PDRファーマが千葉に新工場|放射性医薬品の国内供給はどう変わるか

鉛の遮蔽容器に入った小さなバイアルとシリンジシールド

2026年10月27日、ペプチドリームの子会社で放射性医薬品メーカーのPDRファーマが、千葉県君津市のかずさアカデミアパークに新工場を建てる協定を、千葉県などと結びました。投資額は約165億円で、2028年9月の竣工を予定しています。

放射性医薬品は、放射線を出す物質(放射性同位元素、RI)を組み込んだ薬で、がんの検査や治療に使われます。時間とともに放射線が弱まり、薬として使える期間が短いため、どこでつくってどう運ぶかが、供給の安定をそのまま左右します。

目次

PDRファーマの千葉新工場で決まったこと

机に広げた建物の平面図と定規・鉛筆

今回の発表の中心は、PDRファーマと千葉県、かずさアカデミアパーク研究所等立地推進協議会の三者が、立地に関する協定書を結んだことです。2024年12月に両社が出していた進出希望の申出が、協議会で正式に承認されました。

新工場は生産2B区画に建ち、PET製剤と、RI治療薬・診断薬の工業化研究から製造・出荷までを担う計画です。扱う核種には銅64(64Cu)、ルテチウム177(177Lu)、アクチニウム225(225Ac)などが挙がっています。

図1:千葉かずさアカデミアパーク工場の計画(予定)

2026年10月27日のニュースリリースに示された予定の数字です。

約165億円投資額。建物110億円、設備等55億円
約5.7ha区画面積。延床面積は5,364.46m²
25名新工場の従業員数(予定)
2028年9月竣工予定。着工は2027年の計画

※操業開始や出荷開始の時期は、今回の資料には記載がありません。

PET製剤は、がんの広がりなどを画像で調べるPET検査(陽電子放射断層撮影)に使う薬です。建設資金は長期の銀行借入でまかなう計画で、政府の支援策や税制優遇、補助金の活用も検討するとしています。

発表資料に書かれている日程は竣工の予定までで、操業開始や製品の出荷が始まる時期は今回の資料には記載がありません。竣工と出荷の間には設備の立ち上げや品質の確認が入るため、この2つは分けて見る必要があります。

新工場で国内供給はどう変わるか

会社は新工場の狙いを、稼働中の千葉工場(千葉県山武市)に加えて、国際基準に対応した製造能力を広げることだと説明しています。対象は国内供給と、将来のアジア・パシフィック地域への輸出で、背景には親会社のペプチドリームが開発を進める次世代の治療薬があります。

図2:新工場が担う3つの役割

既存の千葉工場では手が届きにくい、次世代の薬の量産を受け持ちます。

01次世代核種の薬64Cu・177Lu・225Acを使う治療薬・診断薬の工業化研究と製造
02PET製剤PET検査に使う診断薬の製造と出荷
03アジア太平洋への出荷将来の輸出を見据え、国際基準に対応した製造能力を持つ

※ペプチドリーム・PDRファーマのニュースリリース(2026年10月27日)をもとに作成。

次世代の薬として会社が上市を見据えるのが、セラノスティクスです。同じ薬をもとに診断用と治療用で核種を使い分け、検査と治療を一体で進める方法で、治療が効きそうな患者を画像で選び、治療後の効果も同じ仕組みで追える点に特徴があります。

一方で、新工場ができても供給の課題がすべて消えるわけではありません。「国内で薬に仕上げること」と「原料の核種を国内で手に入れること」は別の問題で、原料の調達先について今回の資料は触れていません。

図3:新工場で変わること・残る課題

製造の拠点は増えますが、原料と時期には未確定の部分が残ります。

変わること
残る課題・未公表の点
製造能力
千葉工場に加え、国際基準に対応した生産棟を持つ
原料核種の調達先は資料に記載なし
扱う薬
PET製剤と、64Cu・177Lu・225Acなどの治療薬・診断薬
個別の品目名や承認の時期は未公表
時期
2027年着工、2028年9月竣工の予定
操業開始・出荷開始の時期は記載なし
海外
将来のアジア・パシフィックへの輸出を視野に入れる
輸出の対象国や量は未公表

