自動車部品の品質管理の規格IATF 16949では、製品の設計と製造工程の設計の両方で、FMEAの実施が求められています。FMEA(故障モード・影響解析)は、製品や工程で起こり得る壊れ方を前もって洗い出し、対策の優先順位を決める手法です。
進め方の中心は、製品や工程を分解し、それぞれの機能が失われる筋道をたどって、問題が起きる前に手を打つことです。
2019年に発行された自動車業界向けのAIAG-VDA版ハンドブック(FMEAの進め方を定めた手引き)では、この段取りが7つのステップに整理されました。
この記事では、FMEAの目的とFTAとの違い、DFMEAとPFMEAの違いを押さえます。そのうえで、7ステップの進め方、RPNからAPへの変更点、締結工程を題材にした記入例、現場でよくある失敗の順に整理します。
FMEAとは

FMEAはFailure Mode and Effects Analysisの略で、故障モード・影響解析と訳されます。これは、製品や工程に潜む故障の起こり方を事前に洗い出し、その影響と原因から対策の優先順位を決める手法です。
日本ではJIS C 5750-4-3(対応国際規格はIEC 60812)で手順が規定されています。
ここでいう故障モードとは、JIS C 5750-4-3:2011の定義を借りると「アイテムにおける故障の様子」のことです。
断線、短絡、折損、摩耗、特性の劣化といった、目に見える壊れ方や機能の失い方を指します。原因そのものではなく「どう壊れるか」を書くのがポイントです。
起源は古く、1949年に米軍が制定した手順書MIL-P-1629(Procedures for Performing a Failure Modes, Effects and Criticality Analysis)にさかのぼります。
1960年代にはNASAのアポロ計画をはじめとする航空宇宙分野で使われ、その後、自動車業界にも広がりました。
現在は自動車の品質マネジメント規格IATF 16949で、製品設計と製造工程設計の両方のアウトプットとしてFMEAが求められています。
FTAとの違い
FMEAとよく並べて語られるのがFTA(故障の木解析)です。FMEAは部品や作業といった下位の要素から出発し、それが壊れたら上位で何が起きるかをたどるボトムアップ型です。
FTAは逆に、起きてほしくない事象を頂点に置き、原因を下へ掘り下げていくトップダウン型です。
JIS C 5750-4-3:2011は、FMEAでは故障モード同士の関係を表現しにくいという限界を挙げ、FTAを補足的な手法と位置づけています。
網羅的に洗い出すならFMEA、特定の重大事象の原因の組合せを追うならFTAと使い分けると整理しやすくなります。
出発点が逆なので、得意な場面も異なります。
DFMEAとPFMEAの違い
FMEAは対象によって、設計を扱うDFMEA(設計FMEA)と、製造工程を扱うPFMEA(工程FMEA)に分かれます。手順の骨格は同じですが、何を分解するのか、原因をどの粒度で書くのかが異なります。
DFMEAは図面が確定する前に、設計上の弱点を洗い出すものです。材料の選定、寸法公差、部品同士のすき間、使用環境への耐性など、設計で決まる要素が原因になります。
設計審査(DR)と組み合わせて回すのが一般的で、機械設計の仕事の流れでいえば構想設計から詳細設計にかけて取り組みます。
PFMEAは量産の前に、工程で起こり得る不具合を洗い出すものです。対象は「図面どおりにつくれるか」であり、設計そのものは正しい前提で考えます。
生産技術の仕事の流れのなかでは、工程設計と設備仕様の検討と並行して進めます。結果はコントロールプラン(工程ごとの管理項目と方法をまとめた計画書)や作業標準に落とし込みます。
同じ7ステップでも、分解する対象と原因の書き方が変わります。
※PFMEAでは「設計は正しい」前提で考えるため、設計起因の問題はDFMEAへ差し戻します。
FMEAの進め方7ステップ
AIAG-VDA FMEAハンドブックでは、FMEAを7つのステップで進めます。以前の自動車業界向けマニュアル(AIAG第4版)は、いきなり様式の列を左から埋めていく進め方になりがちでした。
