図面にない情報を持っていることが多い
標準書・手順の整備
育成頭の中にある手順を作業標準書やチェックリストに落とす。写真や動画を使えば若手も使いやすい
応援・多能工の補助
生産欠員や繁忙時に複数工程を応援する。短時間勤務と組み合わせやすい
安全・改善の推進
生産ヒヤリハットの収集、5S、改善提案のとりまとめ。現場を広く知る人ほど危険箇所に気づく

※役割は1つに限らず、時期や本人の状況に応じて組み合わせる。量産ラインのフルタイム作業から外すことが目的ではありません。

大切なのは、役割をはっきり言葉にして、本人と職場の両方に伝えることです。

「来期からはAラインの段取りを若手2人ができるようにしてほしい」のように、目的と期間が見える形にすると、元上司と現役リーダーの関係も整理しやすくなります。

指示系統は現役リーダーに残し、シニアは専門家として助言する、と明示しておくと混乱が起きにくくなります。

技能伝承は「教える時間」を工数に入れる

ものづくり白書では、能力開発や人材育成に問題があるとする製造業の事業所に、その問題の中身を聞いています。6割以上(62.8%)が挙げたのは「指導する人材が不足している」です。

シニアはまさにその指導役の候補ですが、自分の生産ノルマを抱えたままでは、教える時間はなかなか取れません。

技能伝承を役割にするなら、教える時間を生産計画の工数に最初から入れておくことが前提です。誰に何を、いつまでに引き継ぐのかを決め、終わった項目を確認できるようにしておくと、退職とともに技能が消える事態を防げます。

勤務時間の選択肢を用意する

体力や家庭の事情に個人差が大きい年代だからこそ、働き方の選択肢が効きます。指針でも、短時間勤務や隔日勤務、交替制勤務の工夫が例として挙げられています。

週4日勤務、午前だけの勤務、夜勤なしの日勤専属など、職場で運用できる型をいくつか用意しておくと、「フルタイムが無理なら辞めるしかない」という離職を減らせます。

交替勤務の職場では、夜勤から外れる人が増えると残りのメンバーに負担が偏ります。シフト全体の組み方は製造業の働き方改革と交替勤務の考え方もあわせて検討するとよいでしょう。

人の配置だけで回らない工程は、省力化投資補助金などを使った設備投資で負担そのものを減らす方法もあります。

対策3:定年・処遇・評価の制度を整える

安全と役割を整えても、処遇に納得できなければ意欲は続きません。3つ目の対策は、定年の形と賃金・評価の仕組みを見直すことです。

定年引上げか継続雇用か

65歳、さらに70歳までの雇用を確保する方法には、それぞれ向き不向きがあります。自社の年齢構成と、シニアに期待する役割から選ぶのが基本です。

図7:定年引上げ・継続雇用・業務委託の比較

どの方法を選ぶかで、処遇の考え方と会社の負担が変わります。

定年の引上げ
継続雇用(再雇用)
業務委託(70歳まで)
雇用の形
正社員のまま働き続ける
定年でいったん退職し、嘱託・契約社員などで再雇用
雇用ではなく、個人事業主として契約
処遇の考え方
現役と同じ制度の延長。賃金カーブの見直しが必要
職務や時間に合わせて個別に設定しやすい
業務ごとの委託料。労働時間の管理は受けない
向いている職場
シニアにも基幹業務を担ってほしい、人材確保を強く打ち出したい
役割や勤務時間を人ごとに変えたい
設計・技術指導など、独立して進められる専門業務がある
注意点
人件費の増加。退職金や役職定年の設計も見直しが要る
同じ仕事で賃金だけ下げると不満や格差の問題になる
実態が指揮命令下の労働なら雇用とみなされる。労使の同意が必要

※65歳までの措置は3.9%が定年廃止、31.0%が定年引上げ、65.1%が継続雇用(令和7年)。業務委託・社会貢献事業による70歳までの措置の実施は0.1%にとどまります。

中小の製造業では、制度変更の負担が小さい継続雇用を選び、そのうえで役割と勤務時間を人ごとに決める運用が現実的です。

一方で、若手の採用が難しく、60代にも基幹工程を任せ続けるなら、定年引上げで「正社員のまま」の安心感を示すことが人材確保の強みになります。

再雇用後の賃金は「何が変わったか」で説明する

継続雇用で賃金を下げる場合、注意したいのが正社員との待遇差のルールです。有期雇用の再雇用者と正社員との間で、職務内容などに照らして不合理な待遇差を設けることは、パートタイム・有期雇用労働法で禁じられています。

2023年7月の最高裁判決(名古屋自動車学校事件)では、ある高裁判決が破棄され、審理がやり直しになりました。その高裁判決は、定年後再雇用者の基本給が定年時の6割を下回る部分を違法としたものです。

最高裁は、基本給の性質や支給の目的、職務内容の違いなどを具体的に検討すべきとしています。

実務では、再雇用の前後で次の点がどう変わったのかを整理し、賃金の差を説明できるようにしておくことが大切です。

  • 職務の範囲
  • 責任の重さ
  • 異動や配置転換の有無

あわせて、再雇用者にも評価の仕組みを用意すると意欲が続きやすくなります。技能伝承の達成度や改善提案など、役割に合った項目で評価し、賞与や時給に反映させる方法があります。

公的給付と年金の変更点

賃金を設計するときは、公的給付と年金の変化も押さえておく必要があります。60歳以降の賃金を大きく下げ、その分を公的給付で補うという従来の考え方は、前提が変わってきています。

  • 高年齢雇用継続給付の縮小:60〜64歳で、賃金が60歳時点の75%未満に下がった人に支給される給付。60歳になったのが2025年4月1日以降の人は、支給率の上限が賃金の15%から10%に下がりました
  • 在職老齢年金の基準額の引上げ:賃金と年金(老齢厚生年金)の合計が一定額を超えると年金が減らされる仕組み。基準額が2025年度の51万円から、2026年4月以降は65万円に上がり、働いても年金が減りにくくなりました

