フルヤ金属はなぜ話題?イリジウムで稼ぐ仕組みと新千歳工場の狙い

検査トレーに並ぶ白金族金属の小片と粉末の接写

2026年11月6日にフルヤ金属(7826)が発表した2027年6月期第1四半期(7〜9月)の決算は、営業利益が前年同期の約3.8倍の130.4億円でした。新千歳工場が操業前なのに利益が大きく伸びたことが、投資家の間で話題です。

利益を押し上げた中心は、イリジウムや白金でつくる単結晶育成用のるつぼ(電子部門)です。新千歳工場は半導体製造装置向けの温度センサーと石英保護管の工場で、2027年春の操業開始に向けて立ち上げている段階なので、今回の増益とは時期も事業も別の話になります。

目次
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フルヤ金属の第1四半期決算で何が話題になったのか

話題になったのは、売上高が前年同期比62.0%増の375.8億円、営業利益が282.4%増の130.4億円と、利益の伸びが売上の伸びを大きく上回ったことです。3か月で営業利益が通期予想265億円の約半分に達したため、数字の大きさが注目されました。

図1:第1四半期の売上高と営業利益(前年同期との比較)

売上高は1.6倍、営業利益は約3.8倍に伸びました。

単位:億円

売上高

前年 232.0
当期 375.8

営業利益

前年 34.1
当期 130.4

※前年=2026年6月期第1四半期(2025年7〜9月)、当期=2027年6月期第1四半期(2026年7〜9月)。売上高と営業利益は項目ごとに縮尺が違います。出典:同社 2027年6月期 第1四半期決算短信

主な数字と通期予想を表にまとめます。会社は2026年8月に出した通期予想を変えておらず、売上高1,010億円、営業利益265億円の計画のままです。

項目前年同期当第1四半期前年同期比通期予想進捗率
売上高232.0億円375.8億円62.0%増1,010億円37.2%
売上総利益44.5億円144.1億円223.7%増――
営業利益34.1億円130.4億円282.4%増265億円49.2%
経常利益33.6億円131.0億円290.2%増260億円50.4%
純利益23.3億円88.6億円280.6%増177億円50.1%
純利益は親会社株主に帰属する四半期純利益。進捗率は当第1四半期÷通期予想で計算。出典:同社 2027年6月期 第1四半期決算短信(2026年11月6日)

図2:通期予想に対する第1四半期の進捗

期間は4分の1が過ぎた段階で、営業利益は予想の約半分に届いています。

売上高(予想1,010億円)

37.2%

営業利益(予想265億円)

49.2%

※点線は期間の経過分(第1四半期=25%)。通期予想は2026年8月6日公表のもので、第1四半期決算でも修正していません。

ただし進捗率が高いからといって、通期予想を上回ると決まったわけではありません。会社は予想の前提を「現在の貴金属価格の水準」と1ドル155円に置いており、貴金属の相場や為替が動けば売上と利益の両方が変わる構造です。

同社は貴金属相場の高止まりが売上を押し上げた反面、調達コストの管理が重要な課題になったと決算短信で説明しています。

第1四半期はどの事業が伸びたのか

使用済みスパッタリングターゲットの金属表面の接写

いちばん伸びたのは電子部門で、売上高が19.5億円から105.3億円へ439.2%増えました。医療用シンチレーター(放射線で光る結晶)向けるつぼが堅調で、データセンター間の光通信に使うアイソレーター向けの結晶を育てるるつぼが、新しい販路も加わって大きく伸びました。

図3:セグメント別の売上高(第1四半期・前年同期との比較)

電子が5倍超に伸び、前年同期に大きかった「その他」はほぼなくなりました。

単位:億円

電子

前年 19.5
当期 105.3

薄膜

前年 26.5
当期 78.2

サーマル

前年 14.0
当期 22.6

ファインケミカル・リサイクル

前年 40.8
当期 75.7

サプライチェーン支援

前年 49.3
当期 93.9

その他

前年 81.9
当期 0.2

※全項目を同じ縮尺で表示。出典:同社 2027年6月期 第1四半期決算短信のセグメント情報

ほかの4事業もそろって伸びており、会社は決算短信で伸びた理由を次のように説明しています。

  • 薄膜(78.2億円、195.1%増):データセンター向けHDD(ハードディスク)用スパッタリングターゲットが好調で、半導体向けターゲットも伸びた
  • サーマル(22.6億円、61.3%増):半導体製造向けの交換需要に加え、装置メーカーと海外半導体メーカーの設備投資が好調
  • ファインケミカル・リサイクル(75.7億円、85.4%増):苛性ソーダ製造などの電極に使う貴金属化合物が好調
  • サプライチェーン支援(93.9億円、90.6%増):貴金属価格の上昇が背景

