オキソ酸とは?構造式・酸の強さの規則と硫酸・硝酸・リン酸の使い道

防液堤に囲まれた化学工場の酸の貯槽とポンプ

オキソ酸(酸素酸)は、硫黄・窒素・リンなどの中心原子に OH と酸素が結合し、その OH の H を H+ として出す酸です。硫酸 H2SO4・硝酸 HNO3・リン酸 H3PO4 が代表で、塩化水素 HCl のように酸素を含まない「水素酸」と対になる呼び名です。

多くは非金属の酸化物が水と結びついてでき、酸の強さは OH になっていない酸素の数でほぼ決まります。その数が2つの硫酸・硝酸は水の中でほぼ完全に電離する強酸で、1つのリン酸は中くらい、0の次亜塩素酸は弱い酸です。

目次

オキソ酸とは?中心原子に OH と酸素が付いた酸

オキソ酸とは、中心原子 X に酸素 O が結合し、その O の一部または全部に H が付いた化合物で、化学辞典では XOn(OH)m と書かれます。水に溶けると O–H の H が H+ として外れ、残った部分が硫酸イオンや硝酸イオンのような陰イオンになります。

名前の「オキソ」は、中心原子に付いた酸素を配位子として呼ぶときの名前で、古くはオキシ酸・酸素酸とも呼ばれました。英語では oxoacid で、IUPAC は塩化水素のように酸素を含まない水素酸(hydracid)と対比させています。

図1:オキソ酸の骨格:中心原子・OH・OH でない酸素

硫酸なら S のまわりに O が4つ付き、2つが OH、2つが =O です。どのオキソ酸も「OH でない O の数 p」と「OH の数 q」で書き直すと、強さと価数が読み取れます。

SOOOOHH=O:OH でない酸素=O:OH でない酸素H⁺ として外れる HH⁺ として外れる H中心原子OpX(OH)q と書き直す酸書き直した式pq硫酸H₂SO₄O₂S(OH)₂22硝酸HNO₃O₂N(OH)21リン酸H₃PO₄OP(OH)₃13炭酸H₂CO₃OC(OH)₂12次亜塩素酸HClOCl(OH)01SOOOOHH=O:OH でない酸素外れるのは青い H(OH の H)OpX(OH)q と書き直す酸書き直した式pq硫酸H₂SO₄O₂S(OH)₂22硝酸HNO₃O₂N(OH)21リン酸H₃PO₄OP(OH)₃13炭酸H₂CO₃OC(OH)₂12次亜塩素酸HClOCl(OH)01

※青い H が H⁺ として外れる水素。q の数がそのまま何価の酸かを表します。次亜塩素酸は Cl に OH が1つだけ付いた形です。

大事なのは、H+ として外れるのは O に付いた H だけという点です。中心原子は電気陰性度の大きい O に囲まれて電子を引かれ、その先の O–H の電子も O の側へ寄るので、H が H+ として離れやすくなります。

電気陰性度の大小と、結合の電子がどちらへ寄るかの考え方は電気陰性度の記事で詳しく扱っています。オキソ酸の強さもエステル化も、この電子の偏りを出発点にすると同じ筋道で説明できます。

オキソ酸の名前の付け方:亜・次亜・過

同じ中心原子でも酸素の数が違うオキソ酸がいくつもあり、基準の酸より中心原子の酸化数が低いものに「亜」「次亜」、高いものに「過」を付けて呼び分けます。基準になるのは硫酸・硝酸・塩素酸のように、その元素でよく使われる形の酸です。

中心原子過〜酸〜酸(基準)亜〜酸次亜〜酸
塩素 Cl過塩素酸 HClO4(+7)塩素酸 HClO3(+5)亜塩素酸 HClO2(+3)次亜塩素酸 HClO(+1)
硫黄 S―硫酸 H2SO4(+6)亜硫酸 H2SO3(+4)―
窒素 N―硝酸 HNO3(+5)亜硝酸 HNO2(+3)―
表2:オキソ酸の名前と中心原子の酸化数(かっこ内)

塩素の4つのオキソ酸は、酸素が増えるほど酸は強くなる一方で、室温の水溶液での酸化力の順はほぼ逆になる代表例です。酸化数と強さ・酸化力の関係は塩素のオキソ酸の記事にまとめています。

酸性酸化物と水が反応してオキソ酸ができる流れ

非金属の酸化物(酸性酸化物)に水が加わると、水の O が酸化物の中心原子と結合し、水の H が酸化物の O へ移ってオキソ酸になります。二酸化炭素と水から炭酸ができる反応が身近な例で、中心の C に =O が1つと OH が2つ付いた形になります。

