サーマルトリップとは、モーターに定格を超える電流が流れ続けたときに、サーマルリレーが熱で検知して電磁接触器を切り、モーターを止めることです。
現場では「サーマルが落ちる」「サーマルが飛ぶ」とも言い、トリップすると運転ボタンを押してもモーターは動かず、原因を取り除いてからリセットすると元に戻ります。
この記事では、サーマルリレーの仕組み、トリップの意味と「何倍の電流で何秒で落ちるか」の目安、落ちたときの対処とリセット、設定値の決め方を順に整理します。後半ではポンプで多い原因と、インバータの電子サーマルとの違いも扱います。
- 運転ボタンを何度も押し直さない(原因が残っていれば、また落ちてモーターを傷めます)
- サーマルリレーの表示(トリップ表示・リセットボタン)と、上流の配線用遮断器(MCCB)・漏電遮断器(ELB)が落ちていないかを見る
- 盤の中の点検や測定は、電気の担当者が電源を切って施錠・表示をしてから行う。原因が分からなければ担当者に引き継ぐ(手順は「サーマルリレーがトリップした場合の対処法」の章)
サーマルリレーとは
サーマルリレーは、電動機(モーター)やその他の電気機器を過負荷から守るための保護機器で、過電流が流れ続けたときに回路を切り、巻線が焼けるのを防ぎます。
熱で動くことから熱動継電器、熱動形過負荷継電器とも呼ばれ、図面では THR と書かれることが多い機器です。
基本的な構造は、ヒーターと、膨張率の違う金属を貼り合わせたバイメタルの組み合わせです。オムロンのカタログでは、主な部品をヒートエレメント(ヒータとバイメタル)・調整ダイヤル・接点の3つに分けています。サーマルリレーの役割は、次のようになります。
- 回路を通る電流によって熱を発生させる
- 温度の上昇によってバイメタルが湾曲する
- 湾曲によって接点が開いて回路を遮断する
- 過電流が電動機へ流れるのを防止する
電流の熱でバイメタルが曲がり、接点を開いて電磁接触器を切ります。
※サーマルリレーのヒータは主回路に入り、b接点(95-96)は電磁接触器のコイル回路に入ります。端子番号はオムロン J7TC の接続図の例で、実機の刻印で確かめてください。
サーマルリレーは、主に三相誘導電動機に使用され、モーターの負荷が増えたり異常が起きたりしたときに回路を自動的に遮断し、電動機が過熱するのを防ぎます。
サーマルリレーそのものは、主回路を切る力を持ちません。b接点(95-96)を電磁接触器(MC)のコイル回路に入れておき、トリップでコイルの電気を断つことで、MC の主接点が開いてモーターが止まります。
電磁接触器とサーマルリレーを組み合わせたものを、電磁開閉器と呼びます。a接点(97-98)は、トリップを知らせる表示灯や PLC への入力に使います。
熱で動くため、動作には時間の遅れがあり、三菱電機の技報は、バイメタル式のモータスタータについて、過負荷での動作時間はおおむね電流の大きさに反比例すると説明しています。
この遅れのおかげで、始動時の短い大電流では落ちず、続く過負荷だけで落ちます。逆に言えば、短絡のような一瞬の大電流から回路を守るのはサーマルリレーの役目ではありません。
屋内に施設する電動機には、焼損するおそれのある過電流を自動で止めるか、警報する装置が必要です(電気設備の技術基準の解釈 第153条)。出力0.2kW以下などの例外を除き、サーマルリレーはこの役目を担う代表的な機器です。
サーマルリレーには手動でリセットできるリセットボタンが付いており、過負荷が解消された後に回路を再接続できます。自動で戻る設定ができる機種もあり、違いは後の章で説明します。
サーマルリレーが受け持つのは「続く過負荷」です。短絡と漏電は別の機器が守ります。
※富士電機の選定資料も「電磁開閉器が電動機の過負荷保護、ブレーカ・漏電遮断器が回路の短絡保護」と役割を分けています。
配線用遮断器と漏電遮断器の使い分けはNFB(配線用遮断器)とELB(漏電遮断器)の違いで詳しく扱っています。
サーマルリレーとよく似た機器にショックリレーがあり、回路を守るのか、機械を守るのかによって使い分けがされています。
関連記事:ショックリレーとは?仕組み(電流監視)とサーマルリレーとの違い、設定の考え方
サーマルリレーのトリップとは
サーマルがトリップするというのは、機器を保護するためのサーマルリレーに過電流が流れ、強制的に回路が遮断されることを言います。トリップの主な原因は、過負荷、拘束(異物の噛み込みや軸受の焼き付きでモーターが回らない状態)、欠相などです。
