外国人従業員に伝わる作業指示の出し方|やさしい日本語と図解の5ステップ

作業台で写真入りの手順書を指さして説明する班長と作業者

外国人従業員に作業の手順を説明し、「分かりましたか」と確かめると「はい、分かりました」と返事がある。ところが作業を任せてみると、手順が違っている。製造現場でよく起きるすれ違いです。

長い一文、現場でしか通じない言葉、あいまいな言い方、返事だけで済ませる確認。こうした部分は、指示を出す側で変えられます。やさしい日本語や図解を使い、確認の仕方まで整えることで、すれ違いは減らせます。

この記事では、指示が伝わらないと何が起きるのか、やさしい日本語とは何かを確認したうえで、伝わる作業指示の5つのステップを紹介します。

続けて、手順書と掲示物の作り替え方、安全に関わる指示の伝え方、よくある失敗、職場に定着させる進め方を整理します。

目次

作業指示が伝わらないと何が起きるか

卓上プレス機の前で作業を確認する2人の作業者の後ろ姿

指示が伝わらないと、不良や手戻りが増えるだけでなく、けがにつながります。まず、統計と法令の両面から現状を確認します。

外国人労働者の労働災害は増えている

厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人でした。届出が義務化された2007年以降の最多を更新しています。産業別では製造業が最も多く、全体の24.7%です。

働く人が増えるにつれて、労働災害も増えています。厚生労働省の統計では、2025年(令和7年)に休業4日以上の死傷災害にあった外国人労働者は7,124人で、前年の6,244人から880人増えました。

労働者1,000人あたりで1年間に何人が被災したかを示す死傷年千人率は2.77で、全労働者の2.32を上回っています。国の第14次労働災害防止計画は、外国人労働者の死傷年千人率を2027年までに全体の平均以下にすることを目標に掲げています。

ただし、2つの数字は分母の取り方が違います。

外国人労働者の2.77は、死傷者数を「外国人雇用状況」の届出による10月末時点の労働者数で割った値にあたります。一方、全労働者の2.32は労働力調査をもとにした労働者数で計算されています。

働く業種や年齢の構成も異なるため、差の大きさは目安として見てください。

図1:外国人労働者の労働災害(2025年)

休業4日以上の死傷災害は、製造業が全体の4割あまりを占めています。

死傷者数7,124人前年は6,244人。2016年の2,211人から3倍あまりに増えた
死傷年千人率2.77全労働者は2.32。労働者1,000人あたりの1年間の死傷者数
製造業3,136人全体の約44%。事故の型は「はさまれ・巻き込まれ」が985人で最多

※厚生労働省 職場のあんぜんサイト「外国人の労働災害発生状況(令和7年)」より。新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除く。千人率の資料出所は、労働者死傷病報告、労働力調査、「外国人雇用状況」の届出状況。外国人労働者と全労働者では分母にする統計が異なる。

製造業で被災した3,136人のうち、最も多い事故の型は「はさまれ・巻き込まれ」の985人です。機械の止め方や、手を入れてはいけない場所といった指示が、確実に伝わっているかどうかが問われます。

もちろん、災害の原因は言葉だけではありません。経験年数の短さや設備側の対策など、いくつもの要因が重なります。製造業全体の災害の傾向と対策は、製造業の労働災害の現状と安全管理の基本で整理しています。

法令と指針が求めているのは「理解できる方法」

労働安全衛生法第59条は、労働者を雇い入れたときと作業内容を変更したときに、従事する業務に関する安全衛生教育を行うことを事業者に義務づけています。国籍や在留資格による区別はありません。

教える内容は労働安全衛生規則第35条に定められています。機械や原材料の危険性と取扱い方法、安全装置や保護具の取扱い方法、作業手順、作業開始時の点検、事故時の応急措置と退避などです。

条文そのものは、教え方までは定めていません。教え方を示しているのは、厚生労働省の指針と通達です。

外国人労働者の雇用管理に関する指針は、安全衛生教育の方法を定めています。「母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うこと」です。

