2026年10月、リンテックは埼玉県伊奈町の伊奈テクノロジーセンターで、約25億円を投じた新しい「開発棟」を稼働させました。
開発するのは、半導体ウェハ(回路をつくる円盤状の基板)を薄く削ったり切り分けたりするときに、特殊な粘着テープを貼ったり剥がしたりする装置です。
これらは、ウェハをチップに切り分けて製品の形にする「後工程」で使われます。リンテックはテープと装置を一緒に手がけており、半導体関連の事業が会社の利益の大半を生んでいます。
新棟の狙いは、半導体関連装置を中心とした新装置の開発力向上と、生産能力のさらなる増強です。
この記事では、開発棟の中身、伊奈でつくっている装置が後工程のどこで使われるのか、テープと装置を組み合わせて売る意味を見ていきます。続いて、業績から見た半導体関連事業の位置づけ、背景にある一連の投資、取引先から見た意味の順で整理します。
伊奈テクノロジーセンターの開発棟とは
伊奈テクノロジーセンターは1983年に開設された拠点で、半導体関連装置やラベリングマシン(商品にラベルを自動で貼る機械)の設計・開発を担っています。リンテックの中で「装置」を担当する拠点と考えると分かりやすいでしょう。
新しい開発棟は2026年9月14日に竣工し、10月から稼働しています。地上4階建てで、建築面積は約1,000㎡、延床面積は約3,600㎡です。
1階と2階が開発エリア、3階が設計エリア、4階が設計エリアと会議室という構成で、省エネのための太陽光パネルを設置し、バリアフリーにも配慮しています。
約25億円を投じた4階建ての新棟で、2026年10月に稼働しました。
※出典:リンテック ニュースリリース(2026年9月29日)、ニュースイッチ(2026年10月1日)
注目したいのは、新棟そのものよりも床の使い方の入れ替えです。これまで既存棟で行っていた装置の設計や、顧客の要求仕様に合わせた評価・検証のスペースを新しい開発棟へ移します。既存棟で空いたスペースは、すべて装置の製造エリアに充てます。
その結果、開発エリアは床面積比で従来の約1.5倍、製造エリアは約1.6倍になると発表されています。ただし床面積の比率であり、開発期間の短縮や生産台数が同じ比率で伸びるという意味ではありません。
人員や設備の配置次第で実際の効果は変わるため、今後の受注・出荷の動きとあわせて見ていく必要があります。
開発・設計を新棟に移し、既存棟は丸ごと製造に振り向けます。
3〜4階:設計エリア・会議室
※倍率は会社発表の床面積比。生産台数や開発期間の比率ではありません。
背景として会社が挙げているのは、半導体の旺盛な需要と、短納期での受注に対応する必要性です。
装置は顧客ごとに仕様を詰め、評価を繰り返してから納めるものが多くあります。そのため、評価・検証の場所と組み立ての場所の両方が足りなくなると、受注しても納期を守りにくくなります。
伊奈でつくる装置は後工程のどこで使われるのか

半導体の製造は、ウェハの上に回路をつくる前工程と、ウェハをチップに切り分けて製品の形にする後工程に分かれます。リンテックの半導体関連製品が使われるのは主に後工程で、前工程の8つの工程を終えたウェハを受け取ったところから出番が始まります。
伊奈で開発・製造しているのは、ウェハの裏面研削(薄く削る工程)と切断(ダイシング)で使う特殊粘着テープの貼付・剥離装置です。
テープそのものは群馬県の吾妻工場などで生産しており、伊奈はそのテープを顧客のラインで確実に使うための装置を受け持っています。
工程ごとに「何のために」「どのテープを」「どの装置で」使うかを並べました。
※製品区分はリンテックの半導体関連製品サイト(Adwill)の掲載内容から整理。研削・切断そのものは専用の研削装置・ダイシング装置で行います。
BG用表面保護テープ
BGはバックグラインド(裏面研削)の略です。ウェハを裏から削るとき、表側の回路面は研削台に押し付けられ、削りくずや水にもさらされます。そこで回路面にテープを貼って守るのが、BG用表面保護テープの役割です。
削り終わったら、このテープはきれいに剥がす必要があります。紫外線を当てると粘着力が落ちるUV硬化型と、紫外線を使わないNon-UV型があり、ウェハの構造や工程に合わせて使い分けます。
ダイシングテープとダイシング・ダイボンディングテープ
切断の工程では、ウェハをリングフレームに張ったテープの上に固定し、切り分けたチップがばらばらにならないよう支えます。これがダイシングテープです。
切断中はしっかり保持し、取り出すときは簡単に離れるという、相反する性能を一枚で両立させる点に粘着技術の難しさがあります。
ダイシング・ダイボンディングテープは、ダイシングテープにチップを基板に貼るための接着層を一体化したものです。切断から実装までを一枚で受け持てるため、接着材を別に塗る手間を省けます。
リンテックは標準プロセス用と先ダイシング用の2系統をそろえています。
チップ裏面保護テープ
チップ裏面保護テープは、チップの裏側に保護膜をつくるためのテープです。ウェハのまま最小サイズで実装するWLCSP(ウェハレベル・チップスケールパッケージ)などで使われます。
リンテックは2026年9月、この製品に関する特許を巡って台湾で訴訟を起こしており、自社の技術として重視している製品の一つといえます。