給付が縮小し、年金の減額が緩くなったことで、「60歳以降は賃金を抑えて給付で補う」設計から「働きに見合った賃金を払う」設計へと見直す時期に来ています。

フルタイムで働いて相応の賃金を受け取っても年金が減りにくくなったことは、本人に長く働いてもらう後押しになります。

使える助成金

制度の見直しには、高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の「65歳超雇用推進助成金」が使えます。2026年度の主なコースは次の2つです。

  • 65歳超継続雇用促進コース:65歳以上への定年引上げ、定年の廃止、66歳以上までの継続雇用制度の導入などを行った会社が対象。支給額は措置と対象人数で変わり、たとえば65歳への定年引上げで15万〜30万円、定年廃止で60万〜240万円
  • 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース:55歳以上を対象に、能力評価を使った賃金・人事処遇制度、短時間勤務などの労働時間制度、研修、健康管理制度などを導入した会社が対象。賃金・人事処遇制度の場合、中小企業で60万円

いずれも、就業規則などに制度を定めて実施することが前提です。65歳超継続雇用促進コースは、制度を実施した月の翌月から4か月以内に申請する必要があるため、就業規則を変える前に要件を確認しておくと取りこぼしを防げます。

シニア活用を進める5ステップと事例

ここまでの対策を、実際にどの順番で進めればよいかをまとめます。いきなり制度を変えるより、現状の把握と本人との対話から始めるほうが、現場に合った形になりやすくなります。

図8:製造業でシニア活用を進める5ステップ

把握 → 対話 → 職場改善 → 制度 → 見直しの順に進めます。

1
年齢構成と技能の偏りを把握する5年後・10年後に何人が60歳・65歳を迎えるか、その人しかできない作業は何かを洗い出す
2
55歳前後から本人と面談する働き続けたい年齢、勤務時間の希望、体力や健康の状態、やりたい役割を聞き取る
3
作業と設備を見直すヒヤリハットや災害事例から危険箇所を洗い出し、「なくす→設備→ルール→保護具」の順に対策する
4
役割・勤務形態・処遇を制度にする任せる役割と勤務時間の型、賃金と評価の考え方を就業規則や再雇用規程に落とす。助成金の要件もこの段階で確認
5
運用しながら毎年見直す災害・ヒヤリの件数、引き継ぎの進み具合、本人の満足度を確認し、役割や勤務時間を調整する

※ステップ1の「その人しかできない作業」の洗い出しには、スキルマップ(力量表)が役立ちます。

とくにステップ2の面談は、形だけで終わらせないことが大切です。60歳の直前に「再雇用を希望しますか」と聞くだけでは、役割や働き方を話し合う時間がありません。数年前から対話を始めることで、本人も会社も準備ができます。

事例:定年70歳、最高齢82歳の食品メーカー

JEEDと厚生労働省が主催する2025年度の「高年齢者活躍企業コンテスト」で、厚生労働大臣表彰の最優秀賞に選ばれたのが、群馬県昭和村のグリンリーフ株式会社です。有機栽培のこんにゃくや漬け物、冷凍野菜などの生産・加工・販売を手がけています。

同社は定年を70歳とし、定年後も本人が希望すれば、自力で出勤できるかぎり継続して雇用しています。2025年5月末時点で社員126人のうち60歳以上は17人で、そのうち7人が70歳以上、最高年齢者は82歳です。

大企業のような大がかりな制度でなくても、シニアが戦力として定着している地方の中小メーカーの例といえます。その手段は、定年の上限を後ろにずらし、本人の希望と体力に合わせて働き続けられる道を開いておくことです。

外国籍の社員を含め、多様な人が働ける職場づくりを進めている点も特徴です。

シニアに限らず、外国人材や女性など多様な人が働ける職場づくりは、人手不足の時代に共通するテーマです。制度面の違いは製造業の外国人材(特定技能と育成就労)の記事も参考になります。

まとめ

この記事のまとめ
  • 65歳までの雇用は希望者全員が対象の義務、70歳までは努力義務。60歳定年の企業はまだ6割を占める
  • シニアが活かせない原因は、身体・役割・処遇・個人差の4つに分けて考える
  • 製造業の労災の約4人に1人は60歳以上。2026年4月からは高年齢者の労災防止が努力義務になった
  • 技能伝承や検査、保全など経験が活きる役割を言葉にして任せ、教える時間を工数に入れる
  • 給付の縮小と年金基準額の引上げを踏まえ、働きに見合った処遇と評価の仕組みに見直す

シニアの力を活かせるかどうかは、60歳の前後で仕事の中身を設計し直せるかにかかっています。ベテランが担うことの多い職種としては設備保全や製造オペレーターがあり、職場全体の方針づくりは工場長の仕事とも深く関わります。

出典

出典・参考資料(9件)を開く出典・参考資料を閉じる

NEWSLETTER

選んだ職種・業種に合わせた記事を、週1回メールで

週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。

実際に届くメールの例を見る

件名:今週のあなた向け記事|週刊MONOSCOPE 10/9号
登録内容:生産技術 × 自動車・輸送機器

週刊MONOSCOPEの見本(生産技術 × 自動車・輸送機器)

職種3本・業種3本・製造業で働くすべての方へ2本・今週よく読まれた記事3本が届きます。記事は毎週入れ替わります。ほかの見本を見る

職種・業種を選んで登録へ ›

無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。

WEEKLY NEWS

今週の製造業ニュース10選

メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。

LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

▶ お仕事のご依頼はこちら

コメント

コメントする

目次