2026年10月22日、耐火物大手の品川リフラは、グループ会社を含む国内3拠点の生産能力を増やす総額約8.5億円の設備投資を発表しました。対象は半導体製造装置に使うセラミックス部品の焼成炉と精密加工設備、そして高温の工程で使う断熱材の製造設備です。
品川リフラは、製鉄所の炉の内側に張る耐火物(高温に耐えるレンガや材料)で知られ、売上の多くを鉄鋼業界に頼ってきた会社です。そうした会社がなぜ半導体関連の設備に資金を投じるのかを、公開資料の数字から読み解くのがこの記事の焦点です。
この記事では、投資3件の中身と稼働時期、品川リフラの事業構成、耐火物メーカーが半導体に向かう理由、装置の中でセラミックスが使われる場所、今回の投資の位置づけを順に整理します。最後に、取引先や就職先として見るときのポイントもまとめます。
品川リフラの設備投資8.5億円の中身

今回の投資は3件に分かれ、金額は備前工場が約2億円、瀬戸内工場が約3億円、グループ会社のイソライト工業が約3.5億円です。稼働はいずれも2027年の4月から7月にかけてで、3か月ほどの間に3つの設備が順に動き出します。
| 拠点 | 投資の内容 | 主な目的 | 投資額 | 稼働開始 |
|---|---|---|---|---|
| 備前工場(岡山県備前市) | 高温焼成シャトル炉の増設 | 半導体製造装置向けセラミックスの焼成能力を倍増 | 約2億円 | 2027年7月 |
| 瀬戸内工場(岡山県瀬戸内市) | 高精度加工設備の新設 | 半導体製造装置向けセラミックスの高精度加工能力の増強と内製化 | 約3億円 | 2027年4月 |
| イソライト工業 | PCW成形・焼成設備の増強 | 半導体関連など先端産業向けの高機能断熱材の増産 | 約3.5億円 | 2027年7月 |
3件は同じ「半導体向け」でも、狙っている製品が違います。備前と瀬戸内の2件は半導体製造装置に組み込むファインセラミックス部品の増産で、イソライト工業の1件は高温の工程で炉などに使う断熱材の増産です。
焼く・削る・断熱材をつくる、の3つの工程の能力をまとめて増やします。
※出典:品川リフラ プレスリリース(2026年10月22日)。合計は約8.5億円。
焼成能力を倍増する備前工場
備前工場では、高温で焼き固めるシャトル炉を増設し、半導体製造装置向けセラミックスの焼成能力を倍増させます。シャトル炉は、製品を載せた台車を炉に出し入れして1回ずつ焼く方式の炉で、形や大きさの異なる部品を少量ずつ焼くのに向いています。
セラミックス部品は、粉を固めた成形体を炉で焼いて初めて硬い部品になるため、焼成炉の数がそのまま生産量の上限を決めます。会社はこの増設で、半導体製造装置向けを中心とするファインセラミックスの需要に応え、安定供給の体制を固めるとしています。
精密加工を内製化する瀬戸内工場
瀬戸内工場には高精度の加工設備を新設し、半導体製造装置向けの精密加工部品の需要増に備えます。品川リフラは、生産と供給の能力を確保すると同時に加工の内製化を進め、技術と生産の基盤を強化すると説明しています。
焼いたあとのセラミックスは硬く、装置に組み込む寸法に仕上げるには、ダイヤモンド工具で削る研削や研磨が欠かせません。外部に頼っていた加工を社内に取り込めば、納期や品質を自社で管理しやすくなります。
イソライト工業の高機能断熱材
3件目は、断熱材を担うグループ会社イソライト工業で、PCW成形品をつくる成形・焼成設備を増強します。PCW(Polycrystalline Wool、多結晶質繊維)はアルミナを主成分とする耐熱性の高い人造の鉱物繊維で、工業炉などの断熱材に使われます。
会社によれば、半導体関連などの先端産業では、高温の生産工程で使う高機能断熱材の需要が伸びています。こちらは装置の部品そのものではなく、製造ラインの高温設備を支える材料として需要を取り込む投資です。
品川リフラはどんな会社か|売上の6割は耐火物

品川リフラは1875年(明治8年)創業の東証プライム上場企業で、耐火物の製造販売、工業窯炉の設計施工、ファインセラミックスの製造販売などを手がけます。2025年10月に創業150周年を機に社名を変更し、それまでの品川リフラクトリーズから品川リフラになりました。
2026年3月期の連結売上高は1,777億円で、前の期から23.4%増えました。オランダの耐火物会社Goudaやブラジルのエンジニアリング会社Reframaxを買収し、その売上が加わったことが増収の主な理由です。
半導体向けのファインセラミックスを含む先端機材は、まだ売上の2%台です。
※出典:品川リフラ 有価証券報告書(2026年3月期)。構成比は報告セグメント計1,786億円を分母に編集部が計算(連結売上高1,777億円とは調整額の分だけ異なる)。先端機材のセグメント損益は1.15億円の損失。
