エクセルギー(有効エネルギー)とは、あるエネルギーが周囲の環境と釣り合うまでに、仕事として取り出せる最大の量です。
アネルギー(無効エネルギー)とは、その残りの、どうやっても仕事にできない部分で、エネルギー=エクセルギー+アネルギーの関係があります。
この記事では、2つの違いと式、蒸気と温水の計算例、エクセルギー効率と熱効率の違い、省エネでの使い方の順に整理します。
- エネルギーは、仕事にできるエクセルギーと、仕事にできないアネルギーの2つに分けて考えられる
- 熱から取り出せる仕事の上限はカルノー効率で決まり、熱のエクセルギーはE=Q(1−T0/T)で表せる
- 熱のエクセルギーの割合は熱の温度と環境の温度だけで決まり、温度が高い熱ほど大きい
内容は動画でも解説しています。
エクセルギーとアネルギーの違い
熱を与えて仕事をさせる熱機関を考えるとき、エクセルギーとアネルギーの考え方が欠かせません。
熱エネルギーは、すべてを仕事に変えられるわけではなく、仕事として有効に使える部分と、捨てざるを得ない部分に分かれ、前者がエクセルギー、後者がアネルギーです。
180℃の熱1,000 kJ(環境25℃)を、仕事にできる部分とできない部分に分けた例です。
※E=Q(1−T0/T) で計算(T=453.15 K、T0=298.15 K)。式は次の「エクセルギーとは」で説明します。
エクセルギーとは
「エクセルギー」は、ギリシア語の ex(外へ)と ergon(仕事)からできた言葉で、1956年に熱力学者ラント(Zoran Rant)が提案したとされます。
日本語では「有効エネルギー」とも呼び、ある系が周囲の環境と同じ状態(温度・圧力)になるまでに、外へ取り出せる最大の仕事のことです。熱 Q のエクセルギーは、熱の温度 T と環境の温度 T0 から次の式で計算できます。
例:180℃(453.15 K)の熱1,000 kJ、環境25℃(298.15 K)なら E=1,000×(1−298.15/453.15)≒342 kJ
(1−T0/T)は、後で出てくるカルノー効率と同じ形です。熱 Q を受け取り、環境へ熱を捨てる理想の熱機関が出せる仕事が、そのままエクセルギーになります。
電気エネルギーは、ほぼすべてがエクセルギーで、モーターを回せば、損失を除いてほとんどを仕事に変えられます。一方、熱エネルギーは捨てるしかない部分を多く含み、熱の省エネというときは、このエクセルギーを無駄なく使うことを指します。日本冷凍空調学会の解説でも「省エネルギーは省エクセルギー」と表現されています。
アネルギーとは
アネルギーは、仕事に変えられない「無効エネルギー」です。熱 Q のうち、エクセルギーを除いた残りがアネルギーになります。
例:上と同じ180℃の熱1,000 kJ なら A=1,000×298.15/453.15≒658 kJ(342+658=1,000)
環境と同じ温度の熱は、量がいくら多くてもすべてアネルギーで、T=T0 なら E=0 になります。大気や海水が持つ膨大な熱で発電できないのは、このためです。エクセルギーとアネルギーは、エネルギーを変換する設備が、エネルギーをどの程度有効に使えているかをはかる尺度として使われます。
2つには大きな違いがあり、エネルギーの総量は保存されますが、エクセルギーは摩擦や温度差のある熱移動などの不可逆な変化で減っていきます。減った分はアネルギーに変わり、エネルギーそのものが消えるわけではなく、失われるのは仕事に変えられる能力のほうです。
量としてのエネルギーと、その「質」を表す2つの量の違いです。
※T:熱の温度[K]、T0:環境の温度[K]。どちらも絶対温度で計算します。「保存されるか」は、やり取りする相手(環境)まで含めた全体で見たときの性質です。
熱のエクセルギーの割合は、熱の温度で大きく変わります。同じ1,000 kJ でも、温度が高いほど仕事にできる部分が増えます。
熱1,000 kJ のうち、仕事にできる量(環境25℃のとき)です。
※一定の温度で受け渡しする熱として E=1,000×(1−298.15/T) で計算した値です。残りがアネルギーです。
工場でよく使う蒸気と温水で比べてみると、流れている流体のエクセルギーは、エンタルピー h とエントロピー s を使って次の式で求められます。
h0・s0:環境(25℃・大気圧の水)の値。物性値は IAPWS-IF97 で計算
※1.0 MPa は絶対圧です。圧力計の読み(ゲージ圧)が1.0 MPa の蒸気は絶対圧約1.1 MPa・約184℃で、e≒832 kJ/kg になります
