水酸化ナトリウム(NaOH)の性質とは?潮解性・pH・危険性と工場での扱い

苛性ソーダの貯槽が並ぶ防液堤とタンクローリーの受入場

水酸化ナトリウム(NaOH)は、水によく溶けて強い塩基性(アルカリ性)を示す白色の固体で、工業の世界では「苛性ソーダ」と呼ばれています。酸の中和から紙・アルミニウム・化学品の製造まで、工場で最も多く使われるアルカリの一つです。

性質の芯は、空気中の水分を吸って自分から溶ける潮解性、水に溶けるときの大きな発熱、皮膚や眼のたんぱく質を侵す強さの3つです。工場には濃度48%などの液体がタンクローリーで届き、劇物として鍵のかかる貯槽で管理されています。

この記事では、組成式・式量・融点・溶解度・電離式・pH・危険性・別名という基本の性質を順に確かめ、製法と身近な利用に進みます。そのうえで、工場で使う製品の形と用途、劇物としての安全な扱い、配管やタンクの材質の選び方までを整理します。

目次

水酸化ナトリウムの性質

水酸化ナトリウムの性質は、ナトリウムイオンと水酸化物イオンが強く結びついた結晶であることと、水の中ではほぼ完全にイオンへ分かれることの2点から説明できます。まずは基本の数字を、単位と条件つきで押さえておきます。

図1:水酸化ナトリウムの基本データ

融点・沸点が高く、水にはとてもよく溶けるイオン結晶です。

式量 40.00Na 22.99+O 16.00+H 1.008。モル質量は 40.00 g/mol
融点 318℃常温では白色の固体。フレークや粒で流通する
沸点 1388℃イオン結合が強く、液体になっても簡単には気化しない
溶解度 109 g水100 mL に溶ける量(20℃)。空気中の水分でも溶ける

※融点・沸点・溶解度は ILO/WHO 国際化学物質安全性カード(ICSC 0360)。式量は原子量から計算。

一般的性質:白色の固体で、工業品の多くは液体

水酸化ナトリウムは常温で白色の固体で、においはありません。実験室ではフレーク状や粒状のものをよく使い、手に取るとすぐ表面が湿ってくるのは、後で説明する潮解性のためです。

工場で扱う水酸化ナトリウムは、多くが濃度50%前後の水溶液です。日本ソーダ工業会によると、か性ソーダの多くは50%の液体で出荷され、濃度96%以上の固形品(フレーク・粒・固形)は一部にとどまります。

固体として習う物質が、現場ではタンクと配管の中をほとんど液体として流れていて、濃度・温度・凍結の管理が仕事の中心になる点が、教科書との大きな違いです。

組成式:NaOH はイオン結晶

水酸化ナトリウムを表す NaOH は、分子式ではなく組成式です。二酸化炭素(CO2)や水(H2O)のように決まった数の原子がまとまった分子があるのではなく、ナトリウムイオン(Na+)と水酸化物イオン(OH−)が1:1の割合で並んだイオン結晶だからです。

OH− の中の酸素と水素は共有結合で結ばれ、そのかたまり全体が −1 の電荷を持っています。結晶の中では Na+ と OH− が電気の力(イオン結合)で引き合っているので、組成式は「どのイオンがどの比で含まれるか」だけを示します。

式量・モル質量

イオン結晶には分子がないので、分子量の代わりに組成式から求める式量を使います。原子量を概数の 23・16・1 で足すと 40 になり、より細かい原子量で計算しても 40.00 になるので、計算ではモル質量 40 g/mol として扱えます。

式量(原子量を足す)
NaOH = 22.99 + 16.00 + 1.008 = 40.00
Na:22.99 O:16.00 H:1.008(原子量)。モル質量は 40.00 g/mol で、NaOH 40 g がちょうど 1 mol にあたります。

沸点・融点

イオン結合は強い結合なので、イオン結晶の融点や沸点は一般に高くなります。水酸化ナトリウムの融点は318℃、沸点は1388℃で、融点を超えて溶けた状態でも、蒸発させるには千数百℃が必要です。

工業では、50%の水溶液をさらに煮詰めて水をほとんど飛ばし、溶けた水酸化ナトリウムを冷やし固めて固形品をつくります。このような300℃を超える溶融状態に耐えられる金属は限られており、材質の選び方は後の章で詳しく扱います。