二酸化炭素と水から炭酸ができる反応
CO2 + H2O ⇄ H2CO3
原子の数:左辺・右辺とも C 1・O 3・H 2。炭酸は水溶液の中にしかなく、取り出そうとすると二酸化炭素と水に戻る(化学辞典)

二酸化硫黄と水:電荷の偏りで引き合い、結合が組み替わる

二酸化硫黄 SO2 では、電気陰性度が S(2.58)より大きい O(3.44)に共有電子対が引き寄せられ、S がわずかにプラス(δ+)、O がマイナス(δ−)に偏っています。水も O が δ−、H が δ+ に偏った極性分子で、偏り方は二酸化硫黄と同じ向きです。

この2つが近づくと、水の O の非共有電子対が δ+ の S と結合し、水の H のひとつが SO2 の δ− の O へ移ります。こうして S に =O が1つ、OH が2つ付いた亜硫酸 H2SO3(OS(OH)2)ができます。

図2:二酸化硫黄と水から亜硫酸ができるしくみ

SO₂ の S はプラス側、水の O はマイナス側に偏っているので引き合い、O が S と結合したあと H が移って OH が2つの形になります。

① 電荷の偏りで引き合うSOOOHHδ+δ−δ−δ−δ+δ+② 結合が組み替わる1水の O が S と結合する2H が SO₂ の O へ移る3O–H が2つ、=O が1つ残る③ 亜硫酸 OS(OH)₂SOOOHHS に =O が1つ、OH が2つ(青い H が H⁺ として外れる)① 電荷の偏りで引き合うSOOOHHδ+δ−δ−δ−δ+δ+② 結合が組み替わる1. 水の O が S と結合する2. H が SO₂ の O へ移る3. O–H が2つ、=O が1つ残る③ 亜硫酸 OS(OH)₂SOOOHH

※電荷の偏りと結合の組み替えを1枚にまとめた模式図です。実際の水溶液では亜硫酸は単離できず、大部分は水和した SO₂ として溶けています。

もっとも、亜硫酸は遊離の酸として取り出せず、水溶液の中でも大部分は水和した SO2 のまま溶けています。それでも第1段の pKa は 1.76(25℃)で、リン酸と同じくらい H+ を出す酸として働きます。

主な酸性酸化物と、水でできるオキソ酸

同じ型の反応で、炭素・硫黄・窒素・リンの酸化物からそれぞれのオキソ酸ができます。酸化物の中心原子の酸化数がそのまま酸に引き継がれるのが共通点で、SO2(+4)からは亜硫酸、SO3(+6)からは硫酸ができます。

酸性酸化物+水 → オキソ酸
SO2 + H2O ⇄ H2SO3
SO3 + H2O → H2SO4
N2O5 + H2O → 2HNO3
P4O10 + 6H2O → 4H3PO4
原子の数はどの式も左辺と右辺で一致(例:P4O10 の式は P 4・O 16・H 12)。P4O10 は十酸化四リンで、組成式で P2O5 とも書く。中心原子の酸化数は S +4・+6、N +5、P +5

図3:主な酸性酸化物とできるオキソ酸、それが起きる場面

中心原子の酸化数は、酸化物から酸へそのまま引き継がれます。工場では、反応の速さや熱の出方に合わせて、水の代わりに濃い酸へ吸収させる工程もあります。

酸性酸化物
水と反応してできる酸
工場・身近な場面
CO₂(二酸化炭素)
炭酸 H₂CO₃(弱い酸)
炭酸飲料、雨水が弱い酸性になる理由、炭酸ガスによる排水の中和
SO₂(二酸化硫黄)
亜硫酸 H₂SO₃
製錬・燃焼の排ガス。排煙脱硫では石灰と反応させて石膏にする
SO₃(三酸化硫黄)
硫酸 H₂SO₄(強酸)
硫酸工場の吸収塔。水ではなく98〜99%の硫酸に吸収させる
N₂O₅(五酸化二窒素)
硝酸 HNO₃(強酸)
硝酸工場では N₂O₅ ではなく NO₂ を水に吸収させる
P₄O₁₀(十酸化四リン)
リン酸 H₃PO₄(中くらいの酸)
乾式リン酸。黄リンを燃やしてできた P₄O₁₀ を水に吸収させる

※排煙脱硫と石灰の反応は酸性酸化物と塩基の反応で、詳しくは酸性酸化物の見分け方の記事で扱っています。

工場では、酸化物をそのまま水に入れるとは限りません。硫酸工場は SO3 を水ではなく98〜99%の濃硫酸に吸収させ、硝酸工場は N2O5 ではなく NO2 を水に吸収させて硝酸にしています。それぞれの工程は接触法とオストワルト法の記事で、設備の流れとあわせて読めます。

