展示会やニュースで、人の形をしたロボットが箱を運んだり、ラインの横で部品をつかんだりする映像を見る機会が増えました。2026年9月に中国・合肥で開かれた世界製造業大会でも、ヒューマノイドロボットの実演が披露されました。
ただ、実際の工場で人型ロボットが担っているのは、今のところ「部品を取って、運んで、置く」といった限られた作業です。量産ラインで長期間の実績を公表した例はまだ少なく、多くは実証か、実証を終えて少しずつ台数を増やし始めた段階にあります。
この記事では、ヒューマノイドロボットが工場で注目される理由、2025〜2026年の主な動き、海外の工場実証で分かってきたことを整理します。続いて導入の課題と日本の現状を見たうえで、最後に自社工場で検討するときの判断ポイントをまとめます。
ヒューマノイドロボットが工場で注目される理由
ヒューマノイドロボットとは、頭・胴体・2本の腕・脚(または車輪の台車)を持ち、人に近い体格で動くロボットのことです。工場で使われてきた産業用ロボットは、床に固定したアームが決まった動作を高速で繰り返すのが基本でした。
これに対してヒューマノイドは、人が働く前提でつくられた通路や棚、作業台をそのまま使えることを売りにしています。設備を作り替えずに、人がやっていた作業の一部を肩代わりさせるという発想です。
ヒューマノイドは「現場を変えずに入れる」ことを狙った方式です。
※AMRは自律走行搬送ロボット。協働ロボットは柵を設けずに人のそばで使えるよう安全機能を備えたロボットアームです。
人向けにつくられた現場をそのまま使える
工場の多くの作業は、通路幅も棚の高さも、人が動くことを前提に決まっています。専用の自動化設備を入れると、レイアウト変更や治具の作り直しが必要になり、品種が多い工場ほど投資が回収しにくくなります。
人と同じ大きさで歩き、人と同じ高さの棚から箱を取れるロボットなら、既存の設備に大きく手を入れずに自動化の範囲を広げられる可能性があります。ヒューマノイドへの期待の中心はここにあります。
AIで「教え方」が変わりつつある
もう一つの理由はAIの進歩です。従来のロボットは、動作を一つずつプログラムで教える必要があり、作業が変わるたびに手間がかかりました。
近年は、人が遠隔操作した記録や映像を大量に集め、ロボット用の基盤モデル(多様な作業に使い回せる大規模なAIモデル)に学ばせる開発が進んでいます。
文章をつくる生成AIと同じく、大量のデータで汎用的な能力を身につけさせる考え方です。現代自動車グループは、新型のAtlasについて「多くの作業は1日以内で学習できる」と説明しています。
ただし、これはメーカーの公表値であり、現場ごとに検証が必要です。
人手不足と各国の政策
背景には、先進国に共通する製造業の人手不足があります。
国際ロボット連盟(IFR)は2025年7月にポジションペーパーを公表しました。その中で、多くの先進国が慢性的な人手不足と人口構成の変化に直面しており、汎用的な作業を担えるロボットへの需要があると整理しています。
政策面でも動きがあります。中国の工業情報化部は2023年11月に、人型ロボットの発展に関する指導意見を出しました。3C(電子機器)や自動車の分野で、モデルラインやモデル工場をつくる方針を示しています。
日本でも2026年3月に政府の「AIロボティクス戦略」がまとまり、人型を含む多用途ロボットの社会実装を後押しする方針が打ち出されています。
2025〜2026年の主な動き
ここ2年ほどで、ヒューマノイドをめぐる話題は「デモ映像」から「工場での実証と契約」へ移ってきました。主な出来事を時系列で並べると、次のようになります。
政策・実証・量産計画が、ここ1年で一気に増えています。
※各社の発表・公表資料をもとに作成。台数や時期は計画値を含みます。
特に大きな節目は、2025年11月に公表された2つの実績です。
BMWの米国スパータンバーグ工場でのFigure 02の実証と、物流大手GXOの拠点でのAgility RoboticsのDigitの稼働です。どちらも「実際の現場で、何か月も、どれだけの量をこなしたか」が数字で示された点に意味があります。
一方、2026年に入ってからの発表は、量産計画や導入目標など「これから」の話が中心です。
現代自動車グループは2028年までに年3万台を生産できる体制を目指すとしていますが、工場での本格導入は2028年以降の計画です。実績と計画を分けて読むことが、ニュースを見るときの基本になります。
工場実証で分かってきたこと

公表されている工場実証を見ると、ヒューマノイドに任されている作業には共通点があります。ここでは数字が詳しく公開されている事例を中心に見ていきます。
BMW:板金部品を治具にセットする作業
Figure AIは2025年11月、BMWのスパータンバーグ工場で11か月にわたって行った実証の結果を公表しました。担当したのは、プレスされた板金部品を取り、溶接用の治具(部品を決まった位置に固定する道具)にセットする作業です。
