自動車業界とは?企業の種類・仕事の流れ・向いている人を実務目線で解説

夕暮れの自動車組立工場で車体が並ぶ生産ライン

「自動車業界」と聞くと、多くの方はトヨタやホンダのような完成車メーカーを思い浮かべるのではないでしょうか。

実際には、完成車メーカーを頂点に、部品を納めるサプライヤー、素材メーカー、販売を担うディーラーまで、数多くの企業がピラミッド状に連なって成り立っている業界です。

この記事では、自動車業界とは何かを、企業の分類、開発から量産までの仕事の流れ、業界特有の働き方、役立つ資格、向いている人という順で整理します。

目次

自動車業界とは

出荷を待つ新車が港に整然と並ぶ様子

自動車業界とは、自動車の開発・製造・販売に関わる企業の総称です。乗用車だけでなく、トラックやバスなどの商用車、二輪車、そしてそれらを構成する部品や素材をつくる企業も含まれます。

日本自動車工業会によると、2023年の自動車製造業の製造品出荷額は71.6兆円で、全製造業の19.2%を占めています。資材の調達から製造、販売、整備、運送まで含めた自動車関連の就業人口は約559万人にのぼり、日本の基幹産業と呼ばれる理由がここにあります。

同じ量産型のものづくりでも、家電などの業界と大きく違うのは、1台あたり約3万点という部品点数と、人命に関わる品質への要求です。何年もかけて開発したクルマを、同じ品質で毎日何千台もつくり続けることが求められます。

図1:家電業界と自動車業界の違い

どちらも量産品をつくりますが、求められる条件が大きく異なります。

家電業界
自動車業界
部品点数
数十〜数千点程度
1台あたり約3万点
開発期間
半年〜1年程度が中心
新型車で3〜4年程度が一般的
品質への要求
故障しても生命に関わる場面は少ない
不具合が人命に直結するため極めて厳しい
製品の寿命
数年〜10年程度
10年以上、10万km以上の使用が前提
サプライチェーン
海外の受託生産(EMS)も多い
完成車メーカーを頂点とした多層構造

※部品点数や開発期間は車種・製品によって大きく異なります。目安として捉えてください。

自動車業界の企業

ブレーキやワイヤーハーネスなど自動車部品が並ぶ作業台

自動車業界の企業は、担う役割によって大きく次のように分けられます。

  • 完成車メーカー(クルマを企画・開発し、組み立てて販売する)
  • Tier1(完成車メーカーへ部品を直接納める)
  • Tier2・Tier3(Tier1へ構成部品を納め、加工を担う)
  • 素材メーカー(鉄鋼・樹脂・ゴムなどの材料を供給する)
  • 販売・アフターマーケット(販売と整備、用品を担う)

図2:自動車業界の企業の階層

1台のクルマには、役割の異なる企業が層をなして関わります。

完成車メーカー(OEM)トヨタ、ホンダ、日産など。企画・開発・組立を行い、自社ブランドで販売する
部品を発注
Tier1(一次サプライヤー)ブレーキ、シート、電装品など、モジュール単位の部品を直接納める
部品を発注
Tier2Tier1向けの構成部品・電子部品
Tier3プレス・切削・樹脂成形などの加工
素材メーカー鉄鋼・樹脂・ガラス・ゴムなど
完成車を出荷
販売・アフターマーケットディーラー、整備工場、用品・中古車など、クルマが売れたあとを支える

※Tier2がOEMに直接納めるなど、取引関係は部品や案件によって入れ替わります。

完成車メーカー

完成車メーカーは、クルマの企画・開発から組立、販売までを担う企業で、OEMとも呼ばれます。国内では乗用車メーカーが8社あり、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、スズキ、マツダ、SUBARU、三菱自動車、ダイハツ工業がこれにあたります。

ただし、部品のすべてを自社でつくっているわけではありません。エンジンや車体など基幹となる部分を内製し、それ以外の多くはサプライヤーから調達して、全体を一台のクルマにまとめ上げるのが役割です。

図3:完成車メーカーが担う3つの領域

部品の多くは外部から調達し、全体をまとめ上げるのが完成車メーカーです。

DDevelopment/開発商品企画から車両設計、試作・評価まで。性能とコストの大半がここで決まる
MManufacturing/生産プレス・溶接・塗装・組立の4工程と、エンジンなど基幹部品の内製
SSales/販売国内外の販売網とアフターサービス。ブランドを顧客に届ける
部品の多くはサプライヤーから調達するため、完成車メーカーには、数百社におよぶ取引先の品質・納期・コストを管理する力が求められる。

完成車メーカーの仕事は、個々の部品を設計することよりも、数百社におよぶサプライヤーを束ねて、狙った性能・品質・コストに収めることに重心があります。そのため、技術職であっても社内外の調整に多くの時間を使います。