溶解度と潮解性

水酸化ナトリウムは水によく溶け、20℃では水100 mL に約109 g が溶けます。水の重さより多く溶ける計算で、空気中の水蒸気を吸い取って、固体のまま置いておくと自分から溶けていきます。この性質を潮解性と呼びます。

潮解した表面は濃い水酸化ナトリウム水溶液なので、空気中の二酸化炭素も吸収します。二酸化炭素と反応すると炭酸ナトリウムに変わり、ふたを開けたまま置いた試薬や配管の漏れた跡には、白い粉のような炭酸ナトリウムが残ります。

二酸化炭素の吸収(中和)
2NaOH + CO2 → Na2CO3 + H2O
CO2 は水に溶けると酸としてはたらくので、塩基の NaOH と中和して炭酸ナトリウム(Na2CO3)と水になります。左右で Na 2個、C 1個、O 4個、H 2個がそろっています。

図2:固体の水酸化ナトリウムを空気中に置くと起きること

水分を吸って溶け、さらに二酸化炭素を吸って炭酸ナトリウムに変わっていきます。

固体の粒水分を吸って溶ける(潮解)炭酸ナトリウムが残る空気中の水蒸気空気中の CO₂NaOH濃い NaOH 水溶液Na₂CO₃

※固形品をビニル内張りの袋や密閉したドラム缶で保管し、液体の貯槽にふたをするのは、この吸湿と炭酸化を防ぐためです。

潮解性は、保管の決まりごとにも直結します。固形品はドラム缶やビニル内張りの紙袋に密封され、開けた後はすぐ閉じるのが基本で、吸湿すると濃度が変わり、塊になって計量もしにくくなります。

電離式

水酸化ナトリウムを水に溶かすと、結晶をつくっていたイオンがそのまま水の中に散らばります。水の分子がイオンを取り囲んで結晶からはがしていくので、溶けた水酸化ナトリウムはほぼすべてが Na+ と OH− に分かれています。

電離式
NaOH → Na+ + OH−
1 mol の NaOH から Na+ と OH− が 1 mol ずつできます。左右で電荷の合計はどちらも0です。

水溶液の液性:電離度がほぼ1の強塩基

水溶液に OH− が多いので、水酸化ナトリウム水溶液は塩基性(アルカリ性)を示します。溶けた量のほぼ全部が電離する、つまり電離度がほぼ1と見なせるので、水酸化ナトリウムは強塩基に分類されます。

アンモニアのように一部しか電離しない弱塩基と違い、同じ濃度でも OH− の量が多く、酸を中和する力が強くなります。工場で酸性の排水や排ガスを処理するときに、少ない量で確実に中和できる薬品として選ばれるのはこのためです。

塩基性の水は鉄をさびにくくする働きもあり、ボイラーの缶水も pH を高めに保って腐食を抑えています。どこまで上げるか、上げすぎると何が起きるかはボイラー水のアルカリ管理の考え方と共通しています。

pH の求め方

水溶液の中では、水素イオン濃度[H+]と水酸化物イオン濃度[OH−]の積が一定(水のイオン積、25℃で 1.0×10−14)です。水酸化ナトリウムは電離度が1なので[OH−]は溶かした濃度に等しく、そこから[H+]を求めて pH に直します。

① 水のイオン積(25℃)
[H+]×[OH−]= 1.0×10−14 (mol/L)2
② 1.0 mol/L(NaOH 40 g を溶かして 1 L にした液)
[H+]= 1.0×10−141.0 = 1.0×10−14 mol/L → pH 14
③ 0.10 mol/L と 0.010 mol/L
[H+]= 1.0×10−13 → pH 13 / [H+]= 1.0×10−12 → pH 12
pH = −log10[H+]。濃度が10分の1になるごとに pH は1ずつ下がります。電離度を1とし、イオンの濃度をそのまま使う理想的な計算です。

この計算が成り立つのは、薄い水溶液の場合です。濃度が数 mol/L を超える工業用の液では、イオンどうしの影響で実際の値が計算からずれていきます。pH 計のガラス電極も強アルカリでは誤差が大きくなるので、濃い液は pH ではなく比重や滴定で濃度を確かめます。