どの元素の酸化物が水と結びついて酸になり、どれが塩基や両性になるかは酸性酸化物・塩基性酸化物・両性酸化物の記事で見分け方をまとめています。おおまかには、非金属の酸化物が水と結びつくとオキソ酸になり、塩基と反応すると塩になります。

覚えておきたいオキソ酸の構造式:硫酸・硝酸・リン酸

硫酸・硝酸・リン酸はどれも中心原子のまわりに O が4つ(硝酸は3つ)並び、そのうち OH になっている O が硫酸は2つ、硝酸は1つ、リン酸は3つです。この OH の数が、1分子から出せる H+ の数、つまり何価の酸かと一致します。

図4:硫酸・硝酸・リン酸の構造式

OH の数(青い H の数)が何価の酸かを決め、OH でない O の数が酸の強さを決めます。硫酸と硝酸は OH でない O が2つ、リン酸は1つです。

硫酸 H₂SO₄2価(OH 2つ・=O 2つ)SOOOOHHS=O 142 pm / S–OH 157 pm長さの違う結合が2種類硝酸 HNO₃1価(OH 1つ・OH でない O 2つ)NOOOHN–OH 141 pm / N–O 121・120 pm平らな分子リン酸 H₃PO₄3価(OH 3つ・=O 1つ)POOOOHHHP に =O が1つ、OH が3つ3段階で電離する硫酸 H₂SO₄2価(OH 2つ・=O 2つ)SOOOOHHS=O 142 pm / S–OH 157 pm硝酸 HNO₃1価(OH 1つ・OH でない O 2つ)NOOOHN–OH 141 pm / N–O 121・120 pmリン酸 H₃PO₄3価(OH 3つ・=O 1つ)POOOOHHHP に =O が1つ、OH が3つ

※結合の長さは気体の分子を測った値(NIST CCCBDB、1 pm=10⁻¹² m)。硝酸の2本の N–O はほぼ同じ長さで、片方を二重結合で描くのは書き表すための便宜です。

硫酸 H2SO4:S=O が2本、S–OH が2本の2価の酸

硫酸は S を中心に4つの O が正四面体に近い形で並び、2つが OH、2つが =O です。気体の分子を測った値では S=O が 142 pm、S–OH が 157 pm で、結合の長さがはっきり2種類に分かれます(NIST の分子構造データベース)。

構造式の S=O は、この短いほうの結合を表す書き方です。4本の S–O がそろうのは H+ が2つとも外れた硫酸イオン SO42− になってからで、炭酸イオンの3本の C–O が同じ長さになるのと同じく、負の電荷が4つの O に広がるためです。

「硫酸の S–O はベンゼン環と同じ1.5重結合」という説明を見かけますが、中性の硫酸分子には当てはまりません。H+ を2つ出す2価の酸で、第1段はほぼ完全に電離し、第2段は pKa が 2前後(文献により 1.7〜2.0)とやや弱くなります。

硝酸 HNO3:平面の分子で OH は1本の1価の酸

硝酸は N を中心に O が3つ付いた平らな分子で、OH は1つだけなので1価の酸です。N–OH は 141 pm と長く、残り2本の N–O は 121 pm と 120 pm でほぼ同じ長さです。

そのため構造式で片方を二重結合、もう片方を単結合で描くのは、書き表すための便宜です。硝酸は酸として強いだけでなく、酸化数 +5 の N が相手から電子を受け取る酸化力も持ち、濃度で NO2 と NO に分かれる反応は濃硝酸と希硝酸の違いの記事で説明しています。

リン酸 H3PO4:OH が3本ある3価の酸

リン酸は P に =O が1つ、OH が3つ付いた形で、H+ を最大3つ出す3価の酸です。ただし3つが同時に外れるわけではなく、1つ外れるごとに次は外れにくくなります。

リン酸の3段階の電離(25℃)
H3PO4 ⇄ H+ + H2PO4− pKa1 = 2.15
H2PO4− ⇄ H+ + HPO42− pKa2 = 7.1
HPO42− ⇄ H+ + PO43− pKa3 = 12.4
世界大百科事典の値(25℃)。段が進むごとに電離定数は約10万分の1ずつ小さくなる

pKa2 の 7.1 が中性に近いため、pH 7 付近では H2PO4− と HPO42− が両方まとまった量で残り、pH が動きにくい液になります。生化学の実験や pH 計の校正で使うリン酸塩の液はこの性質を使ったもので、しくみは緩衝液の記事にまとめています。

