デビエーション(deviation)とは、仕様書や基準から外れること(逸脱・相違)です。調達の実務では、購買仕様書の要求と、メーカーが提案する仕様が違う点を指します。
その相違点と確認事項(クラリフィケーション)を1枚の表にまとめたものが、デビエーション・クラリフィケーションリスト、通称「デビクラ」です。プラントの設計者と仕様を詰める場面では、必ずと言っていいほど作成を求められます。
この記事では、デビクラの意味、作るメリット、やりとりの流れ、フォーマットの見本と書き方を順に整理し、英語での呼び方や、医薬品の「逸脱」との違いは最後のよくある質問で答えます。
- デビエーションは、購買仕様書の要求とメーカーの提案が違う点(相違)。クラリフィケーションは、仕様書の意味や範囲を確かめたい点(確認)
- 2つを1枚の表にまとめ、発注側と合意した内容を残すのがデビエーション・クラリフィケーションリスト(デビクラ)
- 多くは受注側のメーカーが見積の段階で作り、見積書と一緒に出す。回答欄には発注側が記入する
- 書き方は1行に1つの要求。仕様書の条項・要求の原文・提案や質問・理由・影響(価格・納期など)・回答を並べる(見本は図5)
- 目的は所掌範囲・検査内容などの認識違いを防ぐこと。合意した内容は発注書・承認図・納入仕様書への反映まで確かめる
デビエーションリスト(デビクラ)とは?
仕様書の要求ごとに、提案・質問と回答を並べて、合意した内容を記録します。
※区分の記号(D・C)や欄の名前は会社ごとに違います。
デビエーション(deviation)とは、購買仕様書の要求と、メーカーが提案する仕様が違う点(相違点)のことです。
クラリフィケーション(clarification)は、仕様書の意味があいまいな点や、適用範囲を確かめたい点を明確にすることです。この2つを1枚の表にまとめ、発注側と受注側で合意した内容を残すのがデビエーション・クラリフィケーションリスト、通称「デビクラ」です。
購買仕様書に対して、メーカー側が「対応できるものと対応できないもの」「確認したいこと」をリストにしたものと言えます。購買仕様書そのものの書き方は、購買仕様書とは何かを解説した記事で整理しています。
会社や現場によっては「デビエーションリスト」「デビクラリスト」とも呼ばれ、呼び方や書式は、発注側の指定や社内のルールで変わります。
デビエーションとクラリフィケーションの違い
仕様を変えるのがデビエーション、仕様の読み方をそろえるのがクラリフィケーションです。
※国際入札の標準書類では、入札後に発注者が求める Clarification は書面で行い、価格や入札の中身を変えないものとされています。民間の取引のデビクラでは、確認の回答で範囲が変わり費用が動くこともあります。
世界銀行の標準調達書類でも、Deviation は「入札書類の要求からの相違」と定義されています。範囲・品質・性能や、発注者の権利に大きく響く相違は重大な相違として扱われ、評価に影響します。
プラントでは、配管からバルブや計装機器などが膨大な数取り付けられています。これらの仕様をそろえるために、各プラントには設計基準が決められています。プラントメーカーは、各機器の購買仕様書によって仕様の統一を図ります。
ただ、設計基準はすべての機器に共通のため、仕様書の内容は細かく、対象の機器に直接関係のない内容まで盛り込まれています。
例えば、溶接のない部品に溶接後の検査の方法が書いてあったり、小さな部品に機器の名称を記載するタグを求めていたりします。こうした細かい要求について、メーカー側と「その仕様が本当に必要かどうか」を検討するためにデビエーションリストが使われます。
英語のdeviationは「逸脱」の意味で、デビエーションリストは仕様から逸脱する点のリストです。デビエーションリストの目的は、設計側とベンダー側でお互いの認識をすり合わせることです。
デビエーションリストがなければ、細かい仕様が反映されていないというクレームにつながります。最悪の場合、裁判などに発展する危険もあります。
デビエーションリスト(デビクラ)を作成するメリット
所掌範囲の明確化