サーマル(Thermal)は「熱」、トリップ(Trip)は「外れる、切れる」という意味で、つまり「サーマルがトリップする」とは、言い換えると「サーマルリレーの接続が切れる」ことを表します。
「トリップする」という言葉そのものは、保護装置が働いて回路や機械を自動で止めることを広く指し、ブレーカーが落ちる、タービンが緊急停止する、といった場面でも同じように使います。
「サーマルが落ちる」「サーマルが飛ぶ」「サーマルが動作した」は、どれもサーマルトリップと同じ状態です。監視盤や操作盤に出る「サーマル異常」「THR トリップ」の警報も、多くはこの状態を知らせています。

三相誘導電動機の一般的な回路を例にすると、電源から配線用遮断器(MCCB)を通り、電磁接触器(MC)を経てサーマルリレーにつながります。MC は、遠隔で安全に運転・停止するための開閉器です。
図の回路では、サーマルリレーのヒータが3相のうち2相に入っており、2素子と呼ぶ形で、欠相保護が要る場合は3相すべてに入る3素子(欠相保護付)を選びます。
サーマルリレーがトリップすると、モーターへの回路が途切れるため、運転ボタンを押しても電動機が動かなくなります。リセットスイッチを押すと復帰できますが、過電流の原因が解消していない場合は、再びトリップします。
では、どのくらいの電流が、どのくらい続くと落ちるのか。目安は、メーカーが規格(JIS C 8201-4-1/IEC 60947-4-1)に沿って示す「トリップクラス」の値で読めます。
時間は、トリップクラスと、冷えた状態から流したか温まった状態からかで変わるため、どの機種でも同じ秒数で落ちるわけではない点に注意してください。
倍率は、ダイヤルで合わせた整定電流が基準です。右の列は計算例で、メーカーの値ではありません。
| 整定電流の倍率 | 動作の決まり | 始めの状態 | 0.75kW・整定3.8Aでの電流 |
|---|---|---|---|
| 105% | 2時間たっても動作しない | 冷えた状態から | 約4.0A |
| 120% | 2時間以内に動作する | 温まった状態から | 約4.6A |
| 150% | 2分未満で動作する | 温まった状態から | 5.7A |
| 720%(拘束) | 2秒を超え10秒以内に動作する | 冷えた状態から | 約27A |
※トリップクラス10A・3極負荷・周囲温度20℃での値(オムロン J7TC カタログの定格・性能表)。富士電機の資料では、TR-10以上の形式はトリップクラス20で、720%のとき6〜20秒です。電流は、200V・0.75kWの全負荷電流の参考値3.8A(同カタログの表)を当てはめた目安です。実際の値は銘板と機器の資料で確かめてください。
計算は、整定電流3.8Aに倍率を掛けるだけで、3.8×1.2=4.56A、3.8×1.5=5.7A、3.8×7.2=27.36Aになります。
この表から分かるのは、少しの過負荷なら長い時間をかけて、拘束のような大電流なら数秒で落ちることです。整定値をわずかに超える程度なら、すぐには落ちません。
裏を返せば、「運転して数十分後に落ちた」なら軽い過負荷が続いていた、「始動してすぐ落ちた」なら拘束や欠相、始動時間の長さを疑う手がかりになります。アニメーションを作成したので、こちらもご覧ください。
ヒューズやサーキットプロテクタも、同様の目的で使われます。
関連記事:ヒューズが飛ぶとは?8つの原因と飛んだときの対処・交換手順
サーマルリレーがトリップした場合の対処法
サーマルリレーがトリップしたときは、電動機やその他の電気機器が過負荷や異常な状態にあります。次のような手順で対処します。
リセットは4番目です。原因を取り除く前に押しても、また落ちます。
※原因が分からないまま運転と停止を繰り返すと、モーターの巻線が熱で傷みます。
安全の確保
サーマルリレーがトリップしたとき、最も重要なのは現場の安全を確保することです。自動リセットに設定された機種では、冷えると勝手に復帰し、回路によってはモーターが自動で再び回り出します。
富士電機とオムロンの取扱説明書は、どちらも「自動リセットで二線式の回路だと、モーターが自動的に再起動する」と注意しており、止まっているから安全、とは限りません。
まず、作業員や周囲の人の安全を確認し、危険がない状態を確保します。電気機器の電源を切る、作業区域を囲うなどして近づけないようにします。
