対策書に「注意喚起した」「再教育を実施した」と書いても、数か月後に別の人が同じ間違いをする。製造現場のヒューマンエラー(意図しない結果を生む人の行為)を減らすには、エラーの型に合わせて対策を選ぶ必要があります。
ヒューマンエラーにはいくつかの型があり、注意喚起や教育が効くのはその一部です。うっかりや手順の抜けには、人の注意に頼らない仕組みのほうが向いています。厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」も、エラーを原因ではなく結果と考えるよう勧めています。
この記事では、注意喚起だけでは減らない理由、エラーの4つの型、ミスが不良に至るまでの見方を整理します。続いて、背後要因の洗い出し方、型に合わせた対策の選び方と優先順位、再発防止の進め方を順に見ていきます。
注意喚起と再教育だけではヒューマンエラーが減らない理由

先に答えを書くと、理由は2つあります。人の注意力には限りがあること、そしてエラーの多くは作業の条件がつくり出した結果であることです。
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」は、ヒューマンエラーを「意図しない結果を生じる人間の行為」と説明しています。
そのうえで、どんなに人を訓練しても間違いは避けられないとし、ヒューマンエラーは原因ではなく結果であると考えることを勧める内容です。
注意力は長く続かない
同サイトによれば、単調な監視業務では30分を超えると緊張が続きません。総務省消防庁の検討会報告書も、注意の持続時間を調べた実験(Mackworth、1950年)を引き、単純な作業で注意を保てるのは30分前後が限界としました。
この報告書は、限界に達したあとで「しっかりしろ」と精神面に訴えたり処罰したりしても、エラーの再発は防げないと指摘しています。
外観検査、計器の監視、同じ部品の組み付けなど、製造現場には単調な繰り返し作業が多くあります。「気をつける」を対策にしても、作業の条件が同じなら同じ結果に戻りやすいのです。
原因を「人」で止めると、打てる手が尽きる
英国の心理学者ジェームズ・リーズンは、2000年に医学誌BMJへ発表した論文で、エラーの捉え方を2つに分けました。
現場の人の不注意や怠慢に原因を求める「パーソンアプローチ」と、人は間違えるものだという前提に立ち、エラーを上流の要因が生んだ結果とみる「システムアプローチ」です。
同じミスでも、原因の置き場所で対策の中身が変わります。
※リーズン(2000年)の整理をもとに、製造現場向けに言い換えています。
リーズンは同じ論文で、人間の性質は変えられないが、人間が働く条件は変えられると述べています。個人の責任を追及しても、その人が異動すれば、間違えやすい条件は次の担当者にそのまま引き継がれます。
数字も見ておきます。職場のあんぜんサイトは、厚生労働省の「労働災害原因要素の分析(平成22年)」の結果を紹介しています。
製造業で起きた休業4日以上の死傷災害を抽出して原因を調べたものです。不安全な行動と不安全な状態の両方が関わった災害が94.7%を占め、不安全な行動だけによるものは1.7%でした。
平成22年(2010年)と古い集計ですが、傾向をつかむ材料にはなります。
これは労働災害を、不安全な行動と不安全な状態の有無で分けた集計です。不安全な行動には、安全装置を無効にするといった意図的な行為も、誤った動作も含まれます。
ヒューマンエラーだけの割合や、品質不良の統計ではありません。
ただ、人の行動だけで起きた災害はごく一部で、ほとんどの場合は設備や作業方法の側にも問題があったという点は、品質のミスを考えるときにも参考になります。
ヒューマンエラーの4つの型:スリップ・ラプス・ミステイク・違反
エラーの分類として広く使われているのが、リーズンが1990年の著書『Human Error』で示した枠組みです。不安全な行為を、意図しない行為(スリップ、ラプス)と、意図した行為(ミステイク、違反)に分けます。
上の2つは意図しない行為、下の2つは意図した行為です。
※分類はリーズン(1990年)によります。違反は意図した行為で、ヒューマンエラーとは区別して扱うのが一般的です。例は製造現場を想定した架空のものです。