指針は2026年5月に一部が改正されましたが、この部分の文言は変わっていません。

この指針でいう「母国語等」には、母国語のほかに「平易な日本語」が含まれます。

2019年3月の通達(基発0328第28号)も同じ考え方に立ち、「確実に理解できる方法」で行うことを示しています。あわせて、理解度を確認しながら教育を繰り返すことが望ましいとしています。

図2:安全衛生教育について法令・指針・通達が求めていること

教える義務は法律に、教え方は指針と通達に書かれています。

求めていること
位置づけ
労働安全衛生法 第59条/規則 第35条
雇入れ時と作業内容の変更時に、機械等の危険性、安全装置・保護具、作業手順、事故時の措置などを教育する
法律と省令。事業者の義務で、国籍を問わず適用される
外国人労働者の雇用管理に関する指針
母国語等(平易な日本語を含む)や視聴覚教材を使い、理解できる方法で教育する。指示を理解するための日本語と合図の習得、標識・掲示の図解にも努める
厚生労働省の告示。事業主が講ずべき措置を示す
通達(基発0328第28号)
確実に理解できる方法で行う。標識は図解や母国語の注意喚起語を使う。日本語の理解度を把握し、理解度を確認しながら繰り返す
労働基準局長の通達。事業者が留意する事項を示す

※各資料の該当部分を要約したものです。原文は記事末尾の出典から確認できます。

つまり、日本語で一度説明しただけでは足りません。相手が理解できる方法を選び、理解できたかどうかを確かめるところまでが、教える側の仕事です。

「分かりました」は理解の証拠にならない

厚生労働省の委託事業でまとめられた「外国人労働者安全衛生管理の手引き」に、次のような指摘があります。

教育のあとに「分かりましたか」と聞くと、多くの場合「はい、分かりました」と返ってくる、という指摘です。手引きは、この返事を額面どおりに受け止めず、理解を確認する必要があるとしています。

同じ手引きには、広島県の企業調査(2020年3月の報告書)の紹介もあります。

外国人材の雇用で「コミュニケーションがとりづらい」と答えた企業に、どんな場面でそう感じるかを複数回答で聞いています。最多は「専門用語や技術用語を用いた個別作業の指示・指導」で75.4%でした。

数年前の、一つの県の調査ですが、挙がっているのはまさに作業指示の場面です。

この調査の自由回答には、指示をする側が「わかった?」と返事を求めてしまい、相手は理解できていないと思われたくなくて「わかった」と答える、という声も載っています。返事を引き出す聞き方をしている限り、どの国の人が相手でも同じことが起こります。

やさしい日本語とは|母国語・図解との使い分け

やさしい日本語について、出入国在留管理庁と文化庁は2020年8月に「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」をまとめました。そこでは「難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語」と説明されています。

始まりは1995年の阪神・淡路大震災です。日本語の情報が理解できずに困った外国人が多かったことから、弘前大学の社会言語学研究室などが、災害時に情報を伝えるための日本語として研究を進めました。

その後、行政の窓口やお知らせなど、平時の情報提供にも広がっています。

ガイドラインは行政の文書を主な対象にしていますが、外国人の労働者が働く企業でも使われることを期待すると書かれています。2022年10月には、会話で使うときの留意点をまとめた「話し言葉のポイント」も公表されました。

注意したいのは、やさしい日本語に決まった一つの正解はないという点です。ガイドラインは、相手の言語背景や日本語の力に合わせて調節するものだとして、あえて厳密な基準を示していません。

この記事で紹介する書き換えも、相手に確かめながら直していく前提のものです。

やさしい日本語にも限界がある

「話し言葉のポイント」は、やさしい日本語の限界にも触れています。日本語がまったく、あるいは少ししか話せない人には通じません。制度の詳細や、命に関わる医療の内容のような難しい話題は、うまく伝わらないこともあるとされています。

