2026年10月14日(米国時間)、日米両政府は米ニューヨーク州に半導体工場を建てる案件で一致しました。対米投資の枠組み「戦略的投資イニシアティブ」で初めての半導体案件です。
経済産業省は、東京エレクトロンや東京応化工業など日本企業6社が装置・材料の供給や製品の購入に「関心を示している」と発表しましたが、これは関心の表明であり、個別の受注や調達が決まったわけではありません。
この記事では、決まったことと未定のことを分けて整理します。そのうえで成熟ノードの意味、資金と運営の分担、日本企業6社の関わり方、職種ごとの影響を見ていきます。
対米投資の第3弾で何が決まったか
工場を運営するのは、半導体の受託製造(ファウンドリー)で世界大手の米GlobalFoundries(グローバルファウンドリーズ、以下GF)で、建設地はニューヨーク州マルタにあるGFの既存拠点です。
金額・場所・時期・生産量の4点を押さえれば、ニュースの骨格がつかめます。
※円換算は経済産業省(100億ドル≒1.6兆円)とテレビ東京の報道(210億ドル≒3.3兆円)による。
数字には確度の違いがあります。決まったのは「1棟目に約100億ドル」までで、約210億ドルは2棟目を建てた場合の上限です。
年約90万枚という生産量も、1棟目が完全に立ち上がったときの能力で、2棟目が実現すれば、さらに最大90万枚が加わるとGFは説明しています。
同じ発表の中でも、確定した事項と見込みの事項が混ざっています。
※経済産業省・GFの発表、ロイター通信の報道をもとに整理。
ニュースでは「対米投資の第3弾」と呼ばれており、赤沢経済産業相が、関税交渉で合意した対米投資の第3弾として発表したためです。これまでの発表は次のとおりで、案件数で数えると今回が7件目にあたります。
- 第1弾(2026年2月):人工ダイヤ製造(約6億ドル)、米国産原油の輸出インフラ(約21億ドル)、AIデータセンター向けガス火力(約333億ドル)
- 第2弾(2026年3月):GEベルノバ日立の小型モジュール炉(SMR、最大400億ドル)、ペンシルベニア州とテキサス州の天然ガス発電(最大170億ドル・最大160億ドル)
- 第3弾(2026年10月):ニューヨーク州の半導体工場(約100億ドル、増設時約210億ドル)
第1弾と第2弾はエネルギーと資源が中心でした。半導体の案件が選ばれたのは、今回が初めてです。
成熟ノード半導体とは|なぜ経済安全保障の話になるのか

新工場でつくるのは、最先端品ではなく「成熟ノード」と呼ばれる半導体です。ノードは回路の微細さの世代を指し、成熟ノードはすでに量産技術が確立した、一世代以上前の製造技術のことです。
経済産業省は、自動車や産業機械、スマートフォン、AIデータセンターなど幅広い分野で欠かせない半導体だと説明しており、GFも、自動車・産業機器・通信インフラ向けの「基盤的半導体」と位置づけています。
目立つのは先端品ですが、工場や車を止めないのは成熟ノードの役割です。
※ノードの区切りに統一の定義はなく、表は一般的な傾向をまとめたもの。
成熟ノードは1個あたりの単価が低く、各社の投資は先端品に集まりがちでしたが、その一方で、1個欠けるだけで車1台が完成しないのがこの種の半導体です。
車載向け成熟半導体の供給網づくりは、アジアでも進んでいます。シンガポールでの動きはVSMCの300mm工場の記事で整理しています。
経済産業省は今回の案件を「経済安全保障上重要な戦略分野」で日米が強靱なサプライチェーンをつくる取り組みと説明しました。特定の国や地域に生産が偏るリスクを、米国内の生産能力で減らす狙いです。
資金・所有・運営はどう分かれているか
この工場は「日本の工場」でも「GFだけの工場」でもありません。お金を出す側、持つ側、動かす側が分かれているのが特徴です。
日本が資金を出し、日米が工場を持ち、GFが技術と運営を担います。
※資金は全額日本が出すとGFが説明(ロイター通信)。利益配分は一定額まで日米で折半し、その後は90%が米国。
ロイター通信によると、投資資金は全額を日本が出し、工場は米政府と日本側が共同で所有し、GFは建設・運営の手数料と製造技術のライセンス料を受け取る立場です。
工場が生むフリーキャッシュフロー(自由に使える現金)は、一定額に達するまで日米で折半し、その後は90%が米国に配分される仕組みです。
対米投資の枠組みと関税
対米投資は、日米の関税交渉で日本が約束した5,500億ドル規模の投資枠で、ロイター通信は、日本製品への関税を少なくとも25%から15%へ下げることと結びついた約束だと伝えています。
同通信によると、どの案件に日本が資金を出すかは米大統領が選ぶ仕組みです。関税と供給網の関係は、米国関税とサプライチェーン再編の記事で詳しく扱っています。
運営を担うGlobalFoundriesとマルタ拠点
GFは自社ブランドの製品を持たず、顧客の設計した半導体を製造するファウンドリーで、筆頭株主はアブダビの政府系ファンド、ムバダラです。
マルタ拠点(Fab 8)は、GFが米国に持つ最大・最先端の300mm工場で、同社の年次報告書(2022年度)によると、14nm・12nmのFinFET(立体構造のトランジスタ)を手がけています。
新工場は既存インフラを使える許認可取得済みの用地に建てるため、更地から始めるより工期を縮められるとGFは説明しています。
米国側の動きもあわせて決まりました。米商務省はGF株の約4%を取得し、米政府の保有比率は合計約7%になります。CHIPS法(米国の半導体補助金法)の助成も、総額は変えずにマルタとバーモント州の一部事業へ配分を増やします。
日本企業6社の関わり方|発表で示された「関心」と今後の商機