スリップは、やろうとしたことは正しいのに、実行の段階でしくじるエラーです。ラプスは、実行の途中でやるべきことが記憶から抜けるエラーを指します。どちらも本人は正しいやり方を知っている点が共通しています。
ミステイクは、行為は意図したとおりにできたものの、もとの判断や計画が誤っていたエラーです。違反は、ルールを知りながらそこから外れる行為で、職場のあんぜんサイトも、違反はヒューマンエラーとは別に考えるのが普通だとしています。
線引きは組織によって少し異なります。たとえばJR西日本の安全研究所は、時間がないので確認を省いたといったルール違反も、妨害や破壊を除いてヒューマンエラーの一つとして捉えるとしています。
大事なのは呼び名よりも、型が違えば原因も効く対策も違うという点です。
SRKモデルで見る「慣れ」とエラーの関係
型の違いは、作業への慣れと結びつけると理解しやすくなります。
デンマークの研究者イェンス・ラスムッセンは1983年の論文で、人の行動をスキルベース、ルールベース、知識(ナレッジ)ベースの3段階に分けました。頭文字をとってSRKモデルと呼ばれます。
作業への慣れ方によって、起きるエラーの型が変わります。
※モデルはラスムッセン(1983年)、エラーの型との対応はリーズンの分析によります。
新しい作業は知識ベースから始まり、手順を覚えるとルールベースへ、繰り返すうちにスキルベースへ移っていきます。
消防庁の報告書によると、リーズンはこの3段階にエラーの型を対応させ、スキルベースではスリップとラプス、ルールベースと知識ベースではミステイクが起きるとしました。
ここから分かるのは、スリップやラプスは、慣れて注意を向けなくてもできる作業でこそ起きる点です。「ベテランだから大丈夫」とはいえません。
同じ報告書は、ミステイクにも、知識や経験の不足によるものと、経験が解決方法を固定してしまうベテランゆえのものがあると整理しています。
一つのミスが不良になるまで:スイスチーズモデルで見る
作業者のうっかりが、そのまま不良の流出や事故になるとは限りません。多くの場合、途中のどこかで設備や手順や検査が止めています。リーズンはこの関係を、穴の開いたチーズの薄切りにたとえて説明しました。スイスチーズモデルと呼ばれる考え方です。
防護の層にはそれぞれ穴があり、穴は開いたり閉じたりしながら位置を変えます。複数の層の穴が一直線に並んだときに、危険が通り抜けて事故になるという見方です。
穴は、現場の人のその場の誤り(即発的エラー)と、設計や管理の判断から生まれて表に出ないまま残っている弱点(潜在的状況)の両方からできるとされています。
層ごとに、役割と穴の例を並べました。
※リーズンのスイスチーズモデルを製造現場の品質に当てはめて作成しました。層の分け方と穴の例は想定です。
図4は、この考え方を製造現場の品質に当てはめて整理したものです。作業者のスリップは、最後に開いた穴の一つにすぎません。その手前で、取り違えられる設計、無効になっていた検知、古いままの手順書といった穴がすでに開いていたことになります。
再発防止では、誰が間違えたかよりも、どの層が、なぜ止められなかったのかを問うほうが対策につながります。穴は不良になる前に、ヒヤリとした経験として見えていることも少なくありません。
ヒヤリハット報告を集める仕組みは、穴を早く見つけるための手段でもあります。
背後要因を洗い出す:m-SHELモデル・4M・なぜなぜ分析
エラーの型が分かったら、次はそのエラーを誘った条件を洗い出します。思いつきで挙げると「本人の不注意」に戻りやすいため、見る範囲をあらかじめ決めておく枠組みが役に立ちます。
m-SHELモデルで周りの条件を見る
SHELモデルは、航空分野のヒューマンファクター研究でF. H. ホーキンズが示したモデルです。
中心にいる作業者本人(L)を、ソフトウェア(S)、ハードウェア(H)、環境(E)、周囲の人(L)が囲んでいます。
東京電力の研究室は、全体を束ねるマネジメント(m)を加えたm-SHELモデルを提案しました。
中心の本人(L)を、ほかの要素が取り囲んでいます。
※SHELモデルはホーキンズ、m-SHELモデルは東京電力の研究室によります。確かめる内容は製造現場向けの例です。
このモデルが伝えているのは、本人と周りの要素がかみ合っていないところでエラーが起きるという見方です。安全工学誌の総説(小松原、2003年)は、機械を入れ替えたのに手順書が改定されていない、といった要素どうしのずれを例に挙げています。