新しい手順では、評価に入る前に「構造」「機能」「故障」を順に整理する3つのステップがはっきり置かれています。
前半の解析で土台をつくり、後半で評価と対策を回します。
※DFMEA・PFMEAともに同じ7ステップ。監視とシステム応答を扱うFMEA-MSRも同じ枠組みを使います。
ステップ2〜4で対象を分解し、ステップ5〜6で評価と対策を回す、という流れです。以下、各ステップでやることと注意点を順に見ていきます。
ステップ1:計画と準備
最初に、何を、いつまでに、誰と、どの道具で解析するのかを決めます。ハンドブックではこれを次の5Tとして整理しています。
- InTent:目的
- Timing:時期
- Team:メンバー
- Task:作業
- Tools:道具
特に大事なのが時期です。FMEAは問題が起きる前に行う「事前」の活動であり、事後の書類づくりではありません。量産直前に慌てて作ると、見つかった対策を設計や設備に反映する余地がなくなります。
あわせて解析の範囲を決めます。新規設計の部分、変更点、使用環境が変わる部分を優先し、流用部分は既存のFMEAを参照する形にすると工数を抑えられます。メンバーは設計、生産技術、品質保証、製造など部門をまたいで集めるのが原則です。
ステップ2:構造解析
次に、対象を階層構造に分解します。考え方の中心は「フォーカス要素」です。いま解析する要素を真ん中に置き、その1つ上の階層と1つ下の階層との関係で捉えます。
DFMEAならシステム、サブシステム、部品の順に分けます。PFMEAでは最上位を工程アイテム(通常は製品名やライン名)、中間を工程ステップ(締結、溶接、検査などの作業単位)、最下位を作業要素とします。
作業要素は、人(Man)、設備(Machine)、間接材料(Material)、環境(EnvironMent)の4Mで書き出すのが基本です。
工程ステップを中心に、上位の製品と下位の4Mへ分解します。
※AIAG-VDA版ではMaterialは「間接材料」を指し、加工される部品そのものは含めません。4M以外の区分(5M、6Mなど)を使う企業もあります。
構造解析の段階では、まだ故障のことは考えません。工程フロー図や部品表をもとに、抜けのない「地図」を先につくることが、後のステップの網羅性を左右します。
ステップ3:機能解析
構造ツリーの各要素に、機能と要求を書き込みます。機能は「〜を〜する」という動詞の形で、要求は測れる特性(トルク値、寸法、清浄度など)で書くのがコツです。
締結工程の例なら、工程ステップの機能は「ボルトを規定トルク25N・mで締結する」となります(数値は説明用の例です)。作業要素のナットランナーの機能は「設定トルクに達したら締付を停止する」です。
上位の機能が下位の機能で支えられている関係を線でつなぐと、この後の故障解析がそのまま組み立てられます。
ステップ4:故障解析
機能が果たせなくなる姿を、故障影響、故障モード、故障原因の3つで書き出します。フォーカス要素で起きることが故障モード、それが上位にもたらすものが故障影響、下位の作業要素にあるのが故障原因です。この3つのつながりを故障連鎖と呼びます。
構造ツリーの3階層に、そのまま影響・モード・原因が対応します。
故障影響は、自社の次工程、納入先の組立工場、最終ユーザーの3つの視点で考えると漏れが減ります。原因の洗い出しには、QC七つ道具の特性要因図を4Mの枠で描いてから転記するのも有効です。
ステップ5:リスク分析
故障連鎖ごとに、いまある管理策を書き、次の3つの指標を1〜10で評価します。
- 重大度(S):故障影響の深刻さ
- 発生度(O):予防管理を踏まえた原因の起こりやすさ
- 検出度(D):検出管理で流出前に見つけられるかどうか
Dは見つけやすいほど小さい数字になります。
管理策は2種類を分けて書きます。予防管理は原因そのものを起こさせない仕組みで、トルク到達で自動停止する工具や、作業標準の教育などが該当します。
検出管理は起きたものを見つける仕組みで、締付完了信号の監視や全数検査などです。AI外観検査のような自動検査も、PFMEAでは検出管理の一つとして扱います。
