事業に影響する要因として「人材・労働力不足」を挙げた企業は70.9%。2026年版ものづくり白書では、人が足りないことに加え、技能を引き継ぐ相手や教える人が足りないことも数字で示されました。
ものづくり白書は、経済産業省・厚生労働省・文部科学省の3省が毎年国会に報告する、製造業の現状をまとめた報告書です。
2026年版では、技能継承(仕事の技能を次の世代に引き継ぐこと)に不安を持つ企業が8割台半ばにのぼりました。育成の悩みとして「指導する人材が不足している」を挙げた事業所も62.8%ありました。
この記事では、白書の全体像を押さえたうえで、この3つの数字が何を意味するのかを元の調査までさかのぼって整理します。そのうえで企業の実際の動き、経済産業省パートの論点、現場で今から手をつけられることの順に見ていきます。
2026年版ものづくり白書とは

ものづくり白書は、1999年に議員立法で成立した「ものづくり基盤技術振興基本法」にもとづく法定白書です。2001年から毎年国会に報告されており、2026年版で26回目になります。2026年版は2026年5月29日に閣議決定されました。
作成するのは経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省です。業況と競争力は経済産業省、雇用と人材育成は厚生労働省、教育と研究開発は文部科学省という分担です。1冊の中に視点の違う3つの報告が同居していると考えると読みやすくなります。
第1部の4章を3省が分担し、第2部で講じた施策をまとめています。
※経済産業省・厚生労働省の「2026年版ものづくり白書 概要」をもとに作成。
今年の白書が全体を通して示すメッセージは、2つの大きな環境変化への対応です。1つは各国の保護主義的な政策強化による国際経済秩序の揺らぎ、もう1つはAIなどデジタル技術の急速な発展です。
そのうえで白書は、平時から自社の現状と課題を正確につかみ、中長期を見据えた成長投資と経営改革を進めることを求めています。
投資や経済安全保障の話が中心に見えますが、その前提として繰り返し出てくるのが「人が足りない」「技能が引き継げない」という問題です。以下では、この人の問題を示す3つの数字から読んでいきます。
数字①人材・労働力不足70.9%|影響要因の2位に浮上
1つめの数字は、経済産業省が三菱UFJリサーチ&コンサルティングに委託した企業調査から来ています。「事業に影響を及ぼす社会情勢の変化」を尋ねたところ、2025年度は「人材・労働力不足」を挙げた企業が70.9%(n=3,032)でした。
注目したいのは順位の動きです。人材・労働力不足は2023年度の59.2%、2024年度の66.7%から3年続けて上昇し、2025年度はエネルギー価格の高騰を抜いて2位になりました。
1位は3年連続で原材料・資源価格の高騰ですが、その割合は85.8%と前年より下がっています。
価格高騰が落ち着く一方で、人材・労働力不足だけが3年続けて上がっています。
※複数回答。資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和7年度産業関係調査等事業」(2026年3月)。経済産業省「2026年版ものづくり白書について」(RIETI BBL資料、2026年6月)の集計による。
企業規模別に見ると、人材・労働力不足は大企業71.4%、中小企業70.9%で、規模による差がほとんどありません。
為替変動(大企業70.6%、中小企業26.7%)や生成AIの普及(同28.6%、7.0%)は、規模で大きく差がつく項目です。これらとは対照的に、人手の問題は会社の大小を問わない共通課題だということが分かります。
統計で見ても状況は同じです。厚生労働省パートによると、製造業の就業者数は2024年の1,046万人から2025年は1,033万人とわずかに減りました。
34歳以下の製造業就業者は2002年の384万人から2025年は258万人まで減っており、若い層の薄さが長く続いています。
中小企業の従業員数過不足DI(「過剰」と答えた割合から「不足」と答えた割合を引いた指標)は、製造業で2025年にマイナス17.9でした。コロナ前の2019年に近い不足水準に戻っています。
経済産業省の資料では、生産工程の職業の有効求人倍率は1.60倍(2026年2月)です。こうした採用難の全体像と打ち手は、製造業の人手不足と採用難の記事で詳しく整理しています。
数字②技能継承に不安85.4%|不安の中身は「教わる人がいない」