計算例:pH 7.0 での HPO42− と H2PO4− の比
[HPO42−][H2PO4−] = 10(pH − pKa2)
= 10(7.0 − 7.1) = 0.79
HPO42− 約44% : H2PO4− 約56%
pKa2 の電離の式を変形した関係(ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式)。0.79÷1.79=0.44。H3PO4 と PO43− は pH 7.0 では1%未満なので無視した

構造式から酸の強さを読む:OH でない酸素の数の規則

オキソ酸の強さは、OH になっていない O の数 p が1つ増えるごとに pKa1 がおよそ5ずつ下がるという経験則で見積もれます。ポーリングの規則と呼ばれ、比べているのは 25℃ の水溶液の中で H+ を出す(電離する)しやすさです。

ポーリングの規則(OpX(OH)q の形のオキソ酸)
pKa1 ≒ 8 − 5p
p=0 → 8、p=1 → 3、p=2 → −2、p=3 → −7
p:中心原子に付いていて H を持たない O の数、q:OH の数。実測は次亜塩素酸 7.5(p=0)、リン酸 2.15(p=1)、硝酸 −1.4(p=2)。±1〜2程度ずれる目安の式で、q が2以上なら2段目以降の pKa はおよそ5ずつ大きくなる

理由は2つあり、どちらも中心原子のまわりの O の数で決まります。

  • 中心原子に付く O が多いほど中心原子の電子が強く引かれ、その先の O–H の電子も O の側に寄って、H+ が離れやすくなる
  • H+ が外れた後の負の電荷が、OH でない O の数だけ広く分散するので、残った陰イオンが安定する

図5:OH でない酸素の数 p と酸の強さ(pKa₁)

p が1つ増えるごとに pKa₁ はおよそ5ずつ下がり、酸は約10万倍ずつ強くなります。実測(青い点)は、予測(点線のひし形)の近くに集まります。

1050−5−10← 弱い酸強い酸 →pKa₁(25℃・水溶液)p=0予測 8p=1予測 3p=2予測 −2p=3予測 −7次亜塩素酸 HClO 7.5炭酸 H₂CO₃ 3.8リン酸 H₃PO₄ 2.15亜硫酸 H₂SO₃ 1.8硝酸 HNO₃ −1.4硫酸 H₂SO₄ −2.0過塩素酸 HClO₄ −10.0予測(8−5p)実測実測予測(8−5p)p=0予測 8次亜塩素酸 HClO7.5p=1予測 3炭酸 H₂CO₃3.8リン酸 H₃PO₄2.15亜硫酸 H₂SO₃1.8p=2予測 −2硝酸 HNO₃−1.4硫酸 H₂SO₄−2.0p=3予測 −7過塩素酸 HClO₄−10.0数字が小さい(マイナス)ほど強い酸

※実測値は世界大百科事典・コトバンク(次亜塩素酸・リン酸・亜硫酸・炭酸)と Texas A&M 大学の講義資料(硝酸・硫酸・過塩素酸)。炭酸は H₂CO₃ そのものの値で、溶けた CO₂ 全体を基準にした見かけの値は 6.35。強酸の値は測り方で幅があります。

酸化学式中心原子の酸化数OH の数(価数)OH でない O の数 ppKa1(25℃)主な使い道
次亜塩素酸HClO+1107.5殺菌・漂白(塩として)
炭酸H2CO3+4213.8(見かけ 6.35)炭酸飲料、排水の中和
亜硫酸H2SO3+4211.8食品の酸化防止(塩として)
リン酸H3PO4+5312.15肥料、食品、金属の表面処理
硝酸HNO3+512−1.4肥料、ニトロ化、分析の前処理
硫酸H2SO4+622−2(強酸)無機薬品、酸洗い、リン酸の製造
過塩素酸HClO4+713−10(強酸)分析の試料分解、過塩素酸塩の原料
表1:主なオキソ酸の構造と強さ(pKa の出典は図5と同じ。強酸の値は測り方で幅がある)

規則から外れて見えるのが炭酸で、p=1 なのに、ふつうの表に載る pKa1 は 6.35 と弱い酸に見えます。これは溶けた CO2 の1%足らずしか H2CO3 になっていないためで、本当の H2CO3 だけで計算すると pKa1 は 3.76 と規則どおりの値になります。

2段目以降の電離は、すでに負の電荷を持つ陰イオンからさらに H+ を引き離すことになるので、pKa がおよそ5ずつ大きくなります。リン酸の 2.15・7.1・12.4 はこの目安どおりで、多価の酸の段ごとの強さも構造式から見当がつきます。

広告

エステル化をするオキソ酸:硫酸・硝酸・リン酸エステル

硫酸・硝酸・リン酸もカルボン酸と同じように、アルコールと反応してエステルをつくります。酸の OH とアルコールの H が水として外れ、R–O–X の形でつながるのが共通の型で、カルボン酸のエステル化はその一例です。