経済産業省のリリースは、日本企業6社を例に挙げ、立場は製造装置、部素材、部品、半導体の買い手の4つに分かれます。以下では発表の事実と商機を分けて書き、商機の部分は記事としての見立てです。
いずれも経済産業省の発表で「関心を示している」とされた企業です。
※「関心」は受注・調達の決定を意味しない。採用は今後の商談と評価で決まる。
以下では発表の事実と商機を分けて書きます。商機の部分は記事としての見立てです。
製造装置:東京エレクトロンとSCREEN
東京エレクトロンは、成膜・塗布現像・エッチング・洗浄などの装置を持つ半導体製造装置メーカーです。GFの発表では、GFのグローバル拠点で長年協業し、新工場の立ち上げに装置と技術力で参画するとされました。
GFのティム・ブリーンCEOも、日本からの資金の一部は東京エレクトロンなどの装置メーカーに流れるとの見方を示しています(ロイター通信)。
SCREENはウエハー洗浄装置を主力とし、塗布現像装置や熱処理装置も手がけ、どちらも、成熟ノードの工場でも欠かせない工程を受け持つ装置です。
ウエハーに回路をつくる前工程の主な工程と、関心を示した企業の得意分野を重ねました。
※各社の得意分野は各社の製品ページなどの公開情報による。新工場で実際に採用される装置・材料は未公表。
前工程の各工程の役割は、半導体の前工程の流れの記事で装置・材料ごとに整理しています。
部素材:東京応化工業
東京応化工業は、回路の焼き付けに使う感光材「フォトレジスト」の大手で、経済産業省の発表では、部素材の供給に関心を示した企業として挙げられました。
材料は装置と違い、工場が動き続ける限り使われる消耗品なので、採用されれば、稼働後も継続的な取引になりやすいのが材料メーカーにとっての特徴といえます。

中小の部品メーカー:フジキンと草川精機
経済産業省は、サプライチェーンで部品を供給する中小企業にも利益が及ぶと期待を示し、例に挙げたのがフジキンと草川精機です。
フジキンは、半導体などの分野で使われる特殊バルブ・継手・流体制御機器のメーカーで、草川精機は京都市の切削加工会社で、アルミやステンレスの大型部材を削り出す加工を得意とします。
装置メーカーの受注が増えれば、その中に組み込まれる部品の需要も動きます。日本の部材・装置が世界で強い分野は、世界シェアトップの日本の製造業の記事でも一覧にしています。
半導体の買い手:ルネサス エレクトロニクス
ルネサスは車載・産業機器向けのマイコンなどを手がけ、GFとは長年の協業関係にあります。GFの発表で柴田英利CEOは、新工場を自社の生産拠点の延長と位置づけると述べました。
ロイター通信は、初期の顧客としてルネサスとAppleを挙げていますが、Appleの名前は政府やGFの発表にはなく、報道ベースの情報です。