2つめの数字は、労働政策研究・研修機構(JILPT)の「ものづくり産業における人材確保・定着と技能継承に関する調査」です。白書では、厚生労働省パート(第2章第3節)で使われています。
従業員30人以上の製造業2万社に送られ、4,342社が回答しました(2025年11〜12月実施)。
将来の技能継承について尋ねると、「不安がある」23.7%、「やや不安がある」61.8%で、合わせて85.4%の企業が不安を感じています。
これはJILPTが回答数から算出した値で、四捨五入後の2つの割合を単純に足すと85.5%になります。「不安はない」はわずか0.9%です。
この数字が重いのは、技能継承を軽く見ている企業が多いからではない点です。技能継承を「重視している」「やや重視している」企業は合わせて91.1%あります。
ところが、会社として技能継承が「うまくいっている」「ややうまくいっている」と答えた企業は33.3%にとどまりました。
9割が重視しているのに、うまくいっているのは3社に1社です。
※「重視」はn=4,342(回答企業全体)、「うまくいっている」「不安がある」は技能継承が必要と考える企業n=4,262が対象。JILPT「ものづくり産業における人材確保・定着と技能継承に関する調査」(2026年5月公表)。合計値はJILPTが回答数から算出した値で、各割合の単純合計とは一致しない場合があります(白書本文は「8割以上」と記載)。
では、何が不安なのでしょうか。不安があると答えた企業(n=3,641)に内容を聞くと、トップは「熟練技能者の高齢化・退職が進んでいる」で63.0%でした。
ほぼ同じ水準で「若手が採用できない」57.0%、「中堅従業員が不足している」51.9%が続きます。
教える側の退職と、教わる側の不在が同時に進んでいます。
※複数回答。将来の技能継承に「不安がある」「やや不安がある」企業(n=3,641)が対象。資料:JILPT(2026年5月)。
上位3つを並べると、技能を渡す側(熟練者)と受け取る側(若手・中堅)の両方が欠けている構図が見えます。教え方やマニュアルの問題より前に、そもそも人の組み合わせが成り立たないことが不安の中心にあります。
「うまくいっていない」とした企業(n=2,797)の理由を見ても、「若年従業員を十分に確保できていない」が62.5%で最多でした。次いで「時間的な余裕がない」が50.0%です。
反対に、うまくいっている企業(n=1,421)が挙げた理由の1位は「計画的にOJTを実施している」(40.4%)です。
技能伝承の基本的な進め方は、製造業の技能伝承と人材育成|OJT・技能検定・仕組みづくりの進め方で詳しく解説しています。
数字③指導者不足62.8%|教える人と時間が足りない
3つめの数字は、厚生労働省の「能力開発基本調査」(2025年6月)から来ています。能力開発や人材育成に問題があると答えた製造業の事業所を100とすると、62.8%が「指導する人材が不足している」を挙げました。
教える人の不足に、辞める・時間がないが重なります。
※複数回答の上位5項目。能力開発や人材育成に関する問題がある事業所を100とした割合。資料:厚生労働省「能力開発基本調査(事業所調査)」(2025年6月)。
注目したいのは、「金銭的余裕がない」が13.8%と低いことです。お金よりも、教えられる人とその人の時間が足りないことが育成のボトルネックになっています。
現場のベテランは生産も回しているため、教える時間を取るほどラインが止まるという板挟みが起きやすいのです。
育成の仕組みそのものにも規模の差があります。JILPT調査では計画的なOJTを実施している企業は56.5%ですが、300人以上では78.1%に上がります。
OFF-JT(通常業務を離れて行う研修)も全体54.0%に対し、300人以上は87.0%です。小さい会社ほど「日々の仕事の中で覚えてもらう」以外の手段を持ちにくい実態があります。
一方で、白書は「人材を育成しても辞めてしまう」(54.4%)にも目を向けています。育てる負担が大きいのに定着しなければ、指導役の疲弊がさらに進みます。育成と定着は、セットで考える必要があります。

企業はどう動いているか|再雇用と見える化が中心

では、企業は実際にどんな手を打っているのでしょうか。
技能継承が必要と考える企業(n=4,262)の取り組みで最も多いのは、「再雇用や勤務延長などにより高年齢者従業員に継続して勤務してもらう」で54.8%でした。