危険性:皮膚・眼を侵し、溶けるときに発熱する

強い塩基性を持つ水酸化ナトリウムは、皮膚や眼のたんぱく質を溶かし、重い化学やけどを起こします。厚生労働省のモデル SDS(安全データシート)では、皮膚腐食性と眼に対する重い損傷のどちらも、最も強い区分1に分類されています。

固体の粒や粉じん、液の飛まつが眼に入ると、短時間でも視力に関わる損傷になりかねません。保護めがねとゴム手袋は、少量の試薬を扱うときでも省けない装備で、ILO と WHO の安全性カードも保護手袋・保護衣と眼の保護を求めています。

もう一つの危険が、水に溶けるときの発熱です。固体 1 mol が多量の水に溶けると約44 kJ の熱が出るので、溶かす量が多いほど液の温度は大きく上がり、固体に少量の水を注ぐと局所的に沸騰して液が飛び散ります。

計算例:NaOH 40 g(1 mol)を水 1 kg に溶かすと何℃上がるか
ΔT = 44,400 J1,040 g × 4.18 J/(g·K) ≒ 約10 K(約10℃)
溶解熱 約44 kJ/mol(無限に薄めた場合の値。NIST・CODATA の生成熱から計算)。熱が外に逃げず、溶液 1,040 g の比熱を水と同じ 4.18 J/(g·K) と見なした概算です。濃い液をつくるときは、溶かす量に比例して上がり方も大きくなります。

そのため水溶液をつくるときは、先に水を用意して固体を少しずつ加え、かき混ぜながら溶かし、冷えてから目的の体積まで水を足します。工場で濃い液を薄めるときも同じ考え方で、熱の逃がし方は安全の章で扱います。

図3:現場で押さえる4つの性質とリスク

人へのリスク2つと、設備・保管で効いてくる性質2つに分けて覚えておきます。

皮膚・眼を侵すたんぱく質を溶かす化学やけど。GHS で皮膚腐食性・眼の重篤な損傷とも区分1
溶けるとき発熱する溶解熱は約44 kJ/mol。固体に少量の水を注ぐと沸騰して飛び散る
アルミ・亜鉛を溶かし水素を出すアルミニウム・亜鉛・スズ・鉛を腐食し、燃えやすい水素が発生する
水分と CO2 を吸う潮解して濃度が変わり、炭酸ナトリウムに変わる。密閉して保管する

※出典:ILO/WHO ICSC 0360、厚生労働省 職場のあんぜんサイト モデルSDS(水酸化ナトリウム)。

別名:苛性ソーダ・caustic soda

水酸化ナトリウムの別名は苛性ソーダ(か性ソーダ)です。「苛性」は皮膚などを侵す性質を表す言葉で、英語でも腐食性を意味する caustic を付けて caustic soda と呼びます。

「ソーダ」はもともと炭酸ナトリウムを指す言葉で、そこからナトリウム化合物の呼び名に広がりました。炭酸ナトリウムはソーダ灰、炭酸水素ナトリウムは重曹と呼ばれ、ソーダ灰をつくるアンモニアソーダ法(ソルベー法)も同じ「ソーダ」の仲間です。

元素記号の Na は、ナトリウムのラテン語名 natrium に由来します。英語では sodium と呼ぶので、化学名は sodium hydroxide(ソディウム・ハイドロキサイド)となり、海外の SDS や仕様書ではこちらの表記が使われます。

水酸化ナトリウムの製法

水酸化ナトリウムは、食塩水の電気分解でつくります。陽極では塩化物イオン(Cl−)が酸化されて塩素が、陰極では水が還元されて水素が発生し、液の中には Na+ と陰極で生まれた OH− が残ります。

食塩水の電気分解(全体)
2NaCl + 2H2O → 2NaOH + Cl2 + H2
陽極 2Cl− → Cl2 + 2e−、陰極 2H2O + 2e− → H2 + 2OH− を足し、両辺に 2Na+ を加えた式です。水酸化ナトリウム・塩素・水素が決まった比率で同時にできます。

ただし、陽極と陰極を仕切らずに電気分解を続けると、できた OH− が陽極側の塩素と反応し、残った食塩も混ざって純度が上がりません。工業では、陽イオンだけを通す膜で槽を仕切るイオン交換膜法が使われ、日本では1999年度にほぼ全量、2000年度に全量がこの方法になりました。

