再結晶とは?原理とやり方を硝酸ナトリウムの計算例で解説|工業晶析まで

ステンレス製の晶析缶と循環配管・ポンプが並ぶ化学工場の晶析設備

再結晶とは、不純物を含む固体を熱い溶媒に溶かし、冷やしたり溶媒を減らしたりして目的の物質だけを結晶として取り出す精製の方法です。物質ごとに、また温度ごとに溶解度(溶媒100 gに溶ける最大の質量)が違うことを利用します。

たとえば塩化ナトリウムを少し含む硝酸ナトリウムは、熱い水に溶かして冷やすと硝酸ナトリウムだけが結晶になり、塩化ナトリウムは液に残ります。高校化学で習うこの操作は、医薬品の原薬や食塩・砂糖の工場では「晶析」と呼ばれ、品質を決める工程として毎日動いています。

目次

再結晶とは?温度による溶解度の差で固体を精製する方法

再結晶は、混合物を分ける方法のうち固体の物質を精製するための方法です。高温で濃い溶液をつくり、熱いうちに溶けない不純物をろ過で除いたあと、冷やして出てきた結晶をろ過して乾かす、という流れが基本の形になります。

少量の不純物は冷やしたあとも溶液(母液)に溶けたまま残るため、結晶だけを集めると純度が上がります。一度で足りなければ、得た結晶をもう一度溶かして同じ操作を繰り返し、少しずつ不純物を減らしていきます。

図1:再結晶の基本の流れ

熱い溶媒に溶かし、溶けない不純物を熱いうちにろ過で除いてから冷やし、出てきた結晶をろ過して乾かします。

熱い溶媒に溶かす熱いうちにろ過ゆっくり冷やす吸引ろ過乾かす溶けない不純物を除く目的物が結晶に溶ける不純物は母液へ

再結晶の原理:溶解度は温度で変わる

固体の溶解度は物質ごとに違い、多くの物質は温度が高いほど多く溶けます。

溶解度を温度に対してグラフにしたものが溶解度曲線で、曲線の傾きが急な物質ほど、冷やしたときに多くの結晶が出てきます。傾きは溶けるときの熱(溶解熱)の大きさで決まり、塩化ナトリウムのようにほとんど横ばいの物質もあります。

気体の溶け方は逆で、温度を上げるとむしろ溶けにくくなり、圧力にも左右されます。気体の溶解度はヘンリーの法則で整理されるので、固体の再結晶と取り違えないよう分けて覚えておくと混乱しません。

図2:硝酸ナトリウムと塩化ナトリウムの溶解度

硝酸ナトリウムは温度とともに大きく増え、塩化ナトリウムはほぼ横ばいです。100℃で150 g溶かした硝酸ナトリウムを25℃まで冷やすと、溶けきれない58.2 gが結晶になります。

0255075100温度[℃]050100150200水100 gに溶ける量[g]硝酸ナトリウム塩化ナトリウム58.2 gが結晶に175.591.873150 g溶かして冷やす

※点は出典の値(硝酸ナトリウム:0℃ 73 g、25℃ 91.8 g、100℃ 175.5 g、塩化ナトリウム:0℃ 35.63 g、25℃ 35.92 g)。100℃の塩化ナトリウムは「1 gが沸騰水2.6 mLに溶ける」から求めた約39 gの目安。資料によって硝酸ナトリウムは25℃で91〜92 g、100℃で175〜180 gと少し差があり、ここでは世界大百科事典の値を使いました。点の間は直線で結んだ模式図で、実際の曲線の形とは少し異なります。

再結晶で混合物を分離する具体例:塩化ナトリウムを含む硝酸ナトリウム

塩化ナトリウムを少量含む硝酸ナトリウムから、硝酸ナトリウムだけを取り出す場面を考えます。混合物を熱い水に入れて両方とも溶かし、ゆっくり冷やしていくと、溶解度が大きく下がる硝酸ナトリウムだけが結晶として出てきます。