売上の柱は耐火物で、全体の6割を占めます。半導体関連のファインセラミックスは先端機材セグメントに入っていますが、先端機材の売上は41億円、構成比は2.3%で、2026年3月期はセグメント損失でした。今回の投資は、この小さな事業を育てるための増強です。
鉄鋼業界への依存が大きい
耐火物は、製鉄所の高炉や転炉、溶けた鉄を運ぶ取鍋(とりべ)の内側に張られ、1,000℃を大きく超える熱から設備を守ります。溶けた鉄やスラグに触れて少しずつ削れていく消耗品なので、製鉄所が鉄をつくるほど耐火物の需要も増える関係にあります。
鉄をつくる炉の構造や反応は高炉と転炉のしくみで詳しく扱っており、耐火物がどこで傷みやすいかを知る手がかりになります。
売上のおよそ10分の3が、1社の鉄鋼メーカー向けです。
10個中3個:JFEスチール向けが販売実績の29.9%(530億円)
※出典:品川リフラ 有価証券報告書(2026年3月期)の主要な相手先別販売実績。構成比は同報告書の記載どおり。このほか神戸製鋼所向けが8.0%(142億円)。
有価証券報告書によると、販売実績の29.9%がJFEスチール向け、8.0%が神戸製鋼所向けで、同社も販売の多くを鉄鋼業界に依存していることを事業リスクに挙げています。海外の耐火物会社の買収も、国内の鉄鋼需要だけに頼らないための動きと読めます。
耐火物メーカーが半導体に向かう3つの理由
鉄鋼向けの会社が半導体関連に資金を投じる背景は、次の3つに整理できます。ここでは会社の発表と有価証券報告書の記述をもとに、業界の一般的な事情と分けて見ていきます。
- 主要顧客である鉄鋼の生産量が減り続けている
- 粉を固めて焼く技術が、耐火物とファインセラミックスで共通している
- 高温の断熱技術が、半導体関連の工程でも求められている
主要顧客の鉄鋼が縮んでいる
日本鉄鋼連盟の発表では、2025年度の国内粗鋼生産量は8,033万トンで、前年度から3.2%減りました。減少は4年連続で、1968年度以来57年ぶりの低い水準です。ピークだった2007年度の1億2,151万トンと比べると、3分の2ほどまで縮んでいます。
資材高による国内の建設需要の落ち込みや、中国の過剰な輸出による市況の悪化が背景にあり、短期間で元に戻る見通しは立っていません。鉄鋼業界の数字の動きは鉄鋼・非鉄金属業界の市場規模と動向にまとめています。耐火物の需要は鉄の生産量に連動するため、国内だけでは伸ばしにくい事業環境です。
粉を固めて焼く技術が共通している
耐火物もファインセラミックスも、原料の粉を形にして高温の炉で焼き固め、必要に応じて削って仕上げるという同じ骨組みの工程でつくります。品川リフラ自身も、耐火物・断熱材・ファインセラミックスにまたがるセラミックスの材料・製造・加工技術を強みに挙げています。
耐火物もファインセラミックスも、粉を成形して焼き、削って仕上げる流れは同じです。
※工程は一般的なセラミックス製造の流れ。拠点と強化内容は品川リフラ プレスリリース(2026年10月22日)による。
粉の扱い方や焼成時の温度管理、焼くと寸法が縮む性質への対応は、どちらにも通じるノウハウです。工程ごとの考え方はセラミックスの製造工程で詳しく解説しています。
ただし、同じ骨組みでも求められる水準は大きく違います。耐火物は炉を守る消耗品、ファインセラミックスは装置に組み込む精密部品で、純度や寸法の精度、検査の厳しさが別物です。
つくり方の骨組みは同じでも、使われ方と求められる精度が異なります。
※一般的な特徴を整理したもの。売上構成比は図2と同じ(2026年3月期、報告セグメント計が分母)。
高温の断熱技術も使える
3つ目の理由は断熱材です。品川リフラはイソライト工業を通じて工業炉向けの断熱材を手がけており、会社は半導体関連などの先端産業で、高温の工程に使う高機能断熱材の需要が拡大していると説明しています。
耐火物で培った「高温から設備を守る」技術を、鉄鋼以外の高温設備に広げる動きといえます。ファインセラミックスが装置の部品を狙うのに対し、断熱材は製造ラインを支える材料として、同じ成長市場の別の入り口を押さえる形です。
半導体製造装置でセラミックスはどこに使われるか

半導体はシリコンの円板(ウエハー)の上に、成膜・露光・エッチングなどの工程を何十回も繰り返してつくります。その装置の内部は真空でプラズマや熱にさらされる過酷な環境で、金属では耐えにくい場所にセラミックスの部品が使われます。工程の全体像は半導体の前工程の流れで確認できます。
ウエハーを持つ・囲む・温める・のぞく、の各場面でセラミックスが使われます。
※出典:矢野経済研究所(2025年11月6日)の調査対象品目、EE Times Japan(2026年8月31日)の京セラ取材記事、ナノテクノロジープラットフォームの利用報告書(東北大学)をもとに編集部が整理。品川リフラが各部品を手がけているかは公表情報では確認できない。