そうした場合は、多言語での対応や翻訳機器などを併用し、必要に応じて切り替えることが大切だとされます。ガイドラインも、導入はやさしい日本語、複雑なことは多言語の資料という使い分けが必要だと述べています。

伝える内容で手段を選ぶ

現場で使える手段は、やさしい日本語だけではありません。通達と指針は母国語、視聴覚教材、図解、合図を挙げています。

手引きは、来日したばかりの人には母国語の通訳が必要になる場合があり、日本語で対応できる人にはやさしい日本語での教育が有効だとしています。

図3:作業指示と安全教育で使える手段

伝える内容に合わせて選び、大事なことほど複数を重ねます。

母国語の資料・通訳
命と健康に関わる内容機械や原材料の危険性、異常時の対応、健康診断の説明など。専門用語の訳が正しいかを確かめる
やさしい日本語
毎日の指示と連絡その日の作業、段取りの変更、注意の呼びかけ。日本語で声をかけ合える関係づくりにもなる
写真・図・動画
動きと状態手の位置、部品の向き、良品と不良品の違い。何度でも見返せる
実物・実演
動きと状態操作盤は指でさし、工具は実物を見せる。やって見せてから、やってもらう
標識・表示
命と健康に関わる内容立入禁止や保護具の着用など。形と色をそろえ、母国語の注意喚起語を添える
合図と決まった言葉
毎日の指示と連絡「止まれ」「危ない」などの言葉と手の合図。最初に教えておく

※厚生労働省の通達・指針・手引きと、やさしい日本語ガイドラインの記述をもとに整理した目安です。

相手の日本語の力を決めつけない

在留資格ごとに、求められる日本語の水準には目安があります。たとえば工業製品製造業分野の特定技能1号には、日本語試験の水準が定められています。

国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)でA2.2相当以上、または日本語能力試験(JLPT)のN4以上です。技能実習2号を良好に修了した人は、この試験が免除されます。

N4は「基本的な日本語を理解することができる」水準で、聞く力の目安は「日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる」です。裏を返すと、早口の指示や現場の専門用語まで聞き取れることは、この目安には含まれていません。

一方で、試験の合格歴だけで力を判断するのも危険です。JLPTは読む力と聞く力を測る試験で、話す力や書く力は測りません。在留期間が長く日本語に不自由しない人もいれば、読むのは得意でも聞き取りが苦手な人もいます。

「話し言葉のポイント」は、見た目で判断しないこと、相手の日本語の力が高いと分かったらやさしい日本語をやめることを挙げています。国籍や在留資格で一律に決めるのではなく、一人ひとりと話してみて合わせるのが基本です。

伝わる作業指示の出し方|5つのステップ

ここからは、作業指示を伝わる形に変える手順を5つのステップで見ていきます。

ガイドラインは「日本人にわかりやすい文章にする、外国人にもわかりやすい文章にする、わかりやすさを確認する」という3つのステップを示しています。これを現場の作業指示に当てはめました。

5つに分けたのはこの記事での整理で、公的に定められた手順ではありません。

図4:伝わる作業指示の5つのステップ

指示を出す前の準備、伝え方、伝えたあとの確認に分かれます。

準備する
01伝えることを絞る1つの指示に1つの動作。手順、急所、してはいけないことに分ける
02やさしい日本語に書き換える短い文、簡単な言葉、はっきりした文末にそろえる
03写真・図・実物を用意する言葉にしにくい動きや状態は、見せて伝える
伝える
04短く、はっきり、最後まで言う口頭の指示は一度に1つ。実物を指でさしながら話す
確かめる
05理解を確かめる返事ではなく、やってもらう、言ってもらうことで確認する

※ステップ1から3は手順書づくりにも、その場の口頭指示の準備にも共通します。

ステップ1 伝えることを絞り、順番に並べる

ガイドラインが最初に挙げるのは、言葉の言い換えではなく情報の整理です。元の文を一語ずつ置き換えるのではなく、伝えるべきことは何かを考え、相手に必要な情報に絞ります。

