サバテサイクルとは?オットー・ディーゼルとの違いとP-v線図、熱効率の式

試験台に据え付けられた産業用ディーゼルエンジン

サバテサイクルは、燃料の熱を「体積一定」と「圧力一定」の2段階で受け取る内燃機関の理論サイクルです。複合サイクルとも呼ばれ、オットーサイクルとディーゼルサイクルを1つにまとめた形をしています。

この記事を読むと、5つの過程、P-v線図とT-s線図の読み方、熱効率の式の導き方、オットー・ディーゼルとの違いまでが1本でつかめます。効率の順位が比較の条件で入れ替わる理由も、計算した数字で確かめます。

目次

サバテサイクルとは

作業台に置かれた使用済みのピストンとコンロッド、シリンダー

サバテサイクルとは、断熱圧縮のあと、等容受熱と等圧受熱の順に熱を受け取り、断熱膨張と等容放熱で元に戻る5過程のサイクルです。複合サイクルとも書かれ、英語ではdual cycle(二重サイクル)やlimited pressure cycle(圧力制限サイクル)と呼ばれます。

受熱のうち体積一定の部分だけにすればオットーサイクル、圧力一定の部分だけにすればディーゼルサイクルになります。2つのサイクルはサバテサイクルの特殊な場合なので、1つの式でまとめて扱えます。

比べる点オットーサバテディーゼル
受熱の仕方等容のみ等容+等圧等圧のみ
過程の数454
主な説明対象ガソリンエンジン高速ディーゼルエンジンディーゼルエンジン
効率を決める値ε、κε、ξ、ρ、κε、ρ、κ
サバテの式との関係ρ=1の場合一般形ξ=1の場合
線図の頂点高くとがる途中で平らになる平らで最も低い

理論サイクルは、実際の燃焼を単純な加熱に置き換えて計算できる形にしたものです。この記事の式は「空気標準」と呼ばれる次の前提に立っており、実機の熱効率とは数字が合いません。

  • 作動流体は理想気体の空気で、比熱は一定とする
  • 各過程は損失のない可逆変化とする
  • 燃焼は外からの加熱に、排気は外への放熱に置き換える

図1:シリンダーの中で起きること

受熱が2段階に分かれる点が、サバテサイクルの特徴です。

1→2 断熱圧縮空気を圧縮2→3 等容受熱体積は一定3→4 等圧受熱圧力は一定

※理論上の動きを表した模式図です。番号は図2・図4の状態点と同じです。

オットー・ディーゼルとの違い

3つのサイクルの差は、圧縮のあとに熱をどう受け取るかの1点だけです。断熱圧縮、断熱膨張、等容放熱はすべて共通なので、受熱の形を見れば線図の違いも効率の違いも説明できます。

図2:3サイクルのP-v線図を重ねる

圧縮比と受熱量をそろえると、サバテはオットーとディーゼルの間の形になります。

Pv23451破線 オットー太線 サバテ細線 ディーゼル

※圧縮比6、受熱量800kJ/kg、κ=1.4で描いた比較用の図です。サバテは受熱を等容と等圧に半分ずつ配分しています。番号はサバテの状態点です。

オットーサイクルとの違い

オットーサイクルは、上死点で全部の熱を一瞬で受け取ると考えます。同じ圧縮比と受熱量ならサバテより効率は高くなりますが、そのぶん圧力と温度の頂点が高くなり、線図は縦に細長くなります。

ディーゼルサイクルとの違い

ディーゼルサイクルは、ピストンが下がる間に圧力一定で全部の熱を受け取ります。圧縮直後の圧力がそのまま最高圧力になるため、線図は頭が平らで、サバテのように縦に立ち上がる部分がありません。

サバテサイクルの圧力は、等容受熱で一度上がったあと横ばいになります。最高圧力に上限を設けて、その範囲で熱を入れる形だと読むと、英語名のlimited pressure cycleの意味もつかみやすくなります。

5つの過程とP-v線図・T-s線図

サバテサイクルは、状態1から出発して5の過程を順に通り、状態1へ戻ります。番号の振り方は教科書によって異なるため、問題を解くときは線図のどの点を指すかを先に確かめてください。