材料はアルミナ、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ジルコニアなどで、使う場所の温度やプラズマの種類で選び分けます。材料ごとの特徴はファインセラミックスの用途と種類で比べています。
熱を逃がす部品に使う窒化アルミニウムでは、トクヤマの窒化アルミニウム増産のように、部品の材料をつくる原料メーカー側の増強も進んでいます。
京セラは2026年8月の説明会で、半導体の後工程などの高度化により、これまで金属系の材料で足りていた場所でもセラミックスが必要になる例が増えていると説明しました。同社によると、装置向けの構造部品で同社のシェアは40〜50%に達します。
市場は2030年に1.6兆円の予測
矢野経済研究所の推計では、半導体製造装置向けファインセラミックス部材の世界市場は、2024年の9,514億円から2030年には1兆6,659億円まで拡大する見通しです。
伸びの理由には、AIを使うパソコンやスマートフォン、データセンター向けの半導体需要と、各国の半導体支援策が挙げられています。装置にはより高い強度や耐熱性、耐プラズマ性が求められ、セラミックス部材の採用が増えるとみられています。
2024年から2030年にかけて、およそ1.75倍に広がる予測です。
※出典:矢野経済研究所 プレスリリース(2025年11月6日)。事業者販売額ベース。対象は静電チャック、セラミックヒーター、ドーム、チャンバー、フォーカスリングなど。業界全体の予測で、品川リフラの受注や業績の見通しではない。
この予測は業界全体の数字で、品川リフラの受注を約束するものではありません。半導体の市場には数年おきに好不況の波があり、同社自身も2025年度は顧客の投資時期の変更と在庫調整で、半導体製造装置関連の製品の販売数量が減ったと報告しています。
今回の投資の位置づけ|瀬戸内工場から続く増強
今回の8.5億円は、2026年2月に30億円をかけて完成させた瀬戸内工場を起点に、焼成と加工の能力を段階的に積み増す流れの一部です。
瀬戸内工場は敷地1万6,870平方メートルで、クリーンルームや三次元測定機を備え、ファインセラミックスの精密加工と検査を担います。今回の加工設備の新設は、この工場の能力をさらに広げる投資です。
今回の投資は、瀬戸内工場の完成と2030年の目標をつなぐ位置にあります。
※出典:品川リフラ 有価証券報告書(2026年3月期)、同社プレスリリース(2026年10月22日)、LOGISTICS TODAY(2026年2月19日)、同社「先端機材セクターの成長戦略について」(2024年12月16日)。
瀬戸内工場の完成を伝えた2026年2月の報道によると、同社は2030年までにファインセラミックスの生産量と売上高を現在の2.5倍以上にする計画です。
会社の資料では、2024年12月の発表で、先端機材セクターの2030年度の売上高を2023年度の35億円から約2.6倍の90億円に伸ばす計画を示しています。2026年3月期の先端機材の設備投資19億円も、主に瀬戸内工場の製造設備に充てられています。
今回は、焼成(備前)と加工(瀬戸内)の能力を同じ時期に増やす点が特徴です。焼く量と削って仕上げる量の両方をそろえて増やすことで、2030年の目標に向けた供給力を段階的に整える形になっています。

取引先・就職先として見るときのポイント
ここからは、公開情報で確認できる事実と、そこから読み取れる見立てを分けて整理します。数字の確認には、同社の有価証券報告書と決算説明資料が一次情報になります。
購買・営業の立場から
半導体製造装置メーカーや部品を調達する側から見ると、国内に焼成と精密加工の両方の能力を持つ供給元が増えることになります。加工を内製に切り替えれば、外注先との調整が減って納期の見通しが立てやすくなり、品質の責任も1社にまとまります。
一方で、どの装置メーカー向けにどの部品を増やすのかは公表されていません。取引を検討するなら、扱える材料や部品の大きさ、加工精度、検査体制を個別に確かめる必要があります。
就職・転職の立場から
品川リフラは、鉄鋼向け耐火物という規模の大きい事業を持ちながら、半導体関連の小さな事業を育てている段階の会社です。先端機材セグメントの従業員は186名で、連結9,089名のごく一部にとどまります。
今回の投資で関わりが深いのは、焼成条件を詰める生産技術、ミクロン単位の加工を担う技術者、寸法や異物を確かめる品質保証の仕事です。耐火物で培った知見を新しい市場で試す立場になるため、成長事業に関わりたい人には検討の余地があります。
ただし先端機材は2026年3月期にセグメント損失で、半導体市場の波の影響も受けます。応募を考えるなら、事業ごとの業績の推移と配属先の事業を確かめておくと実態がつかめます。業界や職種を広げて働く場所を比べるなら、製造業で働く人の転職・キャリアガイドで選び方を整理しています。

品川リフラの設備投資のよくある質問
品川リフラと品川リフラクトリーズは同じ会社ですか?