テープと装置を組み合わせると顧客の工程にどう効くのか
リンテックは自社の半導体関連事業を、特殊粘着テープと、その特性を最大限に引き出すための装置と説明しています。
採用サイトでも、素材と装置の両方でトータルソリューションを提供すると書いており、テープと装置は別々の商品ではなく一組の提案として位置づけられています。
テープは薄い材料ですが、貼るときの張力や温度、気泡の抜け方、剥がす角度や速度で結果が大きく変わります。
一般に、ウェハが薄くなるほど割れやすくなり、貼り方・剥がし方のわずかな差が歩留まり(良品の割合)に響きます。
材料の性能を出し切るには、扱い方まで含めて設計する必要があるというのが、装置まで手がける理由です。
顧客の工程に入り込む深さが変わります。
※「一般論」の行は、テープと装置の関係から考えられる一般的な論点です。その他の行はリンテックの公開資料に基づきます。
事例1:先ダイシング(DBG)
先ダイシング(DBG)は、先に回路面側から途中まで切り込みを入れ、そのあと裏面を削ることで、薄くすることとチップに分けることを同時に行う製法です。極薄のチップを割らずにつくる方法として使われています。
リンテックがこの工程向けにそろえるテープは、表面保護テープ、ピックアップテープ、ダイシング・ダイボンディングテープです。
装置では、BG用テープラミネーター「RAD-3500シリーズ」とマルチウェハマウンター「RAD-2510F/12Sa」を用意しています。
同社は、このウェハマウンターとディスコ製グラインダーをつないだインラインシステムで、ウェハ破損のリスクを下げ、極薄チップを安定して生産できると説明しています。
事例2:PCBLプロセス(2026年2月発表)
2026年2月に発表したPCBLプロセスは、テープと装置を一緒に設計する強みが分かりやすい例です。バンプ(接続用の突起)が付いたウェハは外周部に段差があり、そのまま削ると厚みがばらついたり、欠けや割れが起きたりします。
そこで、テープを貼る前にウェハの外周部へUV硬化型の樹脂を塗って段差を埋め、その上からBG用テープを貼って研削します。樹脂は研削後にテープを剥がすときに一緒に剥がれる仕組みです。
塗布を担う新装置「RAD-3400F/12」は、既存のテープ貼付装置「RAD-3520F/12」とインラインでつなげられます。同社は、従来のラインを大きく変えずに新しい工程を追加できるとしています。本格受注は2026年4月に始まりました。
このように、新しい材料やプロセスを出すたびに、それに合わせた装置を設計・評価する仕事が発生します。伊奈の開発エリアを広げる意味は、こうした顧客ごとの仕様に合わせた評価・検証を回す余力を増やすことにあると読めます。
業績から見る半導体関連事業の位置づけ
リンテックの2026年3月期の連結売上高は3,193億円、営業利益は251億円でした。事業は「印刷材・産業工材関連」「電子・光学関連」「洋紙・加工材関連」の3つのセグメントに分かれ、半導体関連のテープと装置は電子・光学関連に含まれます。
売上では3割強の電子・光学関連が、セグメント利益の約9割を占めています。
※出典:リンテック 2026年3月期 決算短信のセグメント情報から算出。電子・光学関連には積層セラミックコンデンサ関連テープや光学ディスプレイ用製品も含まれ、半導体関連だけの数字ではありません。
電子・光学関連の売上高は1,007億円(前期比4.6%増)、営業利益は221億円(同19.5%増)でした。売上の約3割で、セグメント利益の約9割を稼いでいる計算になり、利益率は2割を超えます。
会社全体の収益を支えているのがこの分野であることは数字から明らかです。
ただし、このセグメントには半導体以外の製品も含まれます。
中核のアドバンストマテリアルズ事業部門(売上928億円、前期比9.2%増)には、半導体関連の粘着テープと装置が含まれます。加えて、データセンターやスマートフォン向けに好調だった積層セラミックコンデンサ関連テープも入っています。
半導体単独の売上や利益は開示されていない点に注意が必要です。
同部門の内訳を見ると、2026年3月期は半導体関連粘着テープがAI関連の需要増加で好調だった一方、半導体関連装置は微減でした。
今回の開発棟は、その装置について会社が「需要の拡大が続く」と位置づけて開発力と生産能力を増強するものです。
足元の数字だけでなく、顧客の新しいパッケージ技術に合わせた装置の需要を先取りする投資と読むのが自然でしょう。
なお、2027年3月期の会社予想は売上高3,420億円(前期比7.1%増)、営業利益275億円(同9.3%増)です。
開発棟の背景にある2025〜2026年の半導体投資
伊奈の開発棟は単独の投資ではありません。リンテックはこの1年ほどで、材料の研究開発と装置の両方に続けて投資しています。製造業全体でも2026年度の設備投資計画は高い伸びが見込まれており、その中でも半導体関連は投資が集中しやすい分野です。
材料開発(さいたま・福岡)と装置(伊奈)を並行して強化しています。
- 次世代パッケージのコンソーシアム「JOINT3」に参画レゾナックが設立。パネルレベル有機インターポーザー向けの材料・装置・設計ツールを開発
