石灰水に二酸化炭素を通すと白濁→透明になる理由|反応式と工場での石灰

浄水場の薬品棟に並ぶ消石灰スラリー槽と炭酸ガスボンベ

石灰水に二酸化炭素を通すと、水に溶けにくい炭酸カルシウム CaCO3 ができて白く濁ります。さらに通し続けると、炭酸カルシウムが二酸化炭素と水と反応して水に溶ける炭酸水素カルシウム Ca(HCO3)2 に変わり、液はもとの石灰水とは別の水溶液として透明に戻ります。

この2つの反応は、理科の実験だけのものではありません。浄水場で水道管を傷めない水に整える工程や、ボイラー・配管に付く白いスケール、紙やゴムに混ぜる炭酸カルシウムの製造にも、同じ化学がそのまま出てきます。

この記事では、石灰水の正体、白濁と透明化の反応式と量の計算、鍾乳洞との関係を順に確かめます。後半では、二酸化炭素の確かめ方と測り方、工場での消石灰と石灰石の使われ方、水の硬度とスケールの管理まで、現場で役立つ形で整理します。

目次

そもそも石灰水とは?消石灰(水酸化カルシウム)の飽和水溶液

石灰水は、消石灰(水酸化カルシウム Ca(OH)2)を水に溶けるだけ溶かした飽和水溶液です。「石灰」と呼ばれる物質には生石灰(酸化カルシウム CaO)と消石灰の2つがありますが、石灰水として働いているのは消石灰が溶けてできたカルシウムイオンと水酸化物イオンです。

生石灰に水を加えても石灰水はつくれます。生石灰は水と激しく反応して熱を出しながら消石灰に変わるためで、この反応は「消和」と呼ばれ、百科事典では1 mol あたり15.2 kcal(約64 kJ)の発熱と書かれています。

生石灰と水の反応(消和)
CaO + H2O → Ca(OH)2 ΔH ≒ −64 kJ/mol
消石灰が水に溶けたときの電離
Ca(OH)2 → Ca2+ + 2OH−
ΔH は反応で出入りする熱で、マイナスは発熱を表します(15.2 kcal × 4.184 ≒ 63.6 kJ)。石灰水の中には Ca2+ と OH− が溶けていて、OH− が二酸化炭素と反応する相手になります。

実験で使う石灰水は、消石灰を水に入れてよく振り、溶け残りを沈めてから上澄みかろ過した液を取ります。消石灰は水に少ししか溶けないので、溶け残りがあるのは失敗ではなく、飽和している目印と考えてかまいません。

生石灰は水を強く吸うので、お菓子や海苔の袋に入る乾燥剤にも使われ、その性質は乾燥剤の選び方でも塩基性の乾燥剤として扱っています。石灰石から生石灰、消石灰、石灰水へと形を変える流れを、熱や水、二酸化炭素の出入りとあわせて図1にまとめます。

図1:石灰石・生石灰・消石灰・石灰水のつながり

焼くと二酸化炭素が抜け、水を足すと消石灰になり、二酸化炭素を吸うと炭酸カルシウムに戻ります。

石灰石生石灰消石灰石灰水CaCO₃CaOCa(OH)₂飽和水溶液焼く(900℃以上)CO₂ が抜ける水を加える発熱(消和)水に溶かす上澄みを取るCO₂ を吸うと炭酸カルシウムに戻る(白濁の反応)

※焼成温度と消和の発熱はコトバンク「酸化カルシウム」(日本大百科全書・世界大百科事典)による。

二酸化炭素を加えると白濁する反応

石灰水に二酸化炭素を通して白く濁るのは、塩基の水酸化カルシウムと、水に溶けると炭酸として働く二酸化炭素が中和し、水にほとんど溶けない炭酸カルシウムが沈殿するためです。全体の反応式は次のとおりで、↓は沈殿を表します。