機械の掃除や修理で危険があるときは、運転を止め、起動装置に錠を掛けて表示板を付けます(労働安全衛生規則 第107条)。電路を開いて点検・修理する電気の作業では、開閉器に施錠する、通電禁止を表示する、監視人を置く、のいずれかの措置をとります(同 第339条)。
手順の進め方はロックアウト・タグアウト(LOTO)の6ステップにまとめています。通電中のサーマルリレーや端子には触れず、保守・点検は電源を切って行います。
安全が確認できた後で、トリップの原因を特定し、必要な修理や点検に進みます。それが再発の防止につながります。
原因の特定
次に、サーマルリレーがトリップした原因を特定します。トリップが起きる要因としては、主に次のようなものがあります。
- 過負荷:負荷が増えていないか。機械側の固着・摩耗、ポンプの過大流量など
- 拘束:異物の噛み込みや軸受の不具合で回転が妨げられていないか
- 欠相:3相のうち1相が断線・接触不良になっていないか(残りの2相に大きな電流が流れる)
- 電源:電源電圧の低下や不平衡がないか
- 設定・環境:整定値の誤りや、盤内温度が高すぎないか
まず、電動機が過剰な負荷で動作していないか確認します。過負荷は、機械的な問題や設定ミスが原因で起こります。
次に、端子の緩みや断線、電磁接触器の接点不良による欠相がないかを点検します。運転できる状態なら、電気の担当者がクランプメーターで3相の電流を測って偏りがないかを見て、電源電圧の低下や不平衡もあわせて確認します。
最後に、ポンプやファンなどの機械側に異物が噛み込んでいないか、軸が手で回るかを確認します。異物で回転が妨げられると、大きな電流が流れ続けます。
なお、短絡から回路を守るのは配線用遮断器(MCCB)やヒューズ、漏電を検出するのは漏電遮断器(ELB)です。短絡や漏電が疑われるときは、上流の MCCB・ELB が動作していないかもあわせて確認します。
落ちるまでの時間と、その場で見えることから原因を絞り込みます。
※欠相のときの電流や落ち方は、サーマルリレーが欠相保護付かどうかで変わります。電流・電圧・軸の確認は感電と再起動の危険があるため、社内で決められた手順に沿って電気の担当者が行います。
モーターの絶縁は、電源を切ってから絶縁抵抗計で確かめます。三相200Vの回路なら、法令の基準は0.2MΩ以上ですが(電気設備に関する技術基準を定める省令 第58条)、これは最低限の値で、良し悪しの判断はメーカーや社内の基準によります。
電磁接触器やサーマルリレーの接点が正しく開閉しているかは、電源を切ってテスターで確かめられます。やり方はテスターの抵抗測定で接点を確認する方法で紹介しています。
修理・調整
原因が特定できたら、修理や調整に移ります。
- 過負荷の解消:機械的な問題を修理し、負荷を適切な範囲に調整
- 欠相の解消:端子の緩み・断線・電磁接触器の接点不良を点検して修理
- 電源側の確認:電圧低下・不平衡があれば電源側を調査
- 異物の除去:異物が原因であれば、異物を取り除き清掃
これらは重なって起きる場合もあるので、複数の観点から調べ、まとめて直すことが重要です。端子の緩みで欠相し、そのまま運転して巻線が傷む、といった具合です。
サーマルリレーのリセット
原因が解消されたら、サーマルリレーをリセットします。多くのサーマルリレーにはリセットボタンが付いており、これを押すことで回路が再接続されます。
ボタンの色や表示は、機種によって違い、富士電機の FAQ では、TR-N2〜N8形は青いリセットボタン、TR-0N形などは白いリセットボタンを押す、と形式ごとに案内しています。
トリップしているかどうかは、表示で見分けます。白いトリップ棒が隠れる、黄色の表示が出る、など示し方は形式ごとに異なり、機種の取扱説明書で確かめます。リセットしても戻らないときは、次の3つのどれかに当てはまります。
- すぐには戻らない:トリップ直後はバイメタルが反ったままで、押しても復帰しない(トリップフリー)。故障ではない
- 待っても戻らない:富士電機の FAQ では、同社の機種はフレームの大きさにより90〜350秒以上たてばリセットが効くとしている。それでも戻らなければ故障の可能性が高い。他社の機種の待ち時間は取扱説明書で確かめる
- 戻してもまた落ちる:原因が残っている。運転を続けず、原因の特定に戻る
リセット後は、機器が正常に動作するかを確認します。運転電流が整定値より十分低いか、3相でそろっているかまで見ておくと安心です。