東京電力ホールディングスは、m-SHELモデルで原因を多面的に分析する手法「SAFER」を開発し、設備の保守に限らず製造現場や机上の業務にも使えるとしています。
本人(L)の側では、疲労や睡眠不足も条件の一つです。夜勤を含む職場なら、交替勤務の体調管理も背後要因として確かめておきたい点になります。
品質の4Mと安全の4Mは中身が違う
製造現場でなじみのある枠組みは4Mでしょう。品質管理では、人(Man)、設備(Machine)、材料(Material)、方法(Method)を指します。特性要因図などのQC七つ道具で要因を洗い出す切り口として使われます。
一方、安全の分野でいう4Mは、Man、Machine、Media(環境)、Management(管理)です。前出の総説は、これを米国航空宇宙局(NASA)が提唱した事故原因の分類方法と紹介しています。
同じ4Mでも中身が違うため、品質の4Mだけで整理すると、環境と管理の要因が抜けやすくなります。ミスの分析では、照明・騒音・作業スペースといった環境と、人員配置や計画の無理といった管理も加えて見ることをおすすめします。
なぜなぜ分析は「人」で止めない
「なぜ」を繰り返して原因を掘り下げるやり方は、大野耐一氏の著書『トヨタ生産方式』(1978年)で、なぜを5回繰り返す考え方として知られるようになりました。背景はトヨタ生産方式とカイゼンの記事でも触れています。
ヒューマンエラーのなぜなぜ分析で陥りやすいのは、「なぜ間違えたか、確認を怠ったから」「なぜ怠ったか、意識が低かったから」と、人の内面で止まってしまう形です。これでは対策が注意喚起しか残りません。
問いの向け先を、作業の条件と仕組みに変えます。「なぜ確認しなくても作業が進められたのか」「なぜ間違いにその場で気づけなかったのか」と問えば、設備や手順や表示の話に進めます。
発生原因と流出原因を分けた書き方は、次の記事で記入例つきで扱っています。

エラーの型に合わせて対策を選ぶ

ここからが対策です。注意喚起や教育がまったく無意味なのではなく、効く型と効きにくい型があると考えると、対策の選び方が変わります。
型を見分けてから、対策の種類を選びます。
※型の定義はリーズンの分類によります。効き方と対策の対応は、本文で挙げた資料をもとに整理した目安です。
スリップ・ラプスには、間違えられない仕組みと中断対策
注意喚起がもっとも効きにくいのがこの型です。本人は正しいやり方をすでに知っているので、教育をやり直しても知識は増えません。「気をつける」と約束しても、注意を向けずにできる作業であることは変わらないためです。
向いているのは、間違えようとしてもできない、または間違えるとその場で止まる仕組みです。
職場のあんぜんサイトは、人はうっかりや思い違いをするものだという前提であらかじめ対策を講じる考え方を、フールプルーフとして紹介しています。
品質の分野ではポカヨケと呼ばれ、逆向きには入らない治具や、部品を取り忘れると次へ進めない仕掛けがその例です。
ラプスは、作業の中断や割り込みがきっかけになります。消防庁の報告書も、作業の途中で別の指示が入り、手順を一つ忘れた例を挙げています。
作業中は声をかけない区切りを決める、中断したら最初の確認点に戻る、1台分の部品だけを手元に置いて余りで気づけるようにする、といった対策が考えられます。
確認の動作を加える方法もあります。職場のあんぜんサイトによると、鉄道総合技術研究所の1994年の実験では、指差呼称をした場合の押し間違いの発生率が、しなかった場合の約6分の1でした。
ただし同サイトは、指差呼称だけでヒューマンエラーを根絶することはできないとも書いています。仕組みで防ぎきれない部分を補う手段と位置づけるのが現実的です。
ルールベースのミステイクには、判断基準と識別
手順や基準はあるのに、当てはめ方を誤る型です。よく似た品番の取り違え、旧版の図面での加工、良否の境目の解釈違いなどが当たります。いずれも想定例で、現場によって形は変わります。
対策の中心は、判断に必要な情報を、判断する場所で見えるようにすることです。似た部品を色や置き場で分ける、最新版の図面だけが現場に残るようにする、限度見本を検査台に置く、といった方法があります。