白濁の反応(全体の式)
Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3↓ + H2O
イオンに分けて書くと(2段階)
CO2 + 2OH− → CO32− + H2O
Ca2+ + CO32− → CaCO3↓
全体の式は左右で Ca 1個、C 1個、O 4個、H 2個がそろっています。2つのイオン反応式を足すと Ca2+ + 2OH− + CO2 → CaCO3↓ + H2O になり、左辺の Ca2+ と 2OH− をまとめて Ca(OH)2 と書いたものが全体の式です。

イオンに分けると、OH− が二酸化炭素を炭酸イオンに変え、その炭酸イオンが Ca2+ とくっついて固体になる2段階だと分かります。こうした書き分けはイオン反応式の書き方と同じで、沈殿ができるかどうかを溶けやすさで考える見方は金属イオンの沈殿反応とも共通しています。

溶けやすさの差は数字で見るとはっきりします。PubChem によると、水酸化カルシウムは20℃の水1 L に1,730 mg 溶けますが、炭酸カルシウムは25℃で14 mg しか溶けず、溶ける量はおよそ120分の1です。

液が牛乳のように白く見えるのは、できた炭酸カルシウムの細かい結晶が水の中に漂い、光をあちこちに散らすからです。水の濁りを光の散らばり方で数える考え方は、濁度の測定原理で詳しく扱っています。

では、どれくらいの二酸化炭素で白濁するのでしょうか。20℃の飽和石灰水100 mL を例に、溶けている水酸化カルシウムの量から必要な二酸化炭素の体積を計算すると、次のようになります。

① 石灰水100 mL に溶けている水酸化カルシウム
1,730 mg/L × 0.100 L = 173 mg → 0.173 g74.09 g/mol ≒ 2.33 mmol
② 全部を炭酸カルシウムにする二酸化炭素(1:1で反応)
2.33 mmol × 22.4 mL/mmol ≒ 約52 mL(0℃・1気圧)
③ 空気(CO2 423.9 ppm)で同じ量を入れる場合
52 mL0.0004239 ≒ 123,000 mL = 約120 L
原子量 Ca 40.08、O 16.00、H 1.008、C 12.01 で計算。できる炭酸カルシウムは 2.33 mmol × 100.09 g/mol ≒ 0.23 g で、100 mL に溶けられる量(約1.4 mg)をはるかに超えるので、ほとんどが沈殿します。二酸化炭素が全部反応すると仮定した理想値です。

空気中の二酸化炭素は2024年の世界平均で423.9 ppm(気象庁、WMO 温室効果ガス年報)と薄いため、空気にさらした石灰水はゆっくりとしか濁りません。開けっぱなしの石灰水の表面に白い膜ができるのは、この反応が少しずつ進んだ結果で、石灰水を密栓して保存する理由でもあります。

二酸化炭素を加え続けると再び透明になる反応

白濁した液にさらに二酸化炭素を通すと、液は再び透明になります。ただし、もとの石灰水に戻ったわけではなく、沈殿した炭酸カルシウムが余分な二酸化炭素と水と反応して、水に溶けた炭酸水素カルシウムに変わったのが透明化の正体です。

透明化の反応(平衡)
CaCO3 + CO2 + H2O ⇄ Ca(HCO3)2
イオンで書くと(炭酸イオンが炭酸水素イオンに変わる)
CaCO3 + CO2 + H2O ⇄ Ca2+ + 2HCO3−
白濁と透明化を足した全体の式
Ca(OH)2 + 2CO2 → Ca(HCO3)2
左右で Ca 1個、C 2個、O 6個、H 2個がそろっています。透明になるまでには、白濁に使った量と同じだけの二酸化炭素がもう一度必要で、100 mL の飽和石灰水なら合計約105 mL(0℃・1気圧)です。

二酸化炭素を吹き込み続けると、水に溶けた二酸化炭素が炭酸として働き、沈殿の表面にある炭酸イオン CO32− に水素イオンを渡して炭酸水素イオン HCO3− に変えます。PubChem も、炭酸カルシウムの水への溶けやすさは二酸化炭素があると増えると記しています。

炭酸水素カルシウムは固体として取り出すことができず、二酸化炭素を多く含む水の中にだけ溶けた形で存在します。そのため溶解度を数字で比べにくく、表では「水溶液でだけ存在する」と書き分けました。

