CAD・CAEの使い道は、大きく「形をつくる」「性能を確かめる」「つくり方を確かめる」の3つに分けられます。
CAD(コンピューターで図面や立体モデルをつくるソフト)で形を決め、CAE(その形が壊れないか、熱くならないかを計算で確かめるソフト)で性能を見ます。
使われる対象は、自動車や航空機から、小さな部品や金型(同じ形の部品を大量につくるための型)、生産設備まで、形のあるものづくりのほぼすべてです。
製品の設計に加えて、溶かした金属や樹脂を型に流し込んで形をつくる鋳造・成形など、製造工程の検討にも使われています。
この記事では、CAD・CAEの主な用途を整理したうえで、業界別の活用方法と公開されている導入事例を紹介します。そのあと、導入の進め方、関わる仕事と求められるスキルという順で解説します。
CAD・CAEの主な用途

CAD・CAEの用途は、大きく「形をつくる」「性能を確かめる」「つくり方を確かめる」の3つに分けられます。ここでは代表的な4つの使い方を紹介します。
どの用途でも、起点になるのは3D CADでつくった形状データです。同じモデルを使い回しながら、確かめたい内容に応じて解析の種類を選んでいきます。
設計から製造準備まで、幅広い場面で使われています。
設計と図面の作成
最も基本的な用途は、製品や部品の形状を3D CADでつくり、図面や部品表を出力することです。組立状態のモデルで部品同士の干渉を確かめたり、重さや重心を計算したりもできます。
過去の設計を流用しやすいのも利点です。似た製品のモデルを呼び出して寸法を変えるだけで新しい設計の土台ができるため、受注ごとに仕様が変わる製品でも設計の時間を短くできます。
つくったモデルは、CAMで加工用のプログラムに変換したり、3Dプリンティングで試作品を造形したりと、製造へ渡すデータの出発点になります。
強度・振動の検証
CAEで最もよく使われるのが、部品に力がかかったときの変形や応力を求める構造解析です。重さを減らしつつ必要な強度を保つ「軽量化」の検討では、特に欠かせない道具になっています。
回転する機械や車両では、振動解析で揺れやすい周波数を調べます。共振による破損や騒音を、設計の段階で避けられるのが利点です。
熱・流れの検証
電子機器では、部品が発する熱がこもると故障の原因になります。熱解析や流体解析を使えば、ファンや放熱板の配置を変えたときに温度がどう変わるかを事前に比べられます。
製品だけでなく、工場の設備でも熱や流れの解析は使われます。炉や乾燥装置の中の温度のむら、クリーンルームの空気の流れなどを確かめ、品質の安定や省エネルギーにつなげる使い方です。
配管の中を流れる液体や、車体の周りの空気の流れを調べる場面でも流体解析が使われます。風洞実験など大がかりな試験の回数を減らせるため、空気や水が関わる製品の開発では特に効果が大きいと言えます。
製造工程の検証
CAEは製品の性能だけでなく、つくり方の検討にも使われます。次のような工程で、不良が出やすい箇所を事前に予測します。
- 溶けた金属を型に流す鋳造
- 樹脂を金型に射出する成形
- 板金を押し曲げるプレス加工
たとえば鋳造解析では、金属が型の中でどう流れ、どこから固まるかを計算し、巣(内部の空洞)ができやすい場所を探します。型をつくる前に不良の原因をつぶせるため、手直しの回数を減らせます。
金型そのものの設計にもCAEは使われます。成形のときに金型にかかる力で型が変形したり割れたりしないかを構造解析で確かめ、長く使える金型に仕上げます。
業界別の活用方法

