カルノーサイクルとは、温度の違う2つの熱源の間で、等温膨張・断熱膨張・等温圧縮・断熱圧縮の4つの過程をくり返す理想の熱サイクルで、熱機関を学ぶとき、最初に出てくるサイクルです。
熱効率は η=1−T2/T1 で表され、高温熱源と低温熱源の温度だけで決まり、同じ2つの温度の間で働く熱機関は、この効率を超えられません。
この記事では、4つの過程、PV線図とT-s線図の読み方、熱効率の公式と導出、実際の効率との違い、例題の順に整理します。
- カルノーサイクルは等温膨張→断熱膨張→等温圧縮→断熱圧縮の4つの過程からなる理想的な熱サイクル
- 熱効率は高温熱源の温度T1と低温熱源の温度T2[K]だけで決まり、η=(T1−T2)/T1=1−T2/T1
- 例:T1=600K(約327℃)、T2=300K(約27℃)なら、η=(600−300)/600=50%。実際の熱機関はこれより必ず低くなる
内容は動画でも解説しています。
カルノーサイクルとは?
カルノーサイクルは、1824年にフランスのサディ・カルノー(ニコラ・レオナール・サディ・カルノー、1796〜1832)が考えた理想的な熱サイクルで、カルノーは物理学者であり、軍の技術者でもありました。
18世紀半ばから続いた産業革命で、燃料からいかに効率よく動力を生み出すかが課題になっており、カルノーは著書『火の動力についての考察』で、この問いを理論で考えました。
熱サイクルとは、作動流体(ここでは気体)が膨張と圧縮をくり返し、元の状態に戻りながら熱を仕事に変える一連の変化です。エンジンもタービンも、熱サイクルとして見ると効率を比べられます。
熱機関は、高温熱源から熱を受け取り、その一部を仕事に変え、残りを低温熱源へ捨てます。
※Q2は捨てる熱の大きさ(正の値)として扱います。カルノーサイクルは、この形で損失のない理想の熱機関です。
カルノーサイクルは、高温熱源と低温熱源を使って4つの過程をくり返し、熱エネルギーを動力に変えます。4つの過程は、等温膨張、断熱膨張、等温圧縮、断熱圧縮です。
等温変化は外部との熱のやり取りがある状態、断熱変化は外部との熱のやり取りがない状態での膨張・圧縮を表します。
カルノーサイクルは理想的なエンジンの動きを表し、その効率は理論上の最大値を示します。ここでいう効率とは、燃料の熱がどれだけ動力としての仕事に変わったかの割合で、大きな特徴は、高温熱源の温度と低温熱源の温度だけで効率が計算できることです。
この記事では、高温熱源の温度をT1、低温熱源の温度をT2(どちらも絶対温度[K])とし、受け取る熱をQ1、捨てる熱の大きさをQ2とします。
作動流体は理想気体とし、各過程は摩擦などの損失がない可逆変化と考えます。実際の装置での効率の考え方は、ボイラー効率の計算方法などで扱っています。
燃料を外で燃やすか中で燃やすかによる熱機関の分け方は、外燃機関と内燃機関の違いで整理しています。
カルノーサイクルの工程
カルノーサイクルは次の4つの工程で完結します。
- 等温膨張(温度一定で熱源から熱をもらい膨張)
- 断熱膨張(熱のやり取りをなくし膨張させる)
- 等温圧縮(温度一定で放熱させて圧縮する)
- 断熱圧縮(熱のやり取りをなくし圧縮する)
このサイクルを図に表すと次のようになります。

状態の番号は、あとのPV線図・T-s線図と同じ1〜4を使います。1は等温膨張を始める点で、1→2→3→4→1の順に回りますので、それぞれの工程を見ていきます。
初期状態⇒等温膨張

初期状態(状態1)では、ピストンの中に空気が入っていると考えてください。ここに高温熱源を近づけると熱が伝わり、ピストンの中の空気が膨張します(1→2)。
このとき温度はT1で一定で、熱源からもらうエネルギーは、すべて膨張して外部に仕事をするために使われます。これを等温変化といい、熱が伝わって空気が膨張する仕組みは、熱力学第1法則で説明できます。
ΔW は気体が外部にする仕事。体積が少し増えたときの仕事は、圧力×体積の増加分で表せます