東京電力のSAFERでは、色分けやマーキングで判断の負担を軽くすることを「わかりやすくする」対策として挙げています。
知識ベースのミステイクには、教育と止まるルール
初めて扱う品種、設備の異常、めったにない段取りなど、決まった手順がない場面で起きる型です。教育や訓練が正面から効くのはこの領域で、知識や経験の不足からくる新人のミスもここに入ります。
とはいえ、起こりうる場面をすべて事前に教えることはできません。判断に迷ったら作業を止めて上長を呼ぶ、というルールを決め、止めたことを責めない運用にしておくと、誤った判断のまま進むことを防げます。
経験で判断が固まりやすいベテランに対しては、消防庁の報告書が、さまざまな事例を使った教育で柔軟な判断力を養うことを挙げています。
違反には、守れるルールへの見直し
ルールを知りながら省く行為には、注意や罰則を考える前に、そのルールが守れる内容かを確かめます。
標準時間の中に確認の時間が入っていない、手順が現物と合っていない、守らなくても作業が進む、といった条件があると、省略は個人だけの問題ではなくなります。
職場のあんぜんサイトも、不安全行動による災害は労働者の心構えや意識だけでは防げないと述べています。守られない理由を聞き取り、守れる手順に直す進め方は、作業標準書が守られない原因と対策の記事で詳しく扱っています。
対策の優先順位:なくす、設備で防ぐ、手順と教育で補う
対策の案が複数出たとき、どれから採用するかの基準として、安全の分野で確立している優先順位が使えます。
厚生労働省の「機械の包括的な安全基準に関する指針」は、機械安全の国際規格ISO 12100(JIS B 9700)の考え方を取り入れています。
保護方策を、本質的安全設計方策、安全防護と付加保護方策、使用上の情報の順に行うもので、3ステップメソッドと呼ばれます。
職場のあんぜんサイトは、設備でリスクを下げられるのに、使用上の情報の提供に頼ってはならないと説明しています。
同省の「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」も同じ向きです。
設計や計画の段階から危険を除く措置、インターロックなどの工学的対策、マニュアル整備などの管理的対策、個人用保護具の順に検討するよう定めています。
手順は工場のリスクアセスメントのやり方の記事にまとめています。
これらは労働災害を防ぐための規定で、品質のエラー対策を直接定めたものではありません。ただ、人の注意に頼る対策ほど後ろに置くという順序は、品質のミスにも当てはめやすい考え方です。図7は、この順序を品質のエラー対策に当てはめて整理したものです。
上の対策ほど、人の注意に頼らずに済みます。
※機械安全の3ステップメソッドとリスクアセスメント指針の優先順位を、品質のエラー対策に当てはめた整理です。規格や指針が品質対策の順序を定めているわけではありません。
東京電力のSAFERも、なるべく人の意識に頼らない対策を考えるとして、「やめる・なくす」「できないようにする」「わかりやすくする」という考え方を示しています。
職場のあんぜんサイトが挙げる4つの方策も、人を訓練することに加えて、間違えにくい仕組みにする、間違えてもすぐ発見できるようにする、間違えても影響が小さくなるようにする、という内容です。
品質マネジメントシステムの規格ISO 9001の2015年版(JIS Q 9001:2015)には、箇条8.5.1のg)があります。ここでは「ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する」ことを求めています。
具体的な方法までは定めていないため、自社でどの順に対策を検討するかを決め、説明できるようにしておくことになります。
なお、ISO 9001は2026年9月16日に改訂版のISO 9001:2026が発行されました。ここで挙げた箇条番号と文言は2015年版のものです。
上位の対策ほど、費用と時間がかかる傾向があります。先の指針は、死亡や重い障害につながるおそれのあるリスクで措置に時間がかかる場合、暫定的な措置をただちに講じるよう求めています。
品質でも同じように、当面は全数確認や注意喚起でしのぎ、期限を決めて上位の対策へ切り替える二段構えが現実的です。
再発防止の進め方6ステップ