富士電機・オムロンの説明書には、手動から自動へ切り替える手順が載っています。
※切り替え方法と表示の出方は、富士電機 TK-E02・オムロン J7TC の取扱説明書の例です。機種ごとに確かめてください。
二線式は、運転の指令が入っている間だけ回り続ける回路で、押しボタンで自己保持をかける三線式なら、復帰しても運転ボタンを押すまで止まったままです。
二線式の回路では、手動リセットでも運転の指令が入ったままならリセットした時点で回り出すため、リセットの前に運転スイッチを切っておくと安全です。
サーマルリレーの b接点が自己保持の回路のどこに入るかは、インターロック回路の作り方と正逆転回路の例で回路図とあわせて確認できます。
再発防止策の検討
再発を防ぐためには、再発防止策の検討が必要で、たとえば、機器や回路の異常を早く見つけるための定期点検や、負荷の管理による過負荷の防止などが挙げられます。
いちばん効くのは、ふだんの運転電流を記録しておくことです。トリップの前に電流がじわじわ上がっていれば、軸受の傷みや詰まりを疑うきっかけになります。
原因が分からない、何度も落ちる、リセットできないときは、運転を止めて電気の担当者に引き継ぎます。伝えると調べが早く進むのは次の情報です。
- 機器の名前と、サーマルリレーの形式・整定値
- 出ていた表示(トリップ表示、上流の遮断器、警報)
- 運転を始めてから落ちるまでの時間と、そのときの負荷
- ふだんと落ちる前の電流値、リセットできたかどうか
電流の常時監視でモーターの異常を早めにつかむ方法は、予知保全センサーの選び方で振動・温度と比べて紹介しています。
サーマルリレーの設定値の決め方
サーマルリレーの整定電流は、電動機やその他の機器を過負荷から適切に保護するために重要で、整定電流を決めるには、いくつかの基本的な手順があります。
入口は、銘板の全負荷電流と、サーマルリレーの整定範囲の2つを確かめることです。そのうえで、環境・負荷・形式・試運転の順に条件を詰めます。
設定を変えるのは、電気の担当者が機器の資料と社内の基準に沿って決める作業です。トリップしたからといって、現場の判断で整定値を上げるのは避けます。
電動機の定格電流を確認する
まず、保護する電動機の定格電流を確認します。定格電流の値は、電動機の銘板や取扱説明書、仕様書などに記載されています。
定格電流は、電動機が定格の出力で連続運転したときに流れる電流で、富士電機とオムロンの取扱説明書では、調整ダイヤルを回してモータの全負荷電流を▼マークに合わせるよう定めています。
ただし、機械のメーカーが別の値を指定していることもあります。銘板の定格電流と設定値が同じとは限らない理由は、ポンプの電流値と定格電流の見方で説明しています。
環境条件を考慮する
電動機とサーマルリレーが置かれている環境条件も考慮します。整定電流は電動機の定格電流(全負荷電流)に合わせるのが基本で、周囲温度が大きく違う場合は、メーカーが示す補正方法に従います。
サーマルリレーは周囲の温度でも温まるため、暑い盤の中では落ちやすく、寒い場所では落ちにくくなります。オムロン J7TC は、40℃で120%、−5℃で130%の電流なら2時間以内に動作するという補償の性能を示しています。
同社の説明書には、20℃と大きく違う環境では補正係数を使って整定値を計算する例があり、夏だけ落ちるときは、整定値より先に盤内の温度と換気を見直します。
過負荷の種類を考慮する
電動機がどのような過負荷にさらされる可能性があるかを考慮します。たとえば、頻繁に起動・停止を繰り返す電動機では、瞬間的な過負荷が何度も起きます。
このような場合は整定値を上げるのではなく、始動時間の長い負荷や寸動・頻繁な起動停止に対応したサーマルリレー(飽和リアクトル付など)を選びます。
三菱電機の選定資料では、始動電流と始動時間でトリップが予想されるときは、飽和リアクトル付を使うか、始動の間だけサーマルリレーを短絡する方法を挙げています。富士電機も、始動時間が長い負荷には遅動形が必要だと書いています。
スターデルタ始動では、三菱電機はスター結線で回す時間をタイマーで10秒以内にし、超えるなら機器の選定を見直すよう求めます。モーターの種類ごとの始動電流の違いはモーターの種類と違いで整理しています。
サーマルリレーの仕様を確認する