また、同じ完成車メーカーでも、軽自動車に強い会社、SUVに強い会社、海外販売の比率が高い会社など、得意とする領域はそれぞれ異なります。

Tier1

Tier1は、完成車メーカーへ部品を直接納める一次サプライヤーです。ブレーキ、シート、エアコン、ヘッドランプ、ECU(電子制御ユニット)など、複数の部品を組み合わせたモジュール単位で納めることが多いのが特徴です。

完成車メーカーの開発段階から参加し、仕様を一緒に決めていくことも珍しくありません。規模の大きな会社では、売上高が数兆円に達する企業もあります。

Tier1は成り立ちによって3つの系統に分かれます。特定の完成車メーカーから派生した系列系、特定の資本に属さない独立系、そして海外に本社を置く外資系のメガサプライヤーです。

図4:Tier1サプライヤーの3つの系統

成り立ちによって、取引先や強みが分かれています。

成り立ち
主な特徴
系列系
特定の完成車メーカーの出資・分社から生まれた
親会社向けの取引が中心。開発段階から深く関わる
独立系
特定の資本に属さない部品メーカー
複数の完成車メーカーと取引。得意分野で高いシェアを持つ
外資系
海外に本社を置くメガサプライヤー
世界規模の開発力。電動化・電子制御の分野で存在感が大きい

※近年は系列の再編が進み、系列系でも取引先を広げる動きが増えています。

代表的な企業を挙げると、系列系ではデンソーやアイシン、独立系ではブリヂストンや矢崎総業などが知られています。外資系では、ドイツのボッシュやコンチネンタルといったメガサプライヤーが日本でも大きな拠点を構えています。

Tier2・Tier3

Tier2はTier1へ構成部品を納める二次サプライヤー、Tier3はさらにその下で加工などを請け負う企業です。ベアリングやセンサー、半導体といった部品メーカーから、プレス・切削・樹脂成形・めっきを専門とする中小の加工会社まで、幅広い企業が含まれます。

階層が下がるほど会社の規模は小さくなる傾向がありますが、特定の加工で高い技術を持ち、世界的なシェアを握る企業も少なくありません

素材メーカー

鉄鋼、アルミ、樹脂、ガラス、ゴムなど、クルマの材料を供給する企業です。軽量化や電動化の流れを受けて、高張力鋼板や炭素繊維、電池材料といった新しい素材の開発競争が続いています。

素材の選定は開発の初期段階で決まるため、素材メーカーの技術者が完成車メーカーやTier1と共同で開発を進めることも多くあります。

販売・アフターマーケット

見落とされがちですが、クルマが売れたあとを支える企業も自動車業界の一部です。新車を販売するディーラー、点検・車検を行う整備工場、カー用品や中古車の販売など、市場の規模は大きく、地域に根ざした企業が数多くあります。

なお、これらの分類はあくまで役割の目安です。部品によってはTier2が完成車メーカーへ直接納めることもあり、取引関係は固定ではありません。大小さまざまな企業が関わる、裾野の広い業界といえます。

自動車業界の仕事の流れ

車体の3Dモデルを確認する設計者の手元

自動車の仕事は、次のような流れで進みます。

商品企画 → 先行開発 → 設計 → 試作・評価 → 生産準備 → 量産 → 品質保証 → 販売・アフター

図5:自動車の開発から量産までの流れ

開発、量産化、量産後の3つの段階に分かれます。

開発
01商品企画市場と顧客を分析し、つくるクルマのコンセプトを決める
02先行開発新技術を量産に使えるレベルまで磨き込む
03設計車両・部品を図面化し、目標性能とコストに落とし込む
量産化
04試作・評価試作車で衝突・耐久・走行などの試験を重ねる
05生産準備工程・設備・金型を整え、量産できる状態をつくる
06量産プレス・溶接・塗装・組立の各工程で毎日大量に生産
量産後
07品質保証部品と完成車の品質を保証し、不具合の再発を防ぐ
08販売・アフターディーラーを通じた販売と、点検・整備・リコール対応