硝酸ナトリウムの溶解度は、水100 gあたり0℃で73 g、25℃で91.8 g、100℃で175.5 gと、温度で2倍以上変わります。

一方、塩化ナトリウムは0℃で35.63 g、25℃で35.92 gとほとんど変わらないため、量が少なければ冷やしても溶けきれなくなることがなく、液に残ったままになります。

条件を数字で置くと、次のようになります。水100 gに硝酸ナトリウム150 gと塩化ナトリウム10 gを入れて100℃で溶かし、25℃まで冷やす場合で、どちらも100℃では溶解度より少ないので全部溶けています。

硝酸ナトリウム(25℃で水100 gに溶けるのは91.8 gまで)

析出量 = 溶かした量 − 冷却後に溶けている量
150 g − 91.8 g = 58.2 g

塩化ナトリウム(25℃で水100 gに溶けるのは35.92 gまで)

10 g < 35.92 g → 析出しない(母液に残る)

0℃まで冷やせば、硝酸ナトリウムの析出量は150 − 73 = 77.0 g に増え、塩化ナトリウム10 gは0℃でも溶解度35.63 gより少ないので残ります。冷却中に水が蒸発しないものとし、溶解度は水100 gあたりの値です。

取り出せた硝酸ナトリウムは150 gのうち58.2 gで、回収率は約39%にとどまります。残りの91.8 gは母液に溶けたままで、この量を減らすには、より低い温度まで冷やすか、溶かす水を減らすしかありません。

この計算は2つの塩がそれぞれ単独で溶けるときの溶解度を使った近似です。両方ともナトリウムイオンを含むので、実際の混合溶液では互いの溶解度がいくらか下がり、工場の設計では2つの塩と水の相図(どの組成で何が析出するかを示す図)を使います。

硝酸ナトリウムは、現在は硝酸を水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムで中和してつくるものが主流です。原料の硝酸はオストワルト法でアンモニアからつくられ、南米で採れる天然のチリ硝石も、水で抽出したあと再結晶で精製されてきました。

溶解度に関する疑問:溶けない不純物と溶ける少量の不純物の行方

再結晶でよく出る疑問は、「溶けない不純物はどうするのか」と「目的物と一緒に不純物も出てこないのか」の2つです。不純物は、溶媒に溶けるかどうかで取り除く工程が変わります。

図3:再結晶での不純物の行方

溶けない不純物は熱ろ過で、溶ける不純物は母液と一緒に除かれ、目的物だけが結晶として残ります。

溶けない不純物砂・繊維くず・ほこりなど。熱い溶液のうちにろ過して除く。着色した不純物は活性炭に吸わせてから一緒にろ過する
溶ける少量の不純物冷やしても溶解度に届かず、母液に溶けたまま残る。結晶の表面に付いた母液は冷たい溶媒で洗い流す
目的物冷却で溶解度を超えた分だけ結晶になる。溶けたまま残る分は回収できず、収率が100%にならない理由になる
多すぎる不純物不純物も冷却後に溶解度を超えると一緒に析出する。その場合は溶媒を変えるか、再結晶を繰り返す

水に溶けない不純物はどうする?

水に溶けない砂やほこりは、目的物を熱い溶媒に溶かした段階で、熱いうちにろ過して取り除きます。冷めてからろ過すると目的物まで結晶になってろ紙に残るため、漏斗やろ紙を温めておき、手早くろ過するのがこの工程のこつです。

溶ける不純物も一緒に析出しない?

不純物の量が少なければ、冷やしたあとも溶解度を下回るので析出せず、母液に溶けたまま残ります。前の例の塩化ナトリウム10 gがこれに当たり、不純物が溶解度を超えるほど多いときに限って一緒に出てきます。

ただし、結晶がすばやくできると母液を取り込んだり、表面に母液が残ったりして、少量でも不純物が混じります。ゆっくり冷やすことと、ろ過した結晶を冷たい溶媒で少量ずつ洗うことが、純度を保つうえで欠かせない操作になります。

溶解度曲線で析出量を計算する

析出量の計算は、「冷やす前に溶けていた量」から「冷やしたあとに溶けていられる量」を引くという考え方で、どの問題も解けます。条件が水の質量で与えられるか、飽和溶液の質量で与えられるかで、比の取り方だけが変わります。