図3:サバテサイクルの5つの過程

オットー・ディーゼルと違うのは、2番目と3番目の受熱です。

011→2 断熱圧縮熱の出入りなしで圧縮。温度と圧力が上がる
022→3 等容受熱体積一定で熱を受ける。圧力が急に上がる
033→4 等圧受熱圧力一定で熱を受ける。体積が増える
044→5 断熱膨張熱の出入りなしで膨張し、外へ仕事をする
055→1 等容放熱体積一定で熱を捨て、状態1に戻る
結果1周で得る仕事受熱量Q1から放熱量Q2を引いた分

P-v線図(縦軸が圧力、横軸が比体積)では、等容受熱が垂直線、等圧受熱が水平線として現れます。線で囲まれた面積が1サイクルで取り出せる仕事で、これは受熱量Q1と放熱量Q2の差に等しくなります。

T-s線図(縦軸が温度、横軸がエントロピー)では、断熱の2本が垂直線になります。等容変化より等圧変化のほうが曲線は緩やかで、これは定圧比熱が定容比熱より大きいためです。この差は定圧比熱と定容比熱の違いとして整理できます。

図4:サバテサイクルのP-v線図とT-s線図

色を変えた区間が受熱で、どちらの線図でも2段階に折れて見えます。

Pv23451Q1(等容+等圧)囲む面積=仕事

P-v線図

Ts12345等圧は緩やか等容は急

T-s線図

※形を見やすくするため、圧縮比6、ξ=1.7、ρ=1.5、κ=1.4で描いています。T-s線図で線に囲まれた面積も仕事に対応します。

熱効率の式と導出

式に入る前に、記号をそろえます。本記事の記号は当サイトのオットー・ディーゼルの記事に合わせており、英語の教材を読むときは右の列の記号に読み替えてください。

記号意味定義英語教材の例
ε圧縮比v1/v2r
ξ圧力上昇比(圧力比)P3/P2rp
ρ締切比v4/v3rc
κ比熱比cp/cvk、γ

サバテサイクルの理論熱効率は、この3つの比と比熱比κだけで決まります。式の形を見ると、圧縮比εを上げるほど効率が上がり、締切比ρを大きくすると下がるという傾向も読み取れます。

図5:サバテサイクルの熱効率の式

ξとρを1にすると、オットーとディーゼルの式がそれぞれ出てきます。

η=1−(1/εκ−1)×(ξρκ−1)/{(ξ−1)+κξ(ρ−1)}

どちらかの比を1にする
ξ=1ディーゼルサイクル
η=1−(1/εκ−1)×(ρκ−1)/{κ(ρ−1)}
ξ>1、ρ>1サバテサイクル
受熱を2段階に分ける一般形
ρ=1オットーサイクル
η=1−1/εκ−1

温度を順に追って導く

導出は、状態1の温度T1を基準に各点の温度を順に表すだけで進みます。断熱変化ではTvκ−1が一定、等容変化では温度が圧力に比例、等圧変化では温度が体積に比例する関係を使います。

  • 1→2 断熱圧縮:T2=T1εκ−1
  • 2→3 等容受熱:T3=ξT2
  • 3→4 等圧受熱:T4=ρT3
  • 4→5 断熱膨張:T5=T4(ρ/ε)κ−1=T1ξρκ

受熱量は2回分の合計でQ1=cv(T3−T2)+cp(T4−T3)、放熱量はQ2=cv(T5−T1)です。熱効率はη=1−Q2/Q1なので、ここに上の温度を代入してcp/cv=κで整理すると、図の式になります。

T5がT1ξρκとεを含まない形になるのが、導出の山場です。ξとρを固定すれば放熱の温度は圧縮比に左右されず、圧縮比の効果は受熱量に含まれるT2を通して効率に現れます。

計算例で確かめる

方眼ノートと関数電卓、エンジンのバルブが並ぶ机の上

圧縮比ε=16、圧力上昇比ξ=1.5、締切比ρ=1.5で計算してみます。吸入の状態はP1=0.1MPa、T1=300Kとし、空気の物性はκ=1.4、cv=0.718kJ/(kg・K)、cp=1.005kJ/(kg・K)とします。