ここまでの内容を、ミスが起きたあとの動きとして並べ直すと、次の6ステップになります。公的な指針で決まった手順ではなく、前の章までの考え方を実務の順に置いたものです。
調べる、対策する、定着させるの3段階で進めます。
※公的な指針で定められた手順ではなく、この記事で紹介した考え方を実務の順に並べたものです。
聞き取りは「責めない」ことから始める
ステップ1で事実をつかめるかどうかは、聞き方で決まります。JR西日本の安全研究所は、ヒューマンエラーを減らすうえで重要なことを示しています。失敗した人を責めるのではなく、失敗に至った人の特性を見極め、失敗しにくい作業環境を整えることです。
「なぜ間違えたのか」と問うと、答えは反省の言葉になりがちです。「そのとき何を見て、どう判断したか」「何があれば気づけたか」と聞くと、作業の条件が出てきます。責任を問う場と、原因を調べる場は分けておくほうが、事実が集まります。
想定例:よく似た品番のラベル貼り間違い
流れをつかむために、架空の想定例でたどってみます。末尾の1文字だけが違う2種類の製品を同じ作業台で梱包していて、片方のラベルをもう一方の箱に貼ったまま出荷してしまった、という場面です。
- ステップ1:聞き取りで、ラベルは2品番分が同じトレーに置かれ、貼る直前に別の作業の問い合わせで中断していたことが分かった
- ステップ2:貼る手順は知っており、再開時に取り違えたので、型はスリップとラプスと判定した
- ステップ3:m-SHELで見ると、ラベルの見た目が似ている(H)、照合の手順がない(S)、2品番の同時梱包を計画が前提にしている(m)が挙がった
- ステップ4:品番ごとに梱包の時間帯を分ける(なくす)、ラベルと現品票のバーコード照合が合わないと封かんへ進めない(設備で防ぐ)を恒久対策とし、導入までは全数の目視照合でしのぐ
- ステップ5:対策後3か月の貼り間違い件数と、照合で止まった回数を記録する
- ステップ6:作業標準書を改訂し、似た品番を扱うほかの梱包場にも同じ照合を広げる
「作業者に注意した」で終えていた場合と比べると、対策の向け先が人から作業の条件へ移っています。照合で止まった回数は、穴がふさがっている証拠として残せる点も違いです。
対策でよくある失敗
最後に、対策を打ったのに効かない、あるいは別の問題を生んでしまう典型を3つ挙げます。
同じ確認を何重にも重ねる
ミスのたびに確認者を増やしていくと、かえって見逃しが増えることがあります。日本品質管理学会誌「品質」に、人による確認の多重化を調べた模擬実験(島倉・田中、2003年)があります。
同じ種類の確認を重ねる場合は2層までがもっとも有効で、3層以上は逆効果になりうるという結果でした。重ねたことに安心して、手を抜くおそれがあるためです。
同じ研究は、種類の異なる確認であれば重ねるほど有効だとしています。人の目を増やすより、人の確認と機械の照合のように性質の違う確認を組み合わせるほうが、穴は重なりにくくなります。
対策を足し続けて手順が膨らむ
ミスのたびに確認項目やチェックシートを足していくと、手順が長くなり、標準時間に収まらなくなります。守りきれない手順は省略を招き、違反という別の型を増やすことになりかねません。
対策を一つ足すときは、不要になった確認を一つ外せないかも合わせて見直します。
効果を確かめずに完了にする
対策書を出した時点で完了とすると、効いたかどうかが分からないまま次のミスを迎えます。
判断の材料には、件数の推移、仕組みが止めた回数、手順が守られているかの現場確認などがあります。何をもって効いたと判断するかを対策と同時に決めておくことが、繰り返しを止める最後の一手です。
まとめ
- ヒューマンエラーは原因ではなく、作業の条件が生んだ結果として捉える。注意力には限りがあり、注意喚起だけでは同じ結果に戻りやすい
- スリップ、ラプス、ミステイク、違反の型があり、型によって効く対策が違う。違反は意図した行為で、エラーとは区別して扱うのが一般的
- 一つのミスが不良になるまでには複数の防護の層がある。どの層がなぜ止められなかったかを、m-SHELモデルや4Mで洗い出す
- 対策は、なくす、設備で防ぐ、気づけるようにする、手順と教育で補う、の順に検討する。安全分野の優先順位を品質に当てはめた考え方
- 再発防止は、責めない聞き取りから始め、型の判定、背後要因、対策、効果確認、標準化と横展開まで進める