評価したS・O・Dの組み合わせをAP表に当てはめ、処置の優先度をH(高)、M(中)、L(低)の3段階で決めます。評点の基準は、ハンドブックの評価表をもとに自社の製品や工程に合わせた説明を加えておくと、人によるぶれが小さくなります。
ステップ6:最適化
APがHやMになった連鎖に対して、処置を決めます。処置には必ず担当者と期日をつけ、実施後に効果を確認して、S・O・Dを付け直します。対策の考え方は、次の順番です。
- 設計や工程を変えて原因をなくす
- 予防管理で起こりにくくする
- 検出管理で見つける
検査を増やすだけの対策は、Dは下がってもOは変わりません。見つける仕組みより起こさない仕組みを優先するのがAIAG-VDA版の基本的な姿勢です。なお重大度Sは、設計を変えて故障影響そのものを変えない限り下がりません。
ステップ7:結果の文書化
最後に、解析の範囲、見つかったリスク、実施した処置とその効果をまとめ、社内の関係部門や顧客に伝えます。PFMEAで挙がった重要な管理項目はコントロールプランと作業標準に反映し、DFMEAの結果は設計検証計画や図面の特殊特性に反映します。
FMEAは作って終わりではありません。設計変更、工程変更、市場や工程内での不具合が出たときに見直す「生きた文書」として扱います。こうした品質計画から不具合対応までの業務全体の中でFMEAがどこに位置づくかは、次の記事で整理しています。

RPNからAPへ:AIAG-VDA版の変更点
AIAG-VDA FMEAハンドブックは、米国の自動車産業団体AIAGとドイツ自動車工業会VDAが手法を統一したもので、2019年に発行されました。
それまで北米系はAIAG第4版(2008年)、ドイツ系はVDA第4巻と、取引先によって様式や考え方が違っていたものを1つにまとめています。
北米やドイツの完成車メーカーと取引する部品メーカーでは、この形式でのFMEA提出を求められる場面が増えています。自動車業界のサプライチェーンでは、Tier1だけでなくTier2以下にも同じ考え方が求められることがあります。
様式の変更よりも、考える順番と優先度の決め方が変わりました。
※FMEA-MSR(監視とシステム応答)は、使用中の故障を車両側で検知して安全な状態を保てるかを、重大度・頻度・監視の3指標で評価する補足的なFMEAです。
RPNの何が問題だったのか
RPNはS・O・Dの掛け算なので、中身の違うリスクが同じ数字や逆転した数字になります。たとえば「S=10、O=4、D=4」はRPNが160、「S=4、O=7、D=7」は196です。
RPNだけで並べると後者が優先されますが、前者は顧客の安全に関わる重大な故障です。
また「RPN100以上は対策」といったしきい値を置くと、しきい値を下回るように評点を調整する動機が生まれます。APはこうした問題に対し、重大度を最も重く、次に発生度、最後に検出度という順で重みをつけた表で優先度を決めます。
APはリスクの大きさの点数ではなく、処置の優先度を示します。
※AP の判定は AIAG-VDA FMEAハンドブックのAP表による。実務では必ず自社・顧客が指定する版の表で確認してください。
PFMEAの記入例

ここまでの手順を、図4・図5で使ったボルト締結工程に当てはめてみます。1つの故障モード「締付トルク不足」に、原因の異なる2つの故障連鎖がぶら下がっている例です。数値は説明のための架空の評価です。
同じ故障モードでも、原因が違えば管理策も評価も変わります。
※数値は説明用の架空例。APはAIAG-VDA版のAP表に当てはめた結果です。
連鎖Aでは、作業者の操作ミスを「注意する」で終わらせず、治具で物理的に工程が進まないようにしています。連鎖Bでは、誤った部品が入りにくい供給方法に変え、さらに検出の仕組みを足しました。
どちらも人の注意力に頼らない対策で発生度を下げている点が共通しています。
処置のあとは、コントロールプランに「締付完了信号の監視」「ボルト長センサーの日常点検」といった管理項目を追加します。PFMEAとコントロールプラン、作業標準の内容がそろっていることは、顧客監査でもよく確認されるポイントです。
FMEAでよくある失敗と対策

FMEAは手順そのものより、運用で形骸化しやすい手法です。現場でよく見かける失敗を4つ挙げます。