利益の伸びは電子とファインケミカルが大きい

同社はセグメントの利益を売上総利益で開示しています。売上総利益の増え方を事業別に並べると、電子が45.2億円、ファインケミカル・リサイクルが32.3億円増え、この2つで全社の増加分の大半を占めます。

図4:セグメント別の売上総利益(第1四半期・前年同期との比較)

売上ではサプライチェーン支援も大きいものの、利益を稼いだのは電子と化合物です。

単位:億円

電子

前年 3.2
当期 48.4

薄膜

前年 12.6
当期 35.3

サーマル

前年 4.1
当期 8.2

ファインケミカル・リサイクル

前年 9.3
当期 41.6

サプライチェーン支援

前年 4.5
当期 10.5

その他

前年 10.8
当期 0.0

※セグメント利益=売上総利益(同社の開示どおり)。全項目を同じ縮尺で表示。出典:同社 2027年6月期 第1四半期決算短信

サプライチェーン支援は、顧客の製品注文とは別に貴金属の原材料そのものを供給する事業です。売上は93.9億円と大きい一方で売上総利益は10.5億円にとどまり、相場が上がると売上が膨らみやすいが、利益への効き方は小さいことが数字から読み取れます。

前年同期には在庫からの貴金属販売が入っていた

図3の「その他」が81.9億円から0.2億円に減っているのは、前年同期だけの特殊な売上があったためです。決算短信の注記によると、前年同期は強い引き合いに応えるため、イリジウムとルテニウムを原材料在庫から売り、売上78.6億円・売上総利益10.4億円を計上していました。

つまり前年同期の売上232.0億円には、在庫の放出という一度きりの売上が3分の1ほど含まれていました。それを除いて比べると製品事業の伸びはさらに大きく、今回の増益は在庫の売却ではなく、るつぼやターゲットなど製品の受注から生まれたことがわかります。

海外売上高は265.8億円で全体の70.7%を占め、そのうち北米向けが121.8億円(海外の45.8%)でした。北米向けの多くは電子部門の90.4億円で、光ファイバ増産が相次ぐ理由と同じく、データセンター投資の拡大が光通信向けるつぼの出荷を押し上げています。

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フルヤ金属はどんな会社か|白金族金属を加工し、回収して再利用する

フルヤ金属は、イリジウム・ルテニウム・白金などの白金族金属(PGM)を、るつぼ・スパッタリングターゲット・熱電対・化合物に加工して売るメーカーです。使い終わったるつぼやターゲットを顧客から回収し、精製して再び材料に戻すところまでを1社で手がけます。

同社は材料をプラチナグループメタルの主要産出国である南アフリカの鉱山と直接契約して調達しており、調達から再利用まで循環させる仕組みを「リンクのビジネスモデル」と呼んでいます。

図5:調達から再利用まで回る「リンクのビジネスモデル」

鉱山からの調達と使用済み品の回収という2つの入口から材料を集め、加工して顧客へ届けます。

鉱山から調達加工・製品化顧客が使用回収・精製南アと直接契約再び材料へ結晶・HDD・半導体

※同社サイト「精製・回収」のビジネスモデルの説明をもとに作図。

事業は5つのセグメントに分かれています。2026年6月期の売上高は1,001.4億円で、5つの事業の規模と主な製品は次の図のとおりです。

図6:5つの事業と主な製品(2026年6月期の売上高)

売上はファインケミカル・リサイクルが最大で、電子は108億円規模です。

電子 108.1億円単結晶を育てるイリジウム・白金のるつぼ
薄膜 180.3億円HDD・半導体向けスパッタリングターゲット
サーマル 66.9億円半導体製造装置向けの熱電対・石英保護管
ファインケミカル・リサイクル 277.0億円電極・有機EL向けの貴金属化合物、回収精製
サプライチェーン支援 190.4億円製品注文とは別に貴金属原材料を供給

※5事業の合計は822.7億円。残りは報告セグメントに入らない「その他」の販売。出典:同社 2026年6月期 決算短信

業績はここ2年で大きく変わりました。2025年6月期の売上高は573.8億円でしたが、2026年6月期は1,001.4億円と74.5%増え、営業利益は95.4億円から247.9億円へ2.6倍になっています。