作業指示であれば、「何を、どの順番で、どこまでやるか」「品質や安全に効く急所はどこか」「してはいけないことは何か」の3つに分けます。1つの指示に入れる動作は1つにして、作業する順番に並べます。

経緯の説明や例外の話は、最初の指示からは外します。必要になったときに、別の指示として伝えれば足ります。急所の選び方や標準書そのものの作り方は、下の記事で詳しく扱っています。

ステップ2 やさしい日本語に書き換える

情報を絞ったら、文と言葉を直します。ガイドラインと「話し言葉のポイント」が挙げている点のうち、作業指示で特に効くものを図5にまとめました。

図5:やさしい日本語に書き換えるときの主なポイント

ガイドラインと「話し言葉のポイント」から、作業指示に関わるものを抜き出しました。

一文は短く、言いたいことは1つ「〜して、〜したら、〜して」とつながず、動作ごとに文を切る
3つ以上のことは箇条書きにする手順は番号を付けて並べる
簡単な言葉を使う難しい言葉や専門用語、略語、カタカナの外来語はできる限り避ける。漢語より和語を選ぶ
あいまいな表現を使わない「〜ごろ」「〜くらい」を避け、時刻や数で示す。「結構です」のように2つの意味にとれる言葉も避ける
二重否定を使わない「〜しないとできない」ではなく、することを先に言う
受身形・使役表現を避ける誰がその動作をするのかが分かる文にする
文末は「です」「ます」でそろえる敬語は丁寧語だけにする。指示は「〜してください」。「〜しましょう」は誘いの意味にもとれる
擬音語・擬態語を使わない「ぐっと」「さっと」のような言葉は伝わりにくい

※出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(2020年8月)、同「話し言葉のポイント」(2022年10月)より。

実際の指示に当てはめるとどうなるかを、架空の組立・プレス作業を想定して書き換えてみます。図6は説明のために作った想定例で、特定の職場の手順ではありません。

図6:作業指示の書き換え(想定例)

元の指示のどこが伝わりにくいかを見つけ、短い文に分けます。

元の指示
やさしい日本語
長い一文
カバーを閉めてから起動ボタンを押して、終わったら部品を取り出して箱に入れておいてください。
①カバーを閉めます。②緑のボタンを押します。③機械が止まるまで待ちます。④部品を取ります。⑤部品を青い箱に入れます。
あいまいな量
ボルトはしっかり締めておいて。
トルクレンチでボルトを締めてください。音が1回鳴ったら、止めてください。
二重否定
保護めがねをしないと作業できないことになっています。
保護めがね<=目を守るめがね>をかけてください。かけてから、作業を始めてください。
敬語と疑問形の依頼
異常があった場合は、速やかにご報告いただけますか。
いつもと違う音やにおいがあるときは、機械を止めてください。すぐに班長を呼んでください。
現場の用語
ワークをセットしたら、ガタがないか見といて。
ワーク<=加工する部品>を機械に置きます。ワークが動かないことを、手で確かめてください。
時刻
休憩は15時ごろから。
休みは午後3時から午後3時10分までです。
禁止の伝え方
運転中はカバーの中に手を入れないようにしましょう。
機械が動いているときは、カバーの中に手を入れないでください。

※説明のための想定例です。実際の手順書では、漢字にふりがなを付けます。書き換えた文は、読む本人に確かめてもらってから使います。

書き換えると文の数は増えますが、1文ごとの動作ははっきりします。元の指示にあった「しっかり」「異常」のような言葉は、何をもって良しとするのか、何が起きたら止めるのかを具体的に言い直す必要がありました。

これは日本人の新人に教えるときにも効く見直しです。

ステップ3 写真・図・実物を用意する

ガイドラインは、イラスト、写真、図や記号を使って視覚的にわかりやすくすることを勧めています。作業指示で言葉にしにくいのは、手の位置、部品の向き、力の入れ方、仕上がりの状態です。こうした内容は写真や図で見せたほうが早く伝わります。