ヒューマンエラー対策は、人を変えようとするより、人が働く条件を変えるほうが長続きします。次に対策書を書くときは、「注意喚起」と書く前に、そのミスがどの型で、どの防護の層が抜けていたのかを一度確かめてみてください。
あわせて、起こる前に工程の弱点を洗い出すFMEAのやり方や、取り違えの起きにくい職場づくりにつながる5Sを定着させる仕組みの記事も参考になります。関連する職種は、品質保証・品質管理と製造・オペレーションの各ページからご覧ください。
出典
出典・参考資料(20件)を開く出典・参考資料を閉じる
- ヒューマンエラーの定義・「原因ではなく結果」・4つの防止方策:厚生労働省 職場のあんぜんサイト 安全衛生キーワード「ヒューマンエラー」
- 不安全行動の定義・労働災害原因要素の分析(平成22年):厚生労働省 職場のあんぜんサイト 安全衛生キーワード「不安全行動」
- 上記分析の元の統計表(製造業・休業4日以上の死傷災害):厚生労働省 職場のあんぜんサイト「労働災害原因要素の分析(平成22年 製造業)」
- パーソンアプローチとシステムアプローチ・スイスチーズモデル:Reason, J. (2000) “Human error: models and management” BMJ 320(7237): 768–770
- エラーの分類の原著:Reason, J. (1990) Human Error. Cambridge University Press
- スリップ・ラプス・ミステイク、SRKモデルとの対応、注意の持続時間:総務省消防庁「消防活動における安全管理に係る検討会報告書」(平成16年11月)第2部第1章
- 不安全行為の4分類(スリップ・ラプス・ミステイク・規則違反):秋保ほか (2022)「安全の現場に求められるリーダーシップ」産業・組織心理学研究 35(3): 365–379
- SRKモデルの原論文:Rasmussen, J. (1983) “Skills, rules, and knowledge; signals, signs, and symbols, and other distinctions in human performance models” IEEE Transactions on Systems, Man, and Cybernetics, SMC-13(3): 257–266
- SHELモデル・m-SHELモデル・安全の4M:小松原明哲 (2003)「ヒューマンエラーのメカニズムとその対応を巡って」安全工学 42(3): 148–154
- SAFERとエラー対策の発想ガイドライン:東京電力ホールディングス 経営技術戦略研究所「災害等の分析手法(SAFER)」
- ヒューマンエラーの捉え方と責めない考え方:JR西日本 安全研究所「ヒューマンエラーとヒューマンファクター」
- 「なぜ」を5回繰り返す考え方:大野耐一 (1978)『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』ダイヤモンド社
- フールプルーフの考え方:厚生労働省 職場のあんぜんサイト 安全衛生キーワード「フールプルーフ」
- 指差呼称の効果検定実験:厚生労働省 職場のあんぜんサイト 安全衛生キーワード「指差呼称」
- 機械安全の保護方策の優先順位(ISO 12100/JIS B 9700):厚生労働省 職場のあんぜんサイト 安全衛生キーワード「機械の包括的な安全基準」
- リスク低減措置の優先順位:厚生労働省「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」
- ヒューマンエラー防止の要求事項:JIS Q 9001:2015 品質マネジメントシステム―要求事項 箇条8.5.1 g)
- ISO 9001:2026の発行日:日本規格協会「ISO 9001:2026 品質マネジメントシステム―要求事項」
- 品質管理の4M(人・機械・材料・方法):日本規格協会 品質管理検定センター「品質管理検定(QC検定)4級の手引き」
- 確認の多重化の有効性:島倉大輔・田中健次 (2003)「人間による防護の多重化の有効性」品質 33(3): 104–112
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