反応のしやすさは中心原子の電子の偏りから説明できます。硫酸の S は4つの O に電子を引かれて大きく δ+ に偏っており、カルボニル基の炭素と同じように、アルコールの O の非共有電子対が近づいて結合しやすい相手になっています。

図6:カルボン酸と同じ型で進むオキソ酸のエステル化

青い文字(アルコールの H と酸の OH)が水として外れ、残った部分が R–O–X でつながります。酸が変わっても組み替わり方は同じです。

酸アルコール酸エステル + 水カルボン酸R–OH+HO–C(=O)–R′R–O–C(=O)–R′エステル(酢酸エチルなど)+ H₂O硫酸R–OH+HO–SO₂–OHR–O–SO₂–OH硫酸エステル(洗剤の原料)+ H₂O硝酸R–OH+HO–NO₂R–O–NO₂硝酸エステル(ニトログリセリン)+ H₂Oリン酸3 R–OH+(HO)₃P=O(R–O)₃P=Oリン酸トリエステル(難燃剤)+ 3 H₂Oカルボン酸R–OH + HO–C(=O)–R′R–O–C(=O)–R′ + H₂Oエステル(酢酸エチルなど)硫酸R–OH + HO–SO₂–OHR–O–SO₂–OH + H₂O硫酸エステル(洗剤の原料)硝酸R–OH + HO–NO₂R–O–NO₂ + H₂O硝酸エステル(ニトログリセリン)リン酸3 R–OH + (HO)₃P=O(R–O)₃P=O + 3 H₂Oリン酸トリエステル(難燃剤)

※R・R′ は炭化水素の部分。硫酸・硝酸のエステル化は濃硫酸を混ぜた条件で進めるのがふつうです。工業的には、硫酸エステルは三酸化硫黄などで、リン酸トリエステルはオキシ塩化リンなどで作ることが多く、式は「OH とアルコールの H が水として外れる」型の見取り図です。

硫酸エステル:洗剤の界面活性剤

長い炭化水素の鎖(アルキル基)を持つアルコールを硫酸エステルにし、ナトリウム塩にしたものが洗剤のアルキル硫酸エステルナトリウム(家庭用品品質表示法の表示名)です。

化粧品などの表示ではラウリル硫酸ナトリウムと書かれ、水になじむ硫酸エステルの部分と、油になじむ鎖の部分を1つの分子に持っています。

硝酸エステル:ニトログリセリンとニトロセルロース

グリセリンの3つの OH を硝酸と硫酸の混酸でエステル化したものがニトログリセリン C3H5(ONO2)3 で、ダイナマイトや無煙火薬の原料であると同時に、血管を広げる狭心症の薬にも使われます。

セルロースの OH を硝酸エステルにしたのがニトロセルロースで、窒素量によって塗料から火薬まで用途が変わります。

名前に「ニトロ」と付いても、硝酸エステルは C–O–NO2 と O をはさんでつながり、ニトロベンゼンのように C に直接 NO2 が付くニトロ化合物とは別の結合です。ベンゼン環に NO2 を付ける反応のしくみはニトロ化とスルホン化の記事にまとめています。

リン酸エステル:難燃剤と可塑剤

リン酸の3つの OH をすべてフェノール類などでエステル化したリン酸トリエステルは、樹脂を燃えにくくする難燃剤や、樹脂を柔らかくする可塑剤に使われます。環境省の環境リスク評価(平成16年度)は、その一つのリン酸トリス(ジメチルフェニル)の主な用途を難燃剤・可塑剤としています。

同じ資料の当時、この物質は化管法(PRTR 法)の第一種指定化学物質でしたが、現行の政令(515物質)にはこの名称では載っていません。

一方、りん酸トリフェニルやりん酸トリトリルは現在も第一種指定化学物質で、同じ系統の物質を扱う工場では、最新の対象物質の一覧と取扱量から排出量・移動量の届出の要否を確かめます。

実際の工場では:硫酸・硝酸・リン酸の使われ方

3つのうち量がもっとも多いのは硫酸で、2025年の国内生産は 557万 t(100%硫酸に換算)でした。

出荷先を見ると消費量 562万 t(内需+輸出)のうち306万 t が輸出で、国内で使う 256万 t は無機薬品・肥料・繊維と、それ以外の幅広い工業向けに分かれます(硫酸協会)。

図7:国内の硫酸の行き先(2025暦年)

合計 562万 t のうち半分以上が輸出で、国内では無機薬品と、分類に入らない幅広い工業向けが大きな割合を占めます。肥料は5%ほどです。

単位:万 t(100%硫酸換算、かっこ内は合計に対する割合)