飽和溶液の質量から求める

100℃の硝酸ナトリウムの飽和溶液200 gを25℃まで冷やす場合を考えます。水100 gでつくる100℃の飽和溶液は100 + 175.5 = 275.5 gです。25℃に冷やすと175.5 − 91.8 = 83.7 gが出てくるので、この比を200 gに当てはめます。

飽和溶液275.5 gあたりの析出量83.7 gを、200 gに比例配分する

析出量 = 83.7 g × 200 g275.5 g
= 約60.8 g

275.5 g:水100 g+100℃の溶解度175.5 g 83.7 g:175.5 g − 25℃の溶解度91.8 g。溶解度は水100 gあたりの値なので、水ではなく飽和溶液の質量で与えられたときは、まず「水100 gのときの飽和溶液の質量」を出してから比をとります。

塩化ナトリウムは冷やしても出てこない

同じ考え方で塩化ナトリウムを計算すると、冷却ではほとんど結晶が得られないことが分かります。25℃の飽和溶液(水100 g)を0℃まで冷やしても、出てくるのは35.92 − 35.63 = 0.29 gだけです。

冷却:25℃の飽和溶液(水100 g)を0℃へ

35.92 g − 35.63 g = 0.29 g

蒸発:25℃のまま水を50 g蒸発させる

35.92 g × 50 g100 g = 約18.0 g

温度を変えずに水を減らすと、減らした水に溶けていた分がそのまま結晶になります。溶解度曲線が横ばいの物質は、冷却より蒸発で取り出すほうが効率がよくなります。

食塩が海水を煮詰めてつくられるのは、この性質のためです。逆に、溶解度が温度で大きく変わる硝酸ナトリウムは冷却で取り出しやすく、物質の溶解度曲線の形が、工場でどの晶析方式を選ぶかを決める最初の手がかりになります。

硫酸銅(Ⅱ)五水和物やミョウバンのように結晶が水和水を含む物質では、結晶と一緒に水も溶液から抜けるため、計算に一段手間が加わります。表の基準の違いによる解き方はミョウバンの溶解度と再結晶の計算で扱っています。

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実験室での再結晶のやり方

実験室の再結晶は、溶媒を選ぶ段階でほぼ結果が決まります。そのうえで「溶媒を入れすぎない」「熱いうちにろ過する」「ゆっくり冷やす」の3点を守ると、純度と回収率の両方をそろえやすくなります。

ブフナー漏斗の白い結晶に洗浄瓶で冷たい溶媒をかけて洗う手元

溶媒の選び方

よい溶媒は、熱いときは目的物をよく溶かし、冷たいときはほとんど溶かさないものです。不純物はその逆で、冷たくてもよく溶けるか、熱くても溶けないかのどちらかだと、母液側か熱ろ過で分けられます。

  • 目的物と反応せず、溶媒和物(溶媒分子を取り込んだ結晶)をつくらない
  • 温度による溶解度の差が大きい(無機塩なら水、有機化合物ならエタノール・酢酸エチル・ヘキサンなどから試す)
  • 沸点が高すぎず、ろ過後に乾燥で抜きやすい
  • 1種類で条件が合わなければ、よく溶かす溶媒と溶かしにくい溶媒を混ぜた混合溶媒にする

溶かす・熱ろ過・徐冷・種結晶

沸騰させた溶媒を少しずつ加え、目的物がちょうど溶けきる最少量で止めます。溶媒の入れすぎは回収率が落ちるいちばんの原因で、冷やしても溶けたまま残る量が増えてしまいます。溶けずに残る粒が小さくならなければ不溶性の不純物なので、溶媒を足さずに熱ろ過で除きます。

ろ過した溶液は断熱できる台に置いて時計皿でふたをし、室温までゆっくり冷やします。数分以内に一気に結晶が出るのは速すぎで、母液を抱き込みやすくなるため、結晶化に5〜20分かかるくらいが目安です。