CAD・CAEの使い方は、業界によって重点が異なります。主な業界での活用のされ方を比べると、次のようになります。
同じ道具でも、業界ごとに確かめたいことが違います。
※企業の規模や製品によって、使い方の重点は変わります。
自動車
自動車業界は、CAD・CAEの活用が最も進んだ業界の一つです。解析の対象は、次のように多岐にわたります。
- 衝突時の車体の変形や乗員への影響
- 走行中の振動や騒音
- 空気抵抗
電動化が進むにつれて、電池やモーターの発熱を管理する熱解析の重要性も増しています。完成車メーカーだけでなく、部品メーカーにも解析結果の提出が求められる場面が増えています。
産業機械・FA
産業機械やFAの分野では、装置全体を3D CADで組み立て、部品同士や配線・配管の干渉を確かめる使い方が中心です。1台ごとに仕様が異なる受注生産の装置も多く、設計のスピードが重視されます。
CAEは、装置のフレームがたわまないか、高速で動く部分が振動しないかといった確認に使われます。ロボットや搬送装置の動きを3D上で再現し、動作範囲の干渉を確かめる使い方も広がっています。
電機・電子
電機・精密機器や電子部品・半導体の分野では、製品の小型化にともない、限られた空間での熱の逃がし方が大きな課題になります。
そのため、機械系CADで設計した筐体と、電気系CADで設計した基板のデータを組み合わせ、熱解析で部品の温度を確かめる使い方が一般的です。スマートフォンのような携帯機器では、落下したときの衝撃解析も行われます。
製品の開発サイクルが短い分野でもあるため、試作の回数を減らせるかどうかが、発売時期に直結しやすいのも特徴です。
金型・鋳造・プレス
金型・プレス・機械加工の分野では、製品の形状を受け取って金型を設計し、そのデータから加工用のプログラムをつくるまで、CAD/CAMが仕事の中心にあります。
CAEは、樹脂の流れ方や金属の固まり方、板金の割れやしわを予測するために使われます。試し打ち(トライ)の回数を減らせるかどうかが、金型の納期とコストを大きく左右します。
航空宇宙・造船
航空宇宙・造船の分野は、CAEの源流とも言える分野です。航空機では、機体を軽くしながら十分な強度を確保するために、構造解析が設計の前提になっています。
船舶では、船体が水から受ける抵抗や波による揺れを流体解析で調べます。大型で試作が難しい製品ほど、実物をつくる前に計算で確かめる意味が大きくなります。
CAD・CAEの導入事例

ここでは、企業の公式発表や公的機関の事例集で公開されている導入事例を紹介します。大企業だけでなく、中堅・中小の部品メーカーでも活用が進んでいることがわかります。
トヨタ自動車:仮想人体モデルで衝突時のけがを解析
トヨタ自動車は、バーチャル人体モデル「THUMS」を1997年から豊田中央研究所と共同で開発してきました。衝突事故のときに人体が受ける傷害を、コンピューター上で解析するためのものです。
骨格や脳、内臓、筋肉まで再現したモデルで、実物のダミー人形では測りにくい部位への影響を調べられます。
同社の2020年6月の発表によると、THUMSは国内外の100以上の自動車メーカーや部品メーカー、大学、研究機関などで使われています。2021年1月からは無償で公開されています。
解析モデルそのものを共有し、業界全体の安全性向上に役立てる取り組みと言えます。
モデルは、性別や年齢、体格の異なる複数の種類が用意されており、大柄な男性や小柄な女性、子どもなどを想定した解析もできます。実物の衝突試験だけでは確かめきれない条件を、計算で補っている例です。
アサゴエ工業:鋳造解析で不良対策とコスト削減
経済産業省中国経済産業局の事例集では、銑鉄鋳物の油圧バルブ部品などを製造するアサゴエ工業株式会社の事例が紹介されています。同社が鋳造品の不良対策や新しい製品の検討に活用しているのが、凝固や湯流れなどを予測する鋳造解析です。
事例集によると、製品によっては1製品で年間1千万円弱のコスト削減効果が得られたものもあるとされています。解析を製造方法の評価に結びつけた例です。
同じ事例集には、金型製作を手がける有限会社中山鉄工所が、構造解析を金型設計に活用し、業務の効率化や納期の短縮につなげている例も紹介されています。小規模な企業でも、目的を絞れば解析を生かせることを示す例です。
ヒルタ工業:強度設計にCAEを20年以上活用
同じ事例集には、自動車部品メーカーのヒルタ工業株式会社が、2000年ごろからCAE解析ツールを導入し、20年以上にわたって活用している事例もあります。
同社は強度設計においてCAE解析を不可欠なものと位置づけており、設計プロセスでの試作の比較評価回数を抑えられているとしています。長く使い続けることで、解析が設計の標準的な手順として根づいた例と言えます。
藤岡エンジニアリング:マグネシウムの成形工程を検証
軽金属の加工を手がける株式会社藤岡エンジニアリングは、開発から量産までのリードタイム短縮を目的に成形解析を導入しました。マグネシウムの成形工程の検証などにCAEを活用しています。
事例集では、試作に比べて費用をかけずに成形工程を検証できるようになったことが効果として挙げられています。扱いの難しい材料ほど、事前の検証が生きる例です。
4つの事例に共通するのは、「衝突安全」「鋳造不良」「強度設計」「成形工程」と、解決したい課題を具体的に絞ったうえで解析を使っている点です。何でも解析するのではなく、効果の大きい場面から取り入れていることがわかります。
CAD・CAEの導入の進め方