写真は、良い状態と悪い状態を並べると判断の基準が伝わります。見るべき場所には矢印や丸を付けます。1枚の写真に情報を詰め込まず、1つの手順に1枚を目安にすると、文と写真の対応が分かりやすくなります。

動きが大事な作業は、動画が向いています。手引きは、作業方法と危険を動画にまとめ、スマートフォンやタブレットで何度でも見られるようにしている例を紹介しています。一度作れば繰り返し使えるのも利点です。

ステップ4 口頭では短く、はっきり、最後まで言う

現場での指示は、多くが口頭です。「話し言葉のポイント」と手引きは、やさしい日本語で話すときのコツとして、「はっきり言う」「最後まで言う」「短く言う」の3つを挙げています。頭文字をとって「ハサミの法則」と呼ばれます。

「最後まで言う」は、日本語の会話で省きがちな部分を言い切ることです。「その箱、ちょっと重いから」で止めると、相手には何をすればよいのかが伝わりません。「その箱は重いです。2人で運んでください」と、してほしい動作まで言います。

「持ってきてもらえますか」のような疑問の形をとった依頼も、指示なのか質問なのかが分かりにくくなります。「持ってきてください」と言い切ります。方言や、早口で語尾が消える話し方にも気をつけます。

言葉だけに頼らないことも大切です。操作盤は指でさし、工具は実物を見せます。ただし、身ぶり手ぶりの意味は世界共通ではないため、合図として使う動作はあらかじめ決めて教えておきます。

ステップ5 理解を確かめる

最後のステップが、理解の確認です。「分かりましたか」「大丈夫ですか」のように「はい」で答えられる質問では、理解できたかどうかは確かめられません。

手引きが紹介する食品メーカーの事例では、「はい」という返事を理解したものと受け止めて問題が起きた経験から、確認の方法を変えています。

説明したことを本人の口から言ってもらう、あるいはその作業で「絶対にしなければいけないことは何でしょう?」と重要な点を質問する方法です。

図7:理解を確かめる順番

返事ではなく、動作と言葉で確かめます。

やって見せる実物を指でさしながら、手順を1つずつ実演する
次に
やってもらう本人に作業してもらい、手順の順番と急所ができているかを見る
あわせて
言ってもらう説明した内容を本人の言葉で
重要な点を質問する必ずすること、してはいけないこと
指でさしてもらう非常停止ボタンや立入禁止の場所
日を置いて
もう一度確かめる理解度を確認しながら、教育を繰り返す

※厚生労働省の通達と「外国人労働者安全衛生管理の手引き」の記述をもとに整理したものです。

言葉で説明してもらうのが難しい段階では、やってもらう、指でさしてもらうだけでも確認になります。できていなかったときは相手を責めず、伝え方のどこが足りなかったのかを見直します。

通達も、理解度を確認しながら継続的に教育を繰り返すことが望ましいとしています。

手順書と掲示物を作り替えるときのポイント

作業台に置かれた写真入りの手順書と工具を真上から見た様子

口頭の指示と違い、手順書や掲示物は読み手が自分のペースで読めます。その代わり、書いた側がその場で言い直すことができません。書き言葉ならではの注意点を見ていきます。

現場の言葉は消さずに、説明を添える

難しい言葉を避けるといっても、現場で毎日使う用語まで言い換えてしまうと、周りの人の会話が分からなくなります。

ガイドラインは、知っておくとよい言葉はそのまま使い、言葉のあとに説明を加える方法を示しています。「余震<=後から来る地震>」という書き方です。

手引きも、現場でよく使う大事な用語は意図的に使い、解説を付けるとしています。「研磨(磨く)」「裁断(切る)」のような形です。治具や工具、不良の名前などは、写真と呼び名を並べた用語の一覧を作っておくと、教える側の言い方もそろいます。