規模にかかわらずトップで、300人以上では64.5%に達します。
2位は「継承すべき技能の見える化(テキスト化・マニュアル化・デジタル化)」で31.2%、3位は「技能継承の対象となる者を選抜して訓練する」で27.9%です。
一方、「技能継承専任の指導者を選抜する」は12.1%にとどまり、特に取り組みをしていない企業も15.9%ありました。
再雇用はベテランの退職を先送りできる即効性のある手段ですが、それだけでは継承そのものは進みません。60代・70代の力を活かす職場づくりは、製造業の高齢者雇用|60代・70代が働き続けられない原因と対策で扱っています。
いまの主力は「人を残す」側で、「技能を残す」側はまだ少数派です。
※複数回答。デジタル技術の項目は、デジタル活用の目的に「技能継承の円滑化」を挙げた企業(n=943)などが対象。資料:JILPT(2026年5月)、厚生労働省「2026年版ものづくり白書 概要」。
定着策では、規模を問わず「賃金水準の向上」が71.5%で最多でした。採用方針は規模で分かれ、49人以下の企業は66.2%が中途採用中心、300人以上は43.3%が新卒採用中心です。
小さな会社ほど即戦力の中途に頼らざるを得ず、新卒を一から育てる余力が限られていることがうかがえます。
デジタル技術を活用する目的に「技能継承の円滑化」を挙げる企業は、まだ21.7%です。一方、使っている企業では「継承すべき技術の見える化・標準化」に効果があったとする回答が77.8%にのぼります。
ただし課題の1位は「デジタル技術を活用できる人材の不足」(64.2%)で、ここでも人の問題に戻ってきます。現場社員をデータ人材に育てた企業の進め方は、製造業のリスキリング事例が参考になります。
白書は好事例として2社を紹介しています。山形市の金属加工メーカー、サンフウ精密は技能検定の受検を勧めて合格者に技能手当を支給し、ベテランは若手に教えることが評価される人事制度を導入しました。
群馬県桐生市の精密切削加工部品メーカー、桐生明治はベテランがカリキュラムを作る社内技術大学を設け、8段階の職級制度で必要なスキルを部門別に明文化しています。
両社に共通するのは、「教えること」を評価と処遇に結びつけている点です。
経産省パートの論点|投資・生産性・データ連携
人材の数字と並んで、経済産業省パートは投資と生産性に紙幅を割いています。企業の直近3年間の行動を見ると、価格転嫁が80.6%、賃上げが79.4%、設備投資が64.5%、人材確保・育成が55.1%でした(n=3,026)。
白書は、収益力の高い企業ほど省力化・省人化投資や増産投資に積極的だと示しました。また、資本装備率(従業員1人あたりの設備の量)が高い企業ほど労働生産性が高く、生産性が高い企業ほど賃上げ率も高い傾向があります。
一方で、日本の資本装備率は主要国と比べて低い水準にあります。
日本生産性本部の国際比較では、日本の製造業の労働生産性は2024年にOECD加盟の主要34か国中20位で、2000年の1位から後退しています。
人手が足りない中で生産を維持するには、1人あたりの生産性を投資で引き上げるしかないというのが経済産業省パートの基本的な論理です。
その後押しとして「大胆な投資促進税制」(投資額35億円以上、中小企業は5億円以上など一定の要件を満たす設備投資に即時償却または税額控除7%)が紹介されています。
中小規模の投資で使える支援策は、製造業で使える補助金まとめ【2026年版】にまとめています。
データを取得していても、効果まで届く企業は4割強に減ります。
※n=2,851(取得・活用・効果)。資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和7年度産業関係調査等事業」(2026年3月)。経済産業省のRIETI BBL資料(2026年6月)による。
AIやデジタル技術の活用でも、壁になっているのは知識・ノウハウと人材の確保です。経済産業省は、製造現場の加工・稼働データを集めたデータベースとAIモデルを組み合わせる「製造AX拠点」の検討を進めるとしています。
不確実性への備えとしては、経済安全保障の取り組みを行う企業が2024年度の約4割から約6割に増えました。
ただし中身は情報収集にとどまる企業が多く、その先の踏み込んだ取り組みが不足していると白書は指摘しています。
影響の大きかった出来事としては、米国の関税措置、米国の対中半導体規制強化、中国のレアアース輸出制限が挙がりました。