冷えても結晶が出ないときは、ガラス棒で容器の内側をこするか、目的物の小さな結晶(種結晶)を入れて、結晶ができるきっかけをつくります。目的物が結晶にならず油状に分かれた場合は、溶媒を足して溶かし直し、より穏やかに冷やします。

図4:実験室での再結晶の手順と確かめどころ

各工程で、収率に効く操作と純度に効く操作が分かれています。

01最少量の熱い溶媒で溶かす入れすぎると収率が落ちる
02熱いうちにろ過溶けない不純物・活性炭を除く
03室温までゆっくり冷やす速すぎると母液を抱き込む。出なければ種結晶
04氷水でさらに冷やす10〜20分。溶けたまま残る量を減らす
05吸引ろ過・冷たい溶媒で洗う表面の母液を少量ずつ流す
06乾燥・質量と純度を確かめる収率、融点、HPLC

ろ過・洗浄・乾燥と、収率・純度の確かめ方

室温まで冷えたら氷水でさらに10〜20分冷やし、吸引ろ過で結晶を集めます。洗浄には氷で冷やした同じ溶媒を少量だけ使い、結晶の表面に残った母液を流します。乾燥は風乾のほか、乾燥剤を入れたデシケーターや真空乾燥機を使います。

水和水を含む結晶は、加熱しすぎると結晶水まで抜けて別の物質になります。乾かしすぎや保管中に水を失う風解も、質量や純度の値を狂わせる原因として知っておきたい現象です。

結果は収率と純度の2つで評価し、両者は別の指標として扱います。収率は「得た結晶の質量 ÷ 仕込んだ目的物の質量」で、溶媒の量と冷却温度で決まります。純度は冷却の速さと洗浄で決まり、母液をもう一度濃縮すれば2番目の結晶が取れますが、不純物も濃くなっているので純度は下がります。

有機化合物の純度は、まず融点で確かめます。不純物があると融点が下がり、溶け始めから溶け終わりまでの幅が広がるため、文献値に近く幅の狭い融点が得られれば精製がうまくいった目安になります。サリチル酸からアスピリンをつくる実験でも、最後は再結晶と融点で出来を確かめます。

医薬品や電子材料のように不純物の量まで数字で管理する場面では、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で不純物のピークの面積を測ります。無機塩は融点が高く融点での確認に向かないため、イオンクロマトグラフィーや滴定で、含まれる陰イオン・陽イオンの量を測るのが一般的です。

実際の工場では:工業晶析の方式と装置

工場では、溶液から結晶を取り出す操作を「晶析」と呼び、再結晶はその一つの使い方です。目的物の純度だけでなく、結晶の大きさとそろい方(粒径分布)が、その後のろ過・乾燥のしやすさや、製品の固まりにくさ、溶け方を左右するため、工場ではこれも管理の対象になります。

冷却晶析・蒸発晶析・貧溶媒晶析

晶析の方式は、溶液を「溶けきれない状態(過飽和)」にする方法で分かれます。どの方式を選ぶかは、目的物の溶解度曲線の形と、熱に強いかどうかでほぼ決まります。

図5:工業晶析の4つの方式

溶液を過飽和にする手段の違いで、冷却・蒸発・貧溶媒・反応の4方式に分かれます。

冷却晶析温度を下げて溶解度を下げる。硝酸ナトリウム・塩化カリウムなど溶解度が温度で大きく変わる物質
蒸発晶析溶媒を蒸発させて濃くする。食塩のように溶解度が温度であまり変わらない物質。砂糖も蒸発で濃縮
貧溶媒晶析溶かしにくい溶媒を加えて溶解度を下げる。熱に弱い医薬品の原薬など
反応晶析反応でできた溶けにくい物質を析出させる。アンモニアソーダ法の炭酸水素ナトリウムなど

貧溶媒晶析は、たとえばエタノールに溶かした有機化合物に水を加えるように、目的物を溶かしにくい溶媒を足して析出させる方法です。加熱しなくてよいので熱で分解しやすい物質に向き、医薬品の原薬では冷却晶析と組み合わせてよく使われます。