ふりがな・数字・時刻の書き方

ガイドラインは、漢字の量が多すぎないようにして、すべての漢字にふりがなを付けるとしています。漢字を使う国や地域の出身かどうかで読みやすさが変わるため、漢字かな交じりの文とひらがなの文を用意すると効果的だとも書かれています。

時刻と日付にも決まりがあります。元号ではなく西暦を使う、午前・午後を付ける、「〜」ではなく「から」「まで」と書く、日付にスラッシュを使わない、といった点です。ローマ字で日本語の文を書くことも勧められていません。

弘前大学の研究室がまとめた災害情報向けのガイドラインは、文節ごとに空白を入れる「分かち書き」も挙げています。平時の手順書にそのまま当てはめる決まりではありませんが、ひらがなが続いて読みにくい文では試す価値があります。

安全標識は形と色をそろえる

指針は、労働災害防止に関する標識や掲示について、図解などを使い、外国人労働者が理解できる方法で行うよう努めることを求めています。通達は、母国語で注意喚起語を表示することも例に挙げています。

標識を作るときの土台になるのが規格です。JIS Z 9101は、安全標識の形と色の組み合わせを定めています。国際規格のISO 3864-1に対応しており、形と色を見れば、禁止なのか指示なのかが分かるようになっています。

図8:安全標識の形と色(JIS Z 9101)

社内で作る標識も、この組み合わせに合わせると意味がそろいます。

禁止標識
赤・円と斜線してはいけない行動を示す。例:禁煙、接触禁止
指示標識
青・円しなければならない行動を示す。例:保護めがねの着用
注意警告標識
黄・正三角形危険への注意をうながす。例:高温注意、電圧注意
安全状態標識
緑・正方形避難路や安全な場所を示す。例:非常口、救護室
防火標識
赤・正方形消火設備の場所を示す。例:消火器、火災報知器
補助標識
長方形標識の意味を言葉で補う。母国語の注意喚起語はここに入れる

※JIS Z 9101:2018の表1・表2をもとに作成。図の色と形は目安です。標識のレイアウトはJIS Z 9101、正確な色はJIS Z 9103で定められています。

絵で示す図記号(ピクトグラム)の規格には、JIS Z 8210「案内用図記号」があります。国土交通省のサイトで、安全、禁止、注意、指示などの図記号が公開されています。独自の絵を作る前に、規格にある図記号が使えないかを確かめます。

ただし、標識にも限界があります。手引きは、ピクトグラムは人によって受け止め方に差があり、機械の操作方法のような内容は一目で示せないと指摘しています。標識を貼って終わりにせず、意味を教え、理解されているかを確かめることが欠かせません。

翻訳アプリ・生成AIを使うときの注意

翻訳アプリや生成AIで手順書を母国語に直す方法は、手軽に試せます。ただし、誤訳の可能性は常にあります。

手引きには、通訳を介した教育で「高所作業車」がまったく別の意味の言葉に訳された例が紹介されています。専門用語ほど、機械でも人でも訳がずれやすくなります。

使うときは、元の日本語を先に整えます。「話し言葉のポイント」は、整理された日本語で話しかけたほうが翻訳機器の精度が上がるとしています。主語を入れ、一文を短くし、現場の略語を正式な言葉に直してから翻訳にかけます。

訳した文は、その言語が分かる人に読んでもらいます。とくに安全に関わる指示は、訳文を渡しただけで伝わったことにせず、ステップ5の方法で理解を確かめます。

安全に関わる指示は手段を重ねて伝える

機械の操作盤にある赤い非常停止ボタンの接写

日々の作業指示と違い、安全に関わる指示は、伝わらなかったときの結果が取り返しのつかないものになります。1つの手段に頼らず、母国語、やさしい日本語、図、実演を重ねて伝えます。

通達は、機械設備によるはさまれ・巻き込まれなどのおそれがある作業について、十分に理解させる事項を挙げています。「作業手順及びその意味、安全装置の適切な使用方法及び立入禁止等に係る掲示」です。