図7:年度ごとの売上高と営業利益の推移

2026年6月期に売上・利益とも大きく伸び、2027年6月期はその水準を保つ計画です。

売上高(単位:億円)

475.3
573.8
1,001.4
1,010
2024年
6月期
2025年
6月期
2026年
6月期
2027年6月期
(予想)

営業利益(単位:億円)

98.1
95.4
247.9
265
2024年
6月期
2025年
6月期
2026年
6月期
2027年6月期
(予想)

※薄い青は会社予想。出典:同社 2025年6月期・2026年6月期 決算短信

強みはイリジウム・ルテニウムを加工も精製もできること

耐火板の上に置かれた金属製るつぼとトング

フルヤ金属の強みは、加工が難しいイリジウムとルテニウムを製品に仕上げる技術と、使用済み品から高純度に取り戻す精製技術を両方持っている点です。同社はこの2つの技術を持つメーカーは「世界でも有数」と説明しています。

図8:フルヤ金属の3つの強み

同社は、加工・精製・調達の3つがつながっていることを強みとしています。

硬くて脆い金属の加工融点2,400℃超のイリジウムを鍛造・圧延・溶接し、るつぼや極薄板に仕上げる
鉱山並みのリサイクル能力イリジウム・ルテニウムを鉱山の年間産出量と同等以上リサイクルできる(同社説明)
鉱山との直接契約南アフリカの鉱山と直接契約し、希少な材料の調達ルートを確保

※出典:同社サイト「イリジウム加工技術」「精製・回収」

リサイクルの規模について同社は、イリジウムとルテニウムで「世界最大規模」のリサイクル能力を持ち、純度99.995%以上まで精製できるとしています。産出量が限られる金属では、回収して戻せる量がそのまま供給力になります。

イリジウムるつぼが単結晶づくりに欠かせない理由

るつぼは、原料を溶かして単結晶(原子の並びが全体でそろった結晶)を引き上げるための容器です。イリジウムは融点が約2,446℃と高く、溶けた酸化物と反応しにくいため、高い温度でも結晶を汚さずに育てられます。

一方で硬くて脆く、加工しにくい金属でもあります。同社は自動溶接と職人の手溶接を組み合わせて製品に仕上げ、強化イリジウムを使った長寿命のるつぼもそろえています。

図9:るつぼで育てる結晶と使われる製品

るつぼの先には、スマホ・医療機器・光通信の部品があります。

育てる結晶
使われる製品・決算での動き
タンタル酸リチウム
スマホの電波を選り分けるSAWフィルターの基板
2026年6月期にSAWフィルター用の機材需要が回復傾向
シンチレーター結晶
放射線を受けて光る結晶
医療用の単結晶育成装置向けるつぼが堅調
ファラデーローテーター結晶
光の向きを回す結晶。光アイソレーターの部品
データセンター間の光通信向けで受注が好調
サファイア・YAG・酸化ガリウム
LED基板、レーザー、次世代パワー半導体
同社サイトで育成対象として紹介

※出典:同社サイト「単結晶育成用ルツボ」、2026年6月期決算短信・2027年6月期第1四半期決算短信のセグメント別の説明

ルテニウムターゲットはHDDの記録層に使われる

スパッタリングターゲットは、金属の板に粒子をぶつけて飛び出した原子を基板に積もらせ、薄い膜をつくるための材料です。ルテニウムはHDDの磁気記録媒体で下地層に使われ、磁性層の結晶の向きをそろえて記録密度を上げる役割を持ちます。

同社は放電プラズマ焼結という方法で、純度99.999%のルテニウムターゲットをつくっています。AI向けにHDDの生産能力を2倍にする動きも出ており、大容量HDDの需要が薄膜部門を支えています。

新千歳工場は何をつくる工場か|操業開始は2027年春

作業台に並べた石英保護管と熱電対の細い素線

新千歳工場は、半導体製造装置で使う温度センサー(熱電対)と、それを守る高純度の石英保護管をつくる工場です。投資額は約45億円で、これらの生産能力を従来の約2倍に高めます。所在地は北海道千歳市の千歳流通業務団地内で、2010年からある千歳工場を移転・拡張しました。

