化学業界の構造をわかりやすく解説|サプライチェーン・商流・利益構造

化学業界の構造

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化学業界は、原油から取り出したナフサ(化学品の原料になる油)を出発点に、何段階もの会社が素材を加工し、取引を重ねていく構造です。原料に近い「上流」ほど少数の大企業に集中し、製品に近い「下流」ほど多くの中小企業に分かれます。

石油会社から、基礎化学品や樹脂をつくる素材メーカー、それを成形する加工メーカー、自動車や電機などのユーザー企業へとつながり、その間の流通を化学商社が担います。どの段階の会社かによって、取引先の数や仕事の進め方も大きく変わります。

この記事の内容は、動画でも解説しています。

目次
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化学業界の全体像

化学業界のサプライチェーンは、原油から取り出したナフサを出発点に、素材が形を変えながら川下へ流れていく構造です。上流ほど扱う量が多く、下流ほど製品の種類が増えていきます。

最上流では、石油会社が原油を精製してナフサをつくり、海外から輸入されるナフサとあわせて化学メーカーに供給します。

総合化学メーカーはナフサを分解してエチレンやプロピレンなどの基礎化学品をつくり、それを樹脂や合成ゴム、各種の誘導品に変えていきます。

図1:化学業界のサプライチェーン

原料から最終製品まで、何段階もの企業を経て素材が流れます。

原料石油会社が精製するナフサや、輸入ナフサ・天然ガス・鉱物資源など
原料を供給
基礎化学品総合化学メーカーがナフサを分解し、エチレンなどを大量に生産
誘導品・素材に加工
樹脂・合成ゴム汎用樹脂やエンプラ、合成ゴム
機能性材料電子材料・フィルム・電池材料
化学品塗料・接着剤・医薬品原料など
成形・加工(化学商社が仲介することも)
樹脂加工成形品・フィルム・容器
ゴム製品タイヤ・ベルト・ホース
部品・デバイス半導体・電子部品など
製品に組み込む
ユーザー産業自動車・電機・建設・包装・医療・日用品など

※1社が複数の段階を手がけることも多く、取引の形は製品によって異なります。

化学業界とはの記事で紹介した企業の分類は、この流れの中の位置に対応しています。図1は、そこに原料を供給する側と、製品を使うユーザー産業まで加えたものです。

上流の基礎化学品は、限られた数のコンビナートに生産が集中しています。三井住友信託銀行の調査月報によると、国内のエチレン設備は12基です。一方、下流の加工品の分野には、全国に数多くの企業が分散しています。

つまり、上流ほど少数の大企業に集中し、下流ほど多くの中小企業に分かれるのが化学業界の基本的な形です。どの段階の会社かによって、取引先の数や仕事の進め方が大きく変わります。

なお、化学・樹脂・ゴムがほかの製造業とどうつながっているかは、製造業サプライチェーンマップでも確認できます。調達元から供給先まで、13業種の関係を1枚の図にまとめています。

この記事は業界の構造をつかむための入口です。個別企業の事業や取引関係は、各社の公表資料で確かめてください。

階層ごとの企業の特徴

化学業界の企業は、サプライチェーンのどこに位置するかによって、会社の規模や利益の出方、働き方が大きく変わります。統計で見ると、その違いがよくわかります。

図2:化学工業とプラスチック製品製造業の比較

素材をつくる側と加工する側では、事業所の規模が大きく異なります。

化学工業
プラスチック製品製造業
事業所数
5,641
13,745
従業者数
約39.8万人
約44.9万人
1事業所あたり従業者
約71人
約33人
1事業所あたり出荷額
約59億円
約10億円
主な顧客
樹脂加工・部品メーカーなど
自動車・電機・食品など

※出典:経済産業省「2024年経済構造実態調査」。出荷額は2023年の値。1事業所あたりの数値は、出荷額・従業者数を事業所数で割って算出。

総合化学メーカー:巨大な設備を動かす

総合化学メーカーは、コンビナートの大型プラントを24時間動かし、基礎化学品から樹脂、機能性材料まで幅広く手がけます。売上高が数兆円規模の大企業が中心で、事業ごとに市況や競争環境が大きく異なります。