比べる観点水酸化カルシウム(消石灰)炭酸カルシウム炭酸水素カルシウム
化学式Ca(OH)2CaCO3Ca(HCO3)2
水への溶けやすさ1,730 mg/L(20℃)14 mg/L(25℃)固体として取り出せず、CO2 を含む水に溶けた形でだけ存在
石灰水の実験での姿はじめの透明な液白濁の正体(沈殿)透明に戻った液
現場で出てくる場面排水の中和剤、浄水の pH 調整、しっくい石灰石、スケール、紙やゴムの充てん材硬水の一時硬度、鍾乳洞をつくる地下水
出典:PubChem「Calcium hydroxide」「Calcium carbonate」(HSDB)をもとに作成

この反応は ⇄ で表す平衡なので、条件しだいで逆向きにも進みます。加熱したり、置いておいて二酸化炭素が抜けたりすると、ルシャトリエの原理どおり平衡は左へ移り、透明に戻った液から再び炭酸カルシウムが出てきます。

図2:二酸化炭素の量で変わる石灰水の3つの状態

透明→白濁→透明と見た目は戻っても、溶けている物質は入れ替わっています。

透明白く濁る透明に戻る+CO₂+CO₂Ca²⁺・OH⁻CaCO₃ の沈殿Ca²⁺・HCO₃⁻中和で沈殿溶けて消える加熱や CO₂ が抜けると逆向きに進み、再び濁る

※100 mL の飽和石灰水(20℃)なら、白濁までに約52 mL、透明に戻るまでに合計約105 mL の CO₂(0℃・1気圧換算)が理論上必要です。

自然界では、この反応が長い時間をかけて鍾乳洞をつくります。二酸化炭素を含んで酸性になった雨水や地下水が石灰岩(炭酸カルシウム)を少しずつ溶かす過程が「透明化」の向きで、溶けた分が運び去られて地下に大きな空間ができます。

洞窟の天井から落ちる水滴では、二酸化炭素が空気中へ抜けて反応が逆向きに進み、炭酸カルシウムが再び結晶になります。これが鍾乳石で、JST のサイエンスポータルによると平均すると100年で1 cm ほどしか伸びません。

溶ける向きと結晶に戻る向きが場所によって入れ替わるのが、鍾乳洞と石灰水の実験に共通する点です。同じ逆向きの反応は、工場ではボイラーや配管のスケールとして現れ、後の章で詳しく扱います。

実験・分析の現場で二酸化炭素を確かめる方法

石灰水の白濁は、気体が二酸化炭素かどうかを確かめる最も手軽な方法です。ただし分かるのは「あるかないか」までで、濃度を数字で知りたい場面では別の測り方を選びます。ここでは、確かめたいことごとに方法を分けて見ていきます。

石灰水で二酸化炭素かどうかを確かめる

実験室で二酸化炭素をつくるときは、石灰石や大理石(炭酸カルシウム)に希塩酸を加えます。気体の発生を止めたり再開したりできるキップの装置は、この反応で二酸化炭素を得る代表的な器具です。

二酸化炭素の発生(実験室)
CaCO3 + 2HCl → CaCl2 + H2O + CO2↑
左右で Ca 1個、C 1個、O 3個、H 2個、Cl 2個がそろっています。出てきた気体を石灰水に通し、白く濁れば二酸化炭素と判断できます。

石灰水で調べるときは、気体を少しずつ通して濁りを見ます。勢いよく大量に通すと、途中で透明化まで進んで濁りを見逃しやすいからで、濁ったあとに透明になっても二酸化炭素がある証拠として読めます。

濃度を数字で測る:検知管と赤外線式の分析計

作業環境の管理では、二酸化炭素の濃度に法令の基準があります。事務所衛生基準規則は、室内の二酸化炭素を5,000 ppm 以下、空気調和設備から送る空気を1,000 ppm 以下とし、測定機器として検知管方式の二酸化炭素検定器を挙げています。