図10:新千歳工場の着工から操業開始まで

竣工式は終わり、本格的な操業は2027年春の予定です。

2025年3月着工千歳流通業務団地内で建設開始
2026年7月〜9月竣工・竣工式7月に竣工し、9月14日に竣工式。延床面積は約6,400㎡
2026年秋〜2027年春稼働・操業開始秋に稼働し、2027年春に操業開始の予定

※出典:同社ニュースリリース「新千歳工場竣工式を実施」(2026年9月15日)

半導体の前工程には、ウエハを1,000℃を超える温度で酸化・熱拡散させる拡散炉があります。炉内の温度が製品の性能や歩留まりを左右するため、高温でも狂わずに測れる熱電対と、それを汚れから守る石英保護管が欠かせません。

図11:拡散炉の温度センサーをつくば工場と新千歳工場で一貫生産

つくばでつくる熱電対の素線と、新千歳で加工する石英保護管を組み合わせて完成品にします。

つくば工場新千歳工場拡散炉(1,000℃超)熱電対の素線石英保護管ウエハセンサー

※同社ニュースリリース(2026年9月15日)の説明をもとに作図。炉の形は模式図です。

素線にはつくば工場の「R-SP」という独自の製法を使い、従来のR熱電対と同じ測温精度のまま、高温での変形への強さ(クリープ強度)を約2倍にしています。新千歳工場はクリーンルームを備え、熟練者の火加工で石英保護管を仕上げます。

あわせて、拡散炉の熱効率を上げる新しい部材や、使用電力を減らす熱管理の機材を国内の装置メーカーと共同開発する予定です。つくば工場でひっ迫していた生産を移して集約し、災害時に互いに補い合うBCP(事業継続計画)の拠点にも位置づけています。

今回の増益と新工場の関係

新千歳工場が受け持つのはサーマル部門の製品で、第1四半期のサーマル部門の売上高は22.6億円と全体の6%ほどです。今回の増益の大部分は電子とファインケミカル・リサイクルから生まれており、新工場の効果が数字に出るのは操業開始後になります。

一方で、第1四半期末の貸借対照表では建設仮勘定が21.9億円、機械装置が13.8億円増えており、設備への投資は進んでいます。同社は、北海道・千歳市が目指す「北のシリコンバレー」の形成に向け、関連企業と連携し、地元の積極的な雇用と人材育成も進めるとしています。

フルヤ金属のよくある質問

フルヤ金属の決算期はいつですか?

6月決算で、7月から翌年6月までが1年度です。第1四半期は7〜9月で、2026年11月6日に発表されたのは2027年6月期の第1四半期決算です。

フルヤ金属の本社と工場はどこにありますか?

本社は東京都豊島区にあり、主な生産・開発拠点として茨城県のつくば工場と土浦工場、北海道の千歳工場を持っています。千歳の拠点は新千歳工場へ移転・拡張し、2027年春に操業を始める予定です。

グリーン水素向けのイリジウム触媒の増産はどうなりましたか?

同社は土浦工場で水電解装置向けイリジウム触媒を年2GW相当つくる設備を計画していましたが、2025年8月に水素市場の変化を理由に投資を見合わせました。当面は既存の設備で需要に応え、市場拡大が見えた時点で投資するとしています。

苛性ソーダの製造に貴金属が使われるのはなぜですか?

水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)は食塩水の電気分解でつくり、その電極に貴金属の化合物が使われます。同社のファインケミカル・リサイクル部門は、この電極向け化合物の好調を第1四半期の伸びの理由に挙げています。

まとめ

この記事のまとめ
  • 2027年6月期第1四半期は売上高375.8億円(62.0%増)、営業利益130.4億円(282.4%増)。通期予想は据え置き
  • 伸びの中心は電子部門のイリジウム・白金るつぼで、光通信用アイソレーター向けが好調。前年同期の在庫販売の反動を除くと製品事業の伸びはさらに大きい
  • フルヤ金属は白金族金属を加工して売り、使用済み品を回収・精製して戻す「リンクのビジネスモデル」の会社
  • 強みは加工の難しいイリジウム・ルテニウムの加工技術と、鉱山の年間産出量と同等以上のリサイクル能力(同社説明)
  • 新千歳工場は約45億円を投じた熱電対・石英保護管の工場で、2027年春に操業開始予定。今回の増益とは別の、これからの供給力の話

フルヤ金属のように白金族金属を扱う会社は、非鉄金属業界の中でも素材から部品までを手がける位置にいます。銅やニッケルを扱う大手との違いは、非鉄金属業界の主要企業と勢力図で比べられます。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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