図6:熱効率の計算手順

温度を順に出せば、途中の値を確かめながら熱効率までたどり着けます。

01条件ε=16、ξ=ρ=1.5、T1=300K、κ=1.4
02温度T2=909K、T3=1364K、T4=2046K、T5=794K
03受熱量Q1=0.718×455+1.005×682=1012kJ/kg
04放熱量Q2=0.718×494=355kJ/kg
05仕事と熱効率W=1012−355=657kJ/kg、η=約65%
06検算T5/T1=ξρκ=2.65。式に入れても約65%

※途中の値は四捨五入しています。空気標準の計算で、実機の温度・圧力とは一致しません。

温度から求めたη=1−355/1012は約65.0%で、熱効率の式に数値を入れた結果とも一致します。受熱量のうち等容側は約32%で、残りを等圧側で受け取っている計算です。

最高圧力は等容受熱の終わりの7.28MPaで、平均有効圧力(1サイクルの仕事を行程容積で割った値)は約0.81MPaになります。数字を自分で追うと、どの比がどの状態点に効くのかが分かり、式の暗記に頼らずに済みます。

どのサイクルが高効率か(比較条件で順位が入れ替わる)

「効率が高いのはオットー」とだけ覚えると、ディーゼルエンジンの燃費がよい理由を説明できません。答えは何をそろえて比べるかで逆になります。受熱量を1500kJ/kgにそろえ、サバテは等容と等圧に半分ずつ配分して2つの条件で計算しました。

図7:比較条件を変えると順位が逆になる

同じ受熱量1500kJ/kgで、何をそろえるかだけを変えた理論熱効率です。

条件A:圧縮比を16にそろえる

オットー
67.0%(最高圧力16.0MPa、最高温度2999K)
サバテ
65.8%(最高圧力10.4MPa、最高温度2700K)
ディーゼル
58.4%(最高圧力4.9MPa、最高温度2402K)

条件B:最高圧力を10MPaにそろえる

ディーゼル
67.3%(圧縮比26.8)
サバテ
65.3%(圧縮比15.5)
オットー
61.0%(圧縮比10.5)

※当サイトの試算。P1=0.1MPa、T1=300K、κ=1.4、cv=0.718、cp=1.005kJ/(kg・K)の空気標準で、条件Bの圧縮比は計算上の値です。

圧縮比をそろえると、順位はオットー、サバテ、ディーゼルの順です。高温の側でより多くの熱を受け取るサイクルほど、同じ受熱量に対して捨てる熱が少なくなるためで、代わりにオットーの最高圧力は16.0MPaまで上がります。

最高圧力をそろえると順位は逆転します。ディーゼルは圧力の頂点を上げずに熱を受け取れるぶん、圧縮比を高く取れるからです。実機ではシリンダーやピストンの強度が圧力の上限を決めるため、設計の目線ではこちらの比較が現実に近くなります。

圧縮比を上げやすい理由は、燃料の扱いにもあります。ディーゼル機関は空気だけを圧縮するのでノッキングの心配がなく、カナダの大学の教材では圧縮比の典型値を、ディーゼル機関で12〜24、火花点火機関で7〜10としています。

同じ考え方はガスタービンのブレイトンサイクルにも通じます。理論サイクルの比較では、順位そのものより「何を固定した結果か」を確かめる習慣が役に立ちます。

実際のエンジンとの対応

手袋をした手で燃料インジェクタを持ちシリンダーヘッドの上で確かめる整備士

サバテサイクルが教科書で扱われる理由は、実際の燃焼に近いからです。定容だけ、定圧だけの加熱は単純化が過ぎるとされ、複合サイクルはガソリンとディーゼルの両方の燃焼をよりよく表すモデルと位置づけられています。

乗用車などの高速ディーゼルでは、燃料を上死点より前から噴射します。点火から上死点までがオットーのような定容加熱に、上死点以降が定圧加熱に当たるという説明が、自動車技術の解説でも使われています。