国内の核医学検査で最も多く使われるテクネチウム99m(99mTc)の製剤は、新工場の事業内容に挙がっていません。99mTcの原料を輸入に頼る問題は後の章で扱いますが、新工場はこの問題を直接解く計画ではない点は押さえておきたいところです。

2024年の公表計画から何が変わったか

新工場の計画が最初に公表されたのは2024年12月17日で、この日に千葉県庁で進出希望申出書の受領式が開かれました。当時の千葉県の発表と今回のニュースリリースを並べると、投資額と日程が見直されたことが分かります。

図4:2024年12月と2026年10月の計画の比較

投資額が増え、着工は1年ほど後ろへ移りました。

2024年12月時点
2026年10月時点
立地の段階
進出希望申出書を提出
立地が正式承認され、協定を締結
投資額
約100億円
約165億円(建物110億円、設備等55億円)
着工
2026年6月の予定
2027年の予定
完成の目標
2028年10月に操業開始の予定
2028年9月に竣工の予定(操業開始は記載なし)
事業内容
次世代放射性医薬品の製造及び研究開発
PET製剤、RI治療薬・診断薬の工業化研究・製造・出荷

※2024年12月時点は千葉県の発表、2026年10月時点は両社のニュースリリースによる。

投資額は約1.65倍になり、着工は2026年6月の予定から2027年へ移りました。事業内容にPET製剤と「出荷」が明記されたことで、研究開発の拠点にとどまらず、製品を送り出す工場としての役割がはっきりしています。

用地は2024年の報道では5万7000平方メートル、今回の資料では約5.7ヘクタールで、広さは変わっていません。増えた投資について会社は建物と設備の金額を示しただけで、増額の理由までは説明していません。

創薬のペプチドリームが製造会社を持つ理由

マイクロプレートに液体を分注する研究者の手元

ペプチドリームは川崎市に本社を置く東証プライム上場の創薬企業で、PDPSという独自技術を使って、環状ペプチドから薬の候補を探しています。PDRファーマは1968年に事業を始めた放射性医薬品の老舗で、2022年にペプチドリームのグループに入りました。

図5:ペプチドリームとPDRファーマの役割分担

薬の候補を探す会社と、つくって届ける会社が一つのグループにまとまっています。

ペプチドリーム(親会社)PDPS技術で、がんなどの標的に結びつくペプチドを探し、放射性医薬品の候補をつくる
薬の候補
PDRファーマ(100%子会社)放射性診断薬21品目、放射性治療薬8品目を国内で販売。研究開発から製造・供給まで担う
製造・出荷
千葉工場山武市。現在販売中の診断薬・治療薬を製造
新工場君津市。次世代核種の薬とPET製剤
流通他社製品ルタテラの国内流通も担当
供給
医療機関核医学検査・核医学治療

※品目数はPDRファーマの紹介文(2026年10月27日のリリース)、千葉工場の役割は2025年2月の報道による。

PDRファーマは国内で、放射性診断薬(SPECT診断薬とPET診断薬)21品目と、放射性治療薬8品目を販売しています。2023年には、ノバルティス ファーマの治療薬「ルタテラ」(177Luを使う神経内分泌腫瘍の薬)の流通を、引き続きPDRファーマが担うと発表されています。

創薬だけでは薬が患者に届かない

放射性医薬品では、良い候補が見つかっても、放射性物質を扱える施設と許認可がなければ製造も配送もできません。ノバルティス ファーマは2023年の発表で、製造・輸送・取り扱い施設の要件など、患者に届けるまでに多くの関係者の支援が要ると述べています。

ペプチドリームが製造と流通の機能を持つPDRファーマをグループに抱えるのは、この壁を自社で越えるためと読めます。新工場は、グループで生み出した薬を量産して届ける出口に当たり、会社も「自社開発放射性医薬品の上市とグローバル展開を支える基盤」と位置づけています。

