2026年7月1日から、新規化学物質(国内で製造・輸入の実績がない化学物質)の届出や確認申請など5つの手続きが、原則として電子申請に切り替わりました。労働安全衛生法(安衛法)に基づく手続きで、窓口は政府の電子申請サービスe-Govです。
書面が認められるのは「著しく困難な場合」に限られ、試験報告書などの添付資料も電子ファイルで出すことになります。申請を出す人だけでなく、データをそろえる研究部門や、輸入品を扱う購買部門の段取りにも関わる変更です。
この記事では、そもそもの届出制度、7月の改正で変わった点と変わらない点、電子申請の対象になる5つの手続きを整理します。続いて、届出が必要かを判定する順番、電子申請の進め方5ステップ、手続き別の注意点、よくあるつまずきを順に見ていきます。
新規化学物質の届出制度とは

安衛法第57条の4では、新規化学物質を製造または輸入する事業者に、あらかじめ有害性の調査を行い、その結果を厚生労働大臣に届け出ることを義務付けています。
新規化学物質とは、国内で製造・輸入の実績がなく、既存化学物質として名称が公表されていない物質のことです。
働く人がまだ性質の分かっていない物質にさらされる前に、最低限の有害性を確かめておくのが制度のねらいです。
有害性調査の基本は、微生物を用いる変異原性試験(遺伝子に突然変異を起こすかを調べる試験)か、がん原性試験です。必要に応じて、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験が追加されます。
届け出た物質は国が名称を公表し、それ以降はほかの事業者も届出なしで製造・輸入できる既存化学物質の扱いになります。
見落とされやすいのが対象範囲です。厚生労働省のQ&Aでは、原料や最終製品だけでなく、製造中間体、副生物、廃棄物も届出の対象になると示されています。
外に取り出さない中間体でも、清掃や改修といった非定常作業で作業者がさらされる可能性があれば対象です。研究所で合成した物質を工場でスケールアップする段階は、まさにこの判断が必要になる場面です。
一方で、合金、樹脂製の板や管、フィルムのように固有の形状を持つものは「化学物質」とみなされず、届出の対象外です。塗料や印刷インキのように、混ぜることで最終製品になる混合物も同様です。
既存化学物質を化学反応なしに混ぜる、精製する、小分けするだけの場合も届出は要りません。
通常の届出は年1,000件前後で推移し、少量新規の確認はその数倍の規模です。
※厚生労働省「新規化学物質関係データ」より作成。年は1月〜12月の集計。
届出の担い手は、ほとんどが化学品を開発・製造するメーカーと、海外から原料を輸入する企業です。化学メーカーのどの部門がこうした法規対応を担っているかは、化学業界のサプライチェーンと商流を押さえておくとイメージしやすくなります。

2026年7月から何が変わったか
今回の変更は、2024年4月25日に公布された「労働安全衛生規則の一部を改正する省令」(令和6年厚生労働省令第79号)によるものです。
改正の趣旨は、行政手続きのDX(デジタル化)を踏まえ、新規化学物質の届出と確認申請を電子申請を原則とする仕組みへ見直すことにあります。
電子申請は2025年1月1日から先行して受け付けており、2026年7月1日の施行で原則化されました。書面での届出・申請が認められるのは、電子での手続きが「著しく困難な場合」だけです。
通達では、不正アクセスでパソコンが使えなくなった場合や、システムを構成する機器が故障した場合など、期日までに電子申請ができない事情が例として挙げられています。
「紙のほうが慣れているから」は例外の理由になりません。
もう一つの変更点が、届け出られた物質の名称公表の方法です。従来は官報に告示していましたが、2024年7月1日から、3か月以内ごとに1回、インターネットなどで公表する方式に変わりました。
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」への掲載がこれにあたります。
変わったのは「出し方」と「公表の仕方」で、有害性調査の中身は変わっていません。
※厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」(基発0425第1号)、同省リーフレットより作成。
なお、2026年は安衛法関連の改正が続いており、混同しやすい点に注意が必要です。
10月1日に施行されるのは、個人ばく露測定(作業者の呼吸域で化学物質の濃度を測る方法)に関する別の改正です。この測定を作業環境測定の一つに位置付け、作業環境測定士などの有資格者が実施するという内容です。