理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まり、温度Tが一定なら内部エネルギーは変化しない(ΔU=0)ので、もらった熱はすべて仕事に変わることが分かります。
等温変化の圧力、体積、温度の関係は、理想気体を前提にした次の式でも表せます。
等温変化では P1V1=P2V2 なので、V2/V1=P1/P2 です
内部エネルギーやエントロピーとの関係は、エンタルピーとエネルギー・内部エネルギー・エントロピーの違いで整理しています。
等温膨張⇒断熱膨張

次に、外部との熱のやり取りがない状態で、内部の空気が膨張していきます(2→3)。熱のやり取りがないまま気体が膨張すると、熱力学第1法則から内部の温度は下がります。
外へする仕事の分だけ、気体自身の内部エネルギーが減るため、温度はT1からT2まで下がります。
外部と熱のやり取りがない状態変化を断熱変化と呼び、断熱変化の圧力・温度・体積の関係は、次の式で表せます。
2本目の式を見ると、断熱変化では体積が増えると温度が下がることが分かります。比熱比κは、定圧比熱と定積比熱の違いで詳しく扱っています。
断熱膨張⇒等温圧縮

次に、低温熱源を使い、温度T2一定のままピストン内の空気から熱を奪います(3→4)。等温膨張とは逆の動きで、内部の気体が縮んでいきます。
これを等温圧縮といい、温度は一定のまま体積が小さくなるので、内部の圧力は上がります。このとき、気体が受けた仕事と同じ量の熱Q2が、低温熱源へ捨てられます。
断熱圧縮⇒初期状態

最後に、熱のやり取りがない状態で気体が圧縮され、初期の状態に戻ります(4→1)。これを断熱圧縮といい、温度はT2からT1に上がります。
そして、また高温熱源から熱をもらい、等温膨張が始まります。このように、カルノーサイクルは高温熱源と低温熱源を使って一連のサイクルを完結させます。一連の流れは、アニメーションの動画にまとめています。
カルノーサイクルのPV線図とT-s線図
熱機関の状態変化は、圧力Pと体積Vの関係を表したPV線図と、温度Tとエントロピーsの関係を表したT-s線図で表します。
カルノーサイクルのPV線図とT-s線図は、次のようになり、状態の番号1〜4は、前の章の4工程と同じです。


それぞれの状態に1〜4の番号を付けており、赤い矢印が受熱、青い矢印が放熱を表しています。
- 1⇒2 等温膨張
- 2⇒3 断熱膨張
- 3⇒4 等温圧縮
- 4⇒1 断熱圧縮
PV線図は、縦軸に圧力P、横軸にシリンダー内の気体の体積Vをとった線図で、等温の2本はゆるやかな曲線、断熱の2本はそれより急な曲線になります。
等温の線は PV=一定、断熱の線は PVκ=一定 で、κが1より大きいため、断熱の線のほうが急に下がります。
4本の線で囲まれた面積は、膨張でする仕事から圧縮で受け取る仕事を引いた分です。この面積が、1サイクルで取り出せる正味の仕事 W=Q1−Q2になります。
T-s線図とは、縦軸に温度T、横軸にエントロピーsをとった線図で、可逆変化では、受け取った熱が「温度×エントロピーの増加」として表れます。そのため、T-s線図では線の下の面積がそのまま熱量になり、熱の出入りを目で追いたいときに向いた線図です。
カルノーサイクルのT-s線図は長方形で、等温の2過程は横の直線、可逆な断熱の2過程はエントロピー一定の縦の直線になるためです。
上の辺の下の面積(高さT1×幅Δs)がQ1、下の辺の下の面積(高さT2×幅Δs)がQ2で、長方形そのものの面積が、正味の仕事Wにあたります。
幅Δsは上下で同じなので、Q2/Q1=T2/T1となるため、T-s線図を見るだけで、効率 1−T2/T1 が読み取れます。
熱が出入りするのは等温の2工程だけ。温度が変わるのは断熱の2工程だけです。
これらの動作は気体の種類に関係なく、気体、高温熱源、低温熱源の3つがそろえば実現できます。可逆な断熱変化は外部との熱のやり取りがなく、等エントロピー変化になります。
実際の熱機関では、ピストンとシリンダーとの摩擦などでエントロピーが増え、等エントロピー変化は、あくまで理想的な状態を表しています。
カルノーサイクルの熱効率は?