求められた条件は厳しく、1サイクル84秒のうち部品の投入に使えるのは37秒、置く位置の精度は5mm以内でした。1シフトあたり99%を超える成功率と、人の介入ゼロを目標に、平日の10時間シフトで運用されています。
量産ラインの条件のもとで、11か月の稼働実績が公表されました。
※Figure AI公表(2025年11月19日)。数値はメーカー発表によるもので、第三者の検証ではありません。
この実証で最も多く故障したのは前腕でした。3つの自由度(関節の動く向き)を持つ手首まわりに、モーター、放熱、配線を人の腕の太さで詰め込む必要がありました。動き続けることで、制御基板や配線に負担がかかったと説明されています。
後継のFigure 03では、手首の配電基板と、関節に合わせて曲がる配線をなくす設計に改めました。「人と同じ大きさ」という制約が、そのまま耐久性の弱点になりうることを示した事例といえます。
物流・部品供給:箱を運ぶ作業が先行
工場より一歩早く実績が積み上がっているのが物流です。
Agility RoboticsのDigitが働いたのは、米ジョージア州にあるGXOの物流拠点です。
AMRから箱を取り出してコンベヤに載せる作業や、トート(通い箱)の積み付けを担当し、2025年11月までに10万個を超えるトートを移動させました。
工場の中でも、部品を箱で供給する作業は物流に近い性格を持っています。
トヨタのカナダ工場(TMMC)は2026年2月、複数のロボットを評価したうえでDigitを選び、製造・サプライチェーン・物流の業務で使う契約を結びました。
メルセデス・ベンツもApolloを、ライン脇への部品搬送や組立キットの供給、部品の検査に使う試験を進めています。
現代自動車グループの計画も、2028年に部品の順建て(組立の順番に部品を並べる作業)から始め、組立は2030年からという段取りです。どの企業も、まず搬送・供給から入り、組立は後に回している点が共通しています。
実証に共通する作業の型
公表事例を並べると、ヒューマノイドが担っているのは「決まった場所から取り、少し運び、決まった場所に置く」作業です。つかむ対象の形がある程度そろっていて、失敗しても製品に大きな損害が出にくい工程が選ばれています。
「取る・運ぶ・置く」が中心で、判断や段取りは人に残っています。
※各社の公表事例(BMW、GXO、メルセデス・ベンツ、TMMC)をもとに整理。組立への展開は多くが2030年前後の計画です。
裏を返せば、これらの作業の多くは、従来の省人化の手段であるAGV・AMRや協働ロボットでも自動化できる可能性があります。ヒューマノイドを選ぶ意味が出るのは、既存の設備や通路の制約で、専用機を入れにくい場合に限られるのが現状です。

工場導入で見えてきた課題

実証の結果や各機関の整理から、工場導入の課題はおおむね技術・運用・制度の3つに分けられます。日本政府のAIロボティクス戦略も、導入コスト、巧緻動作(細かく器用な動き)、安全性の論証・認証などを複数分野に共通する課題として挙げています。
性能だけでなく、保守と安全の仕組みづくりが導入の壁になります。
※AIロボティクス戦略(2026年3月)の共通課題、各社の公表内容をもとに整理。
速度と稼働時間
量産ラインでは、決められたタクトの中で作業を終えることが絶対条件です。BMWの例では37秒以内に部品を置くことが求められ、実証を通じてこれに合わせ込んでいきました。人と同じ速さを安定して出せるかどうかは、工程ごとに確かめる必要があります。
稼働時間も課題です。報道によると、メルセデス・ベンツが試験しているApolloは1回の充電で約4時間動く仕様とされています。2交替や3交替の工場では、充電や電池交換の間をどう埋めるかまで設計しないと、人の代わりにはなりません。
壊れやすい部位と保守
BMWの実証で前腕が最大の故障箇所になったように、ヒューマノイドは限られた体積に多くの関節とモーターを詰め込んでいます。固定式のロボットアームに比べて部品点数が多く、転倒すれば破損の危険もあります。
工場側から見れば、故障したときにだれがどれくらいの時間で直せるのかが重要です。海外の導入例では、ロボットを購入せずにRaaSとして借りる契約が目立ちます。保守の責任をメーカー側に持たせる形は、導入初期のリスクを下げる手段の一つです。
安全規格はまだ整備途中
ヒューマノイドには、従来のロボットにない危険があります。脚で立つロボットは、常にバランスを取り続けて姿勢を保っているため、電源を失うと倒れてしまいます。固定式のアームや、止めればその場にとどまるAGVとは前提が違います。
こうしたロボットを対象とする国際規格ISO 25785-1(能動的に安定を保つ産業用移動ロボットの安全要求)は、2026年時点で作成中です。
産業用ロボットの規格ISO 10218は転倒しない機械を前提にしており、ヒューマノイドの安全を評価する物差しがまだそろっていないのが実情です。
日本の法令では、労働安全衛生規則第150条の4により、出力80Wを超えるモーターを持つ産業用ロボットは、柵などで人から隔離するのが原則です。