検知管は、ガラス管に詰めた試薬が二酸化炭素と反応して色が変わる長さで濃度を読む器具で、その場ですぐ測れるのが強みです。連続して濃度を記録したい空調・発酵・ガス製造などの現場では、二酸化炭素が特定の赤外線を吸収する性質を使う分析計が使われます。

赤外線式の分析計は、濃度が分かっている標準ガスで目盛りを合わせて初めて正しい値を出します。気象庁の大気観測でも、濃度の異なる4本の標準ガスを試料の合間に測って検量線をつくり、計器の出力を濃度に換算しています。

図3:確かめたいことで選ぶ二酸化炭素の調べ方

「あるか」を見るのが石灰水、「どれだけあるか」を測るのが検知管と分析計です。

石灰水分かること:気体が CO2 かどうか。白く濁れば CO2。濃度は分からない
検知管分かること:その場の濃度。色が変わった長さで ppm を読む。作業環境の測定に使う
赤外線式の分析計分かること:濃度の連続した変化。CO2 が赤外線を吸う量から求める
標準ガスで校正分かること:測った値が正しいか。濃度既知のガスで検量線をつくり直す

※事務所衛生基準規則(第3条・第5条・別表)、気象庁「温室効果ガスの観測方法」をもとに作成。

計器の値を信じられるかどうかは、校正の記録で決まります。計測器の校正周期の決め方と同じく、標準ガスの有効期限や校正した日を台帳で管理しておくと、異常値が出たときに計器の問題か現場の変化かを切り分けやすくなります。

実際の工場では:消石灰と石灰石の使われ方

石灰水の主役である消石灰と、白濁の正体である炭酸カルシウム(石灰石)は、どちらも国内で大量に使われる工業原料です。ここでは、何を処理するために使うのか、石灰や二酸化炭素がどう働くのか、現場で何を管理するのかの順に見ていきます。

石灰石から生石灰・消石灰をつくる

生石灰は、石灰石を900〜1000℃に熱して二酸化炭素を追い出してつくります。図1の左向きの矢印にあたる反応で、石灰を使う工程の裏側には、石灰石から二酸化炭素が出る工程があることが式の重さの計算から分かります。

石灰石の焼成(熱分解)
CaCO3 → CaO + CO2↑
石灰石1 t を焼いたときの量(純粋な炭酸カルシウムとして)
生石灰:1 t × 56.08100.09 ≒ 0.56 t 二酸化炭素:1 t × 44.01100.09 ≒ 0.44 t
56.08 は CaO、44.01 は CO2、100.09 は CaCO3 の式量です。燃料を燃やして出る二酸化炭素はこれとは別に加わります。

石灰炉は化学工場の中にもあります。ソルベー法(アンモニアソーダ法)では、石灰炉で出た二酸化炭素を炭酸ナトリウムの原料に使い、残った生石灰を水で消化した石灰乳でアンモニアを回収します。石灰水の化学が、工程の中で原料の出し入れとして回っている例です。

石灰石鉱業協会の見込みでは、2025年度の石灰石の出荷は1億1,240万トンで、そのうち6割強がセメントや骨材などの建設関連、約2割が鉄鋼関連です。製鉄所では、高炉で鉄鉱石の不純物をスラグとして取り除く副原料にも石灰石が使われます。

図4:石灰石の用途別出荷量(2025年度見込み、百万トン)

出荷の6割強は建設関連で、鉄鋼関連と化学・石灰などのその他が続きます。

建設関連鉄鋼関連その他70.824.117.5合計 112.4 百万トン

※石灰石鉱業協会「石灰石の2025年度需給見込み及び2026年度需給見通し【概要版】」(2026年3月18日)。生産量の見込みは112.9百万トン。

排水の中和・ふっ素の除去と排煙脱硫

工場の酸性排水を中和する薬品には、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)と並んで生石灰・消石灰がよく使われます。神戸市の排水処理施設の手引きでは、石灰系は安価でふっ素の除去にも効き、アルカリ側で金属の水酸化物が溶け戻りにくいのが利点とされています。