熱機関の目的は、熱源から動力を取り出すことで、与えた熱エネルギーがどの程度動力に変わったかを表すものが、熱効率です。
カルノーサイクルが考え出された理由も、どの条件を変えれば熱効率を上げられるか、という問いで、カルノーが示した答えは、高温熱源と低温熱源の温度差で熱機関の効率が決まることです。カルノーサイクルの熱効率の公式は、次の式です。
※Tの単位はK(ケルビン)です
この式は、同じ2つの熱源の間で働く可逆な熱機関について成り立ちます。ここからは作動流体を理想気体として、実際に式を導いてみます。熱機関の効率は、分母に与えた「熱源のエネルギー」、分子に「取り出せる仕事」を置いて、次のように表せます。
ここで、熱機関自体に摩擦などのエネルギー損失がまったくないと仮定します。受け取った熱から低温熱源へ失った熱を引いた分が、すべて仕事に変わると考えると、取り出せる仕事Wは次の式で表せます。
これを代入すると、次のようになります。
ここから、等温変化と断熱変化の式を使って、効率を温度Tだけで表せる形に持っていき、カルノーサイクルで等温変化するのは、1⇒2と3⇒4の2つです。
- 1⇒2:高温熱源(T1)から熱をもらう
- 3⇒4:低温熱源(T2)へ熱を与える
高温熱源の温度をT1、低温熱源の温度をT2とすると、等温変化のときの熱量は次の式で表せます。
②は3⇒4で捨てる熱の大きさです(P4>P3 なので正の値)
一方、断熱変化のときには、次のポアソンの式が成り立ちます。
このポアソンの式を2⇒3と4⇒1に当てはめると、次の式が成り立つことが分かります。
③は、断熱の式だけでなく、等温変化の関係も組み合わせて出てきますが、途中を1段ずつ見ると次のとおりです。
①を②で割ると、③によって ln の部分が打ち消し合い、温度の比だけが残ります。
これを効率の式に当てはめると、カルノーサイクルの熱効率は最終的に次の式で表せます。
熱量を等温変化の式で書き、断熱変化で圧力比をそろえると、温度だけが残ります。
数字を入れて、熱量から求めた効率と温度の式が一致するか確かめます。
つまり、熱機関の最大効率は高温熱源の温度を上げるか、低温熱源の温度を下げてやれば上がります。
低温熱源を300 K(約27℃)に固定したとき。高温側を上げるほど効率は上がりますが、伸び方はだんだん小さくなります。
※η=1−300/T1 で計算した理論上の最大値です。実際の熱機関の効率は、これより低くなります。
同じ1 Kでも、低温側を下げるほうが高温側を上げるより効率が伸びます。600 K/300 Kの例で低温側を10 K下げると51.7%、高温側を10 K上げると50.8%です。
蒸気タービンの発電所で復水器の圧力を低く保ち、低い温度で蒸気を水に戻すのも、この考え方につながります。
熱機関で発生する正味の効率は?
カルノーサイクルから、高温熱源と低温熱源の温度によって、取り出せる最大の仕事が変わることが分かりました。しかし、実際には上の式で出した効率を出すことはできません。熱が仕事に変わる過程で、気体と機械との摩擦(内部損失)や、機器自体の摩擦(外部損失)が発生するからです。
実際の効率は、これらの損失を含めて次の式で計算します。
理論熱効率η1は、損失のない理想サイクルで計算した効率で、そこに機関効率η2と機械効率η3を掛けて、実際に軸から取り出せる効率を求めます。
タービンの場合は、タービン効率の考え方と熱落差で詳しく書いています。設備全体でエネルギーのむだを減らす考え方は、工場の省エネとエネルギー管理の基本にまとめています。
カルノーサイクルそのものが実際のエンジンにならないのは、温度を一定に保ったまま熱をやり取りするのが難しいためです。熱は温度差がないと流れないので、等温変化に近づけるほど、動きを極めてゆっくりにしなければなりません。
蒸気でカルノーサイクルをつくろうとすると、湿り蒸気のまま圧縮する工程も必要になり、実用は難しいとされています。そこで発電所では、蒸気を水に戻してからポンプで送るランキンサイクルが使われています。
実用のサイクルは、同じ最高・最低温度で比べると、理想サイクル同士でもカルノーサイクルより効率が低くなります。最高温度より低い温度で熱を受け取り、最低温度より高い温度で熱を捨てる時間があるためです。
どちらも損失のない理想サイクルの計算値です。同じ温度範囲でも、熱の受け渡し方の違いで差が出ます。
※オットーはオットーサイクルの記事の計算問題(圧縮比9.0、κ=1.325、吸気70℃・最高2,000℃)、ランキンはランキンサイクルの記事の計算例(主蒸気10 MPa・500℃、復水器5 kPa)と同じ条件です。実機の効率は損失があるため、さらに低くなります。
実機の効率をカルノー効率と比べると、その温度条件で見た上限まで、あとどれだけ余地があるかの目安になります。
カルノーサイクルの問題を解いてみよう
カルノーサイクルの式を使って、実際に最大効率を計算してみましょう。
ある蒸気を使って発電する蒸気タービンについて考えます。
入口蒸気温度250℃、出口の復水の温度が40℃の場合、このタービンの理論最大効率はいくらでしょう?