- PCBLプロセスと新装置RAD-3400F/12を発表裏面研削時の厚みばらつきとクラックを抑える。4月に本格受注開始
- 研究所にアドバンストディベロップメントセンターを新設約16億円。ISOクラス5・7のクリーンルームでHBMやチップレット、ハイブリッドボンディング向け材料を評価
- 福岡県糸島市に「半導体ソリューションラボ」開設を決定約200億円、延床約5,000㎡、2028年10月開設予定。中間工程向けの材料や関連装置を開発
- 伊奈テクノロジーセンターの開発棟が竣工・稼働約25億円。装置の開発エリア約1.5倍、製造エリア約1.6倍(床面積比)
※出典:リンテック ニュースリリース各回
並べてみると、さいたまの研究所と福岡のラボは次世代パッケージに向けた材料とプロセスの開発を担っています。伊奈はその成果を顧客のラインで動かす装置の開発と製造を担うという分担が見えてきます。
福岡のラボでも「関連装置」の開発を視野に入れており、材料と装置を一組で出す考え方は新しい拠点にも引き継がれています。
HBM(高帯域メモリー)やチップレットのように、複数のチップを薄くして積み重ねたり並べたりする技術では、研削・切断・接合の工程がより繊細になります。
こうした先端パッケージの拠点づくりは国内でも進んでおり、液晶工場をAI半導体向け基板の拠点に転用する動きもその一つです。
取引先から見た開発棟の意味

最後に、開発棟の稼働が周りの企業や人にとって何を意味するのかを整理します。会社の発表で確認できることと、今後注目したい点は分けて考えておくのが安全です。
発表で確認できる事実と、そこから注目したい点です。
※「注目点」は発表内容から考えられる見どころで、会社が公表した計画ではありません。
後工程の量産を担うメーカーや、半導体パッケージ基板メーカーにとって、リンテックは新しいパッケージ構造に合わせた貼付・剥離の条件を相談できる相手です。その相手の評価体制が広がることになります。
FC-BGA基板大手の新光電気工業の事業と投資のように、パッケージ側の投資も続いており、材料と装置の評価を早く回せるかどうかは取引先にとっても重要です。
装置メーカーとしてのリンテックに部品やユニットを納める企業にとっては、製造エリアの拡大は取引量が増える可能性を示します。ただし生産台数の計画は公表されていないため、実際の発注の動きで確かめるのが現実的です。
働く場として見ると、リンテックの装置開発は機械・電気・ソフトウェア設計の技術者が少人数のチームで一つの装置を担当し、素材と組み合わせた提案まで関わる仕事です。
既存装置の改良から始めて新規開発へ進むキャリアが紹介されており、研究開発の仕事の流れと比べると、顧客の工程に近いところで手を動かす色合いが強い職種といえます。
まとめ
- リンテックは伊奈テクノロジーセンターに約25億円の開発棟を建て、2026年10月に稼働させた
- 開発・設計を新棟に移し、既存棟を製造に回すことで、開発エリア約1.5倍・製造エリア約1.6倍(床面積比)になる
- 伊奈は裏面研削・切断工程で使う特殊粘着テープの貼付・剥離装置を開発・製造する拠点
- テープと装置を組み合わせることで、DBGやPCBLのような新しい工程を一組で提案できる
- 電子・光学関連は売上の約3割でセグメント利益の約9割を占め、材料と装置の両面で投資が続いている
リンテックの開発棟は、粘着材メーカーが材料だけでなく「材料の使い方」まで含めて売る姿勢を、拠点の形で示した投資といえます。業界の全体像は電子部品・半導体業界の主要企業と勢力図、製造の基本は半導体製造の仕組みもあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(11件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 開発棟の概要・目的:リンテック ニュースリリース「伊奈テクノロジーセンターに新棟を建設」(2026年9月29日)
- 各階の用途・太陽光パネル:ニュースイッチ(日刊工業新聞)「延べ床面積約3600㎡・投資額約25億円…リンテックが新棟、半導体装置の開発力向上」
- 拠点の開設年・業務:リンテック「工場・研究所概要」
- 業績・セグメント情報:リンテック「2026年3月期 決算短信」(2026年5月8日)
- 事業の説明:リンテック「教えて!リンテック」、リンテック採用サイト「装置開発」
- テープ・装置の製品区分:Adwill テープ、Adwill 装置、Adwill 先ダイシングプロセス関連製品
- PCBLプロセス:リンテック ニュースリリース(2026年2月18日)
- JOINT3参画:リンテック ニュースリリース(2025年9月3日)
- アドバンストディベロップメントセンター:リンテック ニュースリリース(2026年6月8日)
- 半導体ソリューションラボ:リンテック ニュースリリース(2026年8月4日)
- チップ裏面保護テープの特許訴訟:リンテック ニュースリリース(2026年9月28日)
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