一方で消石灰は水に溶けにくいため、スラリー(水に分散させた液)で入れることになり、反応に時間がかかって汚泥も増えます。

同じ手引きは、消石灰を使う凝集反応槽の滞留時間を通常の5〜10分以上ではなく20分以上としており、溶けやすく反応の速い水酸化ナトリウムとの使い分けが設計の分かれ目になります。

硫酸を含む排水の中和
Ca(OH)2 + H2SO4 → CaSO4 + 2H2O
ふっ素を含む排水の処理(ふっ化カルシウムとして沈殿)
Ca(OH)2 + 2HF → CaF2↓ + 2H2O
どちらもカルシウム塩が水に溶けにくいことを使います。ふっ素はこの方法だけでは排水基準を満たしにくいことが多く、アルミ系の凝集剤で共沈させて仕上げます(神戸市の手引き)。

反対に、アルカリ性の排水を中和する酸として二酸化炭素を使う方法もあります。石灰水の白濁と同じく、二酸化炭素が水の中で弱い酸として OH− を消費する反応で、手引きでは安全性が高く pH が下がりすぎにくいが、薬品代は高いと整理されています。

発電所やボイラーの排ガスから硫黄酸化物を除く排煙脱硫でも、石灰石が主役です。日本の排煙脱硫の多くは石灰石のスラリーで二酸化硫黄を吸収し、空気で酸化して石膏にする石灰・石膏法で、できた石膏は石膏ボードやセメントの原料として再利用されています。

排煙脱硫(石灰・石膏法)の全体の反応
CaCO3 + SO2 + ½O2 + 2H2O → CaSO4・2H2O + CO2
左右で Ca 1個、C 1個、S 1個、O 8個、H 4個がそろっています。二酸化硫黄を吸収するとき、石灰石から二酸化炭素が出ます。

図5:工場で石灰と二酸化炭素が担う役割と、管理するもの

どの用途も、カルシウム塩の溶けやすさと二酸化炭素の出入りで説明できます。

酸性排水の中和・ふっ素除去消石灰が酸を中和し、ふっ素を CaF2 として沈める。管理:pH、滞留時間、汚泥の量
アルカリ排水の中和CO2 が弱い酸として OH− を消費する。管理:pH、ガスの使用量
排煙脱硫石灰石のスラリーが SO2 を吸い、石膏になる。管理:吸収液の pH、石膏の純度
軽質炭酸カルシウム石灰乳に CO2 を吹き込んで沈殿させる。管理:粒子の大きさと形、CO2 の吸収率

※神戸市「排水処理施設の仕組みと維持管理」、環境省「石膏に係る基礎的知見」、NEDO 成果報告会資料(白石工業ほか、2025・2026年)をもとに作成。浄水の pH 調整は次の章で扱います。

排水の水質を有機物の量で見る指標にはCOD(化学的酸素要求量)があり、中和で pH を整えたあとの処理水の確認にも使われます。pH だけでなく、汚泥の量や放流先の基準まで含めて薬品を選ぶのが排水処理の考え方です。

軽質炭酸カルシウム:石灰水の反応をそのまま工業化

石灰水の白濁反応を工場の規模で行っているのが、軽質炭酸カルシウムの製造です。石灰石を砕いただけの重質炭酸カルシウムに対し、軽質は消石灰に二酸化炭素を吹き込んで細かくそろった粒子として沈殿させるのが特徴で、この方法は炭酸ガス法と呼ばれます。

NEDO の成果報告会で白石工業などが示した資料では、軽質炭酸カルシウムは自動車用の塗料・シーラント、建築用シーラント、食品添加物などに使われています。原料の二酸化炭素には石灰を焼くキルンの排ガスを使い、出てきた二酸化炭素を製品の中に固定するという考え方です。

同じ事業では、副生した生石灰・消石灰や廃セメントといった未利用のカルシウムに、工場の二酸化炭素を固定する技術も開発されています。2026年の報告では、1,000 L スケールの吸収実験で、目標とした95%以上の二酸化炭素吸収能を達成(最大97%)したと報告されています。