膜が Na+ だけを通す仕組み、実際の電解工場の工程、製品1 t あたりの電力の計算は、イオン交換膜法による食塩電解の記事で詳しく扱っています。電解槽から出た濃度30%余りの液を蒸気で濃縮したものが、次の章以降で扱う50%前後の製品です。

水酸化ナトリウムの利用

水酸化ナトリウムの使い道は、潮解性で水を取り込むこと、強い塩基として酸を中和すること、油脂やたんぱく質を分解することの3つの働きに整理できます。ここでは身近な例で化学的な働きを確かめ、工場での用途は次の章でまとめます。

まず乾燥剤としての使い方では、潮解性を利用して気体に含まれる水分を取り除きます。ただし潮解してできた液に溶けやすい気体は吸い込まれてしまうので、実際には酸化カルシウムと混ぜたソーダ石灰として使い、取り込んだ水を酸化カルシウムに受け持たせます。

酸化カルシウムが水を取り込む反応
CaO + H2O → Ca(OH)2
ソーダ石灰は二酸化炭素の吸収剤としても使われます。どの気体にどの乾燥剤を使えるかは、気体と乾燥剤の酸・塩基の組み合わせで決まります。

水酸化ナトリウムは塩基性の乾燥剤なので、使えるのはアンモニアのような塩基性の気体か、窒素や酸素などの中性の気体だけです。塩化水素や二酸化炭素のような酸性の気体は中和されて吸収されてしまうため、組み合わせの一覧は乾燥剤の選び方で確かめられます。

次に、安く手に入る強い塩基としての使い方です。浄水場や工場の排水処理では、酸性に傾いた水の pH を上げる調整剤として加え、塩酸との中和では食塩と水ができます。

パイプ用の洗浄剤にも水酸化ナトリウムを含む製品があり(成分は製品の表示で確かめます)、髪の毛や油汚れを分解して詰まりを取る働きを利用しています。

中和(塩酸と水酸化ナトリウム)
HCl + NaOH → NaCl + H2O
けん化(油脂から石けんをつくる)
(RCOO)3C3H5 + 3NaOH → 3RCOONa + C3H5(OH)3
R:炭化水素の鎖。油脂(脂肪酸とグリセリンのエステル)1 mol に NaOH 3 mol がはたらき、脂肪酸ナトリウム(石けん)3 mol とグリセリン 1 mol ができます。

油脂を水酸化ナトリウムで分解する反応はけん化と呼ばれ、固形石けんの多くは脂肪酸ナトリウムでできています。油汚れを落とすアルカリ洗浄も同じ働きを使ったもので、食品工場のタンクや配管の洗浄、金属部品の脱脂などに使われることがあります。

工場で使われる苛性ソーダの形と用途

工場では、水酸化ナトリウムを「苛性ソーダ」「か性ソーダ」と呼ぶのが一般的です。同じ物質でも、液体か固体か、濃度が何%かで、受け入れの設備・保管・薄め方・使う量の計算が変わるので、まず製品の形から見ていきます。

液体苛性ソーダ(48%・25%)と固形品

製造工場から出荷される主力は濃度50%前後の液体で、品質は日本ソーダ工業会の規格(JSIA 01 水酸化ナトリウム水溶液、JSIA 02 固形)で決められています。

流通では48%品と25%品が多く、自治体の浄水場や清掃工場の購入仕様書でも「液体苛性ソーダ(48%)、比重1.50」のように指定されています。

製品の形濃度・性状主な荷姿受け入れ・保管で効く違い
液体(工場出荷の主力)約50%の水溶液タンクローリー、タンク貨車、タンク船凝固点は約10℃。屋外の貯槽や配管は保温・加熱が要る
液体苛性ソーダ 48%48%、比重1.50(仕様書の例)ローリー、25 kg ポリ缶〜1,400 kg コンテナ受入配管は液抜きや保温で凍結を防ぐ。1 L に約18 mol を含む
液体苛性ソーダ 25%25%の水溶液20 kg ポリ缶〜1,200 kg コンテナ同じ NaOH の量で液の重さは48%品の約1.9倍。小口の中和・洗浄向け
固形(フレーク・粒・固形)96%以上ドラム缶、ビニル内張りの紙袋潮解するので密封。溶かすときの発熱に注意
出典:日本ソーダ工業会「ソーダ製品の説明」「Q&A」「製品規格」、吹田市「液体苛性ソーダ納入仕様書」、岩田商会の製品情報をもとに作成。荷姿・比重は供給元や納入条件で異なります