輸出

305.8万 t(54.4%)

その他の内需(工業全般)

136.0万 t(24.2%)

無機薬品

81.8万 t(14.6%)

肥料

26.0万 t(4.6%)

繊維

12.1万 t(2.2%)

※硫酸協会「硫酸消費量」の2025暦年の値。合計 5,616,802 t は消費量(内需+輸出)で、生産量 5,572,149 t とは輸入や在庫の増減の分だけ違います。

硫酸:製錬ガスから生まれ、無機薬品や酸洗いに使われる

国内で生産される硫酸の82%は銅や亜鉛などの製錬で出る SO2 を含むガスからつくられ、硫黄を燃やしてつくるものは16%です。内需 256万 t に対して輸出 306万 t と、輸出が内需を上回っているのが日本の硫酸の特徴です。

国内では無機薬品の原料や化学繊維、肥料のほか、鉄鋼の表面のさびを溶かして落とす酸洗いに大量に使われます。肥料向けは1983年の199万 t から2025年には26万 t と約13%まで減り、使い道の中心は工業に移っています。

硝酸:肥料・ニトロ化・アジピン酸と金属の酸洗い

硝酸はアンモニアを酸化してつくり、米国 EPA の資料では、1991年の米国で生産の約70%が肥料の硝酸アンモニウムの原料、5〜10%がナイロン原料のアジピン酸の製造に使われていました。ほかにニトロベンゼンなどのニトロ化や爆薬、金と銀の分離、鋼や黄銅の酸洗いにも使われます。

硫酸も硝酸も、10%を超えて含む製剤は毒物及び劇物取締法の劇物にあたります。容器には「医薬用外劇物」の表示が要り、盗難や紛失を防ぐ措置をとって保管することが、受け入れ設備の日常の管理になります。

リン酸:湿式は肥料に、乾式は食品・医薬に

リン酸の大部分は、リン鉱石を硫酸で分解する湿式法でつくります。鉱石のカルシウムが硫酸と結びついて石膏になり、ろ過で除いた液が湿式リン酸で、2024年の米国ではリン鉱石の95%超がこの形を経て肥料や飼料添加物の原料になっています(USGS)。

湿式リン酸の反応(簡略式)
Ca3(PO4)2 + 3H2SO4 + 6H2O
→ 2H3PO4 + 3CaSO4・2H2O↓
米国 EPA AP-42 の簡略式。原子の数は左辺・右辺とも Ca 3・P 2・S 3・O 26・H 18。実際の鉱石はフッ素を含むので、フッ化水素やフッ化ケイ素のガスも出る

図8:湿式リン酸ができるまで

リン鉱石を硫酸で溶かし、石膏をこして除いた液を濃縮します。硫酸とリン酸、2つのオキソ酸が1つの工程でつながっています。

01リン鉱石を乾かして砕く粉にして反応槽へ連続で送る
02硫酸と反応させる通常93%の硫酸を使い、酸と鉱石の比を自動で制御する
03反応熱を除く発熱が大きく、いまのプラントはスラリーの一部を真空で冷やして戻す
04石膏をろ過して洗う洗浄でリン酸の99%以上を回収する
05湿式リン酸を濃縮するP₂O₅ 26〜30%の液を、真空蒸発缶2〜3段で40〜55%に
06肥料・飼料の原料へリン酸アンモニウムなどの肥料や飼料添加物にする

※米国 EPA「AP-42 8.9 Phosphoric Acid」の二水石膏法の説明をもとに作図。同資料には、日本の工場は半水石膏法で、より濃く不純物の少ないリン酸を得ているとの記述があります(1993年時点)。

計算例として、リン酸 1 t を簡略式どおり(収率100%)つくると、硫酸が 1.50 t 要り、石膏(二水塩)が 2.64 t 出ます。製品より重い石膏が出るため、湿式リン酸の工場では石膏の置き場や再利用が設備計画の大きな論点になります。

計算例:リン酸 1 t あたりの硫酸と石膏
H3PO4:1,000 ÷ 97.995 = 10.20 kmol
H2SO4:10.20 × 32 = 15.31 kmol
15.31 × 98.08 = 1,501 kg
CaSO4・2H2O:15.31 × 172.17
= 2,635 kg
硫酸 約1.50 t、石膏 約2.64 t(リン酸 1 t あたり)
簡略式の係数(H3PO4 2 に対して H2SO4・石膏 3)とモル質量から求めた理論量。硫酸は100%換算で、実際の工場は93%硫酸を使い、鉱石の不純物の分だけ量が変わる