デビエーションリストを作ると、機器の手配や工事などの所掌範囲(どちらが手配・施工するか)が明確になります。例えば、設計担当者は購買仕様書で発注したつもりでも、ベンダー側は見積に含めていなかった、というトラブルを防げます。
揉めやすいのは境界の部分で、相手機器との取合い(接続部)のフランジや配管、据付工事、試運転の立会いなどを、どちらが受け持つかを1行ずつ書いておきます。手配漏れが起こると、追加費用や納期の調整が必要になるため、デビエーションリストで、これらを事前に防ぐことが大切です。
機器納入後のトラブル防止
デビエーションリストは、機器やシステムの納入後に起こるトラブルを未然に防ぐ役割も果たします。仕様や基準から外れる点を記録し、適切な対策をとっておけば、運用開始後の不具合を減らせます。納入後の修正や対応にかかる時間とコストも抑えられます。
ただし、合意した内容は、承認図や納入仕様書に反映されてはじめて効きます。納入仕様書で何を確かめるかは、納入仕様書の確認ポイントの記事にまとめています。
検査内容などの明確化
デビエーションリストを使うと、検査内容や基準が明確になります。共通仕様で検査基準を決めていても、ベンダーの工場ごとに対応できる内容は違うため、認識違いがないよう、事前に検査内容の合意を得ることが大切です。
デビクラの項目によく挙がるのは、立会検査の有無、試験の条件(圧力・時間など)、検査成績書やミルシート(材料の検査証明書)といった提出書類の範囲です。
合意しておけば、後でトラブルが起きたときに、検査の精度や範囲の認識違いで揉めずに済みます。工場での立会検査と現地での受入検査の進め方は、FAT・SAT(立会検査・受入検査)の進め方で詳しく解説しています。
デビエーションリスト(デビクラ)活用の流れ
購買仕様書から実際の発注までの、1つの項目をめぐるやりとりは次のようになります。
対応できるか、有償か無償かを1項目ずつ決めていきます。
※実際には、リストの回答欄への記入と打合せを組み合わせて進めることが多くあります。
このように、細かい仕様書に対して対応できるものとできないもの、また有償か無償かを分類して、お互いに合意をとります。それを文面に残して記録しておくために、デビエーションリストが必要になります。文章で残せば、何かあったときの責任範囲が明確になり、後で揉めにくくなります。
案件全体で見ると、デビクラは見積から発注、発注後の図面確認まで続けて使います。
見積段階で出したデビクラの合意が、発注条件と納入図書に引き継がれます。
※承認図の段階で新しい相違が見つかり、デビクラの改訂版を出すこともあります。
メーカー側から見ると、デビクラは引き合い(RFQ)への見積回答の進め方の一部です。製作できるかを判定する段階で、相違と確認事項を洗い出します。
一緒に出す見積仕様書の役割は、見積仕様書の目的と注意点の記事で解説しています。
デビエーションリストの作成方法やフォーマットは、会社ごとにマニュアルやルールを持っていることが多いので、まずは上司に相談してください。デビクラの見本は次のようなイメージです(項目や書式は会社ごとに違います)。
1行に1つの要求。左から順に、要求・提案・理由・影響・回答を並べます。
※説明用に作った例です。区分:D=デビエーション(相違)、C=クラリフィケーション(確認)。実際の書式には、案件名・機器番号・版数・日付・作成者の欄も入ります。水圧試験の圧力の倍率と基準にする圧力は、適用する法規・規格で決まります。
仕様書は細かく、自社の製作方法を熟知していないと判断できない項目がデビエーションリストには多くあります。若手のうちは、詳しいベテランの話を聞きながら作成することがトラブル防止につながります。ぜひ相談しながら作成を進めてください。
デビエーションリストの書き方のコツ
図5の見本を、列ごとの書き方に分解すると次のとおりです。どの要求に対する提案で、どう決まったかを後から追えることが一番の目的です。
要求は原文に近い形で写し、提案には理由と影響を必ず添えます。
※回答の区分(承認・条件付き承認・不承認・要再協議など)は会社や案件によって異なります。発注側の指定があればそれに従います。
どこまで載せるかで迷ったら、性能・範囲・価格・納期・検査に関わる相違は必ず載せます。表記の違い程度のものは1行にまとめ、判断がつかないものは載せて確認したほうが安全です。