大量生産の設備を持つため、工場の稼働率が利益を大きく左右します。製造部門では交替勤務が基本となり、設備の保全や保安に多くの人員を配置しているのが特徴です。

機能性化学メーカー:少量でも付加価値が高い

半導体材料や電子材料、高機能フィルムなどをつくる機能性化学メーカーは、生産量は少なくても製品単価が高い分野です。顧客の技術開発に合わせて素材を改良し続けるため、研究開発や技術営業の比重が大きくなります。

顧客である半導体や電子部品のメーカーは海外に多く、海外売上の比率が高い会社が多いのも特徴です。海外の顧客や拠点とのやり取りが日常的に発生します。

樹脂加工メーカー:中小企業が多い

経済産業省の2024年の調査では、プラスチック製品製造業の事業所は1万3,745と、化学工業の2倍以上あります。従業者数も約44.9万人で、化学工業の約39.8万人を上回ります。

一方で、1事業所あたりの出荷額は約10億円と、化学工業の約59億円の6分の1ほどです。中小規模の工場が全国に分散しているのがこの分野の姿で、特定の顧客向けに部品を量産する会社も多くあります。

ゴムメーカー:タイヤ大手と工業用ゴム

ゴム製品製造業の事業所は2,380で、2023年の出荷額は3兆9,530億円でした。国内の大手タイヤメーカーが海外に多くの工場を持つ一方で、ベルトやホース、防振ゴムなどの工業用ゴムでは、中堅・中小の専業メーカーも活躍しています。

タイヤは自動車メーカーへの新車用と、交換用の市販向けの両方があります。市販向けの比率が高いと、新車の生産動向に左右されにくいという特徴があります。

化学商社:メーカーとユーザーをつなぐ

化学商社は、化学品や樹脂の売買を仲介し、物流や在庫、与信の機能を担います。大手の長瀬産業は2026年3月期の売上高が9,728億円、稲畑産業は8,327億円と、メーカーに匹敵する規模を持つ会社もあります。

メーカーの製品を多くの顧客に届けるだけでなく、海外メーカーの製品を国内に紹介したり、複数の素材を組み合わせて提案したりする役割も担います。新しい用途を見つけてメーカーに伝える、情報の橋渡し役でもあります。

お金とモノの流れ(商流)

化学製品の取引は、メーカーと顧客が直接取引する場合と、化学商社を通す場合に分かれます。一般に、大口の顧客とはメーカーが直接取引し、数多くの中小の顧客には商社や代理店を通じて販売する形が多くみられます。

図3:化学製品が採用されるまでの流れ

採用前、量産、量産後の3つの段階に分かれます。

採用前
01用途の探索顧客の開発テーマや課題を聞き取る
02サンプル提供試作品を渡し、顧客の工程で評価してもらう
03採用・認定品質や供給体制を確認し、正式に採用される
量産
04受注・生産顧客の生産計画に合わせて製造する
05物流・納入メーカー直送か、商社経由で届ける
06価格改定原料価格や為替に応じて価格を見直す
量産後
07技術サービス成形条件や不具合の相談に対応する
08次世代品の提案顧客の次の製品に向けて素材を改良する

※汎用品では採用前の段階が短く、価格や納期が重視されます。

機能性材料や自動車向けの素材では、顧客の製品開発の段階から試作と評価を重ね、一度採用されると長く取引が続くことが多い仕組みです。材料を変えると顧客の製品の品質を確認し直す必要があるため、簡単には切り替えられません。

価格の決め方は製品によって異なります。汎用樹脂などでは、原料のナフサ価格の変動を一定の計算式で製品価格に反映させる方式が広く使われており、原料が値上がりすると製品価格も後を追って上がります。