4月1日には、ラベル表示やSDS(安全データシート)交付、リスクアセスメントの対象を約2,900物質に広げる見直しも予定されていました。
新規化学物質の電子申請義務化は7月1日の省令改正であり、これらとは根拠となる法令が異なります。

電子申請の対象になる5つの手続き
電子申請が原則になったのは、新規化学物質の「届出」だけではありません。有害性調査を免除してもらうための確認申請や、その変更届も含めた5つの手続きが対象です。厚生労働省のページでは、それぞれe-Govの申請画面へのリンクが用意されています。
自社がどの手続きを使うかで、準備する資料が変わります。
※厚生労働省「労働安全衛生法に基づく新規化学物質の電子申請について」より作成。
5つのうち、日常的に件数が多いのは⑤の少量新規です。研究開発で合成した新物質をサンプル出荷する段階で年間100kg以下に収まるなら、まずこの確認申請を使うことになります。
量産が見えて100kgを超える見込みになった時点で、①の通常新規の届出と有害性調査が必要になります。
②と④は、有害性調査そのものを省くための手続きです。どちらも条件が厳しく、厚生労働省は事前に化学物質対策課へ連絡するよう求めています。
電子申請になったからといって審査の基準が緩くなったわけではないので、条件に当てはまるかの見極めは従来どおり慎重に行う必要があります。
自社の物質に手続きが必要かを判定する順番
電子申請の画面を開く前に、まず「そもそも手続きが必要か」「どの手続きか」を判定します。厚生労働省はフローチャートで判定の順番を示しており、これに沿って確認すると漏れがありません。
上から順に確認し、当てはまった時点でその手続きに進みます。
※厚生労働省「新規化学物質関連手続きの方法(フローチャート)」をもとに簡略化。
試験研究用として免除される条件
新規化学物質の開発研究では、次の3つを満たせば有害性調査の適用が免除されます。実験室的な規模で行われること、ばく露のおそれがある作業者が試験研究の担当者に限られること、研究を行う場所以外に持ち出さないことです。
共同開発先の大学や、分析を委託した他社の事業場も「研究を行う場所」に含められます。
ただし、商業的に販売する段階に入ると、この免除は使えません。顧客への販売や、実験室規模を超える設備での試作が始まるタイミングで、手続きの要否を見直す仕組みを研究開発の仕事の流れのどこかに組み込んでおくと安心です。
製品・サンプルとして輸入する場合
輸入では、一般消費者向けの製品として国内で小分けや詰め替えをせずに販売する場合、新規化学物質を密封した部品が組み込まれた機械を輸入する場合、無償の商品見本として輸入する場合に免除があります。
原料として輸入し、国内で開封・配合するような場合はこれらに当たらないため、通常どおり次の判定に進みます。
輸入時の届出は、海外の輸出者ではなく国内の輸入者が行います。輸入事務を他社に委託した場合も、手続きをするのは委託元です。
海外サプライヤーから新しいグレードの原料を切り替える際には、購買・調達の担当者が成分情報を早めに取り寄せ、法規担当に回す流れをつくっておくと手戻りが減ります。
既存化学物質かどうかの確認
安衛法の既存化学物質は、職場のあんぜんサイトで検索できます。元素、天然に産出される物質、1979年6月29日までに製造・輸入されていた物質、そして届出を経て名称が公表された物質などが該当します。
既存モノマーだけから構成され、数平均分子量が2,000以上で一定の条件を満たす高分子化合物も既存化学物質として扱われます。
厚生労働省は、名称公表物質と誤認して新規化学物質を無届で製造・輸入する事例が散見されると注意を促しています。似た名称や構造の公表物質を見つけても、整理番号と構造まで突き合わせて確認することが大切です。
年間100kgを境に手続きが分かれる
少量新規と通常新規を分けるのは、事業場ごとの年間の製造・輸入予定量です。混合物の場合は含まれる新規化学物質の量で判断します。
Q&Aの例では、既存化学物質50%と新規化学物質50%の混合物を年150kg輸入する場合、新規化学物質は75kgなので少量新規の確認申請になります。
電子申請の進め方5ステップ

判定が済んだら、e-Govで手続きを進めます。
厚生労働省のリーフレットでは、電子申請のメリットとして、いつでも申請できること、パソコン上だけで手続きが完了すること、電子署名・電子証明書が不要であることが挙げられています。
社内の準備としては、次の5ステップで考えると整理しやすくなります。
申請画面の操作より、その前の準備に時間がかかります。