理由の欄は、提案を通すための説明でもあります。顧客の要求を仕様に落とし込む考え方は、技術営業の提案が通らない理由でも整理しています。
提出から合意までは、次の点も決めておきます。
- 相違がない場合の書き方:全条項に「相違なし」と書くのか、該当する項目だけ載せるのか。発注側の指定書式に従う
- 版の管理:回答や打合せで内容が変わるたびに版数と日付を更新し、最新版がどれかを分かるようにする
- 正式な記録先:デビクラ・議事録・改訂版の仕様書のどれを正式な記録とするかを、案件のルールで確かめる
- 反映の確認:合意した内容が、発注書・承認図・納入仕様書に反映されたかを最後に照らし合わせる
回答する発注側から見ると、デビクラは見積比較から契約・発注までの判断材料です。購買部門の仕事の中での位置づけは、購買・調達の仕事の流れで確かめられます。
デビエーションリストのよくある質問
デビクラは誰が、いつ作りますか?
多くは受注側のメーカーが見積の段階で作り、見積書・見積仕様書と一緒に出します。回答欄には発注側が記入します。受注後の承認図の段階で改訂版を出したり、発注側が書式を指定して提出を求めたりと、運用は会社や案件で違います。
デビエーションリストとクラリフィケーションリストは別々に作りますか?
1枚にまとめ、区分の欄で相違(D)と確認(C)を分ける形がよく使われ、これが「デビクラ」の名前の由来です。発注側の書式によっては、相違の一覧と質問の一覧を別々に求められることもあります。
英語では何と言いますか?
英語の書類でも、相違は deviation、確認は clarification と書きます。海外の入札では、「Deviation List」「Schedule of Deviations」などの名前の様式で相違の一覧を求められることがあります。
世界銀行の標準調達書類では、Deviation(相違)のほかに2つの語も定義して評価します。Reservation(条件を付ける、または要求を全面的には受け入れないこと)と、Omission(必要な情報・書類の欠落)です。
ほかの分野のデビエーションとは意味が違いますか?
言葉の意味は同じ「逸脱」でも使う場面が違い、医薬品の製造では、決められた製造手順からの逸脱を指します。
医薬品の GMP 省令(第15条)は、逸脱が起きたら内容を記録し、影響を調べて品質保証部門に報告することを求めています。事前に合意をとる調達のデビクラとは別の使い方です。
まとめ
- デビエーションリストは、仕様書から外れる項目をリストにしたもの
- デビエーション(相違)とクラリフィケーション(確認)をまとめた表を「デビクラ」と呼ぶ
- 作成後は、発注側と受注側で合意をとる
- 作成するには、自社製品についての深い知識が必要
- 1行に要求・提案・理由・影響・回答を並べ、合意内容が発注書や図面に反映されたかまで確かめる
デビエーションリストの作成は、慣れるまでは完成までに時間がかかりますが、丁寧に確認しながら進めていきましょう。プラント関係の仕事は細かいルールが多いですが、それだけ危険で規模の大きいものを扱っている証拠です。
デビクラを作る側の仕事は技術営業・FAE、回答する側の仕事は購買・調達の職種ページから関連記事を読めます。業界の全体像はプラントエンジニアリングの業種ページにまとめています。
プラント業界の基礎を本で押さえたい方は、プラントエンジニアの勉強におすすめの本で分野別に紹介しています。
出典
出典・参考資料(2件)を開く出典・参考資料を閉じる
- Deviation・Reservation・Omission の定義、Clarification of Bids:World Bank「Standard Procurement Document – Request for Bids: Goods(One-Envelope Bidding Process)」(2021年6月)ITB 27〜29
- 医薬品の製造での逸脱の管理:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第179号)第15条(e-Gov 法令検索)
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