E=Q(1−T0/T) は、一定の温度で受け渡しする熱に使う式です。温度が変わりながら流れる蒸気や温水には、状態量から求める上の式を使います。
1 kg あたりでは、蒸気が温水の約43倍のエクセルギーを持ちます。同じ「熱」でも、温度の高い蒸気のほうが使い道の広い、質の高いエネルギーだと分かります。
環境省の資料では、この違いを持ち上げる高さで例えています。1 J のエネルギーで約100 g の物を持ち上げると、70℃のお湯で約7 cm、170℃の蒸気で約20 cm、電気で約1 m です。エンタルピーの意味と使い方は、エンタルピーとはで整理しています。
エクセルギー効率には限界がある
熱から仕事を取り出す効率には温度で決まる上限があり、これがエクセルギー効率を考えるときの出発点です。熱機関の良し悪しは、熱効率とエクセルギー効率の2つの物差しで表します。
2つは同じ意味で使われることがありますが、分母が違う別の指標です。熱効率は投入した熱に対する仕事の割合、エクセルギー効率は投入したエクセルギーに対する、取り出したエクセルギーの割合です。
Ein:投入したエクセルギー Eout:取り出した(回収した)エクセルギー
熱から取り出せる仕事の最大値は、あらかじめ決まっています。この最大の効率を「カルノー効率」といい、カルノーの定理は、次の2つでできています。
- 熱機関の最大効率は、作動物質によらず2つの熱源の温度だけで決まる
- 不可逆機関の効率は、可逆機関の効率より小さい
ここでいう「可逆機関」は、逆向きに動かしたとき、熱機関も周囲も元の状態に戻せる理想の機関です。熱から仕事を生んだのと同じだけの仕事で、同じ量の熱を高温側へ戻せます。
低温熱源を環境(T2=T0)にとると、カルノー効率で取り出せる最大の仕事は、熱のエクセルギーと同じ式になります。
温度さえ分かれば、その熱から取り出せる最大のエクセルギーを計算できます。実際に取り出せた仕事と比べれば、エクセルギー効率が出せます。カルノー効率の導出と4つの過程は、カルノーサイクルとはで詳しく説明しています。
500℃の熱 Q1 を受け取って仕事 W を出し、25℃の環境へ熱を捨てる熱機関の例です。
※入力は熱 Q1(エクセルギーは Q1×0.614)、出力は仕事 W(全部がエクセルギー)。熱効率40%は計算のための仮の値です。カルノー効率は 1−298.15/773.15 で計算しています。
エクセルギー効率の限界は、可逆な理想の機関での100%です。実際の機器では、摩擦、温度差のある熱移動、流体の混合や絞りでエクセルギーが失われ、100%には届きません。
失われる仕事の大きさは、不可逆な変化で生じたエントロピーに環境温度 T0 を掛けた値になります。どこで何 kJ 失っているかを数字で示せるのが、エクセルギーで考える利点です。
カルノー効率の式から、効率を高めるには次の2つが効き、熱機関を考えるうえで重要な点です。
- 高温熱源の温度をできる限り高くする
- 低温熱源の温度をできる限り低くする
熱で動く機関の例には、温度差だけで回るスターリングエンジンもあります。
省エネの現場では、エクセルギーは「どの温度の熱を、どの用途に使うか」を決める物差しになります。日本の最終エネルギー消費の約4割は熱の利用で、省エネルギーセンターも熱の有効利用を省エネの鍵としています。
例として、25℃の水から80℃の温水1 kg(230 kJ)をつくる場合を比べます。
電気ヒーターはエネルギー効率ではほぼ100%ですが、質の高い電気を低温の熱に変えるため、エクセルギー効率は約8%にとどまります。
ヒートポンプは、電気で環境の熱をくみ上げるので、同じ温水をより少ない電気でつくれます。仕組みはヒートポンプとはで解説しています。工場の熱の使い方を見直すときは、次の点から確かめると無駄が見つかりやすくなります。
- 熱源の温度と、その用途で必要な温度の差が大きすぎないか
- 高温の蒸気や電気を、低温の加温・給湯にそのまま使っていないか
- 捨てている排熱の温度と量、近くにその温度で足りる用途がないか
もう一つの考え方が、高い温度の熱から順に使う段階利用(カスケード利用)です。燃料を燃やした高温の熱でまず発電し、出てきた蒸気や温水を工程や給湯に回します。
エクセルギーの大きい高温の熱を、温度が高い用途から順に使います。
※どこまで段階的に使えるかは、工場で必要な熱の温度と量、時間帯の組み合わせで決まります。
発電と排熱利用を組み合わせる設備の代表がコージェネレーションです。工場全体での進め方は工場の省エネとエネルギー管理の基本で紹介しています。
エクセルギーとアネルギーのよくある質問
エクセルギーとエントロピーの関係は?