※ステップの区切りは本記事の整理です。手続きの詳細はe-Govの各手続き案内を確認してください。
STEP1 アカウントと端末の準備
e-Govの電子申請には、e-Govアカウント、GビズID、マイナンバーカード、Microsoftアカウント、Googleアカウントのいずれかでログインします。
会社として手続きをするなら、法人向け行政サービスに共通で使えるGビズIDをそろえておくと、ほかの行政手続きとも管理を一本化できます。
申請にはe-Gov電子申請アプリケーション(Windows版・macOS版)のインストールが必要で、インストールには管理者権限が要ります。情報システム部門の承認に時間がかかる会社は、申請期日の直前ではなく先に端末を用意しておくのが確実です。
STEP2 対象判定と数量の見込み
前の章の順番で手続きを決め、事業場ごとの年間製造・輸入量を見積もります。同じ会社でも事業所が違えば手続きはそれぞれ必要です。研究所、パイロット設備、量産工場と物質が移っていく場合は、どの拠点で何kg扱うかを一覧にしておくと判断がぶれません。
STEP3 添付資料の電子化
通常新規の届出では、有害性調査の結果などを電子ファイルで添付する形式になりました。
試験機関の報告書、運営管理者の陳述書、信頼性保証書といったGLP(試験の信頼性を確保する基準)関係の書類も添付します。これらも含めてファイル形式や名前の付け方を社内で決めておくと、後から問い合わせを受けたときにも探しやすくなります。
過去に実施した試験で当時の試験責任者が退職している場合の書類の作り方も、厚生労働省のQ&Aに示されています。古いデータを使う予定があるなら、紙の原本をスキャンする前にQ&Aの扱いを確認しておきましょう。
STEP4 e-Govで入力・提出
厚生労働省の「労働安全衛生法に基づく新規化学物質の電子申請について」のページから、5つの手続きそれぞれのe-Gov申請画面に進めます。
e-Govはブラウザのポップアップブロックが有効だと画面が正しく表示されない場合があるため、事前に設定を確認しておくと入力の途中で止まらずに済みます。
STEP5 受理・確認後の管理
電子申請になっても、受理・確認の前に製造や輸入を始めてはいけないというルールは変わりません。通常新規は書類に不備がなければ届出当日に受理され、その日以降に製造・輸入が可能です。
少量新規は確認期間の開始日から製造・輸入できます。受理や確認の日付、確認の対象期間を社内の物質管理台帳に残し、出荷判定の担当と共有しておくことが重要です。
手続き別に押さえたい注意点
5つの手続きは、求められる資料も、製造・輸入を始められるタイミングも異なります。担当者が交代したときに迷いやすい点を、手続きごとにまとめます。
製造・輸入を始められる日と、必要な資料の違いに注目します。
※少量新規の有効期間は厚生労働省の講義資料「安衛法に基づく化学物質管理の考え方と改正点のポイント」による。
通常新規の届出
有害性調査で変異原性が陽性になっても、届出が受理されれば製造・輸入はできます。
ただし強い変異原性が認められた物質(比活性値がおおむね1,000 revertants/mg以上)は、厚生労働省の指針に基づくばく露防止措置が求められます。
試験結果が出た段階で、製造部門や職場の安全衛生の担当と取扱い方法を相談しておくと、立ち上げ後の混乱を防げます。
少量新規の確認申請
少量新規は試験データが不要な分、手軽に見えますが、確認には有効期間があり、名称も公表されません。同じ物質を使い続けるなら、期限の管理と再申請の段取りが毎回必要になります。
件数が多い会社ほど、電子申請の控えと有効期間を台帳で一元管理しておくことが大切です。
有害性調査を免除する確認申請
がん原性がない旨の確認は、日本では新規でも海外では既に製造されており、がん原性がないことが周知の事実であるような物質が想定されています。
さらされない旨の確認は、中間体などを密閉設備で扱う場合に限られます。どちらも厚生労働省へ事前に連絡したうえで申請する流れです。
よくあるつまずきと社内体制の整え方

電子申請そのものは画面に沿って進めれば難しくありません。つまずきやすいのは、その前後の判断や社内の役割分担です。厚生労働省のQ&Aで示されているルールのうち、実務で見落とされやすいものを4つ挙げます。
いずれも電子化とは関係なく、以前からある落とし穴です。
事業所ごとの手続きを忘れる
研究所で少量新規の確認を受けた物質を、別の工場で試作する場合、その工場でも手続きが必要です。電子申請は本社の法規担当がまとめて出すことが多いため、どの事業所の分を出したのかを申請ごとに記録しておくと漏れを防げます。