表の違いがいちばん効くのは冬場です。50%前後の液は10℃前後で結晶が出て固まり始めるため、屋外のタンクには保温材や加熱コイルを付け、受入配管は使い終わったら液を抜くか、配管の保温で温度を保ちます。

中和剤の注入量を決めるときは、濃度を mol/L に直しておくと計算が楽になります。48%品の場合は、比重から1 L の重さを出し、その48%を式量で割ると、1 L に含まれる水酸化ナトリウムの物質量が求まります。

計算例:48%品は何 mol/L か
1 L の重さ = 1,000 mL × 1.50 g/mL = 1,500 g
NaOH の物質量 = 1,500 g × 0.4840.00 g/mol = 約18.0 mol(1 L あたり)
比重1.50は仕様書の例です。液温や製品のロットで少し変わるので、実際の管理では納入時の分析票の濃度・比重を使います。

取引や統計では、液体でも固形でも濃度97%に換算した重さで数えるのが慣例です。日本ソーダ工業会によると、昔の主力だった固形品の97%品の建値に合わせて液体も売られた名残で、自治体の購入仕様書が数量を「固形換算」で書くのも同じ考え方です。

化学品・紙パルプ・アルミナ・排水中和・洗浄

苛性ソーダの用途は、ほかの化学品の原料や反応の調整に使う分がいちばん多く、世界でも化学品の製造が主な用途で、紙パルプがそれに続くとされています。日本ソーダ工業会も、アルミニウム、化学繊維、石けん・洗剤、パルプ、上下水道・排水処理を主な用途に挙げています。

図4:苛性ソーダの主な用途と、加える目的

どの用途でも、強い塩基として「溶かす」「中和する」「分解する」のどれかを担っています。

化学品ナトリウム塩の原料、反応の中和・pH 調整、化学繊維・セロハン
紙パルプ木材チップを煮てリグニンを溶かし、繊維を取り出す。漂白にも使う
アルミナボーキサイトのアルミナ分を熱い液に溶かし、不純物と分ける
排水・排ガス酸性の排水を中和し、排ガスの酸性成分を洗い取る

※国内の用途は日本ソーダ工業会による。

紙パルプでは、木材チップを水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムの混合液(白液)で150〜190℃に加熱し、繊維をつなぐリグニンを溶かすクラフト法が主流です。使い終わった液(黒液)は燃やして薬品を回収し、生石灰で再び白液に戻すので、苛性ソーダは工場の中を循環しながら使われています。

アルミナの製造では、熱い水酸化ナトリウム溶液にボーキサイトのアルミナ分を溶かし、溶けない赤泥を取り除いてから水酸化アルミニウムを析出させます。このバイヤー法の流れと、アルミナからアルミニウムを得る電解はアルミニウム製錬の記事で扱っています。

排水処理では、酸性の排水に液体苛性ソーダを少しずつ注入し、pH 計で見ながら放流の基準に合わせます。必要な量は、中和する酸の物質量から見積もれます。

計算例:pH 2 の酸性排水 1 m³ を中和するのに要る48%品の量(概算)
H+ の物質量 = 0.010 mol/L × 1,000 L = 10 mol → NaOH も 10 mol = 400 g
48%品の重さ = 400 g0.48 ≒ 833 g → 体積 = 833 g1.50 g/mL ≒ 約0.56 L
前提:酸は塩酸のような強酸だけで、[H+]=0.010 mol/L(pH 2)、中和点まで。実際の排水には金属イオンや弱酸など pH の変化を和らげる成分が含まれ、必要量はこれより多くなるので、設備の設計では排水を採って滴定し、注入量を決めます。

排ガスの処理では、塩化水素や二酸化硫黄などの酸性ガスを、苛性ソーダを循環させた洗浄塔(スクラバー)で吸収します。

食品・医薬の工場では、タンクや配管を分解せずに洗う定置洗浄(CIP)で、水酸化ナトリウム系のアルカリ洗浄剤が使われることがあります。油脂やたんぱく質の汚れを分解して落とす働きを利用したもので、濃度や温度は洗浄剤メーカーの指定に従います。