2013年の通達で、柵なしで使える条件が明確になりました。リスクアセスメントで危険のおそれがなくなったと評価できる場合や、ISO 10218に沿って設計・製造・設置したロボットを設計どおりに使う場合です。
ヒューマノイドを人のそばで使う場合も、この枠組みの中でどう評価するかを個別に詰める必要があります。
費用対効果の比べ方
ヒューマノイドの価格や利用料は、メーカーや契約形態によって大きく異なり、公表されている情報も限られています。比べるべきは本体価格だけでなく、次の要素を含めた総額です。
- 周辺設備
- 教示・学習にかかる手間
- 保守
- 稼働率
比較の相手は、人手だけではありません。同じ作業をAMRと協働ロボットの組み合わせで自動化した場合の費用とも比べる必要があります。「人型である必要があるか」を最初に問うことで、投資判断のぶれを減らせます。
日本の現状と政府の方針

日本は産業用ロボットの大国ですが、ヒューマノイドの工場導入では米国・中国が先行しています。
IFRのポジションペーパーも、日本ではヒューマノイドが研究や社会的な用途のプラットフォームとして捉えられてきたと整理しています。ただし、2026年に入って自動車メーカーの動きが目立ち始めました。
自動車メーカーの動き
三菱自動車は2026年7月、東京大学発のスタートアップHighlandersと基本合意書を結びました。ヒューマノイドの共同開発と、京都工場の遊休建屋を活用した量産化を協議し、2027年の早い時期の生産開始を検討するとしています。
注目したいのは、三菱自動車が自社工場でも使い、使用データと運用ノウハウをためるとしている点です。つくる側と使う側を同じグループで回すことで、現場に合った改良を早く進める狙いがあります。
トヨタも、ヒューマノイドの実用化はまず自社工場から始める計画を示しています。
部品メーカーの強み
日本が強みを持つのは、モーター、減速機、センサーといった部品です。
2025年7月には、早稲田大学、テムザック、村田製作所、SREホールディングスが「KyoHA(京都ヒューマノイドアソシエーション)」を設立しました。国内の部品技術を持ち寄って、ヒューマノイドのハードウェアを開発する取り組みです。
その後、マブチモーターなども参画しています。
完成品のヒューマノイドを使う側でなくても、部品や素材の供給先として、この市場の動きは多くの製造業に関わってきます。
AIロボティクス戦略
政府のAIロボティクス戦略は、2040年に60兆円規模とされる世界市場のうち20兆円規模の獲得を目標に掲げています。製造業(多品種少量生産)を含む18分野で、2040年までに1,000万台規模のAIロボットを国内に導入する計画です。
簡単な作業から先に実装し、器用さが要る作業は2030年頃以降に位置づけています。
※AIロボティクス戦略 概要(2026年3月26日、5月27日一部変更)をもとに作成。短期の共通タスクは点検・搬送を屋内と屋外で分けた計8つ。09は制度面の共通課題として挙げられている項目です。
戦略は人型に限らず、AIで動くロボット全般を対象にしています。それでも、搬送・ハンドリングを先に、指作業を後にという順番は、海外の工場実証で見られる流れとほぼ一致しています。

自社工場で検討するときの判断ポイント

ここまでの状況を踏まえると、多くの工場にとって今すぐヒューマノイドを量産ラインに入れるのは早いと考えられます。一方で、数年後に選択肢になったときに慌てないよう、判断の物差しを持っておく価値はあります。
まず既存の自動化で解けないかを確かめ、残った作業で検討します。
※判断の目安です。実際には安全要件、費用、保守体制を含めて個別に評価します。
「人型である必要があるか」から考える
ヒューマノイドの利点は、人向けの現場をそのまま使えることです。逆に、治具や搬送経路を変えられるなら、専用の自動化のほうが速く、安く、実績もあります。
省力化投資補助金などの支援制度も、まずは既存の自動化設備で使いやすい仕組みになっています。
ヒューマノイドを検討すべきなのは、品種や工程の変化が多く、設備を作り替えるたびに自動化が止まってしまう職場です。多品種少量の組立工場や、古い建屋で通路の広さを変えられない工場が当てはまりやすいでしょう。
実証をするなら評価指標を先に決める
BMWの例では、最初から次の評価指標が決まっていました。
- サイクルタイム
- 置く精度
- 成功率
- 介入の回数
自社で試すときも、何が達成できたら次に進むのかを先に決めておかないと、「動いたが使えるか分からない」で終わってしまいます。
人のそばで動かすなら、法令にもとづくリスクアセスメントは欠かせません。柵を設けない運用の考え方や安全要件は協働ロボットと共通する部分が多く、協働ロボットを導入した経験がある工場ほど準備を進めやすくなります。
今からできる準備
ヒューマノイドを入れるかどうかにかかわらず、今のうちに進めておける準備があります。どれも、ほかの自動化やAI活用にもそのまま役立つものです。
ヒューマノイドに限らず、次の自動化の土台になる取り組みです。