エクセルギーは、エンタルピー H とエントロピー S を使って E=ΔH−T0ΔS と書けます。T0ΔS の部分がアネルギーにあたり、不可逆な変化でエントロピーが生じると、その量に T0 を掛けた分だけエクセルギーが失われます。
熱量は1,000 kJ のまま変わりませんが、エクセルギーは 614 kJ → 342 kJ に減ります(差 272 kJ)
環境温度T0は何℃にする?
エクセルギーは「周囲の環境と釣り合うまで」の量なので、T0 の決め方で値が変わります。その地域の気温や冷却水の温度を使うほか、計算をそろえるために25℃(298.15 K)とすることが多くあります。
設備どうしを比べるときは、同じ T0 で計算してください(この記事の計算例は、すべて25℃です)。
熱効率が高ければ、エクセルギー効率も高い?
そうとは限りません。電気ヒーターで温水をつくると、エネルギーで見た効率はほぼ100%ですが、エクセルギー効率は約8%でした。
エネルギーの出入りはヒートバランス(熱収支)で確かめ、使い方の質はエクセルギーで確かめる、と分けて考えると整理しやすくなります。
まとめ
- エネルギーには、仕事にできるエクセルギー(有効エネルギー)と、仕事にできないアネルギー(無効エネルギー)の2つの部分がある
- 熱のエクセルギーは E=Q(1−T0/T)、アネルギーは Q·T0/T で、足すと Q になる
- 熱から取り出せる最大の効率をカルノー効率といい、熱源の温度だけで決まる
- 熱効率とエクセルギー効率は分母が違う。エクセルギー効率は理想にどこまで近づけたかを表す
- 省エネでは、温度の高い熱から順に使い、低温の用途に電気や高温の熱をそのまま使わないことが効く
エクセルギーやアネルギーは日常ではあまり聞かない言葉ですが、「熱の量」ではなく「熱の質」を表す量だと押さえると見通しがよくなります。言葉の意味そのものが問われることは多くありませんが、熱機関の問題では効率がよく問われるので、カルノー効率の考え方は理解しておきましょう。
熱の有効利用は、脱炭素・カーボンニュートラルの取り組みにも直結します。資格と仕事の関係は製造業のエネルギー管理士の仕事で紹介しています。
出典
出典・参考資料(7件)を開く出典・参考資料を閉じる
- エクセルギーの定義・式 E=Q(1−T0/T)=ΔH−T0ΔS・語源とラント(1956年):日本冷凍空調学会「最近気になる用語 エクセルギー」
- 周囲と平衡になるまでに取り出せる最大の仕事、「省エネルギーは省エクセルギー」:日本冷凍空調学会「最近気になる用語 エクセルギー(有効エネルギー)」
- エネルギー効率とエクセルギー効率の定義、70℃のお湯・170℃の蒸気・電気の例え:環境省「エネルギー利用の効率の評価方法について」(参考資料2)
- 熱から得られる最大の仕事と、失われる仕事=T0×生じたエントロピー:MIT 16.Unified Thermodynamics「6.6 Entropy and Unavailable Energy」
- カルノー効率と作動物質によらないこと:MIT 16.Unified Thermodynamics「3.3 The Carnot Cycle」
- 最終エネルギー消費の約4割が熱利用、低温排熱とヒートポンプ:省エネルギーセンター 省エネ講座「排熱回収と熱の有効利用」案内
- 蒸気・温水のエンタルピーとエントロピー:IAPWS-IF97(国際水・蒸気性質協会の工業用定式化)で計算
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