日本の生産と需給

苛性ソーダの国内生産量は、取引先の産業の動きを映す数字として化学業界でよく参照されます。日本ソーダ工業会の統計では、2025年度の生産は約374万t(97%換算)で、国内の電解ソーダ工業は22社29工場で構成されています。

図5:苛性ソーダの国内需給(2025年度)

生産の約4分の1が輸出され、国内需要の3分の1は同じ会社の中で使われています。

生産国内需要輸出約374万t約284万t約92万t自家消費販売自家消費 約94万t + 販売 約191万t(97%換算、四捨五入のため合計は一致しないことがあります)

※出典:日本ソーダ工業会「カセイソーダ生産・出荷・在庫」の令和7年度計。生産 3,741,908 t、国内需要 2,842,713 t(自家消費 935,356 t、販売 1,907,357 t)、輸出 920,891 t。

国内需要のうち約94万tは、電解工場を持つ会社が自社や同じ敷地内の工場で使う自家消費です。苛性ソーダは塩素と決まった比率で同時にできるため、日本では塩素の需要に合わせて生産し、余る分を輸出に回して需給の釣り合いをとっています。

苛性ソーダを安全に扱う:劇物・SDS・保護具

劇物と SDS

水酸化ナトリウムと、それを5%を超えて含む製剤は、毒物及び劇物取締法の劇物です。日本ソーダ工業会の Q&A では、保管場所を鍵のかかる丈夫なものにし、ほかの物と区別して「医薬用外劇物」と表示することが求められ、運搬や廃棄にも同じ法律の決まりがかかります。

労働安全衛生法では、水酸化ナトリウムは容器に名称や危険性を表示し、譲渡や提供のときに SDS を渡す対象の物質です。職場で危険性を見積もって対策を決める化学物質のリスクアセスメントの対象にも入っています。

劇物かどうかは毒物及び劇物取締法の指定と製剤の濃度で決まり、表示・SDS・リスクアセスメントは安衛法の物質の指定で決まるので、2つの法律を分けて確かめます。

2024年4月に施行された労働安全衛生関係法令の改正で、保護具の着用と SDS への具体的な保護具の記載が求められるようになりました。日本ソーダ工業会は、苛性ソーダなどの SDS の参考モデルを2025年10月に改訂しています。

厚生労働省の皮膚等障害化学物質のリスト(2025年10月10日更新)にも、水酸化ナトリウムは皮膚刺激性有害物質として載っており、裾切値(対象になる含有率)は1%です。

購入する製品の SDS は供給元が出すものが正式で、自治体の購入仕様書でも契約時の提出が条件になっています。保護具の種類や材質は、この SDS の記載と作業の内容を突き合わせて選びます。

受け入れ・保管と保護具

ゴム手袋と保護衣で受入配管のフランジを確かめる作業者の手元

液体苛性ソーダの事故が起きやすいのは、タンクローリーから貯槽へ移す受け入れの場面です。日本ソーダ工業会は納入先に向けたチェックリストで、誤納入・漏えい・労災を防ぐための25項目を示しており、主なものは次のとおりです。

  • 受け入れの立会い、納品伝票と分析票の確認、受入口の施錠と品名の表示で、ほかの薬品の誤納入を防ぐ
  • 受入場所にアイシャワー・ボディシャワーと除害用の薬剤を置き、緊急連絡先を掲示する
  • 受入配管はフランジでつなぎ、しっかり固定して、着脱部の下に受け皿を置く
  • 48%苛性ソーダの受入配管は、液抜きや保温で凍結を防ぐ

作業者の保護具は、保護めがね(飛まつが多い作業では顔面シールド)、ゴム手袋が基本で、必要に応じてゴム長靴やゴム引きの保護衣を着けます。貯槽のまわりには、こぼれた液をすぐ洗い流せる大量の放水設備も必要で、工場の安全衛生の仕組みの中で点検します。

薄めるときの発熱と、アルミ・亜鉛からの水素

48%品を薄めて使う工場では、希釈の発熱が設備の温度条件を決めます。液を薄める操作では、水の中へ苛性ソーダをゆっくり加えて混ぜ、プレート式の熱交換器などで熱を取りながら連続的に薄めるのが一般的です。