放射性医薬品の供給が難しい理由

遮蔽容器に放射線サーベイメーターを当てて測る手元

放射性医薬品の供給を難しくしている根本は、半減期(放射能が半分になるまでの時間)です。普通の錠剤のように倉庫で在庫を積んでおけないため、製造から投与までを時間で逆算して動かす必要があります。

99mTc製剤は輸入原料と空輸に頼る

国内の核医学検査で最も多く使われる99mTcは、半減期66時間のモリブデン99(99Mo)から取り出してつくります。99mTc自体の半減期は6時間しかないため、原料の段階から各工程を急いでつながなければなりません。

図6:輸入した99Moが99mTc製剤になるまで

海外の原子炉から病院まで、日数をかけずにつなぐ必要があります。

原子炉で照射99Moを精製航空輸送製剤・病院へ4〜10日1〜2日2日2〜3日

※日本アイソトープ協会「医療用RIの需要と供給をめぐる状況について」(2021年6月、原子力委員会資料)の工程図をもとに作成。

99Moをつくる海外の原子炉は、多くが老朽化しています。日本アイソトープ協会の資料には、2009年から2010年のカナダの原子炉停止や、2010年4月のアイスランド火山噴火による航路の停止など、海外のトラブルが国内の製品欠品につながった例が並んでいます。

原子力委員会は2022年のアクションプランで、可能な限り2027年度末に99Mo/99mTcの国内需要の約3割を国内で製造する目標を掲げました。ところが内閣府の2026年7月の資料では、研究用原子炉JRR-3で製造できる量は国内需要の1割程度にとどまるとされています。

同じ資料は、JRR-3での製造コストが、製薬企業が現行の薬価で採算を取れる水準を大きく上回ることも示しています。そのうえで、製薬企業が求める製造頻度・量・コストを満たすのは困難とまとめました。

この資料は、JRR-3による99Moの国内製造は現時点で実用化が難しいとの見方も示しており、当面は海外からの調達が前提になります。

新工場が扱う核種は事情が違う

新工場が扱う核種は、99mTcとは原料の入手経路も使われ方も異なります。同じ「放射性医薬品の供給」という言葉でくくっても、核種ごとに課題の中身が違うため、分けて見ることが大切です。

図7:核種ごとの使われ方と新工場との関係

新工場の対象は、99mTc以外の診断・治療用の核種です。

主な使われ方
新工場との関係・現状
99mTc
骨・心臓・脳などのSPECT検査。半減期は6時間
新工場の対象外。原料の99Moは国内で商用製造されていない
PET製剤
がんの広がりなどを調べるPET検査
新工場の対象。FDGは医療機関や企業が加速器でつくる体制がある
64Cu
診断・治療の薬として開発中
新工場の対象。半減期約13時間で、遠方へ安定供給しやすいと会社は説明
177Lu
治療。国内ではルタテラが承認済み
新工場の対象。次世代の治療薬で使う予定
225Ac
治療(α線を出す核種)。開発段階
新工場の対象。半減期9.9日。国は「常陽」での製造実証を進める

※ニュースリリース(2026年10月)、日本アイソトープ協会資料(2021年)、原子力委員会フォローアップ(2025年9月)、内閣府資料(2026年7月)をもとに作成。

PET製剤のFDGは国内150の医療機関と2つの企業が加速器で製造しており、2021年の同協会の資料では供給不足のリスクが小さいとされています。ただし半減期が短く、配送を使う場合も前日までの注文が要るため、つくる場所から病院までの距離と時間がそのまま制約になります。

治療用の核種はさらに事情が厳しく、2021年時点で治療用RIはすべて輸入とされていました。225Acは臨床で使う量を国内で手に入れるのが難しく、原子力委員会は高速実験炉「常陽」で2026年度までに製造実証を進める目標を掲げています。