手順だけでなく、なぜその手順なのかという意味まで伝えることが求められています。

緊急時の言葉と合図を先に教える

指針と通達は、労働災害防止のための指示や注意喚起を理解できるよう、必要な日本語と基本的な合図を習得させるよう努めることを求めています。

「止まれ」「危ない」「逃げろ」「さわるな」のような言葉は、やさしく言い換えるよりも、その言葉のまま、意味と取るべき行動をセットで教えるほうが確実です。

とっさの場面では、周りの人は普段の言葉で叫ぶからです。配属の初日に、実際に声に出して練習しておきます。

公的な多言語教材を使う

教材を一から作る必要はありません。厚生労働省は「マンガでわかる働く人の安全と健康」という教育用教材を、業種別・作業別に複数の言語で公開しています。製造業に関わる業種や、フォークリフト、クレーン・玉掛けなどの作業別の教材もあります。

職場のあんぜんサイトには、外国人労働者向けの安全衛生視聴覚教材がまとめられています。製造業向けの「未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル」にも外国語版があります。

こうした教材で共通の知識を伝え、自社の設備に固有の内容を手順書で補う、という分担ができます。

リスクアセスメントに「伝わらないかもしれない」を入れる

通達は、リスクアセスメントを行うときの注意点を示しています。日本語で表示された作業標準などの理解が外国人労働者にとって難しいことを踏まえ、リスクの洗い出しや見積りを行うよう求めています。

つまり、「手順書に書いてあるから守られる」という前提は置きません。指示が伝わらなくても事故にならないよう、カバーやインターロックなど設備側の対策を先に検討します。低減措置の優先順位は、工場のリスクアセスメントの進め方で解説しています。

よくある失敗と対策

やさしい日本語に取り組み始めた職場で起こりやすい失敗を、5つ挙げます。どれも、指示を出す側の思い込みから生まれるものです。

子ども扱いやため口になる

やさしく話そうとして、幼い子どもに話すような口調になってしまうことがあります。「話し言葉のポイント」は、大人の相手を子ども扱いしないことを心得の一つに挙げています。相手は、母語であれば複雑な内容も理解し、説明できる大人です。

「これ、あぶないよ」のようなため口も避けます。日本語を学ぶ人が最初に習うのは「です」「ます」の形なので、丁寧語のほうがかえって伝わりやすいのです。

英語やカタカナ語を混ぜる

外国人だから英語なら通じるだろう、という思い込みもよくあります。「話し言葉のポイント」は、英語交じりなどの不自然な日本語にしないことを挙げています。

カタカナの外来語は、元の言葉と発音や意味が違うことが多く、英語が分かる人にも伝わらない場合があります。

国籍や見た目で決めつける

「あの国の人は日本語が苦手だ」「漢字が読めるはずだ」といった決めつけは、指示の出し方を誤らせます。日本語の力も、仕事の経験も、人によって違います。同じ国の出身でも、在留期間や学んできた内容はさまざまです。

日本語が十分に分かる人にやさしい日本語を使い続けると、相手を低く見ているように受け取られることもあります。相手に合わせて切り替えることが前提です。

通訳役の先輩に任せきりにする

同じ言語を話せる先輩に通訳や補助を頼む方法は、通達でも望ましいとされています。ただし通達は、安全衛生教育の実施責任者の管理の下で行うことを前提にしています。

任せきりにすると、訳された内容が正しいかを誰も確かめられません。先輩の負担も大きくなります。教える責任は安全衛生教育の実施責任者が持ち、通訳役には補助をお願いする、という分担をはっきりさせます。

書き換えただけで、読んでもらっていない

ガイドラインの3つ目のステップは「わかりやすさの確認」です。書き換えた文案を、日本語教師や外国人に読んでもらい、伝わるかどうかを確かめるとしています。

職場であれば、実際にその手順書を使う本人に読んでもらうのが近道です。読みにくい言葉や分からない箇所を教えてもらい、直します。書いた側が「やさしくなった」と感じるだけでは、確認になりません。