石灰水の白濁は、二酸化炭素を回収して製品に変えるカーボンリサイクルの基本反応でもあります。石灰石を焼くと二酸化炭素が出て、石灰に吸わせると戻るという出入りを、工程の中で閉じようとする取り組みです。

製造の現場では、二酸化炭素を入れすぎると透明化の向きの反応も起こりうるため、吹き込む量と時間、温度を管理して粒子の大きさや形をそろえます。塩素・ソーダ・石灰からつくる無機製品の全体像は、無機化学の工業的製法まとめで見渡せます。

水の硬度とスケール:配管やボイラーで反応が逆に進む

透明化の反応で水に溶けた炭酸水素カルシウムは、地下水や河川水にも含まれています。この水を工場で温めたり、二酸化炭素が抜ける条件に置いたりすると反応が逆に進み、配管やボイラーの内側に炭酸カルシウムのスケールが付きます。

加熱で炭酸水素カルシウムが戻る:一時硬度とスケール

水に溶けたカルシウムとマグネシウムの量を炭酸カルシウムに換算したものが硬度です。USGS(米国地質調査所)は、炭酸カルシウム換算で60 mg/L までを軟水、121〜180 mg/L を硬水と区分し、硬い水を温めると炭酸カルシウムの固体が析出してスケールになると説明しています。

加熱でスケールができる反応(透明化の逆向き)
Ca(HCO3)2 → CaCO3↓ + CO2↑ + H2O
左右で Ca 1個、C 2個、O 6個、H 2個がそろっています。温度が上がると水に溶けていられる二酸化炭素が減るため、平衡が右へ進みます。この反応で除ける硬度を一時硬度(炭酸硬度)と呼びます。

スケールは熱を通しにくいので、ボイラーの伝熱面に付くと燃料が余計にかかり、管の温度が上がって傷む原因にもなります。原因と対策はボイラーのスケールとスラッジの違いで詳しく扱っており、給水の軟化処理はボイラー水の水処理の基本になっています。

内側に白いスケールが厚く付いた切断済みの鋼管

冷却塔では、水が蒸発するたびに溶けていたカルシウムが濃くなり、スケールが付きやすくなります。どこまで濃くしてよいかは冷却塔の濃縮倍数で決め、ブローで水を入れ替えて硬度を一定に保ちます。

図6:配管やボイラーでスケールができるまで

鍾乳石ができるのと同じ向きの反応が、加熱や濃縮で一気に進みます。

STEP 1地下水が石灰岩を溶かすCO2 を含む水に Ca(HCO3)2 として溶け込む
STEP 2工場で温まる・濃くなるボイラー、熱交換器、給湯配管、冷却塔の蒸発
STEP 3CO2 が抜ける平衡が逆向きに進み、CaCO3 が溶けていられなくなる
STEP 4内面にスケールが付く管の内径が狭まり、伝熱面では熱が伝わりにくくなる
影響燃料・流量・寿命燃料の増加、水圧の低下、過熱による管の損傷
対策軟化・ブロー・水質管理給水の軟化、濃縮倍数の管理とブロー、薬品による析出の抑制

※USGS「Hardness of Water」と、反応式の向きをもとに整理。

浄水場のランゲリア指数と消石灰・二酸化炭素の注入

水道では、スケールが付きすぎる水も、管を溶かす水も困ります。その目安がランゲリア指数で、水道技術研究センターによると、実際の pH と炭酸カルシウムが溶けも析出もしない平衡の pH との差で表します。0より大きいとスケールが出やすく、0より小さいと腐食の傾向を示します。

日本の水源は軟水が多く、浄水場ではアルカリ度を消費する凝集剤を入れて pH 7程度にするため、ランゲリア指数が −1以下となる例が多いとされます。

水質管理目標設定項目は「−1程度以上とし極力0に近づける」で、最後の工程で後アルカリ処理や消石灰・二酸化炭素の添加によって指数を上げる対策例が増えています。送配水管は水道施設の資産の7割を占めるともいわれ、その寿命を延ばすための管理です。

消石灰でカルシウムとアルカリ度を足し、二酸化炭素で pH が上がりすぎないように合わせる操作は、石灰水の2つの反応を水質の調整に使っている形です。浄水の pH 調整にこうした薬品を使う例は、水道技術研究センターが対策例として挙げています。