解答は次のとおりです。
最大効率は40%だと分かり、どんなに損失を減らしても、この温度条件では40%を超えられません。
よくある誤りは、℃のまま計算してしまうことで、(250−40)/250 とすると84%になり、2倍以上も大きな値が出てしまいます。
実際の蒸気タービンは、ランキンサイクルで動いており、同じ温度範囲での実際の効率の求め方は、ランキンサイクルの熱効率の式と計算例で解説しています。
カルノーサイクルのよくある質問
逆カルノーサイクルとは?
逆カルノーサイクルは、カルノーサイクルを逆向きに回したものです。外から仕事を加えて、低温側から熱をくみ上げ、高温側へ運ぶ冷凍機やヒートポンプの理想サイクルになります。
性能は成績係数(COP)で表し、可逆なので、熱量の比はカルノーサイクルと同じく温度の比で決まります。
実際の機器ではこの値まで届きませんが、温度差が小さいほど成績係数が大きくなることは同じで、仕組みはヒートポンプの仕組みで扱っています。
作動流体を変えたら効率は上がる?
上がりません。同じ2つの温度の間で働く可逆な熱機関の効率は、作動流体が空気でも蒸気でも同じで、この記事では理想気体で導きましたが、結果のη=1−T2/T1は作動流体によりません。
効率を上げる手段は、温度条件を変えることだけで、損失のある実際の熱機関は、同じ温度条件ならカルノーサイクルより必ず効率が低くなります。
オットー・ディーゼル・ブレイトン・ランキンサイクルとの関係は?
どれも実際の熱機関をモデルにした理論サイクルで、カルノーサイクルはそれらと比べる「ものさし」の役割です。
- オットーサイクル:ガソリンエンジン。体積一定で熱を受け取る
- ディーゼルサイクル:ディーゼルエンジン。圧力一定で熱を受け取る
- ブレイトンサイクル:ガスタービン。圧力一定で熱を受け取り、捨てる
- ランキンサイクル:蒸気タービン。水が液体と蒸気を行き来する
2つの等温変化を使う点でカルノーサイクルに近いのが、スターリングエンジンです。理想のスターリングサイクルは等温2つと等容2つの過程からなり、完全な再生器があればカルノーサイクルと同じ理論効率になります。
まとめ
- カルノーサイクルは理想的な熱サイクル
- 2つの等温変化と2つの断熱変化で構成される
- PV線図・T-s線図で囲まれた面積が、1サイクルの正味の仕事 W=Q1−Q2
- 最大効率は入出の温度のみで決まり、η=(T1−T2)/T1
- 実際には内部損失や外部損失を考慮した効率になる
カルノーサイクルの考え方は、熱機関を理解する土台です。実際に計算するときは、温度を℃ではなく絶対温度K(ケルビン)で計算することに注意してください。
エネルギー管理士の試験でも、熱サイクルの効率は頻出のテーマで、資格と仕事の関係は製造業のエネルギー管理士の仕事、勉強の進め方はエネルギー管理士が難しいと感じる原因と勉強法で紹介しています。
熱サイクル全体の位置づけは、熱機関とはで整理しています。
出典
出典・参考資料(6件)を開く出典・参考資料を閉じる
- カルノーサイクルの4過程・熱量・効率:MIT 16.Unified Thermodynamics「3.3 The Carnot Cycle」
- 逆向きのカルノーサイクルと成績係数、作動物質によらないこと:MIT 16.Unified Thermodynamics「3.4 Refrigerators and Heat Pumps」
- 可逆な熱移動には極めてゆっくりした変化が必要なこと:University of California, Irvine Physics 115B 講義ノート(Lecture 12)
- 理想のスターリングサイクルと再生器:Ohio University(Israel Urieli)「A Meeting between Robert Stirling and Sadi Carnot in 1824」
- 蒸気でのカルノーサイクルとランキンサイクル:Purdue University ME200 Thermodynamics 講義ノート(Week 13)
- サディ・カルノーの生涯と1824年の著書:MacTutor History of Mathematics(St Andrews 大学)「Nicolas Léonard Sadi Carnot」
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