見落としやすいのが、両性金属との反応です。水酸化ナトリウム水溶液はアルミニウムや亜鉛、スズ、鉛を溶かし、そのとき燃えやすい水素を出すので、アルミ製の容器や、亜鉛めっきした部品に苛性ソーダを触れさせてはいけません。

アルミニウムとの反応
2Al + 2NaOH + 6H2O → 2Na[Al(OH)4] + 3H2
亜鉛との反応
Zn + 2NaOH + 2H2O → Na2[Zn(OH)4] + H2
計算例:アルミニウム 1 kg が溶けたときの水素
1,000 g26.98 g/mol = 37.1 mol → H2 = 37.1 × 32 = 55.6 mol → 約1.2 Nm³
Na[Al(OH)4]:テトラヒドロキシドアルミン酸ナトリウム。Nm³ は0℃・1気圧の体積で、1 mol = 22.4 L として計算。水素は空気と混ざると広い濃度で燃えるので、閉じた容器やタンクの中にたまらないようにします。

亜鉛めっきの鋼材は鉄を亜鉛で守る材料なので、アルカリの液がかかる場所では、めっきが先に溶けて保護が失われます。トタンとブリキの違いで説明している犠牲防食の考え方が、苛性ソーダの前では逆に弱点になるわけです。

皮膚・眼に付いたときと、漏れたときの初動

ILO と WHO の国際化学物質安全性カードは、皮膚に付いたら汚れた衣類を脱ぎ、多量の水かシャワーで15分以上洗ってすぐ医師の手当てを受けるよう示しています。眼に入ったときは、まず数分間多量の水で洗ってから、医療機関で診てもらいます。

貯槽や配管から漏れたときは、保護具を着けた人だけが近づき、漏れを止めてから大量の水で薄めます。回収した液や廃アルカリは産業廃棄物なので、自社で処理するか許可を受けた処理業者に任せ、具体的な手順は事業所の緊急時の手順書に従います。

配管・タンクの材質とアルカリ応力腐食割れ

苛性ソーダの設備の材質は、濃度・温度・溶接や曲げで残った応力の3つの条件で決まります。常温の50%液なら炭素鋼でも扱えますが、温度が上がるほど腐食と割れの危険が増し、ステンレスやニッケルへの切り替えが必要になります。

炭素鋼の腐食と「アルカリ脆化」

ニッケル協会の材料選定の手引きなどによると、炭素鋼は温度と濃度が上がると鉄が苛性ソーダと直接反応して水素を出し、腐食が速くなります。

腐食速度は温度と濃度が高いほど大きくなり、具体的な値は手引きの図表で条件ごとに確かめます。常温では問題のない鋼の貯槽も、加熱コイルのまわりや濃縮工程では寿命が大きく縮みます。

もう一つの問題が、昔から「アルカリ脆化(苛性脆化)」と呼ばれてきた割れです。実体は引張りの応力と苛性ソーダの環境が重なって起きる応力腐食割れで、全体の腐食が目立たない条件でも、溶接部や曲げ加工した部分から突然割れが進みます。

そのため、苛性ソーダを扱う炭素鋼の機器は、溶接や冷間加工の後に熱処理で残留応力を取り除きます(応力除去、SR)。手引きには、温度と濃度の組み合わせで応力除去が要る範囲を示した図があり、設計ではこの図と社内の基準で、溶接後の熱処理の要否を決めます。

ステンレス・ニッケル・内張りの使い分け

304や316とその低炭素材(304L・316L)は、比較的低い温度(目安は65〜80℃以下)なら腐食速度が小さく、配管や熱交換器に使われます。ただし高温では濃度が低めの苛性ソーダでも応力腐食割れを起こすので、ステンレスの種類だけでなく使う温度の上限を確かめます。

図6:条件から考える苛性ソーダ設備の材料

濃度・温度・応力の条件を先に確かめてから、候補の材料を絞り込みます。

常温の50%液の貯槽応力除去した炭素鋼+内面のゴム・樹脂ライニング。鉄分の混入も抑える炭素鋼+内張り
低温域(目安は65〜80℃以下)の配管・熱交換器304L・316L。316 は孔食に強い。外面の塩化物による割れにも注意ステンレス
高温・高濃度(濃縮缶)73%までの濃縮はニッケル200、315℃前後を超える溶融品は低炭素のニッケル201ニッケル
溶接部・曲げ加工部炭素鋼は温度と濃度に応じて応力除去(SR)。割れの起点になりやすい応力を残さない