硬度そのものにも目安があり、水質基準ではカルシウム・マグネシウム等(硬度)を300 mg/L 以下としています。

さらにおいしい水の観点から、水質管理目標設定項目で硬度を10〜100 mg/L、遊離炭酸(水に溶けた二酸化炭素)を20 mg/L 以下としています(愛知県衛生研究所の解説)。遊離炭酸が多い水はランゲリア指数を下げる側に働くので、腐食の管理にも関わる項目です。

硬い水を軟らかくする石灰軟化法と再炭酸化

硬度の高い地下水を使う海外の浄水場では、消石灰を加えて硬度を下げる石灰軟化法が使われます。米 MIT の講義資料が示すように、消石灰が炭酸水素カルシウムを炭酸カルシウムに変えて沈殿させる反応で、白濁と同じく溶けにくい炭酸カルシウムをつくって水から取り除きます。

石灰軟化法(炭酸硬度の除去)
Ca(HCO3)2 + Ca(OH)2 → 2CaCO3↓ + 2H2O
左右で Ca 2個、C 2個、O 8個、H 4個がそろっています。もとの水に溶けていたカルシウムに加え、入れた消石灰のカルシウムも沈殿として除かれます。

軟化した直後の水は余った消石灰で pH が高く、そのまま送るとスケールの原因になります。

そこで二酸化炭素を吹き込んで pH を下げる再炭酸化を行い、炭酸イオンを炭酸水素イオンに戻して水を安定させます(Florida Water Resources Journal)。白濁と透明化を順番に使い分けた工程だといえます。

石灰水と二酸化炭素のよくある質問

石灰水に息を吹き込んでも透明に戻らないのはなぜですか?

透明になるには白濁に使った量と同じだけの二酸化炭素がさらに必要で、息を吹き込む程度では足りないことが多いためです。吹き込む速さより液から二酸化炭素が抜ける速さが勝つと、炭酸カルシウムが残って濁ったままになります。

石灰水を温めると白く濁るのはなぜですか?

水酸化カルシウムは温度が高いほど水に溶けにくく、沸騰した水にはごくわずかしか溶けないため、温めると溶けきれない分が出てきて濁ります。透明化した炭酸水素カルシウムの液を温めた場合は、二酸化炭素が抜けて炭酸カルシウムが沈殿します。

石灰水はなぜ密栓して保存するのですか?

空気中の二酸化炭素を吸って炭酸カルシウムができ、石灰水として働く水酸化カルシウムが減ってしまうためです。表面に白い膜や沈殿が増えた石灰水は、つくり直すかろ過し直してから使います。

石灰水が手や目に付いても大丈夫ですか?

飽和した石灰水は pH 12.4 ほどの強い塩基性で、厚生労働省のモデル SDS では水酸化カルシウムは眼に対して重篤な損傷を起こす区分に入っています。目に入ったらすぐに多量の水で洗い、扱うときは保護めがねを着けます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 石灰水は消石灰 Ca(OH)2 の飽和水溶液で、20℃では1 L に1,730 mg しか溶けない
  • 白濁は Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3↓ + H2O で、溶けにくい炭酸カルシウムの細かい結晶が光を散らすため
  • 透明化は CaCO3 + CO2 + H2O ⇄ Ca(HCO3)2 で、もとの石灰水ではなく炭酸水素カルシウムの水溶液になる
  • 石灰水は CO2 があるかを見る方法で、濃度は検知管や標準ガスで校正した赤外線式の分析計で測る
  • 工場では消石灰が排水の中和・浄水の pH 調整に、石灰石が排煙脱硫に使われ、加熱で逆向きに進む反応がボイラーや配管のスケールになる

石灰水の白濁と透明化は、カルシウム塩の溶けやすさと二酸化炭素の出入りという2つの軸で、排水処理から水道、ボイラーの保全までをつないでいます。こうした素材と化学をつくる産業の全体像は、化学業界のサプライチェーンから見渡せます。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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