※展示会やメーカーの見学で情報を集める際も、この4点を持っていくと比較しやすくなります。
特に作業の棚卸しは、ヒューマノイドに向く作業と向かない作業を見分けるための出発点になります。展示会で見た動きが自社のどの工程に当てはまるのかを、具体的に考えられるようになるからです。
まとめ
- ヒューマノイドは、人向けの設備をそのまま使えることとAIによる学習に期待が集まっている
- 工場での公表実績は、BMWの11か月の実証など、取る・運ぶ・置く作業が中心
- 多くの企業が搬送・部品供給から始め、組立は2030年前後の計画に置いている
- 課題は速度・稼働時間・耐久性・保守・費用対効果と、作成中の安全規格
- 検討はまず既存の自動化で足りるかを確かめ、作業の棚卸しと評価指標づくりから始める
ヒューマノイドロボットは、展示会の華やかさに比べると、工場ではまだ実証の段階にあります。導入を検討する立場として関わるのは生産技術や設備保全の担当者で、日々の保守や安全の仕組みづくりが導入の成否を左右します。
工場全体の自動化やデータ活用の流れの中で位置づけたい場合は、スマートファクトリーの仕組みもあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(14件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 世界製造業大会の開催概要:共同通信PRワイヤー「2026世界製造業大会:製品展示から統合型製造エコシステムへ」(2026年9月24日)
- BMW工場での実証:Figure AI「F.02 Contributed to the Production of 30,000 Cars at BMW」(2025年11月19日)
- GXOでの稼働実績:Agility Robotics「Digit Moves Over 100,000 Totes in Commercial Deployment」(2025年11月20日)
- トヨタのカナダ工場との契約:Agility Robotics「Agility Robotics Announces Commercial Agreement with Toyota Motor Manufacturing Canada」(2026年2月19日)
- メルセデス・ベンツとApptronik:heise online「Humanoid robots: Mercedes-Benz invests millions in Apptronik」(2025年3月19日)、Apptronik「Apptronik Closes Additional Series A Funding」(2025年3月18日)、Apptronik「Apptronik and Mercedes-Benz Enter Commercial Agreement」(2024年3月15日)
- 現代自動車グループの計画:Hyundai Motor Group「AI Robotics Strategy to Lead Human-Centered Robotics Era at CES 2026」(2026年1月5日)
- 三菱自動車とHighlanders:三菱自動車工業 ニュースリリース(2026年7月9日)
- トヨタの開発方針:日経クロステック「トヨタがヒューマノイド開発の取り組み披露、実用化は自社工場から」(2026年6月2日)
- KyoHAの設立:テムザック「KyoHA(京都ヒューマノイドアソシエーション)設立」、マブチモーター「KyoHAへ参画」
- AIロボティクス戦略:内閣官房 AIロボティクスに関する関係府省連絡会議「AIロボティクス戦略 概要」(2026年3月26日、5月27日一部変更)
- 中国の指導意見:新華網「工業和信息化部印発《人形机器人創新発展指導意見》」(2023年11月3日)
- IFRの見解:International Federation of Robotics「Humanoid Robots: Vision and Reality Paper Published by IFR」(2025年8月14日)、International Federation of Robotics「New IFR position paper on humanoid robots published」(2025年7月17日)
- ISO 25785-1:ISO「ISO/CD 25785-1 Robotics — Safety requirements for dynamically stable industrial mobile robots」、i-SCOOP「ISO 25785-1 explained」
- 80W規制と通達:厚生労働省「産業用ロボットに係る労働安全衛生規則第150条の4の施行通達の一部改正について」(平成25年12月24日 基発第1224002号)
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