製造業の技能伝承と人材育成|OJT・技能検定・仕組みづくりの進め方

熟練工が若手に機械加工を指導する工場現場

「技能伝承」と聞くと、多くの方はベテラン職人が若手に手取り足取り教える姿を思い浮かべるのではないでしょうか。

実際には、ベテランの退職や若手の減少が進むなかで、教える人も時間も足りないという課題を抱える工場が少なくありません。個人の熱意に頼るのではなく、会社として技能を受け継ぐ仕組みをつくることが求められています。

この記事では、製造業の技能伝承の現状、受け継ぐべき技能の中身、OJT・Off-JTの使い分け、技能検定などの公的な仕組み、伝承の進め方、企業と働く人ができることという順で整理します。

目次

製造業の技能伝承とは

熟練職人の精密作業を若手が間近で学ぶ様子

技能伝承とは、熟練者が身につけた技能やノウハウを、次の世代が使える形で受け継いでいく取り組みです。加工や組立の腕前だけでなく、段取りの勘所、設備の不調に気づく感覚、品質を見きわめる目なども含まれます。

厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」によると、技能継承に問題がある事業所は全体で44.2%でした。産業別では製造業が65.8%と最も高く、建設業の59.2%がこれに続きます。製造業の3分の2の事業所が、技能継承に課題を感じていることになります。

問題の中身として多く挙がったのは、「意欲のある若者・中堅層の確保が難しい」(74.5%)と「技術・ノウハウ等の伝承に時間がかかり円滑に進まない」(60.6%)です。受け継ぐ人がいないことと、受け継ぐのに時間がかかることの両方が壁になっています。

図1:技能継承に問題がある事業所の割合(産業別)

製造業は、調査対象の産業のなかで最も高い割合です。

製造業65.8%
建設業59.2%
学術研究,専門・技術サービス業45.0%
調査対象全体44.2%
教育,学習支援業25.2%

※厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(事業所調査)より作成。

背景には、働き手の構成の変化があります。2026年版ものづくり白書によると、製造業の就業者数は2002年の1,202万人から2025年には1,033万人に減りました。同じ期間に若年層(34歳以下)の就業者は減り、65歳以上の高齢就業者は増えています。

ベテランが現役でいるうちに技能を移しておかなければ、退職とともにノウハウが失われてしまいます。技能伝承は、時間との勝負になりつつある経営課題と言えます。

受け継ぐべき技能の中身

金属部品を測定しながら技能を伝える熟練工

「技能」と一口にいっても、その中身は工場や工程によってさまざまです。切削や溶接のような加工の技能もあれば、設備を安定して動かす技能、品質の良し悪しを見分ける技能もあります。

技能伝承を進めるうえで最初に押さえたいのは、技能には「言葉や数字で書けるもの」と「書きにくいもの」があるという点です。前者は形式知、後者は暗黙知と呼ばれます。

図2:形式知と暗黙知の違い

伝え方が違うため、分けて考えると伝承の計画が立てやすくなります。

形式知
暗黙知
中身の例
作業手順、加工条件、検査基準
音や手ざわりによる判断、段取りのコツ
残し方
作業標準書、図面、マニュアル
動画、口頭の解説、一緒に作業する
身につけ方
読む・講習を受ける
くり返しの実践と振り返り
伝承の難しさ
比較的伝えやすい
時間がかかり、人に依存しやすい

※実際の技能は両方が混ざっており、暗黙知の一部は工夫しだいで形式知に変えられます。

手順として書ける技能

加工条件や作業の順番、検査の基準など、手順として書ける技能は、作業標準書やチェックシートにまとめることで伝えやすくなります。文書にしておけば、教える人が変わっても内容がぶれにくくなります。

ただし、書いた手順が現場の実態とずれていると、新人は「書いてあることと言われることが違う」と混乱します。標準書は一度つくって終わりではなく、現場で使いながら直していくものです。

勘やコツとして身についた技能

「この音がしたら刃物を替える」「この手ざわりなら仕上がりは十分」といった判断は、ベテラン本人も言葉にしにくいものです。こうした暗黙知は、一緒に作業しながら見て、試して、質問することで少しずつ移っていきます。

近年は、熟練者の作業を動画で撮り、手元の動きや判断のポイントを解説付きで残す工場も増えています。センサーで加工中のデータを取り、数値として比べられるようにする方法もあります。

段取りやトラブル対応の判断

品種の切り替えや設備の異常対応、不良が出たときの原因の見きわめも、経験がものをいう領域です。起きる頻度が低いため、若手が経験を積む機会そのものが少ないのが難しいところです。

過去のトラブルと対処を記録として残し、事例をもとに勉強会を開くといった工夫が役立ちます。「なぜそう判断したか」まで残すことが、応用の利く伝承につながります

人材育成の基本:OJTとOff-JT

工場実習と座学研修を組み合わせた人材育成

製造業の人材育成は、職場で仕事をしながら学ぶOJTと、職場を離れて学ぶOff-JTの組み合わせが基本です。どちらか一方ではなく、それぞれの得意分野を生かして使い分けます。