図8:ディーゼル燃焼の熱の出方と理論サイクル

急に燃える前半と、噴射に合わせて燃える後半が、2段階の受熱に対応します。

急に燃える山→ 等容受熱に対応噴きながら燃える山→ 等圧受熱に対応熱の出方クランク角上死点付近

※考え方を示す模式図で、実測値ではありません。山の高さや形はエンジンと運転条件で変わります。

等容側の燃焼がNOxと騒音を増やす

効率の面では等容の割合を増やしたくなりますが、ここに実機の難しさがあります。日本大学の研究報告によると、着火遅れの間に噴射された燃料が急に燃えるため、定容燃焼の期間にNOxと燃焼騒音が増えます。制御しにくいこの期間は、無制御燃焼期間と呼ばれます。

そこで「等容側の燃え方を制御する」研究が続いています。同大学の別の報告には、希薄な予混合気を先に燃やして定容燃焼とし、残った酸素で噴射燃料を燃やして定圧燃焼とする試みがあります。試験では、噴射時期が早いと急な圧力上昇でNOxが増える結果も出ています。

量産の例では、マツダが3.3Lディーゼルで採用したDCPCI(空間制御予混合燃焼)があります。同社の技報は、軽負荷に限られていた予混合燃焼を中高負荷まで広げたと説明しています。理論サイクルの言葉で考えると、熱の出し方を設計で作り込む取り組みと読めます。

理論値と実機の差

計算例の約65%は空気標準の値で、実機の効率とは別物です。条件が違うので単純には比べられませんが、マツダは3.3Lディーゼルの熱効率を40%超と公表しており、2ストロークの舶用ディーゼルでは50%超とする論文もあります。

差が生まれるのは、実際の内燃機関では燃焼ガスの性質が空気と違い、壁へ逃げる熱や摩擦もあるからです。理論サイクルは実機の効率を当てるものではなく、圧縮比や燃え方を変えたときの方向を見るものとして使うと、判断を誤りません。

サバテサイクルのよくある質問

サバテサイクルと複合サイクルは同じものですか?

同じものです。ほかに混合サイクル、英語ではdual cycle、Trinkler cycle、Seiliger cycleとも呼ばれます。発電所のガスタービンと蒸気タービンを組み合わせるコンバインドサイクルは別物なので、混同しないようにしてください。

サバテという名前の由来は何ですか?

フランスの技術者ルイ・ガストン・サバテ(Louis Gaston Sabathé)の名前から来ています。ディーゼル機関の登場後、定容と定圧を組み合わせる考え方について、トリンクラー、ザイリガー、サバテの3人がそれぞれ先取権を主張した経緯があり、国や文献によって呼び名が変わります。

等容と定容、定積は違うものですか?

どれも「体積が一定」という意味で、違いはありません。等圧と定圧も同じ関係です。教科書や試験によって表記が分かれるだけなので、等容受熱と定容加熱は同じ過程として読んでください。

平均有効圧力はどう求めますか?

1サイクルの仕事を行程容積で割って求めます。式にするとPm=P1εκ/{(κ−1)(ε−1)}×{(ξ−1)+κξ(ρ−1)−ε1−κ(ξρκ−1)}で、本文の計算例の条件を入れると約0.81MPaになります。

まとめ

この記事のまとめ
  • サバテサイクルは、等容受熱と等圧受熱の2段階で熱を受け取る5過程の理論サイクル
  • ρ=1でオットーサイクル、ξ=1でディーゼルサイクルの式に一致する
  • 熱効率はε、ξ、ρ、κの4つで決まり、ε=16、ξ=ρ=1.5、κ=1.4なら約65%
  • 同じ圧縮比ならオットーが高く、同じ最高圧力ならディーゼルが高い
  • 高速ディーゼルの説明に使われ、等容側の燃焼はNOxと騒音の課題にも関わる

理論サイクルの全体像は、基準となるカルノーサイクルと並べて読むと整理しやすくなります。エンジンや熱機器に関わる仕事に興味があれば、職種は機械設計、業種は自動車・輸送機器のページから関連記事もご覧ください。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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