製造業の目線で見た放射性医薬品工場

鉛ガラス越しに見るホットセル内のマニプレーターとバイアル

新工場は延床面積5,364.46平方メートル、従業員25名の予定で、投資額のうち55億円を設備等に充てます。放射性医薬品の工場には、医薬品の品質規制であるGMPに加えて、放射線を遮る設備や汚染を広げない管理が要るため、建物と設備の作りが一般の製薬工場と大きく異なります。

もう一つの特徴が、時間の設計です。半減期の短い薬では、合成、品質検査、出荷判定、配送を一つの時刻表としてつなぐ必要があり、どこかで遅れると薬が使えなくなります。PDRファーマの村上社長が羽田・成田両空港へのアクセスを立地の利点に挙げたのも、この時間の制約と結びつきます。

図8:協定締結から患者に届くまでの段階

公表されているのは竣工の予定までで、その先の時期はまだ分かりません。

公表済みの段階
01立地承認・協定2026年10月27日に三者で協定書を締結
02着工2027年の予定。2024年時点は2026年6月の予定だった
03竣工2028年9月の予定。生産棟、事務所・倉庫棟など
時期が未公表の段階
04設備の立ち上げ製造設備の稼働確認と品質の仕組みづくり
05承認などの手続き品目ごとに製造販売に必要な手続きを進める
06出荷・配送半減期に合わせた時刻表で医療機関へ届ける

※04〜06は医薬品工場の一般的な流れで、時期は今回の資料に記載がありません。

取引先の目線で見ると、遮蔽設備や空調、計装、品質検査の機器、搬送の仕組みなど、放射性物質を扱うための設備が幅広く関わります。品質保証・品質管理の仕事も、薬の品質に放射線の管理と時間の管理が重なる点で、一般の医薬品工場とは中身が変わってきます。

原料の核種を海外の数少ない施設に頼る構造は、部品の調達先が限られるメーカーの悩みと同じ形をしています。供給元が止まったときの備えをどう持つかという点では、サプライヤーBCPと調達リスクの考え方がそのまま当てはまります。

PDRファーマ新工場のよくある質問

新工場はいつから製品を出荷しますか?

発表資料に書かれているのは、2027年の着工と2028年9月の竣工予定までです。操業開始や出荷が始まる時期は公表されていないため、今後の会社の発表で確かめる必要があります。

新工場で骨シンチなどに使うテクネチウム製剤もつくりますか?

発表資料が挙げる事業内容はPET製剤と、64Cu・177Lu・225AcなどのRI治療薬・診断薬で、99mTc製剤は含まれていません。99mTcの原料を輸入に頼る問題は、国の取り組みとして別に議論されています。

なぜ千葉県のかずさアカデミアパークを選んだのですか?

会社は、本社や川崎ラボ、既存の千葉工場との連携のしやすさと、羽田・成田両空港へのアクセスの良さを理由に挙げています。半減期のある薬を国内外へ運ぶうえで、空港までの時間は大事な条件になります。

新工場ではどれくらいの人が働きますか?

発表資料では、新工場の従業員数を25名(予定)としています。千葉県の資料によるとPDRファーマ全体の従業員は507名(2023年末)で、新工場は少人数で運営する計画です。

まとめ

この記事のまとめ
  • 2026年10月27日、PDRファーマがかずさアカデミアパーク(千葉県君津市)への立地協定を締結した
  • 投資額は約165億円で、2027年着工・2028年9月竣工の予定。操業開始の時期は未公表
  • PET製剤と、64Cu・177Lu・225Acを使う治療薬・診断薬の工業化研究・製造・出荷を担う
  • 2024年の計画から投資額が約100億円から増え、着工は2026年6月から2027年へ移った
  • 国内で製造できても原料核種の調達は別の課題で、JRR-3による99Moの国内製造は現時点で実用化が難しい

放射性医薬品は、医薬品の中でも時間と放射線の管理が製造と物流を決める特殊な分野です。医薬品業界の全体像は食品・医薬・日用品業界の構造で、生産金額などの数字は食品・医薬・日用品業界の市場規模と動向で整理しています。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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