一方、機能性材料では、性能や供給の安定性が価格の根拠になります。代わりのきかない素材ほど価格の交渉力が強いという点は、利益構造を考えるうえでも重要です。

化学商社は、この流れの中で物流や在庫を持ち、代金の回収リスクを引き受ける役割も担います。中小の加工メーカーにとっては、必要な量を必要なときに調達できる窓口として欠かせない存在です。

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利益構造:どこが儲かるのか

日本化学工業協会によると、財務省の法人企業統計でみた2024年度の化学工業の売上高営業利益率は8.5%で、製造業の中で第2位です。ただし、利益の出方は同じ化学業界の中でも大きく異なります。

図4:化学業界の利益構造の4つのポイント

どこで利益が生まれるかは、製品の性格によって変わります。

機能性材料は利益率が高い信越化学工業の営業利益率は24.7%(2026年3月期)
基礎化学品は市況に左右される原料価格や海外の設備増強で利益が大きく変わる
商社は薄く広く稼ぐ長瀬産業の営業利益率は4.6%(2026年3月期)
技術サービスが採用を支える用途開発や技術支援が長い取引につながる

※営業利益率は各社の決算(Yahoo!ファイナンス掲載値)の売上高と営業利益から算出。

化学業界にも、上流と下流で利益が大きく、中間で小さくなる「スマイルカーブ」に似た構造があるといわれます。ただし化学の場合は、工程の位置よりも、その素材が代わりのきかないものかどうかで利益の差がつきやすいといえます。

たとえば、塩化ビニル樹脂や半導体シリコンで世界のトップシェアを持つ信越化学工業は、2026年3月期の営業利益率が24.7%でした。一方、総合化学の住友化学は6.5%、三井化学は4.4%で、事業の中身によって利益率に大きな差があります。

基礎化学品の比重が大きい会社は、市況の影響も受けやすくなります。住友化学は2024年3月期に4,888億円の営業損失を計上した後、2025年3月期には1,930億円の営業利益に回復しました。

年によって利益が大きく振れるのも、素材を扱う業界の特徴です。

化学商社の利益率は、長瀬産業が4.6%、稲畑産業が3.1%(いずれも2026年3月期、決算から算出)と、メーカーより低めです。在庫や物流の機能を持ちながら、取扱量を積み上げて利益を出す事業モデルといえます。

また、素材メーカーの利益は、製品そのものだけでなく、顧客の工程に合わせた技術支援から生まれている面もあります。成形条件の提案や不具合への対応が信頼につながり、次の製品での採用を呼び込みます。

業界構造の変化

化学業界の構造は、ここ数年で大きく動いています。特に次の3つの変化は、業界で働く人にとっても影響が大きいものです。

石油化学の設備集約

国内のエチレン生産量は、2024年に約499万トンと1988年以来の500万トン割れとなりました。これを受けて、複数社による設備の集約が発表されています。主な例は次のとおりです。

  • 千葉地区:三井化学と出光興産
  • 京葉地区:住友化学と丸善石油化学
  • 西日本地区:三菱ケミカル・旭化成・三井化学

会社の枠を超えて設備をまとめる動きは、これまでの「各社が自前のコンビナートを持つ」構造からの転換といえます。働く人にとっては、合弁会社への移籍や拠点の変更につながる可能性もあります。

2025年2月には、ENEOSも川崎製油所のエチレン製造装置の一部を2027年度末をめどに停止する方針を示しました。石油会社と化学メーカーの両方で、上流の設備を見直す動きが続いています。

事業の選択と集中

化学メーカー各社は、市況に左右されやすい事業を切り離し、半導体材料などの成長分野に経営資源を集める動きを強めています。事業の売却や、他社との事業統合も珍しくなくなりました。

たとえばJSRは、2022年に合成ゴムなどのエラストマー事業をENEOSに譲渡し、半導体材料を中心とする事業構成へと転換しています。

その後、2024年には産業革新投資機構(JIC)傘下の会社による株式の公開買付けを経て上場を廃止しました。同じ会社でも、10年後には事業の中身が大きく変わっていることがあると考えておくとよいでしょう。