同じ会社です。品川リフラクトリーズは、創業150周年を迎えた2025年10月に社名を品川リフラ株式会社へ変更しました。
今回の設備はいつから稼働しますか?
瀬戸内工場の高精度加工設備が2027年4月、備前工場の焼成炉とイソライト工業の断熱材設備が2027年7月に稼働する予定です。投資額は合計で約8.5億円です。
イソライト工業はどんな会社ですか?
品川リフラのグループ会社で、断熱材セクターを担っています。工業炉の内張りなどに使うPCW(多結晶質繊維)の断熱材を手がけ、今回はその成形・焼成設備を増強します。
品川リフラの売上のうち半導体関連はどのくらいですか?
半導体関連だけの売上は公表されていません。ファインセラミックスを含む先端機材セグメントの売上高は2026年3月期で41億円、報告セグメント計に占める割合は2.3%です。
まとめ
- 品川リフラは2026年10月22日、国内3拠点で総額約8.5億円の設備投資を発表した
- 備前工場の焼成炉と瀬戸内工場の加工設備は半導体製造装置向けセラミックス、イソライト工業は高機能断熱材の増強
- 売上の6割は耐火物で、JFEスチール向けが販売実績の29.9%を占めるなど鉄鋼への依存が大きい
- 国内の粗鋼生産は57年ぶりの低水準で、粉を焼き固める技術を半導体関連に広げる動き
- 瀬戸内工場(30億円)に続く増強で、2030年にファインセラミックスを2.5倍以上にする計画(報道)
素材メーカーが半導体関連に事業を広げる動きは、品川リフラに限りません。関連する職種では生産技術、技術テーマでは半導体製造の記事が、今回の投資の背景を理解する助けになります。
セラミックス業界の企業や勢力図は、窯業・セラミックスの業種ページから関連記事もあわせてご覧ください。業界の商流ともうけの構造は窯業・セラミックス業界の構造、製造業全体の投資計画は製造業の設備投資2026年度計画で確かめられます。
出典
出典・参考資料(8件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 設備投資の内容:品川リフラ「半導体関連分野をはじめとする成長市場の需要拡大に対応した設備投資に関するお知らせ」(PR TIMES、2026年10月22日)
- 売上高・セグメント・主要顧客・社名変更・従業員数:品川リフラ 有価証券報告書(2026年3月期、EDINET掲載テキスト)
- 先端機材セクターの2030年度目標(売上高90億円):品川リフラクトリーズ「先端機材セクターの成長戦略について」(2024年12月16日)
- 瀬戸内工場の完成と、ファインセラミックスを2030年までに2.5倍以上にする計画(報道ベース。会社資料では確認できず):LOGISTICS TODAY 品川リフラの瀬戸内工場完成に関する記事(2026年2月19日)
- 国内粗鋼生産量:秋田魁新報(共同通信配信)「粗鋼生産量57年ぶり低水準 25年度、中国過剰生産響く」(2026年4月22日、日本鉄鋼連盟の発表)
- 市場規模:矢野経済研究所「半導体製造装置向けファインセラミックス部材世界市場に関する調査」(2025年11月6日)
- 装置用セラミックスの使われ方:EE Times Japan「半導体高度化で出番が増える 京セラの装置用セラミックス」(2026年8月31日)
- チャンバー部材の耐プラズマ性:ナノテクノロジープラットフォーム 利用報告書「セラミックスのプラズマ耐性評価」(東北大学 未来科学技術共同研究センター、2021年)
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