数字から読む、現場で今やること
3つの数字をまとめると、「人が足りない」「教える人が足りない」「だから継承が不安」という一本の線でつながります。白書が示すデータを手がかりに、工場単位で今から手をつけられることを順番に整理します。
人を残す手で時間を稼ぎ、その間に技能を仕組みへ移します。
※JILPT調査では、育成方針を「数年先の事業展開を考慮して」定めている企業の42.2%が技能継承はうまくいっていると回答(方針なしの企業は21.0%)。
技能と人の棚卸しから始める
最初にやるべきは、誰がどの作業をどのレベルでできるのか、その人があと何年働けるのかを一覧にすることです。再雇用で時間を稼いでいる間に、どの技能から継承するかの優先順位を決めておかないと、ベテランの退職とともに技能が抜け落ちます。
育成方針を言葉にする
JILPT調査では、「数年先の事業展開を考慮し、その時必要となる人材を想定しながら」能力開発をしている企業があります。そのうち42.2%が、技能継承はうまくいっていると答えました。
方針を定めていない企業では21.0%で、約2倍の開きがあります。49人以下の企業では約2割が方針を定めていないため、まず方針を1枚にまとめるだけでも差が出ることが考えられます。
教える時間を業務として確保する
指導者不足の裏には、指導役に教える時間がないという事情があります。指導にかかる工数を生産計画に組み込み、「空いた時間に教える」から「計画的なOJTとして教える」に切り替えることが出発点です。
外部研修の費用は、人材開発支援助成金で一部を賄える場合があります。申請の流れは人材開発支援助成金でリスキリングの記事で紹介しています。
見える化は1工程から
技能の見える化は、すべての作業を一度にマニュアル化しようとすると止まります。退職が近いベテランの担当工程から、作業標準書や短い動画で1工程ずつ残していくほうが現実的です。
デジタル活用の効果として「教育時間の短縮」が55.4%挙がっている点も、小さく始める後押しになります。
教えたことを評価に結びつける
白書の好事例2社に共通するのは、教える側の行動を評価や処遇に反映していることです。技能検定の合格に手当を出す、指導の実績を人事評価に入れる、熟練者に肩書きを与えるといった仕組みは、指導役のやる気と若手の定着の両方に効きます。

まとめ
- 2026年版ものづくり白書は2026年5月29日閣議決定、3省連名で26回目の法定白書
- 「人材・労働力不足」を事業への影響に挙げた企業は70.9%で、3年連続上昇し2位に
- 将来の技能継承に不安がある企業は85.4%。熟練者の退職と若手・中堅の不足が中心
- 育成の問題点は「指導する人材が不足している」が62.8%で、お金より人と時間が足りない
- 企業の主力は再雇用による時間稼ぎで、見える化や教える人の評価はこれからの課題
白書の数字は、どの会社にも当てはまる平均値です。自社の状況と照らし合わせると、どこから手をつけるべきかが見えてきます。関連する職種としては工場長・マネジメントや生産技術、技術テーマとしては人手不足・省人化がこのテーマと深く関わります。
景気や投資の数字を追いたい方は、製造業の景気動向と今後の見通し【2026年】もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(6件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 白書の概要・構成:経済産業省「2026年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」、同 概要(PDF)
- 閣議決定の発表:経済産業省 ニュースリリース(2026年5月29日)、厚生労働省 報道発表
- 就業動向・能力開発・技能継承(厚生労働省パート):厚生労働省「2026年版ものづくり白書 概要(厚生労働省担当パート)」(PDF)
- 企業規模別の社会情勢の変化:2026年版ものづくり白書 第1章第2節(PDF)
- 技能継承の調査結果:労働政策研究・研修機構「9割超のものづくり企業が技能継承を重視」(2026年5月27日、PDF)
- 社会情勢の3年推移・生産性・データ連携:経済産業省 製造産業戦略企画室「2026年版ものづくり白書について」(RIETI BBL、2026年6月、PDF)
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