サーマルリレー自体の仕様を確認します。多くのサーマルリレーには、調整範囲が決まっており、たとえばオムロン J7TC-01-4E2 は2.8〜4.2Aで、全負荷電流3.8Aのモーターなら範囲の中に入ります。
範囲の外では性能を満たさないので、合う形式を選び直します。あわせて、素子の数を確かめ、三菱電機は、選定表の標準を2素子としつつ、欠相保護が必要な場合は2E付3素子を推奨しています。
逆に、欠相保護付の機種を単相のモーターに使うと、通電しない極があるため不要動作することがあります。オムロンは、全極に直列に通電するか、ダイヤルを10%程度高くするよう案内しています。
実際の運転条件での試運転
整定電流を設定した後、実際の運転条件で試運転し、このとき、サーマルリレーが適切に動作するかを確認します。
過負荷が起きたときに適切にトリップするか、また正常な運転中に不必要にトリップしないかを確かめます。トリップ棒を押すシーケンスチェックで、制御回路が止まる側に働くかも見られます。
始動のたびに落ちる場合の上げ幅も、メーカーごとに目安が決まっています。オムロン J7TC は「5%以内を目安」、三菱電機は IE3 のモーターに置き換えて落ちた場合に「定格電流の110%を目安」としています。
どちらも、その機器の資料で認められた範囲の話です。それでも落ちるなら、整定値をさらに上げず、飽和リアクトル付などの形式に替えます。
定期的な見直し
整定電流の設定は、一度決めたら終わりではなく、モーターの交換、負荷の変更、運転条件や環境の変化があったときは、見直して再設定します。
定期点検では、整定値のほかに端子のねじの緩みも見ます。富士電機の取扱説明書は、端子の締付ねじを定期的に締め直すよう求めており、緩みは発熱と欠相のもとになります。
これらの手順に沿って整定電流を決めれば、電動機を過負荷から守り、安全な運転を続けられます。
ポンプのサーマルトリップで多い原因
ここからはポンプ設備の具体例です。サーマルが落ちていたら、電気の原因に加えてポンプ側を疑います。荏原製作所の取扱説明書は、過電流になる原因として次のようなものを挙げています。
ポンプ側の原因は、配管・本体・液・電源の4つに分けて見ると探しやすくなります。
※荏原製作所の DN型・SCD型の取扱説明書「故障の原因と対策」から。機種によって挙げる項目は違います。
見落としやすいのが、揚程が低くて水が流れすぎるケースです。多くの渦巻ポンプは流量が増えるほど軸動力も増えるため、配管の抵抗が想定より小さいと電流が上がります。
運転点が性能曲線のどこにあるかは、ポンプの性能曲線(HQ曲線)の見方で確かめられます。
同じ取扱説明書は、電流値と電流計の振れを毎日見るよう求めており、電流が定格以内でも、振れが大きいときは異物を噛み込んでいるおそれがある、という書き方です。
電流計の針が周期的に大きく揺れるときは、サージングの可能性もあり、見分け方はサージングとキャビテーションの違いで整理しています。
ポンプでは、先ほどの引き継ぎの情報に加えて、吐出圧力・吐出弁の開度・液の温度や種類の変化も残します。電流と圧力を同じ時刻で並べると、流れすぎか詰まりかを分けやすくなります。
インバータの電子サーマルとサーマルリレーの違い
インバータで回すモーターでは、バイメタルのサーマルリレーの代わりに、インバータの中の電子サーマルが過負荷を見ることがあり、電流を電子回路で測り、モーターの温まり方を計算して止める仕組みです。
操作盤に「サーマル異常」や過負荷のアラームが出たときは、どちらが働いたのかをまず確かめます。サーマルリレーにトリップ表示がなく、インバータの表示部にアラームが出ていれば、インバータ側です。
電子サーマルは設定で働きが変わります。安川電機の FAQ には、定格の150%が流れてもモーターが焼損した例の原因として次の4つが挙げられています。
- 電子サーマルが無効に設定されていた
- モーターの定格電流の設定が誤っていた
- 汎用モーターなのに、インバータモーター用の設定をしていた
- 過負荷で止まるたびに、インバータの電源を切っていた
4つ目は見落としやすい点で、同じ FAQ では、150%の電流で動作するまでの時間は、温まった状態からなら約1分、冷えた状態からだと約7分とされています。
電源を切るたびに冷えた状態から数え直すため、止まる前にモーターが焼けることがあります。電子サーマルの設定とふるまいは機種で違うので、インバータの取扱説明書で確かめてください。
サーマルトリップのよくある質問
トリップするとはどういう意味ですか?