※どの工程に関わるかは、完成車メーカーかサプライヤーか、また職種によって変わります。

完成車メーカーかサプライヤーかによって、どこから関わるかは変わりますが、全体の流れはどの車種でも共通です。順に見ていきます。

商品企画

最も上流にくるのが商品企画です。市場動向や競合車、顧客の声を分析し、どんな人に向けて、どんなクルマを、いくらで売るのかを決めます。

ここで決まったコンセプトと目標価格が、その後の開発全体の前提になります。発売は数年先になるため、その時点での法規制や顧客の好みを先読みする力が求められます。

先行開発

新しい技術を、量産車に使えるレベルまで磨き込む工程です。電池やモーター、自動運転のセンサーなど、個別の技術ごとに研究開発部門が担当します。

技術として成立していても、コストや信頼性が量産の条件を満たさなければ採用されません。量産開発に入る前に、どこまで課題をつぶしておけるかが勝負です。

設計

コンセプトと目標性能が決まったら、車両や部品を図面に落とし込みます。車体、シャシー、パワートレイン、電装、内外装と、領域ごとに担当が分かれるのが一般的です。

完成車メーカーは車両全体の仕様をまとめ、部品の詳細設計はサプライヤーが担うことも多くあります。3D CADやCAEでの解析が中心となり、重量・コスト・性能のバランスを取りながら、他部品との取合いを何度も調整していきます。

試作・評価

設計ができたら試作車をつくり、衝突安全、耐久、走行性能、騒音・振動などの試験を行います。寒冷地や高温地での走行試験など、実際の使用環境を想定した評価も欠かせません。

目標に届かなければ設計に戻って修正し、再び試作と評価を繰り返します。近年はシミュレーションの精度が上がり、試作の回数を減らす取り組みも進んでいます。

生産準備

量産に向けて、工程の設計、設備の導入、金型や治具の製作を行う工程で、主に生産技術部門が担当します。設計どおりの品質で、狙ったタクトタイムでつくれる状態を整えるのが役割です。

ここでの準備が不十分だと、量産が始まってから不良や設備停止という形で問題が表に出ます。設計段階から「つくりやすさ」を織り込んでもらうよう、設計部門と擦り合わせることも重要な仕事です。

量産

量産が始まると、プレス、溶接、塗装、組立の各工程で、毎日決まった台数のクルマを生産します。ジャストインタイムの考え方のもと、部品は必要なときに必要な分だけ届けられるため、どこか1社で供給が止まるとライン全体が止まることもあります

現場ではカイゼン活動が日常的に行われ、わずかな時間短縮や原価低減を積み重ねていきます。

品質保証

部品と完成車の品質を保証する工程です。量産前には工程や部品の品質を確認し、量産後は市場で起きた不具合の原因を調べ、再発を防ぐ対策を打ちます。

不具合が人命に関わるため、品質保証の役割は他の業界以上に重いといえます。安全に関わる不具合が見つかれば、リコールとして国に届け出たうえで無償修理を行います。

販売・アフター

完成したクルマは、ディーラーを通じて顧客に届けられます。販売後も点検や車検、修理などのアフターサービスが続き、ここで集まった情報が次のモデルの商品企画に生かされます。

近年は、ソフトウェアの無線アップデートなど、販売後もクルマの機能を更新していく取り組みも始まっています。

自動車業界の特徴

ロボットが車体を溶接する量産ライン

自動車業界には、同じものづくりでも他の業界とは異なる働き方の特徴があります。就職や転職を検討するなら、次の4点は入る前に知っておきたいところです。

図6:自動車業界の4つの特徴

働き方を判断するうえで、押さえておきたい点です。

裾野が広い製造業の出荷額の約2割。関連就業人口は約559万人
品質とコストへの要求が厳しい1円単位の原価低減と、不良ゼロを同時に求められる
給与水準は比較的高い大手メーカーを中心に、製造業の中でも高い水準
100年に一度の変革期電動化・ソフトウェア化で、求められる技術が変わりつつある

裾野が広い

完成車メーカーから部品、素材、販売まで関わる企業が多く、どの階層にも就職先の選択肢があります。部品メーカーの業界団体である日本自動車部品工業会の調査では、2024年度の会員企業の自動車部品出荷額は20兆7,070億円にのぼります。

一方で、完成車メーカーの生産計画がそのままサプライヤーの仕事量に跳ね返る構造でもあります。どの階層の、どの完成車メーカーと取引の多い会社かによって、景気や減産の影響の受け方は変わります

品質とコストへの要求が厳しい

クルマは10年以上使われることが前提で、しかも不具合が人命に直結します。そのため、品質に関するルールや確認の手順は非常に細かく決められています。

同時に、部品1点あたり1円単位の原価低減が求められるのもこの業界の特徴です。品質とコストという相反する条件を、両立させ続けることが日々の仕事になります。

給与水準は比較的高い

自動車業界、特に大手の完成車メーカーやTier1は、製造業の中でも給与水準が高い傾向があります。業界動向サーチの集計では、自動車業界の平均年収は749万円(2022〜2023年)とされています。