黄リンを燃やして P4O10 にし、水に吸収させる乾式法は、純度の高いリン酸が得られるので食品・飲料・医薬品向けに使われます。酸性酸化物と水の反応が、そのまま製法になっている例です。

金属加工では、リン酸に亜鉛などの塩を加えた液で鋼板などの金属を処理し、表面にリン酸亜鉛の皮膜をつくる処理が自動車ボデーの塗装下地に使われています。電着塗装の前処理として本田技研工業の技術資料でも扱われており、めっきとは別系統の表面処理です。

リン酸亜鉛の皮膜をつけた鋼板の試験片

半導体工場ではエッチングなどに不純物を極端に減らした高純度のリン酸が使われ、国内メーカーの新工場の動きは半導体用高純度リン酸の記事で扱っています。

実際の工場では:排水の中和・食品・分析で使うオキソ酸

製品の原料以外では、pH を合わせる・食品の品質を保つ・試料を溶かすという3つの場面でオキソ酸がよく使われます。量は小さくても、酸の強さや酸化力の違いがそのまま使い分けの理由になっています。

図9:原料以外でオキソ酸が使われる4つの場面

強さ・酸化力・揮発しにくさといった性質の違いで、場面ごとに使う酸が決まっています。

排水の中和強アルカリの排水を硫酸や炭酸ガスで pH 5.8〜8.6 に
清涼飲料の酸味高純度の乾式リン酸で酸味を付ける
ワインの酸化防止亜硫酸塩を二酸化硫黄で 0.35 g/kg 未満
分析の前処理硝酸で試料を加熱分解してから金属を測る

排水の中和:硫酸と炭酸ガスの使い分け

工場などの排水は、公共用水域のうち海域以外に流す場合 pH 5.8〜8.6(海域は 5.0〜9.0)に収める決まりがあり(排水基準を定める省令)、アルカリ性の排水には硫酸などの酸を加えて中和します。中和に要る量は反応式から決まり、式の立て方はイオン反応式の記事にまとめています。

計算例:pH 12 のアルカリ排水 10 m³ を中和する硫酸
OH−:10−2 mol/L × 10,000 L = 100 mol
2NaOH + H2SO4
→ Na2SO4 + 2H2O
H2SO4:50 mol × 98.08 g/mol
= 4.90 kg
98%硫酸なら 4.90 ÷ 0.98 = 約5.0 kg
25℃で pH 12 のとき [OH−]=10−2 mol/L。アルカリ分を水酸化ナトリウムとみなした理論量で、炭酸塩などの緩衝成分があると多く要る。実際の運転では pH 計を見ながら注入量を調整する

コンクリートの洗浄水のような強アルカリの工事排水では、希硫酸と並んで炭酸ガスが代表的な中和剤で、扱いやすさから多くの建設現場で炭酸ガスが採用されています(土木学会の発表)。炭酸は弱い酸なので、吹き込みすぎても pH の下がり方には限りがあります。

計算例:純水に CO2 を1気圧で溶かしきったときの pH
[CO2] ≒ 0.034 mol/L
[H+] = √(4.47 × 10−7 × 0.034)
= 1.2 × 10−4 mol/L
pH ≒ 3.9
25℃の CO2 のヘンリー定数 約0.034 mol/(kg·bar)(NIST)、溶けた CO2 全体を基準にした見かけの K1=4.47×10−7(世界大百科事典)、2段目の電離は無視。0.01 mol/L の硫酸なら pH は2前後まで下がる

強い酸を薄めたときの pH の考え方は酸を薄めたときの pHの記事で扱っています。硫酸は少ない量で大きく中和できる代わりに入れすぎると pH が一気に下がり、炭酸ガスは量が要る代わりに下がりすぎにくい、という性質の違いが使い分けの根拠です。

食品:リン酸の酸味と亜硫酸塩の酸化防止

乾式の高純度リン酸は、清涼飲料の酸味付けや食品の加工に使われます。リン酸は加熱しても揮発しにくい酸で、強く加熱すると水が抜けて二リン酸やポリリン酸に変わる性質も持っています。

亜硫酸は塩の形で使い、二酸化硫黄や亜硫酸塩は漂白剤・酸化防止剤・保存料として食品衛生法で使える量が決まっています。果実酒(ワイン)では残る量が二酸化硫黄として 0.35 g/kg 未満と決められ、ラベルの「酸化防止剤(亜硫酸塩)」の表示がこれにあたります。

分析:硝酸で試料を分解して金属を測る

水や材料に含まれる金属を ICP 質量分析などで測るときは、試料に硝酸を加えて加熱し、有機物や粒子を分解してから装置に入れます。水道水の検査方法を定めた厚生労働省の告示の方法でもこの前処理が要り、器具や試薬からの汚染を避けるため、分析用の高純度の硝酸を選びます。