保護装置が異常を検知して、回路や機械を自動で止めることで、サーマルリレー、ブレーカー、タービンなどで使います。
サーマルが飛ぶとはどういう意味ですか?
サーマルトリップと同じで、サーマルリレーが過負荷を検知して動作し、モーターが止まった状態です。「サーマルが落ちる」とも言います。
サーマル異常とは何ですか?
多くは、サーマルリレーがトリップしたことを知らせる警報で、サーマルリレーの a接点(97-98)を表示灯や PLC につないで出しています。インバータの過負荷アラームを指す場合もあるので、どの機器の表示かを確かめます。
サーマルトリップの状態はどう見分けますか?
サーマルリレーの表示を見ます。トリップ棒が隠れる、窓に色の表示が出るなど、示し方は機種ごとに違い、自動リセットの設定だと表示が出ない機種もあります。
サーマルトリップのリセット(解除)をしても戻らないのはなぜですか?
トリップ直後はバイメタルが反ったままで、リセットが効かないためで、富士電機の FAQ では、同社の機種で90〜350秒以上(フレームの大きさで違う)待つとしています。
他社の機種は取扱説明書で確かめ、待っても戻らなければ故障を疑います。詳しくは「サーマルリレーのリセット」で扱っています。
何度もトリップするとき、整定値を上げてもよいですか?
原因を調べずに上げるのは避けます。上げてよい幅の目安はメーカーの資料に書かれています(オムロン J7TC は5%以内が目安)。詳しくは「実際の運転条件での試運転」で扱っています。
ヒートエレメントとは何ですか?
サーマルリレーの中で電流を熱に変えて検知する部品で、ヒータとバイメタルでできています。形式によっては電流の範囲ごとに用意され、整定範囲が合わないときは合うものに替えます。
まとめ
- サーマルがトリップするとは、過電流により回路が遮断されること
- トリップすると電動機が動かなくなる
- 復帰させるためには過電流の原因を特定する必要がある
- 目安はトリップクラス10Aで、150%なら2分未満、拘束の720%なら2〜10秒で落ちる
- 自動リセットでは勝手に再起動することがある。電源を切り、施錠・表示してから点検する
電気を扱う現場では聞きなれない言葉も多いですが、一つずつ意味を理解していけば単純なものが多いです。サーマルリレーを組み込む制御盤の設計の流れは制御盤設計の進め方で、設備を止めない保全の考え方は設備保全とはで紹介しています。
出典
出典・参考資料(13件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 仕組み・動作特性・整定・リセット:オムロン「サーマルリレー J7TCシリーズ」カタログ(販売店掲載)
- リセットと自動リセットの注意:富士電機「サーマルリレー TK-E02 取扱説明書」INA-F2011c-JEC(販売店掲載)
- リセットできない理由:富士電機機器制御 FAQ「サーマルのリセット」
- 機種ごとの表示とリセット:富士電機機器制御 FAQ「サーマルリレーのトリップ及びリセットについて」
- トリップクラス・遅動形:富士電機「富士モータスタータ選定アプリ(MSスケール)」
- 2E付3素子・飽和リアクトル付・IE3:三菱電機 FA「電磁開閉器の選定」
- バイメタルと動作特性:三菱電機技報 Vol.87 No.12(2013)「マニュアルモータスタータの製造技術」
- 呼び名と接点:パナソニック「サーマルリレー の意味・解説」
- 電子サーマル:安川電機 FAQ「電子サーマルが動作しなかった原因」
- ポンプの過電流の原因:荏原製作所 DN型 取扱説明書、SCD型 取扱説明書
- 電動機の過負荷保護装置:経済産業省「電気設備の技術基準の解釈」第153条
- 絶縁抵抗:e-Gov「電気設備に関する技術基準を定める省令」第58条
- 停電作業・運転停止:e-Gov「労働安全衛生規則」第107条・第339条
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