顧客の海外移転とグローバル化

自動車や電機など、化学製品の顧客が海外に生産拠点を移すのに合わせて、素材メーカーや加工メーカーも海外に工場を構えてきました。国内で開発し、海外で生産・販売する分業が広がっています。

化学製品の輸出の約7割はアジア向けで、国内の工場でも海外の顧客を意識した仕事が増えつつあります。市場の詳しい動きは化学業界の市場規模と動向で解説しています。

業界構造から考えるキャリアの選び方

業界の構造を踏まえると、どの階層の会社で働くかによって、積める経験が変わることがわかります。代表的な選択肢を比べてみます。

図5:立ち位置ごとに積める経験

同じ化学業界でも、会社の位置によって身につく力が異なります。

素材メーカー
加工メーカー・商社
仕事の中心
新素材の開発と大規模な製造
顧客に合わせた加工と提案
身につく力
研究開発やプロセス技術、保安
成形技術や品質管理、提案力
顧客との距離
顧客の開発部門とやり取り
顧客の工場や購買部門と密接
会社の規模
大企業が中心
中小から大手まで幅広い

※同じ会社でも、部署や職種によって経験できる内容は変わります。

素材メーカーでは、研究から量産までの長い時間軸で一つの素材に関わる経験が積めます。研究開発や、プラントを動かす製造・オペレーションの経験は、他の素材メーカーでも生かしやすいものです。

加工メーカーでは、金型や成形条件、品質管理など、ものづくりの現場に近い経験を積めます。顧客の要求に素早く応える力が身につき、生産技術や品質保証・品質管理の職種で強みになります。

化学商社では、多くのメーカーと顧客の間に立つため、業界を横断した知識と人脈が得られます。技術の知識を持った営業は評価されやすく、技術営業・FAEとして経験を積む道もあります。

業界動向サーチによると、化学業界の平均年収は657万円(2021〜2022年)ですが、これは上場企業を中心とした数値です。会社の規模や階層によって給与水準には幅があるため、立ち位置と待遇の両方を見て選ぶことが大切です。

立ち位置と待遇を比べながら社外の仕事も調べたい方は、転職・キャリアガイドも参考にできます。

化学業界の構造のよくある質問

ナフサとは何?

ナフサは原油を精製して得られる油の一種で、エチレンやプロピレンなど化学品の原料になります。日本では石油会社が国内で精製したものに加え、海外から輸入したナフサも化学メーカーに供給されています。

化学業界は儲かる業界?

化学工業の売上高営業利益率は製造業の中で上位にあり、全体としては利益を出しやすい業界とされます。ただし代わりのきかない機能性材料と市況に左右される基礎化学品では差が大きく、会社ごとの事業の中身を見ることが大切です。

化学業界で文系出身者はどんな仕事をしている?

化学メーカーや化学商社では、営業や購買・調達、物流、経理などの仕事で文系出身者も活躍しています。素材の用途を顧客に提案する仕事では化学の知識が生きるため、入社後に製品の基礎を学んでいく人が少なくありません。

化学業界で働くのに資格は要る?

入社時に必須となる資格は多くありませんが、製造や保安の現場では危険物取扱者や高圧ガス製造保安責任者などが役立ちます。プラントを動かす仕事では、配属後に会社の支援を受けながら取得を目指すのが一般的です。

まとめ

この記事のまとめ
  • 化学業界は、ナフサを起点に素材が川下へ流れる多段階の構造になっている
  • 上流は大企業のコンビナートに集中し、下流の加工は中小企業が多い
  • 機能性材料は一度採用されると取引が長く続き、利益率も高い傾向がある
  • 石油化学の設備集約や事業の選択と集中で、業界構造が変わりつつある
  • 素材・加工・商社のどこで働くかで、積める経験や身につく力が変わる

化学業界の基本は化学業界とは、市場の数字は化学業界の市場規模と動向、各社の位置づけは化学業界の主要企業と勢力図で解説しています。

化学業界のほかの記事については、化学・樹脂・ゴムの業種ページからあわせてご覧ください。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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