硝酸が選ばれるのは、酸化力で有機物を壊しながら、ほとんどの金属の硝酸塩が水に溶けるからです。硫酸やリン酸では沈殿をつくる金属があるので、測りたい元素に合わせて酸を選びます。

工程で使う酸を選ぶときに確かめること

工程で使う酸を決めるときは、酸の強さだけでなく、次の点を合わせて確かめます。

  • 酸化力が要るか:有機物の分解や金属の溶解には硝酸、相手を酸化させたくない中和や pH 調整には希硫酸や炭酸ガス
  • 何価の酸か:同じ量の H+ を出すのに、2価の硫酸は1価の酸の半分の物質量で足りる
  • 反応後に何が残るか:硫酸はカルシウムと石膏をつくり、硝酸は排水に窒素を残し、リン酸は排水のリンになる
  • 法規:10%を超える硫酸・硝酸は劇物、排水は pH 5.8〜8.6(海域以外)

オキソ酸のよくある質問

カルボン酸もオキソ酸に入りますか?

IUPAC の定義では、O に結合した H を H+ として出す酸素を含む酸はオキソ酸なので、酢酸のようなカルボン酸 RC(=O)OH も含まれます。ただ、無機化学や高校化学で「オキソ酸」というときは、硫酸・硝酸・リン酸のような無機の酸に絞って使うのがふつうです。

オキソ酸の塩はどのように名前を付けますか?

陰イオンの名前に金属の名前を続け、硫酸ナトリウム Na2SO4、亜硫酸ナトリウム Na2SO3 のように呼びます。H が残った塩は、硫酸水素ナトリウム NaHSO4、リン酸二水素ナトリウム NaH2PO4 のように、残った H の数を名前に入れます。

濃硫酸は強い酸なのに、弱い酸のように振る舞うのはなぜですか?

水がほとんどない濃硫酸では、H2SO4 から H+ を受け取る水が足りず、電離がほとんど進まないためです。希硫酸との違いや、濃硫酸を鉄のタンクで保管できる理由は濃硫酸は弱酸なのかの記事で扱っています。

酸の強さと酸化力は同じものですか?

別の性質です。酸の強さは H+ の出しやすさで、酸化力は硝酸の N や熱濃硫酸の S が相手から電子を奪う力なので、硝酸や熱濃硫酸は銅を溶かしますが、希硫酸やリン酸は溶かしません。2つの違いは強酸性と強酸化力の違いの記事で比べています。

まとめ

この記事のまとめ
  • オキソ酸は中心原子に OH と =O が付いた酸で、H+ として外れるのは O に付いた H だけ
  • 酸性酸化物の中心原子に水の O が結合し、H が移ってオキソ酸になる(CO2→H2CO3、SO3→H2SO4)
  • OH の数が何価の酸かを決め、OH でない O の数 p が強さを決める(pKa1≒8−5p)
  • 酸の OH とアルコールの H が水として外れ、硫酸・硝酸・リン酸エステルができる(洗剤・ニトログリセリン・難燃剤)
  • 工場では硫酸が国内557万 t(2025年)と最大で、肥料・酸洗い・リン酸の製造・排水の中和・分析の前処理に使われる

オキソ酸は、構造式の OH と =O を数えるだけで、何価の酸か、どのくらい強いかの見当がつく酸のグループです。弱い酸の代表である炭酸が石灰と反応して沈殿をつくる工場の例は石灰水と二酸化炭素の記事で紹介しています。

出典

出典・参考資料(18件)を開く出典・参考資料を閉じる

TOOLS & SERVICES

製造業で働く人の、仕事の道具・サービス紹介

これからの働き方、資格の勉強、打合せの記録。MONOSCOPE で紹介している3つです。

仕事の道具・サービス紹介をすべて見る ›

NEWSLETTER

生産技術・化学・樹脂・ゴムの記事を、週1回まとめてメールで受け取る

週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。

実際に届くメールの例を見る

件名:今週のあなた向け記事|週刊MONOSCOPE 10/9号
登録内容:品質保証・品質管理 × 食品・医薬・日用品

週刊MONOSCOPEの見本(品質保証・品質管理 × 食品・医薬・日用品)

職種3本・業種3本・製造業で働くすべての方へ2本・今週よく読まれた記事3本が届きます。記事は毎週入れ替わります。ほかの見本を見る

生産技術を選んだ状態で登録へ ›

無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。

WEEKLY NEWS

今週の製造業ニュース10選

メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。

LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

▶ お仕事のご依頼はこちら

目次