反応晶析は、反応と析出を同じ槽で進める方式です。アンモニアソーダ法では、塩化ナトリウム水溶液にアンモニアと二酸化炭素を吹き込み、溶けにくい炭酸水素ナトリウムを結晶として取り出しており、ここでも溶解度の差が分離の決め手になっています。

晶析装置と粒径分布

大量の無機塩を連続して晶析する工場では、結晶を含む液を循環させる晶析缶が使われます。代表的なのは強制循環(FC)型、ドラフトチューブバッフル(DTB)型、オスロ型の3つで、大きな結晶を育てたいほど、細かい結晶を分けて溶かし直す仕組みが加わります。

方式 しくみ 得られる結晶
強制循環(FC)型 ポンプで液を熱交換器に回し、加熱・蒸発させて過飽和をつくる 工業の溶液晶析で広く使われる主力の型
ドラフトチューブバッフル(DTB)型 缶の中の筒(ドラフトチューブ)で液を循環させ、バッフルの外側で細かい結晶を分ける 粗く、粒の大きさがそろった結晶
オスロ型 結晶を流動層で育て、バッフルで分けた微結晶を外部の熱交換器で温めて溶かす 大きな結晶を育てられる(最大6 mm程度)

工場で制御する条件

晶析で品質を左右するのは、どれだけ過飽和にするかです。過飽和が大きすぎると新しい結晶の核が一気に生まれて細かい粒ばかりになり、母液の抱き込みも増えるので、冷却速度や貧溶媒の添加速度を抑え、種結晶を入れて核をそろえるのが基本になります。

  • 過飽和度:冷却速度・蒸発量・貧溶媒の添加速度で決まる。大きすぎると微結晶と母液の抱き込みが増える
  • 種結晶:入れる温度・量・粒の大きさで、できる結晶の数と最終の粒径が決まる
  • 撹拌:結晶を液中に均一に保つ一方、強すぎると結晶が割れて微粉が増える
  • 滞留時間:連続式では、缶の中にいる時間が長いほど結晶が大きく育つ

晶析のあとは、遠心分離機やろ過機で結晶と母液を分け、乾燥機で溶媒を抜いて製品にします。粒が細かすぎるとろ過に時間がかかり、乾燥後に固まりやすくなるので、晶析の条件は後工程の能力とあわせて決めます。

母液は目的物を溶かしたまま残っているため、前の工程に戻して再利用し、捨てる目的物を減らして全体の収率を上げるのが一般的です。

医薬品・製塩・砂糖・肥料での晶析

晶析は化学工場だけでなく、薬や食品、肥料の工場でも製品の品質を決める工程です。分野ごとに選ばれる方式と、気にする品質の項目が違います。

図6:晶析が使われる主な現場

溶解度曲線の形と、製品に求められる品質で、方式と管理項目が変わります。

医薬品の原薬冷却・貧溶媒晶析。結晶多形・純度・粒径を管理
製塩海水を濃縮したかん水を真空式蒸発缶で煮詰める蒸発晶析
砂糖真空の結晶缶で低温で煮詰め、種結晶から育てて遠心分離
肥料塩化カリウムを熱い母液で溶かし出し、冷却晶析で塩化ナトリウムと分ける

医薬品:結晶多形の管理

同じ分子でも、結晶の中での分子の並び方が違う複数の結晶形をとることがあり、これを結晶多形といいます。結晶形が違うと溶けやすさや安定性、錠剤にしたときの扱いやすさが変わるため、医薬品では化学的な純度と同じくらい、どの結晶形かが品質の項目になります。

よく知られた例が、抗HIV薬リトナビルです。1998年の夏、販売中の製剤の製造で、それまでより溶けにくい新しい結晶形(フォームⅡ)が現れ、半固形カプセルの供給が脅かされました。

原因は、溶解度の高い旧結晶形(フォームⅠ)に対し、強い過飽和の溶液でだけ核ができる、より安定で溶けにくい結晶形が現れたためと報告されています。

こうした経緯から、米国食品医薬品局(FDA)は2007年の指針で、製造や保管の間に生じうる結晶形を調べ、必要に応じて管理するよう求めています。

原薬の工場では、X線回折や熱分析で結晶形を確かめ、種結晶・溶媒・冷却の条件を決めた手順どおりに晶析を進めます。同じ物質でも分子の並び方で性質が変わる点は、結晶の種類と融点・硬さの違いとも通じる話です。