図3:OJTとOff-JTの違い

現場の技能はOJT、体系的な知識はOff-JTが向いています。

OJT
Off-JT
学ぶ場所
職場で実際の仕事をしながら
研修室、社外講習、訓練施設など
向いている内容
担当設備の操作、段取り、職場のルール
品質管理、安全、機械・電気の基礎理論
強み
実務にすぐ生きる
知識を体系立てて学べる
注意点
教える人の力量で差が出る
学んだことを現場で使う工夫が必要

計画的なOJT

OJTは製造業の人材育成の中心ですが、「隣で見て覚える」だけでは、教える人によって内容や進み方にばらつきが出ます。令和7年度の能力開発基本調査では、正社員に計画的なOJTを実施した事業所は60.6%でした。

育成の目標と期間、教える内容と順番、到達度の確かめ方を決めておくのが計画的なOJTです。多くの工場では、誰がどの作業をどのレベルでできるかを一覧にした「スキルマップ」をもとに、育成の計画を立てています。

教える側の力量をそろえるために、指導役向けの研修を設ける会社もあります。作業を小さな単位に分けて示し、やらせてみて、できたところを確かめるといった「教え方」そのものを学ぶことで、指導の質のばらつきを抑えられます。

体系的に学ぶOff-JT

Off-JTは、品質管理や安全衛生、機械・電気の基礎など、体系的な知識を学ぶのに向いています。2026年版ものづくり白書によると、製造業で正社員にOff-JTを実施した事業所の割合は76.0%(2024年度)で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前の水準を上回りました。

一方、正社員以外へのOff-JTの実施は29.0%(同)にとどまっています。派遣社員や期間従業員の多い現場では、雇用形態にかかわらず基礎教育を受けられるようにすることも課題です。

本人の学びを後押しする

会社が用意する研修に加えて、本人が自分で学ぶ自己啓発も欠かせません。同じ白書によれば、製造業で自己啓発を行った労働者の割合は、正社員で4割前後、正社員以外で2割未満の水準で推移しています。

資格取得の費用補助や、社内の勉強会、学習時間の確保など、学ぶ人が損をしない仕組みがあるかどうかで、自己啓発の広がり方は変わります。

技能検定と公的な仕組みの活用

技能検定の実技課題に取り組む作業者と監督者

技能伝承や人材育成は、自社の中だけで完結させる必要はありません。国や公的機関の制度を使うと、育成の目標をはっきりさせたり、指導の手を借りたりできます。

技能検定で目標をはっきりさせる

技能検定は、働くうえで必要な技能の習得レベルを評価する国家検定です。2026年3月時点で133職種あり、都道府県が111職種、指定試験機関が22職種を実施しています。機械加工や仕上げ、電子機器組立て、機械保全など、製造業に関わる職種が数多く含まれます。

等級は特級、1級、2級、3級などに分かれ、合格すると「技能士」と名乗ることができます。等級という共通の物差しがあることで、育成の目標を立てやすくなるのが大きな利点です。「入社3年で3級、5年で2級」のように、育成計画に組み込む会社もあります。

技能検定の受検は、若手にとって自分の成長を確かめる機会になるだけでなく、教える側のベテランにとっても指導の成果が見える機会になります。受検に向けた練習の時間を職場として確保できるかどうかが、合格への近道です。

ものづくりマイスターに指導を頼む

厚生労働省の「ものづくりマイスター」制度は、優れた技能と経験を持つ人をマイスターとして登録し、中小企業や教育訓練機関で若年者への実技指導を行ってもらう仕組みです。

社内に指導役が足りない中小企業にとっては、外部の熟練者から直接学べる機会になります。問い合わせ先や派遣の条件は、各都道府県の職業能力開発協会などで確認できます。

助成金で教育訓練の負担を減らす

厚生労働省の人材開発支援助成金は、従業員に職務に関連した訓練を計画に沿って行った事業主に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。OJTとOff-JTを組み合わせた訓練なども対象になります。

コースごとに要件が細かく決められているため、使う場合は最新の要領を確認し、訓練を始める前に計画を届け出る必要がある点に注意しましょう。

技能伝承の仕組みづくりの進め方

作業手順を撮影し技能伝承を仕組み化する会議

技能伝承を個人の頑張りに任せず、会社の仕組みにしていくには、次のような順番で進めるのが一般的です。

図4:技能伝承の仕組みづくりの流れ

見える化、伝える、定着させるの3つの段階に分かれます。

見える化
01技能の棚卸し工程ごとに必要な技能を洗い出し、一覧にする
02スキルマップ作成誰がどの技能をどのレベルでできるかを整理する
03優先順位づけ退職時期や難しさから、急ぐべき技能を選ぶ
伝える
04教える人を決める熟練者と若手を組み合わせ、時間を確保する
05教材をつくる標準書や動画、事例集にまとめる
06計画的に教えるOJTとOff-JTを組み合わせて進める
定着させる
07到達度を確かめる実技の確認や技能検定で習得度を見る
08評価と見直し処遇に反映し、計画と教材を更新する