※ニッケル協会「Alloy selection for service in caustic soda」(第2版、2019年)、日本ソーダ工業会 Q&A をもとに作成。塩素酸塩などの不純物や温度の一時的な上昇でも条件は変わるため、実際の選定は設計基準と供給元の情報で確かめます。

濃縮工程のように高温で濃い苛性ソーダを扱う場所では、ニッケルが銀を除いて最も耐える金属とされ、73%までの濃縮缶にはニッケル200が標準的に使われます。315℃前後を超える溶融苛性ソーダでは、炭素が析出してもろくなるのを避けるため、低炭素のニッケル201を選びます。

50%液の貯槽は、応力除去した炭素鋼に内面塗装やゴムの内張りを施すのが一般的です。日本ソーダ工業会も、鉄製の貯槽で扱えるとしながら、内面をゴムや耐アルカリ性の樹脂で内張りするほうが安全だとしており、内張りは製品への鉄分の混入も防ぎます。

逆に、アルミニウムや亜鉛は苛性ソーダの配管・弁・計器の接液部に使えません。保全で部品を交換するときは、見た目が同じ継手でも材質の刻印や記録を確かめ、配管を開ける前には残った液の抜き取りと縁切りを済ませておきます。

水酸化ナトリウムのよくある質問

水酸化ナトリウムが皮膚や眼に付いたらどうすればよいですか?

皮膚は汚れた衣類を脱いで多量の水かシャワーで15分以上洗い、すぐに医師の手当てを受けます。眼に入ったときはすぐに多量の水で数分間以上洗い、医療機関で診てもらいます。付いた量が少なく見えても、自己判断で洗うのをやめないことが大切です。

苛性ソーダとソーダ灰・重曹の違いは何ですか?

苛性ソーダは水酸化ナトリウム(NaOH)、ソーダ灰は炭酸ナトリウム(Na2CO3)、重曹は炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)で、どれもナトリウム化合物ですが別の物質です。水溶液の塩基性は苛性ソーダが最も強く、劇物に指定されているのも苛性ソーダだけです。

水酸化ナトリウムの廃液はどのように処分しますか?

事業所から出る廃アルカリは産業廃棄物なので、自社で処理するか、都道府県知事の許可を受けた処理業者に委託します。毒物及び劇物取締法では、水で薄めて酸で中和し、多量の水で希釈する中和法が廃棄の方法として定められていますが、実際の処理は排水の基準と事業所の手順に従います。

苛性ソーダの「97%換算」とは何ですか?

液体や固形の苛性ソーダの量を、濃度97%の固形品に置き換えた重さで表す数え方です。かつての主力だった固形品の97%品の建値に合わせて液体も取引された名残で、日本ソーダ工業会の統計や市場の価格もこの換算で示されています。

まとめ

この記事のまとめ
  • 水酸化ナトリウム(NaOH、苛性ソーダ)は Na+ と OH− のイオン結晶で、式量40.00、融点318℃、沸点1388℃の白色の固体
  • 水100 mL に約109 g(20℃)溶け、潮解して空気中の CO2 も吸うので、固形品は密閉して保管する
  • 電離度がほぼ1の強塩基で、25℃の理想的な計算では 1 mol/L で pH 14、0.1 mol/L で pH 13
  • 皮膚・眼を侵し、溶けるときに約44 kJ/mol の熱を出し、アルミ・亜鉛を溶かして水素を出す。5%を超えるものは劇物
  • 工場には50%前後や48%・25%の液で届き、化学品・紙パルプ・アルミナ・排水処理に使われる。材質は濃度・温度・応力で選び、炭素鋼の溶接部は応力除去する

水酸化ナトリウムの性質は、潮解性が保管のしかたに、溶解熱が希釈の設備に、強い塩基性が保護具と材質の選び方につながっています。苛性ソーダを使う側の産業は化学業界のサプライチェーンで見渡せ、つくる側の工場は食塩電解の記事とあわせて読むと全体像がつかめます。

出典

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MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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