職場に定着させる進め方

工場の通路で輪になって朝礼をする作業者たち

やさしい日本語は、担当者1人が手順書を書き換えれば終わるものではありません。現場で指示を出す全員の話し方に関わるため、職場の取り組みとして進めます。

学ぶのは指示を出す側

手引きは、やさしい日本語に言い換えて歩み寄るのは、日本語を母語とする側だと述べています。

手引きが紹介する岐阜県の調査(2020年2月)では、意思疎通に困る理由として、約3割の企業が日本人従業員の話し方を挙げていました。

元の調査では、回答した76社のうち23社が「日本人従業員等が分かりやすく話そうとしないため」を選んでいます。

一方で、やさしい日本語という取り組みは、広く知られているとは限りません。

文化庁の2019年度「国語に関する世論調査」(2020年2〜3月実施)は、手引きも引用している調査です。やさしい日本語で伝える取り組みを「知っている」と答えた人は29.6%でした。

まずは班長や職長を対象に、図5のポイントと図6のような書き換えを体験する時間を設けます。

手引きの事例にある食品メーカーは、年に1回、管理者全員に外国籍の従業員への配慮を求める書面を配り、新しく配属があるたびに配属先の管理者にも渡しています。一度の研修で終わらせない工夫です。

重要な工程から1枚ずつ書き換える

すべての手順書を一度に直そうとすると、続きません。はさまれ・巻き込まれのおそれがある機械の操作、保護具が必要な作業、不良が出やすい工程など、伝わらなかったときの影響が大きいものから1枚ずつ取りかかります。

書き換えた手順書で教えたら、誰がどの作業をどこまでできるようになったかを記録します。スキルマップ(力量表)に反映させれば、教育の抜けが見えるようになります。

日本語を使う場を日々の活動に組み込む

指示を受けるだけでは、日本語を使う機会は増えません。手引きは、作業前の打ち合わせで、各自がその日の危険と対策をボードに書いて発表する取り組みを紹介しています。最初はローマ字やひらがなで書いていた人の中から、漢字で書く人も出てくるといいます。

危険予知訓練やヒヤリハット報告も、同じ役割を果たします。報告の様式にやさしい日本語や母国語を併記すれば、参加のハードルが下がります。報告が出てくる仕組みの作り方は、ヒヤリハット報告が集まらない原因と対策を参考にしてください。

こうした取り組みは、外国人従業員のためだけのものではありません。短く、具体的で、確認までを含んだ指示は、新人や応援の作業者にも伝わります。教え方を型にしていく考え方は、技能伝承と人材育成の進め方とも重なります。

まとめ

この記事のまとめ
  • 外国人労働者の死傷年千人率は2.77(2025年)で全労働者の2.32を上回り、製造業で被災した外国人労働者の事故の型は「はさまれ・巻き込まれ」が最も多い
  • 安全衛生教育は、指針と通達により「理解できる方法」で行い、理解度を確認することが求められている
  • 作業指示は、伝えることを絞る、やさしい日本語に書き換える、写真や実物で見せる、短くはっきり言う、理解を確かめる、の5ステップで組み立てる
  • やさしい日本語には限界があり、安全に関わる内容は母国語の資料、図解、実演、標識を重ねて伝える
  • 「分かりましたか」で終えず、やってもらう、言ってもらうことで確認し、書き換えた文は本人に読んでもらって直す

伝わる指示をつくることは、外国人従業員への特別な対応というより、教え方そのものの見直しです。多様な人が働く職場づくりの全体像は、製造業のダイバーシティと働きやすい職場づくりで扱っています。

現場で指示を出す立場の仕事は製造・オペレーションの職種ページにまとめています。受け入れ体制や安全管理を担う立場の仕事は工場長・マネジメントの職種ページから、関連記事をあわせてご覧ください。

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MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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