ただし、これは主要企業の数値であり、Tier2・Tier3の中小企業まで含めると幅があります。会社の規模や階層によって差が大きい点は押さえておきたいところです。

100年に一度の変革期

自動車業界は「100年に一度の変革期」にあるといわれます。電動化、自動運転、コネクテッドといった流れのなかで、エンジンを中心とした従来の技術から、電池・モーター・半導体・ソフトウェアへと、求められる技術が大きく変わりつつあります

これまでの強みが通用しなくなる企業がある一方、電機や半導体、IT出身の人材にとっては新たに活躍できる場が広がっています。部品工業会の同じ調査でも、電動車両用部品の出荷額は前年度から15.3%増えています。

自動車業界で役立つ資格

技術書と測定工具が置かれたエンジニアのデスク

自動車業界は、資格がないと業務に就けないという場面は多くありません。ただし、その分野の専門知識があるとみなされ、転職では有利に働くことがあります。

  • 機械設計技術者試験
  • CAD利用技術者試験
  • QC検定(品質管理検定)
  • 技術士・技術士補(機械部門など)
  • 自動車整備士
  • 危険物取扱者
  • 電気工事士
  • TOEICなどの語学資格 など

図7:自動車業界で役立つ資格の特徴

関わる仕事ごとに、評価される資格が異なります。

機械設計技術者試験
設計・技術日本機械設計工業会の検定。機械設計の知識を1級〜3級で証明する
CAD利用技術者試験
設計・技術CADの操作と製図の知識を問う試験。2次元と3次元の区分がある
QC検定(品質管理検定)
品質・検査品質管理の知識を1級〜4級で認定。現場から管理職まで受験者が多い
技術士・技術士補(機械部門など)
設計・技術技術系で最上位の国家資格。一次試験の合格で技術士補の登録ができる
自動車整備士
製造・技能点検・整備に携わる国家資格。一級〜三級と特殊整備士がある
危険物取扱者
運転・保安燃料や溶剤など消防法の危険物を扱う。甲種・乙種・丙種の3種類
電気工事士
工事電気設備の工事作業に必要。第一種は工場など自家用設備の一部も扱える
TOEICなどの語学資格
語学・実務海外拠点や海外顧客とのやり取りで、英語力を示す目安になる

※資格の区分や必要となる条件は、職種や扱う設備によって変わります。

設計・開発では機械設計やCAD、品質保証ではQC検定が評価されやすく、海外拠点との仕事が多いため語学力も重視されます。

自動車業界に向いている人

開発中の車両を囲んで議論するエンジニアのチーム

ここまで見てきた業界の性質から、向いているのは次のような人です。裏を返せば、この3点に抵抗がある場合は、入ってからのギャップが大きくなりやすいと言えます。

チームで一つのものをつくるのが好き

1台のクルマには、社内の多くの部署と、数百社のサプライヤーが関わります。自分が担当するのはその中のごく一部で、他の部品や工程との調整なしには仕事が進みません。

一人で完結する仕事より、大勢で一つのものを完成させることにやりがいを感じる方には向いた業界です。自分が関わったクルマが街を走っているのを見かけたときの達成感は、この業界ならではのものです。

細部まで詰める根気がある

品質とコストへの要求が厳しいため、仕事の多くは細部の詰めの積み重ねです。0.1mmの寸法や1円の原価、1件の不具合の原因を、納得がいくまで追いかける根気が求められます。

決められたルールや手順に沿って、確実に物事を進められる人ほど信頼を得やすい環境です。

変化を楽しめる

電動化やソフトウェア化によって、業界の構造そのものが変わりつつあります。これまでの経験だけでは通用しない場面も増えていくため、新しい技術を学び続ける姿勢が欠かせません

その変化を不安ではなく機会と捉えられる方にとっては、成長の余地が大きい業界です。

まとめ

この記事のまとめ
  • 自動車業界とは、自動車の開発・製造・販売に関わる企業全般を指す
  • 完成車メーカー、Tier1・Tier2・Tier3、素材、販売など業態は幅広い
  • 仕事は商品企画から量産、販売・アフターまでが一連の流れになっている
  • 品質とコストへの要求が厳しく、業界は電動化などの変革期にある
  • チームでものをつくるのが好きで、変化を楽しめる人に向いている

ひとくちに自動車業界といっても、完成車メーカーかサプライヤーか、どの階層かによって働き方は大きく異なります。関連する職種は機械設計生産技術品質保証・品質管理ソフトウェア・組込みがこの業界と深く関わります。

業界の市場規模や主要企業については、自動車・輸送機器の業種ページから関連記事もあわせてご覧ください。

出典

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この記事を書いた人

BtoB製造業特化のWebマーケター。プラント業界にてエンジニアを10年経験した後、マーケティングの分野へ。工業技術ブログ「エネ管.com」を2017年から運営し、月間20万PVを達成。保有資格はエネルギー管理士、第三種電気主任技術者。

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