CAD・CAEは、ソフトを買えばすぐに成果が出るものではありません。公開事例に共通するのは、目的を絞って始め、実験との照合を重ねながら使う範囲を広げている点です。一般的には次のような流れで進めます。
計画、導入、定着の3つの段階に分かれます。
※会社の規模や目的によって、工程の順番や期間は変わります。
なかでも大切なのが、最初の目的の明確化と、定着段階での実験との照合です。「何のために解析するのか」が曖昧なまま導入すると、使われないまま終わりやすいため、効果を測る指標も最初に決めておきます。
ソフトの選定では、社内の使いやすさだけでなく、取引先とやり取りするデータの形式も確認しておきます。導入の初期は、ソフトの販売会社のサポートや、公設試験研究機関の講習・相談窓口を活用するのも一つの方法です。
社内に解析の経験者がいない場合は、最初の数件を外部の解析サービスに依頼し、その結果を見ながら社内で再現してみるという進め方もあります。外部に頼る部分と社内で担う部分を分けて考えると、無理なく始めやすくなります。
また、解析の結果は、実験で確かめてはじめて信頼できます。解析と実験の差を記録し、条件の与え方を社内のノウハウとして蓄積することで、少しずつ試作を減らせるようになります。
CAD・CAEに関わる仕事と求められるスキル

CAD・CAEは、設計者だけが使う道具ではありません。さまざまな職種が、それぞれの立場でデータを扱っています。
最も深く関わるのは機械設計で、3D CADでのモデリングと、簡易的な強度解析を日常的に行います。電気・電子設計では電気系CADで回路や基板を設計し、機械系のデータと組み合わせて確認します。
高度な解析を担うのは、研究開発部門や解析の専任部署です。生産技術は設計データを使って設備や治具、工程を検討し、品質保証は不具合の原因を調べる際に解析結果を参照します。
このほか、技術営業が顧客への提案で3Dモデルや解析結果を見せる場面もあります。購買部門が見積もり依頼に3Dデータを添えるなど、設計以外の職種でもデータに触れる機会は増えています。
ソフトの操作だけでなく、その土台となる知識と判断力が問われます。
求められるスキルのなかで、特に差がつきやすいのが判断力です。計算結果が不自然なときに気づき、原因を条件設定までさかのぼって確かめられる人は、どの職場でも重宝されます。
CAD・CAEの経験は、業界を越えて生かしやすいスキルでもあります。機械設計の仕事の流れについては機械設計の仕事の流れも参考にしてください。
スキルを客観的に示す手段としては、CAD利用技術者試験や、日本機械学会が認定する計算力学技術者などの資格があります。資格の勉強を通じて、操作だけでなく基礎知識を体系的に整理できる点も利点です。
まとめ
- CAD・CAEは設計、強度・振動、熱・流れ、製造工程の検証などに使われる
- 自動車、産業機械、電機、金型など、業界ごとに活用の重点が異なる
- 大手の衝突解析から中小企業の鋳造・成形解析まで、公開事例は幅広い
- 導入は目的を絞って小さく始め、実験との照合を重ねて範囲を広げる
- 機械設計や研究開発、生産技術など多くの職種がデータを扱っている
CAD・CAEの仕組みや原理についてはCAD・CAEとは?仕組みと基本原理で解説しています。注目される理由や従来技術との違いはCAD・CAEが注目される背景と従来技術との違いをご覧ください。
CAD・CAEに関する最新の動向や関連記事については、CAD・CAEの技術ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(3件)を開く出典・参考資料を閉じる
- THUMSの事例:トヨタ自動車「トヨタ自動車、バーチャル人体モデル『THUMS』を無償で公開」(2020年6月16日)
- 中堅・中小企業の事例:経済産業省中国経済産業局「MBD/CAE等の導入・活用の手引き・事例集」
- 中堅・中小企業の事例(概要版):経済産業省中国経済産業局「MBD/CAE等の導入・活用の手引き・事例集(概要版)」
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