過去のFMEAをコピーして終わる
類似品のFMEAを流用するのは効率的ですが、変更点を洗い出さずに丸ごと写すと、新しいリスクがそのまま抜け落ちます。材料、形状、工程順序、設備、使用環境のうち何が変わったかを最初に一覧にし、そこを重点的に解析します。
1人で書いてしまう
担当者が1人で埋めたFMEAは、その人の知っている範囲の故障しか出てきません。設計者は工程の癖を、生産技術者は市場での使われ方を知らないことが多いため、部門をまたいだメンバーで構造と故障連鎖を確認する場を最低1回は設けます。
故障モードと原因が混ざる
「作業者のミス」を故障モードに書いてしまう、といった混同はよく起こります。故障モードはフォーカス要素で起きる現象、原因は下位の作業要素にある、という構造ツリーの位置で判断すると整理できます。
原因がまだ粗いと感じたら、トヨタ生産方式のなぜなぜ分析の要領で一段掘り下げます。
量産後に見直さない
量産開始後に工程内不良や市場クレームが出たのに、FMEAが更新されていないケースは少なくありません。
不具合が出たら、その故障連鎖がFMEAにあったか、評価は妥当だったかを確かめることを是正処置の手順に組み込むと、FMEAが実態に追いつきます。

まとめ
- FMEAは故障の起こり方を事前に洗い出し、対策の優先順位を決めるボトムアップ型の手法
- DFMEAは設計を、PFMEAは製造工程を対象にし、構造の分け方と原因の粒度が異なる
- AIAG-VDA版は、計画から文書化までの7ステップで進め、評価の前に構造・機能・故障を整理する
- RPNは廃止され、重大度を最も重く見るAPでH・M・Lの処置優先度を決める
- 対策は検出より予防を優先し、量産後も不具合や変更のたびに見直す
FMEAは品質保証だけの仕事ではなく、設計と生産技術、製造がそれぞれの知見を持ち寄って初めて機能する手法です。関連する職種は品質保証や生産技術、業界としては自動車で特に求められる場面が多くなります。
出典
出典・参考資料(12件)を開く出典・参考資料を閉じる
- AIAG & VDA FMEAハンドブックの概要:AIAG「AIAG & VDA FMEA Handbook」
- 7ステップ・発行時期・故障連鎖:Quality Digest「Understanding AIAG-VDA’s FMEA Process and Approach」
- 5T・APの3段階・FMEA-MSR・第4版からの変更点:Quality-One「AIAG & VDA FMEA」
- RPNからAPへの変更、AIAG第4版の発行時期:新技術開発センター「AIAG&VDA FMEAハンドブックの概要」
- 構造解析・機能解析・故障解析の追加:構造計画研究所「7ステップでより堅牢なFMEAを」
- PFMEAの構造ツリーと4M:THORS「The AIAG & VDA Recommendation to PFMEA Seven-Step Approach」、Pretesh Biswas「AIAG & VDA Process Failure Mode and Effect Analysis」
- AP表(S・O・Dの組合せとH・M・L):Relyence「FMEA AP (Action Priority)」
- APの重みづけ:QSA Hub「AIAG-VDA FMEA: The 7-Step Standard Explained」
- 故障モードの定義、FMEAの限界とFTAの位置づけ:JIS C 5750-4-3:2011(故障モード・影響解析の手順)、日本規格協会「JIS C 5750-4-3:2021」
- FMEAの歴史(MIL-P-1629、アポロ計画):英国国防省 ASEMS「FMEA/FMECA」
- DFMEA・PFMEAの位置づけ、FTAとの違い:構造計画研究所「FMEA(故障モード影響解析)とは?」
- IATF 16949における設計FMEA・工程FMEA:「IATF16949攻略 8.3.5.1 設計開発からのアウトプット」、「IATF16949攻略 8.3.5.2 製造工程設計からのアウトプット」
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