※規模の小さい職場では、急ぐ技能に絞って小さく始めるのが現実的です。

大切なのは、最初から完璧な仕組みを目指さないことです。まずは一つの工程や一人のベテランの技能から始め、うまくいったやり方をほかの工程へ広げていくほうが、現場の理解も得やすくなります。

見える化:何を誰から誰へ伝えるかを決める

最初に行うのは、工程ごとに必要な技能を洗い出し、スキルマップにまとめることです。その技能を持っている人が何人いて、いつごろ退職するかを並べると、急いで伝えるべき技能が見えてきます。

一人しかできない作業や、ベテランの退職が近い工程から優先するのが基本です。すべてを一度に進めようとすると、現場の負担が大きくなり長続きしません。

伝える:教える人と時間を確保する

技能伝承がうまくいかない理由として多いのが、教える側に時間がないことです。熟練者は現場の要でもあるため、生産を回しながら片手間で教えることになりがちです。

教える時間を業務としてあらかじめ計画に入れ、指導役の負担を評価にも反映することが大切です。教材づくりは、熟練者の話を若手や技術スタッフが聞き取り、まとめ役を担うと進めやすくなります。

定着させる:確かめて、見直す

教えた内容が身についたかは、実技の確認や社内認定、技能検定などで確かめます。できるようになった技能をスキルマップに反映し、処遇や役割に結びつけることで、学ぶ側の意欲も続きやすくなります。

標準書や教材は、設備の更新や工程の変更に合わせて見直しが必要です。仕組みを回し続けること自体が、技能伝承の一部と言えます。

企業の取り組み・働く人ができること

世代を超えて改善案を話し合う工場の作業者たち

最後に、技能伝承を進めるうえで企業ができること、そして教える側・学ぶ側それぞれができることを整理します。

企業の取り組み

令和7年度の能力開発基本調査で、技能継承のために事業所が行っている取組として多かったのは、中途採用を増やすこと(56.2%)と、退職者を雇用延長や再雇用によって指導者として活用すること(54.7%)でした。技能やノウハウの文書化・データベース化は22.0%にとどまります。

図5:技能伝承を支える3つの取り組み

人・仕組み・道具の3つをそろえると、伝承が進みやすくなります。

指導役の確保再雇用のベテランや外部の熟練者を指導に生かす
育成の仕組みスキルマップと育成計画、評価への反映をそろえる
記録の道具標準書や動画、データで技能を残して共有する
再雇用のベテランに頼るだけでは時間に限りがあるため、文書化やデータ化と並行して進めることが大切です。

ベテランの再雇用は即効性がある一方、いずれは時間切れになります。人に頼る伝承と、記録に残す伝承を並行して進めることが、長く続く仕組みにつながります。設備のデータを集めるスマートファクトリーの取り組みも、技能を数値で残す手段として役立ちます。

教える側ができること

ベテランの側からは、自分のやり方の「理由」を言葉にすることが一番の貢献になります。手順だけでなく、なぜその順番なのか、何を見て判断しているのかを伝えると、若手は応用が利くようになります。

教えることは、自分の技能を見直す機会にもなります。後進の育成は、製造オペレーターのキャリアで班長や指導員へ進むうえでも評価される経験です。

学ぶ側ができること

若手の側は、教わるのを待つだけでなく、わからないことをその場で聞き、メモや写真で記録に残す習慣が大切です。自分なりの作業ノートをつくることが、次に教える側へ回ったときの財産になります。

担当分野の技能検定を目標にすると、日々の作業で何を意識すればよいかがはっきりします。設備の不調に気づく力を伸ばしたい人は、設備保全の仕事の考え方も参考になるでしょう。

まとめ

この記事のまとめ
  • 技能伝承とは、熟練者の技能やノウハウを次の世代が使える形で受け継ぐこと
  • 技能継承に問題がある事業所は製造業で65.8%と、産業別で最も高い
  • 書ける形式知と書きにくい暗黙知を分け、伝え方を変えることが大切
  • 計画的なOJTとOff-JT、技能検定や公的な制度を組み合わせて育成する
  • 見える化・伝える・定着させるの順で、人と記録の両面から仕組みにする

技能伝承は、若手の育成やキャリアづくりとも深く関わります。職種ごとの成長の道筋は製造業のキャリアパス、デジタル技術の学び直しについては製造業のリスキリングとDX人材の記事もあわせて参考にしてください。

働き方や採用など、製造業で働く人に関わるテーマについては、人・キャリアのページから関連記事もあわせてご覧ください。

出典

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この記事を書いた人

BtoB製造業特化のWebマーケター。プラント業界にてエンジニアを10年経験した後、マーケティングの分野へ。工業技術ブログ「エネ管.com」を2017年から運営し、月間20万PVを達成。保有資格はエネルギー管理士、第三種電気主任技術者。

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