2029年稼働までの流れと注目点

枠組みの発表から工場の稼働までは、およそ4年あり、これまでの経緯と、今後の予定を時系列で並べました。
2026年10月までが「決まったこと」、それ以降は予定と未定の事項です。
※2026年10月以降はいずれも発表時点の予定。
今後の注目点は3つあります。
- どの装置・材料が採用されるか(企業名や金額はまだ公表されていない)
- 2棟目の追加投資が実施されるか(事業規模が約100億ドルから約210億ドルに変わる)
- 米国内で人材をどう確保するか(建設・半導体関連産業で2万7,000人、高度技能の製造分野で1,000人の雇用を見込む)
補助金と関税で進む米国の工場回帰の全体像は、アメリカの製造業回帰はどこまで進んだかでまとめています。
営業・購買・生産技術・サービスの仕事に何が起きるか

半導体工場の新設は、装置や材料のメーカーだけでなく、そこで働く人の仕事にも影響するため、発表から読み取れる範囲で、職種ごとの論点を整理しました。
装置・材料のサプライヤー側で働く人を想定した見立てです。
※具体的な発注時期や人員計画は発表されていない。
技術営業:採用までの評価が長い
半導体工場では、装置や材料を使う前に顧客側の評価と認定を通すのが一般的で、「関心」から受注までには、仕様の擦り合わせと評価の期間がはさまります。
2029年稼働から逆算すると、装置の選定と評価は着工と並行して進むとみられ、技術を説明できる営業(FAE)の出番が増える場面です。
購買・調達:米国向けの手続きとコスト
装置メーカーの受注が動けば、部品メーカーへの発注も前倒しになりやすくなります。米国向けの輸出では、関税や原産地の扱いも確認が必要です。
関税が部品の価格や生産地の判断にどう響くかは、自動車関税15%の部品メーカーへの影響の記事が参考になります。
生産技術とフィールドサービス:工場を「動かす」仕事
工場の建設が終わっても、装置を据え付けて歩留まり(良品の割合)を上げるまでには時間がかかり、装置メーカーの技術者が現地で立ち上げを支える期間が続きます。
稼働後は、保守部品の供給と定期点検が続くため、工場が動いている限り、サービスと消耗品の需要は残る点が、建設時の一回きりの受注との違いです。
まとめ
- 対米投資の第3弾は、NY州マルタでの半導体工場。1棟目に約100億ドル(約1.6兆円)、増設時は約210億ドル
- 2026年内に着工し、2029年稼働の予定。1棟目は完全稼働時に年約90万枚(300mm)
- つくるのは車・産業機器・通信に欠かせない成熟ノード半導体で、経済安全保障の位置づけ
- 資金は日本、所有は日米、技術提供と運営はGlobalFoundriesが担う
- 東京エレクトロン、SCREEN、東京応化工業、フジキン、草川精機、ルネサスが関心を表明。受注・調達はこれから決まる
今回の案件で日本企業が得るものは、装置・材料の受注だけでなく、稼働後の保守や消耗品の取引まで続く可能性があります。関連する職種は技術営業・FAEや購買・調達、技術テーマとしては半導体製造がこのニュースと深く関わります。
半導体業界の主要企業や市場の動きは、電子部品・半導体の業種ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(9件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 事業総額・関心を示した日本企業:経済産業省「日米政府の『戦略的投資イニシアティブ』において半導体製造プロジェクトを実施します」(2026年10月15日)
- 工場の規模・時期・生産能力・東京エレクトロンとルネサスのコメント:GlobalFoundries 日本語プレスリリース(2026年10月14日)
- 7件目の案件・雇用数・CHIPS助成の配分変更:ジェトロ ビジネス短信(2026年10月16日)
- 第1弾・第2弾の案件と金額:ジェトロ ビジネス短信(2026年3月23日)
- 「第3弾」の位置づけ・円換算:テレ東BIZ「NY州の半導体工場に投資へ 対米投資第3弾」
- 資金・所有・利益配分・顧客・GF株の取得:Reuters(The Korea Times掲載)「Japan to invest up to $21 billion in two US chip factories to be run by GlobalFoundries」(2026年10月14日)
- CHIPS助成・GF株の取得:Manufacturing Dive(2026年10月14日)
- マルタ拠点(Fab 8)の概要:GlobalFoundries Form 20-F(2022年度)
- 各社の製品:東京エレクトロン 製品・サービス、SCREENセミコンダクターソリューションズ 製品情報、東京応化工業 半導体製造前工程、フジキン、京都府 企業紹介(草川精機)
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