届出者を取り違える
A社がB社に新規化学物質の製造を委託した場合、届け出るのは製造元のB社です。逆に、輸入の事務を商社などに委託した場合は、委託元が手続きを行います。
受託製造や商社経由の取引が絡む案件では、契約の段階でどちらが手続きするかを明記しておくと安心です。
受理・確認の前に製造を始める
Q&Aでは、受理・確認通知の前に製造を始め、受理後に出荷すればよいのではという問いに対し、明確に「できない」と回答しています。
生産計画が先に走りやすい新製品の立ち上げでは、手続きの完了を品質保証の工程の中の出荷前確認項目に入れておくのも一つの方法です。
電子化を機に体制を見直す
電子申請への切り替えは、手続きを個人の経験に頼っていた会社にとって、流れを見える化するよい機会です。
誰がアカウントを持ち、どのフォルダに添付資料を置き、受理後の記録を誰が更新するのかを決めておけば、担当者が異動しても手続きが止まりません。
問い合わせ先は厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課の化学物質評価室です。
まとめ
- 安衛法の新規化学物質の届出と確認申請は、2026年7月1日から原則e-Govでの電子申請になった
- 対象は通常新規の届出、少量新規の確認申請など5つの手続きで、書面は著しく困難な場合に限られる
- 電子署名・電子証明書は不要。有害性調査の結果などは電子ファイルで添付する
- 10月1日施行の個人ばく露測定の改正は別の制度で、電子申請義務化とは根拠が異なる
- 事業所ごとの手続き、届出者の取り違え、受理前の製造など、従来からの落とし穴は電子化後も変わらない
新規化学物質の手続きは、研究所で物質が生まれてから量産に移るまでの間に何度も判断が必要になる業務です。関連する職種としては研究開発や品質保証・品質管理の記事もあわせてご覧ください。
化学メーカーの事業構造や主要企業については、化学・樹脂・ゴムの業種ページから関連記事をたどれます。
出典
出典・参考資料(13件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 電子申請の対象手続き・施行日:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく新規化学物質の電子申請について」
- 改正省令の趣旨・例外・名称公表:労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について(令和6年4月25日 基発0425第1号)(安全衛生情報センター掲載)
- 電子申請のメリット:厚生労働省リーフレット「労働安全衛生法の新規化学物質関連の電子申請が義務化されます」
- e-Gov申請画面の周知:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく新規化学物質の届出等の電子申請について」(令和6年12月27日 基安化発1227第1号)
- 判定の順番:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく新規化学物質関連手続きの方法(フローチャート)」
- 対象範囲・届出者・受理前の製造など:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく新規化学物質届出手続きQ&A」
- 試験研究用の免除:厚生労働省「試験研究用」/製品・サンプルの輸入:同「製品やサンプルとして輸入する場合」/既存化学物質:同「既存化学物質」
- 非ばく露物質の確認:厚生労働省「非ばく露物質」/がん原性なしの確認:同「新規化学物質について有害性(がん原性)がない旨の厚生労働大臣の確認」
- 有害性調査の項目:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく新規化学物質の有害性調査制度の概要」
- 届出件数・少量新規の確認件数:厚生労働省「新規化学物質関係データ(詳細)」
- 少量新規の有効期間:厚生労働省 化学物質対策課「安衛法に基づく化学物質管理の考え方と改正点のポイントについて」(NITE掲載)
- e-Govのアカウント・アプリ:e-Gov電子申請「事前準備」
- 2026年10月施行の個人ばく露測定など:厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要」
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