製塩・砂糖・肥料

日本の製塩は、1972年から、海水をイオン交換膜を使った電気透析で濃縮する方式に切り替わりました。濃くなった塩水(かん水)は、複数の缶を直列につないだ真空式の多重効用蒸発缶で煮詰められ、塩化ナトリウムの溶解度曲線が横ばいであるため、ここでは冷却ではなく蒸発晶析が使われます。

砂糖の精製では、清澄した糖液を蒸発缶で濃縮したあと、真空の結晶缶で水の沸点より低い温度で煮詰めます。低温で煮詰めるのは、糖の熱による着色や分解を抑えるためで、細かい砂糖の種結晶を加えて結晶を育て、結晶と蜜の混合物を遠心分離機で分けます。

カリ肥料の塩化カリウムは、塩化ナトリウムと混ざった鉱石(シルビナイト)を熱い母液で浸出し、溶け出した塩化カリウムを冷却晶析で取り出す方法でつくられます。

塩化カリウムは温度で溶解度が大きく変わり、塩化ナトリウムはほとんど変わらないので、この記事の硝酸ナトリウムの例と同じ原理で2つの塩が分かれます。

再結晶のよくある質問

金属の「再結晶」とは別の意味ですか?

別の現象です。金属の再結晶は、加工で硬くなった金属を加熱(焼なまし)したときに、ひずみのない新しい結晶粒ができて軟らかくなる現象で、溶液は関係しません。鋼の焼なましについては焼入れ・焼戻し・焼なまし・焼ならしの違いで整理しています。

再結晶ではなぜゆっくり冷やすのですか?

急に冷やすと結晶の核が一度にたくさんでき、細かい結晶が母液や不純物を取り込みながら固まってしまうからです。ゆっくり冷やすと、規則正しく並ぶ目的物の分子だけが結晶に加わり、大きく純度の高い結晶になります。

再結晶の収率が100%にならないのはなぜですか?

冷やしたあとの温度での溶解度の分だけ、目的物が母液に溶けたまま残るからです。そのほか、熱ろ過でろ紙に残った分や洗浄で溶けた分も失われ、母液を濃縮して2番目の結晶を取れば収率は上がりますが、純度は下がります。

再結晶と蒸留・クロマトグラフィーはどう使い分けますか?

固体を精製するなら再結晶、液体を沸点の差で分けるなら蒸留、性質の似た少量の成分を分けたり不純物を測ったりするならクロマトグラフィーが基本です。原油を沸点の範囲ごとに分ける石油の分留も蒸留の仲間で、再結晶とは使う性質が違います。

再結晶による混合物の分離まとめ

この記事のまとめ
  • 再結晶は、温度による溶解度の差を使って固体を精製する方法。熱い溶媒に溶かし、熱ろ過してから冷やし、出た結晶をろ過して乾かす
  • 塩化ナトリウムを少量含む硝酸ナトリウムは、冷やすと硝酸ナトリウムだけが結晶になる。水100 gに150 g溶かして100℃から25℃にすると58.2 gが析出する
  • 析出量は「冷やす前に溶けていた量 − 冷やしたあとに溶けていられる量」。飽和溶液の質量で与えられたら、水100 gのときの飽和溶液の質量で比をとる
  • 実験室では最少量の熱い溶媒、ゆっくりした冷却、冷たい溶媒での洗浄がこつ。収率と純度は別に評価し、純度は融点やHPLCで確かめる
  • 工場では冷却・蒸発・貧溶媒・反応の4方式の晶析で、過飽和・種結晶・撹拌を制御して粒径をそろえる。医薬品では結晶多形も管理する

再結晶は、溶解度曲線を読むという一つの考え方が、試験管の中の精製から食塩・砂糖・医薬品の工場の晶析まで同じように通用する操作です。

取り出した結晶の純度をどう保証するかは品質保証・品質管理の仕事の中心でもあります。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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